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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/31 16:27
■interlude

 明りの消えた麻帆良の上空に、一輪の巨大な花が咲いた。
 夜闇の中、透明な花は輪郭だけをひっそりと光らせる。
 近くで見たならば、その花が氷で出来ているのが分かるだろう。
 まるで麻帆良という街を守るかのように、花は大きく、そして力強く咲いている。
 花弁の一枚に影が落ちた。夜を纏った真祖の姫が、蒼い瞳を輝かせる。
 見据えるは南。
 禍々しい気配が空気を揺らす。
 ニヤリと歪めた彼女の口元には、牙があった。
 姫を守るように、更に二つの影が現れ、近くに侍り立つ。
 風は彼ら、彼女らに吹いていた。

■interlude end







 第30話「彼女の敵は世界」







 夕映とドーラがフラップターと呼ばれる機械で飛び立つのを、アキラはバンの後部から見上げていた。

(ちーちゃん)

 今も千雨が戦っているのを、ウィルスを通して感じている。すぐにでも飛び出したい、千雨の元へ走ってゆきたい。
 アキラは込み上げる気持ちを、なんとか押さえ込む。
 今、自分が行っても足手まといになると分かっていた。だから。

(ちーちゃんも一緒に帰れるように、万全を尽くす)

 車は『壁』に近づいていた。いずれ搬入ゲートも見えてくるのだろう。
 車の遥か後方には、銃声や爆音が未だ聞こえる。
 どうやらジョゼ達が、しっかりと足止めをしてくれている様だ。
 そこから、一台の装甲車が飛び出してくる。ジョゼ達の銃撃すらものともせずに、銃弾の雨を平然と走っていた。
 遠くて正確には見えないが、車の天井部分に小さな人影がある。

「――あれは」

 距離はまだあった。こちらの車も旧式のバンとは言え、時速百キロ近く出しているのだ。
 容易くは追いつけまい。
 そんなアキラの予想は覆される事になる。
 激しい銃撃を受け、装甲車がスピンをした。天井に乗った人影は、まるで装甲車を〝履き潰す〟かの様に踏み砕く。
 装甲車を蹴り飛ばした勢いのまま、人影が砲弾になった様に地面を滑り、こちらへ向かう。勢いが無くなったところで、更に地面を蹴り飛ばす。
 異常な光景に呆気に取られ、アキラの反応が遅れた。

「だ、駄目ッ!」

 人影がバンにぶつかる。バンは上下にガクガクとバウンドするが、なんとか走っていた。

「な、なんだぁぁぁ!」

 助手席のアンリが驚きの声を上げる。
 気付いたらバンの天井の半分が消えていた。まるで内側から弾けた様に。そして――。

「せっかくここまで来たのに、一足遅かったですか」

 アキラの目の前に絹旗最愛の姿があった。
 小柄な体躯を、無難なカジュアルルックで包んでいる。あの戦場を抜けてなお、彼女の服に汚れは無かった。
 スタンドを出し、アキラは身構えた。
 大きめのバンとはいえ、この三メートルも無い空間に、アキラと絹旗が対峙する。緊張から冷や汗を流すアキラだが、絹旗は何処吹く風。
 余裕を崩さなかった。

「やはり先ほどのヘンテコな機械に、ターゲットが乗ってた様ですね。まぁ、いいです。ここまで来たのなら、あなた達には沈んでもらいましょう」

 絹旗の言葉に、アキラはいち早く動く。

「やらせない!」

 人型になった『フォクシー・レディ』の尾が、大きく振りかぶられた。



     ◆



 千雨は周囲を精査に知覚する。
 本来は物体の大きさや動き、それに熱量などを感じるに留まる彼女の『領域』が、更に広く強くなっていった。
 〝光〟が千雨に直撃する。
 電信柱程の太さの光、『原子崩し(メルトダウナー)』は千雨の体を分解するはずだった。
 だが。

「ぐぅぅぅぅッ!」

 千雨が吹き飛ばされ、地面に転がる程度に終わる。
 干渉出来ていた麦野の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』は、より強力な意志の元、堅固になっていく。
 先程まではノイズを走らせ、方向を反らせられたが、今はそれも難しかった。
 千雨が力を増していくたびに、明晰な頭脳を持つ麦野も対応していった。
 千雨は自らの『世界』で、『原子崩し』を相殺していた。されど、全てを打ち消す事は出来ず、まるで鈍器で殴られた様な、鈍い衝撃が体に打ちつけられる。
 転がっても、なお前を向き続けた。痛みが広がり、惰弱な心を呼び起こそうとするが、それすらも靴裏で踏みつけた。

「がぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 麦野へ向け、再び走り出す。得物の無い千雨と、長距離射撃を得意とする麦野。どちらが有利かなど考えるまでも無い。

「いい加減死ねよォォ!」

 光条が周囲を抉りながら千雨を襲う。千雨は自らが構築している『千雨の世界』の中で、それらへの最適な回避パターンを読んだ。
 避けられない光は、手に『世界』を纏い相殺させていく。

「あぁぁぁぁッッ!」

 激痛。
 例え相殺されど、衝撃はやってくる。横に振るった左手の、爪が何枚か剥がれていた。
 今、千雨は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』やその他の演算装置に、学園都市の電力も合わせ、膨大な電子干渉(スナーク)を周囲に起こしている。更にその空間に知覚領域を重ね、自らが統べる『世界』へと作り上げたのだ。
 しかし、万能では無い。元々千雨の能力は戦闘に向いた力では無いのだ。
 電子干渉(スナーク)とて本来は超能力に干渉できる様な存在ではないのを、千雨は経験と才能で、自らの能力の骨子そのものをひん曲げている。
 激情が千雨を動かしていた。
 失うのが、嫌で嫌でたまらなく、引けないのだ。
 体を疲労と痛みが襲い、脳はゆだり、肺は悲鳴を上げる。
 だが、体は前へ、前へと向かっていた。足は立ち止まる事を知らず、主の思うがままに走り続ける。
 瞳には淀みの一片すら無い。

「こぉの、ションベン臭いガキがッ! なんなんだよぉぉ!」

 麦野はそんな千雨の姿に不快感を抱く。自らが納得し得ない存在。自分の能力に比べれば、圧倒的に劣る人間が、倒れても倒れても向かってくるのだ。
 光の網を掻い潜り、千雨は麦野の目の前まで近づいた。
 拳を握る。思い出すは麻帆良での烈海王、そして古菲の動き。自らの体を操作し、トレースする。

「そっちこそ、くたばれぇ!」

 崩拳。千雨のひ弱な体から放てる、最大限の打撃が麦野の腹に決まる。

「――ッ!」

 常ならば耐えられる一撃も、疲労の溜まった麦野には鉄球で殴られた様だった。
 肺から一気に空気が抜け、声すらも発せないまま、仰向けに倒れる。
 追いすがろうとする千雨を、光条の嵐が迎え撃った。
 苦悶に怒りを滲ませた麦野が、倒れたまま眼光するどく千雨を見据えている。

「ごぉのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 麦野は口から泡を吐きながら、原子の光を連続して千雨に撃つ。
 頬、腹、肩、足、腕。まるでボクサーの乱暴なラッシュを見るように決まっていく。
 それら全てを相殺しながらも、やはり衝撃だけは殺せない。四肢が跳ね、千雨が逆に仰向けに倒される。
 麦野は近くに落ちていた拳銃を拾った。『猟犬部隊』の物だろうか。

「能力で死なないならさぁ、コレでさっさと殺してやるよぉ!」

 銃口が千雨に向いた。千雨には銃弾を分解する能力は無い。
 そこへ――。

「千雨ッ! 下がれッ!」

 麦野に向け、鋼材が伸びた。「工」の字をした長い鋼材が、麦野の目前に突き刺さる。麦野の手の中の拳銃が飛ばされる。
 鋼材の根元は、金色のネズミの毛皮から飛び出していた。体中から血を流し、毛皮からネジや機械も飛び出している。
 ウフコックはふらつく足を、どうにか四本で支え立っていた。

「せ、せんせぇ!」

 呂律の回らない千雨は歓喜の声を上げる。
 ウフコックは鋼材に飛び乗り、そのまま走る。足跡には血が滴っていた。

「またこのネズミかぁッ!」

 光がウフコックを襲う。ウフコックは自らの下腹部に手榴弾を吐き出し、起爆。空に跳ね上がる。爆発箇所を金属プレートで覆ったものの、体を内部から打たれ、をまるでボロクズのようだ。
 されど、放物線を描きながら、ウフコックは千雨の元へ辿り着いた。
 二人に言葉は要らず、示したのはただ形のみだった。
 ウフコックの体がグニャリと歪み、白いリボルバーへと姿を変える。流線型のボディに、撃鉄が内部に埋まった不思議な形の拳銃だ。
 それはいつかウフコックが反転(ターン)した千雨のための『千雨の銃』。
 千雨の銃口と、麦野の光球が対峙する。

「あぁぁぁぁぁッッッ!」

 千雨の咆哮。
 手の中の重みが、千雨の勇気を増加させる。
 『世界』を纏った弾丸が弾け、広がった。



     ◆



「ぐぅ……」

 アキラは呻いた。
 目の前にいる絹旗はスタンドを視認出来ず、触れることも出来ないはずだ。
 なのに、一方的に攻撃されていたのはアキラだった。
 アキラの尾の攻撃は絹旗の装甲を破るに至らず、ウィルスは即効性に欠ける。
 また、ウィルスを相手に感染させてしまえば『スタンドが見えない』という数少ない優位性を崩してしまう事になる。
 八方塞がりの中、アキラはそれでも立ち上がり続けた。
 助手席のアンリも拳銃を構えていたが、この狭い車内ではアキラにも危険が及ぶので、そう何度も撃てない。

(ちーちゃんはまだ戦っている)

 ウィルスを通じて、千雨の苦しみが伝わる。その中で何かを貫こうとする輝きも感じた。だから――。

「私達は負けられないんだぁぁぁぁぁ!」

 アキラは『フォクシー・レディ』の自由に動く四本の尾の内、二本を車内の側面に刺した。そのままの体勢でさらに二本を絹旗へ向けて放つ。

「無駄です。いい加減、超意味が無いのに気付いてください」

 絹旗はどこふく風。例えスタンドが見えずともアキラは戦闘のド素人、攻撃する時に身構えるのでタイミングはバレバレである。
 絹旗は予想通りの衝撃を上半身に感じた。それを粉砕しようと拳を引き絞るも。

「え――」

 〝下半身が引っ張られた〟。アキラが自らの体で、絹旗の足元をすくっている。
 上半身がスタンドにより押され、下半身が引かれる。虚を疲れた絹旗の体が宙を舞い、そのまま車外へと押し出される。
 それだけでは無い。
 下半身は未だアキラが車内でがっしりと抱えている。絹旗の背中が走る地面とぶつかった。上半身だけが車内にせり出している状況だ。

「こ、こんな事をしたって、私には能力が――」
「アンリさんッ! アクセルをッ!!!」

 アキラの指示に従い、車がより速度を増す。
 絹旗の能力『窒素装甲(オフェンスアーマー)』には、自動防御の機構もあり、この程度の衝撃では破れる事も無い。
 ただただ、アスファルトが抉られるだけである。
 それでも。

「やあああああああ!! 『フォクシー・レディ』ィィィィィ!!!」
「了解よ、マスタァァァ!!」

 スタンドの尾が二本、絹旗の胸元へ押し込まれる。車の側面に固定された二本の尾もギチギチと音を立てた。
 車の重量を使い、絹旗をより地面に押し付ける。

「なッ!!」

 絹旗を、耳元でゴゴゴゴッというアスファルトを抉り続ける音と、脳を揺らす絶え間ない振動が襲う。本能的な恐怖が込み上げた。
 地面がやすりの様に、能力の表面を削り続ける。
 不意に能力を駆使する演算が霧散しかけるが、自動防御が働きなんとかそれを保持し続ける。

「届けぇぇぇぇぇぇぇ!」

 目の前には強い意志を目に宿した少女が、決死の思いで自分を押さえつけている。

(強い)

 先程まで劣勢に立たされていた少女が、自分をここまで追い込んでいた。それに驚きつつも、絹旗はこの程度で負けるわけにはいかない。
 学園都市の暗部に身を置く。それには人それぞれ理由があり、絹旗にもまたあるのだ。

「この程度で――」

 遠くに衝撃が起こった。『世界』と『現実』のぶつかり合いだと、絹旗はもちろん多くの人が気付く事は出来ない。
 ぶつかり合う衝撃が〝波〟となり広がり、絹旗すらも襲う。時間にして十分の一秒にも満たない小さな時間だが、それは絹旗の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を乱し、能力を一瞬だけかき消す。
 その一瞬に頭をゴツリとぶつけ、絹旗は意識を失った。能力はそのまま保持され、体を守っている。
 四肢の力を失った絹旗は、そのままアキラの体をするりと抜け、車外へと転げ落ちる。
 絹旗を倒した事もだが、自分を駆け抜けた〝波〟に、アキラは驚きを隠せなかった。

「ちー、ちゃん」

 遠くに爆発の光が見える。ドーム状に連続して破裂する、光の追突。ウィルスを通さなくても、千雨がそこにいるのをアキラは感じた。



     ◆



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!」
「ガァァァァァァァッッッッッ!!!!!」

 千雨は弾丸に自らの『千雨の世界』を纏わせ、連続で放つ。対する麦野も光条に『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を帯びさせていた。
 決して混じる事の無い、〝個〟と〝個〟がぶつかり、光が破裂する。
 衝撃が地面を捲り、周囲に残っていた建物の窓ガラスを粉末にまでした。
 千雨が引き金を連続して引くにあたり、麦野はそれを複数の『原子崩し』で対抗する。
 弾丸と光が触れ合うたび、空間が爆発を起こすのだ。
 それはお互いの体をも傷つけていた。衝撃により吹き飛ばされたのは一度や二度ではない。体を地面にこすりつつも、お互いが一歩も引かないのだ。

「こぉぉのぉぉぉぉ!」

 千雨の手にいつもより強い衝撃が走る。白い銃の隙間からは血が零れていた。
 それは千雨の血では無い。ウフコックの血だ。
 老化させられ傷ついた今のウフコックに、もはや銃の衝撃を緩和させるだけの余力は残っていない。弾丸を内部で補充し続けるだけが、ウフコックの出来る事だった。

「ここで引けるかぁぁぁぁぁ!!」

 血で滑るグリップを、千雨はしっかり握りなおす。零れ落ちそうな涙は、ウフコックへの侮辱だ。だから歯を食いしばり、辛くても口角をニヤリと上げ、前を向く。

〈……そうだ、千雨。見据えろッ!〉

 力無いウフコックの声に、頷くだけで答えた。
 光の奔流へ、千雨は立ち向かい続ける。
 対して麦野も、こめかみに青筋を浮かべながら笑っている。今までに経験が無い程の次元に、能力が昇華されていた。
 脳に分泌されるアドレナリンが、まるで口からも溢れてくるようだった。押さえ切れない力の爆発に、満たされていく。なのに――。

「どうして死なないィィィィィィッッ!!!」

 自分の放った『原子崩し』は五十発近くを数えている。なのに、それらはことごとく打ち消されていた。
 イラ立ちが、理性を吹き飛ばす。

(当たれば死ぬ。当たらないなら、〝全部に当てればいい〟)

 幼稚な考え。されど、今の麦野には不可能では無かった。

「アアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」

 咆哮と共に生成されるのは、数十の光球。そのいずれもが、今までに無いくらいに大きい。

「みんな! 吹き飛びなッッ!!!」

 放たれる光線は数十か数百か。麦野を中心に、光が無秩序に放たれる。

「こいつぅぅぅぅ!!!」

 千雨は自らに当たる光のみを迎撃する。だが、それはほんの一部だ。
 残りの光は周囲の建物をも串刺しにし、捲りあがった地面をもさらに穴だらけにしていく。
 上空に退避していた『六枚羽』すら破壊し、近くのビルへ墜落した。
 今までの激しい戦いの中も、形を保っていた物体が崩れていく。
 左右にあった十階近くの高さのビル群が崩壊を始めた。

「やばいッ!!」

 千雨は落ちてくる破片の軌道や確率を演算し、自らにとっての最適な退路を導く。
 その退路も千雨の身体能力程度では、生き残るルートは残されていない。
 されど。

「コジ開けろォォォォォォォォォ!!」

 まだ諦められない。
 自らの『千雨の世界』に存在し、まだ動く車を一斉に電子干渉(スナーク)する。捲りあがった車道を疾走し、千雨の元まで辿り着く車は一握りだろう。
 数十台の車が一斉に動き、千雨を潰そうとする破片にぶつかっていく。
 衝撃、爆発の中を千雨は走り続ける。
 車が次々と現れ、千雨を生き残らせるバリケードになっていく。
 その時、千雨の知覚領域に奇妙なものが感じられた。
 千雨のはるか後方。巨大なビルの壁面が、麦野を押しつぶそうしていたが、それがピタリと止まる。
 麦野が壁面を〝掴んでいた〟。

「ハハハハハハ、いいわぁ。力が、満ちてくる」

 麦野は口を三日月状に歪めた。
 『原子崩し』が形を変え、右手を覆いながら五メートルにも及ぶ、巨大な光の手になっている。それが巨大な壁面を鷲掴みにしているのだ。
 ビルの十数メートルになる壁面を、麦野はフリスビーの様に投げつける。
 空から落ち続ける瓦礫を砕きながら、それは千雨を守るバリケードをも破壊する。
 爆風が背中を襲い、体が浮く。
 空中で体を捻り、千雨は向かってくる麦野を見つめ続けた。

「ギャハハハハハハッッ!!!」

 麦野は右手を携え、荒れ狂う崩壊の嵐を突き進んでくる。右手に触れたものはまるで存在しないかのように、原子に分解されていった。
 周囲にあったはずの爆炎も、落ちてくる破片さえも飲み込んでいく。
 地面に千雨は叩きつけら、右手のウフコックが血でするりと滑り落ちる。
 光の手を高々と空に向け掲げ、目の前に佇むのは麦野だ。
 千雨の目はそれでも、光を失っていない。
 麦野はそれにいらつきを覚えながら、振りかぶる。

「その目、ムカつくんだよ。たかが小娘一人に何を熱くなってるんだ。ガキが売られる、この程度の『悲劇』、世界に五万とありふれてるだろーよぉ!!」

 振り下ろされ右手は、千雨の顔に向かっている。
 周囲に溢れた巨大な破片を分解しながら迫るソレを、千雨は左腕一つで受け止めた。

「ぐぅぅぅぅッ!!」

 衝撃が走り、左腕の骨が砕ける。千雨は歯を噛み締めた。襲い来る膨大な『原子崩し』を自らの『世界』で分解し続ける。

「――ッ! ……ありふれた『悲劇』だってか。それくらいガキのわたしにだって分かってるよ、だけどもなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 折れた左腕をそのままに、押し上げる様に千雨は立ちあがった。

「『悲劇』を『悲劇』のままにッ! 『ありふれた』なんて言う奴がいるからッ!」

 麦野は光を纏わない左手を振りかぶり、光線を千雨に向けて放つ。

「『現実』を知らない戯言だァ! クソガキィ!!」

 麦野が吼える。
 千雨は右手でその光線を握りつぶす。手から血が溢れた。

「ガキで十分だッ! 『悲劇』を当たり前だと言う、オマエみたいな大人がッ! 『世界』があるなら、それはわたしの『敵』だッ!」

 千雨は血を振り乱し叫ぶ。そのまま残った右手で、麦野の左手を掴む。
 その行動に、麦野は目を見開く。

「くたばれぇッ!! レベル5ッッッ!!!」

 体を大きく仰け反らせた後、千雨は勢い良く頭を振り下ろした。麦野の顔面へ向け、渾身の頭突きが突き刺さる。

「ガッ……ハッ……」

 もはや能力も関係ない。鼻を潰され、血を噴出す麦野。目は泳ぎ、意識は混濁していた。
 千雨も顔の裂傷がさらに抉られ、痛みが体中を駆け巡る。

〈畳み掛けろッ!〉

 ウフコックの声が聞こえた気がする。痛みを堪えつつ、千雨は「りょーかい」と、声に出さず返す。
 麦野は口を開けたまま混乱していた。その瞳に映るのは、死地の中、強く歯を食いしばり、笑みを浮かべる千雨だ。

(あぁぁぁぁぁ……)

 麦野の中に、初めて恐怖が競りあがった。
 千雨の瞳には爛々と輝く光があった。貫くべき信念が、未だ燃え続ける。
 麦野の本能が、体に残る超能力の全てを引き出し放とうとするが、それすらも千雨の細腕に握りつぶされる。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 麦野の恐怖が、言葉になって現れた。
 だが、千雨は止まらない。『黄金の精神』を宿した瞳で睨みつける。

「終わりだッ!!! 『原子崩し(メルトダウナー)』ァァァァァァッッッッ!!!」

 麦野の頭部に、再び衝撃が走った。千雨の放った二度目の頭突きは、麦野の頭頂部から、足元へまで綺麗に突き抜け、脆い地面に綺麗なクレーターを作っている。
 意識を失い、目から涙の様に血を流す麦野は、そのまま地面に倒れこんだ。
 そのままよろよろとふらついた千雨。麦野との間に建物の破片が落ち、二人の間が両断される。

「くッ……そうだ、先生」

 未だ周囲の崩壊は収まっていない。大通りに隣接した建物は原型を留めず、ゆっくりと崩れていっている。
 近くに倒れたウフコックを見つけ、胸元へ抱きしめた。
 ウフコックは意識を失っている。

「先生のおかげだ。――早く、逃げないとな」

 千雨は走り出そうとするも、足が動かない。思わず地面に倒れてしまう。

「あれ? クソ、なんでだ。早くッ、早く行かないと!」

 千雨の周囲に影が差す。
 真上から巨大な破片が一つ、千雨達に向けて落ちようとしていた。



     ◆



 千雨のいる場所へ向かう夕映達は、低空飛行をしていた。
 《学園都市》の大通り、その建物の隙間を縫う形で飛んでいく。
 視界を覆う建物群が、あっという間に後方へ流れる。今まで感じたことの無い程の風が、体にぶつかって来る。
 ゴーグルをしながらも目を凝らしていた夕映は、はるか前方に千雨の影を見つけた。義体の特殊眼球のおかげだった。

「いました、千雨さんです!」
「クッ、やばいね。周りの建物が崩れて始めてやがるッ!」

 ドーラはそう吐き捨てながら、フラップターの速度を上げた。エンジンが唸り声を上げ、羽の振動が増す。
 千雨の近くの建物が大きく揺れた。

「ユエッ! 時間が無いッ! チャンスは一度きりだ、すり抜けながらかっさらえ!」
「はいッ!」

 ドーラの言葉に答えながら、夕映は体をしゃがませた。フラップターの鉄柵に足を絡ませながら、上半身をフラップターの後部から下へ出す。
 夕映の視界が上下にひっくり返る。顔に当たる風が増し、破片が目前に迫りは反れていく。その光景に恐怖を感じるも、この先には千雨がいるのだ。
 千雨の近くの建物が崩れ、巨大な破片が彼女を押しつぶそうとする。

「千雨さんッ!」

 夕映は自らに内臓された通信機を、千雨に向けて発した。

「千雨さん、手を! 手を上げてくださいッ!!」
(夕映、なのか)

 千雨の返事は力が無い。されど。

「今度は私が! 私があなたを受け止めますッ!!!」

 以前、図書館島で落とし穴に落ちた時、夕映は驚くばかりで何も出来なかった。その時受け止めてくれたのは千雨だ。ならば今度は――。

「なんて破片の量だッ!!」

 ドーラはフラップターのスピードを緩めないまま、降りしきる破片の嵐を突き抜けていく。
 機体を左右にゆらし、時には螺旋を描く軌跡で飛んだ。
 千雨の真上を、まるで破片がアーチを作る様に覆っている。フラップターが入れる隙間はごく僅か。

「千雨さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「……夕映」

 千雨は力を振り絞り両手を挙げる。夕映も両手を広げ、千雨を掴み取ろうと必死だ。

「戦場程度からガキ一人盗めなかったら、賊の名前が廃るさ」

 ドーラがボソリと呟き、笑った。
 フラップターは破片をすり抜けながら、一緒に千雨の体をもかっさらう。
 そのままフラップターはグングン上昇し、《学園都市》の夜空に舞い上がった。

「良かった。良かったデス」

 夕映は千雨の体を力の限り掴む。決して振り落とされない様に、力強く。

「夕映、わりいんだが、引き上げてくれないか。この体勢、辛い」

 千雨は、夕映に上半身だけを抱きしめられる形で宙吊りだ。
 夕映はあわてて、自らの義体の膂力を駆使し、フラップターの操縦席部分に千雨を持ち上げる。

「しっかり生き残ったかい、千雨」

 怪我だらけの千雨を見つつ、ドーラは片手で千雨の頭を撫ぜる。

「はは、なんとかな。夕映も、バアさんもありがとう。なんとか命拾いしたぜ」

 ふと、千雨の制服の胸元がモゾリと動いた。

「ここは……」
「先生ッ! 良かった、目覚めたんだな!」

 千雨は喜びの声を上げる。
 そのまま三人と一匹を乗せたフラップターは、夜空を飛びながらアキラ達を追いかける。
 遠くにアキラやドクター、ドーラ一家が乗っているはずの車が見えた。遠くてもこのフラップターならすぐのはずだ。

「まだ、わたしには仕事が残っているな」

 千雨の髪の毛の光は、どんどん弱くなっている。それでもまだ『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は手中にあった。

 折れていない右手で、パチンと指を弾いた。
 厳重な警戒の元に開閉される、『壁』の全ての搬入ゲートが開き、学園都市の防衛システムに幾つかのエラーが起きた。
 今頃『壁』に居る警備員達はてんてこ舞いだろう。
 千雨達が向かう東側のゲートも開放されているはずだ。

「東京、だ」

 遠く、壁の向こうに東京の夜景が見える。
 あの光の一つ一つに、人の生活の営みがある。
 そして、千雨達もあの中に帰って行く。
 フラップターが降下を始めた。
 頬に当たる風に、千雨は心地よさを感じ、笑った。



 第二章エピローグへつづく。


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