隔壁のシステムだけをなんとか奪取し、地下駐車場への道が開けた。
千雨はそれを確認するやいなや部屋を飛び出し、夕映を助けに行こうとするが。
「千雨さんっ!」
千雨が向かうよりも早く、夕映が戻ってきた。
「夕映、大丈夫か」
見れば先ほど綺麗だった制服は、ところどころほつれていた。肌にも浅い傷が幾つか見える。
「はい、大丈夫でデス! 〝お姉ちゃん〟が助けてくれました!」
「お姉ちゃん?」
ふいに登場した名前に千雨は眉を傾げた。
先ほどの男の声が脳裏をよぎる。
――『俺の知り合いがもうすぐここへ来るんだわ。会ったら優しくしてあげてちょうだい』――
目の前で夕映はニコニコとし、嬉しそうな顔をしている。
(つっつくのも野暮ってもんか)
千雨は苦笑いをした。
「そうか、良かったな」
「はいっ!」
千雨と夕映は部屋に戻り、手早く荷物をまとめる。
そして、ドクターやウフコックも一緒に、地下駐車場へ向かった。
「そういや、夕映。これ渡し忘れてたぜ」
「これは」
千雨に手渡されたのは、夕映がずっと肌身離さなかったペンダント。
夕映は笑顔を益々深めながら、首元にチェーンをかけるのだった。
第27話「ザ・グレイトフル・デッド」
「千雨ちゃんッ!」
地下駐車場へ入った千雨達を出迎えたのは、アキラの声だった。
ネットワークで『シスターズ』と攻防を繰り返していた千雨に、アキラの通信は届かず、かなり混乱してたらしい。
先ほど隔壁を開けた後あたりから、ウィルスを通してひっきりなしにアキラの連絡が入ったのだ。
ある程度の事情は説明したものの、アキラは千雨を直接見て、落ち着いてはいられなかったらしい。
「アキラ、準備は?」
「う、うん。荷物とかも運び終えてるよ。夕映も大丈夫なの?」
千雨の影に隠れる様に立っていた夕映が、一歩踏み出した。
「アキラさん、私は大丈夫デス。色々ありがとうございます」
ペコリと頭を下げた。
「ドーラさん達も、ありがとうございます」
ドーラ達の方にも向き、再び頭を下げた。
「よしてくれや、こっちは金のためにやってるのさ。ま、礼儀正しい子は、あたしゃ嫌いじゃないけどね」
そう言いつつ、ドーラは夕映の頭を無骨な手でグシャグシャと撫でる。
地下駐車場には車が三台程止めてあった。
《学園都市》に乗り入れたピックアップトラック二台に、この駐車場にあった大型バンが一台だ。
人員と荷が増えたことで、どうやら三台で逃げ出すらしい。
ピックアップトラックの一台の荷には、相変わらずシーツに包まれた大きめの物が置かれていた。
「よし、じゃあ早速逃げようぜ。もう時間はない」
千雨は指をパチンと一つ弾く。駐車場から地上へ伸びる通路の隔壁が、次々と上がっていく。その先の入り口に敵がいるのは明白だ。だが。
「強行突破だ」
千雨の手には身長ほどの巨大なライフルが現れた。
夕映は腰から二丁の拳銃を取り出し、アキラはスタンドを出す。
ドーラ一家の面々が、次々と得物を手にした。
ドーラはショットガンを肩に担ぎながら、口元の笑みを深くする。
「賊としては失格だが、まぁそれも嫌いじゃないね」
薄闇の中、ギラギラと光る瞳がそこにはあった。
◆
学園理事長直下の部隊『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』。
その部隊は今、『死体安置所(モルグ)』と呼ばれる地下施設を包囲していた。
されど、地下施設内は隔壁により閉じられ、正規の入り口以外に施設への出入りはできない。彼らの出番は来ないはずだった。
男達は目の前にある地下駐車場へ伸びる通路をじっと見ている。
通路は細いが、縦幅は大きい。おそらくトラックなどの大型の車両の使用を考え、作られたのだろう。
男達の背後には装甲車が二台。この通路を塞ぐようにバリケードとして置かれていた。
部隊員である男達は、耳元にある通信機から指令を受け取っていた。
「隔壁が破られた、か。やっと俺らにもお鉢が回ってきたわけか」
一人の男が嬉しそうに手元のライフルを撫でた。
幾人かの男達も、それに賛同する様に口元に笑みを作る。
ヘルメットのバイザーを下ろしながら、一人の男が叫んだ。
「来たぞ! 奴さんのお出ましだぁ!」
男達の視界に入ってきたものは奇妙だった。
少女三人が〝空中へ浮いたまま、滑る様に飛んでくる〟光景だ。
スタンド使いが一人でも居れば、それがアキラのスタンド『フォクシー・レディ』に跨った千雨とアキラ、そして夕映の姿だと判断できただろう。
男達の驚きは一瞬。すぐさま思考を戦闘のソレに切り替えた。
この《学園都市》という街で、この程度を気にしていたら生きていけないからである。
「撃てぇッ!」
リーダー格の男の声で、一斉に引き金が引かれた。闇を切り裂く様なマズルフラッシュが煌めき、通路を明るく照らし出す。
千雨達の居た場所を、床も壁面も関係なく抉る。
しかし、千雨達はもうそこには居ない。
アキラのスタンドは素早く飛び上がり、天井に尾を刺して固定した。そのまま勢いを殺さず、尾を併用しながら天井を走るように進む。
千雨は手に持った対戦車ライフルを、装甲車の片方に狙いを付け、撃ち放った。
「行けェッ!」
轟音が狭い通路内に反響し、弾丸が装甲車に突き刺さった。
「まだまだぁぁ!」
車の一台が装甲をひしゃげながら、背後に滑る様に押される。更にニ発三発と撃たれ、車はベコベコになり爆発した。
「ふ、伏せろぉぉぉぉぉ!」
リーダー格の男が指示を出す。男達が姿勢を低くした上を、爆炎が掠めた。
「アキラさん、お願いします」
「う、うん」
スタンド上で夕映はアキラに合図を送った。アキラは気乗りしないまま、その指示にしたがう。
「大丈夫です、私ならやれます」
夕映はそのまま、『フォクシー・レディ』の尻尾の先に乗った。
夕映にスタンドは見えていない。されど、千雨を通して送られる情報を元に動いているのだ。
今の夕映にとって、千雨から送られてくる情報に疑う余地など無い。
アキラは夕映が乗ったままの尾を大きく振りかぶり、前方へ向かって放った。夕映は尾の加速を使いつつ、強靭な人工筋肉をバネとし、生身のまま砲弾の様に敵陣へ突っ込んだ。
「やぁぁぁぁっっっ!」
まるで解体現場の鉄球が当たった様だった。砲弾となった夕映は、残っているもう一台の装甲車に蹴りを放つ。装甲車は横転し、そのままゴロゴロと数メートル程転がる。
「クッ!ば、化け物かコイツ!」
リーダー格の男は驚愕を顔に残しつつ、呆れの言葉を吐いた。
「失礼デスね」
夕映は蹴りを放った勢いを使い、空中へ飛んでいた。男達を見下ろす様な位置から、無慈悲な弾丸を両手から連続で撃ち放つ。
バタバタと倒れる仲間達を見て、男達の視線は上空へと注がれた。千雨達への迎撃の手を休めて、だ。
「『フォクシー・レディ』!」
アキラのかけ声と共に、通路が黒いもやで満たされる。男達は標的を見失った。
「チィッ、煙幕か。お前ら、とにかく撃て――」
「遅いね」
ゴォン、という音と共に、リーダー格の男の頭部が跳ねた。ヘルメットのおかげで貫通していないようだったが、頭部の装甲には細かな散弾が沢山めり込んでいる。
リーダー格の男は泡を吹きながら倒れた。
もやを突っ切り出てきたのは三台の車だった。戦闘の車の助手席からは、体をせり出しながらショットガンを構えるドーラがいた。
「ものどもぉぉぉ! 蹴散らして突っ切るよッ!」
男達の雄たけびが上がった。
トラックの窓や荷台からニョキニョキと銃口が生え、『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』へ向けて一斉に撃つ。
千雨とアキラは先頭のトラック、その運転席の天井部分へ着地した。
「バアさん、待て。まだバリケードは残ってるぞ」
見れば二台の装甲車のバリケードは、まだかろうじて形を残している。一台は炎上し、一台は横転しているものの、その隙間は小さい。
「ハハハ、あれだけ開いてれば僥倖だッ。いいかいチサメ。閉じてるものがあれば、こじ開けろ。あたし達の流儀だ!」
ドーラは隣にあるアクセルペダルを、運転手の足ごと押しつぶした。
「げッ!」
千雨とアキラは急加速にびっくりしつつ、必死で車にしがみ付いた。
そのままトラックを隙間に突っ込ませた。ガリガリと火花が散り、細かな振動が車体を揺らす。
「ぎゃぁぁぁぁ」
炎上している車の炎が、千雨の髪先をあぶった。
片方の装甲車を弾き飛ばしながらも、なんとかトラックは突き抜ける。
トラックの横面が削られ、見れば助手席のドアも弾き飛ばされている。
「はははっ! どうだい見事なもんだろう!」
ドーラが一人笑い声を上げた。背後からは車二台も付いて来ている。
千雨はちぢれた髪先を、ジトリと涙目で見つめていた。
その時、夕映もトラックの荷台へと降り立った。
「どうにか抜けられましたね」
「夕映、体は大丈夫なのか」
千雨の心配の声に、夕映は少し頬を赤くした。
「千雨さん、私の事そんなに心配デスか?」
「うん? あぁ、もちろんだ」
「……そう、デスか」
夕映は顔を伏せながらもはにかんだ。
アキラはそのやり取りを隣でじーっと見ている。
ゴンゴンと天板が叩かれた。
「チサメ、道を指示しておくれ。このまま東でいいのかい?」
「あぁ。どっちにしろこのまま行くしかねぇ。わたし達が使った地下通路までは遠い。悠長に西側へ向かったら囲まれてジリ貧だ。幸いここから『壁』は近いから、そこの搬入ゲートをわたしがどうにかこじ開けて東京方面へ突っ切る」
見つめる方向には学園都市を囲む巨大な『壁』があった。
あれを越えなければ、もう道は無い。
(もうなりふりなんて構ってられない)
千雨は自らの携帯電話を電子干渉(スナーク)し、〝あるクラスメイト〟へ一通のメールを送った。
その時――。
〈――ミサカは対象を補足しました――〉
微かなノイズは千雨の耳を掠めた。
◆
「グッ……ハァッ……」
学園都市の片隅、両側をビルの壁面に囲まれた路地裏で、苦しそうなうめき声が聞こえた。
しかしそこには誰もいない。いや、〝見えない〟のだ。
まるでまるで迷彩柄のシーツが剥がれる様に、徐々に人間の体が現れていく。
体の表面を覆っていたスタンド能力を解除していったようだ。
「チッ、傷が深い、な」
夕映を殺すために派遣された、イタリアの暗殺者リゾットだった。
彼の左腕は丸々無くなり、傷口をスタンドの力でなんとか止血している状況だった。左足も膝先から存在しない。
幾らスタンド能力で血を操作しようと、ボタボタと少しづつ血は滴っている。
「血を流しすぎたか」
目が霞み、意識もまどろみを帯び始めた。
(だが、どうにか目的は達成できそうだ。うまくやれ、プロシュート)
リゾットの眼光は揺るがない。自らの目的はあれど、仕事の失敗を許容する事は出来なかった。
今回の標的は未だ健在なはずだ。ならばやる事は一つ。
厄介すぎる女に体を削られたものの、おかげで〝時間が稼げた〟。
ペッシもやられてしまったが、相手のレーダー役の様な女も重傷にしたはずだ。
それに、相手は我々を始末したと思い込んでいる。
故に――。
(運んでくれるはずだ)
殺意もない、悪意もない。ただ〝殺す〟という誇りだけはあった。
誇り故に引けないのだ。
リゾットの意識は路地裏の闇に落ちていった。
◆
■interlude
そこへ数人の風体の悪い男達が通りかかる。
「オイ、こいつ死にかけてるぞ。腕も足もブチ切れてやがる」
「リ、リーダー! こっちへ来て下さいリーダー!」
「ばっかもーん! リーダーじゃなく『先輩』と呼べと言っとるだろうが!」
「わ、わかりました鳥さ――」
「む……怪我人がいるではないかッ! 何故早く言わん! ええい、お前ら車を出せ! さっさと病院まで運ぶのだ! 残った奴らは探索を続けろ!」
「「「わかりましたリーダー」」」
「だから……」
■interlude end
◆
千雨達を乗せた車は、一路東へと向かう。
されど、その道のりは平坦ではない。
「どんどん集まってきやがる!」
千雨の悲鳴は流れる風にかき消された。
背後には『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の装甲車が追いかけてくる。その数は刻々と増えていた。
それだけでは無い。
「次の交差点の手前を左だ! まっすぐ行ったらぶつかるぞ!」
千雨の指示の元、車が一車線分しかない狭い道へ滑り込む。交差点では様々な車が絡まりあい、交通渋滞を起こしていたからだ。
(『シスターズ』め……)
この学区の交通システムを『シスターズ』に掌握され、意図的に渋滞が起こされていた。
千雨もなんとか介入を試みたものの、現状では歯が立たない。
先ほどからこうやって道を塞がれては迂回する事を繰り返し、壁へ近づけないのだ。
「ウフコックさん、お願いします」
〈了解だ、綾瀬嬢〉
夕映は先ほどから、小柄な体に似合わない長大なライフルを担ぎ、狙撃を繰り返していた。
もちろんその武器を出したのはウフコックだ。
先頭車両の荷台に乗るのは千雨とアキラと夕映の三人、助手席にはドーラいる。後ろにはドクター達を乗せた二台の車が追いかけてきている。
「東も東でジリ貧だね」
ドーラが苦虫を噛み潰した。
そんな時、ドーラの背筋に悪寒が走った。車は狭い路地を抜け、渋滞が起きていない大通りに出ようとしていた。
「車を止めな! あたしの〝カン〟がやばいって言ってるよ!」
だが車は止まれない。
ドーラの言葉に、千雨の感覚が鋭くなった。一気に知覚領域が広がり、周囲の風景が精査に頭に浮かぶ。
角を曲がった大通りの先に人影があった。
腰まで伸びた髪、猫の様な瞳、艶やかな体を包むのはカジュアルな服。されど、そこから放たれる気配は異常。
忘れられない恐怖が蘇った。
「見~つけた」
夜の薄闇に何かが輝いた。
大通りに出た車の下部を、光が貫く。
エンジンやタイヤ、更にガソリンタンクさえも、光の中で分解されて消えた。
ガクンと車体が落ち込み、走っていたスピードのまま、タイヤの無い車体は地面を滑る。
ガソリンタンクが無くなったのは幸いだった。車体と地面の摩擦で盛大に火花が散るものの、引火すべきガソリンも消えていたからだ。
「うあぁぁぁぁ!」
千雨だけでなく、アキラや夕映も悲鳴を上げた。
車体を揺らす振動の中、千雨の体が浮く。
(あ……)
千雨は車から投げ飛ばされ、空中を舞った。
「ちーちゃんッ!」
「千雨さんッ!」
伸ばされた手は二つ、されど両方とも千雨には届かない。
ウフコックに干渉して状況を打破しようとするも、千雨の手元にはウフコックがいなかった。
(――しまった!)
ウフコックは夕映の手にあった。
千雨はそのまま何の対策も取れず、アスファルトに背中から叩きつけられた。
「グハァッ!」
体から空気が吐き出される。激痛が千雨の体を駆け巡ったが、頭も強打した千雨はその痛みを味わい尽くす前に意識を刈り取られた。
放り出されたスピードのまま千雨の体は地面をゴロゴロと転がり、やっとの事で止まったその姿はボロ雑巾の様だ。
それだけではない。アキラと夕映の乗る車体もバランスを崩し横転、まるで独楽の様にガリガリと地面を削り回転する。
アキラや夕映達は車体に体を打ち付けられながら、必死にしがみついた。
車体が止まった時、いち早く飛び出したのは夕映だった。
「千雨さんッ!」
千雨達の後続車二台もスピンを起こし、歩道に乗り出していた。その周囲を『猟犬部隊』の車が囲んでいる。
されど夕映の視界にそれらは映らず、入るのは倒れる千雨だけだった。
〈綾瀬嬢、横だ!〉
焦りのため、ウフコックの助言にも反応が遅れた。
「ぐふっ!」
夕映の体がくの字に折れ曲がった。横合いから素早く近づいた小さな影が、拳を夕映の腹に打ち据えている。絹旗最愛だ。
「夕映っ!」
未だ起き上がれないアキラが悲鳴を上げた。
場にそぐわない拍手の音が聞こえた。
「は~い、ゲームオーバーよ。侵入者さん」
街灯の明りの下、地面を覆う白く薄い霧をヒールが貫いた。
余裕の笑みを浮かべ、ヒール音を響かせ近づいてくるのはレベル5『原子崩し(メルトダウナー)』の麦野沈利だ。
「まったく踏んだり蹴ったりだわ。フレンダは死んじゃうし、滝壺はダウンするし。面子を補充するのって手間なのよねー」
そう言いながら麦野は毛先を指でくるくると弄った。
「この落とし前、どうつけてくれるのかしら」
ゾワリ、と空気が一変した。圧倒的強者によるプレッシャーが場を支配する。
「チッ、レベル5か」
千雨達を包囲している装甲車の一台から木原数多が降り、麦野を一瞥して吐き捨てた。
片側三車線ある大通りながら、その場は歩道も含め封鎖されていた。
道路に隣接するデパートや店舗の建物も避難勧告を出され、人が群れを為して逃げだしている。
「あら、理事長の犬じゃない。邪魔しないでね、原子の藻屑になりたいなら止めないけど」
「ハッ! こちとら無策でレベル5を相手するほど馬鹿じゃねェよ。そのガキどもはくれてやる。残りは俺たちが貰うぜ」
木原が顎で示した先には、苦痛に顔を歪ませ地べたを這いずる夕映の姿がある。
「……ふーん。まぁ、いいわ。私の場合、ただの憂さ晴らしってのもあるしね」
何か思うところもあるらしいが、麦野はそのまま夕映に近づく。
ふと、麦野は体に違和感を覚えた。
(重い)
体が重く感じる。
周囲を見れば、白い霧の様なものがこの場に満ちていた。
街は日が沈み、煌々とした街灯の元、違和感無くその〝霧〟を看過していた。
足元に薄っすらと溜まっていた〝ソレ〟がいつの間にか膝上まで昇ってきている。
周囲を囲んでいた『猟犬部隊』の面々が銃を落とした。いや、持てなくなっていた。
「うあぁぁぁぁ……」
『猟犬部隊』から力ない悲鳴が上がった。
装甲服を着た男達は、その装甲服の重さに押しつぶされていた。肌が露出する部分を見れば、皮膚がダルンダルンに緩んでいた。
瞳は霞み、骨がギシギシと悲鳴を上げる。
それは何も『猟犬部隊』だけでは無い。
麦野の瑞々しい髪が、乾いた白髪へとなっていた。
「こぉの、クソ○○○がぁぁ! どいつがヤリやがったァァァ!」
麦野が怒りの咆哮を上げる。
周囲の状況、そして何より自分のしわだらけになった手を見て、麦野沈利は素早く状況を理解した。
『人間を老化させる攻撃』。
こんな攻撃をしかける奴など限られている。
『この時を待っていた。ご案内ありがとうお嬢さん(シニョリーナ)』
イタリア語が聞こえた。
四肢の力を失い、膝を付いた麦野の髪から二つの小さな影が飛び降りた。
それはむくむくと大きくなり、現れたのは二人の人間。
彫りの深い顔立ちは西欧人のそれである。
イタリアから送られたギャングにしてスタンド使い、プロシュートとホルマジオだった。
プロシュートの周囲を見つめる眼光は鋭く、威圧的だ。
そして、その周囲の人物のほとんどが立ち上がる事すら出来なかった。
まるで王の前に跪く民衆を彷彿とさせる。
ホルマジオはプロシュートの背後に立ちつつ、口に氷を放り込み続けている。
手に持った袋に氷が入ってるものの、中身は解けかけて少ない。
『プロシュート、さっさとしてくれ。もう氷が少ねぇ』
『時間なんてかからない』
燦然と言い放つプロシュートは、倒れ伏す夕映に向かい歩を進めた。
うずくまりながら、顔も体もしわだらけになった夕映には、苦痛の声を上げるしか出来なかった。
そして、その胸元に抱えた小さな塊。黄色いネズミも白目を向き、ピクピクと痙攣していた。
つづく。
(2012/03/03 あとがき削除)
※以下ネタバレあり?
■■第26話時点での時系列まとめ■■
※注意事項
●ネギまキャラは原作の約一年前。
そのため千雨達は2-Aであり、愛衣は中一、高音は高一。
●禁書キャラの学年などは原作通り。ただし原作と時期が多少ズレており、幾つかの要素が一ヶ月ほど前倒しで描写されてます。
●その他作品に関しても、かなりいじくってあります。
・ジョジョ 四部と五部と六部が入り乱れ中。
・マルドゥック 原作大幅改変。
※()内は話数です。
■20××年 一月
・この一月、もしくは前年十二月頃に、千雨の両親が殺害される。(未描写)
重傷を負った千雨は学園都市に運ばれ、治療される。
■20××年 四月
・麻帆良で学生が幾人か失踪。しかしデータ改竄により大事にはならず。
・トリエラ、L3と初接触(13)
・烈海王、学園都市を訪問。月末から五月上旬にかけて。(未描写)
■20××年 五月 (ネギま原作開始の九ヶ月くらい前の設定)
■第一週
・御剣、魔法に関する調査を依頼。(未描写)
■第二週<物語スタート>
●月曜
・千雨、麻帆良に転校。調査開始。(プ)
・麻帆良にて初陣。(1)
●火曜
●水曜<第一章スタート>
・承太郎麻帆良へ到着。(2)
●木曜
・資料室にてアキラが怪我を負う(2)
●金曜
・千雨、図書館島に行く。(2)
・クウネルとも出会う。魔法に関する情報を手に入れる。(3)
・エヴァが男子学生の変死体を見つける。(3)
●土曜
・アキラ、スタンド能力が目覚め始める。(4)
・承太郎、資料室でスタンドの矢とニアミス。警備員が殺される。(4)
・千雨、魔法に関するレポート提出。(4)
■第三週
●日曜
・変死事件が公表。(4)
・千雨、爆睡。(4)
・アキラ、不可解な現象に悩む。(5)
●月曜
・アキラ欠席、臨時休校決定。(4)
・アキラ失踪。裕奈ウィルス感染。(5)
・千雨、承太郎と出会う。(5)
●火曜
●水曜
▲夕方~夜
・千雨、夕食にお呼ばれ。(6)
・高畑瀕死。(7)
▲夜
・アキラの抹殺決定。(7)
・千雨、承太郎共闘。(7)
・千雨VSエヴァ、承太郎VS魔法使い。(8)
・千雨さん大暴れ&百合フラグ。事件終結へ。(9)
・この夜に麻帆良内の情報が漏洩する。
●木曜
・千雨、アキラSPW財団に保護される。アキラ目覚める。(10)
●金曜
・千雨目覚める。(10)
●土曜
・麻帆良で千雨、アキラ、承太郎と学園側の会談。(10)
■第四週
・ガンドルフィーニ死亡。(10)
・ピノッキオ含め、様々な勢力が潜伏しだす。(未描写)
・ジョンガリも病人として潜入。(未描写、回想のみ)
・高音と愛衣に留学の打診。(12)
●土曜
・第一章エピローグ冒頭。(10)
■第五週
・特になし。
■20××年 六月
■第一週
・高音と愛衣が学園都市に留学。(未描写)
■第二週<第二章スタート>
・事件から二週間。エヴァにお呼ばれ。(12)
・烈海王来訪。(13)
●ある平日(麻帆良にて)
▲午後
・放課後に遊びに行く。(14)
・夕映、銃撃される。(15)
・夕映がピノッキオに誘拐される。(17)
・ドーラ一家と共闘。(18)
▲夜
・トリエラ、からくも麻帆良を脱出。学園都市へ向かう。(19)
・夕映がピノッキオとともに学園都市入り。研究施設へ運ばれる。(18)
●学園都市潜入一日目
▲午前
・リゾット、空路で学園都市入り。(20)
・夏目萌、ガンドルフィーニの死を知る。(19)
・千雨、クラスメイトの『誰か』に救援を要請する。(19)
・東京方面から千雨達は侵入。(20)
・ピノッキオ、ペンダント購入。佐天をチンピラから助ける。(20)
▲午後
・千雨達、地下探検。『丑寅』と書かれた奇妙な部屋を発見(21)
・天井、夕映からデータを取り出す(22)
・千雨、ドクターと再会。夕映の場所を探す。(21)
▲夜
・研究所へ襲撃。(23-24)
・天井死亡、夕映奪還。(24)
・千雨、『アイテム』、『暗殺チーム』の三つ巴。(24)
・『アイテム』フレンダ死亡。『アイテム』は『暗殺チーム』を追撃。(25)
・『猟犬部隊』、シスターズを接収。(25)
・ピノッキオ、木原数多と遭遇。(未描写)
・千雨、夕映の治療の決断をする。(25)
●学園都市潜入二日目
▲午前
・『アイテム』と『暗殺チーム』の追撃戦。(未描写)
▲午後
・『死体安置所』のシステムを掌握される。(26)
・『猟犬部隊』の襲撃。夕映の初陣。トリエラが到着。(26)
■第三週
■第四週<第三章予定>
・期末テスト(予定)
・その後は学園祭の準備期間。