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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第23話「ただ、その引き金が」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/31 13:06
 また一つセキュリティを破り、ドアのロックを外す。それとて、相手が『シスターズ』となれば長くは持たない。
 千雨はドアの隙間に体を滑り込ませ、前へ前へと進んでいく。
 途中何故か警備員がほとんどいなく、千雨を妨げるものは『シスターズ』のネットワーク攻勢のみだった。
 時折、遠くから銃声が聞こえる。反響音から考えれば施設内だろう。

「待ってろよ、夕映」

 ドーラ達やアキラが身を呈して千雨をここまで進ませてくれたのだ、夕映を絶対に取り返さなくてはいけない。
 気を引き締めなおし、千雨は通路を進んだ。
 あと一つ、角を曲がれば目的の部屋のはずだ。
 何故か千雨の手のひらには、嫌な汗がじっとりと浮かんでいた。







 第23話「ただ、その引き金が」







 ドーラ一家の長男、髭面のシャルルは警備員を足蹴にしつつ、周囲を見渡した。
 どうやら仲間達もこの施設の警備の無力化が終わったらしい。

「兄ちゃん、終わったよ!」

 末っ子のアンリがそう言いながら走ってくる。
 後ろには縛られ、山になって積まれた警備員達が倒れている。

「おう、こっちも終わったよ。後はママ達が戻ってくるのを待つだけだな」

 手下の男達もわらわらと集まってくる。
 シャルルにアンリに手下三名。二名は運転手として車に残っている。
 総勢五名という人数で彼らは、研究所の正面に居た警備員十数名を無力化したのだ。
 見回せば五名ともほぼ無傷だ。

「なんか思ったよりあっけなかったね」
「あぁ、ママの方がはるかに恐いよ」

 アンリの言葉にシャルルが頷く。
 まだ施設内から銃声が聞こえるが、ドーラの事だからうまくやるだろう、そうシャルルは結論付けた。

「よし。じゃあお前ら、少し施設漁って金目のものを頂こう。研究データとかなんかはどうせ俺らにゃ判断つかないんだ。適当に頂いていこう」

 男達の目がキラキラと輝き、研究所へ我先にと進もうとするも――。

「あら、なかなか面白そうな事になってるわね」

 シャルルの背中に寒気が走った。
 普通ならば心躍らせる美女の声、そう思うだろう。だが、〝コレ〟は違う。
 短くないシャルルの裏家業の経験が語っていた。
 振り向けば研究所の門の前に車が止まっており、その中から一人の女性が降りた。
 背中まで伸びた髪は、少しウェーブを効かせている。
 どこか大人びた服装をしており、モデルに似た小じゃれた印象を抱かせる女性だった。

「依頼が来て、せっかく尋ねてみれば研究所はこの有様。まぁ面白そうだからいいけどね」

 女性――麦野沈利はそう言いながら髪をかき上げた。学園都市の七人しかないレベル5、その序列四位たる『原子崩し(メルトダウナー)』の姿がそこにあった。
 車からさらに三人の女性が降りてきた。そのうちの一人、小学生の様な容姿をした女性が話しかける。

「それで、『アイテム』としてはどうするんですか?」
「とりあえず依頼人に話だけでも聞きましょう。絹旗、邪魔な〝アレ〟掃除しておいて」
「超面倒くさいですが、仕方ありませんね」

 絹旗、と呼ばれた少女はゲートに使われている重厚な鉄柵に触れた。するとメキメキと音をたてながら、鉄柵が持ち上がった。
 その一連のやり取りを見ていたシャルルは、仲間に呼びかける。

「やばい、お前ら〝逃げろ〟!」

 ドーラ一家にとって『逃げろ』という言葉は常とは違う一大事を示している。
 シャルルの焦りを感じた男達は、力の限り足を動かし、周囲へと散らばっていく。
 そこへ――。

「ふっ!」

 強大な風きり音を響かせながら鉄柵が投げられた。巨大な鉄の塊がアスファルトを抉りながら飛んでくる。
 先程、シャルル達が無力化した警備員達もあっさりとミンチに変え、鉄柵は研究棟の壁に突き刺さり止った。
 轟音が空気を揺らす。
 砂煙が舞い、周囲には血肉が散乱している。
 少女の一投により、この場が瞬時に凄惨な狩りの場に変わっていた。
 その惨状も確認せずに、シャルル達は逃げの一手を打つ。
 わらわらと、まるでゴキブリが四方八方に散るように逃げていく。

「麦野さん。一部取り逃がした様ですが」
「いいわ、どうせ小物でしょ。さっさと中に入って現状を教えてもらいましょう」

 手をひらひらさせつつ、麦野はコンビニでも行くかの様な気楽さで、銃声と爆音が響く研究所へ入っていく。残りの三人の少女も、その後ろ姿へ追随した。
 この四人こそ、学園都市の暗部に存在する組織『アイテム』だった。



     ◆



 通路の奥からの銃撃は続いている。
 的確な射撃は、ときおりアキラへ当たりそうになるものの、アキラのスタンド『フォクシー・レディ』の尾の守りでなんとか直撃は避けていた。
 こちらも壁の破片をスタンドの力で投げられるものの、その軌道は正確ではない。
 スタンドの力を振り絞り、なんとかそれなりの力を出しているが、元々アキラのスタンドはパワー型では無いのだ。そのため正確さを犠牲にしなければあの力は出せなかった。

(本当に私に倒せるの?)

 相手が何人いるのかすら分からない。その上、銃まで持っているのだ。
 こちらはスタンドがあるとはいえ、一撃を受けたら死ぬかもしれない。
 ゾクリ、と不安がせり上がってきた。

「アキラ、落ち着キなサイ。ワタシ達の目的ヲ良く考エテ」

 フォクシー・レディの助言に、ハッとする。
 そうだ、何も倒さなくてもいいのだ。
 〝今の状態を維持する〟。
 それはすなわち千雨を追いかけさせない事だった。
 そして、それこそがアキラの目的だ。
 アキラは一つ深呼吸をしてから、息を吐いた。

「ありがとう、フォクシー・レディ。そうだったね」

 何か、勝手な思い込みをしていたようだ。
 以前は恐ろしかった自分のスタンドだが、今はとても頼もしかった。
 見える範囲で『シスターズ』は三人。通路の柱や角に身を隠しつつ、半身を出して射撃を繰り返している。
 アキラも何度か破片を放り投げるも、決定打には至らない。
 ふと、自分の能力を思い出す。自分の能力は『スタンド能力』であり、相手は視認できない。されど、自分の能力に感染したものはスタンドを見る事が出来るのだ。
 千雨ですら知覚が難しかった『スタンド』を、相手の『シスターズ』が知覚できてるとは思えない。
 ウィルス感染前後の認識の差を使い、何か相手に誤認を与えれば、『シスターズ』を混乱させられ、時間が稼げるのではとアキラは思った。

「――やってみる」

 フォクシー・レディは現在動く四つの尾それぞれに破片を持ち、ほんの少しの時間差をつけ連続で通路に向けて投げた。
 照準は適当、相手が少しでも混乱してくれればいい、その程度だ。

「『フォクシー・レディ』! 全力で走って!」

 獣の姿に変わったフォクシー・レディがアキラを抱えたまま、壁面を走る。四本の尾をピック代わりに壁に突き刺しながら、常と変わらぬスピードで進んだ。
 砲撃に身を隠していた『シスターズ』も、アキラの挙動に気付き、銃撃を再開する。

「もっと上!」

 壁からさらに飛び、今度は天井を走り出す。機材を運ぶためだろうか、思いのほか高く作られた天井をも縦横無尽に走り、彼我の距離を詰め寄った。
 天井を走りながらのため、フォクシー・レディも完全にアキラを守ることが出来ず、銃弾が体を掠める。

「行けぇぇぇ!」

 そのまま『シスターズ』の三人が固まっている場所へ飛び降りた。
 フォクシー・レディの四本の尾のうち、二本がアキラの盾となり銃弾を受ける、もう二本が二人の『シスターズ』に攻撃をした。そしてアキラは残った最後の『シスターズ』に、身を呈してのタックルをかました。

「ぐぅぅ!」

 体格的にも恵まれているせいだろう、小柄な少女の形をした『シスターズ』の一人は銃器を落としつつ、仰向けに倒れた。

「今! 『フォクシー・レディ』!」
「オーーライ!!」

 フォクシー・レディは黒いもやを纏った尾で、残った二人の『シスターズ』に触れた。
 そして、そのままアキラを抱え、離脱する。
 アキラは二人の『シスターズ』を『スタンド・ウィルス』に感染させた。また、ウィルスの侵攻速度を片方だけ極端に遅く設定している。
 傍目からは見て、片方の『シスターズ』(仮にA)だけ感染した様に、もやの量を調節したのだ。
 そして、もう片方(仮にB)がAのもやを確認しようと体に触れた瞬間に、Bの方のウィルス侵攻速度を上げて、あたかも二次感染したかのように偽装する。
 アキラの『スタンド・ウィルス』は二次感染せず、しかも感染者の数が最大五人までと決まっていた。だが、相手はそれを知らないのだ。
 二次感染をする、という偽装の情報を『シスターズ』内で流させ、この施設内にもやをばら撒けば、かなりの牽制になるはずだ。
 アキラの能力を知っている千雨やドーラ達には牽制にすらならず、逆に一方的なアドバンテージとなる。
 『シスターズ』から離れながら、アキラはそのタイミングを計っていた。
 視界の先には二人の『シスターズ』がむくりと起き上がった。
 片方の『シスターズ』は見るからにもやに包まれている。
 もう片方の『シスターズ』が状況を把握しようと、もやに触れた。

(今だ!)

 もやに触れた『シズターズ』にぶわりともやが纏わりついた――ように見せた。
 『シスターズ』の二人は、何事が起きたのか確認するために体をキョロキョロと見回す。

〈――カ一〇〇十二号と一〇〇――号が敵性攻撃を受け――確認。二次感染の可能――慮し、素体の処分を決――す〉
「え?」

 『シスターズ』の口から、機械的な声が聞こえた。
 幾つかの単語がアキラの耳に入る。
 そして――。

「あぁ……」

 ニ発の銃声。
 しかし、それはアキラに向けられたものでは無かった。
 『シスターズ』が〝自分自身を撃った〟銃声だった。口の中に銃口を突っ込み、何の躊躇も無く引き金を引いた。
 顔半分が吹き飛び、周囲に脳しょうの欠片が散らばった。
 死んだ体から、もやが霧散する。
 相手は被害が拡大するのを懸念し、即座に個体を切り捨てたのだ。
 アキラは離脱しながらも、その光景がしっかり目に焼きついていた。
 フォクシー・レディを掴む手が一層強くなる。
 少し離れた場所まで行き、スタンドから降りた瞬間、アキラは嘔吐感を堪えきれずに床へぶちまけた。

「おえぁぁぁぁぁ……」

 ボタボタと涙も一緒に床に落ちた。
 それは嘔吐した苦痛からでは無い。
 人の命が奪われる瞬間を、アキラは初めて目の前で見てしまった。何より、その引き金を間接的にだが自分が引かせた、という事実に愕然とする。
 自分の両腕を抱きこみ、襲い来る不安感に耐える。
 その時ウィルスを通し、千雨から激しい感情が流れ込んできた。



     ◆



 千雨が辿りついた部屋は混沌としていた。
 大量のモニターもさる事ながら、紙媒体の資料も大量に積まれている。
 情報端末が発達した学園都市では、少し珍しい光景だった。
 薄暗い研究室に人影は無く、千雨は資料の山を押し倒しながら奥へ進む。
 すると、部屋の奥にガラスで区切られたもう一つの部屋を見つけた。

「夕映!」

 ガラスの向こうには、手術台の様な場所に寝かされた夕映の姿があった。
 ドアを蹴破り、夕映の元へ急ぐ。
 そこで千雨は夕映の姿を見て絶句した。

「……っ」

 麻帆良で見たときより酷い姿だった。
 体は薄い手術着の様なものを羽織られているものの、四肢はむき出しだ。
 その四肢を見る限り、撃たれた傷はそのまま放置され、肌に乾いた血がそのまま残っている。
 場所によっては、弾丸が皮膚の癒着に挟まれているのも確認できる。
 なにより――。

「夕映、わたしだ。おい! 夕映っ!」
〈千雨、今は無駄だ。とにかく綾瀬嬢を連れて離脱しろ!〉
「だって! 先生、そんな事言ったって!」

 夕映は瞳を開け、どこかを見つめていた。瞬きもしてるし、呼吸もしている。
 だが、それだけだった。
 千雨が一目見て想像したのは、蝋人形だ。
 例え人間から型を取り、精巧に色を塗っても、本物の人間とは明らかな違いが感じられる。
 今の夕映にもそういう印象を抱いたのだ。
 人間の形をした〝ナニカ〟。
 そう思ってしまった自分が悔しく、また夕映のそんな惨状が悲しかった。

「夕映っ! 夕映っ!」
〈千雨! いい加減にしろ!〉

 ウフコックの静止も聞かず、千雨は夕映の肩を揺さぶった。
 ガクガクと揺れるものの、首が据わってないようで、頭部も揺れた。
 顔が力無く傾く。その表情はやはり変わらず、ただ口の端から涎がツーっと流れるだけである。
 そんな夕映の顔が見たくなくて、千雨はギュっと夕映を抱きしめた。
 千雨の体温より冷たい体だ。
 持たれかかる夕映の体も、常よりも重い。
 関節にまったく力が入らず、重心の定まらないグニャグニャの夕映の体は鉛の様に感じられる。
 顔を見ずとも感じられるそんな現状に、千雨の顔は更に歪んだ。

「なんでだよ。なんで夕映がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。こいつ、電話越しで泣いてたんだ、助けて、助けてってさ。それで助けに来たら、今度は泣く事さえ出来なくされてる。クソ! チクショウ!」
〈お前が悔しいのもわかる。だが、後悔は後だ。後で好きなだけできる筈だ。今は最善を尽くすんだ。それ以上、取りこぼすつもりか?〉

 ウフコックの挑発に似た言葉に、千雨は奥歯をかみ締める。
 千雨は何かを発しようとした時、それを遮る言葉が聞こえた。

「おい、なんだこの有様は!」

 部屋の電気が付き、全てが明るみに出る。
 研究室の入り口には一人の男が立っていた。
 陰気な雰囲気を持つ白衣の男、この研究所の責任者たる天井亜雄だった。

「ガキ、どこから紛れ込んできた。ふん、どうやら素体に用があるらしいな」

 天井は千雨の姿を見つけるやいなや、懐から銃を取り出し、千雨に突きつけた。

「ちっ! さっきの外部からの侵入者の一団とやらだな。まさかガキだとはな。いいからその〝ゴミ〟から離れろ。中身をコピーしたとは言え、他所へ情報を残すのはしたくないんでね。しっかりと焼却処分せねばならん」

 千雨は一層強く夕映を抱きしめ、天井の方を見もしなかった。

「ゴミ、だと?」
「ふん、中身さえ手に入れれば、そいつはただのゴミだ。菓子の空き箱、CDのビニール包装、その程度のもんだ。ただ厄介なのは脳の一部でも残れば、せっかくのお宝の中身が漏れてしまう可能性があるぐらいか。まだ普通のゴミの方が有用ってもんだよ」

 ハハハ、と笑う天井。その冗談に呼応するものは、この部屋に誰もいない。

「――お前がやったんだな」

 千雨が小さく呟いた。

「は? 何だガキ」
「……っ! お前が――」

 周囲に火花が散った。
 千雨のかみ締めた唇からは血が流れ、目からは悔し涙が浮かぶ。
 憤怒の形相、怒りが思考を真っ赤に染めた。

「お前がぁぁぁぁぁァァァァァァァァ!!」
〈千雨っ!〉

 研究室内のモニターが、過負荷の電力により一斉に爆ぜた。
 怒りが千雨の能力を瞬間的にオーバーフローさせる。『シスターズ』の攻勢も一瞬振りぬき、部屋の中にあった夕映に関するデータも電子干渉(スナーク)で上書きした上で破壊した。
 壁面に埋め込まれた様々なケーブルもショートを起こし、部屋内に少なくない振動が起きた。

「ひぃぃ! なんだコイツ! ま、まさか能力者なのか? が、外部から来たと報告が……まさか魔法使いっ」
 千雨は夕映から体を離しつつ、天井に向け突進した。

〈千雨、しっかりと――〉
(止めるな先生。こいつだけは、こいつだけは!)

 無理矢理ウフコックに干渉し、拳銃へと反転(ターン)させる。
 手に持った拳銃で、正確無比に天井の持つ銃を撃ち落とした。

「ひっ!」

 手に伝わる痛みに、天井は顔を歪めた。
 そのまま千雨は引き金を引き続け、天井の両足をズタズタにした。

「ギャァァァァァァ!」

 ベチャリ、と自分が作った血溜まりに倒れこむ天井。
 千雨は仰向けに転がっている天井の胸に足を置き、口の中に銃口をねじ込んだ。

「お前が! お前がぁぁぁぁ!」
「おおがおあああ!! あおあおええくえぇぇぇぇ!」

 天井は銃口を突っ込まれながらも、情けなく涙を流して何かを懇願する。
 こんな奴が夕映を……、そう思うと千雨の中の憎しみがさらに膨れ上がる。

〈ッ、千雨、落ち着け。まだ綾瀬嬢が助からないと決まったわけではないはずだ〉
「ぐっ!」

 ウフコックの言わんとしてる事は分かる。
 夕映が助かったときに、千雨が犯人を殺した、という枷を作らせたくないのだろう。
 千雨は一瞬の逡巡の後、銃口を口から引き抜き、かわりに天井の両肩に銃弾を見舞った。

「がぁぁぁぁぁ!」

 天井の絶叫が響く。
 口から泡を吹いているようだが、意識は失わせない。
 人体に多少の電子干渉(スナーク)をし、意識を取り戻させる。

「だ、だずげで……」

 あらゆる体液に汚れた天井の顔を、千雨は一睨だけした。
 夕映を抱え上げ、近くのテーブルに置かれた夕映のペンダントを見つけ、それもポケットにねじ込む。
 天井のうめき声を背景にしつつ、千雨は部屋を出る前に一言告げた。

「お前は直接手を下す価値すらない。そのまま苦しんで――死ね」

 冷たい瞳。
 天井のうめき声はそのままに、ドアはゆっくりと閉じられた。



     ◆



 痛い、痛い、痛い。
 激痛の中、天井が思い浮かべたのは他者への怨嗟だった。
 血の海を泳ぐようにもがきつつ、自らの反省は無い。

(ちくしょう、なんで俺がこんな目に! 役立たずどもばかりだからだ! なんでみんな俺の邪魔をするんだ)

 部下や警備員の無能な言葉を思い出す。そしてそれらに罵倒を吐き尽した。

(まだ、まだ死ねるかぁ)

 外部へ連絡しようと、手を伸ばす。
 肩を撃ち抜かれているため、とんでもない激痛が襲ったが、おかげで意識は飛ばなかった。
 床に落ちていた受話器をどうにか掴むものの、先ほどのショートの影響か、ウンともスンとも動かなかった。

「ク、そォ」

 天井の体に、影が重なった。背後に誰かいるようである。
 残りの力を振り絞り、天井は仰向けに転がった。
 霞む視線の先にはボサボサの金髪が見える。ピノッキオだった。

「ダ、スケ、テ」

 どろどろと濁った瞳が天井を見下ろしている。
 感情さえ無いかのような瞳の中に、微かな喜びがあるように天井には見えた。

「その傷じゃあ、僕の治療は無理だな」
「ヂ、リョ、ウスる、カラ」

 ゴポリと喉に血が詰まり、呼吸出来なくなった。

「あぁ、無理しなくていい。また他の場所でして貰うさ。なにせここには研究所が多い様だからな。それに、助けてはやる、安心しろ」
「ホ、ホンドカ」
「あぁ」

 ニタリ、とピノッキオの口元が笑った――気がした。
 されど、天井には確認する機会は永遠に訪れない。
 首が綺麗に胴体と切断された。ピノッキオの手には小さなナイフが一本握られている。
 ピノッキオは部屋の中を見渡す。

「あの子供を、もう一度見つけなければいけないか」

 ピノッキオには、夕映の中の情報に自分の治療法があるのかは知らない。だが、例えなくても、どこかへの土産ぐらいにはなるはずだ。
 建物内からは、相変わらず振動や爆発音が感じられる。
 ここも仕舞いかと思い、ピノッキオは頭に脱出経路を思い浮かべるのだった。



 つづく。










(2010/12/30 あとがき削除)


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