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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第20話「Bad boys & girls」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/31 12:23
 朝食後、千雨達は簡単な準備をし、タイガーモス号から、再び二台の車で移動を始めた。
 千雨とアキラにウフコック、ドーラ一家という総勢十二名と一匹の大所帯の出発となった。荷台にまで飛び出た人員を抱えつつ、都内の道路を通り行く。

「本当にそんなのあるのかよ」

 不安になった千雨が、運転席で相変わらず豪放にハンドルを切るドーラに問いた。

「まかせておきな。こう見えてもあたしゃ日本で何度か仕事をしてるんだ。そん時世話になった奴に貰った秘蔵のルートさ」

 昭和通りを道なりに進みつつ、新橋の手前で横道に反れる。そのまま幾つかの小道を通りつつ、行き着いたのは古い石造りの屋敷だった。どこか古き良き欧風建築を思わせる建物である。
 都心の中にありながら、そこだけポツンと時代が取り残されている様であり、なぜか一目を引かないような雰囲気があった。

「なーんか、地味だな」
「意識しないと気付かなそうだね」

 千雨もアキラも、建物をボーッと見つめている。

「いい目の付け所だね、ほら、男供はさっさと門を開けてきなっ!」

 ドーラの声に押され、荷台から工具を持った男達が、ワラワラと飛び出し、門に張り付く。金属製の門扉の開錠にかかったらしい。門や柵は錆付いているものの、隙間から見える庭園はそれほど荒れていない。

「目のつけどころ、って何さ?」
「ヒヒッ、そのまんまの意味でだよ。おそらくコイツは『まじない』って奴だろうね。知っている奴が見つけようとしない限り、ここには辿りつけないって寸法さ。東京ってのは面白い街でね、新しい建物がズンドコ建てたせいで、人の管理を離れたこういった〝遺物〟が人知れずゴロゴロしてるってわけさ」
「またオカルトかよ」

 話している間に、どうやら門の開錠が済んだらしい。男達の手で、錆付いた音を鳴らしながら門がゆっくりと開いていく。

「さぁ、ちゃっちゃっと行こうじゃないか」

 二台の車は敷地に入り、そのままグルリと屋敷の裏手にまで進んだ。屋敷の周りを走る際、窓から見た屋敷の内部は荒れ果てていた。千雨は庭園との落差に少し驚いていた。

「ボロボロだね」
「庭は定期的に整備されているようだが、屋敷は放置されてるのか。変な話だな」
「いーや、どちらも放置されてるよ。庭にも『まじない』がかけられてるとあたしゃ見るね。まぁ、どちらにしろ金にはなりそうにないが」
「これもか……」

 ドーラのウンチクを聞きつつ、千雨とアキラは再び周囲の庭を観察した。

「全然わかんねぇ。魔力ってのも確かに微妙に感じるが、それは大抵どこでも感じられる程度の量だ」

 不意に車が止まり、ドーラが運転席から飛び出した。
 屋敷の裏手には、納屋か倉庫かガレージか、といった建物がある。入り口の南京錠を、ドーラは拳銃で破壊し扉を無造作に開ける。開けた勢いのせいか、中からほこりが飛び出した。周囲にカビ臭い空気が漂う。
 中にはクラシックカーや馬車などといったものが、錆とほこりを被っていた。

「お前ら、また仕事だ。中のもんを外に出しな。欲しいもんがあったらかっぱらっていいよ」

 ドーラの「仕事」という言葉に悲鳴があがったものの、盗みのゴーサインが出た途端、男達の動きが良くなる。
 小一時間もかからず、倉庫の中身は外へと出された。男達が外に出されたガラクタの山を検分している時、ドーラに千雨は呼ばれた。

「チサメ、ちょっとこっちに来な」

 呼ばれたのは倉庫の中だった。物品が運び出され、ガランとしている。

「倉庫の中、特にこの床を中心に調べておくれ、あんたの〝力〟でな」
「あぁ、わかった」

 コツコツと、ドーラはつま先で石畳の床を指しながら指示した。ドーラ達に対し、千雨は自分の能力をある程度教えていたのだ。
 千雨は周囲に知覚領域を広げていく。違和感はすぐにあった。この床の下に、何か穴があるのだ。

「なんだ、これ」

 地面を凝視しながら、思わず口に出してしまった。千雨はそのまま倉庫の中を歩き回り、手近にあった石で、地面に目印となる傷を作っていった。

「バアさん、これでいいんだろう」
「あぁ、上出来だ。おい、野郎供ガラクタ漁りは仕舞にしな。仕事の再開だよ」

 千雨の目印をつけた所を少し傷つけると、下には大きめの杭が出てきた。それを数箇所外すと、石造りの床の一部がスライドするように出来ているのだ。
 倉庫の地面がパカリと開き、地中へ伸びる緩やかな傾斜が見えた。大きめのピックアップトラックでもすっぽり入るサイズの道路である。

「さて、地下探検へとしゃれ込もうかね」

 ニヤリ、とドーラが笑みを濃くした。







 第20話「Bad boys & girls」







 学園都市の第十学区。研究所などが多く立ち並び、唯一墓地を有するこの場所は人の出入りが他学区に比べ少ない。その片隅にある建物の奥の一室に、天井亜雄(あまいあお)の姿があった。
 無造作に伸びた髪、顔色は白く、ギョロリとした目が目立つ。どこか小物じみた雰囲気を白衣の中に詰め込んでいる男である。
 空調の聞いた一室で、目の前に置かれた研究対象を見つめていた。
 綾瀬夕映、確か本名はユエ・クローチェとかいう名前のはずだ。されど、天井にとって名前などはどうでもよく、すぐに忘れた。
 夕映には手術着のような薄手の繊維が羽織られてるだけで、肌はかなり露になっている。

「ひひっ、やっとだ。やっと」

 天井は夕映のおでこに手を当て、口角を吊り上げた。
 彼にとって、夕映は自らの栄達を助ける、天からの恵みに他ならない。

 天井亜雄は以前『量産型能力者(レディオノイズ)計画』という研究を行っていた。学園都市に七人しかいないレベル5と呼ばれる超能力者。その一人である『超電磁砲(レールガン)』のDNAマップを手に入れ、クローニングによりレベル5を量産する計画だった。
 だが、出来たのはレベル5に遠く及ばない欠陥品の群れだった。いくら作れど、出来上がったモノはせいぜいレベル3止まり。能力の底上げをしようにも所詮人間のクローン、あっという間に壊れてしまう。
 彼、いや彼の所属する研究チームは窮地に陥った。
 そこに救いの手が指し伸ばされた。『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』である。学園都市のレベル5序列第一位に、二万もの戦闘パターンを経験させ、前人未到のレベル6に至らせる計画であった。
 その実験モルモットに『量産型能力者計画』のクローン体が選ばれ、二万体のクローンの量産と共に、天井の首は繋がるはずだった。しかし、また無常に計画は頓挫する。学園都市最強が、一介の武道家に敗れるという事が起きたのだ。相手は能力開発すら行っていない一般人である。学園都市が誇る高性能コンピュータ『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が出した解答は〝計画の凍結〟。

 再び彼の元には多大な負債が残された。今度は一万五千もの人形付きである。
 さらに研究チームの主任は処断され、彼に責任者としてのお鉢が回ってきたのだ。学園都市から逃げ出す事も出来ず、ただただ荒れ果てた研究室で途方に暮れていたが、唐突に転機が訪れる。

 彼の元へ一つのデータが回ってきた。イタリアのある組織から亡命した男が持ち込んだデータらしい。内容はほとんどゴミクズに等しかったが、一部が彼の目を引く。『人工皮膚(ライタイト)』と呼ばれるそれは皮膚を通して、電子部品への干渉が行えるという。
 ただし、そのオリジナルの楽園謹製の『人工皮膚(ライタイト)』には遥かに劣り、劣化コピーにすぎない代物だった。
 天井の脳に閃きが起こった。彼に残された一万五千ものクローン『欠陥電気(レディオノイズ)』は確かに出来こそ悪いが、彼女らは独自の脳波ネットワークを持ち、繋がっているのだ。一種のバイオコンピューターに近い形式を持っている。
 現在のコンピューターは第四世代と呼ばれ、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』ですら例外では無い。
 現在学園都市内でも、次世代のコンピューターの開発競争は活発に行われているが、未だ実現に至っていないのだ。
 バイオコンピューターもその一つで、有機物を使った演算を目指すものの、出力が足りなかったり、外部へ情報を伝えるアウトプットに難があったりと様々な問題がある。

 だが、『欠陥電気(レディオノイズ)』と『人工皮膚(ライタイト)』、これがあればその問題は解決される。一万五千もの有機並列演算に、『人工皮膚(ライタイト)』による既存の外部ネットワークへの干渉。
 未だロスが多く『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を越える程まで至ってないが、彼の研究は次世代コンピューターの試作モデルとして注目され、多大な研究資金が流れこんできた。

 天井にとって見ればたなぼたに近く、碌な努力と研究をしない上での成果である。
 味を占めた天井は、亡命した男が言っていた〝研究素体〟と『破片』に興味を持った。情報を探し始めた途端、すぐに見つかる事になる。
 麻帆良学園都市、自分達の目と鼻の先に潜伏していたというのだ。
 彼は強奪を試みようと思ったが、あの場所はまずい。魔法使いなる人間達の極東本部があり、その防壁は強固であった。
 異能に反応するという結界があり、学園の能力者を送り込む事も出来ない。例え送り込んだとしても、相手に捕まり解剖でもされれば、それは機密漏洩と見なされ天井が処断されるのだ。
 魔法使いのという脅威がある街で、自らのリスクを最小限にし、なおかつ最大限の成果を上げれる人材を探さねばならない。そして、その人材も思いのほかはやく見つかった。ピノッキオ、と呼ばれる殺し屋だ。十年前に失踪したとの事だが、欧州のゴタゴタに紛れ彼の情報も流出したらしい。
 脳に『破片』の技術による手術を受けているらしく、代謝の自動調整により、睡眠を取る事のない体になっているとの事だ。その治療を引き換えに交渉した所、あっさりとこちら側に転がってくれた。
 仕事もしっかりこなし、難なく目標を拉致してくれた。
 今はこの研究所の一室で休んでいるようだが、天井はピノッキオの治療など、正直どうでも良いのである。目の前の少女、正確にはその中身にしか眼中に入らなかった。知らず、笑みがこぼれる。

「ヒヒッ。おい、そっちの外部記憶装置(ストレージ)はどうだ?」

 天井は部下の研究員に、夕映の持っていたネックレスの詳細を聞いたのだ。

「はい。どうやら中身は補助記憶装置の様です。任意の記憶に受けた印象を、脳波パターンと、簡素なイメージ画像や音声で記憶しているようで……中身は膨大なため、細かいチェックは出来ませんでしたが、重要な研究データや技術などはありませんでした。強いていうなら、この装置そのものに使われた技術の方が素晴らしいですね」
「ふん、記憶障害の補助というところか」

 資料に間違いではないようだった。人工的に作られた体『義体』との拒絶反応を抑える薬には、発症を抑える代わりに記憶野に障害を起こすらしい。さらに幾つか脳波パターンを見る限り、この素体には膨大な研究データを記憶野に入れ、それを人格制御という名の洗脳で雁字搦めに封印してあるようだった。それが記憶野との正常な接続を日々困難にしていったようである。
 幾つかの情報が、亡命した男の残した証言とも合致している。

「なら簡単じゃないか」

 元々、天井は脳科学の専攻であり、ネットワークやら演算装置は専門外なのだ。

「人格も、何もかもを全て切り刻めばいい。最悪、脳だけでも残れば上々だ」

 そう言いつつも、彼は物理的に切り刻むつもりは無い。いや、必要がないと言った方が良い。みすみす素体を危険にさらし、中のお宝が失われるのはナンセンスなのだ。
 彼には自らが開発した、次世代型有機コンピューターの試験モデル『シスターズ』があるのだ。メスよりも遥かに小さい、電子のナイフで人格を切り刻み、中身を取り出せばいい。

「さぁ、オペのはじまりだ」

 夕映は抱えられ、曲線を描く奇妙なベッドへと押し込まれた。研究室のドアが開き、何人かの人影が入ってくる。その全員が同じ格好をし、同じゴーグルを被り、同じ顔をしていた。
 それは『シスターズ』と呼ばれたクローンの群れであった。夕映の周囲に八人程が立ち、その中の一人が夕映に近づき、頭部に直接触れた。
 瞬間、夕映は目を見開き、絶叫した。
 体が痙攣し、顔中から体液が溢れる。
 それを『シスターズ』は表情一つ変えず見つめ、彼女らの背後にいる研究者達は愉悦を浮かべた。
 一の不幸が、多の幸福に蹂躙される。その部屋ではある意味、そんな世界の縮図が再現されていた。



     ◆



 ピノッキオが案内されたのは、研究所のフロントに近い一室であった。どうやら彼を奥にまで案内する気はないらしい。部屋の隅を見れば、そこには只の天井と壁しか無い。だが、彼はそこから独特の視線を感じていた。

(監視カメラか)

 学園都市の技術を考えれば、その程度造作も無いだろう。
 ふと冷静になると、自分がどれだけ馬鹿な取引をしたかと思ったりもする。
 ただ、眠りたかった。
 故に、治療という甘い餌に容易に飛びついてしまったのだ。
 されど、奴らがそれを守る保証は無いのだ。仮に自分が手術台に乗ったとしても、果たして再び目覚められるかも怪しい所である。
 苛立ちが増した。天井とかいう
 柔らかすぎるソファーに体を沈ませても、多少の疲労感を感じるだけで、眠気は一切やってこない。目は冴えるばかりで、苛立ちが殺意の衝動へと変わっていく。目の前のモノを、力の限り破壊したくなるのだ。
 壁の一点見つめ、思索の海に浸っていたら、いつの間にか日が昇っていた。不意に空腹を覚えた。
 ピノッキオは立ち上がり、人気の無いフロントを通り、外に出た。

「どちらへ?」

 数人の警備員がピノッキオを囲んだ。

「腹が減った。ついでに散歩だ」
「食事はこちらでご用意いたします。お戻りください」

 警備員の制止を、ピノッキオは瞬時に振り切った。視界から消えたピノッキオを探そうと、男達が首を周囲に向けた時、警備員がもう二人倒れていた。

「なっ」

 何が起こったか、男達はわからない。ただピノッキオは男達の視線と呼吸を読み、最小の行動で死角へ潜り込み、最高のタイミングで身をかがめただけだった。もちろん、それで全員の視界から消えるわけではない。自分を視認し続けられた二人を瞬時に無力化させたのだ。
 肉を切り裂きたくなる衝動を堪えた。一人の首にナイフを当てつつ、他の警備員に確認を取った。

「食事を取りに行く。それに何か問題あるのか?」

 責任者らしき男はなんとか口を開こうとするも、ピノッキオの視線の前に首を横に振った。

「じゃ、そういう事で」

 一切の能力を使わず、武装をした警備員に引き金一つ引かせずに無力化してしまう。男達にとってそれはヘタな能力者より理解が難しく、異質であった。
 立ち去るピノッキオの背中を目で追いかけつつ、異質さに恐怖を持ったのだった。



     ◆



 ピノッキオが向かったのは、二つほど隣の地区にある第十五学区だった。研究所の周辺を散策したが、店たる店が見つからず、適当に見つけたバス亭から、適当な場所へと向かったのだ。
 途中見つけたパンフレット冊子によれば、第十五学区は最新の繁華街らしく、一番の賑わいを見せる場所でもあるらしい。

(失敗したか?)

 今更、人の多い場所に行くのも気が引けた。カリカリと頭蓋を削る音は、たやすく爆発してしまいそうだ。だが、それも面白いかもしれない。
 バスの窓越しに見る風景に、放課後なのだろう、学生が多くなってきた。
 繁華街に降り、人込みを避けるようにピノッキオは進む。

(子供ばかり。そしてこいつらのほとんどが超能力とやらの〝調教〟を受けているのか)

 視線はまっすぐ動かさないまま、視界に入るもの全てを観察した。うるさく、落ち着かない街だが、異常性は余り感じなかった。
 大通りを避け、小道にあった小洒落たレストランで食事を取った。ピノッキオにとって、食事の美味さは余り関係なく、ただよほど不味くなければそれで十分だった。ただ一例を除いては。
 レストランを出て、幾つかの通りを散策した。途中、学生がアクセサリーの露天を開いている通りがあった。第九学区にある美術学校の面々が、放課後になるとこの通りまでやって来ては似顔絵などを売るとか何とか、そんな事がパンフレットに書いてあった気がする。
 ピノッキオの視界に、一つのアクセサリーが目に入った。

「うさぎ?」

 うさぎをデフォルメして、マスコットにした小さなブレスレットだった。

「お、お兄さん。いいとこ見つけましたね。観光ですか? だったらぜひ一つ買っててくださいよー。オマケしますぜ」

 地面に胡坐をかいた少年が声をかけてきた。どうやら彼がこのアクセサリを作り、売っているようだった。

「いくらだ?」
「お、買ってくれますか。いやー、全然売れなかったんで、すげーうれしいですよ。本来千二百円ってところなんですが、サービスして千円でどうです?」
「千円。これで足りるな」

 ピノッキオはポケットを適当に漁り、手に掴んだ万札を少年に放った。そのままアクセサリをポケットに突っ込み、踵を返した。

「おわっ。って、ちょっと待ってよお兄さん。お釣り!」

 後ろから少年の声が聞こえたが、ピノッキオは気にせず人込みに紛れた。何故あんなものを買ってしまったのか、分からなかった。ポケットの中には、滑らかな金属の感触。それが段々と苛立ちを濃くし、頭のカリカリという音が激しくなった。

「ぶつかっておいてその態度はないよなぁ、オイ」
「えぇ~っと、その事はごめんなさい。あの急いでるんで、離して貰えませんか」

 路地裏から声が聞こえた。どの国でもある一種のチンピラ特有の掛け合いである。

(丁度良い)

 濁りきった瞳が躍動した。頭蓋が軋む程、音が高鳴り、体に熱が入る。
 路地裏に入れば、一人の女子学生を四人ほどのチンピラが囲んでいる。チンピラの一人は女子学生の手首を掴んでいた。
 その姿に、何かが重なった。
 ピノッキオに気付いたチンピラ達は、目線で威嚇を始めた。

「あぁ、何見てるんだよ、おっさ――」

 チンピラは最後まで言葉を紡ぐ事が出来ない。なぜなら彼の頬には、ピノッキオの放った拳が突き刺さっていたからだ。チンピラの口から血と歯が吹き出た。

「てめぇ!」

 一人のチンピラが手をかざした途端、周囲に落ちていた金属片が空中に浮かび、ピノッキオ目掛けて放たれた。

(念動能力とやらか、それとも磁力? まぁいい)

 事前に教えられた、簡単な能力の区分けを思い出しつつ、ピノッキオは横の壁に背を預け、最小限の動きでそれらをかわししていく。相手の射線に対し、できる限り平行な体勢を保ちつつ、背中の壁をも使い、金属片全てを無傷でやり過ごした。

「な、よけやがったのか」

 チンピラ達が、ピノッキオの動きに動揺した瞬間、手首に収まっていたナイフを真上に放った。光を反射しながら回転するナイフに、チンピラ達の視線が奪われる。
 ピノッキオは視線を低くしたまま、手近な男の喉元に手刀をねじ込んだ。

「うぐっ」

 くぐもった声を出しながら倒れる男を影に、勢いをつけたまま跳躍した。壁面を足場に二歩分走り、高く飛び上がる。
 倒れた男の声に反応し、視線を戻した時にはもう遅い。逆に空中に放られたナイフをキャッチしながら、ピノッキオはチンピラ達の背後に降り立った。
 三人目には背後から後頭部に蹴りを浴びせ、昏倒させる。残るは一名だった。

「なんだよ、こいつ。わ、わけわかんねぇんだよ!」

 能力を使わず、あっという間に三人が倒されたチンピラは、恐怖を顔に滲ませながら、手に炎を集め、をピノッキオに放った。

(試してみるか)

 腰のナイフを抜いた。ナイフの表面には細かい文字が彫られている、それはルーン文字と呼ばれるもので、物に刻む事により様々な付加を与える事ができる文字だった。
 ピノッキオは対魔法使い用の切り札として、この抗魔力が強いナイフを持っていた。ピノッキオが使えば、魔法の障壁すら切り裂く一品であり、十年前まで彼の命を何度も救った相棒でもある。
 相手の視線の揺れ幅が大きく、能力の射線を正確に捉えることが出来なかった。それ故に、ピノッキオはいささか余裕を持って炎を避けつつ、ナイフの切っ先をさり気なく炎に当ててみた。

(切れる。超能力にも使えるのか?)

 魔法に対して抗力を持つはずのナイフが、超能力にも効くようだった。もう一度試してみようと、今度はチンピラの前に仁王立ちをして待った。
 だが、チンピラはそんなピノッキオの態度に怯え、呆然とするばかりだった。

「ほら、どうした撃ってみろ」
「う、うあぁぁぁぁぁ」

 ヤケクソになったチンピラは、路地裏の周囲の壁を焦がすような大きな火の玉を、ピノッキオに放り投げた。

「や、やめてよッ!」

 女子学生がそれを見て声をあげた。何かをしようと走り出すものの、それよりピノッキオの行動の方が早かった。
 火の玉に自ら飛び込み、その淵をナイフで切り刻んで霧散させ、自分だけがかろうじて通れるような穴を作り上げた。歪な形になった火の玉は、あたかもピノッキオだけを避けた様にさえ見れる。

「はっ?」

 女子学生は、目を点にしながらその現象に驚いていた。

「ひぃぃぃぃ」

 勢いを殺さず、ピノッキオは最後のチンピラの懐にまで飛び込み、拳を振るった。鼻っ柱を折られたチンピラは、ズルズルと壁を背に倒れこんだ。
 ピノッキオは、目の前に倒れた、四つの体を見下ろした。手にはナイフがあり、そのグリップをギュっと握りなおす。さぁ、この男達の肉を引き裂き、嬲り殺そう。
 そう思った時、声がかけられた。

「あ、あの。ありがとうございました」

 ペコリとお辞儀をする女子学生。見たところ制服を着ていたが、イタリア出身のピノッキオにとっては見慣れない制服――セーラー服――だったため、多少違和感が残った。顔立ちも彫りが浅いせいで、よく年齢も分からない。おそらく中等部、いや小等部だろうか、と当たりをつける。

「その、助けてもらったのはありがたいのですが、やりすぎだと思います」

 少女が顔を上げた。キリリとした眉が印象的で、瞳もまっすぐピノッキオを見ていた。黒い髪を背中まで伸ばし、耳元の少し上に、花を模した髪留めが刺さっている。
 ピノッキオは興が冷めたと言わんばかりに、腰にナイフを戻し、無言で路地をさろうとした。

「あ、ちょっと待ってください。そのお礼を――」

 そう手を伸ばしかけた少女だったが、路地奥からの声に思いとどまった。

「佐天さーん! どこ行っちゃったのかと、心配しましたよ」
「あはは、ごめんごめん。ちょっとね――」

 セミロングのお団子髪の少女が走ってきて、女子学生に声をかけたようだ。
 ピノッキオは横目にそれを確認しつつ、路地を去った。



     ◆



 その日、学園都市の唯一の空の玄関口、第二十三学区にある国際空港で、職員は奇妙な物を見つけた。
 物資輸送用の貨物機であり、乗客は乗っていない。しかし、詰め込んである荷の中に、不思議なものが混じっていたのだ。飛行機の倉庫、その片隅に置いてあった、蓋の開いた箱だ。
 ミニチュアハウス、とでも言うべきか。手に抱えられる程の箱の中に、ソファーやテレビといったミニチュアが詰め込まれ、お洒落なリビングが再現されている。
 別にそれだけだったら良く出来た模型だ、と思いつつ遺失物なりとして部署に届けるだけで終わるはずだ。
 だが、そのミニチュアは生活感に溢れていたのだ。
 スナック菓子の残りが散乱し、ワインのビンも床に転がり小さな水たまりまで作っている。職員がおそるおそるテレビのスイッチをボールペンの先でいじると、なんとテレビまで映ったのだ。もちろんノイズ混じりで、ほとんど何も見ることは出来なかったが。
 職員はその異常さに冷や汗を隠せなかった。



     ◆



 四人の男達が空港から出てきた。特に手荷物が無く、手ぶらで堂々と歩く様は周囲に違和感を抱かせない。
 四人とも彫りが深く、一目で日本人じゃない事がわかる。

『ったくよ、誰だよ。テレビも持っていこう、とかいった奴は。飛行機の中でテレビが映るわけねーだろっ、どうせならDVDとかも持ってこいよな』

 丸坊主の男が周囲にグチを漏らした。どうやらイタリア語で話しているようである。

『お、お前だって賛成したはずだぜ、ホルマジオ。それ以上、その汚い口を開くんだったら、ぶ、ぶっ殺すぞ』

 気の弱そうな男が、ホルマジオという男に噛み付いた。

『うるせーぞペッシ。黙れ』
『プ、プロシュートの兄貴ィ。いや、だってホルマジオの野郎が――』
『黙れって言ったよな。もう一度言わせるな。それでリゾット、これからどうするんだ』

 プロシュートと呼ばれたのはスラリとした身長の男。プロシュートは四人のリーダー格であろうリゾットという男に話しかけた。

『仕事はこなす。だが、せっかく組織の援助付きでここまで来れたんだ。この都市で頂けるものは頂く。超能力、面白そうじゃないか。ボスをブチ殺す鍵を見つけられそうだ』

 四人の男達はイタリアのギャング組織『パッショーネ・ファミリー』の一員である。
 暗殺を生業とする彼らのチームは、いつも過酷な任務を押し付けられつつ、冷遇されていた。
 それに不満を持ったチームのメンバーは、秘密主義であるボスを調べようとしたものの、すぐに粛清されてしまった。今、彼らには組織からの首輪がかかっているのだ。
 その折、組織から一人の子供を殺せ、と彼らに命令が来た。
 その場所は何とあの《学園都市》である。彼らは任務を受けつつ、影で笑みを濃くした。
 従順な振りをしつつも、彼らはボスの首を狙っている。
 ボスを打倒し、幾つかの資金ルートを奪うことが出来れば、莫大な金が手元にやってくるはずだった。彼らはその機会を虎視眈々と狙っていたのだ。

『聞けば超能力とやらは、俺ら『スタンド』のコピーらしいじゃないか。せっかくだ。便利な奴は拉致るなり、薬漬けにするなり使い道がある。運ぶのにはホルマジオがいる』
『あぁ、まかせておけ』

 ホルマジオはニヤリと笑う。どうやらホルマジオのスタンド能力は、物を運ぶのに有効らしい。
 四人の男は空港近くの駐車場に向かい、車を物色した。

『とりあえずイタリア車を頂こうぜ。ドイツ車は好きになれねぇ。日本車はなおさらだ』

 プロシュートの言葉を聞き、リゾットはとりあえず手近なフィアットに狙いを定め、その鍵穴に触れた。
 ガチャリ、と触れただけでドアの鍵が開き、運転席に乗り込む。
 四人乗りとは言え、さして大きくない車だ。大の男が四人も乗ると窮屈だった。

『適当に暴れておく。そうすりゃ〝向こう側のヤツら〟も勝手に迎えに来てくれるだろう。そいつらもブッ殺せば、楽して情報が手に入るはずだ』
『いいねぇ、リゾット。手っ取り早くて素敵だ』

 ターゲットの写真を、リゾットはプロシュートに投げ渡した。髪の長い子供の写真だった。写真の淵にはターゲットの名前らしき走り書きが書かれている――〝ユエ〟と。
 リゾットの運転する車はゆっくりと動き出し、街並みにまぎれた。



     ◆



 その日、レベル5序列二位の垣根帝督は、アレイスターの影に忌々しい視線を送っていた。

 その日、『アイテム』のリーダーである麦野沈利は、セーフハウスで仲間と共に、優雅に紅茶を飲んでいた。

 その日、学園都市の暗部にある武装部隊『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』は血肉を貪っていた。

 火種がゆっくりチリチリと《学園都市》に火を灯し始めていた。



 つづく。



(2010/12/19 あとがき削除)


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