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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第1話「感覚-feel-」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:67228ed1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/04 13:43
 学園長室にて、麻帆良学園の学園長を務める近衛近右衛門は革張りのイスの背もたれを揺らしていた。

「ふぅむ、長谷川千雨君のぉ」

 机の上には千雨の経歴が書かれた書類が数枚並べられている。その出自から始まり、親族、学歴、趣味や嗜好、さらには半年ほど前に起きたアノ事件に至るまで。
 その経歴には、なんら隠すことも無い、と言った体で堂々とある文字が書かれていた。

「『学園都市』からとは、いやはや露骨すぎじゃあないかの」

 半年前のアノ事件で大怪我を負った千雨は、東京の三分の一を占める学園都市に運び込まれ”治療”された、と書類にはおおまかに記載されていた。
 日本国内では間違いなく断トツ、世界的にも類を見ないほどの科学力を持つ『学園都市』。特に人間開発なる分野の研究成果は世界中から注目を集めていた。フィクションの中だけだと思われた超能力を科学の面から発現させてしまったのだ。そんな学園都市で施された”治療”とやらを真っ当に信じる程、近右衛門の脳はもうろくしていない。
 千雨は治療後、学園都市内の常盤台に転校し、さらにそこから麻帆良へ戻ってきたという学歴になっている。刺客としては間抜けだが、相手方の警戒感をあおるには十分である。

「アレイスターめ。まぁ目と鼻の先じゃ、お互い鞘当も必要かの」

 東京の三分の一を占める『学園都市』と、埼玉の一都市をそのまま学園にした『麻帆良学園都市』。お互い対立する理由はないが、だからといって手を取り合うには隔たりが大きすぎる。

「長谷川君も難儀じゃのう……」

 その呟きには、茶番劇の主役にも等しい立場に追い込まれた少女への同情がこもっていた。






 第1話「感覚-feel-」







 屋上を飛び出した千雨は階段で身悶えをしていた。

(あぁ~~~、恥ずかしいっ!)

 エヴァに会って数分で見透かされた自分の薄っぺらさであったり、その後の言動であったり、秘匿すべき力を意趣返しに使ってしまった幼稚さであったり、様々な至らなさに千雨の脳内は後悔のリフレインをしていた。

(部屋に帰ってベッドに潜りたい。帰ってネットがしたい)
 千雨の心の呟きは、皮膚の上をピリピリと通し、周囲に微かに伝播している。

〈千雨! 落ち着け! 出てるぞ〉
「うぇっ! 」

 脳内に響く声に驚き、思わず素っ頓狂な声が出た。通りがかった生徒達も、唐突に奇声を上げた千雨をジロジロと見ている。

(あう~、く、クソ。なんなんだよ、もう)

 千雨は深呼吸を二度し、心を落ち着かせた。半年前に千雨が得た力は、その心の機微に非常に敏感だった。千雨にとっては瞬きなどの肉体の反射に等しい行動なのだ、意識を常にしておかないとすぐにこうなる。
 思考の分割をし、マルチタスクを行い、力の制御の意識を常駐させた。最大二千以上もの思考分割が出来る千雨にとっては造作もない事だが、いくら分割しても千雨自身の精神が成長するわけではない。
 羞恥や後悔により、分割された思考はそれ一色に染まってしまっていたのだ。

(……ふぅ。すまない先生。これからは気をつけるよ)
〈気にするな、それが私の役目だ〉

 出会って半年。相変わらずの物言いに千雨の口の端が上がる。視線を変えないまま、左手首の腕時計をトントンと二回小突く。
 千雨は職員室へ向かい歩き始めた。



     ◆



 自室のベッドにうつ伏せのまま、千雨は今日の出来事を思い出していた。
 元来人付き合いの苦手な千雨にとって、無駄に注目を浴びる転校生としての立ち位置は辛さが先走っていた。
 昼休みに教科書を職員室で貰った後、午後の授業はスムーズに進んだものの、放課後のチャイムが鳴るや、裕奈やまき絵さらに大河内アキラや和泉亜子といった面子に引きずられ、部活見学なるものへ連れて行かれた。
 終始テンションが高いメンバーながら、アキラだけは千雨の心情を察し、色々フォローしてくれたのが不幸中の幸いだった。
 気付けば夕方。やっと開放されると思い、自室で私服に着替えたのもつかの間、激しくノックされるドアを開けた途端、また引きずられ、寮内での歓迎会の主賓として参加させられた。
 寮内の規則ギリギリの時間までドンチャン騒ぎが続き、ついさっき本当に開放され、ベッドへダイブした所だった。
 そんなこんなで、受身のままズルズルとアッチコッチへ引っ張られた千雨は肉体的にも精神的にも疲労でいっぱいだった。

「づがれ゛だ~~」

 ふと、千雨の左腕に巻かれた腕時計がクルリと反転(ターン)し、黄金色のネズミが現れる。ネズミは千雨の顔近くまで移動し口を開いた。

「だが、いい子達じゃないか。あの子達は千雨を心から歓迎していると思うぞ」

 ネズミとは思えない、バリトンの聞いた低い声だ。

「まぁ、それはそうかもな」

 表情を悟られないよう、枕に顔をうずめたまま千雨は答える。
 そのまま言葉を交わし続けることなく十分、二十分と時間は過ぎていく。今部屋には千雨とネズミしかいない。引越しの荷物は大半がダンボールの中のままで、テレビやパソコンといったものは音をならすものはまったく無く、静寂が支配していた。
 ときおり聞こえるのは隣室のオーディオ音楽やら、テレビの微かな音。千雨も目を瞑ったまま、何かしらを考えていた。
 その静寂を破ったのは黄金色のネズミ――ウフコック――の声だった。

「千雨」
「あぁ。わかってるよ、先生」

 千雨はベッドからガバッと立ち上がると、バスルームに向けて歩きながら衣服を脱ぎ始めた。全裸になるや、頭からシャワーを浴びた。千雨の肌は滑らかな曲線を描き、染み一つ無い美しさを持っている。
 ”その体には傷跡の一つも無かった”。
 千雨は体を拭くこともせず、シャワー室を出たが、足元には水溜りの一つも出来ない。髪もキューティクルを輝かせながらも、余分な水気は消えている。

「先生、たのむ」

 ウフコックを両の手のひらで大事そうにすくうように持ち上げる。

〈まかせろ〉

 低いバリトンの声が、直接千雨の脳内に響く。
 黄金色の毛の塊が反転(ターン)すると、千雨の体はは真っ黒い、肌に張り付くようなボディスーツに覆われていた。
 手のひらを合わせていたため、両手を覆う生地が手のひらを境にしてくっ付いてるのをペリペリと剥がす。剥がした手のひらの上にはまたウフコックが載っている。

〈もう一度だ〉

 ウフコックが再び反転(ターン)すると、今度はボディスーツの上にダブダブのコートが羽織られた。五月という季節を考えると厚着だが、コートの中はひんやりと涼しかった。
 フードをかぶり口元まであるコートのボタンをはめれば顔が見えず、さらに左右に張った肩幅のあるコートのデザインが性別や体型を悟られないようになっていた。

〈千雨、感度はどうだ。阻害されていないか〉
(問題ない。むしろボディスーツのおかげで好調だ。さすが先生)

 ひとまず千雨は感覚を広げた。たった一日とはいえ、離れていた感覚が戻るのは気持ちが良かった。だが、ここでトチるわけにはいかない。範囲は最小限、とりあえず自室までにした。
 ピリリと肌の上にあったホコリのツブが焼けた。千雨の知覚が鮮明になり、自室全てに広がる。いまや百四十にまで膨れ上がった千雨のマルチタスクが、集められる情報を緻密に精査し、脳内にはワイヤーフレームにも似た線で構成された部屋の見取り図が浮かび上がる。
 ダンボール内に入ったデスクトップパソコンのCPUプロセッサの回路の本数の一本一本だって数えられる。

「部屋の中はどうだ?」
「とりあえずは問題なさそうだ、先生。監視や盗聴といったものは見つけられない。だが相手が相手だからな、さすがに未知のものに対しては万全とは言えないけどな」
「それはしょうがあるまい。どっちにしろ見られてるとしたらもうこの時点でお終いだ。せいぜいオフダとやらの効果に期待しよう」

 お札とは千雨が麻帆良に来る際に支給された物品の一つである。オカルトに対しての阻害効果があるとかナントカ。千雨は眉唾モノだと思ってるが、すがるしか無いのだからしょうがないと、部屋の四隅にしっかり貼っておいた。
 相手側から見ても元から警戒すべき人間なのだ、今更この程度で状況はたいして変わらないだろう。疑いが確信に変わったところで、それは元から想定の範囲内、むしろ力の秘匿こそが優先すべき課題だ。

「じゃあさらに広げるぞ」

 部屋の中から外へ繋がる、ありとあらゆるものがバイパスとなり、千雨の知覚を広げていった。電子干渉を旨とする千雨の能力は、絶縁体以外のものを通して感覚を広げていく。

「おぉ、ここのセキュリティすごいぞ。どうなってやがる、本当にただの女子寮なのか? 」

 千雨の知覚はあっという間に寮内を覆い、残るは警備システムの掌握だけだった。だがそのシステムのセキュリティの強固さに驚いていた。学園都市程でもないが、一部ではそれ以上かもしれない技術力により警備システムは守られていた。
 だが千雨としてさるもの。彼女の演算能力は現在、間違いなく世界でも最高峰である。彼女は電子干渉により空気中に自らを補助する演算装置を作り、さらにその余剰の演算能力で演算装置を作る、という芋づる式とでも言うような事ができるのだ。通称『ループ・プロセッサ』。足りなくなったエネルギーにしろ、そこら中の電源からかっぱらってくる荒業を容易になす。
 そんな彼女の演算能力は、後に学園都市内で産まれた一万五千余の並列演算から作られる有機ネットワーク『シスターズ』を単身で追い抜き、その身一つで世界中のシステムに干渉できる数値を叩き出した。
 もちろんそれはあくまで数値上のものであり、実際は不可能である。千雨自身にもある程度の制御リミッターが掛けられていた。必要以上の知覚の広がりは、千雨と他者……いやこの場合”内”と”外”の境界を無くし、千雨自身を廃人としてしまう。
 千雨自身とてそれは嫌だし、学園都市側としても自分達では制御できない輩を野放しにしたくなく、お互いの了解の下リミッターは付けられていた。
 だが千雨にリミッターをつけた所で、その付けられた本人が超一流の開錠師なのだ。当てになるはずがない。そこで目を付けられたのがウフコックなのだ。
 千雨はウフコックを信頼している。そこには愛情もある。またウフコック自身もそれに似た感情らしきものがあった。二十年前の大戦のおりに封印された『楽園』の結晶であるウフコックは、自らが友愛を感じているのかを自分では判別できない。だが『ナニか』はあるのだ。
 つまり、ウフコックは千雨にとっての師であり、親であり、相棒であり、首輪なのだ。千雨自身の力の濫用はウフコックを傷つけ、壊す様になっている。それは千雨にとって何よりも重い枷になっていた。
 されど、その首輪があるからこそ、千雨の人権を認めさせ、違法であるはずの『楽園』の技術を持つ千雨に対し、国連法の特例が認められた一因でもある。
 そしてリミッターがあろうと、元が能力過剰な千雨なのだ、どんなにセキュリティが強固だろうと、学園都市でも無ければ造作なく破ることができる。千雨にとって既存のセキュリティなど薄紙程度のものであり、この半年の経験と修練で、その薄紙を破るばかりでなく、切れ目をそっと入れ、継ぎ目無く修復もするという事もできるようになった。
 この寮のセキュリティだって、千雨から見れば薄紙三枚重ね程度のものなのだ。開錠も修復も容易い。
 瞬き一つで警備システムを掌握した千雨は、堂々と自室のドアを開け廊下に出た。先ほどまで裸足だった足元にはいつの間にか靴が履かれていた。また、一歩一歩踏み出す度に靴の形が変わった。またサイズや靴裏の形や向きまでランダムに変わっていた。淡々とまっすぐ歩いているのに、そこに残るかすかな足跡はおおよそ一貫性が無いように残る。

(ここまでやる必要あるのかよ)
〈一応の保険だ。用心するにこした事はない〉

 これを人の少ない場所ででもやったら異質だが、雑多な人間が住む寮内ではさして違和感なく足跡はまぎれた。
 顔をフードとマスクで隠した不審者極まりない姿ながら、それに気付くものがないまま千雨は寮を堂々と出て行った。



     ◆



(さて、と。どうしたものかな)

 こちらはあくまで調査で来ている。某所からの依頼により、魔法というオカルト染みたものの詳細なデータを求められていた。現在の千雨は”治療”と言う名の人体改造により、とんでもない負債を抱えている。それは一命を取り留めるための最新医療の費用であったり、二十年前を境に違法とされた『楽園』の技術であったりと様々だ。
 正直、勝手に改造しておいて負債もクソもないだろ、というのが千雨の本音だが、権力もコネもない千雨はとりあえずしぶしぶ従って返済を着実にこなしていた。
 何よりウフコックの存在が千雨を後押しした。自分が壊れかけたあの時を救ってくれたかけがいのない存在。依存している自覚もあるが、だからと言って自立するには千雨の精神は若すぎる。
 ウフコック自身も負債に囚われているらしく、千雨の当面の目標は自分とウフコックの負債の返済だった。そのためには多少のトラウマなんかへっちゃらだ! と麻帆良にやってきたのだ。
 そんなわけで千雨にとって交戦は望むべきものではなく、魔法を使っている所のひっそりとした観察を望んでいた。
 その気になればありとあらゆる電子情報を掌握し、根こそぎ調べることも出来るのだが、リミッターの手前出来るはずもなく、また手近なネットワークではほとんど魔法に関する情報が無かったのだ。
 どうしたもんだと首を傾げていた千雨の元に、麻帆良への転入手続きをした旨が書かれたメールが送られたのが二日前。制服が届いたのが昨日なのである。
 そんな千雨が事前に仕入れられた魔法の情報は少ない。
 どうやら魔法は秘匿すべきものであるらしく、人目に触れる事がとても少ない。
 魔法というと万能性を持ったものを想像しがちだが、実際は戦闘技術の延長としての進化が著しいこと。
 そしてこの麻帆良学園こそが、アジアでも有数の魔法使いの本拠地であること。
 そんな場所だから麻帆良への侵入者が後を絶たないらしく、夜になると熾烈な戦いがあるとの事だ。
 千雨自身も侵入者なわけだが、侵入者が侵入者が撃退される図を観察しようとしているのだ。

(まぁボチボチ適当に行きますかね)

 どうせ相手はわけのわからない技術を使っているのだ。多少姿を見られるのは想定しつつ、千雨は夜の闇にそっと消えた。



     ◆



「刹那、気を付けろ! 何かがおかしい!」

 龍宮真名は焦っていた。長い戦場経験を持ちながらも、こんな状況は初めてだった。
 先ほどまでは学園への侵入者とおぼしき式神の群れを、桜咲刹那と共に撃退していた。だが途中から違った。残り数匹。今日の仕事も終了か……と思った時、周囲一帯をナニかが覆ったのだ。どうやら刹那は感じないらしいが、真名はその異質さをしっかりと感じていた。魔眼持ちである真名に見えないナニかが、意思のあるようにうねっている。多くの意思有るものを魔眼で見通してきた真名だからこそ感じた違和感である。
 魔眼では見えない。だが、かわりにソレの流れは感じられる。大元となる方向には微かにだが人影が見える。森の中という事もあり、木々が邪魔をするのだが、魔眼持ちの真名には関係のない事である。

(アレか)

 真名としては牽制のつもりでライフルの引き金を引いた。同じくして式神を始末し終えた刹那は、真名が放った銃弾の方向へ全力で走り始めている。
 体中で練った気が爆発的に身体能力を増加させ、常人には消えたと錯覚させる程のスピードで走った。
 真名も撃ちつくした弾倉を取り替えつつ、遮蔽物を利用しながら高速で近づく。

(異質すぎる。学園都市の超能力者とやらでも来たのか?)

 超能力者の名前は聞くが、真名自身はその手の輩と戦ったことは無い。世界中にいる魔法使いの数が約七千万人に対し、超能力者は二百万にも満たず、またそのほとんどは戦闘に耐えられる代物ではないらしい。それを考えれば戦闘経験が無いのは仕方の無いことだ。
 この麻帆良では感じなれた魔法。それとは違う異質なナニかが周囲にある。真名の推論は未知の超能力の可能性を考えていた。

「刹那! 奴は超能力者かもしれん、注意してくれ」
「判った! 」

 刹那の判断も速かった。その言葉を聞くなり人間相手への手加減の一切をやめ、自らが込められる最大の一撃を放とうと大きく振りかぶった。
 走りながら見た人影は黒いコートを着た人間。口元まで覆うコートと頭を隠すフードで顔は見えないが、おそらく肩幅から察すれば男だろう……と見える。

「何者だ、答えろ! さもないと……斬る!」

 刹那の誰何には無言。コート男は右足を引き、迎撃の態勢をとる。

「御免!」

 心にも無いことをコート男に叫びつつ、刀に気を込める。刀身に紫電が走る。

「神鳴流奥義、雷――」

 ガァン、という一つの銃声の後、握っていたはずの刀の感触が消える。
 いつ手にしたのか、コート男は拳銃を持っている。
 刹那の視界の端には宙を舞う刀が見える、また刀の柄尻にはくぼみがいくつかあった。

(まさか、今の一瞬で)

 神鳴流に飛び道具は効かない、という言葉がある。それはまったくの間違いではなく、飛び道具を使う際の体の動きを見て、かわすなり、飛び道具を切るなりしてるからだ。
 だが、今の攻撃には起点が一切なく、刹那はコート男のモーションがさっぱりわからなかった。
 刀を失いはしても、相手とは指呼の間。無手であろうと神鳴流は扱える、と切り替え、刹那は体を低くしつつ敵の懐に入ろうとした。
 そんな刹那の目先には縦長の缶が浮いていた。

「なっ! まさか」

 その正体に気付いた刹那は急いで目をつぶり、耳を手で覆った。それは閃光弾。
 爆音とともに周囲に閃光が指した。マグネシウムの放つ光が三秒程、こうこうと森を照らした。
 刹那は至近距離での衝撃を緩和させるため、地に伏せ、頭を地面にこすりつけ、口を開けた状態で衝撃に耐えた。
 遠くから見ていた真名も対処はしたものの、魔眼を切り替えそこない、すくなからず目を焼かれた。
 先ほどのコート男が手をかざした途端、手の中に拳銃が現れ反動も何も無いかの用に連射をしたのだ。銃身には射撃後の跳ね上りが一切なかった。単発式のはずのリボルバーを、銃声が一回しか聞こえない速度で引き金を引くという、自分でも出来ない芸当を目に呆けてしまったのだ。
 二人が戦闘へ復帰できるまでにかかった時間はおよそ数秒。だがその時には周囲に人影があらず、さらに真名の魔眼が回復した時にはその痕跡すら終えなくなっていた。



     ◆



(な、な、な、何なんだよ、あれは!!)

 ドクンドクンと脈打つ鼓動が耳に響きながらも、千雨は走るのをやめなかった。できるだけ暗闇を走りながら、周囲を無造作に電子攪拌(スナーク)し、自分の痕跡をできるだけ消していく。

(魔法ってのはあんなにスゴイのか? 超人万博でも始める気かよ)



     ◆



 寮を出た千雨は、自分の痕跡を消しつつ、できるだけ慎重に学園内を探索していった。自分の持つ電子干渉を知られるわけにはいかないし、もしかしたら相手はそれを探知できるかもしれないと思い、慎重に事を進めたのだった。
 ウフコックに暗視スコープに反転(ターン)してもらい、学園都市で見せられたスニーキングのビデオの動きを自分にシュミレートさせながら進む。
 今のウフコックは感情の匂いを嗅ぎわける事はできないが、硝煙程度の匂いを追うのはたやすい。
 そんな折に真名と刹那を見つけたのだ。
 最初は鬼の形をした式神にビックリしていた。

(すげぇな。倒すと紙に戻るとか漫画みてぇだ)
〈おおよそ不可解極まりものだな〉

 スコープの倍率を上げて見える映像には、バッサバッサと切られる鬼の姿が映る。
 しかも、切っている刀の方からは、何やら光やらビームやらが出ており、そのド派手な殺陣シーンに千雨は関心していた。

(それにしても、まさかクラスメイトが魔法使いとはなぁ)

 真名と刹那の名前までは思い出せなかったが、見覚えのある容姿に驚く千雨だった。
 その後、鬼達の数が少なくなると、このままでは魔法の情報が集まらない、と業を煮やした千雨が知覚領域を限定的に伸ばした所で相手に気付かれたのだ。
 一キロも離れた場所から見ていたはずなのに、伸ばした領域をあっという間に見破られただけではなく、胴元である自分までもあっさり見つけ、追撃の体制に入ったのだ。
 その時の千雨はパニックの連続だった。顔がスッポリと隠れ、その姿が見えないだけはるかにマシだったが、コートの中では奇声を上げる千雨と、その千雨の奇声の振動を吸収しつつも落ち着かせようとするウフコックの戦いが早くもはじまっていた。
 空を飛ぶような速さで走りよってくる刹那の姿は、千雨にとって恐怖の対象にしかならず、ときおり聞こえる銃声もパニックを助長させていた。
 この数ヶ月血なまぐさい思いもしたし、自らの手も汚した千雨だが、ロジカルな性質なせいか想定外の斜め上をいく状況に容易く混乱したのだ。
 頭に直接流れるウフコックの指示に従い、万能兵器たる彼自身を電子干渉し、すばやく反転(ターン)させる。
 潤む肉眼の視界を切り捨て、広げた知覚領域の中で相手の位置を確認した。頭に響くウフコックの指示を正確にこなし続けた。
 涙を流しつつも追撃を退けられたのは奇跡に近かった。ほとんどがウフコックのお手柄だったりするのだが……。



     ◆



(もう嫌だ。帰りたい。帰って風呂入って寝たい)

 滲む涙をコートの裾で拭いつつ、千雨は走り続ける。
 千雨にとっての魔法使いのイメージは、学園都市にいた超能力者達が基準だった。
 だが、蓋を開いたらどうだろう。刀からビームは出るわ、すごい速さで走るわ、学園都市内でも一部の能力者しか感知できなかった自分の知覚領域を感知するわ。転校初日の疲労と、カルチャーショックが交じり合い、千雨の心はほぼ折れていた。
 涙を流しつつ、鼻水ダラダラの千雨にかける言葉が見つからず、ウフコックは黙って千雨のグチを効き続けるのだった。

 こうして長谷川千雨の麻帆良学園の転校初日は過ぎていった。



 つづく。




あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。
わからない人のために補足すると、千雨の魔改造クロス元は「マルドゥック・スクランブル」という作品です。
他にも「とある魔術の禁書目録」も今のところクロスしています。
後者に関しては、千雨魔改造の有名サイトにて掲載されてるんで、なんとか差別化できたら……とビクビクしています。
ご感想、お待ちしています。

追記 8/14
いくつかの誤字や、不自然なシーンを修正。
追記 10/4
物語上の矛盾点やらがあったりしたので、微修正や追記。


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