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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/03 20:32
 視界をよぎった違和感に体が反応した。たかが一歩分だが、横に避けれた。
 熱。何かが夕映の右肩を貫き、熱さが全身を襲う。地面に倒れた。

「ぐあっ」

 続いて、痛みが走った。声が意図せず漏れる。じわりと目に涙が溜まった。
 得体の知れない危機感が、夕映の体を動かした。地面を這う様にして、周囲にある藪に飛び込んだ。背後では銃声がまた一つ鳴り、石畳を砕いている。
 藪の中で一旦落ち着き、仰向けになり、肩を見た。制服にじんわりと血が滲んでいた。

「ひっ」

 血が恐い。だが、何より〝痛みが消えていた〟のだ。どこかで痛すぎると痛覚が麻痺すると聞いた事があった。だが、これは本当にそうなのだろうか。未知の状況に瞳が揺れた。
 恐怖が背筋を昇る。カタカタと歯が小刻みに音をたてた。

「そ、そうだ。携帯っ」

 携帯は左手に持ったままだった。持ったまま地面を這ったせいだろうか、液晶ディスプレイの表面にはギザギザな線が入り、砂まみれだ。だが、そのアドレス帳にある『長谷川千雨』の文字ははっきり見えた。

「電話、はやく、電話」

 恐怖で指が振るえ、通話ボタンが中々押せなかった。
 また、あの違和感。夕映は衝動のまま、藪を転がった。枝が容赦なく夕映の肌を傷つけた。
「っ」

 目を瞑り、その痛みを堪える。先ほど自分の居た所の地面が弾けた。ちぎれ飛んだ枝や葉が舞っている。

「はぁっ、はぁっ。やだ、やだデス。死、死にたくない」

 顔が土まみれになり、そこに大粒の涙溜まった。夕映の脳裏にとりとめも無い後悔がよぎった。どうして今日真っ直ぐ帰らなかったのだろう。どうしてこの道を選んでしまったのだろう。なぜ、今日は学校を休んでベッドで寝ていなかったのだろう。どうして、どうして、どうして――。
 ありえたかもしれない「もしかしたら」の世界に、夕映は羨望の眼差しをおくる。

『夕映、ちょっと出てくる。取り戻してくる、全部っ!!』

 いつかの千雨の姿を思い出した。走り去る力強い後姿が、少しだけ夕映に勇気を奮い立たせた。

「ひぐっ、で、電話しなくちゃデス」

 指は震えたままだが、なんとか通話ボタンを押せた。コール音が長い。一秒が何時間にも感じられた。心臓がバクバクと鳴り、鼓膜を叩いている。
 視界に、また違和感。夕映は、出来るだけ体を動かした。
 銃弾が夕映の足を掠め、肉をちぎった。

「あうっ」

 痛みを再び夕映を襲った。じゅくじゅくとした熱が下半身を覆うものの、また痛みは引いていく。自分の体の異変に恐怖しつつも、電話のスピーカーを押し付けるように耳に当て続ける。
 周囲に爆音が響いた気がする。だが、夕映にはそれが現実なのか、夢なのかすら認識できなかった。
 ふいにコール音が途切れた。

『夕映か! さっきの爆発、大丈夫だったか!』
「ち、千雨さぁぁぁん」

 救いの声の様な気がした。夕映の防波堤は崩れ、涙が溢れ出た。







 第15話「銃撃」







 麻帆良に轟く爆発音に驚きながらも、千雨は自分の携帯が鳴っている事に気付いた。
 ふいに遠くでまた銃声が鳴った。だが、さっきとは方向が違う。

(なんだ、この違和感)

 ディスプレイには夕映の名があった。みんなの安否が気になり、すぐに電話に出る。

「夕映か! さっきの爆発、大丈夫だったか!」
『ち、千雨さぁぁぁん』

 泣きじゃくる夕映の声だ。

「どうしたんだ、夕映!」

 千雨の只ならぬ声に、アキラもドーラ達も千雨の会話に耳を澄ました。

『た、助けてください。さっきから血が、銃声が――』

 ターン、とスピーカーからと遠くから、二つの銃声が耳に響いた。

『きゃうっ!』
「夕映っ! まさか、お前撃たれたのか!」

 銃声と夕映の悲鳴が重なる。

「夕映っ! 夕映っ!」
『……た、助けてください』
「あぁ、まかせろ。すぐ行く! 電話はそのままにしとけ!」

 夕映が死に掛けている。その事実が、千雨を焦らせた。

「ちーちゃん、夕映は――」
「やばい。夕映が撃たれた。助けに行く!」

 千雨は走り出した。

「どけっ、邪魔だ!」

 周囲を囲っていた男達を跳ね除け、千雨は闇雲に走った。

「落ち着け、千雨。どこへ向かっている」

 いつの間にか肩に金色のネズミが乗っていた。

「銃声の方向に決まってるだろ、先生!」
「落ち着けと言っているんだ。先ほどから銃声の方向はまちまちだ」
「だけど、スピーカーから銃声が――」

 ターン、とまた一つ銃声が鳴った。スピーカーからも銃声が聞こえる。

「夕映、大丈夫か」
『うぅ、ゲホゲホ。千雨さん……』
「今、今行くからな」

 千雨は、銃声の鳴った方向へ再び走りだす。

「だから、落ち着けと言っているんだ。今ので気付かなかったか。『先程と銃声の方向が違う』事を、それなのに『電話越しに同じ音が聞こえてる』のだ」
「あっ――」

 千雨の足が止まった。銃声の方向がまちまち、それの示すところは――。

「夕映は『移動させられている』のか、もしくは『何か異能の力』を受けているのか」
「どちらとも言えんだろうが、おそらく後者だろう。闇雲に探しても無駄な時間になる」
「くそっ! どうすりゃ――」

 千雨は地団駄を踏んだ。

「冷静になれ、なんのためにその力がある」
「あっ、携帯電話。電子干渉(スナーク)かっ!」

 何故気付かなかったんだ、と頭を掻き毟る千雨。携帯電話を電子干渉(スナーク)し、夕映の携帯までの経路を読んだ。

「あっちの方向か――動いてはいないみたいだ。クソ、少し遠いっ。間に合うかっ」

 夕映のいる方向を定め、千雨は走り出すも、夕映のいる場所はさっきのアーケード街の更に向かい側だった。

(大丈夫だよ、ちーちゃん)

 アキラの声が脳裏に響いた。

「あーちゃん」

 背後から何かがやって来る。虎やライオンに近いシルエットの獣に乗るアキラだ。風の様な速さで、地面を滑るように走っている。
 それはアキラのスタンド『フォクシー・レディ』だった。一撃離脱を旨としたスタンド。普段は女性のような姿を持つ狐頭のスタンドだが、このような獣の姿になり、アキラを背に乗せ走る事も出来るのだ。
 頭は相変わらず狐のまま、尻尾を含めない体だけでニメートル以上の長さを持った巨体である。さらに尻尾も含めれば、かなりの大きさだ。

「乗って」

 アキラはスタンドのスピードを緩めないまま、千雨に手をかざした。千雨もその意図を汲み、アキラの手をしっかり握り、そのままアキラの後ろにまたがった。

「ちーちゃん、どっち?」
「あっちだ」

 ウィルスを通し、アキラの脳裏に直接方向を示した。アキラは頷き、『フォクシー・レディ』を疾走させる。重力が消えたような軽やかな動きで、木の枝に足をかけ、壁を駆け上がり、屋根を疾駆する。
 あまりの激しい動きに、千雨はアキラの腰にまわした腕を強くした。
 ごうごうと風を切る音が耳をかすめる。
 気付いた時、『フォクシー・レディ』は空を飛んでいた。

「うわぁぁぁぁぁ!」
「しっかり捕まってて」

 千雨の悲鳴も何のその、アキラは真っ直ぐ前を見据えている。
 建物を二つ程飛び越え、『フォクシー・レディ』は建物の屋根にほとんど音も無く着地し、また飛ぶ。
 二人は夕映の元へ、疾風の速度で急いだ。



     ◆



 ルイ達、ドーラ一家の男衆はポカンと空を見上げた。
 千雨が飛び出したのはまだいいとしても、もう一人の少女が異常だった。
 何事かを叫んだと思ったら、何か透明なものにまたがる様にして、空を飛ぶような速さで千雨を追いかけ始めたのだ。
 遠くからそれを見つめてたら、仕舞いには本当に空を飛んでいってしまった。

「おいおい、ありゃ魔法か。にしてもなんかスゲェな」
「兄ちゃん、兄ちゃん、でも魔力の反応は無いみたいだよ」
「げっ、本当かよ。ポンコツだから壊れてるんじゃねぇか」

 チョビひげ男のルイの言葉に、末っ子のアンリが答えた。アンリが持つのは鉄クズかと思ってしまうような歪な機械。直方体の本体にメーターが付き、二本の棒が飛び出している。どうやら魔力を検知する機械らしく、アンリはアキラの居たあたりを丁寧に検査している。

「フンッ。あんたらは知らなかったね。あれはおそらく『スタンド』さ。あたしも久しぶりに見たよ」
「あれがスタンドかよ~。しっかり見てみたかったなぁ~」

 ドーラの言葉に、子供っぽい声で長男のシャルルが続いた。

「そんな事より、お前ら! さっさとズラかるよ!」
「え、ママ。せっかくここまで来たのに手ぶらかよ。赤字になるぜ~」

 次男のルイは残念そうに言った。

「いいからさっさと車を呼びな! 手が回らないうちに麻帆良からはトンズラだ。どうせこの騒ぎで追っ手は向けられんさ。この街さえ出ちまえばこっちのもんだ」

 そう言い、周囲を見渡す。黙々と黒煙が各所に上がり、ときおり屋根を走り飛ぶ人間が見えた。

「魔法使いどもは、焦ったあまり認識阻害も緩くなってるようだね」

 そう言いつつ、ドーラの目は怒りに満ちていた。手近な街路樹に向かい、強烈な足蹴をかました。
 ズン、と重い音が周囲に響く。さすがに折れはしないものの、その音の大きさが、そのままドーラの怒りの大きさを物語っていた。

「このあたしを囮にしてくれるとはね。舐め腐ってやがる」
「マ、ママ。囮って何の事なんだ」
「お前らは相変わらず、自分で考えるって事を知らないのかい! オンボロエンジン以下の脳みそだね!」

 その言葉に、周囲の男達は肩をすくめる。

「ふん、まぁいい。足が来るまで言ってやるよ。簡単な話さ、あたしらが麻帆良をかき回すのは囮。この爆発騒ぎと合わせて、いい当て馬になったってわけさ。おそらく仕組んだ奴にはド本命がいて、今頃拉致なり殺すなりしてるってわけさ」
「じゃ、じゃあ『破片』も嘘だっていうのか?」
「それに関しては本当だろうね。あたしは情報を三ルートから仕入れた。『破片』に関する情報は一番最初に出回った情報だ。それに上書きするように流したんだよ。それにしても、ポルコのクソジジイめ、ガセ掴まされやがって!」

 だが、と冷静になってドーラは考える。情報屋のポルコ爺さんは、今でこそしょぼくれたジジイだが、昔は軍で名をはせた戦闘機乗りだったらしい。そのツテが今でもあり、政府の高官やら、軍のお偉らさん方とのパイプを持っているのだ。

(そのジジイがガセを掴まされる。どこが仕組んだ――)

 ドーラの思案も、アンリの一言で遮られた。

「で、でもさママ。何でそんな事わかるんだよ。証拠とか無いじゃない」
「あぁ、このバカ息子。そんなもん決まってるよ、カンだよカン。あたしのカンが外れた事があったかい」
「な、ないなぁ」

 息子達はドーラの『カン発言』の数々を思い出したが、そのいずれもが真実の何かしらに触れていた。

「それに、出来すぎてるじゃないか。あたし達が襲おうとした相手が、あの《学園都市》出身だって、笑わせる!」

 そう言うドーラの後ろに車が二台、けたたましいブレーキ音を響かせながら止まった。ピックアップトラックが二台。片方の荷台はシーツで隠されていた。
 ドーラは運転手を蹴飛ばしながら、ハンドルを握った。

「さっさと乗りな野郎ども! 船まで撤収だ!」

 男達はワラワラと乗り込み、たちまち車は満杯だ。
 二台の車は、麻帆良の中を走り始めた。



     ◆



 男が麻帆良に入るのは容易い事だった。視力がほとんど無く、盲目に近い。
 麻帆良で新開発した眼病薬の臨床試験を受けたい、と希望したらたやすく潜入できた。あまつさえ迎えの車までやってきてくれる始末だ。

「アリガトウゴザイマス」

 片言の日本語を話せば、相手も容易く自分を信じた。
 魔力を持たない男は、麻帆良を覆う結界を容易く通過した。
 後は待つだけであった。
 病室の窓から、外を眺めた。瞳は光をほとんど感知しない。だが、男には〝見えている〟。
 毎日、毎日、決行日が来るまで待った。待つ間、依頼の事を考えていた。
 依頼主はイタリアのある企業。だが、その資本のほとんどがペーパーカンパニーを跨ぎ、国から出資されている。いわば公的機関だった。
 どうやら以前解体した組織の不始末をつける仕事らしい。解体される前、その組織では体が不自由な子供に対しての、義手や義足の提供といったことをやっていたらしい。それが表向きだ。実際は子供に対しての人体改造と、その子供らを使った要人の暗殺が目的だという事だ。
 だが、内部からのリークと、外部組織からの牽制。世論の攻撃などにより壊滅した。実際、政府は外部への露見を恐れ、秘密裏に全てを〝処分〟したそうだ。そして十年達、その処分しそこなった残りカスが見つかったというわけだ。
 ある人権団体の女性の代表者はこう言ったそうだ。『このような非人道的な行いを許す事は出来ない!』。笑わせられた。どこの世に人道などというものがあるのだろう。それに確かな感触はあるのか。
 少なくとも男は知らない。植民地の骸の山に、ふかふかのベッドを置いて寝ていた欧州人が笑わせる。
 男は元軍人だった。以前はアメリカ陸軍に所属し、狙撃手としての訓練を受けていた。中東の治安維持に派遣された事もある。そこで浴びた灼熱と硝煙と鎮痛剤の香りは、少なくとも人道的では無く、演説ぶった人権庇護者の言葉より感触があった。

「東京に住む、友人さんから、また花が届いてますよ」

 看護婦がドアを開け、病室に入ってきた。

「いつも、アリガトございマース」
「いえいえ、それにしてもいいご友人ですね。定期的に花を贈ってきてくれるなんて」
「ワタシ、目がミエナイから、カオリ楽しみマス。花スキです」
「そうなんですかー」

 その後、看護婦はニ三言葉を交わし病室を出た。男のにこやかな表情が崩れ、花のアレンジの中に手を突っ込む。
 手の中には、土に汚れた物体が握られていた。鈍色に光るそれは、銃の部品だった。
 部品はあと一つ。男は部品をそっと部屋の片隅に仕舞い込む。
 そして、窓からの風を心地よく浴びながら、男はぐっすりと寝た。
 男の名はジョンガリ・A。殺しを生業とする狙撃手である。



     ◆



 夕方、屋上へ通ずる階段、その途中にある小さな窓からジョンガリはライフルを構えていた。
 彼はほぼ盲目だった。瞳で感じられるのはせいぜい昼か夜か、といった程度である。
 そんな彼が狙撃を出来るはずが無い。常であれば。

「行け、『マンハッタン・トランスファー』」

 ふよふよと、傘のような物体が空中に浮遊していた。それは『スタンド』。狙撃手ジョンガリ・Aの〝目〟となる『スタンド』だった。
 スタンドを飛ばし、病院下の通りまで飛ばした。距離はおよそ三百メートル。かなりの長距離だ。
 予定通りであれば、もうすぐ目標が来るはずだった。
 目標は幼い少女であるらしい。だが、その体には当時の最先端の技術が使われているらしく、単なる銃撃程度では撃ちもらす確率が高いと聞いていた。
 そこで、ジョンガリの出番となった。彼のスタンド『マンハッタン・トランスファー』は、スタンド本体の周囲の気流を読み、その情報をジョンガリに渡す事ができる。また、ジョンガリの弾丸を中継し、狙撃衛星としても動けるのだ。
 これにより、ジョンガリ自信が盲目であっても、一流の狙撃手としての仕事が出来た。さらに彼の能力はそれだけでない。『ジャミング能力』というものもあるのだ。
 周囲の気流を読みつつ、相手に弾道の軌跡や、銃撃の音などをかき混ぜ、認識しづらく出来る。
 常人を相手にするのなら無用の能力だが、これが魔法使いやそれに類する者となると話が違ってくる。障壁破壊の銃弾を使っても、容易く貫通できない硬さを持つ相手もいる。また魔法により探知され、こちらの場所がばれるのも厄介だった。そんな相手に対し、ジャミング能力は効果抜群である。なにせ、相手に一方的に攻撃し続ける事ができるのだ。狙撃手の冥利としては、いささか不満だが、相手が相手なのでジョンガリは割り切っていた。
 銃口を通りに向け、自らのスタンド『マンハッタン・トランスファー』にピタリと照準を合わせた。自らが正確に『マンハッタン・トランスファー』に銃を撃てば、後はジョンガリ自身のスタンド操作に狙撃はかかっている。
 銃口を構え、十分ほど経った時だろうか。少女が通りに現れた。まだ爆弾の爆破までもう少し。残り時間を考えても、少女が視界から消える事は無いだろう。だが――。

(マズイな)

 少女が携帯電話を取り出し、弄り出した。どうやらメールらしく、ホッっとする。ジョンガリは少女の指の動きまで、正確に気流で読んでいた。

(また、携帯か)

 今度は通話をするようだった。アドレス帳をいじっている。後は通話ボタンを押すだけ。だが、今されると、爆破時間と重なってしまう。
 麻帆良内の数箇所に仕掛けた爆弾を爆破させ、その瞬間銃撃を行い、銃声を消す。そして、麻帆良内がパニックになっている間に、銃が回収されるという手はずになっている。

(仕方あるまい)

 多少、計画が崩れるが、この時を逃すべきでは無かった。
 少女が通話ボタンを押す前に、ジョンガリは引き金を引く。
 銃声とともに、銃床から肩に衝撃が伝わる。その衝撃をしっかりと骨が支えたのを、ジョンガリは感じた。

(貰った)

 必中の間合い。そのはずが、少女はギリギリで体を捻り、頭部を狙った銃弾は肩へと突き刺さった。

(避けた、だと)

 完璧なタイミングであった。ジョンガリは改めて依頼の内容を思い出す。

(銃撃を避ける。なるほどな)

 確かに自分を雇うはずだ。これは他の狙撃手では不可能だろう。ジョンガリは特注のボルトアクション式の銃のハンドルを引き、排莢をした。弾丸を薬室に送りなおし、もう一度構えた。
 少女は藪の中に隠れてるようだった。だが、ジョンガリからすれば先ほどと変わらない。『マンハッタン・トランスファー』に向かい一撃を放ち、跳ね返った銃弾は少女へと向かう。
 ところが、また寸前で少女は避ける。手には携帯電話が握られていた。

(まずい)

 薬莢を再装填し、急いで引き金を引いた。またもや避けられた。しかし、足をかすったはずだ。

(クッ、調子が狂う)

 ジョンガリはギリッと歯を食いしばった。その瞬間、周囲に爆音が轟く。
 爆弾の事を意識外にしてしまっていたジョンガリは、数秒呆けてしまった。だが、その数秒は少女が電話をする決定的なチャンスだった。電話をする姿が、スタンドを通してジョンガリに伝わった。

(しまった! 俺とした事が)

 どうやら少女はどこかへ救援を求めたらしい。相手が何者かは分からない。だが、時間が無い事は明白だ。
 焦るように引き金を引く。その一撃、一撃がかするものの、決定打にはなりえなかった。相手は血みどろだ。死は近いはず、なのに。
 少女の前に、影が舞い降りたのはそんな時だった。



 つづく。













(2012/03/03 あとがき削除)




●現時点(第15話)でのまとめ
・長谷川千雨
両親を殺される事件に合い、「楽園」と呼ばれるある科学研究所の技術で治療を受ける。
その際、ウフコックやドクターと出会う。
さらに楽園の技術により、電子への干渉や、周囲への超感覚を持つ。
対外的には「超能力者」のフリをしている。
最近はアキラとラブラブ、キャッキャウフフな状況。
魔改造済み。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「マルドゥック・スクランブル」。


・ウフコック
多次元に貯蔵した大量の素材を使い、使い手の思考に合わせて様々なものへ変身できるネズミ。
楽園で産み出された万能兵器である。
キャラが増えたため、出番と台詞が少なくなってきている。
元ネタは「マルドゥック・スクランブル」。


・ドクター・イースター
千雨を治療した科学者。事件屋も営んでいる。
元々「楽園」出身であり、現在は学園都市に滞在している。
現在両親のいない千雨の保護者。
二章では多少活躍予定。
元ネタは「マルドゥック・スクランブル」。


・綾瀬夕映
千雨へホの字の二章ヒロイン。
何やら人体改造されているらしい。
記憶をどんどん失ってる上に、薬中フラグ。
魔改造中。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「ガンスリンガー・ガール」。


・ジョゼッフォ・クローチェ
故人。夕映のフラテッロ。
戸籍上、夕映の『祖父』だったりする。
色々フラグを残して死んでしまった人。
ちなみに、麻帆良内には仲の良かった友人がいる。
元ネタは「ガンスリンガー・ガール」。


・大河内アキラ
千雨のルームメイトにして嫁。
だらしの無い千雨の生活全般を一手に担う。
スタンド使い。千雨に感染させた『スタンド・ウィルス』を通して意思疎通可能。
魔改造済み。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「ジョジョの奇妙な冒険」。


・ピノッキオ
原作より十年歳をとったが、ビジュアル的にはワイルドに。
目の下には隈があり、髪はボサボサ。
気も魔法も使えないが、殺しの技術は一級品。
二章の最強キャラの一人である。
現在目的は不明。
魔改造済み。
元ネタは「ガンスリンガー・ガール」。


・ドーラ、ドーラ一家
荒事有りの運び屋を営む集団みたいなの。
現代を舞台に空賊というのも変な話なので、船舶持ちの海賊モドキという設定。
タイガーモス号はオンボロ船という設定改変が成されている。
あと何気にドーラがデジタルに強いという設定もある。
目的は『破片』の奪取で、金儲け。
魔改造済み。
元ネタは「天空の城ラピュタ」。


・ジョンガリ・A
元アメリカ軍人で、イタリア政府から依頼を受けた狙撃手。
原作どおりだとさすがに分が悪いので、スタンドを多少改造。
ほぼ盲目。病人として麻帆良に潜入した。
他にもジョンガリのサポートを旨とした人物が数人、潜り込んでいる。
目的は夕映の抹殺。
魔改造済み。
元ネタは「ジョジョの奇妙な冒険」。


・トリエラ
十年前、社会福祉公社解体の際、どうにか処理を免れる。
原作より、少しだけ成長している。
なぜか、公社の庇護下に無いの、体を維持している。
現在の所在は不明。
目的は夕映の保護。
魔改造済み。
元ネタは「ガンスリンガー・ガール」。


・烈海王
中国拳法の達人にしてツンデレ。
本来は三章で活躍してもらうつもりでしたが、色々あって早めに登場。
以前、学園都市に潜入し、暴れた事がある。
その時に、幾つかやばいフラグを立ててる人。
二章では今後、出番ほぼ無し予定。
魔改造済み。
元ネタは「バキ」シリーズ。


・破片
オリジナル設定。
『楽園』の技術の断片であり、国連法上のグレーゾーンにあたる技術。
そのほとんどが、今現在の技術の数十年先をいっており、一攫千金の宝箱になっている。


・楽園
二十年前に大暴れしてしまった、スーパー科学研究所。
余りにも暴れすぎたので、その技術のほとんどを国連法で禁止とされた。
一部の呼びかけにより、ある程度の特例が認められてる。
現在は施設ごと、衛星軌道上に打ち上げられ、地球の周囲を漂っている。
魔改造済み。
元ネタは「マルドゥック・スクランブル」。


・社会福祉公社
イタリアに十年前まで存在していた公益法人。
障害者に対する福祉が目的の組織だが、その実は少女達への肉体改造と洗脳により、要人暗殺などを行わせていた。
肉体改造の際に使われていた技術は、『楽園』の持つ技術を流用していた。
世論に後押しされ、解体される。
元ネタは「ガンスリンガー・ガール」。


・麻帆良学園
街一つが魔法使いの土地になっている。
結界に覆われているものの、それは対魔力を考慮にいれた措置であり、魔力を持たない人間にはザルに近い。
そのため、問題のある人物が多々潜伏している。
またもや爆破された不幸な街。
元ネタは「魔法先生ネギま!」。


・魔法使いさん
この作品の中では、異常に強いものの、活躍の場が無い人たち。
みんなそれなりにえらいです。
元ネタは「魔法先生ネギま!」。


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