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赤松健SS投稿掲示板


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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第10話「第一章エピローグ」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/03 20:29
 グラグラと肩を揺らされ、千雨の意識は浮上し始めた。それとて覚醒には至らず、まどろみは未だ張り付いていた。
 千雨の夜は遅い。深夜アニメにネットにゲームとやる事はたくさんあった。電子干渉(スナーク)や並列思考など、無粋な事は行わずに巡回サイトを回り、時間が来たら深夜アニメをチェック。ついで、寝る前にゲームをする。
 両親が健在の時には、コスプレ写真や自作ポエムなども作っていた。あと数ヶ月無事に過ごしていたら、ネットアイドルとしてデビューし称賛を浴びていたかもしれない、と千雨は思ってたりする。だが、今のような状況になり、安易に自分の情報を流すことは、強いては周りも危険に晒す事だと考え、自制していた。それ故、憂さを晴らすように千雨の深夜のネット徘徊は続いている。「こいつより、わたしのコスプレの方が良い……」などと愚痴るのだ。
 そんな千雨が日曜の朝に起きれるはずが無い。

「ちーちゃん、朝ご飯出来てるよ」

 アキラのそんな呼びかけに「うぁ」とか「おぉ」とか「うぅ」などと、返事なのかうめき声なのか分からない声を連発している。
 カーテンが開かれ、朝日が部屋を照らした……といってももう午前十時だが。アキラは窓を開け、換気をする。初夏の風が気持ちよかった。
 天気は快晴。青い空が、緑溢れる麻帆良を照らしている。ここからでも、そこらかしこから生徒達の賑わいが聞こえた。
 エプロン姿のアキラはパタパタと千雨に近づき、その手を取る。

「ほら、起きて起きて」
「う……うーん」

 ベッドに上半身だけ起こし、目は糸を引いている千雨。肩に黄金の毛色をしたネズミが乗っかった。サスペンダー付きのズボンを履き、そのズボンの穴からは長い尻尾が揺れている。そのネズミの様相は、どこかコミカルで可愛かった。

「すまないな、アキラ」
「いえ、気にしないでください、ウフコックさん」

 ネズミ――ウフコックの言葉に驚きもせずアキラは答える。
 千雨はボケた頭の中、無意識にメガネを探した。いつもの伊達メガネだ。枕元をパタパタと探し、手先の感触でそれを掴み、メガネをかけた。先日メガネが壊れた後、ウフコックに作って貰った新品である。
 だが、その伊達メガネも、以前より一回り小さくなっていた。
 あの長い夜から十日余り経った、日曜の朝の風景である。







 第10話「第一章エピローグ」







 アキラの作った朝食は洋食中心だった。トーストにサラダ、スクランブルエッグといった定番メニューだ。
 千雨の食事はかなりズボラで、放っておけば毎食カロリーブロックやらサプリメントで済ませてしまう。ウフコックもこの手の事は無頓着で、栄養学やらなんやらの観点でしか指摘しない。そんな千雨だが、更に輪をかけて酷いのはドクターであった。ズボラな千雨ですら心配する食生活で、ハラハラしながら千雨自身が食事の用意をしてたのが、ここ数ヶ月学園都市に住んでいた時の生活だったりする。
 そんな食が細い千雨には、朝の和食などは重いらしく、ご飯を出すと箸が進まないのだ。そこに配慮して、アキラは軽めの朝食を毎回作っていた。

「ウフコックさんはこれくらいでいいですか?」
「あぁ、すまないな、アキラ」

 朝食のテーブルの上に、小さなプレートが置いてある。人形か何かが使うような皿に、トーストの小さな欠片やら、スクランブルエッグの一さじが置かれていた。その前でウフコックは器用にエプロンを首に回し、食事の準備をしている。
 いただきます、とアキラとウフコックの声が重なる。千雨のうめく様な声が遅れて続く。
 もぐもぐ、かりかり、と租借する音が部屋に響く。食べながらやっと千雨の頭は覚醒してきたらしく、目が開き始める。
 向かい側ではアキラがもりもりと朝食を食べていた。体育会系のアキラは千雨と違いしっかり食べる。量も千雨の二倍近かった。千雨の量が少ないと言うのもあるが。
 二人と一匹で朝食食べつつ、ときおり談笑をする。アキラの笑顔も以前のように、いや以前よりも良い笑顔をするようになっていた。

(もう十日か……)

 千雨はこの十日間を思い出す。



     ◆



 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』との死闘の後、千雨とアキラは意識を失い、それを承太郎により保護された。
 太平洋上に浮かぶスピードワゴン財団の巨大クルーザーに運ばれ、治療が施された。アキラは軽度の心身衰弱で済んだが、千雨は酷いものである。右肩の脱臼に始まり、指の骨折、腕のひび、体中に裂傷が出来ていた。額からまぶたの上部にかけての傷があり、あと数センチずれていたら失明である。外傷以外にも、ウィルスのせいで栄養失調の状態になっていたのだ。さらに体力をごっそりと持っていかれた上で、雨に打たれ続け、免疫力も低下していた。
 だが、承太郎は千雨が『楽園』の技術により改造されている事を、ウフコックの存在からおおよそ察していた。千雨へ安易に治療して良いのか、ウフコックに尋ねつつ千雨への治療は行われた。ウフコックも、本来であれば学園都市に千雨を連れて行くなり、ドクターをこちらに連れて来るなりしたかったが、現状ではどちらも難しく、歯噛みしながら千雨の治療を頼んだ。
 スピードワゴン財団が誇る医療チームは、最先端の医療技術だけでなく、秘匿義務をしっかり守るプロ意識もあるとの事。ウフコックとしては承太郎の言葉を信じるしか無かった。
 その間、承太郎は麻帆良学園側との連絡も行う。承太郎は千雨とアキラの保護を学園長に伝え、自分が知る限りの事件の顛末も伝えた。学園長の近右衛門もおおよその事を察し、二人の保護に感謝しつつ、麻帆良の現状を報告してくれた。『スタンド・ウィルス』の被害者が皆助かったことや、真犯人らしき人物を確保した事などだ。
 半日も経った頃アキラは目を覚ました。点滴をされたまま、アキラは承太郎に事の詳細を聞く。自らの事、スタンドの事、事件の事、麻帆良や魔法の事。そして千雨の容態も。
 千雨の事を聞き、アキラは点滴台を持ちつつ、よたよたとおぼつかない足で千雨の元へ向かった。止めても無駄なのが承太郎も判り、部屋の場所だけを言い見送った。
 アキラが二つ隣の千雨の部屋にたどり着き、見たものは驚愕だった。自分は点滴に病人服であり、幾つかの擦り傷に包帯が巻かれる程度だ。だが、千雨は違う。片目を包帯が覆い、他にも見える限りの場所に包帯が巻かれていた。同じ服を着ているはずなのに、肌が見える場所がほとんど無いのだ。
 そんな千雨の姿に、アキラは歯を食いしばる。ベッド横の椅子に座り、千雨をじっと見つめた。ふと、千雨の首元が動いたのに気付く。そこからヒョコリと頭を出したのは、金毛のネズミだった。

「ね、ネズミ!?」
「この姿ではお初にお目にかかるな、大河内嬢。私はウフコック、千雨のパートナーをしている」

 アキラは突如喋ったネズミに驚きつつ、自己紹介を済ませ、ウフコックにもある程度の事情を聞いた。

「あの、ここでちーちゃん……千雨ちゃんが目覚めるまで待ってていいですか」

 ウフコックとしてはアキラの病状も考え拒否したところだが、本人の意思の固さは目に見えている。それならば、と妥協案を持ち出した。千雨のベッドの横に簡易ベッドを置き、そこで待つという事にしたのである。
 千雨が目を覚ましたのは、更に丸一日経ってからだ。目覚めた千雨が見たのは、泣きながら謝り続けるアキラの姿だった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 そう呟き続けるアキラを、千雨は唯一動く左手で自分の元へ引き寄せる。千雨の胸にアキラの体が圧し掛かる。ズキリと痛みが走るのを我慢し、嗚咽を堪えるアキラの背中をポンポンと叩いた。

「気にすんな、って言っても無理かもしれないが、わたしには遠慮する必要ねーよ。とりあえずお互い無事で何よりだろ、な」

 そう言いながらニカッと笑いかける千雨、だが反面アキラの瞳には一層涙が溜まり、ワンワン泣き出してしまう。千雨の病人服と包帯に、びっちょりとアキラの涙が染み込んだ。

(あれー?)

 会心の慰めをしたはずが、逆に号泣させた事に驚いたが、アキラの呟きは変わっている。

「ありがとう、ありがとう、ありがとうちーちゃん……」

 謝罪では無く、感謝へと。それに安心し、泣き続けるアキラを片手でギュッと抱きしめた。強く、強く、アキラが泣き止むまで。



     ◆



 一時間ほど経ち、アキラが落ち着いたのを見計らい、自分達を見守っていたウフコックに現状を聞いた。
 あの事件後、『スタンド・ウィルス』感染者が無事助かった事には安心したものの、学園内の施設破壊や、麻帆良を守る結界やシステムの復旧を聞き、顔が青ざめた。
 元はといえば音石明が原因だが、麻帆良内を壊しまくったのは間違いなく千雨の武器や能力の数々だった。ちなみに千雨は知らない事だが、けっこう承太郎も壊していたりする。
 そこへタイミング良く入ってきた承太郎は、その事について千雨達に話し始めた。

「大河内君にはスピードワゴン財団の保護下に入ってもらおうと思う」

 その言葉の真意が判らない千雨達だが、その後の承太郎の言葉でなんとか理解する。つまり麻帆良での今後の生活を考え、アキラに後ろ盾を作ってやろうというのだ。さらに、感染者達に対する見舞金や援助金も出してくれるという。

「いいんですか?」

 アキラの言葉に、それがスピードワゴン財団の理念だ、と言いきった。莫大な資金を持つスピードワゴン財団だが、元々は承太郎の母方の血統『ジョースター家』を援助するために作られた財団である。表向きは自然保護団体の名前を語っているが、その『自然』の中にはスタンド使いも入っているとの事だ。
 無条件、というのも信用しにくいだろうという事で、なにかの非常時には手を貸してもらうという約束を取り決めた。承太郎とて、その約束をわざわざ使うつもりは無く、アキラの罪悪感がまぎれる様にとの配慮だった。
 承太郎はアキラに幾つかの物品を渡す。それは財団の証明書だたったり、連絡先であったりする。
 そして、更に一日を置いて千雨達は麻帆良に戻る事となった。本来、アキラと承太郎だけだったのだが、無理を言い千雨も付いていく事になったのだ。
 千雨達と学園側の会談は、麻帆良内で一番セキュリティが高い学園長室で行われる事となった。
 土曜の午前、広いはずの学園長室内に主要な関係者が集まり、狭苦しくなっていた。
 承太郎を筆頭に、その後ろには千雨とアキラが。学園側も近右衛門を筆頭に、魔法先生が揃っていた。
 魔法先生達の目は承太郎に注がれている。幾ら不意を打たれたからとは言え、たった一人で自分達を無力化する人間に好感は持てなかった。
 そんな中、会談は淡々と進む。承太郎が千雨達から得た情報なども使い事件の実情を語る。勿論千雨の能力の詳細は語らず、相性がうまく合い敵のスタンド能力が暴走した、という事で通した。その際、音石明の身柄の引渡しも学園側に申し出た。

「おたくらもスタンド使いの異質さを知ってるだろう、身をもってな」

 その言葉に口を引きつらせる者が数名、対して近右衛門は涼しいものだった。善処しよう、の一言で片付けてしまう。
 学園側も音石明の対応には困っているらしい。『電気を操る』というトンデモな能力のため、迂闊な場所では拘束すらままならず、今は生命維持を魔法で行いつつ、氷漬けにしていた。
 お互いが得た情報を照らし出すうちに、事件の実情が浮き彫りになっていく。音石明によるスタンド使いへの無差別の覚醒、その他者の能力の悪用。加害者だと思われた生徒が、実は被害者だという一面。つい一週間ほどまで一般人だったアキラに同情の念が集まった。
 会談が一段落した頃、アキラが学園側の教師陣の前に一歩進む。

「本当に、申し訳ありませんでした」

 アキラは深く、深く頭を下げた。その姿に教師陣は息を飲んだ。被害者であるはずの彼女を、あまつさえ自分達は殺す決意をしたのだ。『立派な魔法使い』という理想を掲げ、その英雄譚の数々に憧れてきた面子である。大人になり、その理想が遥か高く、難しい事は知っている。だが、知っている事と理解できる事は違う。
 頭を下げるアキラを前に、彼らの心を罪悪感が覆った。
 そのアキラの横に、松葉杖を使いながら千雨が並ぶ。

「すいませんでした」

 千雨も頭を下げた。言葉は素っ気無いが、誠心誠意伝わるように、不自由な体を必死に曲げた。
 彼らにとって千雨は眩しい存在だ。
 聞けば、半年前に事故に遭い両親を失い、その後学園都市で治療を受けた際、超能力に目覚めたとの事。目覚めたと言っても大した大きさでは無く、レベル3という能力の五段階評価の三番目程度らしく、自分達魔法使いとは比較にならない程度の強さとの事である。
 魔法という強大な力を持つ自分達が、生徒を救う事を諦め『殺す』という選択肢をしたにも関わらず、彼女はたった一人それに反抗し、そして解決してしまったのである。彼女もまた半年前までは一般人だったのに、だ。
 見ればボロボロの体だった。体中に包帯をし、片目まで隠れている。自分達は魔法による防御手段があるが、彼女の能力にはそういったものが無いらしく、あの暴虐の夜を生身で駆け抜けたらしい。
 声が詰まる。自分達より身も心も幼い、守るべき生徒達に、逆に救われた。そしてその彼女達に、今自分達は頭を下げさせてるのだ。悔しさと恥ずかしさ、情けなさが入り混じる。

「頭をあげてくれないか」

 誰かがそう言った。アキラと千雨は驚いたように顔をあげた。罵声が飛んでくるのでは、と彼女達は身構えていたのだ。

「私達こそすまなかった」

 教師陣は一斉に頭を下げる。その行動に二人は慌てた。
 言葉で伝えたい、だが彼らの内にあるものは様々で、簡単に表せるもので無い。また、その言葉が彼女達の重みになる事は避けたかった。だから、ただただ頭を下げ、謝罪を続けた。

「君達を危険に晒し、さらに命を奪おうとした事、本当にすまなかった」

 アキラも自らが事件当日、標的になっていた事は知っていた。だが、それとて彼らにとって苦渋の決断だった事を、彼らの言葉で理解した。
 学園長室を無言が支配する。
 完全な和解に至らずとも、それは確かに少しづつ動いていた。日常の兆しが見え始める。



     ◆



「高畑先生」

 学園長室での会談が解散された後、千雨達は高畑を呼び止めた。胸に穴が開いた、と冗談みたいな話を聞いたのだが、高畑はピンピンしており、いつも通りの背広姿だ。

「大河内君、長谷川君……」

 助けられずにすまなかった、そしてありがとう、と高畑の言葉が続く。
 アキラの脳裏に、血の海に倒れる高畑の姿が浮かび、涙が溢れた。千雨は横でアキラの手をしっかり握った。
 高畑と一通り話し、彼の案内で『ウィルス』被害者の元へ案内して貰った。だが、そのほとんどの生徒には直接の謝罪が出来ない。魔法の秘匿を守るためである。感染した魔法使いは数人であり、それらを回るのに一時間も掛からなかった。
 最後に行くべき場所のメモは高畑に貰っている。高畑は仕事のために戻っており、一緒にはいない。

「その前に、ちょっと行くところがあるんだがいいか?」

 千雨の言葉に頷きつつ、その千雨の案内である場所に向かう。
 タクシーを一台捕まえ、図書館島までを指定した。千雨達が着いたのは図書館島の裏手、小さな石造りの通路だった。

「こっちだ」

 千雨の後に着いていくと、通路はどんどん地下へ潜っていく。行き着いた先には扉があり、千雨はカードを取り出し、扉へ近づけた。
 本来なら壁しか見えないが、そのカードがあれば地下へ直行するエレベーターに乗れた。
 緩やかな浮遊感と共にエレベーターが下りた先には、広大な空間が広がっている。書架が立ち並びながら、地下とは思えない陽光が照らしていた。

「ここが図書館島の地下らしいぜ、んであいつがその司書とやらだ」

 千雨が指差す先に、いつの間にか男が立っていた。

「おやおや、どうやらこっ酷くやられたみたいですね。半生を取る時が楽しみです」

 ニコリと微笑む優男。

「うるせぇ、契約だ。わたしの体をさっさと治せ。マホウとやらで出来るんだろう」
「はいはい、それではちょっとお体を拝借」

 男――クウネルは千雨に近づき、手をかざした。千雨がほのかに光る様を見て、アキラは驚く。魔法の存在を聞いてはいたものの、見るのは初めてだった。
 クウネルが何事かを呟くと、光は一層強まり、そして消えた。千雨は体の痛みが引いたのに気付き、包帯を取る。包帯の下に傷跡はほとんど無くなっていた。光の加減で薄っすらと線が見える程度である。

「あーちゃん、ここはどうだ?」

 鏡が無いため額の傷が見えず、アキラに聞く。アキラは心配していた、千雨の顔の傷が消え、うれしさのあまり抱きしめた。

「のわぁぁぁ」

 千雨の嬌声で、はっと気付き離れる。アキラはクウネルに振り返り、力の限り頭を下げた。

「あ、あの司書さん。ちーちゃん、じゃなかった千雨ちゃんを治してくれてありがとうございます!」
「お気になさらず〝契約〟ですので。遅れましたが私、図書館島の司書をやっているクウネル・サンダースという者です。お気軽にクウネルとでも呼んで下さい、大河内さん」
「あ、はい……って私の名前」

 いつものひょうひょうとしたクウネルのペースに取り込まれるアキラ。千雨は自らの体を知覚領域で精査し、異常が無い事を確認していた。

(さすが魔法、相変わらずファンタジーだぜ)
〈これほどの治癒速度とはな〉

 呆れつつ感嘆していた。
 ふと気付き、千雨は用が済んだとばかりに、アキラを連れて出て行った。

「今度来るときはおみやげもお願いしますよー」

 というクウネルの言葉を聞き流しつつ、図書館島を後にする。



     ◆



 二人はある病室の前にいた。
 コンコン、とノックをすると元気な返事が返ってくる。

「失礼します」
「おぉ! アキラじゃん! ずっと会えなくて心配してたんだよ~」

 ベッドの上には裕奈がいた。元気はつらつといった体で、雑誌を広げてテレビを見ている。
「おぉ、長谷川も来てくれたんだ、サンキュー」
「あぁ、元気そうで何よりだな……」

 人恋しかったのだろう、いつに無くテンションが高い。裕奈は感染症という名目で、ここ数日友人との面会が認められていなかったのだ。くしくも千雨達はそのお見舞い第一号となっていた。
 裕奈は目覚めた後の病院での色々を語る。父親が号泣し娘離れができるか心配だった、とかそういう話だ。
 アキラは必死に謝罪の言葉と涙を堪えながら、笑顔を浮かべ続けた。裕奈に見えないベッドの下では、千雨がアキラの手を握っている。それでなんとか堪えつつ、アキラは談笑を続けた。
 千雨達がお暇しようとした時、病室へ男が入ってきた。

「あ、おとーさん」

 明石教授である。千雨達は凍りついたが、教授は大人だった。裕奈に何か悟られないよう、普通の会話を続ける。

「おや、アキラくんじゃないか。君も大変だったね、心配してたんだよ」
「え、えぇ……」

 数分会話した後、三人は場所を近くの待合室に移し、対面していた。

「本当にすみませんでした」

 アキラは必死に頭を下げる。それに千雨も続く。
 教授も困惑していた。自分は率先して目の前の少女、裕奈の友人であるアキラを殺そうとしたのだ。あの日、娘を守る、という名目の元に持った殺意の残滓が、未だに教授を悔やませている。
 その上で、アキラ達の謝罪だ。教授にとっては傷口に塩を塗られているようだった。

「いや、頭を上げてくれ。謝るのはこちらだ。僕は恨まれこそすれ、謝ってもらえる立場じゃないよ」

 自嘲の笑みを浮かべつつ、疲れた表情で教授はあの日の事を語った。娘を守るため、アキラに殺意を燃やした事をありのままに語る。それは教授にとっての懺悔だった。年齢が一回り以上離れている彼女達に話すべき事では無いが、教授は止められなかった。

「――だから、むしろ僕があやまるべきなんだ。本当にすまない」

 頭を下げる教授に、今度は千雨が声をかけた。

「裕奈のお父さん、わたしは色々経験が少ないが、あなたが間違ってるとは思えない。だってさ、誰かを殺して親が生き返るなら、わたしだって殺してると思う」

 千雨の頭に両親の顔がよぎった。もう会えない、懐かしい顔だ。

「だから、しょうがなかったんじゃないかな。わたしが言うのも無責任な話だけどさ、親としては当たり前だと思う」

 教授の目に、薄っすらと涙が覆ったが、男として、大人としてそれを見せるわけにはいかず、目頭を押さえた。
 千雨達はそっとその場を離れた。



     ◆



 翌週、臨時休校が明け、通常授業が再開された。
 変死事件はある大学生による犯行として報道されたが、テレビを賑わしたのはほんの数日で、あっという間に人々の記憶から消えた。そこには麻帆良やスピードワゴン財団の名が働いたのは言うまでも無い。
 殺人鬼として報道された、麻帆良大学の大学生『音石明』は、警察の手に渡った……と名目上なっているが、彼に正当な法の裁きが下ることは無いだろう。
 また、千雨の環境も多少変わった。千雨は事件が落ち着いたら、《学園都市》へ戻ると思っていた。多少寂しいが仕方は無い、と。

「交換留学生、ですか」
「そうじゃ」

 週明け早々千雨は学園長に呼び出され、急にそんな事を言われた。
 スタンド事件を機に、麻帆良と学園都市の緊張が高まってるらしい。そこで魔法と超能力、お互いの実情を知るものが親交という名目で学生を交換しようと言うのだ。体の良い公認スパイという事である。

「何しろ急に決まった事じゃ、人数も期間もまだ決まっておらん。じゃが、とりあえず長谷川君をそのテストケースにする、というのが先方の意見のようじゃ」
「先方って……それって後づけじゃないですか。いいんですか?」
「構わんじゃろ、それで困るものはおらん」

 千雨はまだ知らない事だが、この交換留学生を働きかけたのは、千雨の保護者やるドクター・イースターである。学園都市を離れられない、彼なりの援護のつもりであった。

「それで、じゃ。長谷川君には寮に関しての通知がある」
「通知?」

 それは寮の部屋換えの話である。女子寮のアキラと裕奈の部屋が例の感染症の後、封鎖される事となった。この女子寮というのがかなり部屋割りが大雑把で、三人部屋を二人で使ってたり、二人部屋を一人で使ってたりするのだ。前者はまき絵と亜子であり、後者は千雨である。
 それに伴い、裕奈がまき絵と亜子の部屋に、アキラが千雨の部屋に移れとのお達しだった。超能力者にスタンド使い、要は監視対象をうまくまとめるという事なのだろう。
 裕奈はアキラと部屋が別れる際、ちょっと寂しそうにしながらも、

「まぁ、すぐに遊びにいけるしね!」

 と元気に語っていた。
 こうして千雨が遭遇した事件は収束していった。
 そして千雨とアキラがルームメイトして過ごし、丁度一週間となっていた。
 千雨も交換留学生という名が付属し、まだ当分は麻帆良に居る事になった。その事をドクターと相談したが、何やら目的があるとの事。うまい事お茶を濁されたが、仕方があるまいとも思う。
 千雨は欠伸を一つ。窓からの風景を眺めた。
 初夏の日差しが爽やかに都市を照らし、世界に色を輝かせていた。








     ◆








「そんな面白い事があったなんて。スケジュールを全部放り投げて来るべきだったな」

 承太郎の後ろを歩く男がいった。奇妙な風体の男である。
 逆立った髪を綺麗に横に流し、変わったデザインのヘアバンドをしている。体は細身であり、筋肉が少ないのも、服越しにわかった。だが、目は異常に鋭い。いつも周囲に対する観察を怠らないような周到さが伺えた。
 男の名は岸部露伴。承太郎が要請した救援である。本来ならばもっと早くに着いていたはずが、彼自身が海外にいたり、トラブルに見舞われたりと、合流が遅れたのだ。
 そして彼はスタンド使いであり、漫画家だった。有名週刊少年漫画雑誌に連載を持ち、コアなファンを獲得し続けている。

「あぁ~~、惜しかったなぁ~、見たかったなぁ~。何でもっと早く言ってくれなかったんだぁ。ねぇ、承太郎さん」

 承太郎は無言で通路を進み続け、ある扉を前にピタリと止まった。

「ここだ」
「へぇ、やっとご対面ですか」

 承太郎は扉を前にして、服についている貴金属などを外し始めた。

「ヤツのスタンド能力は知っているだろう。用心のためだ、外せるものは外しておいた方がいい」
「それもそうですね」

 露伴は素直に従う。貴金属だけでなく、携帯電話やボタン電池式の腕時計も外してから、扉を開けた。
 中は薄暗く、また冷たい。ヒヤリとした風が頬を撫でた。

「おぉ」

 露伴も思わず声が出た。
 そして部屋の中を確認すれば、中央に大きい氷の塊が鎮座している。氷の中には男の体が埋まっており、顔だけ外へ出ていた。

「へぇ、君が『音石明』か」
「たのむぅ、助けてくれぇ……」

 露伴は無遠慮に近づき、音石の顔をペチペチと叩く。音石は消え入りそうな声でこれに応じた。
 部屋の壁は特殊ゴムで出来ていた。ありとあらゆる物が絶縁体で覆われており、一部の隙も無い。明りも特殊な蛍光ランプにより、電気を使わず部屋を照らし出している。

「露伴、たのむ」
「わかりましたよ、承太郎さん」

 承太郎の短い言葉を理解したのか、露伴は即座に応じた。

「たのむ、〝話せる事〟は全て話すから助けてくれぇ」
「いや、必要無い。君は一切話す事は無い。なぜなら」

 露伴は人差し指を、音石の目の前に突き出した。

「僕のスタンド『ヘブンズ・ドアー』があるからね」

 指先が光を帯び、その軌跡が露伴の代表作にして主人公『ピンク・ダークの少年』の顔を描いた。

「あぁぁぁぁぁ」

 それを見た音石の顔の表面がパラリとはじけた。まるで顔そのものが本になったようだった。
 岸部露伴の能力『ヘブンズ・ドアー』は自らが描く絵を見せることで、相手を本にする事ができる。能力を受けた人の本の中身には、その人の記憶が書かれている。また、この本の中に命令を書くことで、相手にその命令を守らせられる、というとんでもない能力だったりする。
 露伴は手馴れた調子で音石明のページを捲っていった。

「ふんふん、なるほど」

 ペラペラと捲りながら、音石の名前、出身、特技に趣味に性癖と、あらゆる物を斜め読みしつつ音読していった。
 ページを捲り続けると、途中からきな臭い内容になってきた。

「大学からの帰り道、矢にさされて能力が発現か。その後好き放題してた所で――」

 そこから音石のページに〝アノ人〟という言葉が増えだした。

「『その日、俺は〝アノ人〟に会った。思えばずっと〝アノ人〟の手の上で転がされてた気がする。俺は〝アノ人〟に興味を抱いて聞いたんだ、お前は誰だ、ってな。これが間違いだった。”アノ人”は自分の名前や住所に性別、好きな映画から嫌いな芸能人まで、自分に関する事を延々喋りはじめやがった。余りのウザさにスタンドを発動しようとした。その時に気付いたんだよ、これが〝アノ人〟の手だってな』か。ふむふむ」
「やめろぉぉ~、たのむ、それ以上覗きこまないでくれぇ」

 露伴の口は軽やかに回る、対照的に音石の声はか細く、必死だった。

「『〝アノ人〟の能力により、俺は縛られた。呪いだ。〝アノ人〟を知ったせいで、かわりに俺は〝アノ人〟の願いを叶えなくてはならなくなった。『自らの平穏のために、麻帆良にいる魔法使いを殺す』。最初聞いたときは気が狂ったか、とも思ったが納得だ。まさか魔法使いが本当にいて、あれ程の力を持ってるとはな。俺達スタンド使いが、自由気ままに過ごすには確かに邪魔だろう』」
「もう、触れないでくれ! たのむ、〝アノ人〟はぁぁぁぁ」

 承太郎は音石に注意を払う。

「『〝アノ人〟から得たものは二つ。スタンド能力と〝矢〟だ。〝アノ人〟は計画実行のため、俺に〝矢〟を渡してきた。おめでたいやつだ。ついで、俺の能力も成長した。〝アノ人〟への恐怖が、俺のスタンドを強くした。それまで『電気を操る能力』だった『レッド・ホット・チリ・ペッパー』に、『他者のスタンドを操り、強化する能力』に成長した。だが、クズみたいなガキどもで能力を試したが、ロクなものじゃなかった。大量の電力がなければ操る事は難しいし、強化だって微々たるものだ。だけど、どうにか出来る筈だ。とりあえず、矢を使いスタンド使いを量産する。なぁに、死んだやつは電気ケーブルの海に放り込めば見つからない』」
「ごめんなさい! 謝る! 謝るから、それ以上読まないでくれぇぇぇ!」

 音石の顔は涙と鼻水でビショビショだ。だが、露伴は気にもしないという態度でページを更に捲った。

「『何人目だろう、ついに目的が達成できるスタンド使いを発現させた。弱い、はっきり言って弱い能力だ。遅効性のウィルスをばら撒くというクソみたいな能力だが、俺が強化すれば凶悪になる。この能力で麻帆良を覆えば、〝アノ人〟の願いを聞きつつ、〝アノ人〟を殺せるはずだ。俺は歓喜した。これで自由だ』。なるほどね、君の狙いはそこだったわけか。首謀者の命令を聞きつつ、自らを脅かす首謀者を殺す。悪くは無い選択だと思うよ、僕は」
「もう、もう無理だ。たのむぅぅぅぅぅぅ!」

 しかし、露伴は止まらない。

「『〝アノ人〟の顔を思い出す。そうこんな顔だった……』。おや、次のページには写真があるようだね」
「駄目だーーーーーーーっ!!!」

 音石の言動が激しくなる。承太郎は露伴を止めにかかった。

「露伴やめろ! 〝そのページを捲るな〟!」
「承太郎さん、こいつの焦り方を見れば分かるでしょう。載ってるんですよ、この次のページに〝アノ人〟とやらが」

 露伴はページを指で掴みつつ、ペラペラと揺すった。隙間からは確かに写真のようなものが微かに見える。

「たのむ、捲らないでくれ、それ以外だったら何でもやる、下僕にでもなってやる、だからァァァァーーーー!」
「……そうかい、そこまで――」

 音石の言葉に露伴の指が止まった。音石の顔には希望が浮かんでいた。まるで地獄の底で天使を見かけた様な、晴れ晴れとした表情だ。

「だが断る。この岸部露伴はあと一歩の真実の前に、怯むことを知らない。そこに他人がいて、迷惑がかかるならなお更だッ! 見せて貰うぞぉぉぉ!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」

 露伴は一気にページを捲った。次のページには確かに誰かの写真が載っていた、人影、シルエット、だがそれは――。
 音石が内側から爆発した。

「露伴っ!」

 承太郎はスタープラチナの能力で時を止め、露伴に近づき、その体を壁まで飛ばした。時を止めた瞬間が遅かったらしく、写真の載ったページは真っ先に爆発していた。
 時の流れが戻る。

「ぐぅっ!」

 背中を強打し、くぐもった声を出す露伴。

「大丈夫か露伴」
「えぇ、すいませんね、承太郎さん」 
「まったくだ。それにしてもやられたな、これが〝アノ人〟とやらの呪いだろう。自らの正体の完全な隠蔽。記憶にすら干渉するのか。それに〝アノ人〟じゃあ性別すら分からない」
「僕も写真を見損ないました。せめてあと一秒あれば」

 露伴は悔しそうに頭をかいた。
 部屋の中は爆発の影響で散々な状況になっていた。音石を縛っていた氷まで砕け、壁に突き刺さっていた。だが、その程度だ。
 音石の姿はほとんど残っていなかった。血も、肉片も、元の大きさを考えれば微々たるものしか残っていない。

(こいつはまるで――)

 承太郎は先日の資料室の事を思い出していた。麻帆良での『矢』の捜索中、警備員が殺された事件だ。

「これが〝アノ人〟とやらの仕業となると、『矢』の持ち主は……」

 麻帆良を騒がした『スタンド・ウィルス事件』の犯人『音石明』の最期であった。
 だが、まだ事件は終わらない。



 第一章〈AKIRA編〉エピローグ終。
















●アキラのスタンド能力設定

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<スタンド名>フォクシー・レディ
<スペック>まったく考えてないですが、おそらくスピードはA
<基本的特徴>
人型で、ニメートルほどの身長。背中から五本の尻尾が伸びている。
自我があり、喋る事もできる。
性格コンセプトは「ズルイ」。これはアキラの性格の対比と、スタンド名から。
また、体長三メートルの狐の姿になり、その背に人を乗せ走る事ができる。
速さは車程度。
<スタンド能力詳細>
・他者に自らが作るウィルスを感染させられる。だがウィルスで致死にいたるには時間がかかり、それは感染者の体力に比例する。
・ウィルスの進行速度は能力者が調整出来る。
・ウィルス感染者はスタンドを見ることが出来る。
・尻尾一本に付き、一人しか感染させられない。また感染させた尻尾は固まり、動かす事が出来ない。
・固まった尻尾を破壊されると、能力者の意思関係なくウィルスは解除される。
・感染者の数に比例し、スタンドの身体能力に負荷がかかる。

●解説。
 コンセプトは「鬼ごっこ」。ヒットアンドウェイを地で行くスタンドです。
 また「車並みのスピード」と言うのがそそります。
 この表現の曖昧さが、その後の話の展開を広げるのです!
 ある意味最高に強いんですが、ソロで行くと微妙。
 弱体版パープル・ヘイズといった感じです。
**********************************************************************************

(2012/03/03 あとがき削除)




































 男は世界樹を見上げた。
 日も暮れ、人が少なくなってきた時間、男は麻帆良の郊外に立っていた。
 初めて来た東洋の国、その異様な風貌に圧倒されてきた。だが、どこかこの麻帆良地には親近感を覚える。それは西欧を模した作りの建物の数々がそうするのだろう。
 いつか歩いたフェレンツェの地を思いだした。
 だが、フィレンツェにもこれほど大きい木は無かっただろう。世界樹。その名に相応しい巨大さと荘厳さだった。
 風が男の髪をなびかせた。色あせた金髪を、そのまま伸ばし、無造作に後ろで縛っている。元は美男子だったろう顔立ちだが、今は顔を無精ひげが覆っていた。体は黒いタイトな服で覆っている。細身ながらも筋肉質な事が分かった。
 こうやって見れば、渋みのある色男といった感じだが、それを目の下の隈が台無しにしていた。強すぎる色合いの隈の上には、碧眼の瞳が乗っているが、その瞳も濁っていた。
 剣呑さを隠しもせず、男は麻帆良の地に立っていた。
 ここに、彼の願いを叶えるモノがあるはずなのだ。

「そこの君、すまないが名前を教えて貰えるか」

 男の背後に、更に男が立っていた。黒色の肌に、肩幅のある長身。日本では目立つ風貌だが、この麻帆良ではそこまで目立たない容姿、麻帆良の魔法教師ガンドルフィーニである。

『はは、すまないが、僕は日本語が不自由でね。観光に来たら迷ってしまったよ』

 ガンドルフィーニの言葉に男は英語で答えた。

『そうだったのか。ぶしつけにすまないが、君は何者だ。私はここで教師をやっていてね、生徒達のために不審者は排除せねばならない』
『不審者、不審者だって、僕がか。またか、本当に日本は窮屈だな。冗談はやめてくれないか』

 男はさもありなん、と言った感じで大げさなジェスチャーをする。そんな彼にガンドルフィーニは苦笑いをした。

『いや、すまないね。僕も経験がある。日本は僕ら外国人に排他的だが、良い国だ。観光者の君の気を悪くしたのは申し訳ないが、身分証明書を見せて貰えないだろうか』

 ガンドルフィーニの言葉に、男は片手に持ったバッグから、パスポートを取り出し渡す。

『名前はピーノ・サヴォナローラ。イタリアからの旅行かい。それにしては英語が流暢だね』
『昔少しアメリカに住んでた時があるんだよ、そのせいかな』

 男はガンドルフィーニとの会話をしつつ、その懐の膨らみを凝視していた。男はガンドルフィーニの立ち居振る舞いから、ただ者じゃない事を察している。

『宿はもう決まっているのかい』
『いいや、まださ。本当はこの駅で降りるつもりは無かったんだが、あまりにも故郷の風景に似ていたせいで降りてしまったよ』

 ハハハ、と続く男の笑い。だが、その笑顔には鋭さがあった。しかし、それに気付かぬまま、ガンドルフィーニは男に近づく。

『そうか、じゃあ案内しよう。この時間となれば、流石に他の駅まで行くのは億劫だろう。駅向こうなら、幾つかホテルがあるんだ』

 その不用意さが仇になった。

『ありがとう紳士(ジェントルマン)。そしてさようなら、だ』

 ゆったりとした男の動き、そこには魔法などの異能の力は一切無い。あるとしたら練磨の上にある卓越した技術と〝才能〟だった。
 ガンドルフィーニの首から血の噴水が上がった。次いでガクリと膝が折れ、自らが作った血の海に飛び込む。バシャッという音がして、周囲にさらに血が跳ねた。
 男はもう傍には居なかった。片手にはナイフ。その表面には小さな文字が幾つか刻まれている。刃に乗った血糊を、腕の一振りで飛ばし、仕舞う。
 男の体には血の一滴すら付いていない。
 男は天才であった。〝殺す〟その一点に置いて、他の追随を許さない正真正銘の天才。その力は魔法ですら薄紙に変えてしまう。
 ガンドルフィーニにとっての不幸は、その〝天才〟と会ってしまった事だった。血の海に沈み、体が冷えていく。薄れゆく意識の中、妻と娘の姿がよぎった。

(すまない……)

 呟きすらままならず、ガンドルフィーニは永遠の眠りについた。
 男は振り返る事もせず、その場を離れる。瞳には再び濁りが渦巻いていた。
 十年前、男は欧州で名を馳せていた。名が売れる事が二流である世界で、名を売り一流であり続けた男。
 そこではこう呼ばれていた――『ピノッキオ』と。
 その姿は麻帆良の夜の闇に溶けた。



 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉に続く。


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