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No.15421の一覧
[0] 自宅を守りし獣(ネギま・オリ主)[intel](2010/01/15 06:06)
[1] 二話 この世界には秘密がある[intel](2010/01/15 06:12)
[2] 三話 新世界への扉、未だ開かず[intel](2010/01/28 01:37)
[3] 四話 未知領域[intel](2010/02/20 13:46)
[4] 約三十一話 失われた記憶のカケラ[intel](2010/02/20 13:48)
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[15421] 自宅を守りし獣(ネギま・オリ主)
Name: intel◆4b535800 ID:8eb15d65 次を表示する
Date: 2010/01/15 06:06
人は誰もが聖域を持っている。

決して汚されない、恒久的な、唯一の場所。

人はそこで己自身を見つめ、避けられないサダメを見つめ、抗えない現実から逃避する。

聖域。

自分だけの場所。

それは人それぞれだろう。

自分の部屋、学校の教室、仲間が集まる廃ビル、街中にたたずむ朽ちた階段。

魂の安らぐ場所。

失われたく無い場所。

永遠であって欲しい場所。

……分かっている。

多分誰もが理解しているのだ。

そんなものは無い。

恒久的な存在など無い。

いつかは失われる。

それは侵略者――外的要因であったり、仲間内での不和――内的要因。

そういったもので容易く聖域は崩壊する。

そう、簡単に崩壊する。

砂で出来た城のようなものだ。

幾ら思い入れがあろうが、大切にしていようが……いつかは無くなる。

だが。

だからこそ人は聖域を大切にするのだろう。

失われてしまうものだからこそ。

終焉までのその時を――懸命に。

必死に守るのだろう。

「……そうさ、間違ってなんかいない」

今俺がいるこの場所。

ここは紛うこと無い聖域だ。

そして聖域は今まさに崩壊しようとしている。

――外的要因、侵略者によって。


ガン! ガン! ガン!


俺の目の前に存在する扉が大きな音を打ち鳴らす。

侵略者は扉をけたたましい音を奏でながら叩く。

それはまるで終局を告げる鐘の音だ。

俺をこの聖域から追い出そうと。

俺の聖域を無き者にせんと。


ガンッ! ガンッ! ガンッ!


今にもその扉は打ち破られそうだ。

だが俺は決して引かない。

この小さな小さな空間。

2メートル四方も無い空間。

この空間は俺の聖域だ。

――絶対に、守る。


「こらぁっ! さっさと開けろ! いつまで入ってるつもりだ!?」

侵略者は吠える。

「早く出ろ!」
「い、いやだね! ここは俺の聖域だ! お前なんかに渡してたまるかぁ!」
「分けの分からんことを言っとらんでさっさと開けろ! 殺されたいのか!?」

侵略者の声は必死だ。

よっぽど俺はここから追い出したいらしい。

くくく……いいさ、抗ってやる!

「はっ! 殺せるもんならやってみろ! 例え死んでもここから出ないぞぅ!」
「お、おい。今なら許してやる。だからさっさと……頼むからさっさと出ろ! げ、限界なんだ……!」
「俺はいつも限界だ!」
「私の方が限界だ!」

どうやらこのバトル、限界バトルのようだ。

どちらが先に限界を超えるか……見物だ。

「き、きさまぁ……覚えていろよ。後で必ず殺すぞ……!」
「俺は一生ここから出ないからいい」
「こ、こうなったら魔法で扉を吹き飛ばすしか……!」

何やら物騒なことを言い始めたぞ!

と、止めなければ!

「おいやめておけ。そんな事をすればどうなるか……頭のいいお前なら分かるだろ?」
「……ほ、ほぅ……何だ、言ってみろ? ど、どうなる、ははっ」
「……」

まあ、特には考えていない。

「ふ、ふあっはははは! もう限界だ! 扉を吹き飛ばすぞ!」
「や、やめろエヴァ! そ、そんな事したら二度とお前を起こさんぞ!」
「貴様に起こされたことなぞ一度も無いわ!」
「じゃ、じゃあこうしよう! 逆にこう考えるんだ! そこですればいいさ! あの何か妄想具現化? 出来んだろ? そこをトイレだと思えばいいさ!」
「あははははは! はははははっははははぁ!」

あ、駄目だ。

エヴァはもう駄目な感じになってきた。

しかし俺もまだ出れない。

出たくても出れないんだ。

ここだけの話、勢い良く座りすぎて便器に嵌ってしまったのだ!

トイレの! 便器に! 

今の俺たるや、便器魔人なんて魔物的な名前で呼ばれることも厭わない感じだ。

この情けない姿をエヴァに見られるのは不味い。

――いや……逆に考えてみるか。

見られてもいい、そう考えればいい。

そうさ。

何を渋っていたんだ俺は。

別にエヴァに見られようが今さらだ。

もっと情けない姿も見られてきた。

そうだよ、今さら便器に嵌ってる姿を見られようがどうってこと無いわ。

明日って今さ!

「おい、エヴァ。さっきまでのは無しだ。入っていいぞ……ただし、静かにな」
「あははははははは! クカカカカカカカカカッカカァ!!」
「お、おいエヴァさんや。何どうしたの? 笑い声がやばいよ? 中の人がしんどいよ、それ」
「ケカカカカカカカカッ! 亜krmfだplgまぽgjmrgめぽrmがぺろgmれmがpm!」
「……」

……そうか。

もう、駄目、なんだな。

エヴァは既に、理性を、失っている。

なら、もう……駄目なんだろう。

この場をどうすることも、出来ない。

仮に第三者がこの場に現れるなんて奇跡が起きない限り……

「――どうかしましたかマスター? お手洗い前で一体何を叫んでいるのですか……?」

奇跡キター!

「ちゃ、茶々丸! 助けてくれ! エヴァに殺される! 被害者俺! 殺害現場トイレ!」
「……あの、意味が」
「だからトイレとエヴァがやばいの! 俺は今すぐにもエヴァに殺されそうなの! 事件はトイレで起きてるの!」
「……理解不能です。私は何をすれば、いいのですか?」

そう!

まずこの場で片付けるべき最優先事項は……!

「トイレを今すぐに一つ頼む!」

これしか無い!


■■■■


結論から言って間に合った。

最悪の事態は避けられた。

半狂乱のエヴァを茶々丸さんが別荘のトイレに連れて行き、丸く収まった。

しかし俺の尻は未だトイレに収まったままだ。

「……でも、これでいいのかもしれない」

自分の聖域。

唯一の聖域、トイレ。

ここでなら、一生を過ごすのも、悪くない。

何より幸せなことだと思う。

どこよりも安らげる場所で、永遠(とわ)の時を過ごす。

「……何て素晴らしい」

そう、素晴らしい。

素晴らしい、はずだ。

その、はず、なのに。

「……あぁ」

どうして。

涙が出る、んだ。

「あ、あぁ、あああ……」

いや。

分かってはいた。

聖域は壊されるんじゃない。

無くなるんじゃない。

どんな形であれ、最終的に自らの手で放棄するんだ。

一生安穏とした場所で過ごす、人はそれを出来ない。

人の精神はそれを許容出来ない。

いつかは出なければならない。

いつかは消さなければならない。

自ら。

だから、涙が出る。

それを知ってしまった。

現実に、聖域に浸ることで……俺は理解してしまった。

「あぁぁぁあぁ……ああぁぁぁぁぁぁ……」
「やかましいわ! 男がめそめそ泣くな!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「もっとやかましいわ! 別に大泣きしろと言ったわけじゃない!」
「……落ち着いて下さい。あなたは助かります」
「仕方ない。便座ごと破壊するしかないか」


――そうして、俺の聖域は失われたのだった。





次回予告

「え? おつかい?」
「ああ、そうだ。これをじじいの所へ持って行け」
「や、やだよ! 外こえーよ! 昨日外見たら何か刀持った変質者いたもん!」
「いてたまるか! あ、いや、まあ……いないこともないか」
「いるじゃん! やっぱいるじゃん! 外ってあれだろ? スーパーミュータントとかいっぱいいんだろ!? もう俺このvault(布団)から出ない! ノゾミハタタレター!」


次回・初めてのおつかい


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