バルタン星人は当然のことだが宇宙人である。しかも、イメージとしては侵略者だ。そんな偏見を持ってもらいたくないこのバルタンは地球人に敵対することはあまりない。的には容赦しないが大多数の敵にはならないし、しない。そのため、
「なあ姉ちゃん。ほんとに、兄ちゃん誘わんのか?」
「……藤田は関係あらへん、それにあいつにはあいつの立場っちゅうもんがある」
「……せやな」
重苦しい雰囲気で話す天ヶ崎と小太郎。二人はこれから起こすことにバルタンを巻き込もうとはしなかった。手を貸してもらえるなら成功率は100%であろうとも、
「どうかしたのかい?」
「なんでもあらへん。それより新入り、初日は様子見や。小太郎と待機しとき」
無表情で声をかけてくるのは今回雇った白髪の少年。表情の乏しいその顔が小太郎は気に入らなかったが腕は確かなようだったので雇った、いや雇っていた。
「わかったよ。僕としてもことが簡単に済むならそれに越したことはないしね」
「わかったんならええ。ほな月詠はん」
「は~い」
護衛として雇った神鳴流の剣士、月詠と共に夜の京都に消えていく二人を、白髪の少年・フェイトは冷めた目で見ていた。
5バルタン目
「う~ん、どうしましょうか」
今、俺は一人で家にいた。天ヶ崎さんと小太郎は仕事で三四日は帰ってこないらしい。俺も行こうとしたがいつも頼ってばかりだと腕が落ちるというのを理由に引きさがった。しかし、何というかこういやな予感がする。なんというか自分の知らないところで悪いことが起きておりそれに二人が加担しているのではないかという具体的といえば具体的すぎる不安。
「考えすぎでしょうか」
確かに、仕事の時に俺は積極的に動いて、動きすぎて二人の出番を潰すこともしばしあったりするくらいだ。なら、今回のことは不自然でないとも言えるのだが。
「はあ、考えても仕方ない。少し出かけましょう」
変身し、家に鍵をかけて外へ。適当にぶらぶらしてた俺はいつの間にか清水寺にいた。どうやら無意識のうちに瞬間移動してしまったようだ。まあいいかとついでに寺を回っていたのだがやたらと制服姿の少女がいる、どうやら修学旅行のようだ。なにやら清水の舞台から飛び降りろ的なことを言っているようだが元気のいいことだ。
暫く散策し、そろそろ帰ろうかという時にふと酒の匂いがした。見渡せば先の少女たちの何人かが顔を赤くしダウンしていた。甘酒にでも酔ったのだろうか?
夜になり家に帰ってみると留守電が入っていた。小太郎からだったのでかけなおしてみると電話に出たのは小太郎とは別の声だった。
『もしもし』
「ん? 小太郎じゃないのか」
『……彼の仕事仲間だよ、彼なら今はいないよ』
「そうか、わかった」
そういい電話を切る。声の様子からして小太郎と同年代のようだったが感情に乏しい声だったな。まあいいか。さてと、今日の飯はどうしようかな。
「ん? 何や新入り、俺の携帯もって」
「いや、君に電話がかかってきていたから代わりに対応しただけだよ」
「さよか、って相手は!?」
「さあ? 若い男の声だったけど。彼が藤田という人かい?」
待機していたところにかかってきた電話、出てみると聞こえたのは知らない男の声。この男が藤田という人物なのだろうかと、戻ってきた狗族のハーフの少年、犬上小太郎に問いかける。
「せや」
「強いのかい?」
「強いで、俺なんか手も足も出えへんくらいにな」
どこか誇らしそうに言う犬上小太郎。しかし、強いというのなら何故今回の仕事に連れてこなかったのか。少し気になったがどうせ関係のないことだ、そう思い、僕はルビガンテを通して天ヶ崎千草達の様子を再び監視しだした。
「ちょろいもんやな」
木乃香お嬢様を学友たちと泊まってはる旅館から攫うのは拍子抜けするほど上手くいった。式神返しの結界が張られとったようやけど中から子供、サウザントマスターとかいう西洋魔法使いのガキがご丁寧に開けてくれはった結界の穴から侵入は成功。あまりにも上手くいくもんやから罠かと思ったくらいや。その後はトイレにやってきた木乃香お嬢様を気絶させてさっさと逃げた。逃げる途中でさっきのガキにもおうたがサルの式で足止めする。
「ほんと、上手くいきすぎや」
「待てー!!」
気を抜きかけたその時、後ろからようやく追手がきよった。振り返って確認すると、
「ガキやて? 舐めとんのかお嬢様にはそんくらいの価値しかないゆうとんのか? ああ、あのガキどもがえらい強い可能性もあったな」
全く、隠す必要があるゆうても半人前だけで木乃香お嬢様の護衛が務まるわけあるかいな。やっぱ、東の連中にとって木乃香お嬢様はその程度ってことか?
「木乃香さんを返せー!!」
「はん、言われて返すくらいなら最初から攫わんわ」
後ろんガキたちを無視してうちは予め人払いをしとった駅に入り込み電車に乗り込む。当然、ガキ達も乗り込んでくる。電車が走り出し、うちは電車から飛び降りた。
「なぁ!?」
後ろでガキどもが驚いたような声を出すがあないな逃げ場のないもんで移動するわけないやろ。さっさと月詠はんと合流しようかと足に力を込めようとして、
「のわっ!? な、なんや!?」
突然の爆音に振り返ると。
「お嬢様を、返せーーーー!!」
白目と黒目を反転させながら叫ぶ神鳴流の嬢ちゃんが電車の残骸の上におった。って、
「こ、公共のもん壊してええと思っとんのかーーーー!」
「そっちこそ、誘拐なんてしていいと思ってんのー!?」
そんなアホな言葉の応酬をしつつ、うちは月詠はんとの合流地点に急いだ。
「着いた、月詠はーん」
ようやく合流地点についたうちは月詠はんを探すがいない。なんでおらんのんや!?
「追いついたぞ!」
「ちっ」
追手においつかれてしもた。しゃあない、月詠はんが来るまで足止めするしかないか。
『お札さんお札さん、うちを守っておくれやす』
「詠唱!? お二人とも下がって!」
うちの使う符術は昔話で言うところの『三枚のお札』に起因しとる。一枚目は木乃香お嬢様の代わりに返事するように、そしてこの二枚目は、
『壁ではれ!』
「ちょ、何よこれー!?」
うちとガキどもを阻むよう出てきた巨大な壁。本来は山やけどまあそこはええやろ。
「これで少しは」
時間が稼げる、そう思た時やった。
「こんのー!!」
「なぁ!?」
ツインテールゆうたか? とにかくその女の声が聞こえたかと思たら壁が砕けよった。壁が崩れたその先には拳を突き出した小娘。まさか、あれを殴り壊したんか!?
「な、何だかわかんないけど、ネギ! 刹那さん!」
「「はいっ!」」
「舐めんなや!」
向かってくるガキどもに猿鬼、熊鬼で応戦させる。ああもう、月詠はんは何しよんや!? と、少し意識を外したときやった。うちの猿鬼が還された。みれば、あのツインテール小娘がどっから出したんかハリセンをもっとった。
「な、なーんだ。思ったほど大したことないじゃない。刹那さん、その熊? は私に任せて木乃香を!」
「は、はい」
大したことない!? ふざけるなやっ! どう考えてもそっちがおかしいやろ!?
「お嬢様を返せー!!」
向かってくる神鳴流の小娘、逃げようとして。
「え~い」
「くっ、新手か!」
ようやく来おったか!
「遅れてすいまへ~ん」
「ほんまに遅いわ! まあええ、月詠はん後は任せたで!」
「は~い」
ここで気を抜いたのがいかんかった。追ってはこの二人だけやない、
「逃がしません! 魔法の射手・光の十一矢!」
「しまっ」
西洋魔法使いの小僧を忘れとった。咄嗟に、木乃香お嬢様を盾に仕掛け、
「っつ」
懐にあったありったけの札で防ぐ。攻撃は防げたけど、これ以上打てる手はない。終いやな。
「月詠はん、引くで」
「は~い」
木乃香お嬢様を地面に下ろし月詠はんに捕まる。あのままおっても符がないうちじゃ月詠はんの援護はできん、月詠はんも三人は防ぎきれんやろうし防ぐ気もない。ここは引くしかないんや。
「でもよっかたんですか~?」
「なにがや?」
帰り際、月詠はんがうちに問うてきた。
「お嬢様を盾にしとったらよかったんちゃいますか~?」
「そんでお嬢様にけがさせたら元も子もない、あの場はああするのが一番や。それに今日は様子見、そんな無理する必要もない」
そや、なにがあってもお嬢様を盾になんかできん。そないなことしたら、あいつに顔向けできんわ。