タカミチに連れられて人気の無い屋上にやってきた。
タカミチ、まずは感謝しておく。
アスナちゃん、ずいぶんと表情が豊かになっていたよ。
「僕が何をしたというわけでもないんですけどね。
でも、やはりここに連れてきたのは正解だったと思いますよ。」
ああ、そうだな。
でもな、俺は一つだけ不信に思って・・・いや納得できないことがあるんだ。
なんで、ネギとアスナちゃんを関わらせた。
「ネギ君はまだまだ子供で、魔法使いとしても未熟です。
そのため、彼が魔法関係で失敗するとも考えると、関係者ないしなにかしらの非一般人が多くいるあのクラスが最適だと学園長が判断されたんです。
でも、僕はそれを止めることはしませんでした」
なぜ。
お前なら、あの二人を出会わせるべきではないということもわかっていただろうに。
現に、アスナちゃんはこちら側の世界に再び足を踏み込もうとしている。
本人はそれがどれだけ危険なことかも、自分自身の重要性もなにも理解はしてないみたいだがな。
「ダン、今まで生きてきた記憶の全てを失い生きることというのは、そこに笑顔があったとしても果たして真実に幸せと言えるものなのでしょうか」
さあ、な。
俺にはわからないよ。
多分その答えに結論が出るとすれば、万が一アスナちゃんが記憶を取り戻したときに彼女が出すものなんだろうよ。
でも、俺はそのときが来ない方がいいと思っている。
「僕は、彼女が記憶を取り戻した方がいいと思いました。
いえ、違いますね。
彼女に早く記憶を取り戻して欲しかったんです。
そして・・・・・あのころの彼女に笑顔をあげたかった」
でも、アスナちゃんが背負っているもの。
あれは子どもが背負うにはちょっと重すぎるものだ。
それに、あのころの記憶はちょっと辛いものが多すぎるだろ。
「それでも、記憶を消すという行為は今までの彼女自身の人生を否定し、逃げるということです!」
そうだよ。
俺たちは逃げたかったんだ、彼女から。
お前なら言えるか?
これから君は別人として生きないといけない。
これまでの人生も家族関係も全て無かったものとして、嘘偽りの経歴で生きないといけない。
どんなに誰かと仲良くなろうとも、誰かを愛し、誰かに愛されたとしても、決して真実を語ることは許されない。
これから出会う全ての人に嘘をつき続け、虚構と欺瞞で構成される人間として生きないといけない。
そんなこと俺には言えなかったし、きっと誰にも言えなかった。
封印されていた彼女を解放したという点では後悔はしていない。
ただ、時間が無かったとは言えその後のことを考えていなかったのがいけなかった。
気づけば彼女を取り巻く状況はより深刻なものになり、旧世界に逃げ、隠れ住むしか彼女が生きる道は無かった。
その時に、俺たちが選んだ手段がこれだ。
逃げたんだよ、俺たちは。
「っ・・・・・そうでしたね。
弱い僕たちには彼女と最後まで向きあうことができず、逃げることしかできなかった。
だから、せめて僕は新しい彼女の傍で彼女を守り続けようと思ったんです。
でも、つらかったんです。
彼女が僕を見る目が。
記憶が無いと言うのはわかっていますが、僕を通して彼女は明らかにガトウさんを見ていた。
もういないガトウさんのことを、何年も、何年も・・・・・。
あのころの彼女に笑顔をあげたい。
この気持ちは本当です。
でも、そのことよりもなによりも。
僕は、彼女の瞳から逃げたかったんです。
だから、記憶を取り戻せばそんなことも無くなると思ったんです。
そして、ネギ君に期待をした。
あのナギの息子のネギ君なら、彼女を取り巻く事情もなにもかも壊して、ハッピーエンドを作ってくれるんじゃないかって。
そんな身勝手な期待をしてしまったんです」
逃げたと言う点では俺も同じだ。
彼女に一度も会いに来なかった、怖くてな。
だから、お前が逃げようがどうしようが非難できるはずも無い。
でも、ネギは関係ないだろう。
あいつは結局のところただの子供だ。
ナギ譲りの才能を持っていて、魔力も俺なんかより段違いに多いけど、やっぱりただの子供だ。
こんな大人でも耐えられないような重荷を背負わせるわけにはいかない。
「・・・・僕は、どうすればいいんでしょうか。
いったい、僕はどうすれば・・・」
もう一度、彼女の魔法に関する記憶を消すということもできる。
けど、俺はもうあんな思いをするのはごめんだ。
お前もそうだろう。
だから、彼女の判断に任せよう。
ただし、今度は逃げない。
もしも彼女が魔法に関わることを決めたら絶対に守る。
もしも彼女が記憶を取り戻したら、今度こそアスナちゃんに笑顔をあげよう。
「・・・・・ははっ、結局大事なところは彼女任せじゃないですか」
だよな。
まあ、そこはアスナちゃんが戻って来たときにひたすら謝り倒すしか無いな。
「怒られるでしょうね。
もしかしたら、咸卦法した上で殴られるかも」
あ、それ俺死ぬわ。
アスナちゃんが相手だと魔法で防御もできんし。
英雄ダニエル、旧世界の女子の拳で死亡って感じで魔法世界でビッグニュースになりそうだな。
これでも、魔法世界では英雄扱いだからな。
それにしても、たった一人の女の子も救えない英雄か・・・。
英雄ってなんなんだろうな。
「きっと、嘘で塗り固められた、弱いただの人間なんじゃないですか?」
あとがき
ダニエルが、ダニエルが帰ってくる。
次の話からはしばらく喫茶店なんかの話がメインになるからネギのエヴァへの弟子入りまではいつものダンが帰ってくる。