朝、普通に目が覚めた。
どうやら俺は死ななかったようだ。右腕も治っている。
俺の隣には巫女さんが待機していて、目が覚めたなら詠春さんが呼んでいるから来てくれと言われた。
詠春さんと話をしていると、どうやら詠春さんの娘の木乃香ちゃんが治したということが分かった。
どうやら、あの子の魔力はナギを超えるほどで、ネギと仮契約することで強制的に力を目覚めさせたとか。
なんというバグキャラ。
まさか、あの年でここまでの治療魔法を使えるとは。
まあ、多分魔力任せの治療だから無駄な魔力とかバリバリ使いまくってるんだろうけど。
「それにしても、あなたには本当に助けられました」
いや、アーウェルンクスは本当に足止めで精一杯でしたよ。
命をかけても足止めが精一杯なんて情けない話ですけどね。
「そんなことはありません。彼を相手に足止めができるものなどそう多くはいません」
現役の頃のあなたなら足止めどころか倒してしまいかねませんけどね。
まあ、なんとかなった。
今はそれだけで十分じゃないですか。
それより、アーウェルンクスのことはネギには言ったんですか?
「いえ、それはどうしたものかと悩んで言っていません」
まあそうでしょうね。
あれのことを話していると芋づる式にいらないことまで喋る必要も出てきそうですし。
なにより、あいつがナギの敵だったなんて言うとネギがどういう反応するかが怖い。
ナギについてなにか聞くために、あれに積極的に関わっていくことになりかねない。
あれは俺たちの残してしまった旧時代の大火の燃えカスです。
いずれ俺たちの手でケリをつけるべきでしょう。
「ええ、そうですね。私の方で情報を集めておきます。なにか分かったら連絡をいれます」
そのときは流石に散らばったメンバー全員に招集をかけたいですね。
きっと今は強くなっているであろうタカミチやクルトの力も借りたいところです。
「それはそうと、刹那君の話なんですが」
刹那?
ああ、ネギの仮契約者の羽の生えていた子ですか。
あの子がどうかしたんですか?
「あなたは、あの子の羽についてどう思いましたか」
半人半魔とかそんな類の人間ですよね。
まあ、別にどうといったことは無いんじゃないんですか?
「あの子の羽根について、特に思うことは無いと」
だって、テオドラとか常時角生えてるんですよ?
「・・・・・・・それもそうでしたね」
魔法世界じゃあんなの珍しくもなんとも無いですって。
獣人とかいっぱいいますし。
みんなオープンに自分の姿出してるじゃないですか。
こっちの世界じゃそういうわけにもいかないんでしょうが、それでも隠せるのなら問題はないでしょう。
それともやっぱり、差別とかあるんですか?
「ええ、こっちではあるんです。そして、彼女はそれを人一倍気にしています」
もしそうなら、あの子には魔法世界の方が住みやすいのかもしれませんね。
あっちなら羽なんて、むしろ空を飛べるという利点にしかなりませんし。
「私もそう思ったことはあります。ただ、彼女自身がそれを望まないでしょう。
今の彼女は木乃香を守るために生きているようなものです」
まるで騎士の体現ですね。
あの子の年ならまだまだ遊んでいたいでしょうに。
「遊んでいたいって・・・あなたがそれを言いますか。
あのくらいの年にはもう戦争に参加していたというのに」
あれはもはや天災に巻き込まれたようなものですよ。
正直自分が生きていることにびっくりです。
「そうですね。あの戦争はひどかった。
力あるものが次々と死に、世界中のあらゆる恐怖が凝縮されたようなそんな世界でした」
俺たちは生き残りましたけどね、それでもやっぱりたまに夢に見ますよ。
みんな死んでいくんです。
目の前で、差し伸べた手も届かず、ただ蹂躙されて、殺されていく。
「私も同じです。本当に後味の悪い戦いだった。
・・・・ダン、一つお願いしても良いですか。
刹那君にあなたから話をしてあげてほしいんです。
きっと彼女は、正体を見せたことでネギ君達の前から姿を消そうとするでしょうから」
や、刹那ちゃん・・・だったよね。
「ダニエル殿!この度はお力を貸していただき・・」
いや、あれはかなりの偶然だったから感謝しなくても良いよ。
それに、足止めしただけで死にかけちゃった情けないおじさんだしね。
「そんなこと!あれを相手に戦えた、それだけでも十分すぎるほどにすごいと思います。
事実、私たちは彼にあしらわれているだけなのですから」
うん、まあそのへんは年の功ってやつだよ。
無駄に年だけは食ってるしね。
刹那ちゃん達もその年であれだけの力があれば十分すごい。
俺なんか君たちくらいの年だと何もできなかったよ。
「ご冗談を、あの戦争の英雄が・・・」
英雄なんてね、なりたかったわけでも、なろうとしていたわけでもないよ。
ただ、必死に生きた。
地べたに這いつくばってでも生きて、泥水をすすってでも生きて、生きて生き抜いていたら気づいたら英雄なんて呼ばれてただけ。
俺より強いひとなんて腐るほどいた。
でもみんな死んで、人々の記憶にも残ることも無く死んで、忘れられた。
本当、あの戦争に参加するんじゃなかったって真実そう思うことがある。
「しかし、あなた達がいなければ」
その時は誰かが代わりをしてたんじゃないかな。
少なくとも、俺みたいに魔法学校を中退したようなやつより優秀な人なんてそこら中にいるんだしさ。
「中退!それは本当なのですか」
うん。
友達がやめるときに一緒にやめさせられちゃってさ。
いやでも学校はちゃんと行っておいた方が良いよ、経験者は語るから。
「学校ですか・・・そうですね。卒業まで通って、そのあとは高校に入って、大学に入って・・・そうやれたら・・・きっと楽しいのでしょうね」
そうだよ。
それはきっと楽しい。
俺は経験者じゃないからなんとも言えないけど、学校をやめないほうがいいってことは言えるよ。
羽なんてさ、こっちの世界では気にすることかもしれないけど魔法世界じゃ珍しくもなんとも無いんだし、ネギたちはきっと気にしない。
「それでも、私の体には妖怪の血が!」
俺の友人にさ、角生えてるやつがいるんだ。
昔、そいつの角でつつかれて痛かったから角を丸く削って良いかって聞いたんだ。
一族の誇りに何をするつもりだって怒られたよ。
多分、刹那ちゃんの話を聞くと、あいつなら誇りを持てって怒るよ。
「誇り・・・一族の誇り・・・」
俺には半人半魔の身がどれくらい重いものなのか、どんな差別を受けて、どんな気持ちになったのか、そんなことはわからないよ。
君が、どれくらいその体に流れる血を忌み嫌っているのかもわからない。
でも、俺にとって君のその翼は、大切な友人の何よりも大切な娘を助けてくれたものでしかない。
だから、君がその翼を嫌い、それを理由に皆の前から去ろうとするのが嫌だ。
「嫌・・・ですか。ふふっ、それではまるで子供のわがままではないですか」
そうだよ。
俺のわがままだよ。
俺だってわがままの一つくらい言うさ。
だから、君には行って欲しくない。
「本当に・・・わがままですね。でも、その言葉、もっとはやく聞きたかった」
・・・・じゃあ、最後に一つだけ、たった一つでいいからお願いを聞いて欲しい。
一つでいいんだ、お願い聞いてもらえるかな。
「・・・はい。ありがたいお話のお礼です。なんでも言ってください」
俺さ、言った通り中退なんだ。
だから、学校生活がどんなに楽しいのかは知っていても、卒業したことは無い。
刹那ちゃんには、学校を卒業したあと、どんな気持ちなのか、今までを振り返ってどんなに楽しかったのかを教えて欲しい。
「なっ!それは卑怯ですよ!」
大人っていうのは卑怯なものだよ。
まさか、誇り高い神鳴流の剣士が約束を破るなんてことはしないよね。
「撤回です!前言撤回します」
あーあー聞こえない。
どうやらまだ体が本調子じゃないみたいだから聞こえない。
「・・・・本当にわがままな人です。
約束もしてしまったし、天下の紅き翼の英雄ダニエル殿にそこまで言われては断れないじゃないですか」
その天下とか英雄って言うのやめて。
なんかすごい恥ずかしい。
「嫌です。なんと言われようとも、絶対にずっと言い続けます」
それは、君のわがままかな。
「はい、私のわがままです」
わがままか、それなら仕方ない。
昔から、俺は誰かのわがままには勝てないようだからね。
「はい、天下の紅き翼の英雄ダニエル殿」
でもやっぱりやめて。
「嫌です」
くそ、いつかその羽で羽毛布団を作ってやる。
きっとふかふかな布団ができるはずだ。
「やめてください!」
「刹那さん!!」
おお、ネギ。
ちょっと寝坊だぞ。
「どこへ行っちゃうんですか!このかさんはどーするつもりなんですか」
「ご心配なく。もうどこかに行くつもりはありません」
約束だしね。
「ええ、そうですね。天下の紅き翼の英雄ダニエル殿」
だからそれはやめてって。
もっとダニエルさんとかでいいからさ。
「せっちゃんせっちゃん!ん?おじさんはお父様の友達の」
ああ、君が木乃香ちゃんか。
はじめまして、君のお父さんの友人のダニエルだ。
助けるつもりがどうやら助けられたみたいだけどね。
「んーん。そんなことない、うちのためにあんなになるまでがんばってくれたんやもん」
そっか。
そう言えば、なにか急いでたんじゃ無かったの?
「そうやった!」
「刹那さん!身代わりに置いてきた私たちの式神がなんか大暴れしてるらしいの!」
「えええー!!それは早く行かないと」
慌ただしいなー。
それにしても、アスナちゃんずいぶんと表情が豊かになったな。
日本に送って本当に良かった。
それで、詠春さん。
あの反逆者の術者はどうするんですか。
妥当なところで言うと死刑になるでしょうけど。
「処刑はしませんよ」
まあ、話を聞く限り事情もあるみたいだし、なによりアーウェルンクスが関わっている時点で正直俺はあいつ以外はどうだっていいんですけど。
でも、いろいろとうるさいんじゃないですか?
「ええ、でも・・・・彼女は巫女さんですから」
・・・・そうですか。
やっぱり巫女さんだからですか。
もっと違う言葉を期待していました。
一応聞いておきますが、もし、彼女が巫女さんじゃなかったら?
「断固処刑です」
・・・そういえば、この屋敷って巫女さんばかりなんですが、男はいないんですか?
「巫女さんがいれば他のものは余計でしょう」
「し、失礼します」
「どうかしましたか?」
「えっと、その・・・実はみんながダニエル様にお会いしたいと・・・それと、サインとか握手とか写真も・・・」
ああ、ダニエル(笑)ですね。わかります。
「そうですか。彼なら断りはしないでしょうし好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
いや、それはいいんだけどね。
詠春さん、その血が滴るまで握りしめた拳をどうにかしてください。
「あ、あの次は私と!」
これでもう30枚は写真撮った気がする。
しかも、時間が経つにつれて胸がすごい痛み出したんだけど。
これは、まさか。
「ちくしょう!あのやろう、俺の巫女さんにーーーー!!!」
ちょっ!詠春さん、その釘と藁人形はなんですか!
ぐはっ、超いてえ。
「死ね、死ね、しねええええ!!」
あとがき
俺も詠唱がやばいと思った。
いつか詠唱改善フラグを。
ダイジェストみたいじゃなく、戦闘シーンを書く場合は真面目な感じになると思う。
あと、エヴァとダンはしばらくするときちんとした絡みがでてくる。
まあ、くっつくことは無いけどな(=゚ω゚)ノ