朝起きると、見知らぬ部屋にいた。
ベットに寝ているようだが、ここはどこなのだろう。
「ぷいにゅ~」
おかしいな。
なんか見知らぬ生物がいる。
魔法界でも旧世界でも見たことも聞いたこと無い。
頭の上によじ登ってくる不可思議生命体をどうしたものかと思っているとドアが開いた。
「あ、起きてる!アリシアさ~ん、男の人が目を覚ましました~!」
はひ~と慌ててるんだが、俺の方が慌てたいくらいだ。
下の階に降りると、いっぱい人がいた。
なんか、アリシアとかいう人から話を聞いておもしろそうということで人が集まったらしい。
なんで女の人ばっかりなんだろう。
「・・・・・つまり、俺は昨日この会社の前の海に浮かんでいたと。
ついでに、ここはネオヴェネチアということですか」
そういうことらしい。
昨日は普通に生活してたハズなんだが・・・・・いや、待て
たしか、アルが新しい転移魔法を開発したとかで実験に協力させられて、それから・・・・・・記憶が無い。
答 アルのせい
これからどうしよう・・・・・。
話を聞く限り、ここは旧世界でも無い別世界。
理由としては、まず時代が違うし、違う星に移住なんて聞いたことも無い。
あと、あの不可思議生命体(火星猫というらしい)なんて聞いたことも無い。
唯一の救いは杖も持ってきているということくらいだろう。
「それで、どうしてあんなところに浮いていたんですか」
まあ、別世界だし魔法の秘匿とかは気にしなくてもいいだろう。
誰にもバレないし、むしろ嘘をつくにしても上手い嘘が思い浮かばない。
俺は魔法使いで、仲間の魔法が失敗した影響で別世界からやってきましたと正直に言ってみた。
「すわっ!!嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ!」
ですよね。
「それが嘘じゃないんですよ。ほら」
杖に跨って空を飛んで部屋を飛び回ってみるとみんな驚いてた。
「でっかいびっくりです」
「はひ~、なら料理を出したりもできるんですか?」
どうやら、こっちの世界の魔法使いのイメージは旧世界の絵本とかに出てくる魔法使いのようだ。
「いや、そんな魔法はないなぁ。炎の矢を飛ばしたり、瞬間移動?みたいなのとか怪我の治療とかならできるんだけど」
「炎の矢とはずいぶん物騒だな」
「まあ、俺の世界はつい最近まで戦争中でしたしね。俺も参加してましたし。
それに戦争が無くても魔法使い同士がどこかで戦ってるのが普通でした」
魔法世界の予想外の状況にみんな驚いていた。
魔法世界にメルヘンはありません。リアルのドラゴンとかは会っただけで死亡物です。妖精だって戦います。
スプラッタならご期待に答えられます。
「あらあら、でもどうしてあなたは戦争に参加していたのかしら。
そんなことを進んでやるような人には見えないんだけど」
よくぞ聞いてくれました。
ナギとの出会いから、戦争が終わって英雄扱いされるまでを語った。
すると、ず~んって音がしそうなくらいみんなが落ち込み空気が重くなった。
さっきまで笑顔を絶やさなかったアリシアさんからも笑顔が消えて、顔を俯かせて重い空気を背負っている。
「まあ、その、なんだ・・・元気出せ。今度クルミパンやるから」
晃さんに慰められて、その後もみんなに慰められた。
魔法世界とは違って、ここの人は優しいです。
その後、これからのことが決まるまではARIAカンパニーでお世話になる事になった。
紅き翼の専属料理人の力を見せるときが来たようだ。
それから、一ヶ月くらいARIAカンパニーの料理人として生活をした。
みんな料理を褒めてくれた。別世界の料理をなかなか気に入ったらしい。
他の会社の人も時々食べに来る。
それからさらに一ヶ月くらいしてグランマに出会って、グランマに料理を食べてもらったところ、グランマの出資で料理の店を出すことになった。
ヒモ生活に終止符を打ててよかった。
喫茶ダニエル開店。
店を開いてしばらく経ったが、別世界の料理は好評で店も儲かっている。
アリシアさん達もよく食べに来てくれる常連さんになった。
魔法?杖は倉庫で埃かぶってるよ。
料理は魔法より強し。これネオヴェネツィアでの常識。
「それにしても、ダニエルくんの喫茶店も人気になったわね」
そうですね、これもグランマとグランマに紹介してくれたアリシアさんのおかげ。
「あらあら、まあまあ、そんなことないわ。
お店が成功したのも、この街に馴染んだのも全部ダニエルくんの力よ」
街に馴染んだというか、俺が今まであの殺伐とした世界で生きてきたのがおかしかったんだよな。
「いや、ほんとこの街はいいですね。平和だし、街並みも綺麗で」
「そうね、私もこの街が大好きよ」
「ぷいにゅ~」
店にアリア社長が現れて、俺の体をよじ登り肩に足をかけ、頭に手を置いた。
「あらあら」
「時々現れては俺の頭を占領するんですけど・・・」
「よっぽど気に入られたみたいね」
しかしアリア社長重い。痩せろ。
むちむちぽんぽんとか言ってる場合じゃない。
首が折れる。
そういえば、暁くんって子が時々食べにくるようになった。
本人はアリシアさん目当てのようだが、よく灯里ちゃんにいじわるしてるのを端から見ていると灯里ちゃんと仲良しにしか見えない。
あれか、好きな子にはいじわるしたくなるってやつ。
明日はボッコロの日だ。
*月*日
ボッコロの日の薔薇はアリシアさんに送った。
一番の常連さんへの感謝は忘れてはいけない。
灯里ちゃんは暁くんにもらったらしい。
暁くんは素直じゃない。ツンデレ?
*月*日
ナギ達がやってきた。
アルが転移魔法を完成させて、ラカンが転移時に気合を入れたらこっちに来れるようになったらしい。
俺は店まで出してしまったのでこっちに残ることにしたが、時々こっちに来てもらって編集さんに原稿を届けてもらうことにした。
しばらくはこっちの世界で学んだ料理で本が書ける。
でもあっちで金稼いでても意味ないよな。
*月*日
三大妖精と灯里ちゃんたちがグランマと一緒にやってきた。
料理が美味しいって言ってもらえてよかった。
*月*日
暁くんが来た。
アリシアさんはいないよと言うと落ち込んでいた。
モミ子をからかってくるって言っていた。
やっぱりツンデレ
*月*日
アリシアさんが来た。
灯里ちゃんの成長が嬉しいみたいなことを言っていた。
しかし、時折沈んだ顔をしていた。
*月*日
灯里ちゃんが友達と一緒に来た。
友達が一人前になったお祝いらしい。
サービスで新作の料理を出すと喜んでいた。
*月*日
晃さんとアテナさんが来た。
アリシアが最近元気ないけど、なにか知らないかと聞かれた。
元気ないのは知ってるけど、理由はわからないと言うと、そうかと言って落ちこんでいた。
*月*日
アリシアさんが来た。
溜息ばっかりついていたので、どうしたのかと聞くとぽつぽつと語り始めた。
灯里ちゃんが一人前になれる能力はあるけど、もう少し一緒に居たいと思って決断できない。こんなのいけないことなのに、と言っていた。
俺が「ちょっとくらいわがまま言っててもいいと思う。
灯里ちゃんならそれくらいで怒るとは思わないし、灯里ちゃんが一人前になったことを心から祝福できるようになったときにした方が喜ぶと思う」みたいなことを言うと、お礼を言われた。
元気が出たみたいでよかった。
*月*日
ネオ・ヴェネツィアの観光ガイドにうちの店が載るらしい。
『喫茶ダニエル
ここでしか食べられない料理が数多くあり、地元の人達にも評判のお店。
モーニングセットにランチセットもあります。
水の3大妖精も利用しているそうです。
ネオ・ヴェネツィアに来たらぜひ行ってみてはいかがでしょうか』みたいなことが書かれてて、食事に来る観光客が増えた。
*月*日
ウッディーくんとアルくんが来た。
アルくんは名前がちょっと苦手。
*月*日
明日は海との結婚とか言う日らしい。
暁君が言うには、男がウンディーネに指輪を贈る日らしい。
日本で言うと逆バレンタインか。
アリシアさんが来た。
ウンディーネは海との結婚のときに指輪を海に投げ込まないといけないらしく、指輪をもらっておく必要があるらしい。
俺のでよければ送らせてもらいますと言うと、本気でOKされた。
どうせくれる人いっぱいいるだろうから、冗談のつもりだったんだが。
女性に送る指輪を選ぶのは初めてなのでドキドキした。
*月*日
海との結婚の日。
アリシアさんに指輪を渡した。
左手の薬指にはめてたので驚いたが、そういう決まりらしい。
海にウンディーネの漕ぐゴンドラが並んだ光景は壮観だった。
*月*日
店に来た暁君が落ち込んでた。
理由を聞くと、アリシアさんに指輪を渡そうとしたら既に誰かから貰っていたらしい。
それ俺だ、と言うと首をつかまれてガクガクと揺らされた。
*月*日
今日は新年を迎える日
みんなに誘われたので一緒に行くことに。
お祭り騒ぎでおもしろかった。
最後に新年を迎えるときに何かを投げるのがお決まりらしいので、倉庫で埃をかぶってた杖を投げることにした。
アウグーリオ・ボナーノ!!
あとがき
本編の方はクライマックスをどう書くかで悩み中。
少しずつ草案はまとまってきているので近日中にクライマックスが書けそう。
しかし、戦闘メインの話とかはダンをどう書くかが難しくて困る。
特にアリカ救出のところはナギ以外の参加メンバーは戦っているだけなのでダンが書きづらい。
今回のはふと、ダンが幸せに暮らせるのはARIAみたいな世界くらいじゃないかと思って書いてみた。
アリシアさん達とほのぼのしてるのがしっくりきた。
おそらくダンは生まれる世界を間違えた。