本日も絶好調に人助けをしている俺だが、アリカ様が投獄されたという報告を受けてびっくりした。
なんでも、戦争のこととか完全なる世界のこととかで濡れ衣を笑えるくらいに被せられたらしい。
メガロメセンブリアの老害共の仕業だとか言っていた。
2年後に処刑されるらしい。
アリカ様が奴隷公認法とかいう法律を決定したこともあって、民心はアリカ様を憎むほうに傾いているようだ。
まあ、あれは奴隷とは言っても過度の暴力とか危険な扱いは禁止されてるし最低限の人権もあるので、実質のところ借金の形になってしまったお手伝いさんと言ったところだろう。
この奴隷公認法も各国にすさまじい数の難民の受け入れを認めさせるために必要なもので、さらに奴隷の扱いについて奴隷とは言えないほどの条件で正式に条約まで結ぶことに成功したアリカ様はなかなかやり手だとアルが言っていた。
まあ、実際奴隷になった人からすればそんなもん知ったこっちゃないんだろう。
世界中に渦巻くやり場の無い憎しみに対する生贄とかアルが言っていたが、そんなこと言ってる場合じゃないだろうとナギを探しに出た。
ナギを見つけたのだが、ナギの眼前にはクルトからの通信映像が浮かび上がっていてナギに罵声を浴びせている。
話を聞く限り、ナギは今すぐにアリカ様を助けるための行動を起こそうとはしていないようだ。
クルトはそのことを怒っているみたいで、メガロメセンブリアの元老院を告発し、アリカ様を救出しなければと言っている。
濡れ衣とはいえ、公的には歴史的に希を見る大犯罪者のアリカ様を助けることは非常に危ない橋だ。
場合によっては、俺たち全員世界の敵に逆戻りになることも覚悟しないといけない。
このままアリカ様を見殺しにすれば、俺たちは英雄のままでいられて、俺も平穏無事に暮らせるようになるのかもしれないが、流石にそれは寝覚めが悪い。
英雄としての名誉と以前からの望みの平穏無事な生活よりも、アリカ様も含めた仲間たちと一緒に世界の敵をやってる方がいいと思うようになったあたり、ナギとかラカンの馬鹿が伝染したのかもしれないなと苦笑がこぼれた。
今回はその感染源のナギが柄にも無くいろいろと悩んでいるようだが、まあ、そっとしとけばそのうち俺の部屋のドアを蹴り破って、いつものように俺を無理矢理連れて助けに行くことになるんだろう。
「おや、ナギと話をしなかったのですか?」
そのまま戻ると、アルが話かけてきた。
「あなたの口から言えばナギはすぐにでも動き出すでしょうに」
「お前だって理由くらいわかってるだろ」
今回のことはナギ自身の決断が重要だ。
英雄が大犯罪者を助けたなんてことが公になると魔法世界に混乱が起きるだろう。
もしかすると、下手すると、またたくさん人が死ぬようなことになるかもしれない。
流石にこれは誰かの意見に身をまかせていいようなことじゃない。
「ふふ、まるで夫を見守る妻のようですね」
変態がきもいことを言うので俺はその場を去ろうとアルに背を向けた。
「それにしても、ナギが動くまで待つ、ですか。
しかし、今回、ナギは本当に必要ですか?」
俺は思わず足を止めた。
後ろからはアルが続けて声を発した。
「あなた自身が動いてみてはいかがですか?
もしあなたがそうすると言うのなら私は協力しますし、ラカンはどうだかわかりませんが、詠春も言いようによっては協力するでしょう、アリカ様を助けるともなればガトウも協力するでしょうし、ガトウが来るならタカミチも、もちろんクルトは喜び勇んで協力する。」
「今回の相手は完全なる世界ではありません。
今言ったメンバーなら、相手は所詮はただの軍隊。助けだせることはまず間違いありません」
「ほら、ナギがいなくても大丈夫」
「囚われのお姫様を助ける王子様になり、物語の主人公として舞台にあがってみてはいかがですか?
私の見る限り、あなたも彼女に少なからず好意を「馬鹿か」」
珍しく真面目な口調で急に何を言い出すのかと思えば、言ってることはいつもみたいな馬鹿話だった。
「王子様なんて柄じゃないのは、この世界の誰よりも俺自身が一番良くわかってる」
まあ、アリカ様に少し惹かれてるとこがあったのは否定しないけど。
始めはただの鉄面皮の唯我独尊な人かと思ってたら、攫われた時には弱々しい態度を見せるし、決戦前夜には俺を死なせないために行動してくれたしって、いろいろとイメージと違う側面見てるうちにな。
あとこれ重要なんだが、あの豊満なボディとかマジ半端無い破壊力。
昔アルが言ってた旧世界の名言の「美人はそれだけでいけない魔法ですな」ってのは真実だと思った。
「旧世界では、始めは情けない主人公が困難を乗り越えて成長するというストーリーはかなり人気があるそうですよ」
乗り越えたって言うよりは壁を破壊しながら進むやつに引きずられたって感じだけどな。
「じゃあ、俺もそろそろ怪我人の治療に戻るからお前も早く仕事に戻れよ」
俺が今度こそ歩き始めると、またもアルの声が届いた。
「私はそういうのもありなんじゃないかと思ったんですけどね」
俺は今度は足を止めること無く返した。
「ねーよ」
あとがき
流石にこの話で笑いをとるのは無理。
ダンに助けに行くのを嫌がらせるのも人道的にどうかと思った。
まあこれが現実なら、普通の人はこんな状況で助けに行くとかあり得ないってことになるんだろうけど、個人的にダンにはそういうキャラになって欲しくなかった。
あと、気づけばアルが悪者っぽくなってしまった。
最後に、もうすぐ20話なので赤松健板に移動することにします。