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No.14013の一覧
[0] 封じられた鞘(ネギま!×FATE、TSあり)  喪失懐古/八改訂[大和守](2010/09/08 09:15)
[1] prologue[大和守](2009/12/18 13:29)
[2] 封鞘墜臨 / 一[大和守](2009/12/18 13:30)
[3] 封鞘墜臨 / 二[大和守](2009/12/18 13:30)
[4] 封鞘墜臨 / 三[大和守](2009/12/18 13:32)
[5] 封鞘墜臨 / 四[大和守](2009/12/18 13:35)
[6] 封鞘墜臨 / 五[大和守](2010/02/12 14:11)
[7] 封鞘墜臨 / 六[大和守](2009/12/18 13:38)
[8] 封鞘墜臨 / 七[大和守](2009/12/18 13:38)
[9] 封鞘墜臨 / 八[大和守](2009/12/18 13:39)
[10] 喪失懐古 / 一[大和守](2010/01/18 15:48)
[11] 喪失懐古 / ニ[大和守](2010/01/19 17:10)
[12] 喪失懐古 / 三[大和守](2010/02/02 12:51)
[13] 喪失懐古 / 四[大和守](2010/02/12 16:53)
[14] 喪失懐古 / 五[大和守](2010/03/05 12:12)
[15] 喪失懐古 / 六[大和守](2010/03/26 11:14)
[16] 喪失懐古 / 七[大和守](2010/08/04 06:49)
[17] 喪失懐古 / 八[大和守](2010/09/08 07:49)
[18] 閑話 / 小話集・1[大和守](2010/09/06 18:19)
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[14013] 封鞘墜臨 / 五
Name: 大和守◆4fd55422 ID:fb470a4e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/12 14:11


 ――――ノイズ。

 ―――色彩が反転したセカイ(地獄)だった。

 ――――ノイズ。

 周囲は瓦礫の荒野しかなく、助けを求め中から突き出される手は犠牲者達の墓標となり、求められる救助は無く、呻きと嘆きは怨嗟と呪詛へと変わっていく。

 ――――ノイズ。

 疲弊する手足。
 荒くなる呼吸。
 磨耗する精神。
 失われるオト。
 止まるシコウ。
 響くオンネン。
 コワレタ硝子。

 ――――ノイズ。

 瞳に映るのは、真円を描く漆黒の太陽と、
 泣き出しそうな微笑でジブンを見下ろす――――

 ――――――場面が切り替わる。


 封鞘墜臨 / 五


「―――遅れました」
「申し訳ありません……」
 がちゃり、と静謐な空気を震わし、最後の二人が入室する。
 麻帆良学園、関東魔法協会施設の一角。協会内においてその意思決定を行う上層部の集合が掛けられて三時間後。
 集合理由は特に告げられなかったが、それは暗黙の了解に近い。
 学園都市への侵入者がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを殲滅寸前まで追い詰め、高畑・T・タカミチ以下数名によって拿捕されてから三日後の事である。
 身元不明の危険因子は現在治療中。拿捕の瞬間に謎の術を持って自決を図り、辛うじて一命は取り留めたものの未だ完治出来ずにいる。諸々の要因から覚醒されても困る為、催眠系の魔法も恒常的に施され続けているので、今、彼の因子は完全に彼らの手の上にあると言って過言ではない。

 遅れて、最後に入室した弐集院がまず疑問に思ったのは部屋の雰囲気だった。
 一言で言えば、重すぎる。
 その雰囲気を率先して――と言えば語弊があるかも知れないが――放っているのが麻帆良学園長・関東魔法協会長、近衛近右衛門と高畑・T・タカミチである事が不思議だった。
 確かに、今回の懸案は由々しき問題を多々孕んでいる。
 今現在をもって詳細を解析出来ていない(恐らくは、という注釈のついてしまう)転移魔法術式、ソレによって現れた侵入者、襲われた(被害者であるエヴァが多くを語らない為そう判断された)エヴァンジェリン・茶々丸の状態から判断されるその戦闘能力の高さ、不可解な行動原理。ざっと考えを巡らせただけでこれほどの問題がある。
 だが、現状、麻帆良を危険に晒す問題は無い。当の侵入者は確保し、世界樹も転移魔法の発現後は沈黙している。エヴァンジェリンへの対処は元々学園長と高畑、ツートップの方針を軸に、他の魔法使いは求められれば協力、以上の関係を持たず静観の構えだった。
 今回の件もエヴァンジェリンへの対処はあの二人が決めるだろうし、世界樹が完全に沈静化した、という報告は五日も前に出されている。となると今回の集合は今後、侵入者をどう扱うか、という一点に絞られ、かつ、当の侵入者を完全に制圧している以上、高畑や普段はともかく、有事の際でも不敵な言動を崩さない学園長がそこまで深刻になる理由が――いや、待て。
「………なんか、学園長も高畑君も妙にやつれてないかい?」
「……弐集院さんもそう思いましたか」
 弐集院の疑問に応えたのは偶然傍らに並び立った葛葉刀子。さらに、
「……なんか妙なんですよ。いつもなら待ち時間に世間話ぐらいするのに、二人してずーっと、たまに視線を合わせては外して、を繰り返して。此方には目もくれずに」
 これはひとつ向こうのガンドルフィーニ。どうやらこの疑問はここに集まった者共通の思いらしい。
 ………というよりも。
「―――学園長、全員集まりましたが?」
 明石の声でようやく気がついたように、こちらを見る。目に光が無い―――とまではいかないが、やはり、常よりは暗く、疲弊の後が見て取れる。
 普段周囲にそういった雰囲気を微塵も感じさせないだけにそれは一種の衝撃であったし、何か良くない事があったのかと不安を抱かせるモノだった。

「さて―――今回の集合、その理由は皆も判っていると思うが。件の侵入者の件じゃ」
 学園長の一言で、こちら側を窺って訝しげだった皆の表情が一気に引き締まる。
「まず―――今の彼女の容態は?」
「何とか日常生活に支障ないレベルまでは。体内で暴走状態だった魔力を一時限界まで搾取した事で、あの“体内から剣が生える”現象も沈静化しました。魔力の回復と共に発現する条件発動型の魔法かと考えましたが、それと思われる魔法陣等の術式を身体内外に施している様子も無い為、原因は不明です。引き続き現在も魔力回復の抑制と治癒・催眠を継続しています」
「――――、ふむ」
 一拍。
「転移魔法陣の詳細解析は」
「そちらは謎、としか。正直に言って、お手上げですよ。何も分かっていません。何処が如何、ではなくて何処も彼処も。座標設定、発動条件、術式を解き明かす以前に翻訳が必要ですね。後は本国に検索を掛ける以外には」
「―――。そう、か」
 さらに、一拍。
「……あの」
「なにかの」
「いい加減、教えてくれませんか。お二方とも。―――学園長も高畑さんも、昨日まで丸二日も件の侵入者の病室に篭っていたでしょう。何かしらの情報を引き出したと思っていたのですが?」
 煮え切らない学園長と高畑の態度に業を煮やしたらしい。
 そう発言して来たのは葛葉刀子。侵入者拿捕の瞬間、現場にいた一人だった。
「まあ、そうじゃの。今、彼女を起こすのは危険と見て―――記憶を探ったのじゃが」
 言葉が、途切れる。
「…………?」
 どう切り出すべきか―――考えあぐねているらしい学園長に代わり、今度は高畑が口を開く。
「彼女が何故件の行動を起こしたかはおおよそ掴めた。前後して、彼女の境遇も。………結論を先に言ってしまえば、このまま学園都市で彼女を保護しよう、というのが僕と学園長の結論だ」
 途端、ざわり、と室内に動揺が走った。
「納得できません」
 間髪入れずに反論を差し込んできたのはガンドルフィーニ。
「彼女は危険すぎる―――魔力の隠匿性。弱体化していたとはいえ、『闇の福音』主従を打破する戦闘能力。我々に向かって示したと言う敵意。正体不明の転移魔法。危険因子として大きすぎる。保護する理由がありません。むしろ本国に強制送還こそ妥当と考えます」
 ―――それも、考え方の一つではある。
「それは学園長と高畑君が、保護すべきと考える理由を聞いてから決めるべきではないですか? なんの考えもなく保護すると決めたわけではないでしょう」
 そう、やんわりと意見の対立を和らげる発言は弐集院だった。
 しかし、そう水を向けられた二人は、
「―――まあ、ね」
「………そうじゃのう」
 此処にきて、なお言いよどむ。この二人にしては珍しい、と思ったのは弐集院だけではあるまい。
「甘いですよ。半端な考えで、わざわざ危険だと明確に分かるモノを、好んで引き込もうっていうんですか?」
「いや、保護と呼ぶ以上、危険視するべきではないと考えるに足る理由があるのでしょう?」
「――――」
 すう、と大きく一息ついて、

「――――実験材料だったようだ」

 そう、出来れば口にもしたくないコトを語りだしたのは、高畑の方だった。



 実験材料。
 穏やかではない、以前に。ヒトに対して使われるべきでない単語を、喘ぐように口にする。
「彼女が―――僕に対して、最後に投げつけた言葉がある。『もう二度と貴様らの実験材料にはならない』ってね。その直後に彼女の全身から剣が生えてきたから、アレは多分彼女が自分でそう仕向けたんだろう。正直、そんな事があったから頭から抜けてしまっていたけれど……確かにそう、言われたんだ」
 そこまで言って、途切れた続きを学園長が引き継いだ。
「彼女の身体は………正確には、器、肉体と呼ぶべきか。……彼女の、“生来のモノではない”。一度剥奪され、後に再び与えられた別物であるようじゃ。―――記憶を探った最初に出てくる人物が全くの別人での」
「……別人?」
「…………本来であれば、ガンドルフィーニ君や弐集院君位の年齢だよ」
「―――それが……あんな、その、子供に? 実験材料って、何の」
「彼女の記憶は、かなり混濁、と言うか、曖昧だ。記憶と認識“出来なくなってしまった”記録とか、知識、それらが混ざり合っている……というより、一部の記憶を“記憶とし続ける為に”他の情報管理を放棄した様な状態なんだよ。そこから汲み上げた情報を繋げていくと、多少の予測は立つけれど」
 高畑にしろ学園長にしろ、先程から随分と言葉を切る。話す内容を吟味しているようで―――話す事を躊躇っている様でもある。
「……実験内容は、彼女の使う魔法のようだ。彼女を拿捕する現場に居た者は少ないし、気づいたのはもっといないと思うけど―――彼女はね。魔力の運用方法が我々と少し違うんだ。その上、彼女にしか出来ない、彼女しか使えない魔法があった。アーティファクトも用いず出現する剣だよ。多分、それらの研究に利用されたのではないかというのが、僕と学園長の見解だ」
「…………、見解?」
「――――、身体を一度、剥奪されているんだよ? 視覚も。聴覚も。嗅覚、味覚、――――触覚。五感全てを剥奪された瞬間から、記憶というシステムの“入力”がされなくなった。その後の事は―――彼女の記憶だけでは、絶対に分からない」
「―――――――」
 絶句。それは、全身―――「からだ」を奪われた者だけにしか分からない、奪われたモノですら分かるかも不明な、『理解できない事』である。
 そんな、想像するだにおぞましい行為の犠牲。
「……では、彼女の身元を明らかにする術は無いと」
「―――それ以前の問題だろう!? 今の話を聞いていたのか、何故、」
「――――記憶の磨耗、損耗、劣化具合を鑑みるに」
 場を沈める為に放った言葉を一度切り、深呼吸を一回。
「恐らく――――少なく見積もって、十数年。さもなければ……三十年近く、『脳髄と神経だけで“生かされて”いた』と、思われる」
 少なくとも十数年。長ければ三十年―――その年数の意味する所は。

 なによりそれは―――言語に絶する、否、言葉では表し得ない。“陵辱”と呼ぶにもあまりに重過ぎる―――

「………転移魔法は彼女の意思とは一切関係の無い事だ。五感―――身体を剥奪されたと思われる記憶から、次の覚醒の記憶は―――既に転移した後の、彼女を最初に休ませた保健室のものだったよ。凄まじい混乱ぶりで………真っ先に疑ったのが、自分を利用した魔法実験らしい。『保存』され続けていたのなら、世情にも疎くて当然だ。彼女から見れば―――僕達も、自分を捕らえた何者かも、同じ“敵”としか映らなかっただろう」
「だが、ならば彼女には、彼女を狙い利用しようとする何者かがいる事になる。――――同じく、彼女を守ろうとする者もおるのだろうが、その者はこの地には来なかった。――――儂らが保護を提案したのはそういう事じゃよ。もう二度と、あの様な―――非人道的で凄惨な目にはあって欲しくない」



 ―――目が醒めた。
 半ばまで持ち上げた目蓋の向こうに、ぼやけた色彩を認識する。
 そのまま、まばたきを数度繰り返しながら首を巡らせる。短いオールバックの髪の男は、右に座っていた。

「――――アンタか」
「ああ」
「――――なかを、みたな?」
「………ああ」

 見た。
 学園長と共に。
 ソレは、記憶を垣間見続けた最後に、忽然と二人の前に現れた。
 無限に続く赤茶けた荒野の只中、墓標の如く無秩序に突き立つ剣の群れ。身を切る様な砂交じりの暴風の中、鷹の如く鋭く、絶望に染まった瞳で、侵入者(自分達)を見据える孤高の英雄。

 学園都市の意思は統一され固まった。
 『封印』されていた魔術使いの保護。偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)を目指す彼らにとって、魔術使いの境遇、『封印』というシステムを知れば全力で阻止に動くのは当然だった。
 だが、近右衛門も高畑も。故意にいくつかの事実を明かさなかった。
 それも二人で決めたこと。明かすべきではない、明かした時どんな事になるか分からない。身内を疑っているようだが―――それでもこの事実は重過ぎる。
 その結果として、今回の件は本国へも報告しない。一切の事実を「なかったこと」にする。

 後は、この意思決定の元、魔術使いにその旨を伝え、関東魔法協会に留まるよう説得を行うだけなのだが。

「――――なぜ」
「――――そうだね。君に伝わるかは分からないけれど。
 僕達も――――――目指しているからさ。正義の味方を、ね」

 それだけを聞いて、魔術使いは再び―――今度は催眠魔法に拠らず―――眠りについた。




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