昼間、奈良公園にファフニールの班が行った時に、ファフニールにとって理解し難い出来事が起こった。
クライスメイトである宮崎のどかがネギに告白をしたのだ。
旅館に帰ってきたファフニールは、夕食が終わってからこっそりと旅館を抜け出し、日課の修練をこなしていた。
しかし、いつもなら確実に3時間以上はやっている鍛錬を一時間程で練習を切り上げてしまった。
「愛、か。なんだ、愛って」
ファフニールは奈良公園で、のどかがネギに告白していた光景を思い出す。
どうやらその時のことが気になってしょうがないようだ。
「確実に叶うものでもないだろうに。逆に傷つくことだってあるんじゃねぇのか?」
ファフニールは知識でしかそういうことは知らない。
誰かを愛したり、愛してもらったり。
そんな経験はしたことがないからだ。
だから、のどかの行動の意味がわからなかった。
自分で自分を傷つけるかもしれない行動の意味が。
「……この世界に来てから独り言が多くなったな」
ため息を吐いてファフニールは旅館へと戻っていった。
「……風呂でも入るか」
またも独り言を呟きながらファフニールが旅館に戻ると、なぜかロビーで長谷川千雨と明石裕奈が正座していた。
「……いや、人の趣味に口出しはしねぇが」
何か珍しい物を見るような目で二人を見比べるファフニール
「コレが趣味な訳ねぇだろ! 物珍しそうな目でこっち見んな!」
正座をしながら周りに響かないように千雨は怒る。
「てかファフ君もヤバイって! 外に行ってたのがバレたら新田がうるさいよ!」
裕奈は新田に見つかる前に早く部屋に戻れと促す。
「あぁ、風呂入ったら戻る」
「入浴時間も過ぎてるっての!」
「うるせぇな、そのくらい……ん?」
記憶がなくなるくらい殴れば、とファフニールが言いかけたとき、慌ただしくロビーに4人のネギと、まき絵や古達が入ってきた。
「……」
ファフニールが無言で1体のネギを殴ってみると、何故か爆発した。
「あ、こら! なんだこの煙は!?」
騒ぎを聞きつけてロビーに戻ってきた新田であったが、残った3人のネギに膝蹴りを食らって気絶してしまう。
「ネギ君逃げたよー!」
「こーなったらヤケですわ! 追いかけますわよ!」
「何なんだ、一体」
あやか達が去っていった方を見て、ファフニールは呆れながらロビーを去ろうとする。
「あれ、ファフ君もネギ君たちを追いかけるの?」
「いや、風呂入ってくる」
そう裕奈達に言い残してファフニールは風呂場へと向かった。
ちなみにファフ君と言われてもファフニールが何も言わないのは、もはや言っても無駄だと諦めたかららしい。
ファフニールが風呂から上がって来たらロビーでネギを含めたクラスメイトの大半が新田の監視の下、正座をしていた。
「……流行なのか、それ?」
「「「違う!」」」
そしてファフニールも新田に捕まり正座をさせられたのは言うまでもない。
翌日の朝食後、アスナ、刹那、ネギ、カモ、和美、ファフニールの6名が人気の無い廊下に集まっていた。
「なるほど、昨日の騒ぎの原因はその仮契約カードってやつのせいか。ったく、それのせいで足が痺れて大変だったんだぞ」
そう、ファフニールは昨日新田に捕まったことにより人生で初めて足の痺れに襲われたのだった。
その時のファフニールが転げまわる姿をエヴァが見ていたら腹を抱えて笑っていたことだろう。
「いや~、ゴメンゴメン。でもファフ君もこういう世界の人だったとはね、普通の人じゃないな、って思ってはいたけど」
「フン、それよりその仮契約カードってのはなんなんだ? 一昨日の戦いでそのバカが使ってた奴だろう?」
ちなみにバカとはアスナの事である。
「なんだい、ファフニールの旦那、こっち側の人間のクセに仮契約カードを知らなかったのかい?」
「俺の居た所じゃ、そんなものは無かったな」
「そうなのか? まぁ簡単に説明するとだな……」
そうしてファフニールはカモから仮契約カードについての説明を受けた。
「アーティファクトに小僧からの魔力供給による身体能力の向上ね」
「まぁそういうこったな。お、そうだ姐さんにもカードの複製を渡しとくぜ」
そう言ってカモはカードの複製をアスナに渡す。
「アーティファクトの出し方は、こう持ってアデアットって言うんだ」
「え~、やだなぁ」
呪文を言うのが恥ずかしいのか、アスナは渋りながら呪文を唱える。
「わ、ホントに出た」
自分の手の中に現れたハリセンを手に少し驚くアスナ。
「ま、こんな感じの道具さ。わかったかい、ファフニールの旦那?」
カモは少し得意気にファフニールを見る。
「大体は分かった。……コレ、俺のも作れんのか?」
「「「「「えっ!?」」」」」
カモの話しを聞いて中々使えると思い至ったファフニールの問いに、全員が驚いた。
「う~ん、旦那の仮契約かぁ。結構使えそうなカードが出てきそうだなぁ」
「ちょ、ちょっとカモ君!?」
ネギはカモが何を考えているのか分かったのか慌ててカモを止めようとする。
「いいじゃねぇか、兄貴~。男同士とは言え子供同士だぜ? 兄貴くらいの歳の奴らなら遊びでやったりするさ」
「い、いや、でも」
「え~い、覚悟を決めろ、兄貴! 今は少しでも戦力が欲しい所だろ!」
そう言ってカモは手際良く魔方陣を完成させる。
「さっ、旦那、この魔方陣の中に入ってくれ」
ファフニールは言われた通りに魔方陣の中に入り、ネギもカモと面白半分な和美に押され、魔方陣の中に入る。
アスナと刹那は興味津々といった感じで、止めようとはしない。
「んで? これからどうすればいいんだ?」
「おう、そのまま兄貴とキスしてくれ!」
カモは最も重大な事を最後の最後にファフニールに告げる。
「……キス?」
しばしファフニールは考える。
「なぁ、刹那。……キスってなんだ?」
「え、そ、それは……あ、あれだ」
突然ファフニールに問われ、自身もそういう話にあまり免疫のない刹那は口篭ってしまう。
「なんだよ、あれって」
「だ、だから……」
刹那は少し頬を染めてファフニールに耳打ちをする。
「唇を重ねる? それだけか、んじゃ、さっさとしろ小僧」
さぁ来いと言わんばかりに微塵の恥ずかしさも無い、と言うよりキスの意味をまるで理解していないファフニールにネギは戸惑う。
「……ちっ、女々しい奴だな!」
そう言ってファフニールはネギの顔を両手で挟み、強引に口付けをする。
「んむむっ!?」
「「「「い、いったー!」」」」
子供同士とはいえ、まだ中学生の彼女達にとってそれは中々過激な光景だった。
陰から見ていた某図書委員も顔を真っ赤にして釘付けになっていたという。
「よっしゃ、仮契約成立!」
淡い光と共に、カモの手(前足?)にファフニールの仮契約カードが現れる。
「ぷはっ!」
それと同時にネギも開放される。
「それが俺の仮契約カードか?」
「おうよ、旦那にも複製の方渡しとくぜ!」
ファフニールはカモから渡された仮契約カードを観察してみる。
そこには、傷だらけで、竜だった頃のような真っ赤な篭手を身につけたファフニールが描かれていた。
そしてそこに書かれた称号は“異界に落ちた敗北者”
「予想通り強力そうなカードだな、旦那! さっそくアーティファクトを出してみたらどうだい?」
「ん、そうだな。アデアット」
ファフニールが呪文を唱えると、ファフニールの前腕にカードに描かれている真っ赤な篭手が装着されていた。
「これは……」
ファフニールはその篭手から何か懐かしいものを感じた。
「ファフニール? どうかしたのか?」
神妙な顔で考え込んでしまったファフニールに刹那が声をかける。
「……いや、なんでもない」
「? そうか」
「いやー、それにしても強そうなアーティファクトじゃねぇか、旦那!」
こうしてネギ一行の修学旅行での戦力は、ネギに少しばかりの心の傷を残すともに整っていった。
後書き
ども、めっちゃお久しぶりのばきおです。
半年以上も停止してしまって申し訳ございません!
前のようなペースでの更新は無理ですが、少しづつ書いていきたいと思うので、更新速度に関しては何卒ご容赦を。
今回の話は少しばかり暴走してますね(汗
自分でこれはどうなんだろうと苦笑しながら書いてました。
ご指摘、ご感想などがありましたら、よろしくお願いいたします。