「やっぱりあの刹那って奴の仕業に違いねぇよ、兄貴! 」
旅館に着き、オコジョ妖精のカモが声を荒げる。
カモは新幹線で親書を何者かに奪われかけて以来、刹那が関西呪術協会の刺客だと疑っていた。
そして清水寺での嫌がらせの数々を刹那が影から見ていたこともあり、刹那への疑惑はますます深くなったのだ。
「確かにちょっと怪しいと思うけど……でも」
ネギは教師として生徒を疑いたくなかった。
しかし、エヴァンジェリンの事件もあって、もしかしたら、という思いもあった。
そんな話しをしていると、ネギのパートナーである明日菜が酔いつぶれたメンバーの報告にやってきた。
ネギはカモに言われて、明日菜に関西呪術協会に狙われていること、刹那がそれの刺客かもしれない、ということを話した。
そしてクラス名簿を見て、刹那が京都出身であることがわかり、カモの中で完璧に刹那は関西からの刺客になってしまう。
話し合いはまだ終わっていなかったが、職員は早めに風呂に入れと言われ、話しは夜の自由時間に持ち越された。
「いや、すまねぇ、剣士の姐さん! 俺としたことが目一杯疑っちまった!」
「ごめんなさい、刹那さん……ぼ、僕も協力しますから、襲ってくる敵について教えてくれませんか!?」
風呂場でこのかが小猿の式神にさらわれそうなり、刹那がそれを助けたことにより、疑いが晴れた。
そして就寝時刻に刹那を見つけたネギ達は疑っていたことを謝り、刹那に事情を聞いていた。
「……私たちの敵はおそらく関西呪術協会の一部勢力で、陰陽道の呪札使い。そしてそれが使う式神です」
そんなネギ達に刹那は敵についての説明をする。
曰く、呪札使いは西洋魔術師が従者を従えているように、上級の術者は善鬼、護鬼という強力な式神をガードにつけていること。
そして一番厄介なのは、刹那も修める神鳴流が護衛としてついた場合。
それを聞いたネギ達は慌てるが、刹那が言うには今の時代そんなことは滅多にないらしい。
刹那に一通りの説明を聞き、このかを守れればそれで満足だという刹那の思いも聞いたネギ達は、関西呪術協会からクラスのみんなを守るため、3-A防衛隊を結成した。
「あ、そうだ、刹那さん!」
早速外の見回りに行こうとしたネギが刹那に呼びかける。
「なんですか?」
「刹那さんはファフニール君と同じ部屋に住んでますよね?」
ちなみにこのことはクラスのみんなが知っている。知れ渡った時の刹那や真名への質問攻めは容易く想像できるだろう。
「え、えぇ、一応」
「前にファフニール君とエヴァンジェリンさんが言ってたんです。ファフニール君は魔法使いじゃないけどこっち側の人間だって。後、ファフニール君はドラゴンだとかなんとか。それについて何か知らないかなぁ、と思って」
初めてエヴァと戦った時、その場に居たファフニールとエヴァンジェリンの会話を思い出すネギ。
「えぇ!? ちょ、ちょっと! なんでそんな大事なこと黙ってんのよ!」
「そうだぜ、兄貴! もしかしたらあいつが関西のスパイかも知れないんだぜ!? そ、それにドラゴンってのはどういうことだよ!?」
明日菜とカモはネギから聞かされていなかったらしく、驚いた声をあげる。
刹那の方もファフニールがドラゴンだという話は聞いておらず、驚いていた。
「す、すいません。色々忙しくて、言う暇が無かったんですよ~」
「ネ、ネギ先生、ファフニールがドラゴンだという話は?」
初めての情報に刹那は少し動揺しながら、ネギに伺う。
「はい、エヴァンジェリンさんは信じてないみたいでしたけど、ファフニール君はこんな姿だから信じる信じないは勝手だって言ってて」
その時の様子を思い出しながら、ネギは話す。
「つまり真偽はわかんねぇってことか……どう思います、刹那の姐さん」
「……ファフニールについては詳しくは知りません。私も学園長に監視をしてくれと頼まれただけなので……ただ」
一旦刹那は言葉を区切る。
「ただ?」
「……彼は敵ではないと思います。私の仕事も実戦訓練、とか言って勝手に手伝ってくれますし、私が見ていても怪しいところはないですし。それにもしも敵にまわっても、今のところ対処できない相手じゃないですよ」
普段、刹那はファフニールにキツく当たっているが、何故かファフニールに対して妙な親近感を持っていた。
根拠はまだ自分でもわかっていないらしい。
「そうですか……わかりました。ではとりあえずファフニール君の事は保留ということで。じゃあ、僕外の見回りに行ってきます!」
刹那の話しを聞いてネギは走り去っていく。
「あ、ちょっとネギ!」
「いえ、いいですよ。私達は班部屋の守りにつきましょう」
ネギが外の見回りに行ったので、刹那と明日菜は部屋の方に戻っていった。
「兄貴兄貴! 杖とカードは持ってるか!?」
「うん、大丈夫!仮契約カードもしっかり持ってるよ」
「うむ、刹那の姐さんの話だと敵はかなり手強い可能性もあるからな。エヴァンジェリン戦の時には言う暇のなかった、そのカードの使い方をきっちり教えといた方が良さそうだ」
「え? 使い方ってどういう……」
ネギは走りながらカモと話していて、出口にいた従業員に気付かず衝突してしまう。
「あああ、すいません!」
「いえ、こちらこそ申し訳ございませんお客様!」
衝突の際にぶちまけてしまったタオルを拾い集めて、ネギは見回りの方に戻った。
そして走り去るネギは見送ってから、従業員の女性は
「入れてくれておーきに、坊や」
そう、呟いた。
「ほな、お仕事はじめましょか」
意気揚々と旅館の中に入る謎の従業員こと天ヶ崎千草。
彼女こそが、いままで散々3-Aにいやがらせをしていた関西呪術協会の呪札使いだ。
「おい」
しかし、入ってすぐに赤髪の少年、ファフニールに呼び止められてしまった。
「な、何か御用ですか? お客様」
「呪術協会、だっけか? 気配くらい消してから侵入してこいよ」
「な、何を言うとるんですか?」
「演技はやめとけ。気配には敏感なんでな、クラスの奴以外の普通じゃないのが入ってくりゃすぐにわかる」
とりあえず従業員のふりをしてやりすごそうとした千草だったが、ファフニールには通じなかったらしい。
「くっ、猿鬼! このかお嬢様を!」
ファフニールの意識を逸らす様に、召喚された猿の着ぐるみのような式神がファフニールの横を通り抜けていく。
ここにファフニール以外の人間がいたらその俊敏さに驚いていただろう。
しかし、ファフニールは猿鬼に視線を向けることもなく、追う気配すら見せない。
「な、なんで追わへんのや! 普通追うやろ!」
「別にお前が誰を襲おうが関係ねぇ。それに、ここの人間を甘く見ない方がいいぜ?」
そう言って千草が引いてきた籠を押して、外へ追い出すファフニール。
ファフニールに予想外の力で押され、千草は外に出てしまった。
「お前は敵だろ? なら遠慮はいらねぇよな?」
不適な笑みを浮かべてファフニールは構えを取る。
「あんまりウチをなめないで欲しいどすなぁ」
そう言って千草は札を手に取り何か呟くと、煙に包まれた。
煙がはれると、何故か千草は熊の着ぐるみに身を包んでいた。
「何の冗談だ?」
「冗談じゃおまへんよ。ほな、さいなら」
いざ戦うのかと思いきや、着ぐるみを着た千草は逃げ出していた。
「んな!? 逃げんのかよ!?」
そんな千草をファフニールは追いかける。以外と逃げ足の速い千草だったが、ファフニールの方が僅かに早かった。
「く、しつこい坊ややな」
大きく飛び上がるもファフニールは尚も食らい付いてくる。
そのまま橋に着地をした。
「く、熊!?」
「あら、さっきはおーきに、カワイイ魔法使いさん」
着地した先には見回りに出ていたネギとカモが居た。
「おらぁ!」
そこへ落下の速度を利用したファフニールのとび蹴りが千草に襲い掛かる。
「ち、もう追いついてきはったか」
「ファ、ファフニール君!? 一体どうなってるの!?」
千草はファフニールの攻撃を紙一重で避けて、ネギはファフニールの突然の登場に驚いていた。
「見てわかんねぇか? 敵だ、敵」
そう言ってファフニールは千草に攻撃を仕掛ける。
純粋な術師である千草では、格闘戦ではファフニールには及ばない筈なのだが、熊の着ぐるみのおかげなのか、なんとか対処していた。
しかし、ファフニールの右ストレートが腹に決まり、吹っ飛んでいく。しかし着ぐるみのせいであまりダメージは与えられなかったが。
突然繰り広げられている戦いにネギは状況がいまいち把握できずに唖然としていた。
「ぐ、ガキや思うて油断しとったわ……ん? どうやら猿鬼の方はうまくやったみたいやな。余計なもんまで付いてきてるけど」
千草の目の前に猿の着ぐるみが降り立つ。そしてその腕には、このかが抱えられていた。
「このかさん!?」
「ほな、お嬢様が手に入ったら、長居は無用や」
「お待ちなさい! ラス・テル・マ・スキ……もが!?」
「ちっ」
やっと状況が飲み込めたネギは魔法で千草を攻撃しようとするが、小さな猿に口を塞がれ、詠唱に入れない。
ファフニールの方も猿に邪魔をされすぐに追えそうになかった。
「ネギ先生!」
「ネギー!」
そこに猿の着ぐるみを追ってきた刹那と明日菜がやってきた。
「ごめん! このかを変な猿にさらわれちゃって」
「はい、急いで追いましょう!」
小猿を排除しつつネギ達はこのかを連れ去った千草を追う。
「ファフニール、何故お前が」
「ふん、変な女に出くわしてな、それを追ってただけだ」
少しして、ネギ達は千草に追いついた。
「あ、マズイ! 駅に逃げ込むぞ!」
カモの指摘に、一行は駅の改札を飛び越え、千草が乗り込んだ電車に発進寸前で滑り込む。
ちなみに駅にも電車内にも千草の貼った人払いの札のせいで人一人見当たらなかった。
「ネギ先生、前の車両に追い込みますよ!」
「そーはいきまへん。お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」
瞬間、千草の放った札から水が大量に放出され、瞬く間にネギ達のいる車両は水で満たされる。
「おぶ、溺れるー!」
「くっ!」
「ホホ、車内で溺れ死なんようにな、ほな」
隣りの車両へと移っていた千草は余裕で笑っている。
逆に一行は溺れ死ぬのは時間の問題、という所まで追い込まれている。
「(ぐっ、息が……この水では剣も振れない……やはり私は未熟者だ……このかお嬢様……)」
諦めかけた刹那の脳裏に浮かぶのは幼き頃、溺れて、刹那に助けを求めるこのか。
そしてそれを助けられなかった自分。
刹那は目を見開き、気を籠め、夕凪を振るう。
そのおかげで、隣りの車両への扉が破壊され、水がそちらにも流れ込み、なんとか窮地を脱出できた。
やがて次の駅につき扉が開いて、水と共にみんな外へと流された。
「み、見たか、そこの熊女。嫌がらせはやめて、おとなしくお嬢様を返すがいい」
「ハァハァ、なかなかやりますな。しかし、このかお嬢様は返せまへんえ」
「え?」
「このか、お嬢様?」
何故誘拐犯がこのかをお嬢様と呼ぶのか、ネギと明日菜にはわからなかった。
戸惑っている内に千草は逃げ出していた。
「あ、待て!」
ネギと明日菜は追いながら刹那に事情を聞く。
刹那の推論によると、彼女はこのかの力を利用し、関西呪術協会を牛耳ろうとしているらしい。
まさかそんな大事になっているとは思っていなかったネギと明日菜は驚いた。
「フフ、よーここまで追ってこれましたな」
駅を出た大階段で千草は熊の着ぐるみを脱いで、立っていた。
「あ、さっきの!」
「熊が脱げた!?」
ネギは敵が見回りに出たときにぶつかった女性だと気付いた。
「せやけど、ここまでや。強力なんいかせてもらいますえ」
「おのれ、させるか!」
刹那が札を使わせまいと、千草に切りかかるが僅かに遅い。
「お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす。食らいなはれ! 京都大文字焼き!」
千草が放った札は巨大な大の字の炎になり、刹那の進攻を阻む。
「うあっ!」
「桜咲さん!」
危うく炎に突っ込みそうになった刹那を明日菜が浴衣の帯を掴んで引っ張り戻す。
「ホホホ、並の術者ではその炎は越えられまへん。ほな、さいなら」
千草がネギ達に背を向け、その場を去ろうとする。
しかし、その炎をいとも簡単に越えてきた者がいた。
「は、こんな体になっても、耐性は残ってたみてぇだな」
ファフニールだ。彼の衣服の所々は焦げているが、ただそれだけ。自身にはなんの外傷もない。
まったくの予想外なことに、千草は焦るが、熊の着ぐるみ、熊鬼が動き、ファフニールの攻撃を防ぐ。
「ち、またこの熊か!」
絶好のチャンスを逃したファフニールは一旦距離を置く。
そのまま戦闘を続行してもよかったが、後ろでネギが魔法を唱えようとしていることに気付いて引いたのだった。
「吹け、一陣の風、風花、風塵乱舞!」
詠唱が終わると共に、巨大な炎をかき消すほどの風が吹き荒れる。
「な、何やー!」
「うおぅ!」
敵のそばに居たせいで体重の軽いファフニールはネギの魔法によって吹っ飛んでいってしまった。
「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で、大事な友達です!」
ネギは小さな杖と仮契約カード手に、呪文を唱える。
「契約執行180秒間! ネギの従者、神楽坂明日菜!」
呪文が唱え終わると、明日菜の体が力強い光に包まれる。
「行くよ、桜咲さん!」
「え、あ、はい!」
ファフニールが炎の向こう側に居たので、全員ネギの魔法でファフニールが吹っ飛んでいったことに気付いていない。
「アスナさん、パートナーだけが使える専用アイテムを出します! アスナさんのは『ハマノツルギ』、武器だと思います! 受け取ってください!」
「武器!? そんなのあるの!? よーし、頂戴、ネギ!」
「能力発動、神楽坂明日菜!」
ネギがカードをかざし、呪文を唱えると、明日菜の手が光りだす。
「な、何コレー! ただのハリセンじゃない!」
「あ、あれー、おかしいな?」
光が収まり、明日菜の手に収まっていたものは、到底武器として使い道のなさそうなハリセンだった。
「神楽坂さん!」
「ええーい、行っちまえ、姐さん!」
「もー、しょうがないわねっ!」
半ばやけになり、千草に切りかかる明日菜と刹那。
しかし二人の攻撃は猿鬼と熊鬼に阻まれる。
「げっ、コレって動くんだっけ!?」
「さっき言った善鬼護鬼です! 見た目に惑わされないで下さい、神楽坂さん!」
「ホホホホ、ウチの猿鬼と熊気はなかなか強力ですえ、一生そいつらの相手でもしていなはれ」
千草はこのかを担ぎ上げ、その場を去ろうとする。
「このか! このー!」
それにいち早く気付いた明日菜はハリセンで猿鬼に一撃を加える。
その一撃で猿鬼は煙となって消えていく。
「んな!?」
「す、すごい、神楽坂さん」
その場にいた者全てが驚く。
「な、なんかよくわかんないけど行けそーよ! そのクマ? は任せてこのかを!」
「すみません、お願いします!」
そう言って刹那は熊鬼を明日菜に任せ、千草に切りかかる。
しかし
「え~い」
「なっ!? 」
鉄と鉄がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。またも千草への攻撃は誰かによって防がれたのだ。
「どうも~、神鳴流です~。おはつに~」
「え? お、お前が神鳴流剣士?」
「はい~、月詠いいます~」
間延びした喋り方に、メガネをかけたゴスロリの入ったファッション。
自分の知る神鳴流のイメージとあまりにかけ離れた相手に少し戸惑う刹那。
「見たとこ、あなたは神鳴流の先輩さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気でやらせていただきますわ~」
「こんなのが神鳴流とは……時代も変わったな」
「フ、甘く見てるとケガしますえ。ほなよろしゅう、月詠はん」
「で、では、一つお手柔らかに~」
そう言って月詠は刹那に襲い掛かる。
「くっ!」
刹那が自分の背丈と同じくらいの野太刀を使ってるのに対し、月詠が扱うのは標準サイズの刀と短刀。
小回りが効き、月詠の腕前もあって、刹那は苦戦を強いられる。
「ホホホ、伝統か知らんが、神鳴流剣士は化け物相手用のバカでかい野太刀を後生大事に使うてるさかいな。小回り効く二刀の相手をイキナリするのは骨やろ?」
刹那を嘲笑うかのように千草は言う。
「ざ~んが~んけ~ん」
「くっ!」
間一髪避けた刹那の前で轟音が響く。
「さ、桜咲さん!? って、いやー! なんなのよこれー! またおサルがー!」
熊鬼の相手をしていた明日菜の浴衣を小猿の式神が脱がし始める。
「ホホホ、これで足止めはOKや。しょせん見習い剣士に素人中学生やな」
まんまと刹那と明日菜の足止めに成功した千草は、このかを小猿に運ばせて、逃げようとする。
しかし、このかを手放したことが千草の最大の隙となる。
逃げようとする千草の耳に詠唱を始めるネギの声が聞こえる。
「風の精霊11人、縛鎖となりて、敵を捕まえろ!」
「あぁ、しまった! ガキを忘れてたー!」
「もう遅いです! 魔法の射手、戒めの風矢!」
思い出したのは時、既に遅し。千草を捕らえる為の魔法の矢が千草に襲い掛かる。
「ひぃっ! お助けっ!」
千草は本能的にか、このかを盾にして魔法を防ごうとする。
「あ、ま、曲がれ!」
それに気付いたネギが慌てて放った魔法の軌道をそらせ、このかへの直撃を避ける。
「……あら?」
「こ、このかさんをはなしてください、卑怯ですよ!」
「はは~ん、なるほど、読めましたえ。甘ちゃんやな、人質が多少怪我するくらい、気にせず打ち抜けばえーのに」
「いや、まったくその通りだと思うぜ?」
千草の発言に賛同する者が一人、しかしその者は千草の首根っこをガシっと掴む。
「あ、ファフニール」
「わ、忘れてた」
「一体どこ行ってたんですか?」
三者三様にファフニールの登場に驚く。
「何処行ってたんですかだぁ?」
「あたたっ!」
ネギの言葉を聞いた途端に千草を掴む手に力が入る。
「てめぇの魔法で吹っ飛ばされたんだろうがー!」
吹っ飛ばされた時に頭を打ったのか後頭部にタンコブが出来ているファフニール。
遂に怒りが頂点に達したのか、それはもう綺麗なオーバースローで千草をブン投げる。
千草はなすすべも無く、このかから手を離し、空中に放られる。
「あひぃー!」
「あ、兄貴、チャンスだぜ!」
「え、う、うん。風花、武装解除!」
カモに言われ、敵の装備を吹き飛ばすネギ。
ネギに続き、刹那も己の敵を振り切り、千草に攻撃を仕掛ける。
「秘剣、百花繚乱!」
刹那の技を受け、千草が吹っ飛んでいく。
なんとか立ち上がる千草を三人が睨みつける。
「な、なんでガキがこんな強いんや……」
己の不利を悟った千草は額に2と書かれた猿鬼を呼び出し、月詠と共に逃げていく。
「このかお嬢様! お嬢様、しっかりしてください!」
刹那はいち早く倒れているこのかに駆け寄り、呼びかける。
「……ん、あれ……せっちゃん……」
刹那の呼びかけにこのかが目を覚ます。
「あー、せっちゃん、ウチ変な夢見たえ……変なおサルにさらわれて、でもせっちゃんやネギ君やアスナやファフ君が助けてくれるんや」
「よかった……もう大丈夫です、このかお嬢様……」
刹那がホッとした笑顔を見せる。
「よかったー、せっちゃん、ウチのこと嫌ってる訳やなかったんやなー」
そんな刹那の顔を見てこのかは少し涙を浮かべて、安心した笑顔を見せる。
「え、そ、そりゃ私かてこのちゃん話し……」
刹那は途中で自分が素で喋っていることに気付き、慌ててこのかから離れる。
「し、失礼しました!」
「え、せっちゃん?」
「わ、私はこのちゃ……お嬢様をお守りできれば、それだけで幸せ……いや、それもひっそりと陰からお支えできればそれで……あの……御免!」
「あ! せっちゃーん!」
刹那は大階段を飛んで下りていく。
「素直じゃねぇ奴」
「確かにね。桜咲さーん! 明日の班行動、一緒に奈良回ろうねー! 約束だよー!」
明日菜の声に刹那は一度振り向いて、そして去っていった。
「大丈夫だって、このか。安心しなよ」
「でも……」
不安そうなこのかを明日菜が慰める。
「さぁてと、戦いも終わったことだし」
そう言ってファフニールは指をパキパキと鳴らしてネギに近寄っていく。
「さっきはやってくれたなぁ、小僧!」
「ひぃ~、ごめんなさ~い!」
ファフニールとネギの鬼ごっこが始まる。
もちろん鬼はファフニール。捕まったら鬼交代ではなく、ボコボコ。
「まったく、どこにあんな元気があんのかしら?」
「まぁ、楽しそうやし、ええんやない?」
ネギは全然楽しそうではなかったが、このかには楽しんでると見えているらしい。
そうして修学旅行で初めての戦いは幕を下ろした。
後書き
どうも~、ばきおです。
約一週間ぶりの投稿になります。
今回は少し長かったですね(汗
ご感想やご指摘などがあったら書いてください。
では!