「車内販売のご案内をいたします。これから皆様のお席に――」
京都へ向かう新幹線の車内アナウンスが流れる。
しずなとネギの挨拶が終わり、3-Aの生徒はワイワイと騒いでいた。
「まったく、電車内では少し自重したらどうだ?和泉みたいに腹壊すぞ?」
「そんな軟弱じゃねぇよ」
そう真名に言い返しながらファフニールは5個目の肉まんに手を伸ばす。ちなみに肉まんは超達から買ったものらしい。
ファフニールの右隣りには、出発前に肉まんを食べ過ぎて腹を壊していた和泉亜子が、前の席で行われているカードゲームに口を出していた。
「まぁ、普段あれだけ食べていれば、お前が腹を壊すなんてことはないか」
何処か馬鹿にするように真名は言う。
「毎回一言多いな、てめぇは」
そのやり取りは傍から見れば姉弟のようなやり取りだった。
そして早くも6個目の肉まんを袋から取り出そうとするファフニール。
だがその手に伝わってきた感触は肉まんとは程遠い感触。ファフニールが掴んだものは
「ゲコッ」
カエルだった。残りの肉まんも全てカエルになっている。
「……焼いて食うのもいいが」
それも一興と、驚いた様子もなくカエルを袋に戻すファフニール。
見れば残りの肉まんはすべてカエルになり、車内もカエルだらけになり、生徒達はパニック状態になっていた。
「これは、魔法か?」
嫌な顔をしつつも真名は取り乱すことはない。
そんな大量のカエルの内一匹が、怯えていた亜子に襲い掛かる。
「キャーーー!」
顔を覆って悲鳴を上げる亜子だが、一向にカエルが自分に触れる気配がない。
「ったく、カエルぐらいでピーピー騒ぐなよ」
亜子に飛び掛ってきたカエルは、ファフニールが掴み取っていた。
「あ、ありがと~、ファフ君」
「ファフ君言うな」
ベチョ、と亜子の顔に掴み取ったカエルを投げつけるファフニール。
「いや~~~~!」
カエルの嫌な感触を顔に受けながら、亜子は失神してしまった。
「……何をやってるんだまったく」
「んがっ!」
さすがに亜子が可哀想だったのか、呆れながら真名はファフニールに拳骨を食らわせる。
「カエルを集めるぞ。お前も手伝え」
「ち、わ~ったよ」
真名を睨みながらもファフニールはカエルを袋に詰め込みだす。
ファフニールはある程度真名に心を開いているらしい。
幸い、このクラスにはカエルを触っても平気な女子が多く、瞬く間に回収作業は終了した。
「あ、それ捨てんなよ。後で焼いて食うから」
「見境無しか!」
車内に本日2度目の小気味良い音が響き渡った。
「京都ぉー!」
「これが噂の飛び降りるアレ!」
「だれか飛び降りれ!」
「では拙者が」
「おやめなさい!」
「そうかここは飛び降りるために作られてんのか。人間も酔狂な遊びを考えやがる」
そう言いながら少しわくわくした顔で飛び降りようと身を乗り出すファフニール。
「あなたもです!」
しかしそれは雪広あやかによって止められた。
「ここが清水寺の本堂、いわゆる清水の舞台ですね。本来は本尊の観音様に能や踊りを楽しんでもらうための装置であり、国宝に指定されています。有名な清水の舞台から飛び降りたつもりで…の言葉どおり、江戸時代実際に234件もの飛び降り事件が記録されていますが、生存率は85%と意外に高く……」
「うわ! 変な人がいるよ!?」
「夕映は神社仏閣仏像マニアだから」
新幹線内のカエルトラブルを乗り越え、無事に京都・清水寺についた一行のテンションは上がりに上がっていた。
ちなみにファフニールが食べようとしていたカエルは全て処分されたらしい。
「そうそう、ここから先に進むと、恋占いで女性に大人気の地主神社があるです」
綾瀬夕映の発言に一同はネギを連れ去って、地主神社の方へ向かっていった。
みんなが恋占いの石で盛り上がってる所を刹那は影から見つめていた。
「……なんだ? お前、そんなにアレに混ざりたいのか?」
「ファ、ファフニール!? ち、違う、私は任務の為に」
突然、ファフニールに声をかけられ刹那は少し驚いた。
「任務ねぇ、俺の監視に学園の侵入者の排除だろ? その他にもあるのか?」
さらりと自分の監視のことを口にするあたり、監視されていることをもうそんなに気にしていないらしい。
「あぁ、お前の監視は本来の任務のオマケみたいなものだからな」
「ふ~ん……お? なんかおもしろいことになってるな」
ファフニールの視線の先では、あやかとまき絵がカエルだらけの落とし穴にはまり、半泣きで明日菜とネギに救出されていた。
「今はカエルにまみれるのが流行りなのか?」
「そんな訳ないだろう」
刹那はネギ達から視線を外さずファフニールに突っ込みをいれる。
その際ネギが刹那達の方を見たが、刹那はさほど気にはしない。
そして次にみんなが向かったのは音羽の滝だった。
「ゆえゆえ! どれがなんだっけー!?」
「右から健康、学業、縁結びです」
「左、左ー!」
一斉に左の滝に群がる生徒達。
「恋、って奴か? 俺にはよくわかんねぇな」
そんなクラスメイト達の様子を見て、ファフニールは呟く。
「まだ子供なんだから、わからなくても良いんじゃないか?」
どうやら刹那はまだファフニールがどういう存在なのか知らないらしい。
「少なくともお前らの40倍近く生きてるんだがな。ん? なんかみんなぶっ倒れてるぞ」
「……どうやら滝の水が酒に変えられたようだな」
ファフニールの言葉に気になるところはあったものの、刹那は今までの出来事を分析する。
今までの一連のトラブルは、親書を西の長に渡るのを良しとしない連中の仕業だと。
刹那とファフニールの視線の先には、さすがに中学生が修学旅行中、酒飲んで酔いつぶれました、というのはまずいので酔いつぶれていないメンバーが必死に教師に言い訳をしている姿が映っている。
「……仕方ないな」
そうして酔いつぶれたメンバーをみんなでバスに押し込め、旅館に向かうことになった。
「お前、さっきのカエルといい酒といい、あれを仕組んだ奴に心当たりがあるみてぇだな」
バスの中で隣に座っている刹那にファフニールは尋ねた。
「……それを聞いてどうする?」
刹那は鋭い視線をファフニールに送る。
「もしもの時の為だ。情報はあった方がいい」
ファフニールに話していいものかどうか、刹那は少し迷ったが、結局話すことにした。
関東魔法協会の理事である学園長からの親書をネギが持っている事や、その親書の届け先である関西呪術協会の一部の者が親書を狙っている事などをファフニールに説明する。
さすがに、刹那の本来の任務である近衛このかについての説明はしなかったが。
「関西呪術協会、ね」
ファフニールは戦を予感する。
そしてその予感は日も変わらぬ内に的中することになる。
後書き
どうも~、ばきおです。
遂に修学旅行編突入です!その割に短いですね、すいません(汗
これから少し更新速度が落ちるかも知れませんが、見守っていただけると幸いです。
ご感想、批評など、どんどん書いてください。
では!