「ようこそ、麻帆良生徒、及び学生及び部外者の皆様! 復活した、まほら武道会へ! 突然の告知にも関わらず、これ程の人数が集まってくれたことを感謝します!」
マイクを片手に朝倉和美が高らかに宣言をする。
「優勝賞金は一千万円! 伝統ある大会優勝の栄誉とこの賞金。見事その手に掴んでください!」
ティア一行とファフニール一行が合流してから程なくして、本来ここで行われる筈だった格闘大会に出るため訪れていたネギと小太郎も一行に加わっていた。
本来小さな格闘大会が開かれる筈だったのだが、超鈴音がイベントを買収して、賞金一千万という大きな大会に仕立て上げたのだ。
その事実にネギ達は驚いていたが、超本人の登場と、彼女の言葉に更に動揺を強くする。
「私がこの大会を買収した理由はただ一つネ。表の世界、裏の世界を問わず、この学園の最強が見たい。それだけネ」
一般人に裏の世界と言っても理解は出来ないだろう。
精々、極道やマフィアを思いつくのが精一杯だ。
ざわつき始める会場を鎮めるように、超は声を上げる。
「20年前まで、この大会は元々裏の世界の者達が力を競う伝統的大会だたヨ。しかし、主に個人用ビデオカメラなど記録機材の発達と普及により、使い手達は技の使用を自粛、大会自体も形骸化、規模は縮小の一途をたどた……」
超の一言一言にネギ達は息を呑む。
裏の世界の意味を知るネギ達にとって、超がどれほど危ない発言をしているのかが分かっているからだ。
「だが私はここに最盛期のまほら武道会を復活させるネ! 飛び道具及び、刃物の使用禁止! そして……」
しかし、そんな彼等の心境を嘲笑うが如く
「――呪文詠唱の禁止! この2点を守れば如何なる技を使用してもOKネ!」
超はあっさりと、世界のタブーを破った。
周りとは違う意味で、騒然とするネギ達。
「へぇ、革命でも起こす気かしらね、あの子」
「この程度、革命なんて言えるかよ」
そんな中で、赤の少年と青の少女は愉快気に笑う。
ファフニールは超の目的に手を貸している。
ティアマトーは世界は楽しく回ってくれればそれでいい。
「面白い大会になりそーネ」
「一千万なら私も出てみるか。なぁ、楓?」
「そうでござるなぁ、バレない程度の力でなら」
古、真名、楓が大会への出場を表明する。
まさかの参戦者に、ネギは慌てるが、そこにエヴァとタカミチまで加わり、小太郎も少し慌てだす。
「あ、あの高畑先生が出るなら、私も出ます!」
そして明日菜も参戦表明。
刹那も調査の名目で出場を決めていた。
「楽しそうねぇ、私も出てみようかな? ね、ファフニール」
「俺に同意を求めるな、気色悪い。大体ルール有りでてめぇ潰しても、何にもならねぇんだよ」
ファフニールの言葉に不満そうな顔をするティアだったが、一転、何かを思いついたように笑みを張り付かせる。
「あぁ、そっかぁ。この前、二人がかりで何も出来ずに負けちゃったんだもんねぇ? 怖いのは当たり前かぁ。ゴメンねぇ、無理強いしちゃって」
言葉とは裏腹の噴出すのを抑えるのに精一杯な顔で、ファフニールの肩を叩くティア。
その完全に挑発だと分かる言葉にファフニールは、ピタリと動きを止める。
目の前のティアに目線さえ合わせることなく。
「それにぃ」
ティアは参戦表明していた人間を見回し、小馬鹿にする笑みを浮かべる。
「“弱いもの虐め”して一千万も貰えるなんて、最高の大会よね!」
何かスイッチが入ってしまったティアは、高笑いまでし始める。
そんな彼女の行動が、その場が凍りつかせた。
「貴様、何処かで見た顔だと思ったら、確かティアマトーとか言ったか。成る程、ファフニールの言ったとおり、関わりたくない輩だな……」
眉間を押さえ、口元を引きつらせるエヴァ。
いや、エヴァだけではない。古、真名、楓まで仄暗い笑みを浮かべている。
止まっていたファフニールが動きだし、エヴァの肩に手を乗せた。
「オレがやる……きっちりと、公衆の面前で灰にしてやる」
額に血管を浮き上がらせ、口元に獰猛な笑みを浮かべながら。
「本気になってくれた? あなた達も、私とやる事になったら本気で来てね? じゃないと、楽しくないから」
本性を現したティアと、ファフニール達の間に殺意と敵意が入り混じり、火花が散る。
「コ、コタロー君、胃がキリキリするんだけど。出場やめようかな、ボク……」
「お、俺もなんや腹痛くなってきたわ……」
その光景を目の当たりにした二人の子供は肩を震わせ怯えていた。
16名の本戦出場者を決めるための、予選会が始まった。
「おおっーと、強い! 麻帆中中武研部長、古菲選手! さすが前年度ウルティマホラ優勝者! 体重差2倍以上の男達が宙を舞うー!」
まず会場を沸かせたのは古菲だった。
小柄な少女である古から繰り出される拳撃で、大柄な男達が吹き飛ばされているのだ。
何より、古の知名度も沸かせる要因だろう。
「A組とB組、E組で何か動きがあったようです。おっ~とこれは」
朝倉が挙げた会場の周りでは、和んだ笑い声などで包まれていた。
「子供です! 思い切り場違いな小学4、5年生に見える子供! 会場が笑いと生暖かい微笑みに包まれます! これは仕方ない!」
B組には、超に父の名を出され出場を決意したネギ、E組には小太郎。
「しかもA組には女の子まで参加しています! 何を思って大会に参加したのでしょうか!」
A組にはティアとファフニールが同じ会場に立っていた。
そんな色物にしか見えない光景も、ネギが体重差10倍以上ありそうな巨漢を一撃で吹っ飛ばしたことにより、払拭される。
小学生や女子中学生が参加していることで、胡散臭さ抜群の大会になっているが、彼等の活躍により会場は大いに盛り上がっていく。
A組ではファフニールが1分もしない内に、半数の参加者を場外まで吹き飛ばしていた。
「フフフ、ファフニール・ザナウィ! 昼間の仕打ち、ここで返します!」
そんな中で、たまたまファフニールと同じ会場にいた高音・D・グッドマンがファフニールを指差し、声を上げる。
「行き――え?」
いざ攻撃を仕掛けようとするも、高音は最早動くことが出来ない。
気付いた時には宙を舞い、腹部に凄まじい衝撃が走ったと知覚する前に、地面へと叩きつけられていたからだ。
「喋る前に手を動かせ、小娘」
必要無しと判断しているのか、ファフニールは宙を舞う高音に視線すら送らず呟き、ゆっくりと自身のいた会場を見渡す。
視界に移るのは呻くこともなく倒れている男達と、その中心に立つ己の背丈より長い棒を持った少女が一人。
「こ、これは凄い! 並み居る格闘家を全てKOして、赤髪の少年ファフニール・ザナウィ選手、謎の美少女ティア・ウォータル選手、まさかの本戦出場ーッ! おっと? 両選手が歩み寄っています。あ、あれ? もう戦わなくていいんですよ~。ファフく~ん?」
歩み寄る二人に、何か不穏な空気を察した和美は、思わず素に戻ってファフニールを呼び止める。
そんな和美の声など聞こえないかのように、二人は止まらない。
二人の間合いが1メートルを切ったとき、ティアが疾風の如く棒を突き出す。
その神速の突きをファフニールは頬の皮一枚を犠牲にして避け、その捻った動きと連動させて左の拳をティアの端整な顔へと走らせる。
「……人間の体の動かし方、少しは慣れてきた?」
首を傾げたまま目を細め、ティアはファフニールに問いかける。
拳はティアに触れることはなかった。
「感謝しろよ? てめぇに借り返すために、ぬるま湯から上がってきてやったんだ」
だが捻じ込んだ。
届く場所まで、己の拳を。
口元を歪ませ、ファフニールはティアを見据えた。
「ふ~む、田中では相手にもならなかたネ」
予選会が終わり、まほら武道会の主催者である超鈴音は、薄暗い部屋で光るモニターを見ながら呟いた。
モニターには少女の一撃で崩れ落ちる、超が設計したロボット兵器、T-ANK-α3、通称田中が崩れ落ちる姿が写っている。
「ティアマトー・ヒューズレイか。魔法世界では知れた名前だな。悪行善行含めて有名だが、まさかお前と同じ世界出身、しかもお前の記憶に出てきてた竜だとはな?」
壁にもたれ掛かり、真名は頬杖をついているファフニールに視線を送る。
「ムカツク奴だが、正直言って、私は正面からは戦いたくない相手だな。勝算はあるのか?」
「ふん、あれこれ考えてから戦いに臨むのは人間くらいだろ。勝算なんざ戦ってる内に転がってるもんなんだよ」
因縁の相手との戦いの前にさえ、まったくいつも通りに振舞うファフニールに、真名は苦笑する。
「勝ち負けに関してはファフニールに任せるヨ。印象に残るよう、ド派手に戦ってもらえれば、ネ」
「一般人にとっちゃ、派手になるんじゃねぇか? 死人が出るかもしれねぇけどな」
そんなファフニール冗談とも取れない言葉に、超は困ったように笑う。
――本戦第5試合、赤き邪竜と青き賢竜がぶつかり合う。
あとがき
どうも、ばきおです~
今回も短めな話ですね(汗
次は悩み所な話になりそう……
感想、批評などございましたら、よろしくお願いします。
管理人様、お体にはお気をつけください。
でわ~