ファフニールがこの世界に来てから一夜明け、まだ部活の朝練がある生徒も集まらない時間に学園長である近衛近右衛門、広域指導員の高畑・T・タカミチ、そしてファフニールの3名が学園長室に集まっていた。
ちなみに今のファフニールは麻帆良学園の男子中学の服を着ている。
タカミチがファフニールに軽く自己紹介をして、学園長はファフニールに本題を切り出した。
「昨日は時間も時間だったんで聞けなかったんじゃが、君が居たという世界の事を教えてほしくてのう」
「オレの世界? そうだな……色々な種族がいたぞ。人間に魔族、魔物、精霊族、竜族。そんな奴らが2、300の国を作って暮らしてたな」
これ以上変に勘ぐられても面白くないと判断したのか、ファフニールは気だるそうにだが素直に喋りだす。
「人間の国は英雄と呼ばれた王達。魔族、魔物の国は魔王の位を持つ者達。竜族は竜帝。精霊族は6人の精霊王がそれぞれを治めてた」
学園長とタカミチは、ファフニールの挙動を注意深く観察しながら話を聞いていた。
「力は他の種族に劣るが一番数が多く、優れた武器や戦略、技術を持つ人間。強大な魔力を生まれ持ち、魔獣達を統率する魔族。魔力こそ魔族に劣るが、他の種族には真似出来ない様々な奇跡を起こせる精霊族。数は他の種族より少ないがどの種族よりも強い力をもった竜族。それが各種族の特徴だな」
一度二人に頭の整理をさせるためか、ファフニールは一旦話を止める。
「ふむ、昨日の話を照らし合わせれば、君は竜族に属していたということかの?」
学園長は昨夜、ファフニールが自分はドラゴンだと言っていたことを思い出した。
「……群れにゃ属してねぇがな」
「この世界には、召喚されない限り特殊な生き物は人間しかいないが、そんな様々な種族がいて戦争などは起こらなかったのかい?」
この世界では今現在でも宗教や思想の違いで人間同士の戦争が起こる。
タカミチの疑問は尤もな事だった。
「まぁ、もっぱら争ってたのは人間と魔族だ。竜族は争いが必要以上に大きくならねぇ為に監視したりする役で、精霊族は争い事には不干渉を決め込んでたっけか」
戦争はあるというファフニールの答えは、真偽を探っている段階とはいえタカミチにとって少し悲しい答えだった。
「魔法なんかは普通に使われていたのかの?」
「あぁ、人間なんかは他種族より低い魔力を補うために、科学と魔法を融合させた魔科学なんてもんも使ってやがったがな」
「ふ~む……どうやらこっちの世界のことも詳しく話しておいた方が良さそうじゃのう」
「そのようですね」
その後ファフニールは学園長とタカミチから、この世界では魔法は隠されるものであり一般人の前では使ってはいけないなど、主に常識の相違部分の説明を受けた。
しかし魔法を使えない今のファフニールにはそれは問題ではない。
他には、この世界でファフニールの他への対応の仕方などを話し合った。
ファフニール達の話が大方終わったところで、学園長室にノックの音が響く。
「おぉ、もうこんな時間じゃったか。うむ、入ってよいぞ」
学園長にはノックをした者が誰なのかがわかっているようだ。
返事を聞いて入ってきたのは麻帆良学園の子供先生ことネギ・スプリングフィールドだった。
「おはようございます、学園長先生! あ、タカミチも」
「あぁ、おはよう、ネギ君」
「うむ、おはよう。急に呼び出してすまんかったの」
「いえ、それで用事とは?」
学園長は事前にネギを呼び出していたようだった。
「うむ、突然ですまんが、君に転入生を預けたくての。こちらが転入生のファフニール・ザナウィ君じゃ」
ちなみにザナウィとは学園長がファフニールだけでは不自然だからと勝手に付けたものである。
「はぁ、でもその人、男子……ですよね? 僕の受け持ち女子校ですよ?」
ネギの疑問はもっともだった。
ネギの受け持つクラスは女子校だ。
男が、まして自分とそう変わらなそうな年の子が入るのはおかしい。
それを言えば10歳で教師をやっているネギも十分おかしいのだが。
「ふむ、この子はこう見えてアメリカの大学を飛び級で卒業しておってな。今回は日本の学校を見てみたいと言うので我が学園で預かることになったのじゃが、さすがに初等部の方に入れる訳にもいかんからのう。で、同い年で教師をやっている君の所に預けようと思っての」
全て作り話である。
「そうなんですか、わかりました。僕はアナタが転入するクラスの担任のネギ・スプリングフィールドと言います。これからよろしくお願いします、ファフニール・ザナウィさん」
「あぁ」
そんな素っ気無いファフニールの返事にネギは思わず学園長のほうを見た。
「ほっほ、照れ屋さんなんじゃよ」
「誰が照れ屋だ!」
そうしてファフニールはネギに連れられ自分が通うことになるクラスに向かった。
ネギとファフニールが出て行くの確認して、学園長が口を開く。
「……どう思うかね、彼の話は」
「異世界、ですか。それも召喚されるもの達が住む場所とも、魔法世界とも違う。……話自体は信じられませんが、挙動に不審な点はありませんでしたし、嘘を話している感じでもなかったですね」
ファフニールの話はこの世界において典型的なファンタジーそのものだった。
それを作り話と思うのが普通だろう。
「う~む、嘘は言っていない、か」
しかし学園長やタカミチから見ても、ファフニールが嘘をついているようには見えなかった。
「とりあえず様子を見るしかないですね」
「それしかないかのう」
道中、ネギは自分と同い年だと言うことで色々とファフニールに話かけたのだが、ほとんどが素っ気無い返事に終わった。
「ではここで少し待っていてください」
「わかった」
ネギはファフニールを3-Aの前の廊下で待機させ、クラスに入っていった。
そしてネギが教壇についた瞬間、
「「3年!A組!ネギ先生ー!!」」
一部を除き、やたらテンションの高い生徒に歓迎を受けていた。
「えと、改めまして3年A組担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの1年間、よろしくお願いします」
「「はーい、よろしくー!」」
「それで突然なんですが、転入生を紹介したいと思います」
ほんとに突然なネギの話にざわざわとクラスが騒がしくなる。
「では入ってきてくださーい」
そしてネギに呼ばれて入ってきたファフニールを見て更に騒がしくなる。
そんな中、エヴァはファフニールに鋭い視線を向けていた。
「……ファフニール・ザナウィだ。この学園には……まぁ、成り行きで来たようなもんだ。以上」
無愛想この上ない挨拶だった。
「え、えっと、じゃあ、誰か質問ある人いますか? 」
シュバ!っと数人の生徒が手を挙げた。
「じゃあ、風香さん」
最初に当てられたのは、双子である鳴滝姉妹の姉、鳴滝風香だった。
「は~い、歳はいくつ? 」
「ごひゃ…10歳だ」
危うく実年齢を言いそうになり、学園長に言われた歳に言い換える。
「えぇ、ネギ先生と同い年!? なんで中学来てんの? 」
もっともな疑問を風香がぶつける。
「知らん、学園長って奴に聞け」
ばっさり斬り捨てられた。
納得いかない顔で風香は席につく。
「じゃあ、次は朝倉さん」
次に当てられたのは麻帆良パパラッチこと朝倉和美だった。
「えぇと、多分みんなが疑問に思ってると思うんだけど、……君、男の子でしょ? なんで女子校に来たの? 」
そんな和美の皆一斉にウンウンと頷いた。
「さぁな、全部学園長って奴が仕組んだことだ。何故と言われても答えようがねぇ」
ちなみにファフニールは嘘は言っていない。
そして質問に答え終わってすぐに教員の源しずながネギに身体測定のことを伝えにきて、質問タイムが終わった。
「で、では皆さん身体測定ですので、えと、あのっ、今すぐ脱いで準備してください! 」
そこまで言ってネギはニヤニヤした生徒の顔を見て自分の失態に気がついた。
「「「ネギ先生のエッチ~!」」」
「うわーん! 間違えました~! 」
ネギは慌てて廊下に出た。
が、状況がよくわかってない奴が一人。
「ファフニール君も出てかなきゃダメですよ? 」
と、雪広あやかが言った。
「? なんで? 」
「なんでって、身体測定は服脱がなきゃダメだから」
「脱ぎたきゃ脱げばいいだろ」
訳がわからん、とファフニールはあやかに言い返す。
「いや、一応ファフニール君は男の子な訳だし、ね?」
「あぁ、そういうことか」
やっと合点がいったのかファフニールも教室を出る。
そして3-Aの面々は、
「なんか、おもしろい子だよね~。あの子」
「うんうん、なんか天然っぽいと言うかなんと言うか」
「ネギ先生とは違った意味でカワイイかも」
「そうかな~、なんか生意気っぽいよ~」
などと服を脱ぎながらファフニールの印象について話していた。
人によって印象はまちまちだったようだ。
身体測定中、吸血鬼話しで盛り上がっていた面々はクラスメイトの佐々木まき絵が保健室に担ぎ込まれたことを聞き、みんなで下着姿のまま保健室になだれ込んだ。
ネギは一通り慌ててから、まき絵を見て考えていた。
まき絵から僅かだが魔法の力を感じたからだ。
「ちょっとネギ、なに黙っちゃってるのよ」
「あ、はい、すいませんアスナさん」
一人で考え込んでいたネギと同室の神楽坂明日菜が話しかける。
「まき絵さんは心配ありません。ただの貧血かと。……それとアスナさん。僕、今日遅くなりますので晩御飯いりませんから」
「え、う、うん」
と、ネギは笑って明日菜に答える。
そしてネギは吸血鬼事件の犯人を突き止めることを決めていた。