「そういえばファフニール、お前近衛と仮契約をし直したそうだな。刹那が嘆いてたぞ」
夜の森の中を真名とファフニールが歩く。
学園に侵入した魔物を退治していたのか、真名は銃が入ったギターケースを持ち、ファフニールは所々に小さい傷を負っている。
「あぁ、魔法使いになりたいとか言い出したからな」
「……命を助けられた恩返しか? 似合わんな」
ファフニールをからかうように真名は笑う。
「はっ、おぞましい借りを返すだけだ。まぁ、ある程度の力がつくまでは付き合ってやるさ」
真名のからかいも意に介さず、ファフニールは答える。
これが二人の関係のスタイルらしい。
「しかし、あの状態からよく生き返ったものだ。近衛の魔力も凄まじいが、お前のしぶとさも相当だな」
こんな言い方をしているが、真名はファフニールがフェイトに貫かれた時に真っ先に駆け寄った3人の内の一人である。
修学旅行から帰った後も彼女なりにファフニールの身を案じていた。
「ふん、あの人形野郎にも借りは返さなきゃならねぇな」
ファフニールは忌々しそうにフェイトに貫かれた部分をさする。
「ん? 借りといえば、まだ私への借りを返してもらってないな?」
真名が言っている借りとは、ファフニール達がネギに召喚される際に殿を務めた時の事だろう。
戦いが終わってから色々とゴタゴタしていた所為で、そういう事には何故か細かいファフニールですら忘れていた。
「ぐ、余計な事を思い出しやがって……いいだろう、何が望みだ? あんみつか? あんみつでいいんだろ?」
真名の好物を知っているファフニールは強引にあんみつで手を討とうとする。
「まぁ、いつも通り最高級のあんみつでもいいんだがな。少し聞きたいことがある」
真名の顔が仕事をしている時のような真剣なものへと変わる。
「知っていると思うが、私と刹那はお前の監視を学園長から依頼されていた。そんな本格的なものではなかったが、先日お前をこの学園の客人として扱うからとそれが解かれる事になった」
「あぁ、そんな事も言ってたな。で、何が言いたいんだ?」
ファフニールは先日の学園長との話を思い出し、真名に言葉を返す。
「その際お前の正体については何も聞かされなかった。危険人物ではないとだけ言われてな。まぁ、楽な仕事だったが安くは無い報酬も貰えたから別に文句はないさ。けどやっぱり気になるだろう、同居人の正体は」
どうやら学園長はファフニールの事自体はあまり喋ってないらしい。
この学園に置いて彼の正体を知っているのは学園長を入れても十人に満たないだろう。
「で、結局お前は何者なんだ?」
真名は嘘は許さんとばかりに少し睨みを利かせ、ファフニールに問い詰める。
「ファフニールだ」
そんな真名の威圧にまるで臆する様子もなく、ファフニールは答える。
「……そうか、脳みそをぶちまけたいのか」
冗談とも取れるファフニールの答えに真名の視線はとても冷たいものになり、いつの間にか取り出した拳銃をファフニールの額に押し当てている。
「まぁ、待て。確かに簡潔に言い過ぎた」
エヴァを怒らせた時と同じような謎の悪寒を感じ、ファフニールは真名を宥める。
「オレはドラゴンだ」
「……は?」
そしてファフニールは自分の正体を真名に告げる。
いきなりのぶっ飛んだ言葉に呆けてる真名を置き去りにファフニールは続ける。
「この世界じゃない、ましてや魔法世界とかいう所でもない、本来決して交わる筈の無い世界で赤き邪竜ファフニールと呼ばれたドラゴン、それがオレだ。な、オレはファフニールだろ? まぁ今はこんな姿だからな、信じる信じないはお前のかっペポッ!?」
撃たれた。
それはもう至近距離から容赦なく額を。
幸いなのは実弾では無くゴム弾だったことか。
ファフニールは額を押さえて転げまわっている。
「て、てめぇ、オレが親切丁寧に教えてやってんのに、撃ちやがったな」
別に親切でも丁寧でもない説明だったが、確かにファフニールは嘘は言っていてない。
だが彼にとって嘘でなくても聞いている真名にとっては嘘にしか聞こえない。
いや、ファフニールの話を信じろと言うのはかなり難しい。
ファフニールの話を完全に信じるのは、彼がこの世界に来た瞬間を目撃し、尚且つドラゴンの姿を見ているエヴァンジェリンと茶々丸、そのエヴァンジェリンから話を聞いた学園長くらいだろう。
「ふん、くだらない中二な話は中二になってからしろ」
なにやら意味不明な事を言って真名はファフニールに背を向け歩き出す。
「あぁ、それとちゃんと最高級のあんみつは用意しとけよ」
思い出したかのように振り返り真名はファフニールにそんな言葉を浴びせる。
ファフニールの話に納得がいけば貸しはチャラにするつもりだったのか、元からあんみつを奢らせる気だったのかは定かではない。
「な、撃った上にあんみつだとッ!? なんて図々しい奴だ……わかった、アレだな。つまり、喧嘩売ってんのか、お前。いいだろう売られた喧嘩は必ず買う主義だ」
あくまで事実を告げているファフニールからしてみれば真名の態度は理不尽そのものだが、話を信じられない真名としてもファフニールは可愛くないが、嘘は言わない奴だと思っていただけに少し裏切られた気分になったのだ。
愛着が沸いたものに、裏切られるはやはり良い気分ではないらしい。
「あぁ、そうだな。高く買ってくれるなら嬉しい限りだ」
ファフニールは両手に赤い篭手を装着し、真名は二丁の拳銃を構える。
悲しい勘違いにより不毛な戦いが始まってしまった。
そんなに大層なものでもないのだが。
「ん? 随分と遅かったな」
朝方帰った同居人に刹那が出迎える。
「って、ファフニール!? こんなボロボロに……今日の相手はそんなに手強かったのか!? クッ、やはり私も行けば……」
真名におぶられたズタボロのファフニールを見て刹那が慌てる。
真名も服が所々焦げている。
ネギの弟子試験に出向いていた刹那は、魔物退治を任されてくれた二人を申し訳なさそうに見る。
「あ~、いやこれは……」
そんな刹那に何かとても言いにくそうに真名が口を開く。
「この女にやられたんだよ」
目は覚ましていたのか、真名の背中でファフニールが不機嫌そうに呟く。
「え、なんで」
「う、お前がくだらない嘘をつくからだろう」
取り合えずファフニールを降ろすと、ファフニールはフラフラと自分の寝床へ向かっていった。
「ふん、人間と一緒にすんじゃねぇ。大体嘘をつく理由なんざオレにはねぇんだよ」
二人を一瞥し、布団を被ってファフニールは不貞寝してしまう。
「結局二人の喧嘩ということか? くだらない嘘というのは?」
やっと状況をつかめてきた刹那が、真名に説明を求める。
「ふぅ、お前は何者だと聞いたら違う世界から来たドラゴンだ、とか言うものだからつい、な」
ばつが悪そうに、真名は事の発端を刹那に話す。
「それはまた……そういえばネギ先生もそんな事を言っていたな。エヴァンジェリンさんとファフニールの会話を聞いたとの事らしいが」
京都の旅館でネギが言っていた事を思い出す刹那。
「……まさか本当にドラゴンだと言うのか? 異世界から来た」
「……どうだろうな。異世界云々はわからないが、ドラゴンだという話を聞いたのこれで二回目だ。エヴァンジェリンさんなら何か知っていると思うが」
二人であれこれ考えるが、結局ファフニールに関しての真偽はわからない。
もう朝方ということもあり、スッキリしないまま二人は床につくことした。
「まぁ、なんにしてもアイツには何か奢ってやるか」
「えぇッ!?」
真名の奢ってやる発言に刹那は驚いた。
「……なんだその顔は。今日はさすがにやりすぎたしな、昼飯くらい食わせてもいいだろう。まったく、なんであんなにイラついたのか」
守銭奴と言っていいほど金にうるさい真名。
そんな彼女が、ファフニールが大食いであることを承知で奢るというのは、刹那にとって驚き以外の何者でもない。
「明日は雪か……」
「おい、人をなんだと思っている」
守銭奴、と言う言葉を飲み込んで刹那も自分の寝床へ向かう。
真名は疲れきった表情で溜息をつく。
「ほんと、何者なんだろうな」
さっさと寝入っている赤髪の同居人に向かって呟く。
限りなく真実に近い場所に居ることに少女達はまだ気付いていなかった。
あとがき
ども、ばきおです~
今回は少し短かったですね、申し訳ありません(汗
でも今まで一番の難産だったかも……
木乃香との再仮契約の話も書きたかったんですが、どうにもうまく書けない……
うまくまとまったら、投稿します……かも。
ご感想、ご批評がありましたらお願いします。
でわ~