「暗いな……何処だここは?」
どれだけ辺りを見回しても黒一色。
自分の手足さえ見えやしない。
「死んだ、のか。オレは」
これだから脆弱な身体は困る。
腹貫かれたくらいでくたばるとはな。
「チっ、ほっときゃよかったな、吸血鬼」
“あれは以外な行動だったねぇ。ボクとしても驚いたよ~”
「あんなもんに借りを作りっぱなしは気持ち悪いからな……?」
ん、オレは誰と話してんだ?
いや、待て。この不愉快な声は……
「て、てめぇは!?」
“そう、神様だよ~ん!”
うわぁ、ウッゼー。
「相変わらずのウザさだな、てめぇ」
“酷いなぁ、友達じゃないか!”
「……誰が?」
“キミとボクが”
「頭腐ってんだろ、お前! 誰が自分を殺しかけた相手と友達になんぞなるか! てかオレの力と姿返しやがれ!」
“あっはっはっは、そんな細かい事気にしてたら友達出来ないよ?”
「細かくねぇよ! どう考えても死活問題だろうが! 大体んなもんいらねぇし、気が遠くなるほどの間友達いねぇ奴に言われたくねぇよ!」
“ぐふっ、む、胸がぁぁぁ!”
「えぇ、コラ言ってみろ、どのくらい友達がいねぇんだ?」
“ぎゃあぁぁぁ、やめて、それ以上触れないで、これからの孤独に耐えられなくなっちゃうから!”
ククク、どうやらこの口撃は想像以上に効いたらしいな。
“く、危なかった、切なさと寂しさに押しつぶされる所だった……それより君、自分がどんな状況かわかってる?”
チっ、立ち直り速いなコイツ
「死んだんだろ? 手足の感覚もねぇし、ここは死後の世界って所か?」
“その手前の世界だよ。今の君は魂だけの状態。まぁ、だからボクと話すことが出来るんだけど”
「手前? まだ生きてるってことか?」
“そ、残念なことにね。あの人間の娘には感謝した方がいいよ。8割がた死んでた君を蘇生させたのは彼女だからね”
人間の娘? 近衛木乃香の事か?
確かにあいつの力なら死んでなきゃ大抵の傷は治せるんだろうが、まだ思い通りに力は使えないだろ。
「しかし、なんだってこんなとこにまで出張ってんだ、オレに何か用なのか?てか、残念ってどういうことだコラ」
“そんなの決まってるじゃないか。ひ・ま・つ・ぶ・し。おっと、もう起きる時間だよファフニール”
「何処までもウゼェなお前! おい待て、話しはまだ終わってねぇぞ!」
“はっはっは、さらばだ我が唯一の友よ!”
「友じゃねぇぇ! てめぇ、いつか絶対ぶっ殺してるからな!」
「待ってやがれ!」
ガバッ、と勢いよくファフニールは布団から飛び起きる。
「む……」
差し込む朝日にここが今まで自分がいた空間ではない事に気付き、ファフニールは部屋を見渡す。
すると、竹刀袋に入った夕凪と私物の入った荷物を持って部屋を出て行こうとしていた刹那と目が合った。
「……よかった、目が覚めたんですね」
突然起きたファフニールに驚いた顔をしていた刹那だったが、いつも通りのファフニールの仏頂面を見て安心したように微笑んだ。
「ふん、どっかの小娘に助けられたようだな。んなことより、どっか行くのか? お前」
刹那の持つ荷物に気付き、ファフニールが尋ねる。
「……一応、一族の掟ですので。あの姿を見られた以上ここには居れません」
そう言って刹那はファフニールから目を逸らし、寂しそうな笑みを浮かべる。
「でもいいんです。お嬢様を守るという誓いも果たし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家への御恩も返すことが出来ました」
言葉とは裏腹に辛そうな刹那の表情を見て、ファフニールはタメ息をつく。
「アホだろ、お前。この先お前のお嬢様が危機に晒されないとでも思ってるのか? 望む望まざる関係無しに、あの女はこちら側へ足を踏み入れたんだぞ?」
「そ、それは……」
「それとも小僧やらバカやらに守ってもらおうとでも思ってんのか? だとしたら随分と軽い誓いだな、おい」
ファフニールは刹那を挑発するように嘲笑う。
「そ、そんなことはない! 私は命を賭けてお嬢様を守ると誓ったんだ!」
それに対し、刹那は声を荒げた。
「だったら貫き通せよ。自分で自分に立てた誓いだろ? 泣きそうな面して逃げ出すくらいなら、その面のまま踏ん張って足掻き続ける方がマシだ、とオレは思うがな」
ファフニールの言葉が刹那の心に響く。
珍しく真剣な表情で話しているから?
違う。そうではない。
「……あなたは、そうやって生きてきたんですね?」
ファフニールが何を誓い生きてきたのか、刹那にはわからない。
だが、ファフニールがそうやって生きてきた事はわかった。
だからこそファフニールの言葉が心に響いた。
「ふん、大体さっきから何なんだ、その喋り方は」
自分の生い立ちなどを語るのはうまくないと思ったのか、ファフニールは無理やり話題を変える。
「い、いえ、敬意を表してというかなんと言うか」
どうやら刹那はファフニールが死にかけた事に責任を感じているらしい。
「うわ、キモチワル」
そんなせめてもの刹那の気遣いをファフニールはバッサリと切り捨てた。
刹那は反論しようとするが、勢いよく開いた襖によって阻止されてしまった。
「刹那さん、居る!?」
「あ~、ファフ君目覚ましたんやな~!」
現れたのは明日菜と木乃香だった。
木乃香は目を覚ましているファフニールを見つけると、突然抱きついた。
「傷が治っても目覚まさへんから、心配したんえ?」
本当に心配していたんだろう。木乃香は目に涙を溜め、強くファフニールを抱きしめる。
いつものファフニールなら抱きつかれても振りほどく所なのだが、木乃香に命を助けられた事を知っているせいで強く出る事が出来なかった。
明日菜も木乃香と同じ気持ちだったらしく、木乃香に抱きしめられて嫌そうな顔をしているファフニールを見て、ホッとした表情をしている。
「あ、そうだ! 大変なのよ、刹那さん! 3-Aに飛ばした私達の身代わりの紙型が大暴れしてるらしいの!」
用件を思い出した明日菜は慌てふためく。
外を見れば、ネギ達もホテルへ戻るために集まっている。
刹那は完全に此処を出るタイミングを失ってしまった。
「なぁ、刹那よ。こんな連中から逃げ出しても意味ねぇと思わねぇか?」
木乃香から開放されたファフニールが刹那に語りかける。
「……えぇ、本当に……」
ファフニールの問いかけに刹那は俯いてしまう。
だが、刹那はすぐに顔を上げる。
「わかりました、行きましょう。お嬢様、明日菜さん!」
その顔にもう迷いはない。
「あんもー、せっちゃん、このちゃんって呼んでー」
「え、いえそのクセで……すいません」
幼き頃に立てた誓いを貫くのだと、刹那は新たに自分に誓いを立てた。
あとがき
どうも、ばきおです。
これにて修学旅行編は終了となりました。
え、神様とかいらねぇ?
すいませんネタ切れです(泣
中身スカスカじゃね?
すいません、力不足です(大泣
批評・ご感想などありましたら、よろしくお願いします。
でわでわ~