「……満足だ」
ネギ達はシネマ村の戦いの後、刹那に木乃香の実家に案内され、木乃香の父であり関西呪術協会の長でもある近衛詠春に親書を届けることに成功した。
そして言葉の通り、ファフニールは満足していた。
開かれた歓迎の宴では出された料理を他人の食い残しすら食い尽くすという暴食の限りを尽くし、誰よりも長く風呂に浸かり、後は着替えて惰眠を貪るだけの状態だからである。
「きゃあぁぁっ!」
「!?」
そんな普段ならありえない緩みが、侵入してきた敵意に気付く事を遅らせた。
「ちっ」
悲鳴の聞こえた方へファフニールが向かうと、ハルナ、のどか、和美の三人が石と化していた。
「ファフニール君!」
ファフニールに少し遅れて、ネギとカモがやってくる。
「こ、これは、朝倉さん、パルさん、のどかさん!」
石になった3人を見てネギは大きく取り乱し、必要以上に自分を責め立てる。
「く、僕の……僕のせいだ。僕のせいでみんなを……!」
「落ち着け」
「ぶっ!」
そんなネギの眉間に逆水平チョップを見舞う輩が一人。
「こいつらがここへ来たのは誰の意思でもねぇ、自分の意思だ。オレと刹那で撒いてもついてきたんだからな。言っちまえば自業自得だろ。特にコイツは」
そう言ってファフニールは和美を指差す。
「じ、自業自得って、そんな言い方っ!」
ファフニールの言い分にネギは憤慨する。
「二人共言い争ってる場合じゃねぇって! 兄貴は取り合えず姐さんにカードで連絡をしてみてくれ!」
カモはネギを抑えて状況の打開を提案する。
「敵の気配は消えてねぇな。オレは先にバカ達に合流する。場所はさっきの風呂だ」
「あ、ちょ、旦那!」
カモが呼び止めるのも聞かず、ファフニールは駆け出していた。
「姐さん達が無事かどうかわかってねぇってのに……」
「じゃ、お姫様は貰ってくね」
明日菜はネギから連絡を受け、木乃香と共に指定された風呂場まで来ていた。
しかしネギ達に合流する前に白髪の少年、フェイトの襲撃に対応しきれず、木乃香を連れ去られてしまった。
「ちっ、遅かったか」
そこにタッチの差でファフニールが風呂場へ到着する。
「ファフニール! ごめん、木乃香が……」
「見りゃわかる。てめぇがなんで裸なのかはわからねぇが」
少し冷めた目で明日菜を見るファフニール。
「し、しょうがないでしょ! アイツの魔法で服だけ石にされちゃったんだから!」
「なんだ、お前。人形みたいな面して変態とかいう奴だったのか? 人間ってのはわかんねぇな」
今度は哀れな者を見るように、ファフニールはフェイトを嘲り笑う。
「……今、僕の石化魔法を抵抗、いや無効化したよね? アーティファクトの力だけじゃない、どうやったの?」
そんなファフニールをあえて無視して、フェイトは明日菜に問う。
「は? そんなの知らないわよ、このスケベ!」
だが、ついこの間までただの女子中学生として生きてきた明日菜に、魔法無効化能力のことなどわかる筈もない。
「そう、なら体に聞いてみるしか……っ!?」
フェイトが言い終わる前に眼前にファフニールの拳が迫り来る。フェイトはそれを片手で掴んで止めた。
「無視してんじゃねぇぞ、変態」
ファフニールの不意打ちを受け止めたフェイトは、少し溜息をついてファフニールの腹部へと拳を飛ばす。
ファフニールはかろうじで残った腕を滑り込ませ直撃は避けたが、威力を殺せず壁へ叩きつけられてしまう。
「わかったかい? 君など取るに足らない存在だ。今は彼女の方が重要なんだよ。それとも、まさか昼間僕に一撃入れたぐらいで勝てるとでも思ってるの?」
「さぁなぁ、可能性はあるかも知れないぜ?」
咳き込みながらもファフニールは立ち上がり、フェイトを挑発する。
「……なら君から先に始末しようか」
表情こそ変わらないものの、その声には明らかに不愉快さが滲み出ていた。
だが、フェイトがファフニールに攻撃を仕掛ける前にネギとカモ、そして刹那が風呂場に到着した。
「あ、明日菜さんッ!?」
ネギ達は裸で座り込む明日菜の元へ駆け寄る。
「……挑発は時間稼ぎのつもりだったのかい?」
フェイトは攻撃の姿勢を解き、少しだけネギ達の方へ視線をやる。
「お前が思ったより短気だったから失敗したかと思ったがな。間に合ったからには成功だろ」
悪戯っぽいような勝ち誇ったような、そんな笑みを浮かべるファフニール。
「……昼間の戦いでもそうだったけど、所々でセコいよね、君」
フェイトはお返しとばかりに無表情で軽い嫌味を飛ばす。
「フン、戦闘力で劣ってるからな。考えうる手段は使うのが当然だろ? まぁ、これはお前ら人間の真似をしてみただけだがな」
ファフニールの言葉が引っかかったのか、フェイトがファフニールに問おうとする。
しかし
「こ、このかさんを何処にやったんですか?」
先程まで明日菜に状況を聞いていたネギに遮られる。
「みんなを石にして、ファフニール君を殴って、アスナさんを裸にして、先生として、友達として、僕は……僕は許さないぞ!」
ネギは怒りをあらわにして、フェイトに言い放った。
「……それでどうするんだい? ネギ・スプリングフィールド。僕を倒すのかい? やめた方がいい。今の君では無理だ」
フェイトは気圧された訳でもなく、ただ淡々と事実を述べて水を利用した瞬間移動で消えていく。
瞬間移動の類はかなりの高等技術で、さらにフェイトが常に浮遊術を使っていたことから、カモはフェイトが超一流の術者であると推測した。
「アスナさんはここで待っていて下さい。このかさんは僕が必ず取り返します」
風の魔法で手元まで運んだバスタオルをネギは明日菜に羽織らせる。
「え、う、うん……」
決意に満ちたネギの表情に、明日菜は惚けながら返事をする。
「とりあえず後を追いましょう、ネギ先生。気の跡をたどれば……」
刹那とネギが飛び出していきそうになるのをカモが抑え、策を考える為にしばし話し合いになる。
しかし、カモが提案した刹那とネギの仮契約案も何故か明日菜に反対され、ファフニールの明日菜の能力を利用し、明日菜を盾にして突っ込んでいこう案も却下された。
結局、短時間では話はまとまらず、無策で追いかける事になってしまった。
「おぉ、やるやないか新入り! どうやって本山の結界を抜いたんや!」
このかを連れ去ったフェイトは、千草と合流していた。
「ふふ……これでこのかお嬢様は手に入った。後はお嬢様を連れてあの場所に行けばウチらの勝ちやな」
そう言いつつ、千草の顔は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
そんな千草を見て、札で口封じされている木乃香は不安そうに声を上げる。
「安心しなはれ、このかお嬢様。何もひどいことはしまへんから。さぁ、祭壇に向かいますえ」
そう言って千草達はある場所へと出発しようとする。
「待て! そこまでだ、お嬢様を放せ!」
しかしその前に刹那達が立ちふさがった。
「……またあんたらか」
刹那達の姿を見ても、千草の余裕は崩れない。
「天ヶ崎千草、明日の朝にはお前を捕らえに応援が来るぞ! 無駄な抵抗をやめ、投降するがいい!」
そんな刹那の忠告を聞いても千草の心が揺らぐことはない。
「ふん、応援が何ぼのもんや、あの場所に行きさえすれば……それよりも……」
微笑を浮かべながら千草と木乃香を抱えている猿鬼が池の上に降り立つ。
「あんたらにもお嬢様の力の一端を見せたるわ。本山でガタガタ震えてれば良かったと後悔するで」
失礼を、と千草は木乃香に札を付け、そこから木乃香の魔力を引き出す。
「オン、キリ、キリ、ヴァジャラ、ウーンハッタ」
千草が呪文を唱えると、水面が光だし、無理やり魔力を引き出された木乃香が身悶える。
そして水面の光の中から100を超える異形が姿を現す。
「ちょ、ちょっと、こんなのありなのー!?」
「やろー、このか姉さんの魔力で手当たり次第に召喚しやがったな」
学園に侵入してくる妖魔を退治していた刹那や元がドラゴンであるファフニールはともかく、ただの女子中学生として過ごしてきた明日菜には、100を超える鬼などの妖魔に囲まれるのは恐怖以外の何者でもない。
「あんたらにはその鬼どもと遊んでてもらおうか。ま、ガキやし殺さんよーにだけは言っとくわ、安心しときぃ。ほな」
そう言葉を残し、千草達はこの場を去っていった。
「なんやなんや、久々に喚ばれた思ったら」
「相手はおぼこい嬢ちゃん坊ちゃんかいな」
「悪いな嬢ちゃん達。喚ばれたからには手加減できんのや、恨まんといてや」
鬼達はその風貌とは裏腹に、どこか人間臭いことを言う。
「兄貴、時間がが欲しい。障壁を!」
カモの提案に頷いて、ネギは魔法の詠唱に入る。
「風花旋風、風障壁!」
詠唱が完了すると、ネギ達を中心に巨大な竜巻が巻き起こる。
そのおかげで、鬼達はネギ達に手を出すことが出来なくなる。
「これで2、3分は時間が稼げます!」
「よし、手短に作戦を立てようぜ! どうする、こいつはかなりまずい状況だ!」
「……二手に分かれる、これしかありません」
刹那の提案は、刹那とファフニールが鬼を引き付け、ネギ、カモ、明日菜で木乃香を追うというものだった。
刹那の提案を聞き、今まで黙っていたファフニールが口を開く。
「……おいオコジョ、宴の時に聞いた仮契約カードの機能に従者の召喚ってやつがあったな?」
ファフニールは事前にカモから仮契約カードの機能を聞いていたらしい。
「あ、あぁ、精々5~10kmくらいの距離だけどな。なんか思いついてくれたかい、旦那?」
カモはこの中で一番冷静であろうファフニールの意見に期待する。
「あぁ、残るのはオレと刹那、そんでバカだな。取り合えず刹那、小僧と仮契約しろ」
「「「えぇっ!?」」」
カモは喜んでいたが、残りの三人は驚いてファフニールに抗議の声を上げる。
そんな三人を抑え、ファフニールは作戦の説明をする。
「まぁ内容は刹那とほとんど変わらねぇが、奪還、逃走は小僧頼みになる」
その言葉を聞いてカモはファフニールの作戦の意図がわかったらしい。
「なるほど、兄貴がこのか姉さんを奪還後全力で戦線離脱。召喚機能範囲ギリギリで三人を召喚して朝まで身を隠せばいいって寸法か!?」
「そういうことだ。これなら小僧が失敗してもまだ手が打てる」
ネギが失敗したとしても、ファフニール達を召喚して最大の障害であるフェイトの足止めをすればいい。
それが例え5分ももたないとしても、勝利の可能性は広がる。
「よっしゃあぁ! そうと決まったらズバッとブチュッといっちまおうぜ!」
そう言ってカモはネギと刹那の周りに魔方陣を描く。
「す、すいませんネギ先生」
「い、いえ、あの、こちらこそ」
緊急事態とはいえキスをするのは恥ずかしいのかネギと刹那、そして何故か傍から見ている明日菜まで顔が赤くなっている。
そしてネギと刹那の唇が重なり、カモの手に刹那の仮契約カードが出現する。
「ネギ先生、明日菜さんのことは任せて下さい、私が守りますから。だから先生は……このかお嬢様を頼みます」
「……はいっ!」
見つめ合いながら言葉を交わすネギと刹那。
「そこ、何見つめ合ってんのよ!」
明日菜の言葉に二人は慌てて離れる。
「風が止むぞ」
ファフニールの声に答え、ネギはこの場を離れる為の魔法の詠唱に入る。
竜巻の外では鬼達が待ちわびていた。
そして竜巻が止んだ瞬間
「雷の暴風!」
ネギ最大の魔法が鬼達を飲み込んだ。
後書き
どうも物凄いお久しぶりです、ばきおです。
こちらの都合により、またもや長らく更新できませんでした。
今更戻ってくんじゃねぇバイキン野郎!と思われている方々、本当に申し訳ございません。
一話から全て書き直しているので、お暇がございましたら読んでいただけると光栄です。
前の方がよかったじゃねぇかウジ虫野郎!と思われる方々がいらっしゃいましたらごめんなさい。
批評などがございましたら、よろしくお願いします。
では!