自由行動で訪れたゲームセンターでネギ、アスナと別れた刹那とファフニールは敵の追撃から逃げていた。
「せ、せっちゃん、ファフ君、どこ行くん? 足速いよぉ」
「あぁ、す、すいません、このかお嬢様」
幼い頃から神鳴流剣士として訓練を受けていた刹那と、気で身体能力を上げているファフニールの走るペースは、普通の学生であるこのかや早乙女ハルナ、綾瀬夕映には全速力でマラソンをしているような状態だった。
「っち、ウゼェ」
そんな中、ファフニールは見えない場所から投げられてくる棒手裏剣を受け止めている。
白昼堂々、しかも街中で戦闘を開始する訳にもいかず、刹那達は完全に後手に回ってしまっていた。
「あれ、ここってシネマ村じゃん!? ファフ君も桜咲さんもシネマ村に来たかったんだ~」
二人は適当に走っていただけで、特にシネマ村に来たかった訳ではない。
シネマ村は観客を巻き込んで突然芝居が始まったりする、変わった観光地である。
ここならば人目も多く、敵も容易にはこちらに手が出せない。
ならばここで時間を稼ぎ、ネギ達の帰りを待てばいい。
刹那は瞬時にそう判断した。
「すいません、綾瀬さん、早乙女さん! 私、このか……さんと、ファフニールと三人で話したいことがあるんです! ここで別れましょう!」
班の二人を巻き込まないために、言ってすぐにこのかを抱きかかえ、シネマ村の堀を飛び越える刹那。ファフニールもその後を追っていった。
「な、なんですか、あの二人のジャンプ力は……と言うか金払って入れです」
「うーん、ファフ君にこのかに桜咲さん……てことはまさか、三角関係?」
夕映は至極もっともな意見を、ハルナはあり得ない方向に勘違いをしていた。
シネマ村に入った刹那は、ネギ達の方に向かわせた式神との通信を試みていたが、敵の攻撃で式神との連絡が途切れてしまったらしい。
だが、ネギ達の方にも刺客が向けられていて、例え連絡が途切れていなくても助力を請うのは難しかった。
「連絡は取れたか?」
「いや、……なんだ? その格好は」
振り向いた刹那の視線の先には、麻帆良の制服を着たファフニールではなく、黒いタキシードを着て、いつもは無造作に逆立ってる真っ赤な髪をオールバックにセットしたファフニールが立っていた。
ファフニールの場合、外見は確かに10歳程度の子供なのだが、それに反比例する雰囲気を纏っている。
そのためか、このような格好をしてもませた子供ではなく、どこかの執事のように見えてしまう。
「えへへ~、ファフ君似合うてるやろ~」
「お、お嬢様まで」
次に現れたのは、着物を着たこのかだった。
その姿は、まるで一国の姫君のように可憐だった。
「そこの更衣所で着物貸してくれるんえ」
二人は、刹那が式神で通信を試みている間に着替えていたらしい。
ファフニールは、このかに無理矢理連れて行かれたみたいだが。
そんな流れで刹那も着替えるハメになった。
刹那は何故か男物の扮装で、元の容姿もあってか、美少年剣士のようだ。
その後は、このかが刹那を笑わせたり、麻帆良とは別の修学旅行生が3人の写真を撮ったりと、割と修学旅行を楽しんでいるようだった。
その中で刹那は気付く。
こんな時間こそ、自分が望んでいた時間なのではないか、と。
だが、そんな時間も無粋な乱入者によって終わりを告げる。
馬車に乗って現れた乱入者は貴婦人のような格好をした月詠。
そして、ファフニールと同じく、執事のような格好をした白髪の少年。
「近衛木乃香嬢を賭けて決闘を申し込みます。30分後、場所はシネマ村正門横、日本橋にて」
白髪の少年はあまり感情を感じさせない声で、シネマ村特有の芝居に見せかけて刹那達に決闘を申し込む。
「逃げたらあきまへんえ~、刹那センパイ」
月詠はおよそ外見にそぐわぬ、狂気じみた殺気を一瞬だけ刹那達に飛ばして、白髪の少年と共に馬車に乗って去っていった。
このかは月詠の殺気にあてられたのか、少し顔が青ざめている。
「これで、やるしか無くなったな?」
「あぁ、なるべく周りに被害が出ないようにしないと……」
「フン、一般人に被害が出て面倒なのは相手も同じだろ。気にするほどのことじゃねぇよ」
刹那とファフニールが話していると、何処かで覗いていたのか、同じ班のハルナや夕映、それに和美やあやかなど3班のメンバーが出てきて騒ぎ立てた。
そして何故か騒いでいたメンバーも決闘に参加する流れになっていた。
指定された場所へ行く途中、刹那は小声でファフニールに話しかける。
「ファフニール、戦闘になったらお嬢様を連れて逃げてくれないか?」
クラスのメンバーがついて来るのはいささか計算外だったが、相手もただの一般人である彼女らに手は出さないだろうと、刹那は考えていた。
「逃げれるとは思えねぇな。あの白髪の奴も普通じゃねぇみてぇだし。大体俺にそんなこと頼んでいいのかよ?」
刹那にはこのかの護衛の他に、ファフニールの監視も任務の内に入っている。
それはつまり、学園長の方はファフニールを完全に信用している訳ではないことを示している。
そんな相手に、大切な存在であるこのかを任せるのは、護衛役として失格なのではないのか。
「……わかっている、彼が戦闘を行わないとは限らない。だが逃げれる状況だったら頼む。……学園長の意思には背くかもしれんが、私個人としてはお前を信用しているから」
何故ファフニールを信用しているのか、刹那は自分自身でもわかっていない。
しかし、一緒に生活をしているうちに、妙な親近感を覚えてしまったのだ。
その理由もいまいちわかっていない。
「……甘い奴」
ボソリ、と刹那にも聞こえないような声でファフニールは呟いた。
「刹那さん、ファフニール君、大丈夫ですか!?」
「ネギ先生、どうやってここに!?」
刹那とファフニールの前に現れたのは、頭にカモを乗せたちびネギだった。
「ちびせつなの紙型を使って、気の跡を追って」
「それよりなにがあったんですかい、姐さんに旦那?」
どうやらネギ達は、自分達の方に送られた式神が消えてしまったことを心配して、刹那と同じように式神を飛ばしたらしい。
「そ、それが……」
「ふふふ」
刹那が自分達の状況を説明しようとした時、前方から微笑が聞こえてくる。
「ぎょーさん連れてきてくれはって、おおき~。楽しくなりそうですな~」
「……」
刹那達の視線の先の橋には、月詠と白髪の少年が立っていた。
「ほな、始めましょうか、センパイ……」
「……君の相手は僕がしよう」
月詠は刹那を、白髪の少年はファフニールを、自分の相手として指名する。
「せ、せっちゃん、ファフ君。あの人達……なんか怖い。き、気をつけて」
いくら楽天家なこのかでも、前に居る二人が普通ではないことを悟ったのだろう。
その心は恐怖に侵食されていた。
「……安心してください、このかお嬢様」
そんなこのかを安心させるように、刹那は優しく微笑む。
―――そして
「何があっても、私がお嬢様をお守りします」
かつて自分が立てた誓いを口にした。
後書き
どうも、ばきおです。
またまた更新が遅れてしまい申し訳ありません(汗
次回はもう少し早く更新できるように頑張ります。
ご指南、ご感想などがありましたら、よろしくお願いします。