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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:b259a192 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/21 19:22
第49話:研究学園都市 麻帆良



Part.00:イントロダクション


 時は流れて、今日は12月23日(火)。

 アセナがメガロメセンブリア元老院を『説得』してから、短くない時が流れた。
 その間、アセナが何をしていたのか? 言うまでも無く、政治的な活動である。

 そう、今日も今日とてアセナは それなりに多忙な日々を送っていたのだった。


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Part.01:魔法の価値


 少々 時は遡って10月下旬。

 魔法世界での意見調整(主に既得権益を維持しようとする輩の説得)を終えたアセナは地球に戻っていた。
 ちなみに、アセナが魔法世界の意見を調整するのに要した時間は、実を言うと半年 近くも掛かった。
 ゲートポートが壊れていたことで地球と魔法世界の時間の流れが異なっていた(1:7程度)ため、
 カレンダー的には48話から然程 時間が経っていないように見えるが、実は かなりの時間が経っているのだ。

「――全世界の皆さん、ここで重要な発表があります」

 厳粛な空気の中、緊急に開かれた国連総会での審議を経て齎された『結論』を国連事務総長であるアフィー・コナンが語り始めた。
 全世界と呼び掛けているように、この放送は地球全土に同時放送されている。場所によっては深夜だが、それでも同時放送されている。
 それは、それだけ重要な発表であることを示しており、国連に加盟しているすべての国で公用語に同時通訳されて放映されている。

 もちろん、日本も例外ではない。つまり、便宜上 日本語で表記されているだけで実際には日本語で語られている訳ではないのだ。

「此の度、地球の抱える諸問題の根本とも言えるエネルギー問題に大きな展望が現れました。
 と言うのも、まったく新しいエネルギー源が発見されたのです。それは『魔法(wizardry)』です。
 御伽噺や夢物語で語られる、炎や風を生み出す類の魔法を思い浮かべていただいて構いません」

 どうでもいいが、「wizardry」には「魔法」以外にも「非凡な能力」や「ハイテク技術」などの意味もある。

「ですが、我々が話題にしている魔法は幻想ではありません。科学とは別の体系を持っているだけの歴とした技術です。
 もちろん、技術である以上、学べば誰にも扱えます。まぁ、多少の例外は存在しますが、基本的には誰にも使えます。
 そして、発動のためのコストは『魔力』と呼称される『すべての生命体が持つとされている未知なるエネルギー』なのです」

 魔法と聞くとファンタジーなものを思い浮かべがちだが、この場合の魔法はファンタジーなだけではない。現実に存在するのだ。

 極言すれば、魔法とは魔力を代償に精霊を使役して現象を引き起こす技術である。
 それに対し、科学とは電気を代償に機械を使役して恩恵を得ている技術とも言える。
 まぁ、厳密には違うのだが、対立させて考えると このような表現となるだけだ。

「魔法の中には雷を発生させる魔法――つまり、放電現象を生み出す魔法が存在します」

 ネギやナギが得意とする雷系の魔法のことだ。特に『千の雷』など何万kw出ているのか考えたくもない魔法である。
 アレを個人で生み出せるのは一部の一流魔法使い(エリート)だけだろうが、魔法陣などを使えば裾野は広がる筈だ。
 と言うか、原作から察するに常人の魔力(夕映)でも『白き雷』が使えるようなので、それだけでも充分なのだが。

 そう、魔力と言うコストに対して得られるエネルギーが凄まじいのだ。費用対効果が いい意味で振り切れているのである。

「つまり、石油に頼らずとも、魔法によって電気を作ることが可能なのです。電気の利便性は最早 語るまでもないでしょう。
 石油による火力発電は我々に電気と言う恩恵を齎せてくれましたが、それと同時に環境汚染と言う弊害も齎せました。
 ですが、魔法は違います。魔法を利用すれば環境を汚さずとも電気が得られます。しかも、そのコストは魔力だけなのです」

 先進国では電気が必要不可欠だ。電機で機械を動かし、その機械によって生活が成り立っている のは言うまでもないだろう。

 だが、電気の用途は――電気の齎す恩恵は それだけではない。充分な電気の供給は、水問題すら解決するのである。
 周知のことだが、多くの国は水不足を抱えている。生活用水だけでなく農業用水まで不足している国は少なくない。
 電気があれば逆浸透膜と電気エネルギーを使った「海水の淡水化システム」が利用できる――水が得られるのである。

「以上のことから、科学と魔法は相反しません。むしろ、互いに協力し合える分野なのです」

 科学では、費用対効果の問題で「理論的には実現可能だが、現実的には実現不可能」なことが往々にしてある。
 卑金属から金を得ようとする錬金術がいい例だろう。これは、核分裂を利用すれば水銀から金の同位体が得られるが、
 必要な年月とエネルギーを考えると、コスト(費用)の方がベネフィット(利益)よりも高いので意味がないのだ。
 だが、そこに魔法が加われば、コストがベネフィットを下回る可能性がある。科学と魔法は手を取り合えるのだ。

「……ここまでの説明で、魔法について充分に理解していただいたと思います」

 ここまでの話は要するに魔法の説明だ。だが、忘れてはならないが、ここは国連総会の『結論』を発表している場だ。
 魔法の存在や効果など、どちからと言うと科学者が審議すべき内容のものだ。それなのに、国連総会で審議されたのは何故か?
 確かに、エネルギー問題に密接に関わっているため政治的な判断が必要となるだろう。だが、現実は そんなに甘くない。

 国連総会で審議せねばならない程に重大な政治的議題があったからこそ、国連総会が緊急に開かれたのである。

「既に お気付きの方もいらっしゃるでしょうが……正確に言うと、魔法は我々が発見したものではありません。
 遥かなる古の時代より魔法と共に その歴史を紡いで来た――言わば、魔法文明と呼ぶべき文明が存在したのです。
 ですから、此度の件は、正確には『魔法文明と我々の接触が成功し、協力関係を締結した』と言うことになります」

 アフィーは「それでは、本題に移らせていただきます」と前置きして、宣言通り、本題を話し始める。

「……ここで、何故これまで接触がなかったのか、また、何故 今回は接触できたのか、疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。
 実を言いますと、魔法文明は地球ではなく火星に築かれていたのです。ええ、そうです、太陽系第四惑星である、あの火星です。
 ですが、一つだけ大きな勘違いがございます。私達が衛星や望遠鏡などで見ていた火星は、本当の火星ではありませんでした。
 我々が知ったつもりになっていた火星は、本当の火星に住む魔法文明の方々によって認識とデータを改竄された姿だったのです」

 当然ながら大嘘だ。いくら未来からの支援があったとしても、半年程度では火星のテラフォーミングは終わらない。

 だが、実は火星を基にした魔法世界があって、そこが崩壊しそうなので火星に移住する予定です……などと言える訳がないため、
 一般向けには「もとから魔法世界が火星に築かれており、今まで地球側が観測していた火星が嘘だった」と言うことにしたのである。
 将来的には魔法世界と火星はイコールとなるので、完全な嘘ではない。完全な嘘ではないが、実に悪質な騙し方なのは間違いない。

 それを感じているのか、アフィーは平坦な声音で「これが、本当の火星です」と魔法世界の地図をモニターに映す。

「では、ここで、新しく隣人となった、魔法文明側の代表者――親善大使を紹介 致しましょう。
 火星の国の一つ、メガロメセンブリアにて元老院議員を務めるクルト・ゲーデル氏です。
 ゲーデル氏は両文明の交流と発展のために魔法文明を我々に紹介していただいた恩人でもあります」

 アフィーの紹介を受けて、それまで舞台袖で待機していたクルトが悠然とした様で舞台の中央に躍り出る。

「地球の皆様、御初に御目に掛かります。只今 紹介に与りましたクルト・ゲーデルと申します。
 言い換えれば『火星人』とも言える我々ですが、もとをただせば地球からの移民者です。
 御覧の通り、皆様と変わらない姿をしておりますし、年齢も見た目通りのものであります」

 クルトは にこやかな笑みを浮かべて「つまり、まだまだ若造です」と続ける。だが、次の瞬間には瞳を真剣なものにする。

「ですが、魔法の現状を憂い、魔法の更なる発展を願う気持ちは誰にも負けません。
 そのために、地球と火星の交流と発展のために骨身を惜しまず尽力する所存であります。
 頼りないと思われるかも知れませんが、どうか暖かい御声援を よろしくお願いします」

 クルトはハッキリと「魔法の発展のために地球と交流する」と言っているが、何も裏がないよりは安心できるものだ。

 その証拠に(と言っていいか は微妙だが)聴衆の多くはクルトを好意的に受け止めているようで、批判の声は聞こえない。
 いや、正直に言おう。正確には、告げられた内容が凄まじ過ぎて、批判をすることすらできない状態でしかないのだ。
 魔法と言う荒唐無稽なものが公に発表され、そのうえ火星には魔法の国があって、その お偉いさんが挨拶しているのが現状だ。
 混乱しない方がおかしいし、混乱から脱していても現実を理解するのに精一杯で批判するまで労力が回らないのである。

 そんな微妙な歴史的瞬間を見遣りながら、アセナは「思えば多忙の日々だったなぁ」と感慨深げに ここに至るまで を思うのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魔法世界の抱える重大な問題と その解決策を全国放送したことにより、魔法世界中の意識は「火星への移住」に集約された。

 だが、だからと言ってスンナリと それに向けて事を進められる訳ではない。事は魔法世界だけでは収まらないからだ。
 現時点で地球人は宇宙に進出している訳ではないが、今後 進出しない訳ではないため地球側の利権が絡んで来るのである。
 火星に住んでいる訳ではないのに、地球人は――地球の各国は火星の領土権を(非公式に)勝手に決めているのが現状だ。

 そんな状況下で勝手に火星を開発して移住しようものなら、地球と火星(魔法世界)の間に要らぬ軋轢が生まれるだろう。

 予想できているのに何もしないアセナではない。アセナは軋轢を生まないようにするために魔法を売ることにしたのだ。
 もちろん、魔法を売る と言っても、単純に魔法を公開する訳ではない。魔法と科学を融合進化する予定を ほのめかし、
 そこから得られることが予測されている「現在の技術を数世代は先を行く超技術の恩恵」を融通する と匂わせたのである。

 そう、リスクとリターンを計算させ、火星を手に入れるよりも『恩恵』を得た方が旨味がある と認識させたのだ。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

「単刀直入に言いますと、火星を開拓した後に火星に移住する方向で魔法世界は纏まりました」

 先程、アセナが地球に戻っていた と言ったが、ただ単に戻っていた訳ではない。国連常任理事国の首脳陣と『話し合い』に奔走していたのだ。
 ちなみに、テロで壊されたゲートポートは復旧に数年掛かるため、アセナは旧オスティアのゲートポートを利用して帰って来たことになる。
 つまり、直で麻帆良に戻ったことになるのだが……アセナは麻帆良をスルーして そのまま己の使命を果たすために世界中を飛び回り始めた。
 そう、テオドラの件の事情説明を木乃香に一切することなく、使命と言う名の仕事に走ったのである(ある意味では「仕事に逃げた」とも言える)。

 まぁ、公人としては正しいかも知れないが、人としてはダメ過ぎる判断だろう。きっと、近い将来 痛い目を見るに違いない(実に自業自得だ)。

「もちろん、地球にとっても火星と言う未開地は重要な場所だ と言うことは承知しております。
 ですが、我々には どうしても火星が必要なのです。どうか、譲っていただけないでしょうか?
 もちろん、タダで譲って欲しい などと虫のいいことは言いません。相応の見返りは用意します」

 最初から飛ばした会話に思われるかも知れないが、各国の首脳陣は もともと魔法を知っているので、大した問題はない。

 そもそも、魔法を秘匿しているとは言え魔法使い側だけで完全に秘匿できるほど各国の諜報力は甘くないのだ。
 当然、魔法は各国の上層部に知れ渡っているし、国や組織によっては魔法を研究しようとした勢力すらある。
 まぁ、研究は軌道に乗る前に魔法界(主にメガロメセンブリア)から派遣されたエージェントに潰されていたが。

 もちろん、魔法界も ただ研究を潰すのではなく、一定の情報を与えた上で上層部へ護衛を派遣したりもしている。

 それに、魔法を政治・軍事利用した輩を排除したりもし、魔法を公開させないように処理する自浄組織を用意している。
 それでも研究しようとするなら その勢力を徹底的に潰して来た(どんな警備も『転移』一つで無意味となるので本当に徹底的だ)。
 言い換えるならば、これまで各国は「魔法界から護衛が派遣されるだけでもマシだろう」と満足するしかなかったのである。

 そんな状況で、魔法界からの『使者』として現れたアセナ(とクルト)が「相応の見返りを用意する」と言って来たのだ。疑っても仕方がないことだろう。

「その見返りと言うのは、まぁ ご想像の通り、魔法の情報です。いえ、正確には『研究の成果』と言った方がいいかも知れませんね。
 と言うのも、実は魔法世界で ちょっとした政変が起きましてね、『魔法を秘匿する方針』から『魔法を公開する方針』に変わったんですよ。
 もちろん、単純に公開するだけではありません。これからは魔法と科学を融合・進化させることを視野に入れて研究する予定でいます」

 アセナは穏やかな笑みを浮かべて「後は わかりますね?」と言わんばかりに言葉を区切る。

「ああ、これは独り言ですが……火星を開拓するには莫大な資金と労力と時間が必要になるでしょうねぇ。
 もちろん、その開拓によって得られるだろう資源で それらは賄えるでしょうが、利益幅は如何程でしょうか?
 それを放棄するだけで手に入る研究結果と比べたら微々たるものかも知れません。まぁ、素人の見解ですが」

 あきらかに話し掛けているようにしか思えないが、これはあくまでもアセナの『独り言』である。

 そんな『独り言』が決め手になったのかは定かではないが、多くの首脳陣は火星の領土権を手放すことに同意した。
 まぁ、『多くの』と表現したように中には更なる利益を得ようとしたものもいたが、強欲は身を滅ぼすものである。
 アセナは容赦なく「これは交渉ではなく交換条件です。それが飲めないのならば……」と『洗脳』をほのめかした。

 結果、すべての首脳陣は火星の領土権を手放すことに同意したのだった(実際に洗脳したかは否かは永遠の謎である)。

「快諾していただき、ありがとうございます。これで魔法も科学も更なる進化が望めることでしょう。
 ところで、この件に関して一つ お願いがあるのですが……友好の証として聞いていただけませんか?
 と言うのも、魔法を広く公開するため、常任理事国の方々に連名で魔法を公表していただきたいのです」

 別に超が計画していた魔法バラシをしてもいいのだが、できるならば余計な混乱は生みたくない。そのための依頼だ。

「また、それに伴って、魔法と科学の両方を研究して融合進化させていく機関を設置したい とも考えておりまして……
 そのために日本の麻帆良を改変して研究学園都市にする予定ですので、アジールとして認めていただけないでしょうか?
 まぁ、別に日本のままでもいいんですがね? ただ、研究成果が日本に多く流れる可能性が否めなくなるだけですねぇ」

 研究学園都市とアジールは微妙に繋がっていないように見えるが、それは言葉にしないことで暗に示したからだ。

 ちなみに、アジールとは「一国の国内であっても その国の三権が及ばず、その地域 独自の法で治める権利を持つ特別区域」である。
 そのため、言葉にしなかった部分を敢えて言葉にすると「研究に専念したいので、余計な干渉をできないようにしろ」くらいだろう。
 たとえるなら、某福音に登場する某特務機関のような立場(日本なのに日本の干渉を受けないどころか好き放題)を望んでいる訳だ。

 もちろん、言うまでもないだろうが、アジールとして認められなくても研究成果を日本に流す気などサラサラない。単なるブラフだ。

「ああ、もちろん、これもタダで認めて欲しい などと虫のいいことは言いません。
 日本を介せば干渉できる訳ですからね、それなりの旨味は用意してあります。
 それは、火星への移民権です。其方の国民だけでなく、難民の方も受け入れますよ?」

 国際社会の義務として、難民は救済しなければならない。

 経済的に余裕がある状態ならば特に問題ないだろうが、余裕がない状態なら難民の受け入れは頭の痛い問題だろう。
 現在の地球は世界的に不況の傾向があるため、必然的に経済的な余裕はない。つまり、頭を抱えているのである。
 それを見越していたのか は定かではないが、アセナの提案は実に美味しいものだ。干渉するよりも旨味があるだろう。

「あ、そう言えば、実は研究のための資金を募っていまして……より多く資金を提供していただいた勢力に より多い恩返しを考えていたりします」

 相手の様子から協力を取り付けられたことを確信したアセナは、聞こえるくらいの声量でポツリと漏らす。
 最後に「まぁ、単なる戯言ですが」と付け加えてはいるが、あきらかに本気なのは言うまでもないだろう。
 魔法界からの資金もあるが、資金はあっても困るものではないので、アセナは資金集めに余念がないのである。

 実にいやらしいが、ある意味では「実にアセナらしい」とも言えるだろう。

 ところで、今更なことだが、アセナは国連常任理事国の首脳陣を一国ずつ訪ねた(正確には、各国の政財界の上層部を一人ずつ訪ねた)。
 まぁ、国連常任理事国だけで会議している場に乱入してもよかったのだが、団結されて反論されると面倒なので各個撃破したのである。
 ちなみに、方法は『転移』によるアポなし訪問――も やったが、大抵は政財界に影響のある魔法組織を通じての正規ルートである。
 実を言うと、地球にある魔法組織は『悠久の風』を代表とした非政府的な組織だけではなく、政財界に通じている組織も存在しているのだ。
 と言うか、魔法秘匿を考えると政財界にパイプがないとおかしい。魔法使いだけで完結できるほど世界は甘くも狭くも無いのである。

 どうでもいいが、日本や国連事務総長は別個にアセナが説得したが、他の国連加盟国への説得は常任理事国に丸投げしたのは言うまでもないだろう。



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Part.02:表の支配者と裏の支配者


 時間軸は今に戻り、麻帆良市内にある瀬流彦の私室にて。そこで、アセナは瀬流彦と『談笑』していた。

 ところで、魔法を全世界に公表した影響についてだが、当初は戸惑っていた世間も二ヶ月が経った今では大分 落ち着いている。
 しかし、麻帆良は未だに混乱の渦中とも言える状態だった。と言うのも、麻帆良は4月から研究学園都市になることが決定したからだ。
 48話で語った様に既存の学園機能も半分程は残ることになっているが、研究機関の色合いが圧倒的に強いためテンヤワンヤなのだ。
 ちなみに、麻帆良が研究学園都市に再編されることには、対外的には「火星と地球が歩み寄るための実験的な措置」となっている。

「……はぁ。まさか、こんなに早く学園長先生と同じ立場に『就かされる』ことになるとはねぇ」

 そして、これも48話で語った様に、近右衛門は学園機能を大幅に失ったことの責任を取って3月で学園長を辞することが決まっている。
 あきらかなスケープゴートだが、責任者は責任を取るためにいるのも確かだ(上の意向とは言え近右衛門に責任が無い訳ではない)。
 また、学園長を辞職することに伴って関東魔法協会の理事も辞職することになっている。何故なら、両者は密接に繋がっていたからだ。

 そう、麻帆良学園が魔法使い達の『隠れ蓑』になっていたことは公然の秘密となった今だからこそ、過去との決別を示す必要があったのである。

 よって、新しい学園長(学園機能の統括責任者)には魔法関係者ではない普通の教師(高等部の校長だった者)が就くことになっており、
 先の瀬流彦の言葉から予想できる通り、関東魔法協会(と言うか、魔法分野の研究統括責任者)の理事に瀬流彦が就くことになっている。
 もちろん、若い瀬流彦を理事に就かせることに難色を示す者は多かった。だが、アセナとの関係から本人にも周囲にも選択肢が無かったのだ。

「って言うか、あんなに お世話になった前学園長をスケープゴートに使うとか……キミは鬼畜だよねぇ」

 御茶目な部分には困らせられたが、成長を促すために適度な匙加減で『厄介事と言う課題』を与えてくれていたのも確かだ。
 その意味ではアセナも瀬流彦も、近右衛門には非常に世話になった と言える。それ故に、瀬流彦の言葉は強ち間違っていない。
 まぁ、近右衛門は近右衛門で「これで面倒な立場から逃れられるわい」と密かに喜んでいたので、実は的外れな意見なのだが。

「ハッハッハッハッハ、意味がわかりませんねぇ。近右衛門殿は自主的に退任していただくのですよ?」

 あきらかに「婉曲的に強制した」と言わんばかりの言い方だが、(先程も言った様に)本当に自主的に退任したのである。
 真実を知らない瀬流彦は「魔法世界に行ってから更に外道方面に進化したねぇ、気が抜けないや」と判断するのは必然だ。
 もちろん、そんな風に思われてしまうのはアセナもわかっている。わかっていて敢えて誤解を招く言い方をしたのである。

 何故なら、これから先のことを考えたら、瀬流彦には気を引き締めて『東』を担ってもらわねばならないからだ。

 実を言うと、麻帆良はアジールの認定を勝ち取っているため、市長にはクルトが任命されることが決定している。
 まぁ、クルトを裏から操っているのはアセナであるが、それでも表向きはクルトが麻帆良を支配することになる。
 つまり、瀬流彦が『東』の権限を維持するためには現役の元老院議員であるクルトに対抗せねばならないのだ。
 クルトも瀬流彦も裏にはアセナがいるのは事実だが、それでも瀬流彦が気を抜いていいことにはならないだろう。

(とりあえず、オレは「貴方を学園長と同じ立場にする」と言う役目は終えました。ですから、後は貴方次第ですよ?)

 そもそも、アセナと瀬流彦の約定は「瀬流彦を近右衛門の後釜に就かせる」と言うものであり、それ以降のことは何も確約していない。
 友好的な関係(適度な距離感で互いに利用し合う関係)を続けるためにも協力することは吝かではないが、かと言って頼り切られても困る。
 何故なら、これから火星のことで忙しくなるアセナには日本のことを構っている余裕などないからである(実にアセナらしい理由だろう)。

 それ故に、アセナは「瀬流彦先生には頑張ってもらわないとねぇ」と、瀬流彦を扱き使うことを心に誓ったのだった。

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 話は変わるが、魔法の公表を受けて西(関西呪術協会)で ちょっとした政変が置きた。

 魔法が実在するものとして認識されるようになったためか、反東(アンチ西洋魔術師)の立場が弱くなったのである。
 反東は世間に肯定的に受け入れられている魔法を否定しているも同然であるのめ、徐々に求心力を失っていったのだ。
 主義主張はあっても時流から外れた派閥には尽きたくないのが人間と言うものであることは言うまでも無いだろう。
 よって、反東が力を失った代わりに親東とも呼ぶべき派閥が西の実権を握るようになったのは必然とも言える筈だ。

 ちなみに、親東は赤道が牽引する派閥であるため、言い換えると赤道が西の実権を握るようになった とも言えるのである。

「と言うか、最早 東西で争っている場合ではないんですけどね?」
「しかし、その御蔭で予定より早く実権を握れたんじゃないですか?」
「確かに そう言った側面もありますが……正直、気分は微妙です」

 アセナの言っていることは間違ってはいない。だが、だからこそ赤道は溜息を吐きたくなる。

「と言うか、貴方の場合、『ここ』まで狙って行動していたのでしょう?」
「さぁ、どうでしょうねぇ? 単に結果オーライなだけかも知れませんよ?」
「……はぁ。貴方が そう仰るのでしたら、そう言うことにして置きますよ」

 赤道はアセナが魔法を公表させたことを知っている(まぁ、赤道に限らず、魔法関係者で政治に携わるものは皆 知っているが)。

 そのため、赤道は「反東を衰退させるためにも魔法を公表させたのではないか?」と疑っており、
 アセナは明言は避けたものの どう聞いても肯定しているようにしか聞こえない返答を行ったため、
 それを受けた赤道は「何を言っても明言はしてくれないでしょうね」と諦観に似た境地に達したのだった。

「ところで、今更ですけど……何で普通に赤道さんが ここ(麻帆良にある瀬流彦先生の私室)にいるんですか?」

 そう、三点リーダの多用で舞台が変わったように見せ掛けて、実は瀬流彦の私室のままだったのである。
 つまり、瀬流彦とアセナが『談笑』しているところに赤道が参入(と言うか乱入)して来た形になる訳だ。
 京都・麻帆良 間も『転移』を使えば移動は大変ではないが、だからと言って ここにいるのは実におかしい。

 あまりにもナチュラルに瀬流彦が赤道を受け入れていたので、アセナは今までツッコむにツッコめなかったのである。

「身も蓋もなく ぶっちゃけると『厄介なヤツに目を付けられた同盟』を結んだのさ」
「……東西に渡って厄介認定されるなんて、とんでもないヤツもいるものですねぇ」
「キミのことだから わかっていて言ってるんだろうけど……敢えてツッコませて欲しい」
「それは あなたの心です――ではなくて、それは あなたのことですよ? 神蔵堂様」
「おぉ!! 瀬流彦先生のセリフを途中で奪っただけでなく軽くネタを挟んで来るとは!!」
「な、なかなかやるね。さすが赤道君。そこにシビれる、憧れるぅ!! ってヤツだよ」

 わかりにくいボケだが、某とっつぁんの名台詞である「奴はとんでもないものを盗んでいきました……それは あなたの心です」が元ネタである。

「そ、それはともかく、いい加減に婚約者の件を長と話し合ってくれませんか?」
「あ、誤魔化しましたね? そこでテレちゃダメですよ? 最後まで突き進まなきゃ」
「そうだねぇ。特に神蔵堂君みたいにエグいタイプは容赦なくエグって来るからねぇ」
「実にヒドい評価ですねぇ。もしかして、瀬流彦先生ってオレのこと嫌いなんですか?」
「いや、別に? 嫌いじゃないよ? まぁ、だからと言って好きでもないんだけどね?」
「……まぁ、そりゃ そうですよね。だって、好かれていてもキモいだけですからねぇ」

 一般人よりも守備範囲が広いことで定評のあるアセナと言えども、男はノーサンキューらしい。

「と言うか、貴方の方が長との話し合いを誤魔化そうとしていませんか?」
「ご、誤魔化してませんよ? あくまでも、話題を逸らしただけですよ?」
「いえ、それを世間一般では『誤魔化す』と言うのではないでしょうか?」
「ハッハッハッハッハ!! もしかしたら、そうとも言うかも知れませんねぇ」

 アホな遣り取りを聞いているうちにテレから脱却したのか、赤道が冷静にツッコむ。

「と言う訳で、長とOHANASHIするために今から京都に『転移』しましょう」
「今から?! そ、それは勘弁してください!! これから予定があるんです!!」
「へぇ? ところで、明日はクリスマスイブだけど、何か関係あるのかな?」
「ふ、普通にクリスマス会ですよ? 麻帆良教会で毎年やってるアレです」

 何気にOHANASHIとなっているのだが、最早 誰もツッコまない。むしろ、アセナが焦っていることに瀬流彦が喰い付いて来たぐらいだ。

「ふぅん? 微妙に動揺しているのが怪しいけど……ここは敢えて信じて置こうかな?」
「普通に信じてくださいよ。って言うか、この場合 瀬流彦先生は関係ありませんよね?」
「関係あるね!! だって、彼女を作る暇すらない立場に就かせたのはキミじゃないか!!」
「でも、それは瀬流彦先生も望んでいたんですよね? なら、自業自得なんじゃないですか?」
「こんなに早く就くことになるとは想定外だったんだよ!! だから、文句くらい言わせてよ!!」

 瀬流彦は瀬流彦で大変らしい。具体的にはハーレム野郎は死ねばいい と思っているくらいに大変なのだ。

「と言うか、また無視されているんですが……もしかして、態とやっているんですか?」
「いえ、偶々です。偶々 応えにくい話題だったので、ついつい誤魔化しちゃうんですよ」
「(それを『態と』と言うのでは?)まぁ、いいです。文句を言っても始まりませんからね」
「そうそう、神蔵堂君と話す時は ある程度のことはあきらめないと疲れるだけだよ?」

 赤道はいろいろとあきらめることにしたようだ。英断と言わざるを得ないだろう。

「では、長との話し合いに話を戻しますが……今日はあきらめますが、早いうちに お願いしますよ?」
「……わかりました。仕事も一段落しましたので、いい加減 詠春さんとも向き合いますよ」
「? 長と『も』? と言うことは、既に木乃香様とは話し合いをされた と言うことですか?」
「ええ、まぁ。各国への働き掛けが落ち着いたところで麻帆良に帰ったら鹵獲されましたよ……」

 何かを思い出したアセナは、遠い目になって過去に思いを馳せるのだった。

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「なぎやんが忙しいのも、なぎやんが いろんなもんを背負っとるのも、ウチは よぉわかっとる。
 ……せやけどな? ちょぉっとばかり、ウチを蔑ろに し過ぎやないかな? そう思わん?
 魔法世界に行っている間に婚約しとるとか、麻帆良に寄ったのにスルーとか、普通に有り得へんで?」

 各国の首脳陣の『説得』を終えて麻帆良に戻ったアセナを待っていたのは『物凄い笑顔』の木乃香だった。

 ちなみに、この場合の「物凄い」は「物凄く怖い」とか「物々しくて凄味がある」とかと同義であるのは言うまでもないだろう。
 そして、ウェールズに行くと偽って魔法世界に行っていたことやテオドラとの婚約が木乃香にバレていたのも言うまでもないだろう。
 しかも、魔法世界から帰還した際に麻帆良に寄ったのに木乃香と会わなかったこともバレバレだったのも言うまでもないだろう。

「本っ当に すみませんでしたぁああ!!」

 アセナは下手な言い訳など一切せずに、ジャンピング土下座をかました。
 潔いと言えば潔いが、だからと言って許される訳ではないのは言うまでもない。

「……で? 本当にテオドラとか言う皇女様と婚約したん?」
「うん――あ、いえ、はい。いろいろあって婚約しました」
「いろいろ、なぁ。で、その『いろいろ』って具体的には何なん?」
「え、え~~と、何と言うか、話せば長くなるんですけど……」
「じゃあ、手短にまとめて、且つ、納得いくように説明してな?」

 木乃香の圧力に屈したアセナは慌てて敬語になる。被告人は立場が弱いのである。

「じ、実は魔法世界が存亡の危機に瀕していましてね? このままでは10年くらいで滅びちゃうんです。
 それを回避するための案は思い付いたんですけど、それには各勢力の協力が必要不可欠でして……
 で、帝国と言う勢力と磐石の協力体制を築くためには皇女との婚約を破棄する訳にはいかなかったんですよ」

 間違っても「テオドラが ちょっと可愛かったので断れなかった」などとは言わない。アセナに自殺願望などないのだ。

「破棄する訳にはいかないっちゅうことは、向こうからプロポーズされたん?」
「まぁ、そう言う形になりますね。国とかが絡んでるので一概には言えませんけど」
「せやけど、なぎやんから申し込んだ訳やないんやろ? ……それなら、ええわ」

 アセナの説明に納得したのか、木乃香が圧力を弱める。それを見たアセナが「お? 許してもらえる?」と期待するのは言うまでもない。

「ところで、そもそもウチと婚約しとるっちゅうことは忘れとらんよね?」
「はい!! 忘れてません!! って言うか、忘れる訳がありません!!」
「そっか。つまり、ウチのことを忘れとらんのに断らなかったんやな?」
「はい――って、あれ? 何か流れが責める方向に戻ってないですか?」
「そら、最初から最後まで、徹頭徹尾 責めとるんやから、そうなるやろ」

 もちろん、アセナの淡い――と言うか、甘い期待など簡単に潰えることも言うまでもないだろう。

「って言うか、人伝に皇女様との婚約話を聞かされたウチの立場って どうなん?
 なぎやん、魔法世界(向こう)から帰って来た時って麻帆良に寄ったんよね?
 それなのに、何も説明せずに仕事に出掛けるとか……どう考えても無いわぁ」

「そ、それはですね、海よりも深い訳がありましてね?」

「まぁ、大方、嫌なことを先延ばしして、そのまま現実逃避したんやろ?
 なぎやんは昔っからヘタレでチキンで性根が腐っとるダメ人間やからなぁ。
 最近、少しはマシになったと思たけど……結局は何も変わっとらんやん」

 木乃香の言葉が情け容赦なくアセナの心を抉る。まぁ、アセナの自業自得なので同情の余地は無いが。

 と言うか、何を どう考えても、木乃香への説明を後回しにしたのは悪手だろう。
 いくら説明するのが精神的にキツくても、後回しにして仕事に逃げるのはアウト過ぎる。
 それはアセナも理解しているので「オレのライフはもうゼロよ!!」と内心で泣くしかない。

「さて、グチグチ責めても今更どうしようもないし……サッサと判決に移ろか」

 もう暫く文句を言いたそうだった木乃香だが、気分を取り直して話題を進めることにしたようだ。
 もちろん、アセナは「判決って何だろうなぁ?」と、わかっていながらも現実逃避のために疑問を抱く。

「ん~~、なぎやんから申し込んだんやったら全殺しにする予定やったけど……
 向こうからの話で、しかも事情があったから断れなかったっちゅうなら、
 まぁ、7回くらい生死の境を彷徨ってもらう程度でウチは許したるかな?」

 勝手に別の婚約者を作られたうえ本人からは何も説明されなかった婚約者としては非常に甘い判決だろう。

 ただ、最後に「許したるかな?」と「かな?」が付いているように「許す」と明言していないのがネックである。
 この言い回しでは、後になって「やっぱ許せへんなぁ」とか言って いくらでも罰を追加することが可能だからだ。
 また、態々「ウチは」と明言しているため「せっちゃん と お父様は どうかわからんけどな?」と言ってるも同義だ。
 と言うか、他の人間が許さなかったとしてもアセナをフォローする気など無いことへの意思表示としか受け取れない。

 つまり、これだけの罰で済めば甘い判決だが、ここから罰が追加される可能性が非常に高いので なかなか酷な判決なのである。

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 この後、刹那から汚物を見るような目で見られながらアセナが7回くらい半殺しにされたのは言うまでもないだろう。
 また、木乃香は傷を癒す振りをして傷口に塩(を混ぜ込んだ軟膏)を塗り込んだりしたことも言うまでもないだろう。
 そして、心身ともにズダボロになったアセナが詠春とのOHANASHIを心の底から恐れていることも言うまでもないだろう。

 余談だが、木乃香が「これは いいんちょへの説明が大変やなぁ」とか言っていたが、刹那にOSHIOKIされていたアセナには聞こえなかったらしい。

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「ところで、クリスマスについてですが……貴方が誰と何をしようが私は干渉しませんから、御自由にどうぞ」

 遠い目をして木乃香とのOHANASHIや刹那からのOSHIOKIを思い出していたアセナを現実に引き戻したのは赤道の放置宣言だった。
 干渉されるものとして考えていたアセナが「え? 干渉しないの? マジで?」と確認したのは言うまでもないだろう。

「まぁ、私に言えるのは、木乃香様以外の女性と仲良くしているのを発見したら長に報告する義務がある……と言うことだけですねぇ」
「うわーい、サラッと ぶっとい釘を刺されちゃったぜ~~。って言うか、それを干渉と言わずに何を干渉って言うんでしょうか?」
「貴方が木乃香様以外の女性と仲良くしなければいいだけの話ですから、充分に『干渉していない』ことになると思いますよ?」
「……ちなみに、本当に教会のクリスマス会に参加するだけですよ? 近所の家族連れとかと楽しむ感じの純粋なものですからね?」

 だが、実質的には干渉しない訳がないのも言うまでもないだろう。

 ところで、本当に今日のアセナの予定は麻帆良教会が主催のクリスマス会に出席するだけだし、明日のイブも誰かとデートをする訳ではない。
 と言うか、イブに誰かとデートしようものなら大惨事が予想されるのでデートなどできる訳がない。無難に皆でパーティーをする予定だ。
 ちなみに、先程アセナが焦っていた件だが……これは、クリスマス会に参加するのはココネが目当てであるため、少しだけ後ろ暗いからだ。

 いくら変態紳士なアセナと言えども、さすがに幼女を目当てに行動するのは少しだけ後ろめたいらしい。実に意外だが。



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Part.03:降誕祭なのに復活祭な気分


「あ、ナギさーん」

 ブルーな気分で学園長室を後にして麻帆良教会に向かうアセナの前に二人の少女が現れる。
 その間延びした特徴的な話し方から おわかりだろう、夕映を引き連れた のどかである。

「やぁ、のどか に夕映。奇遇だねぇ」

 話し掛けられたアセナは、先程までのブルーな様子など一切 見せずに穏やかに返答する。
 もちろん、二人に話し掛けられてテンションが上がった訳ではない。二人を気遣った演技だ。
 いろいろとダメなアセナだが、気遣いはできるのである。ただ、基本的に方向が違うだけだ。

 ところで(互いの呼称からバレバレだが)実は33話で のどかと夕映に施した『記憶封鎖』は既に解けている。

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「……こんにちは、ナギさん」

 10月も終わろうとしていた頃、魔法公表後のゴタゴタを片付けたアセナは麻帆良に戻り、都市再編に東奔西走していた。
 まぁ、片付けたと言っても、ある程度 見通しが立った段階で後のことは国連常任理事国の首脳陣に丸投げして来たのだが。
 ちなみに、時期的には木乃香に鹵獲されてタップリ & ネッチリ絞られたうえ刹那にOSHIOKIされてから数日後のことである。

 そんな状況の中、アセナに話し掛けて来たのは神妙そうな表情をした のどかと夕映だった。

「オレを『そう』呼ぶってことは『すべて』を思い出したってことだね?」
「そもそも魔法が公表された段階で封印が解けるようにしていたんですよね?」
「まぁ、そうだけど……でも、オレは勝手にキミ達の記憶を弄ったんだよ?」
「そうですね。でも、それは私達の安全を確保するためだったんですよね?」
「それでも、キミ達の意思を無視したんだから、普通は見限るんじゃない?」

 二人の記憶が復活したこと自体は、そうなるように仕組んだので想定内のことだ。

 だが、記憶が復活したうえで自分の前に現れるとは想定していなかった。
 いや、正確には「現れるとしたら責めるためだ」と考えていたのに、
 二人にはアセナを責める様子など一切なかったので想定外なのである。

 アセナが語った様に、勝手に他人の記憶を弄るような外道は責められて当然なのだから。

「その程度のことで見限るほど私――いえ、私達は あきらめがよくないんですよ?」
「だけど、これまでよりは危険は少なくなったけど、それでもオレの傍は危険だよ?」
「そうでしょうね。ですが、『その程度のこと』では あきらめる理由になりません」
「……まさか、そこまで想われてるとは ね。どうやら、オレの見通しが甘かったようだ」

 アセナは「記憶を弄るなんて最低です」と見限られると確信していたので、二人の『封鎖』を解けるようにしていた。

 記憶が封鎖されている状態なら「何も関係がない」ので安全圏にいられるし、
 封鎖が解けた後は見限られるので無関係となり、それはそれで安全となる。
 そう、記憶封鎖は、記憶を消さない主義のアセナが取れるギリギリの手だったのだ。

 まぁ、結果的には、アセナが乙女心を甘く見ていたために逆効果になってしまったようだが。

「ちなみに、もう一度『封印』しても無駄ですよ? 『対策』はして来てますからね」
「……大丈夫だよ。あきらめさせることはあきらめたからね。もう、好きにしなよ」
「では、お言葉に甘えて好きにします。って言うか、貴方を好きなままでいますね?」
「ちなみに、また危なくなったら問答無用で危険(オレ)から遠ざけるからね?」
「大丈夫ですよ。その時は勝手に付いて行きますから。もちろん、対策をしたうえで」

 危険には巻き込みたくないが、正直に言うと、危険を承知で付いて来てくれることは素直に嬉しい。

 アセナは既にいろいろなものを抱え込んでいる。いちいち列挙するのが面倒なくらいの量だ。
 1と3は全然違うが11と13は大差が無い様に、今更 二人くらい増えても大した違いはない。
 ならば、二人をあきらめさせる労力を払うよりも二人も抱え込む労力を支払った方が建設的だ。

 それはそれで何かが決定的に間違っている気がしないでもないが、本人達が納得しているのなら それでいいのだろう。

「あ、そう言えば……実はと言うと、既に婚約者が二人もいたりするんだけど?」
「つまり、貴方は複数の女性を愛せる と言うことですよね? 何も問題ないですよ?」
「いや、どう考えても問題あるでしょ? それはハーレムを容認したも同然だよ?」
「それでも問題ありませんよ。だって、最初から私達は『分け合う』予定でしたからね」
「ん? ……あぁ、そう言えば、自発的にハーレムを作ってくれようとしてたんだっけ」
「ええ。分け合う人数(ハーレム要員)が増えただけですから、何も問題ありません」

 そう、のどかも夕映も「独占できないなら共有すればいい」と既に妥協していたのだ。最早 今更なのである。

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「ところで、夕映もいるってことは夕映もだよね?」

 まぁ、夕映は発言こそしなかったが、その場にいながら一切 反論していないことが肯定している証左だろう。
 沈黙は肯定と解釈される と言うと語弊が出来そうだが、反論できるのに反論しないのは肯定と言えるのである。
 だが、それでもアセナは夕映に意思を確認する。何故なら、アセナの持つ危険性はなくなっていないからだ。

 ……アセナは地球側では表舞台に出ていない。だが、舞台の裏を知る者からは狙われる可能性があるのは否定し難い懸念だ。

 もちろん、狙って来そうな連中には予め舞台裏で接触して「アセナと敵対することは利益にならない」と示してはいる。
 と言うか、そもそもアセナが自ら首脳陣と接触していたのは、アセナこそがキーマンであることを見せるためだった。
 だが、当然ながら それですべての可能性をカバーし切れた訳ではないので、狙われる可能性は残っているのである。

 そう、人間が人間である以上より多くの富を求めるのは必然であり、人間の中には手段を選ばない輩がいるのも事実なのだ。

 どんな手を使ってでも富の分配を多く受けたい……そう考えてアセナの弱味を握ろうと暗躍する輩がいても不思議ではない。
 アセナに近しい人物を誘拐して直接的に人質にするかも知れないし、危害を仄めかして間接的に攻めて来るかも知れない。
 魔法の恩恵だけでなく、魔法と科学の融合進化の恩恵まで期待できる現状で、アセナの重要性と危険性は上がり続けているからだ。

 とは言え、元老院を味方にしたことで魔法使いを戦力にできる分、元老院を相手にしていた時よりは武力的な意味では余裕はあるが。

 いや、科学を下に見る訳ではないが、個人単位の武力だけで見るなら魔法は科学を圧倒しているのは揺るぎない事実だ。
 もちろん、軍単位で見るなら核兵器と言う凶悪な戦略兵器を擁する科学に軍配は上がるが、個人単位では魔法が圧倒的に有利だ。
 まぁ、魔法と科学の融合進化によってアセナの保有する武力の方が軍単位でも有利になる可能性は高いが、それは別の話だ。

 つまり、実は危険性は然程ないのだが……それでも、まったくない訳でもないので、アセナは執拗に危険性を示唆しているのである。

「は、はい。私も、貴方を あきらめるつもりはないです」
「……きっと、夕映が考えている以上に危険な道だよ?」
「のどかも言いましたが、それでも構いませんですよ」
「オレが二人を危険に巻き込みたくないって言っても?」
「はい。我侭だとは自覚していますが、折れる気はありません」

 アセナは夕映の瞳を見詰めながら、その意思の強さを測る。その結果は、のどかと同様で「あきらめさせるのは難しい」だ。

「……わかったよ。そう言うことなら、もう何も言わないよ」
「と言うか、既に嫌われても付いて行くことを決めてますです」
「なるほど。そりゃあ厄介だね。でも、邪魔だけはしないでね?」
「わかっていますよ。私達は嫌われたい訳ではないですからね」
「まぁ、嫌われてもいい のと、嫌われたい のでは違うねぇ」
「はい。覚悟はしましたが、可能な限り嫌われたくないですから」

 二人は既にアセナの意思を無視してでもアセナの傍にい続けることを決めている。

 それはエゴとしか言いようが無いが、最初にエゴで記憶を弄ったのはアセナだ。
 まぁ、アセナは二人の安全を考えてのことだったが、それでもエゴには変わらない。
 それ故に、アセナは二人を責められないし、そもそもアセナに二人を責める気は無い。

 繰り返しになるが、やっぱり危険を承知で付いて来てくれるのは嬉しいのである。

(まぁ、二人が増えることで今まで以上に心労は絶えないだろうけど……それでもいいさ。
 こんなオレでも惚れてくれて付いて来てくれるって言うんだから、受け入れるべきだろう?
 もちろん、他の皆には悪いとは思うけど、オレには二人を拒むことができそうにないよ)

 アセナの胸中には いろいろな女性が浮かぶ。その時点で最低かも知れないが、最早 気にしない。

 そもそも、アセナの心は あやかを切り捨てたことで中心がポッカリと空いている。
 そんな心の隙間を埋めてくれる女性をアセナは拒むことができないのである。
 それ故に、最低だと自覚しつつもアセナは複数の女性を愛する方向に進むのだった。

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「ところで、これから何処へ行くんですかー?」

 軽く過去にトリップしていたアセナだったが、のどかの問い掛けで我に帰る。
 アセナは元々トリップしやすいタイプだが、最近は以前にも増してトリップしやすい。
 それだけ心身ともに疲労している と言う訳であり、それだけ多忙だった と言う訳だ。

 それも、魔法公表と麻帆良再編の二大事業が終わったことで少しはマシになっていくことだろう。

「うん、まぁ、麻帆良教会にね。ちょっとクリスマス会に参加しようかなってね」
「……ああ、なるほどー。つまり、ココネちゃんに会いに行くんですねー?」
「うん、まぁ、そうだね。って言うか、いろんな意味で理解力あり過ぎるねぇ」
「って言うか、ネギちゃんを放置して教会に行っても大丈夫なんですかー?」
「うん、まぁ、ダメだね。だから、ネギ達とは明日パーティーをする予定だよ?」

 先程も語ったが、明日のイブは誰かとデートなどしない。エヴァの家で『皆で』パーティーをする予定だ。

 ちなみに、出席者はアセナ・ネギ・フェイト・エヴァ・木乃香・刹那・テオドラ・茶々緒・茶々丸の予定である。
 テオドラがいるのは「目を放すと(政治的な意味で)何をするかわからない」ため、麻帆良に連れて来たからだ。
 茶々緒をベースに帝国と葉加瀬が共同開発した偽骸(亜人が魔法世界外で活動するための人形)を使っているらしい。

 サラッと亜人の問題が解決しそうなことがあきらかになったが、開発中の話は語ってもつまらないので割愛させていただく。

「なるほどー。それじゃあ、私達も参加しますねー?」
「…………うん、OK。皆にはオレから話して置くよ」
「ありがとうございますー。よろしく お願いしますねー」

 別に のどかが脅した訳ではないのだが、記憶を弄った罪悪感のあるアセナは素直に頷くしかないのだった。



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Part.04:ある意味では天使


 のどか達と別れたアセナは麻帆良教会に急いだ。学園長室で話し込んだり のどか達に捕まったりで予定より遅れ気味なのだ。

 もちろん、茶々緒に「明日のパーティー、のどかと夕映も参加することになったから料理とか追加して置いてね」と連絡は済ませてある。
 その時の茶々緒の反応が「ああ、やはり お兄様は お兄様ですね」と言う生暖かいが何処か厳しいものだったのは言うまでもないだろう。
 ところで他のメンツへの説明は茶々緒が『やって』置いてくれるらしいが……何故か好意ではなく悪意が垣間見えるのは気のせいに違いない。

 そんな諸々の事情を忘れるためにも、アセナは今日のクリスマス会を全力で楽しむことにしたらしい。相変わらずの現実逃避である。

「と言う訳で、メリークリスマス!!」
「……うン、メリークリスマスだネ」
「まぁ、ちょっと気は早いっスけどね」

 もちろん、何が どう「と言う訳」なのかは不明だ。だが、いちいちツッコんでいられないので、ココネも美空も軽くスルーする。

「ちなみに、教会なのに23日にクリスマス会をやるのは、より多くの人に参加してもらうため らしいっスよ。
 んで、明日のイブには信者向けに賛美歌とかを歌って静かに聖夜を送る『聖誕の集い』が開催される予定っスね。
 つまり、明日はシスターとしてマジメにやらなきゃいけないけど、今日は自由気侭に楽しめるってことっス」

 要は、今日のクリスマス会は布教の意味も含めて行われているので、家族連れも参加しやすい祝日である今日に開催される訳である。

「いきなりの説明、ありがとう。って言うか、教会は教会で大変だよねぇ」
「まぁ、そんな訳で、今年も期待しているっスよ。主にトナカイ的な意味で」
「やっぱり今年もトナカイ役をやらされるのね? まぁ、覚悟してたけど」

 そう、アセナはゲストであるが、ホストでもあるのだ。それは去年も同様で、実は去年もトナカイ役をやっていたのである。

 ところで、アセナがサンタ役ではなくトナカイ役をやる理由だが……サンタ役には適任(白髪で白髭で ふくよかな神父)がいるからである。
 物語的にはアセナがサンタ役をやるのが暗黙のルールかも知れないが、神父を差し置いてアセナがサンタ役をやる訳にはいかないのだ。
 と言うか、物語的に考えてもアセナがトナカイとなってソリやらサンタ(神父)やらを引く方がいい気がする。アセナのキャラ的に考えて。

「ナギのトナカイ、評判いいんだヨ? だから、頑張ってネ」

 アセナは無駄に体力があるため、一人でもトナカイの きぐるみを着た状態でサンタが乗ったソリを引ける。
 しかも、二足歩行ではなく四足歩行の格好で引けるため、見ている側としては『いい見物』になるのだ。
 少々キツかったが去年のアセナでもできたので、エヴァに鍛えられた現在のアセナなら余裕で可能だろう。

 と言うか、ココネに褒められたのて、去年の体力のままでも余裕だったに違いない。何故なら、それがアセナ(変態紳士)だからだ。

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 クリスマス会は恙無く進行し、疲弊したアセナの心を潤す、実に楽しい一時が流れた。

 特に、去年に引き続いて今年もココネ(と美空)がミニスカサンタの姿を披露してくれたのが よかった。
 アセナが「……ふぅ、これで10年は戦えるよ」と賢者のような面持ちになったのは言うまでも無いだろう。
 ちなみに、作業を終えて賢者タイムに至った訳ではない。萌え過ぎて一周したことで穏やかになったのだ。

「そーいや、ヴァチカンから呼び出しを喰らったんスよね?」

 そんな幸せな空間の中、美空が思い出したように不穏なことを問い掛ける。
 本当に思い出したから聞いたのだろうが、場合によっては空気が壊れただろう。
 アセナがヴァチカンから呼び出される理由などロクでもないことなのだから。

 まぁ、幸い「良くない結果」ではなかったので、大した問題ではないが。

「まぁねぇ。こんなにも敬虔な信者なのにヒドい話だと思わない?」
「そりゃ、クリスマス限定の信者だからじゃないスか~~?」
「それでも信者は信者でしょ? まったく宗教家は器が狭いよねぇ」

 アセナは「困ったものだよ」と言った雰囲気で語るが、当然ながらブラフだ。

 地球において世界規模の宗教に喧嘩を売るのは愚の骨頂としか言えない。
 政教は暗黙的に繋がっており、世界宗教の持つ影響力は甚大なのである。
 それを理解しているアセナがカトリックの総本山をゾンザイに扱う訳がない。

 実際は、最大限に神経を尖らせて扱ったのは言うまでも無いだろう。

「んで? 呼び出された理由は……やっぱり魔法関係だったんスか?」
「その通り。と言うか、そうでもなきゃオレが呼ばれる訳ないっしょ?」
「そうっスよね。時期的に考えても、それ以外 考えられないっスねぇ」

 まぁ、本当のところは「呼び出された」のではなく「こちらから赴いた」のであるが。

 そう、魔法を異端認定されると面倒なことになるので、真っ先(各国の首脳陣の前)に話を持っていたのである。
 と言うか、各国の首脳陣が異端認定されるのを恐れて協力してくれない可能性も考えられたので最優先事項だった。
 もちろん、ヴァチカンだけでなく東方正教会や他教のトップにも話を付けに行ったのは言うまでも無いだろう。

 ところで、ヴァチカンでの話し合いは以下のようなものである(他教のトップ達との話し合いも似たようなものだ)。

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「――さて、腹の探り合いは この辺りでやめにして、そろそろ本題に移りましょうか?」

 持てる権力を総動員してローマ法王との会見に漕ぎ着けたアセナは、適当な雑談の後に本題を切り出した。
 時間が無い訳ではないが無駄にできる時間など無い法王もアセナの提案は有り難い。そのため、無言で続きを促す。

「最優先で『恩恵』を提供しますし、最優先で『移民』を受け入れます。ですから、魔法を擁護してください」
「……随分と単刀直入ですね。しかも、条件も最高のカードではないですか? それとも、まだ何かあるのですか?」
「いいえ、他には何もありません。ただ、『交渉』が決裂した場合は『魔法による洗脳も辞さない』だけですね」

 アセナは言葉と同時に周囲に隠れていた護衛達を『気当たり』だけで気絶させる。

 ナギやラカンなどの『化け物』級と比べれば遥かに格下であるアセナだが、それでも一般人からすれば雲の上の存在だ。
 いや、法王の護衛をやっているくらいなので一般人と言う表現は正確ではないが、アセナの基準からすると一般人レベルだ。
 まぁ、魔力や気のブーストがなければ立場は逆転するだろうが、魔力も気もあるのでアセナの有利は磐石のものである。

 言い換えるならば、気による圧力を掛けることだけで「魔法による洗脳も辞さない」ことを明確に意思表示したのだ。

「……なるほど。最高のカードを最初に切って最悪のジョーカーを後に持って来た訳ですか。面白い交渉ですねぇ」
「下手な小細工をしても簡単に見破られるでしょうからね。切れるカードを切りまくるしか手がないんですよ」
「果たして そうでしょうか? 利益で釣った後に脅しをチラつかせる……これも、充分に小細工ではないですか?」
「見解の相違ですよ。と言うか、この程度の小細工など貴方には小細工にも値しない些事に過ぎないでしょう?」

 法王と言う座に就いている。それだけで、政治的な手腕は卓越していることの証拠だろう。だから、アセナは一切 手を緩めない。

「ですから、電子精霊と言う魔法の産物によって電子機器も掌握していることも、小細工に値しませんよね?」
「……ええ、そうですね。魔法と言うものの圧倒的な利便性を示すためのデモンストレーション、なのでしょう?」
「その通りです。その気になれば、世界中の人間を洗脳することすら可能なのが魔法と言う技術なのですよ」
「…………わかりました。魔法は科学と同様に『神を理解するための手段の一つ』くらいの見解にして置きましょう」

 そもそも、法王に断る選択肢はない。手段を選ばなければ、いくらでも遣り様があることを示されているからだ。

 ここで断ろうものなら、魔法的に洗脳されるのが目に見えている。そのうえ電子機器も掌握されているので どうしようもない。
 それに、脅迫されたことを抜きにしても火星を開拓してくれるのは有り難いし、魔法と科学の融合進化の恩恵は実に美味しい。
 言い換えるならば、魔法を認めるだけで多大な利益が得られるのだ。デメリットもあるだろうが、圧倒的にメリットの方が強い。

 それがわかっているのだろう、アセナは白々しくも「ありがとうございます」と形だけの礼を口にするのだった。

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「相も変わらず腹黒いっスねぇ。って言うか、どの口で敬虔な信者とか言ってんスか?」

 アセナから掻い摘んだ説明をされた美空は、真っ当なツッコミを入れる。
 本当に敬虔な信者だったら、法王を脅すような真似をする訳がない。

「まぁ、法王や法王庁への敬意はないけど……少なくとも神を否定していないんだからいいでしょ?」
「いや、そんなことを真顔で言われても困るんスけど? 何で自分の考えに疑問を持たないんスか?」
「え? 無神論者以外は信者だろ? クリスマスと大晦日と初詣を楽しむ日本人の宗教観的に考えて」

 年末から年始に掛けて、キリスト教と仏教と神道のイベントを節操なくこなすのが日本人のクオリティだろう。

「いや、それは何かが決定的に違うと思うんスけど?」
「じゃあ、ココネは神の造りたもうた芸術だと思うから、とか?」
「はいはい、そうっスね。もういいから、黙りやがれ変態」

 そして、最終的にはココネ賛美に帰結するのがアセナのクオリティだろう。実に誇れないクオリティだ。

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 …………………………………………………………

 ところで、「結局、あの後はセセナ君には逢えませんでしたね」と妙にシャークティが落ち込んでいたので、
 いつもココネ(ついでに美空も)が お世話になっている御礼として、アセナは仕方なくセセナになったらしい。
 それっぽく言うと、サンタさんから――と言うか、トナカイさんからの ささやかなクリスマスプレゼントだ。

 御蔭でシャークティは100年くらい戦えそうなので、懺悔室に連れ込まれそうになったことは気にしないことにしたアセナだった。



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Part.05:これはヒドいと言うレベルを超えている


 時は過ぎて、12月25日(木)の早朝。

 目を覚ましたアセナは、何故か猛烈に痛む頭を抑えつつ鈍い頭をフル回転させて現状の把握に努める。
 と言うか、昨夜はシャンパンやらワインやらを暴飲した記憶が微かにあるので、頭痛の原因は二日酔いだろう。

(え~~と、つまり、酒は飲んでも飲まれるなって教訓が骨身に染みたってことでいいかな?)

 周囲を見渡すと、あられもない姿で(しかも床に雑魚寝で)寝息を立てている美少女達。
 何が どうなって『こう』なったのかは覚えていない(と言うか思い出したくない)が、
 恐らくは酒のせいでこうなったのだろう。むしろ、そう言うことにして置くのが賢明だ。

(って言うか、茶々緒や茶々丸も潰れているのは何故だろう? ガイノイドにアルコールって影響すんの?)

 フェイトやテオドラは純粋な人間とは言えないが、極めて人間に近い存在なのは間違いない。
 それ故に、二人が酒に酔うことは納得できる……が、茶々緒と茶々丸は微妙に納得できない。
 いや、超や葉加瀬のマッドっぷりを考えると、アルコールに酔える機能を搭載した可能性もあるが。

(いや、そもそも、そんなことを気にしている場合じゃないよね?)

 気にはなるが、気にしたところで どうしようもないので、ここはスルーして置くべきだろう。
 それよりも、現状を『どうにか』することを考えるべきだ。現状を誰かに知られたら非常に不味いからだ。
 しかも、その『誰か』と言うのが、第三者だけでなく惰眠を貪っている美少女達も含まれているのだ。

 何故なら、アセナも含めて全員が全裸もしくは半裸だったからだ。

(まぁ、さすがに この人数を一度に相手した訳が無いから、酒の勢いで『一線を越えた』訳はないだろうね。
 って言うか、そもそも酒の匂いしかしないし、諸々の体液とかの痕跡も見受けられないから、可能性はゼロだ。
 でも、誰もが こんな風に冷静に考えてくれる訳ではないから、現状を打破しないと かなり不味いね)

 アセナは冷静に現状を分析すると、茶々緒を起こして皆に服を着せるように頼む。

 その際、「お兄様……責任は取っていただけるんですよね?」とか茶々緒が言っていたらしいが、
 あきらかに真実を理解したうえでやっていたのでアセナは「気が向いたらね」と軽く流したらしい。
 それにちょっと不満そうな顔をした茶々緒だが、遊んでいる場合じゃないのは わかっているため、
 渋々と「御褒美はデートでいいですよ」とか言いながら皆に服を着せたのは言うまでも無いだろう。

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「…………ところで、どうして あんな状態になったの?」

 皆の着替えを終えた茶々緒に作ってもらった朝食を食べながら、アセナは思い出したように訊ねた。
 起きたばかりは状況打破を優先したが、今は落ち着いて来たので原因究明をする余裕が出て来たのだ。
 ちなみに、皆はそれぞれベッドに寝かし付けてある。服を着た状態なので遠慮なくアセナが運んだらしい。

「過去ログを検索する限りでは……酔った木乃香さんが皆様を脱がしたのが直接的な原因かと思われます」

 正確には、酔ったエヴァが脱ぎ始めたので、それに対抗したネギやらフェイトやらが脱ぎ出し、
 それを見た木乃香が「なら皆で脱げばええやん!!」と言う訳のわからない結論を出したらしい。
 ちなみに、その時にはアセナは夢の中にいた。エヴァが脱ぎ出した段階で気絶させられていたのだ。

 ところで、アセナを気絶させた犯人は刹那であったのだが……それは、以外なのか順当なのか、判断が難しいところだろう。

「そう。なら、今後は このちゃんに お酒を飲ませないように努力するよ」
「と言うか、木乃香さんに限らず皆様の『気遣い』なのではないでしょうか?」
「裸体を見せるのが気遣い? ……確かに嬉しかったけど、何か違くない?」

 嬉しいことは嬉しいが、同時に困ったのも事実だ。それ故、サービスならば もっと違う方面で発揮して欲しいのがアセナの本音だ。

「って言うか、そもそも皆に気遣ってもらう理由が無いんだけど? 公私ともに頗る順調だから、オレは何も問題ないよ?」
「……気付いて いらっしゃらないのですか? 魔法世界も地球も味方に付けたのに、お兄様は気を張ったままですよ?」
「そりゃあ、まだ麻帆良の都市再編が終わってないし、データはあっても研究そのものは続けなきゃいけないから仕方ないだろ?」

 既に未来からデータは届いているが、それはあくまでも結果を先取りしたに過ぎない。つまり、結果を作る努力は継続しなければならないのだ。

「そうですね。それに、テラフォーミングも残っていますし、テラフォーミング後には本命の民族大移動が残っていますね」
「なら、オレが気を抜けないのも わかっているだろ? ここまで来たんだから、最後の最後まで油断しちゃいけないって」
「確かに仰る通りです。お兄様には まだ『やるべきこと』が残っており、下手に気を抜けないのも よく理解しております」

 アセナの言う通り、ほとんど問題が解決したのにアセナが気を張っているのは、詰めを甘くしないため だろう。それは一理あることだ。

「――ですが、大移動が終わった後は、造物主との約定を果たすために『理想郷』の作成に従事するのでしょう?
 いえ、その前に、大移動が完了して生活が軌道に乗ったら、今度は地球からの移民も受け入れるんでしたね。
 まるで、気を休めることを拒んでいるかのように『やるべきこと』を自ら引き受けているように見えますよ?」

 だが、茶々緒の言う通り、アセナには何処か「自ら厄介事を背負い込もうとしている」ようにしか見えないのだ。

「い、いや、そんなことは――」
「――ない、と言い切れますか?」
「………………………………」

 アセナは否定しようとするが、茶々緒の真剣な瞳に射抜かれ、思わず口をつぐんだまま何も言えなくなる。

 そう、アセナ自身もわかっているのだ。仕事に逃げようとしていることなど、態々 言われるまでも無く。
 思えば、テオドラとの婚約の説明の時も そうだった。無意識だったが、木乃香の指摘通り、仕事に逃げていた。
 だが、そこまで自覚していても、アセナは『あと一歩』が踏み出せない。踏み出す踏ん切りが付かないのだ。

「そんなに、いいんちょさんと向き合うのが――いえ、いいんちょさんに拒絶されるのが怖いんですか?」

 無言のまま固まる場を打ち破ったのは、ネギの正鵠を得過ぎた一言だった。どうやら暫く様子を窺っていたようで、目覚めたばかりには見えない。
 ネギは静かだが確りした足取りで二人の間に歩み寄ると、茶々緒に「後はボクが引き継ぎます」と言いたげな目配せをして席を譲ってもらう。
 席を立った茶々緒はネギに無言で礼をすると「そろそろ皆様が起き出す時間でしょうから、朝食の用意に取り掛かります」と、その場を後にする。

 後に残されたのは、複雑な表情でネギを見るアセナと そんなアセナに穏やかな笑みを向けるネギだけだった。

「……だけど、コノカさんには学園祭の時に『問題が解決したら向き合う』って言ったんですよね?」
「い、いや、それは――って、そう言えば、何で そのことを知ってるのさ? 木乃香から聞いたの?」
「いいえ。その時の一部始終(の盗撮記録)を この前チャチャオさんに見せてもらったからです」
「えぇええ!! ストーキングしてたのは知ってたけど、記録までしていたとは思わなかったよ?!」
「更に言うなら、既に そのデータはコノカさん経由で いいんちょさんに渡してあるそうですよ?」
「ぬぉおおい!! 何を勝手にやっちゃってくれてんの!? さすがにシャレじゃ済まされないよ?!」
「そうでしょうね。と言うか、チャチャオさんもシャレのつもりでやった訳がないと思いますけど?」

 プライバシーの侵害を非難するアセナに、ネギは何処までも冷静に「ナギさんのためなんですTよ?」と言わんばかりに語る。

 もちろん、アセナとて一連の出来事がアセナを弄るためのものではない――むしろ、アセナのためのものであることなどわかっている。
 わかってはいるが、自分の与り知らないところで木乃香にしか吐露していないと思っていた本音が方々に流れていたことは納得できない。
 まぁ、納得できなくても現状は変わらないので、納得するしかないのもわかっているため結局は思考を本題に切り替えるしかないが。

「………………つまり、いい加減に あやかと向き合えってことかな?」

 短くも長くも無い沈黙の後、アセナは搾り出すように疑問を口にする。もちろん、疑問の形はしているものの実際は形式的な確認である。
 その証拠にネギは「そう受け取って頂いて構いません」と言わんばかりに頷いた後「ちなみに、全員の総意ですよ?」と付け加えるだけだ。
 ところで、ネギは態々 言及していなかったが、この場合の全員に茶々丸は含まれない。何故なら、茶々丸にはフラグが立っていないからだ。

「……わかったよ。ここまで御膳立てしてもらっちゃ、向き合わない訳にはいかないよ」

 アセナは僅かな沈黙の後、あやかと向き合う決意を口にする。きっと、心は既に決まっており、『最後の一押し』が必要だったのだろう。
 まぁ、見方によっては自分を想ってくれる少女達に背中を押されての決意となるが……それでも、アセナが決意をしたことには変わりは無い。
 よく見ればアセナは笑みを浮かべていた。その笑みは、それまで隠そうとしても隠し切れていなかった陰りが消え去った、心からの笑顔だった。

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 一方、アセナとネギの話題の中心である あやかはと言うと……

(那岐さん――いえ、神蔵堂さんが魔法世界に行っていた時期と魔法が世界的に公表された時期を考えると、
 どう考えても、神蔵堂さんが魔法世界で成し遂げたこと と魔法の公表は深く関係しているのでしょう。
 単純に考えれば『魔法を公表するために意見調整をして来た』と言うことになるのでしょうが……
 それだけならば、神蔵堂さんが自身の犠牲を覚悟する必要はありません。他に『何か』をして来た筈です。
 と言うことは、神蔵堂さんが言う『問題』と言うのは まだ解決していない可能性が高いのでしょうね。
 つまり、まだ私と『向き合う』タイミングではない と言うことであり、まだ焦る必要はありません。
 風の噂では皇女殿と婚約なされたらしいですが、焦る必要はありません。きっと理由がある筈です。
 近衛さんとの婚約だって関係者を納得させたり私を遠ざけたりするためのブラフだったようですしね。
 むしろ、ここで先走って私から接触をしようものなら、神蔵堂さんの覚悟を踏み躙ったことになります。
 そんな恥知らずなことはできません。ただ待つのはツラいですが、ここは待たなければなりませんね)

 アセナの都合を慮り、逸る気持ちを抑えてアセナからの接触を待っていた。

 もちろん、微かには「再び決別を告げられたら……」と言う不安もある。面と向かって決別を告げられたのだから、当然だろう。
 だが、根底にはアセナへの信頼があるのは間違いない。冷静になって考えてみると、守るために遠ざけたようにしか思えないのだ。
 それ故に、あやかのできることはアセナの事情を調べて『問題』の進捗状況を想像し、アセナからの接触を信じて待つことだけだ。

『――でも、あやかと復縁することは無理だよ』

 この言葉を聞いた時、どれだけ深く悲しみ、そして どれだけ深く傷付いたことだろう。
 木乃香が自分との和解を勧めてくれたことがわかっただけに、そのショックは大きかった。
 実は、こんな言葉を聞かせた木乃香を「何て意地悪なんでしょう」と邪推したくらいだ。

『だって、復縁しちゃうと決別した意味がなくなっちゃうもん』

 この言葉を聞いた時、どれだけアセナの覚悟を痛ましく思い、そして どれだけ己を恥じたことだろう。
 二人が決別した時、あやかはアセナの言葉を字面通りにしか受け取らず、その真意を測ろうともしなかった。
 真意を測る余裕がないくらいショックが大きかったのだが、それでも受け入れてしまったことが悔やまれる。

『そもそも、オレは あやかが大切だから――あやかを巻き込みたくないから、あやかと決別したんだ』

 この言葉を聞いた時、どれだけ救われ、そして どれだけ喜んだことだろう。
 大切だからこそ遠ざける。つまり、決別し(遠ざけ)たのは守るためだったのだ。
 決別した事実は変わらないが、その理由が違うだけで事実がまったく違って見える。

『だから、オレが抱えている『問題』が解決するまでは、決別したままじゃないと意味がなくなっちゃうんだよ』

 この言葉を聞いた時、どれだけ『その時』を待ち遠しく思ったことだろう。
 その『問題』が何を指すのか、正確にはわからない。だから、解決する時期も不明だ。
 だが、解決すればアセナは決別を止める気でいる。それがわかっただけで充分なのだ。

 だから、あやかは今すぐにでもアセナの元へ行きたい気持ちを抑え、ただただ待ち続けるのだった…………


 


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オマケ:その頃のウェールズ


 舞台は変わって、イギリスはウェールズにある とある山間の村。

 そこには、魔法世界から帰還したナギと冬眠から覚めたアリカの姿があった。
 何でもネギに「いろいろと邪魔なので隠居してください」と言われたらしく、
 悠々自適な生活を送ってはいるが、何処と無く寂しそうな雰囲気を漂わせている。

 まぁ、アリカにはネギが時々 会いに来るので、アリカは そこまで寂しそうではないが。

「どうして……どうして、こうなったんだ…………」
「まぁ、いつかは和解できるじゃろ。気長に待つんじゃな」
「お前はいいよなぁ。普通に会話してもらえるんだろ?」
「親子としては微妙じゃが、御主よりはマシな対応じゃな」
「……そうか。でも、どうしてオレはダメなんだろうな?」
「話を聞く限り、恐らく『闇の福音』の件が原因じゃろうな」
「あ、あの、アリカ……さん? 少し、怖いんですけど?」
「フン!! 誰彼 構わずフラグを立てる御主の自業自得じゃ」
「えぇっ!? オレが悪いの?! ――あ、いえ、そうですね」
「……わかればいいのじゃ。この無自覚なフラグ建築士め」

 微妙にアリカのキャラが崩壊している気がするが、この夫婦は この夫婦で仲良くやっているらしい。

 ところで、実を言うと村には石化を解除された村人達もいる。描写はなかったが、村人達の問題も解決していたのだ。
 いや、正確にはアリカの冤罪が晴れたため村が狙われる理由がなくなり、結果として何も問題が残らなかったのだが。
 まぁ、文明から切り離された『孤島』で自給自足の生活を送っていた村人達が少し野生化したが……気にしてはいけない。

 今日も村の何処かでモヒカンになった村人が「ヒャッハー!!」とか雄叫びを上げている気がするが、きっと気のせいに違いない。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。


 今回は「地球での暗躍に見せ掛けてクリスマス話……と思わせて、あやかの話」の巻でした。

 と言うか、のどかと夕映が復活したことも重要ですね。まぁ、密かにアリカも復活してますけど。
 あ、いえ、別にアリカが嫌いな訳ではありませんよ? ただ、ネギがアレなので こうなったのです。
 敢えて言うならば、アリカは物語の犠牲になったのです(正確には、ネギの かも知れませんが)。

 ところで、あやかの描写をしているうちにアセナのヘタレ具合が悲しくなりました。次話で挽回する予定です。

 ちなみに、当初はネギの役割は無くて すべて茶々緒にやらせる予定でいました。
 しかし、そうすると「あれ? ネギって要らないコ?」と言う状態になるので、
 慌てて予定を変更し、途中でネギにバトンタッチする流れに変えてみました。

 ネギは要らないコではありません。だって第二の主人公とも言えるメインキャラクターですからね。メインヒロインではありませんが。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2012/01/27(以後 修正・改訂)


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