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赤松健SS投稿掲示板


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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:b259a192 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/06 21:57
第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)



Part.00:イントロダクション


 今日は6月22日(日)。前話の翌日、つまり麻帆良祭3日目――最終日である。

 原作では、超が『大発光』を利用して世界中に魔法を強制認識させようとしたが、
 『ここ』では超はアセナの『計画』に協力するので そんなことは起こり得ない。

 そう、今日も大した事件は起こらずに麻帆良祭は進むのであった。



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Part.01:野点に参加してみた


「ほれ、粗茶だ。有り難く飲むがいい」

 亜子とのことで精神的に来ていたアセナだが、1日目と同様に2日目も『別荘』にてリフレッシュしたので、
 当初の予定 通り、エヴァに「絶対に来るんだぞ?」と命じられていた茶道部の野点に顔を出していた。
 ちなみに、誰か(木乃香とか刹那とかネギとか)を伴ってエヴァの反応を楽しもうか とも考えたらしいが、
 どう考えてもロクなことにならない(と言うか、アセナの精神的な負担にしかならない)ので止めたらしい。
 悪戯や悪フザケが大好きなアセナだが、甚大な被害が予想される場合は我慢する。それがアセナの生き方なのだ。

 ところで、今のエヴァの服装だが、普段とはベクトルの異なる服装――つまり、着物だ。

 アセナとしては金髪幼女が和服を着ていることに違和感はあるが、可愛いので問題はない(やはり、可愛いは正義だ)。
 と言うか、茶を点てる以上ゴスロリ服を着るとか有り得ないだろう。エヴァとて それくらいのマナーは守るのだ。
 まぁ、アセナに茶を差し出す時の態度が尊大過ぎて「御持て成しの心は何処へ行った?」と小一時間ほど問い詰めたくなるが。

「うっわ~~、有り難過ぎて泣けて来るわ~~」
「……何だ? まさか文句があると言うのか?」

 文句を言いた気なアセナの反応に「放って置いた癖に文句を言うつもりなのか?」とエヴァが睨む。
 別に毎日エヴァの相手をしなければならないルールなどないが、それだけ寂しかったのだろう。
 それに、一人で学園祭を回っているエヴァの姿を思い浮かべると無性に悪いことをした気分になる。

 文句を言いたいけど ここは我慢しよう。アセナは心の中で決めたのだった。

「いや、別に。ただ、茶道って奥が深いなぁって思うだけさ」
「深いも何も、千利休が皮肉を言うために始めた遊びだぞ?」
「すべての茶道関係者を敵に回す様なことを言っちゃダメェ!!」
「軽い冗談だ。そもそも、歴史としては千利休より古いしな」
「へぇ、そうなんだ。てっきり千利休が起源だ と思ってたよ」

 その冗談は軽くないよ とツッコミたかったが、深くは触れない。それが大人の対応だろう。

「千利休は侘茶の完成者であり、今日の茶道の主流を作っただけだ」
「なるほどねぇ。有名なだけで創始者と言う訳ではないんだねぇ」
「更に言うと、『茶道』と言う言葉が使われ出したのは江戸以降だ」
「へぇ、そうなんだ? じゃあ、それまでは何て呼ばれてたの?」
「……『茶湯(ちゃとう)』、もしくは『茶の湯』だろうな、多分」
「いや、多分て……最後の最後で投げ遣りにならないで欲しいんだけど?」

 エヴァとて聞きかじった程度で正式に調べた訳ではない。アセナの言いたいこともわかるが、エヴァにも事情があるのだ。

「フン、気になるのなら自分で調べろ。『ねっと』とやらを使えばわかるんだろう?」
「まぁ、確かに その通りなんだけどさ……そのネットへの過信は何処から来たの?」
「うるさい!! 『ねっと』なんか知らん!! そんなものなくても人は生きていける!!」
「いや、何に対して憤っているのさ? まったく以って意味がわかんないんだけど?」
「ええい、黙れ!! 『ぱそこん』なんて大嫌いだッ!! だから私は何も悪くないッッ!!」

 ネットやパソコンにトラウマができるようなことがあったらしい。チラリと確認すると、茶々丸が いい笑顔になっていた。

「実を言いますと、この前マスターがゲームの攻略法を調べるためにパソコンを機動させたところ――」
「――いや、待って。今、『機動』って言わなかった? 誤植なお? それとも敢えて充てたの?」
「パソコンを『機動』させたところ、何故かパソコンがグチャグチャになり、15万円が水泡に帰しました」
「敢えて充てたのね。って言うか、起動しようとしたら機動するようなことを仕出かして壊した訳ね」

 アセナが茶々丸に無言で問い掛けたところ、茶々丸は恍惚として表情で経緯を語る。恍惚としているのは、回想しながら萌えているのだろう。

「その通りです。ちなみに、涙目のマスターの写真があるのですが……今なら1枚300円で譲りますよ?」
「じゃあ、3枚もらって置こうかな? もちろん、転売はOKだよね? (まぁ、ダメでも転売するけど)」
「もちろん、転売は自由です。ただし、写真媒体でしか渡しません。つまり、データは売りませんからね?」
「うん、それでいいよ。だって、オレも転売先は教えないからね。やっぱり情報は秘匿するべきでしょ?」

 ちなみに、アセナの転売先は瀬流彦と白井だ(1枚は自分用だ)。もちろん、それぞれに500円程度で売り付ける予定なのは言うまでもない。

「ええい!! 貴様等は さっきから何の話をしておるのだ?!」
「え? え~~と、商売かな? もしくは萌えについてかな?」
「むしろ、マスターの可愛らしさを分かち合っているのでは?」
「あ、そうだね。それが綺麗な表現だね。さすが茶々丸だねぇ」

 言うまでもないだろうが、エヴァは「コイツ等には何を言ってもしょうがないな」と言う あきらめの境地に達したらしい。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

「そう言えば、その格好、なかなか似合っているじゃないか?」

 振舞われた茶を飲むアセナの姿を見ていたエヴァが、思い出したようにアセナの羽織袴姿を褒める。
 日本人離れした容姿のために多少の違和感は残るが、それでも似合っていることは間違いない。
 恐らく、その立ち居振る舞いが『和』を感じさせるものだからだろう。やはり、形よりも心である。

「そう? ありがとう。そう言えば、エヴァの着物姿も似合ってるよ」

 茶を飲むのを中断したアセナは照れ臭そうに礼を述べ、そのついでとばかりにエヴァの着物姿を褒めて置く。
 中断したことが作法として正しいか定かではないが、茶を供したエヴァが気にしていないので問題ないだろう。
 何故なら、マナーやら作法やらは その場にいる人間に不快感を与えないようにするための不文律だからだ。
 と言うか、アセナが飲んでいる最中に話し掛けたのはエヴァなので、エヴァに作法を口にする資格はないが。

「そ、そうか? と言うか、そう言うことは取って付けた様に言うんじゃない!!」

 アセナの言葉にテレを見せるエヴァ。デレではない、テレだ。
 その後にツンっぽくなっているが、これはデレではないのだ。

「別に取って付けたつもりはないけど……タイミングが悪かったようだね」
「そうだ。そう言うことは、真っ先に言うのがマナーと言うものではないか?」
「そうなの? シャイな日本人としてはハードルが高過ぎるんだけど?」
「は? 誰がシャイなんだ? 貴様は恥など遥か昔に捨て去っているだろう?」
「え? いや、捨ててる部分もあるけど、捨ててない部分もあるんだけど?」

 アセナのキャラ的に女性を褒めることに抵抗はなさそうに見えるが、それなりに照れるみたいだ。
 セクハラをかましまくっているクセに どの口が言うのだろうか? 疑問には思うが、気にしてはいけない。

「まったく、人が忠告してやったと言うのに……貴様は口答えしなければ気が済まんのか?」
「いや、別に そう言う訳じゃないよ? エヴァの評価がヒドいから訂正しただけだよ?」
「その評価を作ったのは貴様の普段の言動だろう? なら、貴様の自業自得として受け入れろ」
「まぁ、その通りなんだけど……それでも、受け入れちゃいけいないことがあると思うんだ」
「なら、まずは普段の言動を改めろ。今のままでは単なる変態としか評価できないぞ?」

 内心で「オレって単なる変態なんだ」とショックを受けつつも「はいはい、了解です」と受け流すのが、アセナのプライドである。

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「さて、せっかくだから、囲碁にも付き合え」

 もちろん、『何が』『どう』『せっかく』なのか は定かではない。
 だが、アセナとしては断る理由も無いので、喜んで付き合う所存だ。

「じゃあ、足を崩してもいいかな? そろそろ正座がキツいんだけど?」
「何だ? 意外と だらしないな。正座の一つや二つ、半日は耐えてみせろ」
「いや、それは慣れてないと無理だから。普通は30分くらいで限度だから」
「……貴様は普通ではないだろう? 一体、何のために修行をしたんだ?」
「いろいろ理由はあるけど、少なくとも正座に耐えるためじゃないのは確かだね」

 エヴァの無茶な言葉は上機嫌である証なので、アセナは特に気にせずに話を進める。

「まぁ、正座については流してもらうことにして……サッサと対局を始めようか?」
「いや、流すな――と言いたいところだが、別に そこまで気にすることでもないな」
「……でも、正座をさせることでオレの集中を乱す予定なら、正座してあげるけど?」
「ほほぉう? つまり、私が貴様程度に勝つために小細工を弄する と言うことか?」
「さぁ、どうだろうねぇ? オレは『そう言う解釈もできる』って言っただけだし」
「ククククク……よかろう。安い挑発だが乗ってやる。完膚なきまでに叩き潰してやる」

 こうして仁義無き戦いが始まったのだった(まぁ、戦いは戦いでも囲碁での戦いだが)。

 ……………………………………
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「ほれ、さっさと投了しろ」

 10分程度の時が過ぎた頃、盤面は明らかに白――エヴァが圧倒的な優勢だった。
 ちなみに、置石は無く互い戦だったので、実力の差が如実に表れた結果だろう。

「あれ? エヴァって囲碁 強いの?」
「当たり前だ。伊達に長く生きとらん」
「キャラ的に口だけだと思ったのに……」

 アセナは囲碁に自信があった訳ではない。ただ、エヴァが弱い と思っていたので勝てる気でいただけだ。

「誰が口だけだ!? と言うか、『キャラ的』とは、どう言う意味だ?!」
「いや、だって、エヴァって最強とか言ってるけど弱点 多いじゃん?」
「ふ、ふふふふふ……貴様、なかなかいい度胸をしているじゃないか?」

 ニンニクやネギに弱いし、搦め手にも情にも脆い。親近感は非常に沸くが、威厳は遥か彼方に消え去っている。少なくともアセナにとっては。

「甘い顔をしていたら付け上がりおって……貴様など3秒で捻り潰せるのだぞ?」
「まぁ、そりゃそうでしょ。って言うか、攻撃の時は鞭とハイヒールで頼むね?」
「フッ、仕方がないヤツだな……って、何を言わせるか!? シリアスを続けさせろ!!」
「それは無理だよ。バトル展開でシリアスになったらオレが為す術なく潰されるもん」

 それなりの鍛錬は積んだが、エヴァとガチでやったら敗北の未来しかない。それくらいのこと、試すまでも無くアセナも理解している。

「だがしかし、そんな事態に陥らないようにするために修行したのだろう?」
「うん、そうだよね。間違っても正座に耐えるためじゃないよね?」
「う、うるさい!! さっきのは言葉の綾だ!! 細かいことは気にするな!!」
「OK、OK。って言うか、投了するから、今度はチェスで勝負しない?」
「ほほぉう? 懲りずに挑戦するとはな……悪いが、私はチェスも強いぞ?」
「安心して。チェスなら それなりに自信があるから相手くらいにはなるよ」
「クックックックック……いいだろう。その心意気だけは買ってやろう」

 いつの間にかアセナのペースになっていることに気付きつつも「まぁ、これはこれでいいか」と敢えて流されるエヴァだった。
 ちなみに、チェスの勝敗だが……囲碁より差は無かったが、それでもエヴァから勝ちを拾うことはできなかった、とだけ言って置こう。



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Part.02:楽しくランチを食べてみた


「やぁ、さっちゃん。Cランチを大盛で お願いね」

 午前中いっぱいエヴァとの戯れに興じたアセナは、昼食を摂りに『超包子』に訪れていた。
 ところで、五月が『お料理研究会』ではなく『超包子』にいるのは、単にシフトだからだ。
 あ、ちなみに、アセナの頼んだCランチは、ホイコーローとライスとスープのセットである。

「そう言えば……瀬流彦先生は ここで何をしてるんですか?」

 注文を終えたアセナが料理が来るまでの暇潰しに、隣席の人物――瀬流彦に声を掛ける。
 ちなみに、二人が座っているのはカウンター席なので、相席を申し入れた訳ではない。
 つまり、偶然 隣の座席になっただけで、アセナが意図的に瀬流彦の隣に座った訳ではない。

 まぁ、日頃のアセナの言動を鑑みると意図があるようにしか見えないが。

「……ランチを食べているように見えないかな?」
「まぁ、そう見えなくも無いですけどねぇ」
「いや、他に何をしているように見えるのさ?」

 アセナの「本当は別の目的でしょ?」と言わんばかりの言い様に、思わず瀬流彦は苦笑と共に訊き返してしまった。

「え? 女子大生の お客さんを視姦しているのでは?」
「いや『何を当たり前のことを?』って顔しないでよ」
「わかってますよ。瀬流彦先生はロリコンですもんね」
「そうそう。ぶっちゃけ、13歳以上は年増だよねぇ」

 そして、アセナの垂らした釣り糸に喜んで釣られてしまったのだった。きっと、学園祭関連の激務で疲れ切っているのだろう。

「ところで、今のセリフ、偶然にも録音しちゃったんですけど……刀子先生に聞かせてもいいですか?」
「いや、それは あきらかに必然だよね? と言うか、それは君にも累が及ぶ修羅の道だよ?」
「……確かに、刀子先生の場合、『年増』と聞いた瞬間に目に映る者すべてを斬殺しそうですもんね」

 だがしかし、疲れていても死亡フラグの回避は怠らない。それが瀬流彦のクオリティだ。

「そもそも、どうして あの人に刃物を持たせて置くのかなぁ? 学園長の考えはボク程度には理解できないや」
「え? 『見習い』魔法使いにすら『発動体』の所持を許可してるんですから、倫理観なんてないでしょう?」
「あ、そう言えば そうだね。常に銃を持たせているのと変わらない状態な訳だから、気にするだけ無駄かぁ」
「そうですよ。むしろ、魔法使いが『ムシャクシャしてやった』的な事件を起こしたら大量虐殺になるんですから」

 アセナの中では「魔法使い = 見えない銃を撃ちまくることができる」と言うイメージなのである。きっと、見えない自由が欲しいのだろう。
 何かが間違っているイメージだが、完全に間違っているとも言えないイメージなだけに否定もできないため、瀬流彦は別の切り口で返すことにする。

「いや、まぁ、そんなことをやらかしたら本国から派遣された人が『内々に処理をする』だけなんだけどね」

 ところで、『内々に処理をする』と聞くと「表に出ないように手を回す」ようにも聞こえるが、この場合は「内部で制裁される」のだろう。
 メガロメセンブリア(本国)の法律が どう言ったものなのかは定かではないが、碌な裁判すらせずに処刑されるだろうことは容易に想像できる。
 さすがに公開処刑をするようなことはないだろう と思いたいが、アリカは公開処刑されたことになっているので公開処刑もあるかも知れないが。

 うん、まぁ、結論としては「メガロメセンブリアに『犯罪者』として認定されたら悲惨な目にしか遭わない」と言うことだろう。

「なるほどぉ。ちなみに、それは『魔法の秘匿義務』的に考えて、ですか?」
「さぁ、どうだろうね? 『弱者を守る義務』的な考えかも知れないよ?」
「ですが、魔法だとバレないようにヤれば放置されるだけだと思いますけど?」
「……それは否定しない。だけど肯定もしないよ? 立場的に考えて、ね」

 別に、アセナも瀬流彦も魔法使いをアンチする気はない。単に「組織とは そんなものだ」と考えているのだ。

 そう、組織にとって不利益になる行為は厳罰に処されるが、そうでなければ放置されるのが組織だからだ。
 社会通念上の考えなど、組織の前では霞む。内部告発した者が組織内で立場を失うことが いい例だろう。

「まったく、組織とは面倒なものですよねぇ。いっそのこと潰せたら どれだけ楽でしょうか?」
「まぁ、組織が潰れたことによる混乱を考えると組織を改善するのがベストだとは思うけどね」
「それが面倒だから潰したいんですよ。とは言っても、面倒でもやるしかないんですけどねぇ」
「って言うか、キミの目的って東西の統合だよね? 何故 本国の組織改善を話題にしたのかな?」
「……あれ? 先生には言ってませんでしたっけ? オレが本国の方も視野に入れていることを」
「多分、聞いてはいないと思うよ? まぁ、予想はできていたから、別に驚くことではないけど」

 アセナが瀬流彦を引き込んだ名目は「東西の統合のため」だったので、瀬流彦は魔法世界云々を知らなかった。まぁ、既に後戻りはできないが。

「話すまでもないから話さなかった……と言うことにして置くと、お互いが幸せになれますねぇ」
「まぁ、そうだねぇ。あ、ところで、話は戻すけど、キミは本国の組織改善までするつもりなのかい?」
「ええ。残念なことに『黄昏の御子』的に考えると、それをしないと逆に不味い立場なんですよねぇ」
「……OK。キミが『黄昏の御子』だったのは想定外だったけど、ある意味で納得できたからいいや」

 アセナのアッサリとした暴露に瀬流彦は「話し掛けられた段階で『認識阻害』を張っててよかった」と、ある種の諦観すら抱いたらしい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さて……そろそろ本題に入っていいですか?」

 料理を美味しくいただいて店を出た後、二人は腹熟しにブラブラと散歩をしていた。
 ちなみに、店を出たと言っても『超包子』は屋台なので席を立って店から離れただけだが。

「本題? 既に『お腹いっぱい』なんで遠慮したいんだけどなぁ」
「そうですかぁ。でも、せっかくですから、話くらいさせてください」
「(引く気はないのね)……はぁ、わかったよ。で、話って何だい?」

 瀬流彦は遠回しどころか直球で「話したくないでござる」と訴えるがアセナは気にせず話を進めたので、瀬流彦は折れるしかない。

「軽い話題ですよ。だって、『魔力蓄電池』についてですから」
「ああ、確かキミが提供したんだよね? 入手経路は不明だけど」
「それで本題なんですけど、アレの容量って大丈夫そうでしたか?」
「(鮮やかにスルーされた?!)……まぁ、多分、大丈夫だと思うよ」

 別にアセナは入手経路を明かさないつもりでない。まずは自分の疑問を解消したかったので後回しにしただけだ。

「そうですか。ありがとうございます」
「……え? まさか、これで終わり?」
「ええ、オレとしては これだけです」

 ちなみに、アンドロメダだが、合計で6基 準備してもらい、6箇所の魔力溜まりに それぞれ設置してある。
 異常気象の影響を考慮したのもあるが、魔力溜まりに1基ずつ設置した方がいいだろう と言う判断だ。

 ところで、言うまでもないだろうが、態々アセナが「オレとしては」と前置きしたのは、入手経路について応える気があるからである。

「え? マジで? って言うか、それだと、食事前の話題の方が本題っぽくない?」
「そうですね。でも、あれは流れで話したので、先生に話し掛けた主目的じゃないんですよ」
「ああ、なるほどねぇ。あれ以上の話になるのか と身構えたボクがバカみたいだねぇ」
「ほら、よく言うじゃないですか? 備えあれば憂いなしって。備えることは重要ですよ」

 だが、瀬流彦はショックが大きかったのか、先程の入手経路の話ではなく本題云々を話題にしてしまう。

「まぁ、そりゃそうだけど……正直、もう少し前振りをして欲しかったなぁ」
「……すみません、前振りとか面倒――じゃなくて、苦手なんですよねぇ」
「何か聞き捨てなら無いことが聞こえた気がするけど……ここは敢えて流そう」
「相変わらずのスルースキルに、頼もしさすら感じてしまう今日この頃ですよ」

 まぁ、これはこれで瀬流彦が望んだことなので、これはこれでいいのだろう。そう結論付けたアセナは入手経路の話は忘れることにした。

「って言うかさ、あれが主目的だとすると、もしかしてボクに話し掛けたのって暇潰しだったの?」
「ええ、平たく言うと そうなりますね。今回に限っては、本当に偶然 会っただけですからねぇ」
「なるほどねぇ。でも、偶然にしては、キミが一人で食事を摂るなんて、ちょっとおかしくない?」
「そうですか? オレは基本的に食事は一人で摂りますよ? だって、オレは友達が少ないですから」

 ハーレムに近い状態のアセナを知っている瀬流彦としては、アセナが一人で食事を摂ることに疑問があった。だが、それは藪を突く行為に近かった。

「……何気なく放ったジャブに返って来たヘヴィ・ブローに どう反応しろと?」
「笑えば、いいんじゃないでしょうか? って言うか、笑ってやってくださいよ」
「ハッハッハッハッハ!! このロンリーボーイめ!! ……これで、満足かな?」
「すんません、殺意が沸いたので『このロリコンが!!』って叫んでいいですか?」
「何そのヒドい仕打ち!? さっきのはキミが笑って流せって言ったんじゃないか?!」
「それはそれ、これはこれです。と言うか、もう少し言い方があると思うんですが?」

 ちなみに、アセナが瀬流彦をロリコンと蔑む資格はないように感じるだろうが、アセナは「ロリもイケるだけでロリコンではない」のである。
 何だかより酷い気がしてならないが、アセナと瀬流彦(変態同士)の中では「アセナは単にストライクゾーンが広いだけ」なので、問題ないのだ。

「まったく、キミは無茶苦茶だねぇ。まるで神多羅木先生を見ているような気分だよ」
「うわっ!! それは最低の褒め言葉ですねぇ。と言うか、最高の貶し文句ですよ」
「……それはキミの神多羅木先生に対する評価が低いから そう感じるだけだろう?」
「でも、この前(37話)のエピソード的に、瀬流彦先生も似たような評価ですよね?」
「敢えてノーコメントにして置くよ。それが様々な人達の幸せに繋がると思うもん」

 まぁ、そんなこんながありつつも、結局は「とっても仲の良い二人でしたとさ」で片付けられる二人だった。

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 だがしかし、そこで終わらないのが彼等だ。何故なら、それが彼等のクオリティだからだ。

「…………実を言うとね、ボクの望みは『平穏』だったんだ」
「だった? と言うことは、過去の望みなのですか?」
「うん。今となっては『平穏』なんて望めないだろうからねぇ」

 世界樹広場のベンチに腰掛けて缶コーヒーを傾けつつ、何故か彼等はシリアスな語りに入っていた。

 その経緯は不明だ。ふとした瞬間に瀬流彦がシリアスモードに入り、そのまま会話に突入したのである。
 もしかしたら、世界樹広場で戯れる学生達を見た瀬流彦が「過去の自分」を思い出したのかも知れない。

「……それは、オレが巻き込んだせいですか?」
「ううん、違うよ。むしろ、学園長のせいだね」
「学園長先生の? 一体、どう言うことですか?」

 原作を知るアセナとしては「本来なら傍観者でいられたのに……」と瀬流彦を巻き込んだ自覚がある。

「学園長からキミの動向を探るように指示された段階で、ボクは学園長に目を付けられていたってことだろう?」
「ああ、なるほど。オレの話に乗らなかったとしても、有事の際に厄介事を押し付けられる可能性が高い訳ですね」
「その通りさ。だから、危険性はあるけど将来性もあるキミの話に乗ることに――キミに協力することにしたのさ」
「なるほどぉ。てっきり、学園長先生には未来が然程ないからオレを選んでくれたんだ と思ってましたよ」
「うん、まぁ、それもあるよ? だけど、そもそも学園長に目を付けられた段階で乗るか反るかしかなかったんだよねぇ」

 アセナの身も蓋も無い言葉に瀬流彦は苦笑しながらも肯定を示す。だが、その根本には「近右衛門に目を付けられたこと」があるのだ。

 とは言え、そもそも原作では瀬流彦はモブでしかなかった。きっと、物語の中心であったネギと関わりが深くなかったからだろう。
 だが、『ここ』ではアセナが瀬流彦に接触を試みたため、瀬流彦は近右衛門に目を付けられて物語の中心に押し遣られてしまったに違いない。
 つまり、アセナが瀬流彦に接触を試みなければ、瀬流彦は近右衛門に目を付けられることも無く、望み通り『平穏』に過ごせた筈だ。

 もちろん、瀬流彦も それは理解している。だが、それは言っても詮無きことであるため、瀬流彦はアセナを責めることはしない。

「って言うか、動機は どうあれボクはボクの意思でキミに協力することを選んだんだから、別にキミを責める気は無いよ」
「そうですか? オレが何もしなければ、瀬流彦先生は『平穏』に過ごせた筈です。ならば、オレを責めるところでしょう?」
「確かに そうかも知れないけどさ、それでも、最終的には『ボクが』自ら選んだんだよ。だから、ボクに責める資格は無いよ」

 本当に『平穏』を望むのなら、近右衛門から命じられた時に「ボクには無理です」とでも断ればよかったのだ。
 もしくは、アセナの勧誘を断り近右衛門を無視すればよかった。瀬流彦には遣り様などいくらでもあったのだ。

「言わば、ボクの中に『成り上がりたい』と言う気持ちがあったからこそ、ボクは『平穏』を捨てたんだよ」
「……そうですか。そこまで仰られては、これ以上『オレが巻き込んだからだ』などと言っては失礼ですね」
「その通り。これでも大人だからね、自分の選択の責任くらい自分で取るよ。まぁ、協力はしてもらうけどね?」

 瀬流彦は茶目っ気タップリにウィンクをしてアセナに協力を要請し、アセナは「ええ、持ちつ持たれつですからね」とそれを快諾する。

「あ、そう言えば、先生は何故に『平穏』を望んでいたんですか?」
「……まぁ、ボクには才能が『そこそこ』にしかないから、かな?」
「そこそこ、に? えっと、いまいち意味がわからないんですけど?」

 話を蒸し返すようで心苦しいが、ここで聞き逃したら今後 聞く機会はないかも知れない。そのため、アセナは気不味いながらも訊ねる。

「ん~~、何て言うか、ボクって器用貧乏なんだよね。何でもソツなくこなせるけど、何も極められないって感じでさ。
 苦手は無いけど得意もなく、どんなことでも『ある程度』までは上達する。いや、『ある程度』までしか上達しないんだ。
 つまり、一流にはなれない程度の才能しかない訳で、万能型と言えば聞こえは良いけど結局は中途半端でしかない訳さ」

 才能だけでなく、中学生になるまで魔法に関わっていなかったことも中途半端な原因かも知れない。

 そもそも、瀬流彦の家は一般人であり、瀬流彦が魔法に関わったのは麻帆良に入学してからだ(つまり、魔法使いになったことに必然性は無い)。
 まぁ、中学生から魔法を学び始めて麻帆良の教師(そこそこのエリート)になれたことを考えると、瀬流彦の言う通り『そこそこ』の才能だろう。
 それ故に、仮に子供の頃から魔法を学んでいれば、メガロメセンブリアで要職に就けていた(かなりのエリートになれていた)可能性がある。
 瀬流彦が「何故もっと早く魔法を知らなかったのか?」もしくは「何故もっと魔法の才能がなかったのか?」と嘆いたことは言うまでもないだろう。
 だが、瀬流彦は嘆くだけではなかった。嘆いた後には「しょうがない。できることをしよう」と気持ちを切り換え、飄々としたスタンスになった。
 一流になれないのだから、『そこそこ』になろう。波風を立てず、地味に、穏やかに……そして、確実に、人生を歩んでいこう。そう、決めたのだ。

 つまり、才能が『そこそこ』しかなかったので瀬流彦は『平穏』を望むようになったのである。

「なるほどぉ。子供の頃から魔法に慣れ親しんだ訳ではないから、先生の感覚は一般人に近いんですね?」
「え? 今の話を聞いて、気になるのは、そこ? むしろ、『そこそこ』の才能に注目すべきじゃない?」
「冗談ですよ、冗談。って言うか、『そう』決めたのに 何故に学園長云々の話に乗ったったんですか?」
「そんなの簡単なことさ。キミに出会ってしまい、キミに勧誘されてしまったから、乗りたくなったのさ」

 瀬流彦は一流になれないと判断したからこそ諦めたに過ぎない。一流になれるならなりたい。その気持ちがなくなった訳ではないのだ。

 だからこそ、アセナから「学園長に就く気はないか?」と誘われた時に、瀬流彦は心魅かれた。忘れようとした気持ちが甦ってしまった。
 消えてしまった筈の火種は実は まだ燻っており、そこにアセナが容赦なく油をバラ撒き火を灯したのだ。その結果は言うまでもないだろう。

「キミとなら昇っていけるんじゃないか? ……そんな風に感じてしまったから、ボクはキミに協力したくなったのかも知れない」
「……まさか そこまで他人の人生を左右することになるとは思ってもいませんでした。正直、そこまで背負う気は無いですよ?」
「別にいいよ。さっきも言ったけど、最終的に選んだのはボクだからね。たとえ失敗しても、キミに責を問うほど恥知らずではないよ」

 繰り返しになるが、瀬流彦は自立した大人だ。他人に――しかも、中学生(社会的な立場としては)に背負われる程ヤワではないのだ。

「そう言っていただけると助かります。もちろん、成功できるように頑張る所存ではいますけどね?」
「もちろん、それはわかっているよ。ボクだって成功できるように精一杯 手を貸すつもりだからね」
「ありがとうございます。それならば、改めまして……これからも よろしくお願いします、瀬流彦先生」
「これはこれは丁寧な挨拶ありがとう。ならば、こっちも改めて……こちらこそ よろしくね、神蔵堂君」

 そして、二人は盃の代わりに缶コーヒーを酌み交わす。言わば「こうして二人の結束はより深まった」と言ったところだろう。



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Part.03:図書館島を巡ってみた


 午後、瀬流彦と別れたアセナは図書館島に来ていた。
 図書館探検部の出し物の『探検大会』に参加するためだ。

(まぁ、できることなら参加したくなかったんだけどね?)

 だが、木乃香に参加するように『お願い』されたので参加せざるを得ない。
 もちろん、木乃香には のどかと夕映に施した『封鎖』についても話してある。
 それでも参加させた と言うことは、だからこそ会え と言うことなのだろう。

(仕方ない。ここは覚悟を決めて、自分の為した業と向き合おう)

 二人を巻き込みたくない と考えたことは間違ってはいないだろう。だが、方法は間違えたかも知れない。
 あの時のアセナには思い付くことができなかったが、他にも方法はあった筈だ。それを思うと悔やまれる。
 どうして安易に記憶操作などと言う手段を選んだのか? ……恐らく、考えることを放棄しただけだ。
 それ故に、アセナは自分を責める。何故、他の手段を探そうとしなかったのか? 過去の自分を責め立てる。
 だが、後悔をしても何も変わらない。時を遡らない限り過去は変えられないのだから、前に進むしかない。

「なぎや~~ん♪」

 木乃香が手を振って その存在をアピールして来る。頭にはネコ耳型のカチューシャが装備されており、仕草と相俟って非常に可愛い。
 図書館探検部のユニフォームであろう黒のノースリーブシャツ・アームカバー・ミニスカ・サイハイソックスも異常に似合っている。
 もちろん、ネコの尻尾も忘れていない。アセナが思わず「危なく萌え殺されるところだった」と額の汗を拭ったのも頷けることだろう。

「紹介するなー、同じ部の『宮崎のどか』と『綾瀬 夕映』と『早乙女ハルナ』や」

 木乃香が屈託の無い笑顔で三人を紹介する。傍目には、普通に友人のことを紹介しているだけに過ぎない。
 だが、木乃香が事情を把握していることを考えるとアセナの心を抉っているようなものなので実に鬼畜だ。
 萌えたところを一気に落とされたアセナは哀れだが、アセナの自業自得でもあるので同情する必要はないだろう。

「……このちゃんの幼馴染にして婚約者の『神蔵堂 那岐』です。よろしくね」

 内心では「このちゃんがイジメるよ~~」と泣きたい気分だが、それを表に出す訳にもいかない。
 表に出せないので、崩れそうになる表情を誤魔化すためにアセナはテレた振りをして挨拶の言葉を紡いだ。

「よ、よろしくお願いしますー」
「……よろしくお願いしますです」
「どもども、よろしくねー」

 のどか・夕映・ハルナが順々に、或いはドモり・或いは素っ気無く・或いは気軽に挨拶を返す。

 ちなみに、説明が抜けていたがハルナにも『封鎖』が施されているので、アセナのことを「木乃香の婚約者」としてしか知らない。
 二人がアセナを忘れたことにハルナが気付くのを――ハルナが気付くことが引鉄となって二人の『封鎖』がバレるのを防ぐためである。
 ハルナは直接的には関係ないため『封鎖』に躊躇いはあったが、ここで手を抜いて後悔するようなことがあったら すべてが無意味だ。
 アセナは「直接的には関係なくても、まったくの無関係ではないんだ」と自分を誤魔化してハルナの『封鎖』をエヴァに頼んだのだった。

(しかし、早乙女の普通な反応もツラいけど、のどかから距離を置かれているのもツラいなぁ)

 男性恐怖症である のどかは、好きでもない男とは距離を取って接する。ただそれだけのことだ。だが、負い目のあるアセナは、だからこそツラいのだ。
 いや、逆に前と変わらない距離の方がよりツラかったかも知れない。ヘタに過去の名残があるよりは まったくの他人として扱われた方がマシな気がする。
 まぁ、どちらにしても三人の『封鎖』が解けるまで――つまり、アセナの『計画』が成功するまで、アセナは三人に会う度に苦しむことになるだろう。

 それが、アセナの『行い』に対する正当な『報い』と言うものだろう。まさに、自業自得である。

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 気分は よろしくないが、だからと言って何もせずに帰れば怪しまれるだけだ。
 それ故、アセナは木乃香を先導役に「図書館島探検ツアー」に参加した……のだが、

『こちらが図書館島名物、北端絶壁です。絶壁と言う名ですが、あくまでも本棚です。規模は大きいですが。
 ちなみに、建築当時の資料が散逸しているため「何故こんなものが作られたのか?」は わかっておりません。
 余談ですが、高さは10階建てのビル以上はあり、毎年 秋にはフリークライミング部による大会が開かれ……』

 だが、ナイアガラの滝を髣髴とさせる勢いで水が流れ落ちて来る巨大過ぎる本棚にアセナは呆れるしかない。

(これ、どうやって本を取るんだろう? ロッククライミングかな? いや、やっぱり魔法で取るんだろうなぁ。
 って言うか、そもそも本に湿気ってダメじゃない? もしかして、これも魔法で保護しているとかってオチ?
 だとしたら、この本棚は一般人に見せちゃダメじゃないの? そこら辺、『さすがは麻帆良』と言うべきだねぇ)

 麻帆良で生活していると、本気で「魔法を秘匿する気あるのか?」とツッコみたくなるのはアセナだけではないだろう。

「きっと、これが『遊び心』ってものなんやよ」
「うん、まぁ、きっと、そうなんだろうねぇ」
「人間には『遊び』が必要やっちゅうことやな」

 木乃香が遠い目をして語る。きっと思いを馳せているのだろう。しかし、これを『遊び心』で片付けていいのだろうか?

「ところで、サラッと流そうとしたけど……思考を読むのはやめようね?」
「せやけど、ツッコミ待ちの時にはツッコむのが優しさや と思うんやけど?」
「いや、ツッコミ待ちじゃないよ? 普通に考え事をしてただけだからね?」
「せやけど、なぎやんが思考を顔に出しとるんやから、ツッコミ待ちやろ?」
「いや、それは違うから。普通に思考が顔に出ちゃっていただけだから」

 古狸を相手に化かし合いを演じられるアセナだが、日常的に『そう』である訳ではない。

「……せやけど、腹芸が得意な なぎやんが思考を顔に出しとるんやえ?」
「だから違うってば。腹芸に関してはシリアスな時に気を付けているだけだから」
「そうなんか? ツッコミが欲しいから思考を顔に出しとるんかと思っとったわ」
「いや、まぁ、敢えて顔に出す場合もあるけど、それはシリアスの時だけだから」

 態と思考を読ませて誘導することもあるが、それはシリアスな時に限る。日常的に行う訳ではないのだ。

「あ、ところで、なぎやん。のどか と夕映に『ああ』したんはウチのせいなん?」
「いや、違うけど? 普通に『オレの事情』に巻き込みたくなかったからだよ?」
「……そうなんか? てっきりウチのために関係を清算したんか と思ったで?」
「ん? ああ、そっか。ここは婉曲的に肯定して置くとフラグが立つんだね?」
「うん、まぁ、そうやろな。って言うか、そう言う切り返しは卑怯やと思うで?」

 木乃香が卑怯と評したのは、木乃香の杞憂を吹き飛ばすためとは言えアセナが本音を誤魔化したからだ。

 そう、否定したとしても「敢えて否定したのでは?」と言った風に婉曲的な肯定にも受け取れるし、
 逆に肯定したとしても「嘘臭いけど、嘘に思わせた本音なのでは?」と言った解釈もできてしまう。
 つまり、どう反応したとしても「どうとでも取れてしまう」のが木乃香の問い掛けだったのである。
 だが、アセナがした反応はフラグ云々の話――肯定も否定もしない、どちらにも取れない反応だった。
 しかも、張り詰めそうだった空気が弛緩されてしまったので改めて問い直すのも憚られる状況だ。

 まぁ、卑怯と言えば卑怯かも知れないが、アセナが卑怯であることなど今更と言えば今更だろう。

 ところで、先程「木乃香を先導役に」と表現したように、例の三人とは一緒に回ってはいない。挨拶の後に少し会話しただけで別れたのだ。
 アセナの行いを責めるために三人と会わせた訳だが、だからと言って長時間 一緒に過ごさせて心を抉り捲くるほど木乃香も鬼ではないのである。

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「……実を言うと、某変態司書さんに会いそうだったのも図書館島に来たくない理由だったんですよねぇ」

 舞台は変わり、図書館内なのに何故か木が生えている休憩所(天井からの吹き抜けでもない)にて。
 アセナと木乃香は「抹茶コーラ」や「梨ミルク」と言った謎のドリンクを飲んで休憩していた。
 ちなみに、それらは「意外なことに絶妙なハーモニーを奏でていて割と美味しい」らしい。いや、マジで。

「ほほぉう? その方は どなたのことでしょうか? 参考までに聞かせていただけませんか?」

 そんな二人の傍らに全身ローブでフードを目深に被った麻帆良祭中でも怪しい人物が立っていた。
 まぁ、この怪しい人物、身も蓋も無く明かすと(と言うか、明かすまでも無く)アルビレオだ。
 二人が ゆっくり休憩しているところに突然アルビレオが現れたので、冒頭の発言に至ったのである。

「そう言うことなら、お話しましょう。まぁ、名前は個人情報ですので『エロい顔した人物』とだけ言って置きますが」
「そうですかぁ。何故に私のことを凝視して仰っているのか は極めて謎ですが、今後の参考にさせていただきますね」

 あきらかにわかっているが、わからない振りをするのが大人のマナーだろう。ちなみに、何の参考にするのか は極めて謎である。

「って言うか、せっかくの学園祭に何で住処とも言える図書館島にいるんですか?」
「そんなの決まっているじゃないですか? 貴方をストーキングしていたからです」
「……そんな茶々緒みたいなことをしていたんですか? 意外と暇人なんですねぇ」
「と言うか、あのコがストーキングしていることは気付いているのに放置なんですか?」
「一応、オレの『妹』ですからね。って言うか、そもそも護衛のための尾行ですから」

 あきらかに護衛と言う目的を逸脱している気はするが、それは気にしてはいけない。それが大人のマナーだろう。

「なるほど。しかし、尾行に気付けるようになるとは……成長しましたねぇ」
「いえ、オレの懐にはチャチャゼロと言う心強い『警報』がいるだけですから」
「ああ、なるほど。ゼロたん ならば、それくらいの芸当は余裕でしょうねぇ」
「オレ自身にできなくても、できる者にフォローしてもらえばいいだけですよ」

 アセナは「ゼロたん?」と内心で疑問に思っているが、それでも気にしない。ここまで来ると大人のマナーと言うよりも単なる意地だ。

「なー、なぎやん、その人が『噂のアルビレオさん』なん?」
「うん、ただのエロい人に見えるけど、一流の魔法使いさんだよ」
「ちなみに、別の意味での魔法使いとしても一流ですよ?」
「……意味のわからんことを言うんは、なぎやんみたいやなぁ」
「何か色々とヒドくて、コメントすることすらツラいです」

 話が一段落したのを見た木乃香が会話に参加するが、アルビレオも木乃香もツワモノ過ぎたのでアセナは泣くしかない。

「って言うか、二人は初対面なんですから、自己紹介でもすればいいじゃないですか」
「そやな。ほな、初めまして。ウチは なぎやん の婚約者やってます近衛 木乃香です」
「これは御丁寧に どうも。私はナギ君の協力者をしているアルビレオ・イマです」
「……いや、何でオレを基準にして説明しているんですか? そこは詠春さんでしょう?」
「ほなら、なぎやんの言う様に……実は、近衛 詠春の娘でもあります、近衛 木乃香です」
「では、私も。実は、御父上とはマブダチと言っても過言ではない、アルビレオ・イマです」
「うっわぁ、これはヒドい。と言うか、詠春さんが聞いたらマジ泣きしそうな事態ですねぇ」

 やりたくなくても間を取り持たざるを得ないアセナに同情してもいいだろう。もちろん、アルビレオにマブダチ扱いされた詠春にも同情していいと思う。

「つまり、私のマブダチ発言に喜びの涙を流す と言うことですね?」
「いえ、まったく違います。だから、どや顔で言われても困ります」
「せやな。むしろウチの愛に溢れた言葉に痺れて憧れたんやろなぁ」
「うん、それも違うから。って言うか、微妙にネタを入れないでよ」

 もちろん、詠春に言えないことを平然と言ってのけても、詠春は そんな木乃香に痺れもしないし憧れもしないだろう。

「しかし、アンタ等、さっきから妙に仲が良くありませんか?」
「……おや? 嫉妬ですか? 可愛いところもありますねぇ」
「いくらウチが大事やからって、誰にでも嫉妬せんでええよ?」
「いえ、違いますから。ツッコミ疲れするのが嫌なだけですから」
「フフフ……照れ屋ですねぇ。別に照れなくてもいいのですよ?」
「そやで? 嫉妬深い なぎやん でも、ウチは受け入れるで?」

 マイペース過ぎる二人に最早「ぎゃふん」としか言えないアセナだった。

 と言うか、途中までのシリアスな空気は何処へ消え去ってしまったのだろう?
 やはり、アセナがフラグ云々の話をして空気を弛緩させたせいだろう。
 きっと、アルビレオと木乃香が揃ったからではない筈だ。そう信じよう。



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Part.04:少しだけ本音を語ってみた


「ほな、せっかくやから、模擬店巡りでもしよかー?」

 図書館島を後にしたアセナと木乃香は、残りの時間(麻帆良祭が終わるまで)を模擬店巡りで潰すことにした。
 と言うのも、麻帆良祭の終了時間と同じくらいに起きる『最大発光(最も発光する瞬間)』を見る予定なのだ。

「っと、その前に……なぎやん、馬術部と華道部に興味あらへん?」

 しかし、木乃香は突然「何か」を思い出したかの様に、急に予定変更を告げて来る。
 まぁ、言うまでもないだろうが、馬術部も華道部も あやか が在籍している部であり、
 それらの部の出し物に行けば、あやか と出会ってしまう確率は非常に高いだろう。

 当然ながら、アセナは あやか と会うのが非常に気不味い。よって、アセナの答えはNOしかない。

「うん、興味ないよ。だから、可及的速やかに模擬店巡りをしよう?」
「なるほど、よぉくわかったえ。ほなら、まずは馬術部へ行こか?」
「いや、全然わかってないよ? むしろ行かなくていいんだよ?」
「……なぎやん? わかっとるやろ? さっきのは『振り』やで?」

 そう、「興味ある?」と言う質問は「興味あるから連れてって」と言う意味なのだ。

「いや、わかっているよ? だけど、わからないことにしたかったんだよねぇ」
「まぁ、いいんちょと会うんは気不味いんやろうけど……だからこそやえ?」
「つまり、オレの状況がわかったうえで馬術部とかに行きたい訳ですね?」
「何故に敬語なんかわからんが……むしろ、いいんちょに会わせたいだけやな」

 アセナの「オレは行きたくないんだけど」と言う涙ながらの訴えを木乃香は笑顔でサックリと切り捨てた。

「OK、OK。つまり、オレに『死ね』と言いたいんだね?」
「ん~~、どちらかと言うと『死ぬほど後悔せい』やな」
「そ、それは それでヒドい!! だけど、逆らえない!!」
「まぁ、これも自業自得や。大人しく受け入れるんやな」

 もちろん、逆らうこともできる。ただ、逆らってもいいことがないだけだ。それに、今回も非はアセナにあるためアセナは受け入れるしかないのだ。

「せ、せめて、チラ見くらいで許してくれないかなぁ?」
「……なぎやんはチラリズムが好きやもんなぁ」
「そうじゃなくて、軽く顔を見るだけってことだよ?」
「わかっとるよ。でも、チラリズムは好きやろ?」
「全裸よりも半裸、半裸よりも半脱ぎがイイと思うねぇ」

 つまり、チラリズムが大好きらしい。と言うか、話題が微妙に掏り替わっているのだが?

「ちなみに、パンチラとかブラチラは偶然 見えるのがイイと思う」
「見せる用の下着や態と見せとるのは邪道 と言いいたい訳やな?」
「そうさ。人工よりも天然の方がいいでしょう? それはエロスも同じさ」
「……でも、計算され尽くしたエロスと言うのも有りなんちゃう?」
「もちろん、それはそれで有りだよ? でも、チラリズムは違うのさ」

 忘れているかも知れないが、彼等は学園祭を一緒に回っている。当然、周囲には家族連れもいる訳で……

「ねーねー、パパー。『ちらりずむ』って なーに?」
「そ、それはねー……お、大人になればわかるよ?」
「ぶぅ~~!! パパは いっつも ごまかすんだからぁ!!」
「そうね、貴方は いつも誤魔化すわね。風俗とか性病とか」
「だ、だからアレは誤解だって何度も言っているだろう!?」
「何が誤解よ? 内緒で泌尿器科に通ってたの、知っているのよ?」
「ち、違う!! あれは性病ではなく普通に下の病気だったんだ!!」
「へ~~、そうなの? なら何で隠して通っていたのかしら?」
「そ、それは……妙な誤解を生むからだ。だから隠したんだ」
「ふぅん? その割には焦っているように見えるんだけど?」
「ご、誤解だ!! と言うか、子供の前で話すことじゃないだろう!?」

 ……子供の放った「いたいけな質問」をキッカケにして家族の団欒がブチ壊れる と言うような悲劇が起きたらしい。

 まぁ、その一部始終を目撃してしまった彼等は「そもそも火種があったから燃えたんだよね?」と自分達を納得させ、
 自分達の不用意な会話によって一つの家族が崩壊の危機に陥った可能性から目を背けるようにしたのは言うまでもないだろう。

 もちろん、悲劇が生まれようとも木乃香の行動は変わらないため、木乃香は実に『いい笑顔』を浮かべてアセナを引き摺っていくのだった。

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「馬術部、行った。あやか、いた。目、合った。瞬間、お互い、顔、逸らした。
 オレ、心の中、号泣。でも、顔、笑顔。頑張って、木乃香、エスコート、した。
 うん、オレ、よく、やった。凄く、頑張った。だから、泣いても、いい、よね?」

 ……何故か片言でアセナの心情が綴られたが、まぁ、要は「アセナは心に深い傷を負った」と言うことだ。

「あ~~、その、ごめんな? さすがに ここまでやとは思ってなかったわ」
「うぅ……だから言ったじゃないか? あやかと会ったら『死ぬ』って」
「いや、そこまでは言うてへんよ? って言うか、そんなレベルなんやな?」
「うん、数年単位で『別荘』に引き篭もりたいレベルで精神的に死んでる」
「し、深刻やなぁ。本来なら怒るべきとこやけど怒れへんから遣る瀬ないわ」

 他の女性のことを大切に想っている様をムザムザと見せ付けられるのは、婚約者としては許せないことだ。
 だが、アセナが あやか を大切に想うようになった遠因は自分にある。そう考えている木乃香は文句が言えないのだ。

「そ、そや!! 気分転換のために、ちょっとタコヤキでも食べに行かんか?」
「タコヤキ? ……どうせタコなんか入ってなくて小麦粉の焼き物なんでしょ?」
「めっちゃネガティヴや?! いつもならマヨネーズで誤魔化されとるのに!!」
「確かにマヨネーズと青ノリとソースがあれば小麦粉の焼き物でも美味しいよねぇ」

 ちなみに、アセナはマヨネーズと青ノリが無ければタコヤキと認めないらしい。もちろん、異論は認めているが。

「って言うか、さっきから小麦粉 小麦粉 言うとるけど生地には出汁とかも入っとるえ?」
「でも!! 肝心なタコが入ってないのが ほとんどじゃないか!! オレは騙されないもん!!」
「そか。ちなみに、女子水泳部のところのやと『全部タコ無し』を引くとスク水で接待――」
「――よぉし!! 今 直ぐ行こう!! タコが入って無くても美味しければ それでいいよね!!」

 木乃香は「スク水で接待してもらえる訳ないやろなぁ」と言うつもりだったが、最早 後には引けない。

 どうでもいいが、あんなに塞ぎ込んでいたのに一気に復活するなんて……エロスの力って地味に凄い。
 まぁ、少し態とらしいところがあるので、きっとアセナは復活するタイミングを計っていたのだろう。
 いくら変態紳士の名を欲しいままにしているアセナとて そこまで変態じゃない。多分、きっと、恐らくは。

 ちなみに、軽く事情を聞いたアキラが仕方がないのでスク水になってくれたのは完全な余談である。

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「なぁ、なぎやん……いいんちょ、このままでええの?」

 タコヤキを食べたせいか、それともアキラのスク水姿を堪能したせいか は定かではないが、
 どうにか気を持ち直したアセナを率いて、木乃香は(原作で夕映が乗ってた)遊覧船に乗り込んだ。
 そして、頃合いを見計らって「問題は解決すべきやろ?」と言わんばかりにアセナに訪ねたのだ。

「……覆水は盆に返せないんだよ」

 器から零れた水を すべて掬い直すことはできない。同様に、口から出てしまった言葉も取り返せない。
 今回の問題は、あやかに決別を告げたこと――決定的な言葉を放ってしまったことに端を発している。
 問題を解決するには、言葉を撤回するくらいしかアセナには思い付かず、しかも それの効果は無に等しい。
 つまり、アセナは「この問題は起きてしまった段階で、解決できないものなんだよ」と言いたいのである。

「でも、汲み直すことはできるえ?」

 器から零れた水を すべて掬い直すことはできない。だが、別の水でもいいなら汲み直すこと自体はできる。
 今回の問題に置き換えるなら、別の言葉によって問題を解決――二人が復縁すればいいだけの話なのだ。
 木乃香がアセナの言わんとしたことを どこまで理解して発した言葉なのか は定かではないが、アセナは そう理解した。

「……ごめん、このちゃん。そして、ありがとう」

 婚約者に他の女性との問題を後押ししてもらっていることにアセナは申し訳なさと同時に深い感謝を感じた。
 言葉にするならば「あやかとのことで悩んでて ごめん」と「背中を押してくれて ありがとう」辺りだろう。

「でも、あやかと復縁することは無理だよ。だって、復縁しちゃうと決別した意味がなくなっちゃうもん。
 そもそも、オレは あやか が大切だから――あやか を巻き込みたくないから、あやか と決別したんだ。
 だから、オレが抱えている『問題』が解決するまでは、決別したままじゃないと意味がなくなっちゃうんだよ」

 大切だから傍にいて欲しい。でも、危険だから傍にいて欲しくない。それが、アセナのジレンマだ。

「そか。つまり、なぎやんの『問題』とやらが解決すれば、いいんちょと向き合うんやね?」
「うん、その予定さ。まぁ、『問題』が解決した後までオレが生きていれば、の話だけどね」
「生きてればって……物騒な仮定やなぁ。そんなに危険やと婚約者としては止めたくなるえ?」

 アセナの言う『問題』とは「魔法世界の崩壊」であり、アセナは自身の命を賭してでも問題を解決するつもりなのである。

「いや、大丈夫だよ。死ぬ可能性が僅かながらあるってだけで、生き残る勝算は充分にあるから」
「……そか。まぁ、そう言うことやったら、何も言わずに待っとったる。婚約者として、な」
「ありがとう、このちゃん。オレも婚約者として死なない程度に――いや、死なない様に頑張るよ」

 魔法世界が崩壊することを知らない木乃香は「アセナが自分の知らない何かを背負っている」としかわからない。だが、それだけわかっていれば充分だ。

 たとえ『それ』が何であろうと、アセナは『それ』を成し遂げることだろう。そして、『それ』を成し遂げたら、あやか と向き合うに違いない。
 アセナは、できないことはしないし、できないことを「できる」とは言わない。だから、アセナが「成し遂げる」と言ったら必ず成し遂げるのだ。
 その代償として自分の命を賭けることを ほのめかしていたが、それでもアセナが「勝算は充分にある」と言っていたのだから大丈夫な筈だ。

 盲信に近いが、木乃香にはアセナを信じることしかできない。だからこそ、木乃香はアセナを黙って信じるのである。

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 ところで、まったくの余談となるが、二人の会話の一部始終を記録していた存在がいた。
 まぁ、言うまでもなく、アセナをストーキング――いや、護衛していた茶々緒である。
 木乃香に「なぎやん のためや」と依頼されて録画(もちろん録音も込み)していたのだ。

 『最大発光』を背景に『いい笑顔』でサムズアップをする茶々緒に、木乃香も『いい笑顔』でサムズアップをしたとかしなかったとか。



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Part.05:何故か打ち上げに参加させられた


「さぁて、苦しいながらも麻帆良祭を無事に乗り切れたことを祝しまして……カンパーイ!!」

 場所は変わって3-Aの教室。『最大発光』から幾許かの時が流れた後、気が付くとアセナは そこにいた。
 記憶によると木乃香に「ちょっと片付けを手伝ってくれへん?」と頼まれたので手伝いに来たのだが……
 何故か、片付けなど遥か彼方に忘れ去られ、ジュースと菓子とナチュラルハイによる宴会に突入していた。

 ちなみに、アセナは1日目も2日目も参加を回避していたが、ほとんどのメンツは三日連続で打ち上げをしている。

 当然ながら、学園祭の開催時間中は出店側としても客側としても休む間もなく稼動している。
 更に開催日まで徹夜で準備していたことも考えると、1週間くらい休んでいないだろう。
 その底なし とも言える体力に「なにそれこわい」と感じてしまうのはアセナだけではない筈だ。

「って言うか、誰もオレが参加していることにツッコまないのが凄いよねぇ」

 3-Aのツッコミ役とも言える長谷川 千雨(はせがわ ちさめ)くらいはツッコんでもいいところだろう。
 だが、よく見てみると千雨らしき人影がいないため、ツッコむまでもなくエスケープしていたようだ。
 アセナは「ツッコミの義務を放棄するなんてズルい!!」とか思ったが、そもそも彼女にツッコミの義務などない。

「まぁ、それはナギ君が売り上げに貢献したからじゃないかな?」

 アセナの独り言が聞こえたのか、まき絵が「アセナが打ち上げに参加してもいい理由(だと思われるもの)」を述べる。
 どうやら39話でネギと行ったアセナの宣伝活動(ホラーなコスプレをして学園内を練り歩いて戯言を垂らす)が功を奏したらしく、
 何でも「幼女に触ってもらうお」とか口走る男性やら「ちょっと刺激が欲しいだけよ」とか言いたそうな奥様が増えたらしい。

「…………なんか、すんませんでした。祭のテンションで ついつい口走っちゃったんです」

 金は落としてくれるが厄介な客達は、アセナの発した「『お触り』してもらえる」と言う発言のせいで増えたのだろう。
 ちなみに、アセナは「女子中学生に」と言う表現をしたのだが、受け手は宣伝していた彼等も対象にした と思われる。
 まぁ、幸い、鳴滝姉妹と言う幼女にしか見えない人材やら龍宮と言う男装の似合う人材もいたので何も問題はなかったが。

「へ? 何で謝るの? みんな『ヒャッハー!! 売り上げトップだぜ!!』って喜んでたよ?」

 もちろん、女子中等部お化け屋敷部門でのトップだ。さすがに大学や高校の模擬店には勝てない。
 余談となるが、奥様方に受けたのか、アセナのクラスは男子中等部喫茶店部門でのトップだったらしい。

「それなら結果オーライってことで、気にしないことにして置こうかな?」
「うん、それでいいと思うよ? って言うか、気にする意味がわかんないし」
「いや、だって、売り上げも増えたけど、厄介な客も増えたんでしょ?」
「ん~~、変な人はいたけど、毎年のことだから別に気になんなかったよ?」

 アセナは「毎年いるんだ……」と頭が痛くなるが、「まぁ、本格的にヤバいのは排除されているだろう」と無理矢理に納得して置く。

「へー、そーなんだー。じゃあ、気にするだけ無駄ってことかな?」
「そうじゃないかな? 細かいことは気にしない気にしない♪」
「うん、まぁ、そうかもね(気にしな過ぎるのも不味いとは思うけど)」

 まき絵の大らかな部分は好ましいが、大らか過ぎて将来が心配になるアセナだった。まぁ、アセナが心配する義理など無いのだが。

「って言うか、そんなことよりも、フィギュア部に顔を出してくれなかった方が問題だよ!!」
「え? そうなの? って言うか、顔は出したよ? ただ、その時に まき絵がいなかっただけで」
「私がいる時に来なきゃ、来ても来ていないのと変わらないよ!! だから、ナギ君が悪い!!」
「え~~、だったら、店番をする時間帯を教えて置いてくれれば よかったんじゃないの?」
「そ、それは そうかも知れないけど、何度も来れば よかっただけだから、やっぱりナギ君が悪い!!」

 まき絵の無茶な言葉に、アセナは「何と言う理不尽」と思いつつも「今度から気を付けるよ」と大人な対応をするのだった。

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「どうやら元気になったみたいだね……」

 まき絵との話を終えて「とりあえず腹に詰め込んで置こう」と各自が持ち寄った模擬店での余りに手を伸ばそうとしたアセナだが、
 タコヤキ(マヨネーズと青ノリとソースがタップリ)を持ったアキラが「よかった」と安堵の溜息を吐きながら話し掛けて来た。
 ちなみに、現在のアキラの服装は普通に制服である。猫耳と尻尾がオプションされているが、スク水ではない(まぁ、当然だが)。

「うん、まぁ、普通に会話ができるくらいには、ね。って言うか、さっきはありがとう」

 もちろん、アセナが言っているのは、アキラがアセナを慰めるためにスク水になってくれた件についてである。
 まぁ、いくら慰めるためとは言え、友人でしかない(つまり恋人ではない)男のためにスク水になるのは、
 常識的に考えると「御人好し過ぎるだろ」と思わないでもないが、それがアキラのクオリティなのだろう。

「い、いや、別にいいよ。ナギ君には亜子の件で迷惑を掛たり お世話になっているからね」

 やはり恥ずかしかったことは恥ずかしかったらしい。アキラはワタワタと少々ドモりながら理由を話す。
 どうやら、スク水になったのはアセナを慰めるためだけではなく亜子のためでもあるようだ(これで納得だ)。

「ハッハッハッハッハ……アキラさんや? それは地味にオレの心を抉ってるからね?」
「ん。でも、理由は どうあれ亜子を泣かせたから、ちょっとくらいは抉ってもいいよね?」
「……そうだね。抉られて然るべきだから、ちょっと と言わず好きなだけ抉っていいよ?」
「ううん。もう、いいよ。ナギ君もツラかったのは わかっているから、これ以上はいいよ」

 アキラにしては辛辣だが、非はアセナにあるのでアセナは ただ受け入れる。まぁ、アキラはこれ以上アセナを責める気はないようだが。

「敢えて言って置くけど……さっき見せてしまった醜態と亜子とのことは何も関係ないからね?」
「うん、わかってるよ。でも、根幹は一緒だよね? ナギ君は誰かのために苦しんだんだから」
「…………いや、違うよ。結局、オレはオレのために苦しんでいるんだから それは見当違いだよ」
「そう? 私は正しいと思っているけど……ナギ君が そう言うのなら、そう言うことにして置くよ」

 アキラのアセナを許容するような言葉が、責めるよりも深くアセナの心を抉ったことはアセナしか知る由の無いことだった。

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「いやはや、さすがはナギっちですにゃ~~?」

 アキラとの会話を切り上げたアセナはタコヤキを腹に詰め込みつつジュース片手にボンヤリと世界樹の発光を眺める。
 その表情は魂が抜けている とも見えるが、幻想的な光に照らされているためか、愁いを帯びている ようにも見える。

 そんな雰囲気をブチ壊すかのように(と言うか、実際ブチ壊しに来たのだろう)裕奈が絡んで来た。

「いや、何が どう『さすが』なのさ? 意味不明だよ?」
「つまり、『さすが女誑しだよね』ってことだよ?」
「…………ああ、そう。つまりは絡みに来たんだね?」

 恐らくはボンヤリしているアセナを心配して声を掛けて来たのだろう。実に素直ではない裕奈らしい。

「一応は、まだ落ち込んでいるようなら慰めてあげよう とは思っていたよ?」
「わかってるよ。慰める必要がないのがわかったから絡んで来たんでしょ?」
「……まぁ、そうなんだけどね。物分りがいいのもツマラナイもんだねぇ」

 実際、アセナは落ち込んでいる訳ではない。ただ「早く帰りたいなぁ」と思っていただけに過ぎない。

「事が事だけにフザケる訳にいかないからね、わからない振りなんて できないさ」
「つまり、いつもはわかっていて わからない振りをしていたってことかにゃ?」
「さぁ、どうだろうね? わからない振りをしたこともある とだけしか言えないね」
「『したこともある』ってことは、本当にわからなかったこともあるんだよね?」
「裕奈がオレを どう見ているのかは知らないけど、オレにはわからないことばかりだよ?」

 裕奈の言わんとしていることが亜子の件だと理解したアセナは、真剣な面持ちになって対応し始める。
 まぁ、だからと言って本音を語る訳ではなく、いつも通り誤魔化したいところは誤魔化してはいるが。

「って言うか、裕奈が想像している以上にオレはわかっていないと思うよ」
「じゃあ、たとえばだけど……亜子の好意って、いつぐらいからわかってた?」
「ホワイトデーくらいに疑問に思って修学旅行辺りで確信した感じかなぁ?」

 アセナの言うことは真実だ。アセナは修学旅行の終わりに「好意に敏感になろう」と決め、好意的な行為を考察するようになったのである。

「……はぁ、なるほどねぇ。よ~~く、わかったよ」
「そう、わかってくれたんだ。ところで、何で溜息?」
「ナギっちが好意に鈍いのは変わってないからだよ」
「そうなの? これでも鋭くなったと思うんだけどなぁ」

 アセナの惚けているようにしか見えない返答に「まぁ、気付いただけマシなのかなぁ?」と裕奈は自分を納得させるのだった。

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「やぁ、神蔵堂クン。楽しんでいるカネ?」

 裕奈との会話を終えたのを見計らったのか、超が愉快そうな表情を浮かべて話し掛けて来る。
 アセナは「心にダメージを負ったけどね」と内心で愚痴りつつ「まぁ、それなりにね」と無難に返す。

 弱り目に祟り目ではないが、今の状況で超の相手はしたくないのが本音だ。だが、協力関係にあるので無下に扱うこともできないのだ。

「って言うか、本題は何かな? 何らかの『話』があるから話し掛けたんでしょ?」
「まぁ、そう急かさなくてもイイだろう? 偶には世間話に興じヨウではないカ?」
「世間話、ねぇ? オレ達の場合、果てしなく世間とは逸脱した話になりそうだけど?」
「それハ仕方がないサ。だって、言葉ハ聞き手によって如何様にに解釈できルからネェ」

 ちなみに、アセナは『認識阻害』を展開する魔道具(もちろんネギ製)を所持している。だが、敢えて使わない。『世間話』に乗るつもりだからだ。

「うん、まぁ、その通りだね。悲しいことに、人は言葉では完全に理解し合えないからね」
「だからこそ、肉体言語で語り合われル――つまり、争いハ絶えナイと言うことだネェ」
「まぁ、それも一理あるね。でも、闘争が人の本質だから、人は争うんじゃないかな?」
「はてさて、それハどうだろうネ? 人の本質とハ協力することにアル、のではないカネ?」

 争うのは仕方がない と語るアセナに、超は争わずに協力すべきだ と反論する。

「もちろん、協力も人の本質だよ。だって、人は単独では脆弱な生物だからね。一人じゃ闘争もできやしない」
「ふむ、なるほどネェ。協力をスルから闘争が可能となり、闘争をスルから協力が生まれル、と言う訳だネ?」
「さぁて、どうだろうね? 少なくとも、協力と闘争は切っても切り離せない関係にある とは思うだけさ」

 アセナは超の言葉を肯定しつつも、自分の言を曲げない。まるで協力と闘争が同居していることの体現のように。

「それに、闘争ではなく競争ならば、互いを高め合うことができるんじゃないかな?」
「……その通りだネ。手を取り合う相手がイルのも、競い合う相手がイルのも幸福ダネ」
「同感だね。協力も競争も、そして、闘争も……相手がいて初めて成り立つことだからね」
「そう、人は一人では何もできナイ。どれだけ優秀であってモ、一人では何もできないヨ」

 極論すれば、一人では争うことすらできないのだ。

「うん、その通りだね。だから、オレ達は協力しているんだよねぇ」
「まぁ、正確にハ、協力だけでなく競争もしてイルのだがネェ」
「……オレとしては協力したい とは思っているんだけどねぇ?」
「それハ私も同じサ。私もキミとは協力したい と思っているヨ」

 超は「アセナに何らかの思惑があること」に気付いている。ただ、それが裏切りでないのなら、それはそれでいい と考えているのだ。

「その点は安心して。オレの目的は超の目的と重なっているから」
「……予想される災害を防ぎたイ、それが一緒ならば何も言わないヨ」
「まぁ、アプローチの仕方に違いが出る可能性は否めないけどね?」

 極言すれば、超は魔法世界の崩壊を防げればいいのだ。他のことは大した問題ではない。

「つまり、前に示してくれた手 以外にも考えている手がアルのダネ?」
「うん、ぶっちゃけるとね。だって、あれは『最終手段』でしょう?」
「……まぁ、その通りだネ。キミにしてハ『直接的』過ぎルと思うヨ」

 蓄積した『大発光』の魔力を用いてメガロメセンブリア元老院に『強制認識』を施す。搦め手ではあるが、少しばかり直接的過ぎるのも確かだ。

「それがわかっているなら、オレがやろうとしていることくらい想像が付くでしょ?」
「……つまり、間接的に攻めル訳だネ? だが、それでハ時間が足りナイのではないかネ?」
「まぁ、確かに、当初は時間が問題だったね。でも、協力者がいれば時間も解決できるんだ」
「ほぉ? それハ、協力者を得られたカ、協力者に目星が付いた、と取っていいのだネ?」

 大雑把に言えば「協力者と共にメガロメセンブリア元老院を内部から切り崩す」と言うことだ。

「ごめん、違うんだ。正直に言うと、当初から事態は好転していなくて、単にオレの意識が変わっただけなんだ」
「意識が変わっタ? 妙な話だネェ? 学園祭前(35話参照)から用意していたプランなのではないかネ?」
「確かに、前々から用意していた手もある。でも、それはやめて、よりハイリスク・ハイリターンにするつもりなのさ」
「ほぉ? キミがリスクを引き上げるとは、ネェ? 私にはリスクを下げることに執心してイルように見えたガ?」
「まぁ、そう言う時期もあったね。それは否定しないよ。ただ、今は違う。何度も言うけど、意識が変わったのさ」
「そうかネ。そう言うことならば、特に反論は無いヨ。たとえ それが失敗しても『最終手段』を使えばイイだけだし、ネ」

 アセナが取ろうとしている手段は具体的にはわからないが、止めても無駄だし失敗しても手段が残っているので超は容認することにしたのだった。


 


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オマケ:白と黒を担う者達


「こんばんは。麻帆良祭は楽しめましたか?」

 宴も酣と言った頃合を見計らって3-Aの打ち上げから鮮やかに離脱したアセナは世界樹広場に移動した。
 暫く広場の様子を窺った後、アセナは散発的な発光を続ける世界樹を肴に晩酌をしている二人に声を掛ける。

 ちなみに、世界樹が発光しているのは最大発光が終わっても大発光自体は終わっていないからである。

「ええ。思わず羽目を外してしまうくらい、楽しめましたわ」
「神蔵堂様の御蔭です。本当に ありがとうございました」
「いえいえ、気になさらないでください。日頃の御礼ですから」

 アセナが声を掛けた二人の人物とは、白川 明日香(しらかわ あすか)と黒池 美津枝(くろいけ みつえ)である。

 実を言うと、37話で木乃香は「西から派遣された者に東洋魔術を習っている」と話したが、その西から派遣された者が この二人なのである。
 ちなみに、お忘れかも知れないが、30話で出て来た「西の四家」の内のアセナが味方にしていない残り二家(白川家と黒池家)の者達でもある。
 赤道と違って当主ではないが、将来的には当主に就く可能性が高い者達であり、言わば木乃香や赤道も含めた「次代の西の重鎮達」なのである。

「むしろ、婚約者が御世話になっているんですから、祭の間くらいは『東の監視』を外すのは当然のことですよ」

 言うまでもないだろうが、当然ながら彼女達には東(麻帆良の魔法使い)からの監視が付いている。
 まぁ、監視とは言っても「学園内で行動する時は監視役の人間が付く」だけで、学園外では自由だ。
 それでも、学園内では監視されているので、それでは学園祭を心置きなく楽しめなくなってしまう。
 それ故に、アセナは「学園祭くらいストーキングは自重しろ(大意)」と東の面々を説得したのである。

「ですが、神蔵堂様には日頃からも御世話になっておりますし……」

 そう、二人の監視が緩いのはアセナが「木乃香のために派遣してもらった人材を疑うとか有り得ない」と手を回したからだ。
 その事実を知った(と言うか、木乃香が意図的にバラした)二人が、アセナに感謝をするのは当然と言えば当然のことだろう。
 まぁ、単なる好意ではなく「将来に返してもらうから先行投資をしたに過ぎない」のだろうが、それでも感謝しているようだ。

「何か『御礼』をしないと……我々の気が済みません」

 何故か、アセナを両脇から挟むように陣取る二人。と言うか、胸を押し付けるように腕を絡ませて来ている。
 ちなみに、二人は20代前半の美女であるため(二人とも そこまで大きくはない胸だが)その破壊力は抜群だ。

「……冗談はやめてください。自分の立場を忘れられるほど器用ではないんですよ」

 アセナは自身の『立場』を悲しいくらいに理解している。そのため、後先 考えずに色仕掛けに乗れる訳がない。
 仮に ここで色仕掛けに乗ろうものなら、東西は混乱してアセナの周囲は修羅場になるのは間違いない。
 惨事が予想できていないなら まだしも、バッチリ予想できているのでアセナが乗ることは有り得ないのだ。

 ……ところで、何故(当主候補である)二人が色仕掛けを行おうとしたのか、疑問に思うことだろう。

 答えは至極簡単なもので「アセナを長として迎えるに相応しいか否か」を見極めるためである。
 当然、状況を理解せずに目先の欲に流されるような輩は長に相応しくない。傀儡にするだけだ。
 そう言う意味では、状況を理解して目先の欲を押さえ込んだアセナは最低限はクリアしたようだ。

「あらあら、神蔵堂様は『つれない』ですわねぇ」

 にこやかに語る裏に何が蠢いているか把握しているアセナは、苦笑しか浮かべられない。
 と言うか「釣られて堪るか」と言う気持ちを隠すのに精一杯で苦笑を抑えられない。

 ところで、今更だが……二人が「反長」や「反東」であった場合、木乃香が危険に晒されることになることは自明のことだろう。

 だが、アセナは まったく その心配はしていない。何故なら、派遣される前に赤道が二人に『接触』しているからだ。
 そう、詠春からの紹介を受けた と37話では説明したが、それだけではなく赤道にも動いてもらっていたのである。
 ちなみに、『接触』と言っても籠絡したとかフラグを立てたとかの変な意味ではない。単に『未来』を語らせただけだ。
 青山と赤道が認めたのだから彼は間違いなく長になるでしょうし、長になったら青山と赤道は重用されるでしょうね、と。

 つまり、『記憶』が戻ったり学園祭で浮かれていたりしても、アセナが慎重なのは変わらないのである。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。


 今回は「超が暗躍しない学園祭の3日目を書いてみた」の巻でした。

 まぁ、超の件とは一切関係ないのに、図書館島でのイベントがショボくなってしまいましたが(とても残念です)。
 原作では割と好きなシーンだったんですが、この物語では のどかも夕映も本音を語り合うどころではないですからねぇ。
 パルは悪ノリがなければ いいヤツなんだなぁ とすら思わされた話だったんですけど、自業自得なので あきらめます。
 いや、本当、あれだけの会話で夕映の気持ちに気付き、更には応援までしちゃうなんて普通に いいと思います。

 物語にスパイスを加えるための犠牲になった、と考えると……あれ? 納得できませんね? でも、納得するしかありません。

 蛇足になりますが、オマケで出て来た西の方々の再登場はありません。
 ただ、他の二家について書いてないなぁ と思ったので書いただけです。
 特に意味はありません。つまり、伏線でも何でもありません。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2011/08/26(以後 修正・改訂)


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