<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

赤松健SS投稿掲示板


[広告]


No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[10422] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:552b4601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/25 20:58
第27話:関西呪術協会へようこそ



Part.00:イントロダクション


 引き続き4月24日(木)、修学旅行三日目。

 紆余曲折はあったものの一行は本山に到着した。
 そこは本来ならゴールとなるべき場所なのだが、
 ナギにとっては あくまでも通過点でしかない。

 様々な思惑が渦巻く獣の巣をナギは どう潜り抜けるのであろうか?



************************************************************



Part.01:無慈悲な真実


 そこには間違いなく幸せがあった。そこは無邪気に微笑み合える場所だったのだ。
 だけど、それは脆くも崩れ去ってしまった。砂上の楼閣のように、実に呆気無く。
 だから、これは崩れ去る前の情景なのだろう。幼い三人が楽しそうに笑えているのだから。

 ……幼い三人が楽しそうに川で遊んでいる。

 最初は釣りをしていたのだろう。傍らには釣り道具が散らかっていた。
 だけど、今は釣りなどしていない。浅瀬で水を掛け合って遊んでいる。
 暖かい気候なのだろう。全員ビショ濡れになっているけど平気そうだ。

 でも、そんな優しい時間は唐突に崩れ去る。

 これは予想できたことだった。いや、正確には「わかっていたこと」だった。
 これが「この前の記憶(25話参照)」の直前の記憶だ と予想できたからだ。
 だから、小さな三人の小さな幸せが崩れ去るのは「わかっていたこと」だった。

 ――だが、崩れ去る原因については まったくの想定外だった。

 三人の前に唐突に現れた存在は、翼と嘴を持った漆黒の異形。
 って言うか、何だコイツ? 何かの怪人のコスプレをした変態か?
 いや、わかっている。そんな生易しいモノじゃないことくらいは。

 きっと、コイツは『烏族』と言う存在なのだろう。

 恐らく、陰陽師にでも召喚されたのだろう。
 殺意ではなく敵意を向けていることから察するに、
 コイツが現れた目的は考えるまでも無く――

「きゃあああ!!」

 ――そう、考えるまでも無く、木乃香だ。
 陰陽師から浚うように命じられたのだろう。
 烏族は木乃香を抱えると飛び去って行く。

 って、やばい!! このままじゃ木乃香が危ない!!

 せっちゃんの方をチラリと見ると、せっちゃんは躊躇しているのがよくわかった。
 きっと、本性――例の翼を出すか否かで躊躇っているのだろう。気持ちはよくわかる。
 だから、今は せっちゃんを頼れない。つまり、オレが――いや、那岐が助けるしかない。

「このちゃんっ!!」

 それを理解しているのか、那岐は力の限り叫ぶと、
 飛び去って行く烏族に追い縋ろうとして――――
 そこで、視界がブラックアウトして記憶が途切れてしまう。

 …………何があったのだろう?

 那岐の死角に別の敵性体がいて攻撃されたのだろうか?
 追憶しているだけなので記憶に無いことは推測しかできない。
 まぁ、よくわからないが、大事なのは原因じゃなくて結果だな。

 だって、次に意識が戻った時には、那岐の視界は赤に染まっていたのだから。

 そう、見渡す限り、那岐の周囲は赤に染まっていた。
 もともと赤かったのではなく、赤に染まっていたのだ。
 そして、その赤はドス黒くて生臭い赤――血の赤だ。

 つまり、那岐の視界は夥しい量の血で染め上げられていたのだ。

 一体、何があったのだろうか? この血は誰の血だ? まさか、那岐の血なのか?
 だが、量を考えると、那岐の血ならば那岐は失血死しているので、違うだろう。
 まぁ、那岐の血だけではない と言うだけで、那岐の血も混ざっている可能性はあるが。

 って、そんなことよりも、今は木乃香だ。だって、血溜まりの中に木乃香がいたのだから、血の考察などどうでもいい。

 いや、正確に言うと、『いた』のではなく『倒れていた』んだな。木乃香は力無くグッタリとしている。
 ……もしかして、この血には木乃香の血も含まれているのだろうか? だから、倒れているのではないか?
 だとしたら、木乃香は怪我をしていることになる。それならば、一刻でも早く助けないといけないっ!!

 那岐も そう思ったのだろう、那岐は慌てて木乃香に近寄る。

 しかし、那岐の接近に気付いた木乃香は慌てて後退さる。
 倒れたままなのに『何か』から逃げるようにズリズリと後退さる。
 足を負傷しているのか? それとも、腰が抜けているのか?
 どちらにしろ、そんな状態なのにもかかわらず、木乃香は後退さる。

 ……どうしたんだろう?

 那岐は疑問に思いながらも、木乃香が心配なので近付く。
 しかし、木乃香は またもやズリズリと後退さってしまう。
 那岐が近付いた分――いや、それ以上に木乃香は後退さる。

 もしかして『何か』に脅えている? じゃあ、後ろに『何か』いるのかな?

 そう思い至って振り返って見ても、後ろには誰もいないし何もない。
 ……おかしいな、このちゃん は何に脅えているだろう?
 那岐は疑問に思いながらも更に近付くが、やはり木乃香は後退さる。

 ――ああ、なるほど。つまり、木乃香は那岐に脅えていたのか……

 ははははは……那岐も気付くのが遅いなぁ。
 木乃香の怯えた目を見れば一目瞭然じゃないか?
 木乃香が逃げていたのは『那岐』からだって……

 だから、オレは――いや、那岐は心を凍て付かせて呆然とすることしかできなかった。

 追い付いた せっちゃん が木乃香を助け起こす様を、
 しばらく経って駆け付けた大人達が木乃香達を運ぶ様を、
 那岐は ただ見ていることしかできなかったんだ……

 ――――場面は変わって、その日の夜。

 那岐は一面の赤が頭にチラついてしまったので、なかなか寝付けなかった。
 決して木乃香に怯えられたことが原因ではない。そうに違いない。
 だから、水でも飲んで落ち着こう と思って、那岐は布団を出て部屋を後にした。

 そして、運命の悪戯か、部屋を出たところで詠春とタカミチの声を聞いてしまった。

 あれ? なんでタカミチの声がするんだろう?
 タカミチは ここにいない筈じゃなかったっけ?
 もしかしてボクを心配して来てくれたのかなぁ?

 そう疑問に思った那岐は導かれるかのように声の発生源に向かい、その途中で二人の会話を聞いてしまう。

「――以上のことから、三人の記憶を消そう と思います」
「そうですか。とりあえず、木乃香君と刹那君に関しては賛成します」
「つまり、那岐君の記憶は消して欲しくない と言うことですか?」
「ええ。那岐君の体質上『記憶消去』は とても危険ですからね」
「それはわかっています。しかし、彼にはツラい記憶なのでは?」
「確かに そうでしょうね。ですが、リスクの方が大きいですよ」
「ですが、お義父さんに頼めば、リスクは限りなく低くなるのでは?」
「学園長の腕でも、那岐君の『部分消去』は不可能に近いんですよ」
「つまり、記憶を消すには すべてを消さなければならない訳ですか……」
「ええ。それだと、ツラい記憶だけでなく幸せな記憶も消してしまいます」
「そう……ですか。ならば、記憶を消すのは得策ではありませんね」
「それに、幸いなことに那岐君は『決定的な場面』は忘れていますから」
「なるほど。心を守るための防衛機能と言ったところですね……」

 ……会話の意味は よくわからない。でも、二人の記憶が消されるのだけは理解できた。

 そして、そのことを理解した途端に喜んでしまったことが、とても嫌だった。
 これで今まで通りになれる とか思ってしまったのが、許せなかったんだろう。
 だからこそ、那岐は自分が二人を傷付けたことを深く心に刻み付けたに違いない。

 ――――再び場面は変わって、夜が明けて翌日。

 恐らく『記憶消去』とか『記憶改竄』とかの魔法なり呪術なりが二人に使われたのだろう。
 翌日には元通りになっていた。木乃香と せっちゃん の態度は事故の前と同じになっていた。
 どうやら、二人の中では「川で遊んでいて溺れてしまった」ことになっているようだ……

 だが、やはり、那岐の心は凍て付いたままだった。二人の笑顔を見ても喜べなかった。

 実に不器用だと思う。二人が忘れているんだから、忘れてしまえばいいのに。
 まぁ、それができないヤツだからこそ、那岐は那岐なんだろうけど。
 だけど、二人を見る度に苦しむのは、見ているこっちがツラくなる……

 だからこそ、詠春とタカミチの気持ちが『オレ』には よくわかる。

 気に病む詠春がタカミチに「私が至らないばっかりに……」と謝罪するのも、
 タカミチが「いいえ、ボクが見ているべきだったんです」と自分を責めるのも、
 そして、それ故にタカミチが那岐を麻帆良に連れて行くことを決意するのも。

 すべてが、理解できる。痛い程に理解できてしまう。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

 これが「川に溺れた事故」の真相なのだろうか? それとも、何もできなかった自分を責める那岐の作った妄想に過ぎないのだろうか?

 だが、単純に「川に溺れた」と言う『事故』よりも「木乃香が浚われた」と言う『事件』の方が辻褄は合う気がする。
 何故なら、川に溺れただけで せっちゃん が悲壮な決意をしたのが どうも腑に落ちない部分があったからだ。
 むしろ、決意が強かったから『記憶』が改竄されても『決意』は改竄されずに『理由』が改竄された と見るべきだろう。

 まぁ、そう言ったところで、所詮は夢でしかないので どの記憶も信憑性は高くないのかも知れないけどね?



************************************************************



Part.02:見知った天井


 眠りから意識を取り戻したナギの目前には見知らぬ天井――いや、どこかで見たことのある天井が広がっていた。

 霞掛かった頭で「どこだったっけ?」と記憶を掘り起こすこと しばし、やがて脳裏に「あっ、木乃香の家じゃん」と解が浮かぶ。
 夢(と言う名の那岐の記憶)の中で何度も見た天井だ。と言うか、先程も見たばかりなので、見覚えがない訳がない。
 ナギとしては初めて見る筈だが、身体は覚えていたのか、妙に落ち着く天井だ。原風景の一つ、と言ったところだろうか?

(ん? と言うことは、今は本山にいるってこと?)

 段々と意識がハッキリするに連れ、直前の記憶と現在の状況が線で繋がらない。有体に言えば、記憶に欠損があるのだ。
 小太郎をトラップに嵌めて眠らせたところまでは明確に思い出せるのだが……どうも、その後の記憶が曖昧なのだ。
 微かにネギの絶叫を聞いた様な覚えもあるが、その辺りを思い出そうとすると何故か後頭部がズキズキと痛む。実に不思議だ。

(順当に考えると、ネギに気絶させられたってことじゃないかな?)

 ネギに気絶させられたのなら、何故に本山にいるのか? と言うか、気絶したのに本山にいるのは何故なのか?
 恐らくは、タカミチ辺りに気絶している間に本山まで運んでもらったのだろうが、ナギが気になるのは その経緯だ。
 東の大使であり木乃香の婚約者であるナギには諸々の意味での『挨拶』を行う義務があるため、運ばれた経緯は重要だ。

 それ故に、事情を知っているであろうネギに話を聞くべく、ナギはネギに『念話』を送るのだった。

『ねぇ、ネギ。オレの後頭部が やたらと痛いのは何でだか わかるかな?』
『あっ、ナギさん!! 目が覚めたんですね!! よかったです!!』
『うん、だから、オレの後頭部が痛い理由を教えて欲しいんだけど?』
『え? 理由、ですか? 多分、あの犬耳のせいじゃないですか?』
『へ~~? オレの記憶では お前のせいだった と思うんだけど?』
『……確かに、ナギさんを守ると誓ったクセに守れませんでしたからね』
『いや、違うから。お前がオレに攻撃したせいじゃないかって言いたいんだけど?』
『え? 何を仰ってるんですか? ボクがナギさんを攻撃する訳ないじゃないですか?』
『え? お前、マジで言ってるの? 惚けてるんじゃなくてマジなの?』
『ほぇ? 惚ける? ナギさんが何を仰りたいのか よくわからないんですけど?』

 どうやら、ネギは自分の都合が良いように自分の記憶を改竄したようである。

 もしかたら、ただ単に惚けているだけかも知れないが、それにしては様子が自然 過ぎる。
 ナギにとってネギは「嘘の吐けない真面目ちゃん」なので惚けているとは思えないのだ。
 仮にネギが惚けているのだとしたら もう少しギコチナくなる筈だ。こんなに自然な訳が無い。

 そんな訳で、ネギへの追求をあきらめたナギは後頭部の件は忘れることにして、話題を変えることにする。

『じゃあ、質問を変えよう。そもそも、お前 今どこで何をやってんの? ちょっと教えてくんない?』
『え~~と、さっきまで応接間っぽいところで「長さん」と雑談に興じていた感じです』
『そっか。ところで、それって「オレが本山にいることを理解している」と言う前提だよね?』
『あ、そう言えば そうですね。ナギさんが落ち着いてたので、気にしてませんでした』
『まぁ、確かに「オレがどこにいるのか」訊ねなかった時点で それを把握してることになるか』
『そうですね。でも、ナギさんですから、状況確認よりも別の事に意識が行くかも知れませんけど』
『…………それって褒められてるんだよね? って言うか、褒められてるって受け取るよ?』
『え? 褒めてますよ? ナギさんはボクなんかでは計り知れない深慮遠謀に富んでるんですよね?』
『うん、お前のマンセーは遠回しな皮肉に聞こえるからオレをマンセーするのはやめてくれない?』
『ほぇ? ああ、テレてるんですね? 相変わらず、ナギさんってばツンデレさんですね~~』

 何を言っても超解釈されてしまうことに軽く絶望したナギだったが、どうにか気分を落ち着けて質問を続ける。

『……とりあえず、本題に戻ろう。「長さんと歓談してた」と言うことは親書は渡したの?』
『いえ、まだです。って言うか、親書はナギさんが持っているんですから、無理ですよね?』
『うん、そうだね。だから、ダミーの方を渡してしまったのではないか と心配だったんだけど?』
『あ、そう言うことですか。でも、安心してください。さすがにダミーを渡すほど抜けてません』
『まぁ、信じてたよ。ところで、オレが目覚めたことを「長さん」に伝えてくれるかな?』
『それは大丈夫です。「念話」を受けた段階で伝えてありまして、今は向かっているところですから』
『そう、仕事が早くて助かるよ と言いたいけど、そう言うことは もっと早く伝えようね?』
『す、すみません。ナギさんが目覚めた喜びで忘れちゃってました。今度からは気を付けます』

 そんなに喜ぶくらいなら気絶させるなよ と言いたいナギだったが、文句を言っても仕方が無いので我慢して置く。

『まぁ、次から気を付けてくれればいいよ。それよりも、オレが本山に連れて来られた経緯を教えてくれる?』
『本山に入った経緯、ですか? ……あの時は、タカミチがナギさんを背負ってましたね。とても口惜しいことに』
『そ、そうなんだ。ちなみに、小太郎――オレを襲って来た犬耳学ラン幼女の処遇は どうなったのかな?』
『ああ、あの犬耳ですか。アイツはアオヤマさんが何処かへと連れて行きましたね。それ以外は記憶にありません』
『……そう。じゃあ、せっちゃん と戦ってた白ゴス剣士の方も鶴子さんが連れて行ったってことでOK?』
『ええ、そうですね。いい笑顔のアオヤマさんが連れて行きました。きっと、拷問した後に殺処分するんでしょうね』
『そうかも知れないけど、報告に無駄な推測は挟まなくていいよ。まぁ、それよりも、鶴子さんは何か伝言 残してたかな?』
『す、すみません。それで伝言ですけど、確か「予定通り、先に上がらせてもらいます」的なことを言ってた気がします』
『ふぅん、そっか。まぁ、想定内だから問題ないかな? ……よし、だいたいの状況は把握できた。報告、さんきゅ ね』

 と言ったところで、ガラッと襖が開いて「じゃあ、御褒美にナデナデしてください!!」とネギが突入して来たのは言うまでもないかも知れない。

 余りにもタイミングが良過ぎるので「コイツ、会話が終わるまで待ってたんじゃ?」とかナギが疑問に思ったのは当然だろう。
 と言うか、ネギの後ろにいる(詠春と思わしき)メガネの中年男性が困ったような表情を浮かべているので、そうに違いない。
 かなり気不味いが、ナギはネギを放置すると面倒なことになりそうなのがわかっているので、まずはネギの頭を撫でることにする。

「えへへ~~♪」

 ネギは実に嬉しそうな顔して和んでいるが、ナギとしては「いや、そんな状況じゃないんだけど?」と言う気分でいっぱいだ。
 そんなネギの尻拭いをするのが自身の役割だ とあきらめつつあるナギだが、外では もう少し空気を読んでもらいたい所存らしい。
 まぁ、ネギは良くも悪くも素直なので、ナギは思うだけで実際には口にしないが。何故なら言うだけ無駄な気がするからだ。

 ちなみに、詠春(でいいだろう)の背後には、生暖かい視線でナギとネギを見ているタカミチがいるが、ナギは敢えて気にしないことにしたようだ。

「やぁ、久し振りだね、那岐君」
「ええ、お久し振りです、詠春さん」
「……元気そうで何よりだよ」
「お気遣い、ありがとうございます」

 ナギ達の様子に苦笑していた詠春だったが、状況を打破するためか声を掛けて来たので、ナギはネギの頭を撫でながらも無難に返すのだった。



************************************************************



Part.03:挨拶と親書


「では、改めて……ようこそ いらっしゃいました、神蔵堂君、ネギ君、高畑先生。
 私達、関西呪術協会は関東魔法協会である貴方方の来訪を心より歓迎 致します」

 階段状になっている上座から登場した詠春が厳かな雰囲気で言葉を発したことで『挨拶』が始まった。

 舞台はナギが寝かされていた客室から総木造の大広間へと移動している。大広間は厳粛な雰囲気が漂っており、まさに舞台と言える場だろう。
 もちろん、『挨拶』と言う公的行事である以上、ナギ達は詠春と一緒に部屋に入る訳にはいかない。そのため、詠春とは大広間に入る前に別れている。
 たとえ両者が知己であろうとも組織同士の公的行事であるため、公の場では それなりの形式を取らねばならないのだ。面倒だが仕方がない。

 ちなみに、座の配置は、ナギが真ん中で、左にネギ、右に木乃香、後ろ左に刹那、後ろ右にタカミチだ(木乃香・刹那とは大広間への道中で合流した)。

(やれやれ。伝統やら格式やら と言った権威を示すためなんだろうけど、この大広間 少し広過ぎない? 何畳あるのさ? 50畳はありそうだよ?
 それに、ずらっと並んでいる巫女さんも ちょっと遣り過ぎだと思う。左右に別れているとは言え、30人じゃ済まない人数は圧巻 過ぎるんだけど……
 まぁ、演出過多な気はするけど、それだけ こちらを評価している と言うことだろうね。低く見ている相手に、こんな『歓迎』なんてする訳ないからね。
 もちろん、ただの学生でしかないオレを評価しているのではなく、東の特使としてのオレ――と言うか、東そのものを評価しているだけだろうけど)

 状況から相手の思惑を想定したナギは「せめて役割はまっとうしよう」と気を引き締めて『挨拶』を返す。

「勿体無い御言葉と御心遣い、まことにありがとうございます、関西呪術協会が長、近衛 詠春殿。
 私――神蔵堂ナギは、本来なら御目通りも適わない、若輩とすら言えない身の上ではありますが、
 関東魔法協会より特使の大役を仰せつかった僥倖により、代表して挨拶に応えさせていただきます」

 正直に言うと、ナギは自分の言葉遣いが正しいのか既に判断ができない状態だ。つまり、それだけテンパっているのである。

「この度は我々(東)を此の地(西)に快く迎え入れて いただましてき、重ね重ね御礼 申し上げます。
 さて、早速ではありますが、関東魔法協会が長、近衛 近右衛門から詠春殿に親書を預かっております。
 私 如きの言葉では長の意を伝えるに足りませんので、失礼とは存じますが、まずは お認めください」

 ナギは ゆっくりとした動作で懐から親書を取り出すと、詠春の視線を受けて親書を受け取りに来た巫女に渡す。

 さすがに巫女を無視して詠春に直接 親書を渡す などと言う無作法な真似はしない。いくらナギでも それくらいの礼儀は心得ている。
 と言うか、状況(どう見てもアウェイ)を考えると、少しでも『敵意があると思われる行動』をしようものなら即 手討にされ兼ねない。
 親書を出すために懐に手を忍ばせた時でさえ殊更ゆっくりと動かなければならなかった程だ。親書を渡すためとは言え立てる訳がない。

(伊達や酔狂で巫女さんを並べている場合は、そこまで神経質にならなくてもいいだろうけど……ね)

 と言うか、詠春に「東やナギに対する害意」がなかったとしても、ここに列している巫女すべてが そうだとは限らない。
 むしろ、ほぼ確実に「東やナギ快く思わない派閥」がいるだろうし、巫女の中に その派閥と関係がある者がいるだろう。
 その可能性を考えない程ナギは状況を楽観視していない。つまり、警戒はし過ぎる程にした方がいい状況なのである。

「…………事態は想定以上に逼迫している、と言うことか」

 詠春が親書を読み終えるのを待ちながら周囲をそれとなく警戒していたナギの耳に、詠春がポツリと漏らした言葉が届いた。
 その声量は僅かなもので、それが誰かに聞かせるために発せられたものではなく自然と漏れ出でたものであることが察せられる。
 つまり、先の言葉は詠春の本音だった と言うことだ。そう、それだけ親書には深刻な内容が書かれていた と言うことなのだ。

(確か原作だと「しっかりせい婿殿!!」とかって書かれてた気がするけど……『ここ』では違ったのかな?)

 原作通りの内容だと、どう考えても深刻とは言えない。いや、他組織の長に心配される と言う意味で深刻かも知れないが。
 とにかく、現在 詠春が纏っている「迂闊に触れれば即 斬られる」ような、研ぎ澄まされた空気とは程遠い内容の筈だ。
 つまり、親書の内容は原作通り(苦笑で済ませられる程度)ではなく、詠春を真剣にさせるだけのものだった と言うことだ。

「――失礼しました。任務、御苦労様です、神蔵堂君。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力する……とお伝えください」

 詠春は軽く息を整えながら親書を懐に仕舞うと、軽く頭を下げて身に纏う空気を通常の それ に戻すと、
 張り付けていることがあきらかな笑顔を浮かべながらナギを労い、親書への返答を『口頭』で返した。
 そう、親書と言う書面への対応が書面ではなく口頭で行われたのだ。どう考えても悪手としか言えない。
 そんな扱いをされたら組織の体面上「憤慨する必要のないところで憤慨する必要」が出てきてしまう。

(まぁ、オレが『組織間の長同士の意思を伝えるに足る存在』と評価された とも考えられるけど……それはそれで悪手だよなぁ)

 ナギの立場(詠春の娘の婚約者であり近右衛門の孫娘の婚約者)を考えると、それなりに発言権があるように見えるが、
 単に組織の長の縁者となる可能性が高いだけで、実際は組織的な立場は下っ端でしかない。大使と言う役目も偶々でしかない。
 つまり、詠春や近右衛門がナギを どう評価していようが、組織間の観点からするとナギは長同士を繋ぐには足りないのだ。

(と言う訳で、できれば書面にして欲しいんだけど……それを直接的に言うと角が立つから、言葉を選ばないとなぁ)

 ナギの公的立場は「東西の仲違いを解消するために派遣された特使」である。そのため、ナギは そう振舞うしかない。
 本音としては「面倒でしょうけど、今の言葉 書面にしてもらえませんかね?」とか言いたいのだが、さすがに そうは言えない。
 相手を立てながら持って回った言い回しで婉曲的に表現しなければ(詠春はともかく)西の神経を逆撫でしてしまうだろう。

「詠春殿。私 如きの言葉では長に正確な意が伝えられぬやも知れません。先の言葉、別の形にていただけないでしょうか?」

 たとえ伝言だけで済む程度の内容であったとしても書面にすることで付加価値が生まれる。
 組織間では、百の言葉よりも一の文章の方が説得力があるのだ。保存される、と言う意味で。
 言わば、妄想に止めた黒歴史よりもノート等の形に残した黒歴史の方が痛いのと似ている。

「……これは失礼しました。明日までに書面に致しますので、本日は旅の疲れを癒してください」

 詠春は一瞬だけ興味深そうな表情を浮かべたが、直ぐに作り笑いに表情を戻す。
 そして「正式な客人として迎えた以上、このまま帰すのも無作法です」とか付け加え、
 更に「と言う訳で、歓迎の宴を準備させておりますので、ご寛ぎください」とか締め括った。

「そこまで仰られては断るのも無礼ですね。それでは、お言葉に甘えさえていただきます」

 言いたいことは残っているもののナギは深々と頭を下げ、無事に『挨拶』を終了させた。
 ……そんな風に考えていた時期がオレにもありました、とかナギは後に語る。
 と言うのも『挨拶』はここからが本番であり、まだまだ終わっていなかったからだ。

 つまり、『木乃香の婚約者としての挨拶』と言うナギが忘れて置きたかったイベントが忘れられていなかったのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


―― 詠春の場合 ――


 那岐君から受け取った親書を読んだ時、私は思わず心中を漏らしてしまった。

 何故なら、親書に書かれていた内容が想定外だったから……などではなく、
 想定していなかった「アルビレオからの密書」が添付されていたからだ。
 だから、私は無防備にも心中を漏らしてしまう、と言う愚を犯してしまった。

 まぁ、それはともかく、アルビレオからの密書の内容は以下の通りだった。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

親愛なる我が友、近衛 詠春へ

 貴方がこの手紙を読んでい ると言うことは、既に私がこの世にいない……と言うことですか?
 いいえ、そんな訳はありません。何せ、私ですからね。そう簡単に死ぬ訳がないでしょう?
 ですから、死んでいるのは貴方の義父辺りかも知れませんので、お悔やみを申し上げて置きましょう。

 ……さて、掴みは こんなところで充分でしょうか?

 いくら忍耐に定評のある貴方でも、そろそろ本題に入らなければ手紙を切り裂く恐れがありますからね。
 少なくとも『あのバカ』や『あの筋肉達磨』ならば、最初の一行で燃やすなり破るなりしているでしょうね。
 ですが、それは下策と言う物です。何故なら、そんなことをしたら呪いが掛かるようにしてありますからね。

 ……今、ちょっとだけ「破棄しなくてよかった」と思ったでしょう?

 フフフッ、そんな呪いを掛けてある訳がないじゃないですか?
 って言うか、そんな呪いを掛けても貴方なら気付くでしょう?
 私は無駄なことはしない主義ですので、そんなことしませんよ。

 ……え? そんなことはどうでもいいからサッサと本題を話せ、ですか?

 まったく、相変わらず堅物さんですねぇ。少しくらい御茶目に付き合ってくれてもいいでしょうに……
 まぁ、貴方も関西呪術協会の長に祭り上げられてしまったので、多忙な身の上だとは察してますからねぇ。
 同情する気はありませんが、その代わりに忙しい貴方のために そろそろ本気で本題に入ってあげましょう。

 と言う訳で、『完全なる世界』の残党が京都で暗躍しているそうですから注意してくださいね。

                                                  貴方の親愛なる友、アルビレオ・イマより

P.S.
 ちなみに、情報源については「禁則事項です」ので、聞かないでくださいね?
 あと、信じる信じないは貴方の自由ですので、対策も勝手に練ってくださいね?

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

 まぁ、正直に言うと、かなりイラッとしたのは認めよう。

 しかし、それでも、重要な情報をもたらしてくれたことだけは確かだ。
 激情に任せて途中で手紙を破棄しなかった自分を褒めてあげたい。
 ストレスで胃がキリキリしているが、それでも利はあったのだから。

 と言うか、最後の部分以外かなりどうでもいい内容だった気がするのは私の気のせいだろうか?

 あ、お養父さんの手紙(親書)は「下も抑えられんようでは困るのぅ」と言う想定通りのものだった。
 だからだろう。アルビレオからの手紙に比べると重要度が かなり低い内容にしか思えなかった。
 と言うか、ついつい口頭だけで返事をしてしまい、那岐君に窘められてしまう結果となってしまった。

 しかも、かなり気を遣った言い回しでの指摘だったから、那岐君には頭が下がる思いだよ。

 いやぁ、本当、お養父さんの言う通り、頭の回る子に育ったようだね。
 このまま育ってくれたら、東西をうまく統合することすら可能そうだ。
 あ、でも、その前にウェスペルタティア王国の復興をするのかな?

 まぁ、どちらにしても、私よりはうまく『長』をやってくれそうな後継者ができて一安心だ。

 いや、長の座を虎視眈々と狙う者達もいるので、その中から優秀な者を選んでもよかったんだがね。
 だが、残念なことに木乃香を『便利な道具』くらいにしか見ていない連中なので木乃香はやれないさ。
 そんな連中よりも、木乃香を大事にしてくれるだろう将来有望な那岐君に任せたいのが親心だろ?

 と言う訳で、特使としての仕事が終わった那岐君には今度は木乃香の婚約者としての仕事をしてもらおう と思う。



************************************************************



Part.04:事件は会議室で起きそうだ


 言うまでもないだろうが、ナギの『木乃香の婚約者としての挨拶』はヒドいものだった。これはヒドい とすら言えないレベルだ。

 正直な話、ナギは詠春を見誤っていた。原作でのイメージや これまでの遣り取りから「真面目で実直な人物」だと思っていた。
 だが、それはナギの勘違いだった。と言うか、見込み違いだった。政治には不向きそうに見えた誠実さは擬態に過ぎなかったのだ。
 何故なら、詠春は充分に腹黒かったからだ。思わず「『赤き翼』には曲者しかいないんですね、わかります」と納得したくらいだ。

(まさか、前振りもなく『婚約者としての挨拶』が始まるとは、ねぇ)

 経緯としては至極 単純だ。詠春は「宴までに時間がありますので、別室にて少々お待ちください」とナギ一行を誘導した後、
 大したことではないかのように「あ、神蔵堂君は ちょっと残っていただいてもいいですか?」と言う依頼の形をした命令をし、
 大広間から続く奥の部屋――つまり、一癖も二癖もありそうな海千山千な古狸達が屯っている魔空間にナギを連行したのである。

(…………すみません、帰っていいですか?)

 切実に その場からの戦略的撤退をしたいナギではあったが、ここまで来てしまったら それは無理だ。そんな段階は とうの昔に過ぎている。
 と言うか、どう考えても木乃香の婚約者としての挨拶をさせられるのは確定的に あきらかなので、逃げたら己の立場を悪くするだけだ。
 だが、それがわかっていても帰りたい気持ちには蓋をできないのである。つまり、それだけ古狸達の放つプレッシャーは凄まじいのである。

「皆、待たせてすまない。早速だが、木乃香の婚約者を紹介しよう。彼が木乃香の婚約者であり、将来的には西を背負って立つだろう神蔵堂君だ」

 詠春は古狸達を見回しながら単刀直入に爆弾を投下し、言葉を言い終えるとナギのことをチラリと見る。
 ナギと詠春の間にアイコンタクトが成立するような関係は築かれていないが、この場合は問題ない。
 詠春の言葉を引き継いで自己紹介しろ と言う振りだろう。それくらいのボディランゲージは通じる。

「……御紹介に与りました、神蔵堂ナギと申します。皆様からすれば雛も同然の若輩者ですが、木乃香さんの婚約者として精一杯 励ませてもらいます」

 言うまでもないだろうが、ナギは ほとんど勢いでしゃべっているため、ナギ自身も何を言っているのかサッパリわからない。
 そのため「婚約者として精一杯 励む」と言う言葉が、取り方によっては「子作り頑張ります」とも取れることに言ってから気付いた。
 むしろ「オレが長になるのが不満ならば、オレ達の子供を担ぎ上げてください」とすら取れてしまう言葉だろう。実に最低だ。

(まぁ、テンパっているんだから、無意識に思っていたことが言葉として滲み出て来てしまうのは止むを得ないって、うん)

 そもそも、ナギは自身が木乃香の婚約者になったのは(近右衛門が画策した)反乱分子達を炙り出すためのブラフだと思っていた。
 故に、せいぜい「彼が『現在の』木乃香の婚約者である神蔵堂君だ」くらいに(将来が確約されていない程度の)紹介だ と油断していた。
 だが、詠春が『こんな場』でナギが将来的に西の重要ポジションに就く と公式的に宣言してしまった。最早、ブラフでは済まされない。
 ここまで言われてしまったら「実はブラフでした」なんて言える訳がない。と言うか、そんなことしたら新たな反乱分子を生み兼ねない。

(いや、本当、こう言うことは前以て言って置いてくれないと、心の準備ができない と言うか、逃げるタイミングを失う と言うか……)

 まぁ、前以て言って置くとナギが口八丁手八丁で逃げそうだから何も言わなかった可能性は非常に高いが。
 と言うか、問答無用で『挨拶』を開始したことを鑑みるに、詠春はナギのヘタレ振りを理解しているに違いない。
 むしろ、それくらいの洞察力と腹黒さを持ってる と仮定して置くべきだろう。警戒はし過ぎるぐらいでいい。

(古狸達も想定外だったんだろうけど……だからって「どこの馬の骨とも知れぬ小僧が!!」って感じの視線を隠しもしないのは どうだろうねぇ?)

 当初はテンパっていたナギだったが段々と落ち着いてきた。伊達にエヴァ戦に巻き込まれたり、近右衛門と腹黒い遣り取りをしている訳ではないのだ。
 そして、落ち着いて来ると古狸達の反応が幾つかのパターンに分かれていることに気付くことができた(まぁ、ナギの勘違い と言う可能性もあるが)。
 あからさまにナギを忌々しく見ている者がいる一方、逆に内心を隠して――反応を見せないようにしている者がいることが、何となくナギにはわかった。
 更に、それらの御蔭で、そのどちらの反応もしていないように見える――せいぜい、ナギを値踏みする程度の反応に止めている者すらもナギは察せられた。

(……最も注意すべきなのは、周囲が混乱している中で冷静にオレを『品定め』している連中だろうね)

 忌々しげに見ている者も無反応を装おっている者も、ナギを木乃香の婚約者(と言うか、将来の西の重鎮)として認めていないのは明らかなのに対し、
 ナギを品定めしている者の中には、ナギを認める可能性が高い者も判断を保留している者も保留と見せ掛けて最もナギを認めていない者もいるからだ。
 特に最後のパターンは厄介だ。全然 認めていないクセに理解者であるかのように装うなんて実に厄介だろう(まぁ、ナギが言えた義理ではないが)。

(って言うか、オレのことをナメ過ぎてない? この程度のことくらい見抜けない訳がないでしょ?)

 まぁ、確かに「木乃香の幼馴染と言う立場から恋愛的な意味で婚約者になっただけの学生」と言う情報を流してあるので侮るのも無理は無い。
 近右衛門が「英雄の娘のパートナーとして『闇の福音』を退けた」とか付加価値を混ぜ込んだが、それは武力面での補正にしかなっていないし。
 とは言え、ここまで侮られてしまうと、逆に侮っていると思わせているだけで、実は最大限に警戒しているのではないか? と疑わしくなる。

(それとも、過剰反応や無反応の中に『品定め』よりも厄介な連中がいるのかなぁ?)

 さすがに そこまで厄介な連中を相手にするのは荷が重い。ナギの基本戦術は「油断させて裏を突く」なので、警戒している相手は得意ではないのだ。
 と言うか、ナギは普通の学生よりは政治向きではあるが、それは あくまでも『普通よりはマシ』と言うレベルなので、本職に勝てる訳ではないのである。
 当然ながら、それは戦闘面も同じだ。ナギを侮ってくれているからこそ、ナギは千草達を罠に嵌めることができた。まともにやったら太刀打ちできない。

 それ故に、ナギは敢えて愚者を演じる――と言うか、素を出すことを選択する。「やはり警戒するまでも無いな」と思わせるためには必要不可欠なのだ。

「……あの、すみません。そんなにアツい視線を向けないで いただけませんか?
 いくらオレが美少年でも『そっち』の趣味はありませんので、困っちゃいます。
 オレ、若干ロリ入ってますけど、普通に女のコが好きな健全な男子中学生ですから」

 ナギ自身も「我ながらダメな発言だなぁ」とは思っているが、これがナギの素(シリアスに徹してない状態)なので仕方がない。

 と言うか、これで「空気も読まずに世迷言を口走るダメ人間」と思われた筈なので、ナギの狙いは成功したに違いない。
 まぁ、逆に「侮らせるために態と不可解な言動をしたのでは?」とか疑われそうな気がしないでもないが、きっと気のせいだ。
 仮に疑われても、ナギの素行を調べれば先の言葉(オレは変態と言う名の紳士です)が真実だと判明するので問題ない筈だ。

(って、あれ? 自分で言っててショックだったんだけど、改めてみるとオレの素行って果てしなくダメだったりしない?)

 と言うか、あきらかにダメだろう。どう見ても、何人もの女のコにアプローチしているようにしか見えない。
 しかも、その中には世間一般的にはアウトとされる本物の小学生(ココネ)や実質的には小学生(ネギ)もいる。
 たとえ本人の その気(攻略する気)がなかったとしても、傍から見たら最低なクズ野郎であることは変わらない。

「あ~~、コホン。那岐君が恐縮しているようなので、簡潔過ぎるとは思うが、これで面通しは終了しよう」

 あきらかに重くなった場を取り成すように詠春が助け舟を出す。と言うか、多少 強引ではあったが『挨拶』を打ち切る。
 そんな詠春にナギは深く感謝したが、よくよく考えてみれば こんな状況に追い込んだのは詠春なので、一瞬で忘れたが。
 まぁ、こうなることがわかっていてアホな発言をしたのはナギなので、感謝を忘れるだけで文句は言わなかったようだが。

 と言う訳で、いろいろとツッコミ所は多いが、ナギの『木乃香の婚約者としての挨拶』も無事に終了した。

 言い換えれば、これで近右衛門から受けた依頼は完遂したことになるので、ここからはナギの私用となる訳だ。
 それは、古狸達がナギを狙って来たとしても近右衛門には一切の責任を問えなくなる と言うことでもあるのだが、
 逆に言うと、ナギが『何』を『如何しよう』とも近右衛門から責を問われる謂れも一切なくなる と言うことでもある。

 ここは「本当の戦いは始まったばかりだ」とか言って置くと綺麗に纏まるのだろう。それだと もう終わりそうな雰囲気だが。



************************************************************



Part.05:本音は隠すためにある


 恙無く――とは御世辞にも言えないが、それでも『挨拶』は終了したので、予定通り大広間にて『歓迎の宴会』が始まった。

 言うまでもなく、ホスト側の大多数が歓迎する気などないのに表面的には歓迎しているように振舞ってくれる と言う実に切ないイベントである。
 ちなみに、ホスト側と表現したが、実際に接待をするのは巫女さん達であり、巫女さん達は普通に歓迎してくれているので、それなりに嬉しいのだが、
 歓迎会の主催者である古狸達が まったく歓迎してくいないのにもかかわらず何故か参加までしてくれやがっているため、実に切ないのである。

(……正直、古狸達も参加することを知った時は参加を辞退したかったよ、うん)

 だが、ナギは特使としての立場でも婚約者としての立場でも参加せざるを得ないため、泣く泣く参加したのだ。
 裏の事情(古狸達がナギを快く思っていない)を知らないネギ達は普通に楽しめているので、非常に羨ましい限りである。
 まぁ、悪感情がナギの向くようにするのが元々のナギの狙いだったので、その意味では現状は満足すべき状態なのだが。

(それでも、美味しい筈の豪華な料理が美味しく感じられない情況を考えると、羨ましく思ってしまうのは仕方がないよね?)

 自業自得であることは否定できないし、ナギも否定するつもりなどない。だが、どうしても埒もないことを考えてしまうのだ。
 どうしても、近右衛門が噂に尾鰭を付けてくれたせいで状況が一層ヒドくなったのではないか、と軽く恨んでしまうのである。
 たとえば、エヴァ戦についてだが、「ナギはネギを補助しただけで、実質 何もしていない」と事実を言ってくれればよかったのに、
 何故か流されていた噂は立場が逆になっていた――と言うか「主にナギが『闇の福音』を翻弄した」ことになっていたのである。
 まぁ、それはそれで事実なのだが、近右衛門が事実を知っている筈がないので、ナギとしては近右衛門を逆恨みしたい気分なのだ。

「ところで、先程の演技ですが……余りにも態とらし過ぎて逆に演技だと わかってしまいましたよ? もう少し、抑えた方がいいと思います」

 仮に近右衛門がナギを「エヴァ戦の手柄は偶然で、実は役立たず」くらいに扱っていてくれれば『こんな事態』にはならなかっただろう。
 つまり、如何にも『やり手』な若い古狸(微妙に意味不明)と にこやかに会話しなければならない と言う事態は避けられたに違いない。
 と言うか、男――赤道 英俊(あかみち ひでとし)が『やり手』過ぎて困る。ナギを格下だと見なしながらも一切 警戒を怠っていない。
 赤道はナギを小賢しいだけのペテン師だと見抜きながらも、僅かに「それすらもナギの演技なのではないか?」と疑っているのである。
 そのくせ「演技だと見抜いたことを告げつつアドバイスまで送る」と言う余裕も見せているのだから、現段階のナギでは太刀打ちできそうもない。

「いえいえ、あれは緊張の余り ついつい素が露呈しただけですよ。つまり、それなりに取り繕っていますが、オレは根本的にアホのコなんですよ」

 ナギは誤魔化しているように見せ掛けて真実を語っている――振りをする。まぁ、すべてが嘘ではないので一部の真実を混ぜている感じだ。
 具体的に言うと、アツい視線やら『そっち』の趣味やらは完全に演技だったが、ロリ云々は真実なので『すべてが演技』とは言い切れないのだ。
 つまり、完全に惚けてもバレるのは明白なので、敢えて微妙に惚けつつ「自分は警戒に値する人間ではない」と言うアピールをしたのである。

「そうなのですか? とても そうは見えませんが……つまり、謙遜なさっている と言うことですね?」

 しかし、どうやら逆効果だったようだ。赤道は警戒を緩めるどころか、より一層 警戒レベルを上げた気がする。
 真実を騙っただけでなく、警戒しないでアピールまでしたことが仇となったようだ。にこやかだが、心は笑っていない。
 さしずめ「実験動物を観察する科学者」と言ったところだろうか? あきらかに上の立場からナギを試している。

 言葉と態度が丁寧だが、騙されてはいけない。そのため、ナギは細心の注意を払って赤道への対応を続ける。

「謙遜なんて、とんでもないです。あれがオレの素なんですよ、お恥ずかしい限りですが」
「ほほぉう、そうですか。ですが、私としては『あれが素』であることの方が恐ろしいですがね」
「まぁ、そうかも知れませんね。あんなダメ過ぎる人間が組織の頭になるかも知れないのですから」
「いいえ、違いますよ。そう言った意味ではありません。貴方の『真意』が恐ろしいのですよ」
「オレの真意、ですか? そんなものありませんよ? 少し、仰っている意味がわかり兼ねますねぇ」
「……敢えて素を晒すことで自分を侮らせた――と見せ掛け、それでも侮らない者を炙り出したのでは?」
「それは買い被り過ぎですよ。せいぜい侮らせて、油断させるくらいしか考えていませんって」
「まぁ、そう言うことにして置きましょう。と言うか、それだけでも充分に侮れませんけどね?」
「いえいえ、侮ってください。そのために恥を晒したのですから、侮っていただけないと困ります」

 まぁ、細心の注意を払って と言ったが、赤道の狙い(ナギの値踏み)がわかっているため、対処自体は そこまで大変ではない。

 と言うのも、そもそも問題となっているのが「木乃香の婚約者(ナギ)が西の長になる可能性がある」ことだからだ。
 そう、将来的に西を牛耳りたいと考えている者達にとって、ナギは邪魔な存在であると同時に駒にしたい存在でもあるのだ。
 言い換えると、ナギを御し易い存在だと判断したら、彼等はナギを傀儡とする選択肢に大きな魅力を感じることだろう。
 下手にナギを排除して現体制(詠春達)に痛くない訳でもない腹を探られるよりは、ナギを駒にした方がリスクが少ないからだ。
 と言うか、西の長になるだろう木乃香の婿を自分達の陣営から輩出しなくても、自分達の陣営に組み込めばいいだけなのだ。

(そんな訳で「傀儡にし易い人物」として評価してもらえるように『ちょうどいい』感じに反応したんだよねぇ)

 賢過ぎず、且つ、愚か過ぎない。それが『傀儡にするのに適した人物像』だろう。ナギは そう考えている。
 何故なら賢過ぎたら操り主に牙を剥くかも危険性があるし、愚か過ぎたら操るのも一苦労だからだ。
 だからこそ、賢過ぎず愚か過ぎない人物に見えるように、ナギは適度に本音と建前を見せたのだ。
 と言うか、ナギは本気で「西の長になっても実権を握る気はない = 実権を誰かに託したい」のである。
 そう、赤道にナギの思惑(警戒されたくない、むしろ傀儡にしてもらいたい)がバレても問題ないのだ。

(……あ、そう言えば、語るまでも無くわかっているだろうけど、今回の黒幕は この人だと思う)

 赤道は今の会話だけでなく、先程の『挨拶』の場でもナギを『品定め』していた人物である。
 しかも「自分がモテるのは常識」と言った雰囲気を醸し出していることも併せて考えてみると、
 今回の騒動を利用して木乃香を誑し込むつもりだったのではないか? とナギは推測している。

 ちなみに、ナギの独断と偏見に依る推測では、赤道の思惑は以下の三点だろう。

  ① 本山を襲撃されたうえスクナを復活されたことを詠春の大失態として責め、詠春の株を暴落させる。
  ② しかも自分達の一派が事態を華麗に解決することで、自分達の大成果として自分達の株を大幅に上げる。
  ③ 更に浚われた木乃香を救出したことで恩を売り、それを木乃香を誑し込むキッカケとして活用する。

 まぁ、かなりナギの思い込みが入っているが、そこまで的外れな推測ではない筈だ。

 恐らく、原作ではネギやエヴァが頑張り過ぎてしまったので計画倒れになってしまったのだろう。
 と言うか、ネギやエヴァが奮闘しなくても計画倒れになっていただろうが(フェイトを甘く見過ぎだ)。
 赤道達が如何程の戦力を有しているのかは定かではないが、どう考えても事態を解決できたとは思えない。
 千草・小太郎・月詠だけだったなら どうにかできるだろうが、さすがにフェイトはどうしようもない。

(あ、天ヶ崎 千草で思い出したけど……赤道の取った手段は「偶然にも情報が漏れた」と言う形で天ヶ崎 千草を唆した感じだろうねぇ)

 そうすれば、直接的な指示も繋がりも無い状態で千草を己の目論見通りに躍らせることができる。
 それに、この方法ならば千草が下手を打ったとしても自分まで累が及ばない と言うメリットもある。
 資金面については、資金を盗みやすい隙を態と作れば勝手に資金を得てくれる と言う寸法だろう。

(いや、確証は無いけど、オレが黒幕になるとしたら『そうする』から、細部は違っても大枠は こんなもんだと思う)

 失敗しても自分にリスクはないし、成功した時のリターンは大きい。実に えげつない遣り方だろう。
 だがしかし、フェイトと言う想定外のために計画は西の崩壊と言う大きなリスクを孕んでしまった。
 そう、本山の誇る結界を容易く破られたことで西の権威が暴落する と言うリスクが生まれてしまったのだ。
 まぁ、最終的には『内部に手引きしたものがいたから結界が破られた』とか誤魔化す形になるだろうが。

(しかし、あんな規格外としか言えない存在が釣れてしまうなんて……この人は運が悪かった としか言えないなぁ)

 千草としては「西洋魔術も使えるから西洋魔術師に対抗するには ちょうどいい」くらいの気持ちでスカウトしたのだろう。
 だが、フェイトは『その程度』の存在ではない。千草や赤道の思惑を理解しながらも利用される振りをして逆に利用するような存在だ。
 政治的な能力――腹の探り合いや権謀術数などでは赤道に分があるだろうが、物理的な能力――戦闘力ではフェイトは次元が違う。

(うん、運が悪かった としか言えないね。と言うか、オレも原作知識がなければ エヴァや鶴子さんと言う『切札』を用意しなかったかも知れないし)

 原作知識を当てにし過ぎるのは不味いだろうが、せっかく利用できる立場にあるのだから積極的に利用するべきだろう。
 情報は武器だ。そして、ナギには『武器』が少な過ぎる。原作知識を最大限に利用することは責められることではない。
 ただし、原作知識に頼り過ぎることで現実を見落とし足を掬われるような結果にならない限りは、と言う注釈が付くが。

(話をまとめると……今回の黒幕は この人だけど、白髪小僧――じゃなくて銀髪幼女は それすらも利用する気でいるって感じだろうねぇ)

 だから、今回の件に限っては赤道を警戒する必要は無い。何故なら、警戒するだけ無駄だからだ。
 ナギが どれだけ口八丁手八丁を駆使しても赤道は決してボロを出さない。それだけの力量差がある。
 むしろ、赤道の尻尾を掴もうとする余り、フェイトへの警戒が疎かになってしまう方が危険だ。

 つまり、黒幕がわかったところで状況は改善されていないため、まだまだ気を抜けない と言うことだ。ナギの戦いは始まったばかりなのだ。



************************************************************



Part.06:だから、ダミーであしらって置きましたってば


「と言う訳で、そんなにオレが悪いのかなぁ? そこら辺、どう思う?」

 ナギが赤道から開放されてからも宴は続いていた。そんな折、暇そうな刹那を見付けたナギは刹那に愚痴を言うことに決めた。
 ちなみに、愚痴と言っても人間関係(特に女のコ関連)である。さすがのナギも この場(西の中心)で西関連のことは言えない。
 ただし、ナギが愚痴を言う度に刹那が不機嫌になることにナギは「何でだろう?」と思うだけなので、さすがはナギとしか言えないが。
 あまつさえ「鶴子さんから かなりキツい授業をされたみたいだからオレの愚痴を聞くのが不愉快なんだろうなぁ」とか思う始末である。

「……むしろ、那岐さんが全面的に悪いのではないでしょうか?」

 確かに、刹那の心境も考えずに愚痴ったナギが悪い。もちろん、ナギが想定しているような心境などではないが。
 と言うか、何故ナギは刹那に愚痴ったのだろうか? その選択をした段階でナギが悪いとしか言えない。
 ここは木乃香に愚痴って周囲に婚約者としての仲の良さをアピールすべきだろう。常識的――と言うか、状況的に考えて。

 恐らくは、木乃香に愚痴ったら笑顔で心を抉られるような気がしたからだろうが、それでも選択を誤ったとしか言えない。

「確かに、オレにも非はあると思うよ? それでも、オレだけが悪い訳じゃないでしょ?」
「そうなんですが……何と言うか、那岐さんが根本的にダメなのが問題な気がするんです」
「いや、根本的にダメって……そんなにオレってダメなの? と言うか、そこまでなの?」
「簡単に言うと、それがわからないからこそダメなんです。私には そうとしか言えません」

 刹那には立場がある。ナギと会話することは嫌ではないが、状況的にナギと親しく話す訳にはいかないのだ。だから、棘のある言葉しか言えない。

「ちなみに、一体オレの何がダメなの? いや、それがわかってないからダメなんだろうけどさ」
「……まぁ、御嬢様のためになることなので敢えて言いますが、ナギさんは鈍いところがダメだと思います」
「え? オレ、鈍いの? オレ、鋭い方だと思ってたんだけどなぁ。特に悪意や敵意に関しては」
「仰る通り、ナギさんは悪意や敵意には鋭いですね。ですが、善意や好意に関しては どうですか?」
「そりゃ、まぁ、オレに害が及ぶようなことではないから、確かに善意や好意に関してはザルかな?」
「つまり、そう言うことです。相手に悪意や敵意がなくても、ナギさんに害が及ぶこともあるでしょう?」

 ヤンデレが最もいい例だろう。本人には好意しかないのに、相手には害となってしまうことがデフォである。

「それに、好意を無視されたら誰でも嫌な気分になりますからね、ナギさんを悪者にしたくなるでしょう?」
「た、確かに。そう考えてみれば、何故かオレが悪いことにされてしまうのも頷ける――気がしないでもないね」
「そこは素直に納得して置きましょうよ? 好意をすべて受け取れとは言いませんが、少しは気にしてください」
「いや、言いたいことはわかるんだけど……どうしても『オレ、悪くないのになぁ』って気持ちが残るんだけど?」
「確かに そうですけど、ナギさんが好意を向けられるような言動を取った結果なんですから、あきらめてください」

 とんでもない理論だが、ナギにまったく非がないとも言えないので、ナギは素直に納得して置くべきだろう。

「ところで、帰路の時間も考えると、そろそろ旅館に戻らなくてはならないのではないでしょうか?」
「露骨に話題を換えて来たねぇ。いや、まぁ、別に続けたい話題だった訳でもないからいいけどさ」
「なら、素直に話題の転換に乗ってくださいよ。出過ぎた真似をしてしまったので、話題を換えたいんですから」
「そうかな? オレは指摘してもらえた助かったよ? もう少し、好意とかに気を付けようと思ったし」
「だからですよ。御嬢様のためになることとは言え、次期当主様に進言するなど出過ぎた真似でした」
「いや、次期当主って……確かにオレは その可能性が高い状況にいるけど、今はただの男子中学生だよ?」
「そうかも知れませんが、中には そうは考えない方もいらっしゃる と言う訳です。好意的にも悪意的にも」

 と言うか、ナギと刹那が親しく接するだけで邪推される可能性もある。だからこそ、刹那は『木乃香の従者』として振舞うしかないのだ。

「……わかったよ。なら、話に乗ろう。と言う訳で、旅館に戻らなくていいか だっけ?」
「ええ、そうです。確か、17時までには旅館に戻っていなければならなかったのでは?」
「うん、まぁ、そうだね。車を使うにしても16時には出発しないと間に合わないねぇ」
「挨拶や下山する時間も加味すると更に30分は欲しいところですから、そろそろでは?」

 確かに、刹那の言う通り、旅館に戻るなら そろそろタイムリミットだ。だが、既に対策は施してあるので それは問題ない。

 ちなみに、その対策と言うのは、例のコピー□ボットで本山にいるメンバーのダミーを用意して置いただけである。
 最初から本山に一泊する予定だったので、旅館を出発する時に(木乃香にバレないように)全員分のダミーも用意して置いたのである。
 これで原作の様に「ダミーの式神が暴走して事後処理が面倒になる」と言う事態は避けられることだろう。実に用意周到なことだ。

「…………那岐さんって悪巧みに関しては凄まじいほど気が回りますよねぇ」

 当然ながら、刹那からは「その気遣いを別な方面で発揮しろ」とでも言いた気な反応しか返って来なかったが、ナギは特に気にしない。
 と言うか、こんな反応は いつものことだ。むしろ、いつものことだから気にしていられない。イチイチ気にしていたら、ナギは生きていけない。
 それに、最近は呆れられたり蔑みの目で見られたりするのにも随分と慣れて来たので、最早ナギは「普通のこと」と受け止められるレベルだ。

 さすがのナギも蔑まれることに喜びを見出してはいないが……ナギの変態度を考えると、それも時間の問題な様な気がしないでもない。



************************************************************



Part.07:楽しい楽しいバスタイム


 それなりに波乱もあったが宴会は恙無く終わり、現在のナギは楽しい楽しいバスタイムを過ごしていた。

 いくらネギにフラストレーションが溜まっていたとしても、さすがに敵地の真っ只中で一緒に入浴しようなんてことは考えないだろう。
 それに、いくら公式的に婚約者に認定されたとしても、反対派が圧倒的なので木乃香と既成事実を作らせようなんて展開もないだろう。
 もちろん、木乃香の護衛である刹那が木乃香の傍を離れる訳もないので、木乃香と共に入浴しない以上 刹那と鉢合わせることもないだろう。

 そう、つまり、ナギは三日目にして遂に「フリーダムな風呂」を享受でき――ていなかったのだった。

 まぁ、既にオチは読めているだろうから、もったいぶらずにサクサク話を進めよう。
 つまり、ナギはタカミチ&詠春のオッサンズと一緒に入浴している と言うことである。
 ナギが一人で伸び伸び入浴を楽しんでいたら二人が当然のように入って来た らしい。

(って言うか、オッサン達と一緒に入浴するくらいなら、ストレスを感じようが女のコと入った方が万倍マシだわ!!)

 オッサンと肩を並べて入浴するのは銭湯や温泉じゃ当たり前のことだから、オッサンと入浴すること自体は特に問題がない。
 ただし、ナギとしては「せめて今日くらいノンビリと入浴させてくれてもいいんじゃないかなぁ」と思ってしまうのである。
 今日のナギは頑張った。慣れない戦闘もしたし、その結果 敢えて殴られたし、古狸達や赤道と胃に優しくない対面もした。
 それなのに、何で義父(となる可能性が高い存在)と裸の付き合いをせねばならないのだろうか? 非常に気疲れする状況だ。

 ナギは内心で「風呂は疲れを癒す場所であって、疲れを促進させる場所ではないのではないだろうか?」と益体もないボヤきをするのみだ。

「いやぁ、実に いい湯だねぇ。そうは思わないかい、那岐君?」
「そうですね、高畑先生。疲れなんか軽く吹っ飛びそうな温泉ですね」
「ハッハッハ。自慢の風呂を褒めてくれて、お世辞でも嬉しいよ」
「いえいえ、本心ですよ。本当に素晴らしい温泉ですよ(泉質は)」

 会話からわかるかも知れないが、最初に にこやかに話し掛け来たのがタカミチで、苦笑しながら話し掛けて来たのが詠春である。

 前述のようにナギの気分は下降気味なので、それらに対する返答が苦しいものになってしまうのは致し方が無いだろう。
 と言うか、ナギにとっては二人は現在進行形でストレスの原因になっているので、にこやかに対応しろ と言う方が無茶だ。
 むしろ、悪態を吐かないだけマシだ と言えるかも知れない。まぁ、実際は保護者と義父予定に悪態など吐ける訳がないが。

「……しかし、今回の件では随分と迷惑を掛けてしまったようだね?」

 ナギの「正直、世間話が目的なら放って置いてください」と言う雰囲気を察したのか、
 詠春は前振りなど一切せずに、本題と思わしき話題を単刀直入に切り出して来た。
 いや、もしかしたら、心構えをさせないことを目的として単刀直入に来たのかも知れない。
 実際、ナギも軽く虚を突かれた形になり「い、いえ」と肯定にしか見えない否定をしてしまった。

 まぁ、いきなり本題に入るのはナギも よく使う手なので文句は言えないだろう。

「昔から東を快く思わない輩が燻っていたのだが……実際に動いたのは少数でよかったよ」
「そうですね。大量に動かれていたら、防ぐのはもちろんとしても調査も大変ですもんね」
「まぁ、そうだね。諜報を得意とする者もいるが、ウチは諜報組織じゃないから どうしてもね」
「ですが、逆に証拠が少な過ぎて調査に行き詰っている、なんてことはないですか?」
「……さてね。だが、少なくとも今回の件で、燻っている連中の目星は付いたから充分さ」
「そうですか。ならば、これからは燻っている燃えカスの炙り出しに専念できる訳ですね?」

 僅かにしか証拠を掴めなかったのなら、その精査に注力すればいい。ただ、それだけのことだ。

「ああ、そうだね。君の言う通り、ここからが正念場だろうね。私も できる限りのことをするよ」
「そうですか。ちなみに、オレも長とは別の方向で ここからが正念場なので、オレも頑張ります」
「……それは木乃香の婚約者として、かい? 父親としては、中学生から励まれても困るんだけど?」
「いえ、違いますから。と言うか、勘違いの方向性が酷くないですか? もっと爽やかな方向にしません?」
「ハッハッハッハッハ、冗談だよ。君を快く思わない連中に負けないように、と言う意味だろう?」

 詠春は楽しそうに笑いながら「こちらも可能な限りのバックアップはするから安心したまえ」と付け加える。

 ナギの真意は「フェイトが本山を襲撃して来るので、その対応を頑張る」と言う意味だったのだが、
 当然ながら そんなことを詠春(西の長)に言える訳がないので、ナギは詠春の勘違いを敢えて正さない。
 むしろ、詠春が勘違いすることを期待してナギは発言したので、詠春の勘違いを正す訳がないのだが。

「と言う訳で、木乃香のことは よろしく頼んだよ、、那岐君」

 何が「と言う訳」なのかは極めて謎だが、詠春は下手糞なウィンクをしながら そう締め括った。
 それは、きっと「婿に娘を託した」のではなく「幼馴染に友人を守ってくれ と頼んだ」のだろう。
 そう解釈して、ナギは心の平穏(木乃香との婚約はブラフ)を維持しようとするナギは悪くない筈だ。

 既にブラフでは済まされない段階に来ているが、近右衛門なら用無しになったナギを木乃香の婚約者から降ろすに違いない と思っているらしい。


 


************************************************************


 


オマケ:その頃の変態司書 ―その1―


 麻帆良学園内、図書館島地下にある「とある司書室」にて、ローブを頭から被った男が紅茶を啜りながらニヤリと笑う。

(……さて、そろそろ『シナリオ』の転換期でしょうか?
 『ナギ君』は一体どうするつもりなんでしょうねぇ?
 彼の趣味嗜好は私の好みですから、実に楽しみですよ)

 男は、自身のアーティファクトである『イノチノシヘン』で作り出した『半生の書』を開きながら思考に耽る。

(一応、詠春に忠告はしましたが、それでもできることは限られています。
 彼一人が警戒を強めたところで、本山の結界は破られることでしょうね。
 ですから、重要となるのは『そこからナギ君が どう対処するか?』でしょう)

 そこまで考えた男は、手にしていた『半生の書』を閉じ、ニヤニヤと笑って思考を続ける。

(ああ、そう言えば、ナギ君で思い出しましたが……ココネちゃんが可愛過ぎるんですが、どうしましょうか?
 って言うか、ココネちゃんには『白スク』と『ネコ耳』を装備してもらいたいのは私だけでしょうか?
 あの褐色の肌と白スクのコントラスト、そして、ネコ目とネコ耳の相乗効果が実に溜まらんでしょうねぇ。
 ――よし。今度、それとなくナギ君に提案してみましょう。きっと、ナギ君なら賛成してくれる筈です。
 ナギ君とは『萌えの伝道者』と言う意味での同士ですからね、問題なく目的を共有できるでしょうねぇ)

 ……こうして、図書館島の地下にて、男は『変態司書』の二つ名に恥じない変態的思考を繰り広げるのだった。


 


************************************************************


 


後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。


 今回は「遂に主人公が鈍いことに気付きました」の巻です。

 主人公が自分で評している通り、彼は悪意には敏感でした。って言うか、悪意に過剰反応して生きてました。
 些細な言動から相手の思惑を読み、ある時はそれを利用し、ある時はそれを排除して生きてきたのが彼なんです。
 そのため、善意や好意には無頓着であり、好意を向けられているとは認識できても、それがどんな好意かはわかっていませんでした。
 つまり、親切心も友情も恋愛感情もすべて『好意』として一括りで判断して来たんです。つまり、単なるバカヤロウです。
 まぁ、だから、向けられる感情が『真っ直ぐ』か『歪んでいる』かだけで対応を変えちゃうって癖があったんですけどね。

 そんな訳で、彼は各ヒロイン達に好意を向けられているとはわかっていますが、恋愛的なものかどうかは判断保留しています。

 って感じで、こじつけ臭く『鈍い』ことの説明をしてみましたが、これからは改善していくと思います。
 刹那の指摘の御蔭でもありますが、もう一人の彼――那岐君の影響の方が強いでしょうね。
 最近、彼等の区別が曖昧になってきてますので、そのうちナチュラルに同化しちゃう気がします。

 あ、変態司書については、そのうち本編で あきらかにしていく予定です。

 まぁ、正体についてはバレバレでしょうから、敢えて語るまでもないでしょうけど。
 ですが、正体以外が謎だらけですからね、そこら辺をうまく書けたらなぁと思います。
 って言うか、どう考えても『変態司書』って「二つ名」じゃなくて「俗称」ですよね……

 最後に、今回の黒幕として登場した赤道さんですけど、言うまでもなくオリキャラです。

 って言うか、千草が単独で出し抜けるほど西はダメじゃないだうなぁって思ったので、
 西の中枢に黒幕でもいないと説得力が無いだろうって安直な理由で作られた存在です。
 なので、名前も『青山 詠春』からの発想で『赤道 英俊』となった訳です。安直です。
 あ、「山だから川じゃないの?」って思ったでしょうが、タカミチと語感が似てたので道にしました。
 まぁ、千草を操るだけでなく、彼の取り込みにも余念が無いので、性格は安直ではないですが。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2010/7/4(以後 修正・改訂)


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.036004066467285