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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:552b4601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/10 20:50
第12話:オレの記憶を消さないで



Part.00:イントロダクション


 引き続き、4月8日(火)。

 始業式にしてナギがあやかに拉致られた日であり、
 ナギがエヴァイベントに巻き込まれた日でもあった。



************************************************************



Part.01:覚悟完了……の意味なし


 エヴァが不敵に勝ち誇りながらも内心で焦っていた頃、実はナギも焦っていた。

 何故なら、ナギの現状を第三書の立場で見たら「全裸の幼女と全裸の男が女子中学校の屋上にいる」と言う構図だからだ。
 言うまでもなく、どこからどう見ても変態である。と言うか、軽く犯罪レベルだ。間違いなく猥褻物陳列罪に値するだろう。
 誰かに見られたら、問答無用で通報され → 問答無用でタイーホされ → 問答無用で塀の中へブチ込まれる に違いない。

 今回に限って、ナギは100%被害者である。拉致られたうえに剥かれてしまった哀れな子羊でしかない。

 だが、それでも世間は そう見てくれない。幼女を人気のない場所に連れ込んで全裸に剥いたうえで全裸になった と解釈される筈だ。
 この時、ナギは冤罪で捕まった人間の気持ちが よくわかった。みんな「それでもオレはやっていない」と思っているのだろう と。
 状況証拠と言う名の思い込みによって外堀が埋められ、自白と言う名の虚偽の供述を迫られ、冤罪はデッチ上げられるに違いない と。

(いや、落ち着け、オレ。それはそれで問題だが、今の問題はそこじゃない。今の問題は『ネギが丸腰』と言うことだ)

 先程までのトンデモ バトルで「もしかしたら魔法はないのかも知れない」と言うナギの淡い期待は脆くも崩れ去った。
 残念ながら魔法はあるのだ。と言うか、絶賛 巻き込まれ中だ。全裸も充分に問題だが、魔法の方が重要な問題だろう。
 いや、正確には魔法バトルの最中にネギが全裸にされてしまったことが問題なのだ。これでは、魔法が使えないではないか。

(痛いのや苦しいのは嫌いだからバトルなんか願い下げだけど……このまま何もしない訳にもいかない)

 このままでは、赤髪幼女(しかも全裸)が金髪幼女に一方的に嬲られるのは火を見るよりも明らかだ。
 それを黙って見ているなんてナギにはできない(若干、その背徳的な情景を見たいとは思うが我慢する)。
 それ故にナギは決意した。自身が囮になって時間を稼ぎ、その隙にネギに武装を取り戻してもらおう と。
 魔法の使えないネギはただの幼女でしかないが、魔法を使えればネギは魔法幼女になれるのだから。

(と言う訳で、覚悟は完了だ。あとは実行に移すだけ、だ)

 某海賊漫画に出て来る嘘マスターさんの如く、平穏な日々と決別する覚悟をナギはした。
 だから、ナギはネギに「オレが囮になるぐから、その間に武装しろ」的なアイコンタクトを送り、
 表現が非常にアレだが、注意を自分に向けるために金髪幼女に襲い掛ろうとした……のだが、

「ひどいです!! マスター!!」

 タイミングよく(全裸に剥かれた)茶々丸が「ピュゥゥン!!」と言う快音を立ててエヴァに砲撃したのである。
 まぁ、正確には砲撃ではなく、空中に弾き飛ばされた耳飾が自立飛行してレーザー的な何かを射出したのだが。
 呆然としながらも「それなんてファネンル?」と内心でツッコんだナギは、ある意味で賞賛すべきかも知れない。

(いや、そうじゃないな。大切なのは、オレの覚悟が無駄に終わってしまったってことだよ、うん)

 せっかく覚悟を決めてバトルに参加しようとしたのに出鼻を挫かれたのだ。少しくらいは嘆いても罰は当たるまい。
 だが「金髪幼女に襲い掛かる全裸の変態」が生まれなかったことを考えると、これはこれでよかったのではないだろうか?
 エヴァは服を着ているのにナギは全裸だったので、どこからどう見ても絵的にヤバい。と言うか、普通にヤバ過ぎる。
 全裸の幼女に飛び掛るよりはマシかも知れないが、全裸の男が幼女に飛び掛るだけで充分にヤバいので、ヤバいのは変わらない。

(それに、エヴァって『障壁』と言う名のA.T.フィールド的なモノを常時展開している筈だからなぁ)

 あのままナギが飛び掛っていたら「ガラスにへばり付いた蛙」のようなオブジェが出来上がっていたことだろう。実にヤバい。
 某明日菜のように完全魔法無効化能力があれば違う結果になっていただろうが、そんな訳はない とナギは悟っている。
 つまり、覚悟は台無しにされたものの暴走(と言うか自爆)を止めてくれたことにもなるので、茶々丸には感謝すべきなのだ。

「な、何をする、茶々m――へぶぅう!!」

 ナギがコッソリと茶々丸に感謝している一方で、エヴァと茶々丸の仁義なき争いは続いていたようだ。
 恐らく、エヴァの『障壁』は先程のファンネルもどきの一斉射で壊れていたのだろう。
 茶々丸の発射した有線式ロケットパンチは何の障害もなく「ズドゴォォン!!」とエヴァを殴打した。

「と、殿方の前で全裸にするなんて……あんまりです!!」

 茶々丸は薄っすらと涙(レンズ洗浄液)を浮かべながら乙女チックなことを言っているが、乙女チックなのはセリフだけだ。
 その拳は怒涛の連打をエヴァに打ち込んでいるため、最早 照れ隠し と言うレベルを遥かに超越している光景だ。
 最初は羞恥で真っ赤になっていたネギの頬がいつの間にか真っ青になっているのが いい証拠だ。乙女チックな訳がない。

(エヴァの回復力が異常だから怪我で済んでいるけど……これ、常人ならミンチになっていてもおかしくないなぁ)

 それだけ『真祖の吸血鬼』の回復力は伊達ではない と言うことだろう。軽くホラーだ。。
 だが、それは茶々丸も心得ているようで、気が付けば攻めは打撃から絞技に移行していた。
 いくら怪我が回復したとしても、意識を失わない訳ではない。つまり、そう言うことだ。

 まぁ、そんな訳で茶々丸の熾烈な攻撃はエヴァの意識が旅立ったところで終了したのである。

 そして、茶々丸は動かなくなったエヴァから無造作に剥ぎ取ったマントを羽織って その裸体を隠し、髪を軽く掻き揚げて身繕いを整えると、
 深々と頭を下げて「この度は誠に申し訳ありませんでした。謝罪は後日改めて行いますので、今宵はここで失礼させていただきます」と謝罪を述べ、
 猫を持つかの様にエヴァを掴んで夜の闇に消えて行った。一連の所作は実に優雅だったが、先の惨劇を考えると優雅だからこそ逆に恐ろしい。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

 以上の様な異常としか言えない経緯で、エヴァ戦は終わった。

 とは言っても、今回の戦闘が終わっただけで、根本的な解決にはなっていないが。
 何故なら、エヴァがネギを狙った理由そのものは何も解決していないからだ。
 つまり、このままの状態では これからもバトルは起こり得る と見るべきだろう。

(と言うことは、エヴァがネギを狙う動機を解消しなければならない と言うことだろうね)

 原作の通りなら、エヴァは英雄様に掛けられた『登校地獄』の『解呪』のためにネギの血を欲している と見ていいだろう。
 だが、それはあくまでも原作の話だ。『ここ』も原作と同じ事情であるとは限らない(同じである可能性は非常に高いが)。
 思い込みは危険だ。自分の首を絞め兼ねない。多少 遠回りになっても、慎重に情報を集めてから判断 及び行動をするべきだろう。

「え、え~~と……とりあえず、服を作りますので、ちょっと待っててください」

 どうやら、ナギが これからの行動について検討している間に、呆然としていたネギが我に返ったようで、
 弾き飛ばされた杖を『杖よ』で呼び寄せると、何やら詠唱して『風花・武装構築』とか言う魔法を発動させた。
 恐らく『風花・武装解除』とは逆の魔法なのだろう。花弁が集まって布になり、無地のローブが出来上がった。

(うん、まぁ、常識的に考えたら、猥褻物陳列罪にならないように『武装解除』された後の対策はあるよねぇ)

 まぁ、ローブの下は裸なので警察に職務質問をされたら言い逃れはできないが……とりあえず全裸よりはマシだろう。
 何故なら、これで「第三者に見られたら一発で変態として認定されてしまう危機的な状況」から脱したことになるからだ。
 いや、ナギが変態なのは事実なので、既に手遅れかも知れないが。それでも、最悪の状態から脱したのは確かだ。

(さて、全裸問題が片付いたところで、残る問題である『魔法バレ』はどうしたもんかねぇ?)

 バトルやら全裸やらで すっかり忘れていたが、現在は一般人であるナギに魔法がバレてしまった状態だ。
 ナギは「『ここ』と原作とでは差異がある」と想定しているが、魔法に秘匿義務がない と言う妄想はしていない。
 マニュアル的な対応だと、魔法の秘匿のためにナギの記憶は消されるだろう。ナギの意思など お構い無しに。

「あ、あの、信じてもらえないかも知れませんけど……実はボク、魔法使いだったんです!!」

 恐らくだが、魔法の説明をするために まずは己が魔法使いであることをカミングアウトしたのだろう。
 つまり、ネギには問答無用で記憶を消去する気はないようだ。そのことに、ナギは少しだけ安堵する。
 さすがに原作冒頭での明日菜に対する措置と同じ扱いを受けるとは考えていないが、それでも不安はあった らしい。

「……まぁ、そりゃそうだろうな」

 ナギはアッサリとネギの言葉を受け入れる。ここで「な、何だってーー?!」とか驚いてもいいのだが、
 あれだけ派手なドンパチを見ているのだから、納得して置く方がいいだろう。その方が話がスムーズだ。
 驚いた方が「魔法なんて知らなかった」と言うアピールにはなるが、そんなアピールは ここでは必要ない。

 ちなみに、ネギとしては思い切ったカミングアウトだったようで、ナギの薄い反応に「あれ?」と拍子抜けしていた。

「え? そんなにアッサリ信じちゃっていいんですか?」
「いや、あんなん見せられたら信じざるを得ないだろ?」
「そ、そうですよね。思いっ切り魔法使ってましたもんね」

 ネギは冷静になったのだろう。先程の暴走を今更ながらに悔いているようだった。

 状況が状況(ナギの救出が最優先)だったので仕方がない側面もあったが、あの時のネギに落ち度があったのも確かだ。
 結果論だが、奇襲を掛ける前にもっとエヴァと会話していれば、ナギに魔法を知らせないようにすることは可能だった。
 舞台裏を知らなくても、ナギが一般人であることをエヴァに伝えて魔法の秘匿に協力してもらうくらいはすべだったのだ。

「それでは、魔法が実在していると言う共通認識があるものとして、本題に移らせていただきます」

 反省すべきミスだったが、だからと言って いつまでも気にしている訳にはいかない。
 ネギは気持ちを切り替えるためにも、軽く居住まいを正し、本題を切り出す。

「実は、魔法には秘匿の義務がありまして、魔法を知られた場合は記憶を消去する必要があるんです。
 ですから、とても申し訳ないんですけど……さっきの戦闘とかの記憶を消させていただけないでしょうか?
 もちろん、健康上に害はありません。ちょっとだけオバカさんになっちゃうかも知れませんけど、大丈夫です」

 ネギの切り出した本題はナギの想定通りのものだった。そのため、ナギは大して驚かない。

 まぁ、少しだけ「オバカになるかも知れない と言うリスクを『大丈夫です』の一言で済ますな」とは思ったようだが。
 それでも、ナギは軽く内心でツッコむだけに抑え、平静を保つ。何故なら、ここからがナギの『腕の見せ所』だからだ。
 ここからの言動次第で、ナギは「記憶を消去されてしまう」と言う確定的な未来(むしろ運命)を変えられるのだから。



************************************************************



Part.02:魔法を秘匿する意味


「あ~~、ちょっと待ってくれ。記憶を消される前に確認して置きたいんだが……どうして記憶を消すんだ?」

 気を引き締めたナギは、ネギに問い掛ける。それは、ナギが予てから感じていた疑問。解消して置きたい疑問だ。
 そもそも、記憶を消されることを想定していたナギだが、だからと言って記憶を消されることに納得している訳ではない。
 ナギとしては「知られたので消すって、お前らは どこのマフィアだよ?」と言う気分であり、納得できていないのだ。

 まぁ、魔法使いもマフィアも似たようなものなので、命を消されないだけマシな気がしないでもないが。

(守秘義務があるのはわかっている。だけど、だからって黙って消されてやる程オレはあきらめがいい訳じゃない。
 って言うか、理由もわからずに消されるなんてイヤだ。そんな想いすら忘れてしまうとしても、イヤなものはイヤだ。
 自分でも我侭だとは思うけど……相手が我侭を押し付けてるんだから、これくらいの我侭は許されるだろう?
 いや、そもそも許される許されないの問題じゃないな。要は我侭の押し付け合いなんだから、どっちもどっちだ)

 ネギが放った言葉は「確認の形を取った強制」でしかないとナギもわかっている。だが、それでもナギは納得したいのだ。

「えっと、さっきお話しした通り、秘匿の義務があるからです」
「いや、それはわかってるよ? つまるところ、守秘義務だろ?」
「まぁ、そうなりますね。それに何か問題があるんですか?」
「そうじゃないよ。オレが訊きたいのは『義務の理由』だよ」
「ほぇ? えっと……それって一体どう言うことなんですか?」
「平たく言うと『何で魔法を秘匿するんだ?』ってことだよ」

 いつもならナギの言いたいことを瞬時に察するネギだが、魔法関連のことは固定観念に凝り固まっているのだろう。なかなか察してくれない。

(恐らくは「魔法と密接に繋がっている『裏の世界』に巻き込まないようにするため」とか言う尤もらしい理由なのだろう。
 少しばかり魔法使い達のエゴが鬱陶しいとは思うが、知らないことで平穏に過ごせるってことは多いから納得はできる。
 まぁ、知られたら消す と言うルールは どうかと思うけど……それでも、消すのは命ではなく記憶なので『まだマシ』だ)

 ナギには それなりの理由が予想できている。それでも、ネギに理由を訊ねたのは「ネギが理由を理解しているのか」を知りたいからだ。

 何故なら、ナギをナギ足らしめているものは『ナギとしての記憶』だけだからだ。
 肉体は那岐のものなので、『ナギとしての記憶』が無ければナギは那岐でしかない。
 それ故に、ナギにとって「記憶を消す」と言う行為は非常に重いものなのである。

 そう、ナギは理由を理解してもいないのに消されたくないので、ネギが理由を理解しているのか否か確かめたいのだ。

「あれ? え~~と……あれ? そう言えば、何で守秘義務があるんでしょうか? ボク、考えたことなかったです」
「え? 知らないの? さすがに、理由も知らないのに記憶を消すのは どうかと思うよ? いや、マジで」
「す、すみません!! ボク、今まで『義務だから』の一言で片付けてて、そこで思考停止してました!!」
「あ~~、別に謝らなくてもいいさ。要は、記憶を消すことに『それなりの責任』を持ってもらいたいだけだから」

 さすがに、これはナギにも想定外だった。ネギは理由を理解していないどころか、知ってすらいなかった。

 そもそも、ナギは「記憶を消さないで欲しい」と乞う気などなかった。記憶を消されたくはないが、仕方がないとも思っているのだ。
 何故なら、魔法関係(危険)に巻き込まれるよりは記憶を消された方がマシだからだ。記憶も大切だが、安全の方が大切だからだ。
 むしろ、ネギの全裸を見た件を有耶無耶にできる可能性が高いことも考えると、是非とも消して欲しい と考えている可能性が高いくらいだ。

 ナギはただ単に軽はずみに記憶を消して欲しくない――記憶を消す と言う行為の意味を十全に考えたうえで行って欲しいだけなのだ。

 人間の一部を切り取ってしまうのだから、記憶消去は外科手術と同じような行為だ。少なくともナギにとっては そうだ。
 そのため、要らない部分を切り取ること自体は問題ない。失敗して大事な部分まで切られるのは嫌だが、要らない部分なら構わない。
 ナギが問題としているのは、手術をする者に責任感がない――下手をすれば命を消し兼ねない行為だ を自覚していないことだ。

「いえ。今のボクにはナギさんの記憶を消す『資格』がありません。だから、消せません」

 だから、記憶消去が重いことであることを理解してくれれば、ナギは文句もなく記憶消去を受け入れるつもりだった。
 だが、今までの会話から何か思うことがあったようで、ネギにナギの記憶を消す気は無くなったみたいだ。
 とは言え、ナギとしては「厳粛に受け止めてくれるのならば記憶を消して欲しい」ため、ネギの気を変えなければならない。

「だけど、それが『義務』なんだろう? それならば『資格』なんていらないんじゃないか?」

 外科手術の例を利用するならば、記憶消去の魔法が使える と言うことは医師免許を持っているようなものだ。つまり、資格はある筈だ。
 それに、ネギが精神的な意味での資格を指していたとしても、これから自覚してくれればナギは構わないので、その点も問題ない。
 まぁ、研修医としての修行(見習いとしての修行)が終了していないので、資格はあってもオベ(記憶消去)は許されない と言う可能性もあるが。

「いいえ、理由もわからずに記憶を消すなんてことしちゃいけません。そう、気付いたんです」

 どうやらネギの決意は固いようだ。これでは、ナギが「消してくれ」と頼んでも無理だろう。
 ネギが記憶消去の重みを理解してくれたことは喜ぶべきことだが、今の状況は嬉しくない。
 嬉しくないが、どうしようもない。ここは、敢えてネギが理解したことに着目すべきだろう。

「……そうか。ネギがそう言うなら、オレはネギの意思を尊重するよ」

 それ故に、ナギはネギの頭を ゆっくりと撫でる。
 己の言動の意味を考えることは大切なことだからだ。
 ナギの内心はどうあれ、褒めなくてはならない。

「あ、でも、理由がわかっても、この騒動が終わるまでは記憶を消さないでくれ」

 考えてみれば、未だにエヴァとの問題は解決していない。そのため、今の状態で記憶を消されるのは非常に不味い。
 ナギを一般人だと理解させられたが、ネギと親しいとは認識されているので、今後も巻き込まれる可能性はゼロではない。
 つまり、エヴァの問題を解決しなくては、記憶を消されて「何も知らない一般人」になっても安全が確保できないのだ。

「はぅ? でも、もう終わったんじゃないですか?」

 ネギは勘違いしているようだが、根本的な原因――エヴァがネギを襲う理由をどうにかしない限り、この騒動は終わらない。
 まぁ、エヴァが弱っている時(風邪引いている時とか)を見計らって殺してしまえば とりあえずの解決にはなるのだが……
 いくら何でも幼女(ネギ)にそんなことさせたくないし、だからと言って、ナギは幼女(エヴァ)にそんなことできない。

 つまり、この騒動はエヴァがネギを襲う理由を解明し、そして解決しなければならないのだ。多少 面倒だが、仕方が無いだろう。

「いや、バトル自体は仲間割れ と言う形で終わったけど、トラブル自体は解決していない。だから、まだ騒動は続いている。
 って言うか、そもそも相手は撤退しただけで無力化できた訳じゃないんだから、リベンジの可能性は普通にあるだろ?
 しかも、その時もオレが巻き込まれないと言う保障がないんだから、騒動が終わるまでは記憶があった方がいいじゃん」

「……なるほど、わかりました!!」

 ネギは とても晴れやかな顔で頷いたが……それを見たナギは「お前、解決の糸口とか全然わかってないだろ?」と不安になる。
 と言うか、そもそも、ネギは問答無用でエヴァに攻撃したので、情報をほとんど入手できていないので自力での解決は非常に厳しい。
 奇襲自体は悪手ではなかったが、情報収集をしなかったことは悪手だった。ネギは切れ者なのだが、重要な部分が抜けているようだ。

 ここで「まぁ、だから放って置けないんだけどな」とか思ってしまったナギは もう戻れない位置にいるのかも知れない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


―― ネギの場合 ――


「あ~~、ちょっと待てくれ。記憶を消される前に確認して置きたいんだが……どうして記憶を消すんだ?」

 ボクが断腸の思いで「確認の形を取った強制」を告げると、ナギさんは改まった様子で「記憶を消す理由」を尋ねてきました。
 あれ? でも、さっき、「魔法には秘匿の義務がありますので(以下略)」ってお話しましたよね? ……どう言う意味でしょうか?
 ボクはナギさんの質問の意図がわからなかったので、首を傾げながら「何か間違ってますか?」って感じで聞いてみました。

「いや、それはわかってるよ? つまるところ、守秘義務だろ?」

 そうしたら、ナギさんは「いや、そうじゃなくて」って感じで言い直してくれました。
 しかし、それでも、ボクにはナギさんの仰っりたいことの意味がよくわかりません。
 なので、問い返しました。ナギさんの言葉を理解できないのは悔しいですけど、仕方がありません。

「平たく言うと『何で魔法を秘匿するんだ?』ってことだよ」

 ああ、なるほどぉ。って、あれ? そう言えば、「魔法は秘匿するもの」としか教わってませんね?
 ちょっと――いえ、かなりショックでした。今まで教わったことを鵜呑みにしていただけだったんですから。
 固定観念に縛られてしまうのは仕方が無いことかも知れませんが、思考停止していたのは恥ずかしいです。
 アーニャから「だからネギは優等生なのよ!!」って言われていた意味が今になってやっとわかりましたよ。
 ボクは自分が『頭でっかち』であることを認識しているつもりでいましたが、それは『つもり』でしかなかったんですね。

「え? 知らないの? さすがに、理由も知らないのに記憶を消すのは どうかと思うよ? いや、マジで」

 そして、ナギさんのどこか呆れたような呟きが、更なるショックをボクに与えました。
 きっと、ついつい漏れ出てしまったのでしょう(だからこそ、これがナギさんの本音なのだと思います)。
 ボクには謝ることしかできません。ロクに考えずに記憶を消そうとしたのは事実なんですから。

 って言うか、今更ながらに気付いたんですけど……

 ナギさんの「魔法に関する記憶」を消したら、当然ながら先程の戦闘の記憶も消えますよね?
 つまり、ナギさんがボクの全裸を見た と言う素晴らしい記憶も消えてしまう訳ですよね?
 ……そうなったら、『責任』を取ってもらおうにも「ナニイッテンノ?」って言われちゃいますよね?

 こ、これはダメです!! ダメ過ぎます!! これでは『見られ損』です!! いいこと無しです!!

 せっかく「ハッピーエンドに繋がるフラグ」が立てられたんですから、忘れてもらっちゃ困ります。
 何としてでも記憶を消さない方向に持っていって、乙女の柔肌を見た『責任』を取ってもらわなければいけません。
 あ、もちろん、この場合の責任を取る と言うは、具体的に言うと「結婚を前提にしたお付き合い」ですよ?

 え? 全裸を見られた程度で、そこまで人生を縛るのはおかしい?

 まぁ、一理ある意見ですが……ボクの幸せのために敢えて封殺させていただきます。
 それに、ナギさんはボクに全裸を見せてもいるんですから、その責任もあります。
 若干、見せたのではなくボクが見ただけって言う気がしないでもないですけど……
 こう言う場合、男性が見せたことになるのが世間の慣わしですのでボクは気にしません。
 とにかく!! 千載一遇のチャンスなんですから、このチャンスを逃す手はありません!!

「あ~~、別に謝らなくてもいいさ。要は、記憶を消すことに『それなりの責任』を持ってもらいたいだけだから」

 な、何を言ってるんですか?! ボクには責任なんて取れません!! だって、ボクは責任を取ってもらう側なんですから、責任なんて取れません!!
 って、これをこのままストレートに言う訳にはいきませんね。何故なら、既に駆け引きは始まっているからです。ボクの中で勝手に、ですけど。
 なので、資格云々の話で記憶を消さない方向に持って行きました。まぁ、我ながら「『資格』って何だろう?」とは思いますが、敢えて気にしません。

「だけど、それが『義務』なんだろう? それならば『資格』なんていらないんじゃないか?」

 ですよねー。ちょっと苦しいですよねー。でも、ボクはあきらめません。どうにか丸め込んで見せます。
 そのため、ちょっと演出過剰かなぁ とは思いましたが、俯き気味になった後に強い意思を込めてナギさんと目を合わせて言いました。
 恐らく、これでナギさんは「ネギのヤツ、ちゃんと反省して考え直そうとしてるんだなぁ」って思ってくれるに違いありません。

「……そうか。ネギがそう言うなら、オレはネギの意思を尊重するよ」

 ほぅら、大成功です♪ その証拠にナギさんがナデナデまでしてくれました♪ とっても嬉しいです。
 じゃなくて、これで この場は記憶を消さなくても済みました(根本的な解決にはなってませんが)。
 と言うか、今更ですけど、どうしてボクはさっき「記憶を消させてください」なんて言っちゃったんでしょうか?

 いえ、魔法がバレたら記憶を消す と言うのがテンプレ的な対応でしたから、しょうがないんですけど……

 でも、あそこで「バレたら大変なので秘密にしてください」ってお願いしてたら、それで解決だった気がします。
 ナギさんって口では何だかんだ言ってますけど、最終的には「情に絆されるタイプ」ですからね。
 それを思うと、問答無用で記憶を消す と言うのは、かなり失礼な対応ですよね。と言うか、有り得ないですね。
 つまり、相手がバラすかも知れない と言っているのと――相手を信じていないのと変わりませんもん。

「あ、でも、理由がわかっても、この騒動が終わるまでは記憶を消さないでくれ」

 へ? どうしてですか? って言うか、そもそも『この騒動』って何のことでしょうか?
 って、ああ、そう言えば、襲撃されたんでしたっけ。どうでもいいので忘れてましたよ。
 でも、仲間割れして終わりましたよね? 紆余曲折はありましたけど、結果オーライじゃないですか?

「いや、バトル自体は仲間割れ と言う形で終わったけど、トラブル自体は解決していない(以下略)」

 あ、そう言えばそうでしたね。アイツ等、ナギさんを拉致したんですよねぇ。
 千載一遇のチャンスを与えてくれたことには感謝しますけど、それとこれとは別です。
 ナギさんを拉致した罪はキッチリと償ってもらいましょう。いえ、むしろ、償わせましょう。
 まぁ、犯人の目星は付いていますので、学園長にタレコんで『処理』して置きましょう。
 そうすれば、ナギさんの関知しないところで『終わらせる』ことができますからね。
 後は「記憶を消さずに事を収める算段」を整えた後に終わったことにすれば万事解決です。

 ……フフフ、ボクには明るい未来が待っていますね♪



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Part.03:とりあえずはシナリオ通り


―― エヴァの場合 ――


 気が付くと、見知った天井が広がっていた。

 どうしたのだ? 確か小娘と戦っていた気がするのだが……
 ……あぁ、そうか。私は茶々丸に――って、そうだ!!

「茶々丸!! アレは どう考えても あきらかに遣り過ぎだろうが!!」

 私はベッドから飛び起きると着替えもそこそこに階段を駆け降りる。
 そして、リビングに駆け込み、編み物をしていた茶々丸に詰め寄った。
 って、編み物? 何故 春先になって編み物などをしているのだ?

「……質問を質問で返すようで恐縮ですが、マスターは他に解決策があったのですか?」

 茶々丸は編み物を中断して私を見上げると、私の怒りなど歯牙にも掛けていないように飄々と答える。
 ちなみに、茶々丸は質問の形式を取ってはいるものの「それが答えだ」と言わんばかりの態度である。
 って言うか、それを言われると何も言えんな。確かに、茶々丸に丸投げしたのは私だったからな……

「し、しかし、もう少し遣り方と言うものがあったのではないか? 少し、遣り過ぎだったとは思わんか? 特に打撃とか」

 ビームはいい。『障壁』を壊すためのものだったからな。空気を読んで、割ってやった訳だし。
 それと、最後の絞技も……まぁ、いいだろう。多少 来るものはあったが、大した問題ではない。
 問題は それらの間の打撃だ。アレは遣り過ぎだ。回復はしていたが、痛くない訳ではないのだぞ?

「マスター? あの時の私は『服を剥かれたことに激怒して主人に手を上げた従者』だったのですよ? それくらいの演出は必要でしょう?」

 まぁ、確かに演出は必要だな。演出次第では、胡散臭いことでも それなりの説得力が出るからな。
 ジジイを見ていると、それが よくわかる。あきらかに怪しい言動なのに、何故か納得できるからな。
 その意味では、遣り過ぎなくらいでないと私(真祖の吸血鬼)が倒れるだけの説得力にならんな、うん。

「……わかった。納得して置いてやろう」

 多少強引だったが「戦闘が有耶無耶になった」ことは大きい。『シナリオ』とは違うが、誤差の範囲内だ。
 当然ながら『シナリオ』の修正は余儀なくされたが、それでも許容範囲内に留まれたので上出来だろう。
 後は小娘が準備を整えたのを見計らって再戦を挑み、ギリギリのところで負けてやれば『シナリオ』の完成だ。
 尤も、そんな『シナリオ』を完遂する気など私にはないがな(最後は『私なりのアレンジ』をする予定だ)。

「さて、そうとなれば、事の顛末と今後の予定をジジイと話して置くか……」

 大方『遠見』でも使って見ていたので報告の必要はないだろうが、これからのことは話さねばならない。
 多少――いや、かなり面倒だが、シナリオに失敗してしまった手前、報告と相談はせねばならないだろう。


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―― 茶々丸の場合 ――


「茶々丸!! アレは どう考えても あきらかに遣り過ぎだろうが!!」

 いつの日かマスターに履いたいただて恥辱を味わっていただくために、
 リビングの暖炉の前でロッキンチェアーに座りつつ毛糸のパンツを編んでいると、
 扉が勢いよく開いて閉まる音の後、階段を駆け降りて来る音が聞こえました。

 考えるまでもなく、マスターがお目覚めになられた、と言うことですね。

 しかし、さすがは吸血鬼と言ったところでしょうか? 寝起きとは言え、夜なので とてもお元気です。
 まったく。朝もこれだけお元気でしたら、毎朝 起こす手間が省けますと言うのに……
 いつもは「あと5分、いや、5時間寝かせろー」とか「そもそも学校行きたくないー」とか、
 一体どこの登校拒否児でしょうか? とツッコみたくなるほど可愛らしいですからね。

 っと、マスナーの可愛さを検分するのも大事ですが、今はそのような場合ではありませんね。

 現在、マスターからは「憤懣やる方なし」と言ったオーラが立ち昇っています。ちょっと怖いです。
 これは、返答を間違えると激しくゼンマイを巻かれてしまうパターンですから、注意が必要ですね。
 ですので、私は「何か間違ったことをしましたか?」と言わんばかりの強気の態度で切り返しました。
 いや、まぁ、逆ギレとも言いますが。しかし、今回は私のファインプレーではないでしょうか?

「し、しかし、もう少し遣り方と言うものがあったのではないか? 少し、遣り過ぎだったとは思わんか? 特に打撃とか」

 まぁ、マスターの仰りたいことはわかります。わかりますが……ここは敢えて強く出ましょう。
 ここで折れてしまっては、私が悪いことになってしまいます。いえ、確かに私に非はありますが。
 ですが、仕方なかったのです。思いの他テンションが上がってしまったのですから仕方がありません。

 しかし、マスターは少しチョロ過ぎる気がするのですか? まさか、あの程度の適当な説明で納得してしまわれるとは……

 これで600歳を越えていると言うのですから、世の中は神秘に溢れていることを実感させられます。
 とは言え、身内に甘いのはいいことだとは思うのですが……もう少し疑って欲しいものです。
 このままでは、その美徳とも言える甘さで身を滅ぼすような気がしてなりません。ええ、もう、深刻に。

 これでは、いつか悪い男に騙されてしまいそうで心配です。と言うか、学園長に よく騙されてますね……

 いえ、騙されている と言うよりは、体よく使われている と言うか、掌の上で踊らされている感じですね。
 マスターにも利があることなので目を瞑っていますが、余りにも度が過ぎるようでしたら……フフフ。
 とりあえずのところは、あることないことを捏造した証拠で補強して木乃香さんに吹き込むくらいですね。

 何故なら、マスターをいじめて――ではなく、可愛がっていいのは私だけですから、ね?



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Part.04:乙女達の思惑


―― 亜子の場合 ――


 正直に言うて、ナギさんと木乃香の噂を聞いた時は、普通に信じてしもうた。
 そやかて、よくよく思い出してみると、ナギさんって木乃香には弱かったし、
 木乃香もナギさんと親しげに話しとったし、噂を信じる根拠はたくさんあったんやもん。

 ……でも、それがウチのアカンとこやって思い知らされたんや。

 ゆーなが「近右衛門がお見合いさせるのを阻止するためのブラフ」って情報をくれなかったら、
 今頃、「ウチ、告白する前からフラレてもうたんやなぁ」とか泣き寝入りしとった筈やもん。
 そう、そこで「そんなんウソや!!」って信じられへんのがウチの弱さや。
 いつも「ウチは脇役でええ」って思うてるんは、「主役になれへん」って言うあきらめや。
 言い換えるんなら、最初から戦うことをせんで負けを認めとる「負け犬根性」と変わらへん。

 そんなんじゃアカン。そんなんじゃ何も好転せえへん。

 何でやかナギさんは競争率が高いんで、何もせえへんかったら負けてまうわ。
 今回は偶々ブラフやったからよかったけど、これがホンマやったら……ウチはただの負け犬やったで。
 せやからウチは戦う!! 戦って戦って、ナギさんを勝ち取ってみせるで!!
 その結果こそが、ウチを応援してくれる まき絵・ゆーな・あきらへの恩返しやと思う。
 そう、これはウチだけの問題やあらへん。3人の分も含めた『譲れぬ戦い』なんや!!

 そんな訳で、まずは戦略を練らなな。

 い、いや、さすがにイキナリ電話して告白とかはできへんて。
 むしろ、告白するんは学園祭の世界樹の下って決めてるんや。
 だって、噂やと告白の成功率は100%らしいよってな。
 まぁ、それまでに誰ともくっつかないようにせなアカンけど。
 それに、学園祭の時に世界樹下まで呼び出すor連れて行く必要があるなぁ。

 後は、修学旅行も何らかのアプローチができたらええねんけど、ナギさんとこの行き先はハワイやって情報やしなぁ。

 あ、それと、再来週がナギさんの誕生日やったから、
 何かええプレゼントして好感度上げとくのも手やな。
 確か、「腕時計が壊れた」って言うとった気がするなぁ。

 ……何はともあれ、学園祭に向けて頑張るで!!


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―― のどか の場合 ――


 言うまでもないでしょうけど……私にとっては、ナギさんと木乃香さんの噂は「別に」って感じでした。

 だって、私、ナギさんの動向は常に監視――じゃなくて、チェックしてますからね。
 ナギさんに特定の女性の影がないことなんて、私にとっては常識レベルのことですよ。
 まぁ、ネギちゃんが纏わり付いているようですけど、妹ポジションですから問題ないです。

 ちなみに、最近いいんちょさんのところの黒服さん達がコソコソしてますけど……まだまだ甘いと思います。

 部屋の周囲から様子を窺うだけなら、ネギちゃんにだってできます(実際、偶にしてますし)。
 ここは、プロらしく盗聴や盗撮をして私生活をもっと暴く――もとい、見守るべきでしょう。
 おかげで漁夫の利(黒服さん達の情報を不正共有する)を狙っている私としては、少々物足りません。
 それに、この際だから言わせていただきますが、来客だけチェックするのでは甘い と思います。
 せめて通話相手や配送物の差出人(できれば荷物の種別も)のチェックくらいはすべきでしょうね。

 あ、もちろん、私は電話会社の方と配達の方に『ちょっと協力』していただいてますよ?

 まぁ、本来ならば、個人情報保護法や社内規定とかで顧客の個人情報を流出したら大変なことになるんでしょうけど……
 流している本人は既に前科を持っていたり、他に後ろ暗いところがあったりするので、大して問題じゃありません。
 むしろ、そう言った方を野放しにしている企業の方に問題があるじゃないでしょうか? (まぁ、素人考えですけど)

 え? 脅迫……ですか?

 脅迫なんてしてませんよ? 私は単に『お願い』しただけですもん。
 まぁ、相手の方が『それ』を「どのように受け取ったか」はわかりませんけど。
 でも、十人十色と言いますから、人によって受け取り方は千差万別ですよね?

 ……さて、この様にナギさんの生活を見守っている訳ですが、そんな私が現在最も警戒しているのは絡繰さんだったりします。

 と言うのも、今日の夕方ぐらいに絡繰さんはナギさんの家に不正侵入をしたのですが、
 ナギさんが帰宅すると同時に絡繰さんもナギさんもロストして(見失って)しまったのです。
 絡繰さんもナギさんも部屋に入ったのは確かなのに、出た形跡がなく部屋には誰もいないんです。
 ドアにも窓にも監視カメラはありますし、部屋の周囲には黒服さん達が待機していますので、
 普通に出たのでは必ず補足されますから「何らかの特殊な方法」で脱出したものと思われます。

 しかし、問題はロストした原因よりも、ロストした理由です。

 私の見たところでは、ナギさんと絡繰さんには接触はありませんので、二人が恋仲である可能性はないでしょう。
 ですが、接触など無くても人は人に好意を抱けます。むしろ、接触が無い方が燃え上がる可能性もあります。
 ですから、絡繰さんが一方的に思いを募らせ、そして、思い詰めた挙句に『事』に及んだ可能性がないとは言えません。

 そのため、お二人をロストした当初は警察に連絡しようと本気で考えました。

 ですが、警察がナギさんの周囲を調べたりすると私的に色々と不都合な事情があるため、
 手近な捜査手段として黒服さん達を動かすことにしました(私が直接動くよりも効率的ですからね)。
 ちなみに、黒服さん達を「どうやって動かしたか?」については……まぁ、ご想像にお任せします。
 ただ、黒服さん達が監視していたのにナギさんが部屋にいない と言うことはそれとなく伝えましたけどね?
 当然ながら、監視対象をロストするなんて職務怠慢ですから、必死になって捜査していただけましたよ?

 で、捜査結果ですが……捜査開始から2時間程で寮の近くを一人で歩いているナギさんが発見されました。

 捜査開始までの時間を含めると、ロストしていた時間は約3時間。
 その間どこにいたのか? そして、何があったのか? は定かではありません。
 ですが、ナギさんの服装が制服から私服に変わっていたのが非常に怪しいです。
 だって、仮に『事』に及んだとしても、3時間は充分な時間ですからね。
 ナギさんが着替えていると言う事実が、より信憑性を持たせています……

 ……とりあえず、私も『既成事実』が欲しい段階に来ている と言うことですね?



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Part.05:雪広あやかの疑惑


 那岐さんが帰宅した後、ここ一週間の間に提出された報告書を読んでいたのですが……ふと疑問を持ちました。

 この一週間、那岐さんは月曜以外はアルジャーノンと言う喫茶店で調理のアルバイトをしており、
 彼の料理が目当てだと思われる お客様が殺到したそうで、とても忙しい毎日を送っていたようです。

 ですが、私の知っている那岐さんは不器用な方ですので、料理などできません。

 まぁ、私と那岐さんは中学校に上がってからは疎遠になってしまいましたので、断言はできませんが。
 ですが、それでも、たった2年で「あの絶望的とも言える調理能力」が改善されたとは思えません。
 仮にアルバイトのために覚える必要があったとしても、那岐さんならば別のアルバイトをすることを選択する筈です。
 とは言っても、私が那岐さんの性格や能力などを見誤っていたとしたら、私の勘違いでしかないのですが。
 ですが、最近の私に対する那岐さんの態度も併せて考えてみますと、言葉にしづらい妙な違和感が残るのです。

 ……そもそも、ホワイトデーの頃から違和感はありました。

 去年までの那岐さんならば、差出人不明ですが、キチンとホワイトデーは返してくれました。
 不器用なので自身で作ったのがバレバレなクッキーを安物と偽って贈ってくれましたわ。
 ですが、今年は何もありませんでしたし、そのうえ他の女性達にはプレゼントを贈っていたのです。
 まぁ、正直に申し上げますと、そのことを知った時の私の怒りは計り知れませんでした。
 重要視されていないのは致し方ないことですが、それでも蔑ろにされるのは耐え難きことです。

 また、終業式の時に まったくの無反応だったのも気になります。

 確かに大勢がいましたから照れてしまった と言う可能性もあります。
 ですが、久々に会ったと言うのに まったくの無反応はおかしいです。
 余りにも無反応だったので、ついつい睨み付けてしまったくらいですわ。

 それに、『妹』に関しても無反応なのが気になりますね。

 毎年『妹の命日』には連絡をくれていましたのに、今年は何もありませんでした。
 しかも、今日の態度を見る限り、そのことに対して何も感じていないようでしたわ。
 せめて「連絡するの忘れててゴメン」くらい言っていただければ違いますのに……

 そして、極め付けは……私に対する『呼称』です。

 この前――ネギさんの誕生日の時に「いいんちょさん」と呼ばれたことにムッと来ましたが、
 ネギさんと木乃香さんの手前でしたので照れているのだろう と、後になって反省したくらいです。

 それなのに、今日は久々に二人きりで会ったと言うのに「あやか」と呼んでくれなかったのです!!

 ま、まぁ、お互い思春期ですから、昔通りの呼称は恥ずかしかったのかも知れません。
 知れませんが、彼は私以外の女性達には『名前』を『呼び捨て』にしています。実に奇妙です。
 私だけ『名前』で呼ぶのが恥ずかしくて『苗字』で呼ぶなんてこと、あるのでしょうか?

 ……これでは、私だけを『他人』として扱っているようなものではないですか?

 それは我慢できませんし、許せないことです。そして、それと同時に「何故?」と疑問に思うのです。
 何故なら「私が他人になった」と言うよりも「彼が他人になった」と言う方がシックリ来るからです。
 不器用な筈の彼がアルバイトで料理をする不思議。そして、旧交のある私を何故か他人として扱う不思議。
 まるで、『彼』がまったくの別人であるかの様な違和感。『彼』なのに『彼』ではない、不思議な感覚。
 そんなことある筈がないのですが、考えれば考える程「『彼』が別人に摩り替わっている」と考えてしまうのです。

 いえ、正確に言えば、そうとでも考えないと納得できないのでしょう。

 『彼』が私を他人として扱うなんてこと、考えてもみませんでしたから。
 『彼』を私の傍からいなくなるなんてこと、考えてもいませんでしたから。
 『彼』がいることが当たり前になっていたことに気付かなかったのですから。

 …………彼は、本当に『神蔵堂 那岐』なのでしょうか?


 


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オマケ:今日のぬらりひょん ―その3―


 時間は少し遡り、ナギが拉致された直後――ネギとエヴァの魔法バトルが始まる前のこと。

「……学園長、本当に那岐君を巻き込んでもよろしかったのですか?」
「フォッフォッフォ、構わんよ。これでネギ君のパートナー問題も解決じゃからのう」

 タカミチは近右衛門の執務机の隣で例の如く某特務機関の某副司令のようなポーズをしており、
 近右衛門は近右衛門の執務机の上で例の如く某特務機関の某髭司令のようなポーズをしている。
 ちなみに、近右衛門は「シナリオ通りじゃ」と言わんばかりに口元を歪めているので実にそれっぽい。

「ですが、結局のところ那岐君には魔法のことをバラせていないんですよ?」

 タカミチとしては、図書館島での課題で『ナギには』バラして置く予定だった。
 だが、ネギが魔法を使わずに課題を突破したので、未だにバラせていなかった。
 そのため、魔法のことを何も知らずにエヴァ戦に突入することになってしまったのだ。

 タカミチが憤るのも頷ける。と言うか、近右衛門が飄々とし過ぎているのが納得いかない。

「確かにそうじゃが……那岐君はフレキシブルな性格をしておるようじゃから、まぁ、何とかなるじゃろ?」
「ですが、那岐君が何も知らない一般人であることは変わりません。戦闘に巻き込むのはいただけません」
「しかしのぅ、那岐君は『魔法など認めん!!』とか言って『場』を掻き乱すようなことはせんぞ?」
「そう言う問題ではありません。そもそも、今回の課題の『趣旨』は別のところにあったのではないですか?」

 事前に知らせられなかったのはツラいが、『シナリオ』には些細な影響でしかない。そう判断する近右衛門。
 しかし、『本国』から与えられた課題は「エヴァを利用してのネギの実践訓練」でしかない。そうタカミチは反論する。

「じゃが、いずれは『パートナーの重要性を理解させること』も必要じゃったじゃろ?」
「確かに仰る通りです。ですが、その遣り方に問題があったようにしか感じられません」
「じゃが、那岐君をネギ君のパートナーにするのは君も賛成しておったじゃろ?」
「……ですが、仕組まれているとは言え戦場ですから、何も知らせずに放り込むのは遣り過ぎです」

 近右衛門は「仕方がなかった」と言い訳をしているが、今回の課題に『内容』を盛り込み過ぎたのは事実である。

 だが、タカミチはその点には気付かずに「巻き込んだ事実」から「巻き込んだ方法」に話題をスライドさせて近右衛門を責める。
 タカミチの着眼点そのものは悪くなかったが、近右衛門を責め立てるには手札が足らなかったようだ。近右衛門は内心で苦笑する。

「それでも、大丈夫じゃよ。エヴァとは『那岐君は無事に解放する』ように『契約』しておるからのぅ」
「……ですが、そのように『契約』しているのなら、解放した後の無事は保障されていまさせんよね?」
「心配性じゃのぅ。那岐君には『アレ』があるんじゃから、よっぽどのことがない限り怪我一つせんって」
「ええ、確かに仰る通りですね。ですが、アレは肉弾戦などの物理的なダメージには無意味でしょう?」
「確かにそうじゃが……ネギ君にとっては『初の実戦』じゃから、せいぜいが魔法の撃ち合いじゃろ?」
「まぁ、そうですね。確かに、仰る通りです。その意味では、今回はボクの杞憂に過ぎないかも知れませんね」
「フォッフォッフォ、すべては計画通りじゃ。後は、エヴァが『シナリオ』通りにやってくれればオールOKじゃ」

 近右衛門はタカミチが納得したのを見て不敵に笑い、その胸中で黒いことを考えては更に不敵に笑うのであった。

(それに、那岐君は義侠心が強いからのぅ、ネギ君がピンチになれば恐らく身を挺して庇うじゃろうて。
 そうなれば、いくら頭の固い魔法先生達でも、那岐君をネギ君のパートナーと認めざるを得ない筈じゃ。
 後は、エヴァとの『再戦』までに仮契約を済ませれば「ネギ君と共にエヴァを倒したこと」にできるじゃろう。
 ……完璧じゃ!! これでネギ君には『実戦経験』を与えられ、那岐君には『裏』のネームバリューを与えられる!!)

 まぁ、当然ながら、その思惑はネギの奮闘と茶々丸の乙女回路によってアッサリと崩れ去ることになるのだが、今の近右衛門には知る由は無い。




 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。


 今回は「記憶を消す云々の話と見せ掛けて、ネギ・茶々丸・のどか の黒さを書いてみた」の巻でした。

 え~~と、戦闘の終了があんなんになってしまったのは、皆さんの期待を裏切ってしまったでしょうか?
 でも、この作品では、戦闘はオマケみたいなものなので、あんな感じで ご容赦願います。
 これからも、シリアスな展開が続いたら、いつの間にかコメディになっていくような流れだと思います。

 あ、記憶を消す云々に関してですけど、ボクは「魔法使い」を否定する気はありません。

 ただ、初期のネギは余りにも行動に対して責任感が薄い気がしたので、こんな感じになりました。
 だって、秘匿義務と言う免罪符で相手の記憶を消しちゃうのは、かなり傍若無人もいいところじゃないですか?
 それが「相手を守るため」であったとしても、問答無用で記憶を消すのは「ちょっとなぁ」と思います。

 最後に、エヴァと茶々丸のキャラ崩壊についてですけど……これはこれで いい感じの主従関係なのではないか と思って置きます。


 ……では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2009/09/25(以後 修正・改訂)


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