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No.9513の一覧
[0] Greed Island Cross-Counter(続編・現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:24)
[1] Greed Island Cross-Counter 01[寛喜堂 秀介](2009/06/12 21:55)
[2] Greed Island Cross-Counter 02[寛喜堂 秀介](2009/06/14 00:33)
[3] Greed Island Cross-Counter 03[寛喜堂 秀介](2009/06/15 00:23)
[4] Greed Island Cross-Counter 04[寛喜堂 秀介](2009/06/16 22:36)
[5] Greed Island Cross-Counter 05[寛喜堂 秀介](2009/06/18 20:39)
[6] Greed Island Cross-Counter 06[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[7] Greed Island Cross-Counter 07[寛喜堂 秀介](2009/06/24 22:34)
[8] Greed Island Cross-Counter 08[寛喜堂 秀介](2009/06/27 19:57)
[9] Greed Island Cross-Counter 09[寛喜堂 秀介](2009/07/01 00:11)
[10] Greed Island Cross-Counter 10[寛喜堂 秀介](2009/07/04 21:14)
[11] Greed Island Cross-Counter 11[寛喜堂 秀介](2009/07/07 22:38)
[12] Greed Island Cross-Counter 12[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:32)
[13] Greed Island Cross-Counter 13[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:31)
[14] Greed Island Cross-Counter 14[寛喜堂 秀介](2009/07/20 22:05)
[15] Greed Island Cross-Counter 15[寛喜堂 秀介](2009/07/25 00:28)
[16] Greed Island Cross-Counter 16[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[17] Greed Island Cross-Counter 17[寛喜堂 秀介](2009/08/02 01:13)
[18] Greed Island Cross-Counter 18[寛喜堂 秀介](2009/08/12 01:05)
[19] Greed Island Cross-Counter 19[寛喜堂 秀介](2009/08/19 23:14)
[20] Greed Island Cross-Counter 20[寛喜堂 秀介](2009/08/24 23:31)
[21] Greed Island Cross-Counter 21[寛喜堂 秀介](2009/08/27 07:22)
[22] Greed Island Cross-Counter 22[寛喜堂 秀介](2009/09/03 07:05)
[23] Greed Island Cross-Counter 23[寛喜堂 秀介](2009/09/09 21:00)
[24] Greed Island Cross-Counter 24[寛喜堂 秀介](2009/09/19 13:36)
[25] Greed Island Cross-Counter 25[寛喜堂 秀介](2009/09/24 20:59)
[26] Greed Island Cross-Counter 26[寛喜堂 秀介](2009/10/02 17:16)
[27] Greed Island Cross-Counter 27[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:09)
[28] Greed Island Cross-Counter 28[寛喜堂 秀介](2009/10/20 20:41)
[29] Greed Island Cross-Counter 29[寛喜堂 秀介](2009/10/17 07:33)
[30] Greed Island Cross-Counter 30[寛喜堂 秀介](2009/10/16 22:33)
[31] Greed Island Cross-Counter 31[寛喜堂 秀介](2009/11/10 01:20)
[32] Greed Island Cross‐Counter 32[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:06)
[33] Greed Island Cross-Counter 33[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:37)
[34] Greed Island Cross-Counter 34[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:38)
[35] Greed Island Cross-Counter 35[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:34)
[36] 登場人物(ネタバレ含む)[寛喜堂 秀介](2010/08/18 21:09)
[38] Greed Island Cross-Counter 36[寛喜堂 秀介](2010/08/18 20:53)
[39] Greed Island Cross-Counter 37[寛喜堂 秀介](2010/08/20 22:51)
[40] Greed Island Cross-Counter 38[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:29)
[41] Greed Island Cross-Counter 39[寛喜堂 秀介](2010/08/25 01:31)
[42] Greed Island Cross-Counter 40[寛喜堂 秀介](2010/08/27 06:41)
[43] Greed Island Cross-Counter 41[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:33)
[44] Greed Island Cross-Counter 42[寛喜堂 秀介](2010/08/30 23:30)
[45] Greed Island Cross-Counter 43[寛喜堂 秀介](2010/09/05 21:23)
[46] Greed Island Cross-Counter 44[寛喜堂 秀介](2010/09/09 23:08)
[47] Greed Island Cross-Counter 45[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:36)
[48] Greed Island Cross-Counter 46[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:38)
[49] Greed Island Cross-Counter 47[寛喜堂 秀介](2010/09/21 01:33)
[50] Greed Island Cross-Counter 48[寛喜堂 秀介](2010/09/26 02:43)
[51] Greed Island Cross-Counter 49(完)[寛喜堂 秀介](2010/09/28 22:31)
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[9513] Greed Island Cross-Counter 47
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:364f7003 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/21 01:33

 ユウは言った。


「これは俺たちの問題なんだ」


 対してゴンは言った。


「カイトを助けるのは、俺たちの問題だったよ」


 でも、みんな助けてくれた。
 ゴンはまっすぐにユウを見つめて言う。


「――つぎは俺たちの番だ」


 ゴンたちの物語に交わるのではなく。
 ゴンたちが、彼らの物語に、自ら交わる。

 だからこれは、そんな話。








 王宮、会議室。
 赤く染まったカードの端をぺろりと舐めて、血染めの道化師はくつくつと笑う。
 傍らでは虹色髪の幼い少女、ライがあっけにとられたように、ぽかんと口をあけている。


「なんでこんなところに」

「ちょっとツバメに運んできてもらっちゃった◆」


 ヒソカの言葉は、正確ではないが真実だ。
 NGLにおいて女王討伐時にも使った手法の応用。“4次元マンション(ハイドアンドシーク)”の出入り口を仕込んだ紙を、ツバメのキメラアントに運んでもらったのだ。


「でも、まあ派手にやられたね◆」


 ヒソカはライの体を舐めまわすように見る。
 左腕亀裂骨折。十数か所に及ぶ重度の打撲傷。擦過傷はそれ以上。


「それだけキミが強いってことだ……ねえ◆」


 そんなライを気遣うでもなく、ヒソカは嬉しげに、戦うべき獲物に目をやった。
 ヂートゥ。チーターの特徴を持つ、キメラアント師団長。発するオーラは力強く、筋肉(にく)は見るからに極上。


「へっ。試してみなよ!」


 一言、吼えて、ヂートゥが襲いかかる。
 速い。
 ヒソカは体を半身に開きながら攻撃をいなそうとして――足裏に抵抗を感じた。


「――!?」


 隙は一瞬。
 だがヂートゥの攻撃は、その間に十数発ヒソカの体に叩き込まれた。
 たまらず退がろうとして、また足裏に抵抗。膝が崩れる。動きが鈍る。

 キメラアントのさらなる追撃を封じたのは、金色に輝くリング。
 飛来したそれを避け、ヂートゥはようやく退き、ヒソカは危機を脱した。
 最低限、オーラでの防御が間に合っていたため、打撲だけで済んでいる。


「どうだい? オレの紋露戦苦(モンローウォーク)は!?」


 ――操作系、か、変化系かな?


 得意げなヂートゥを見ながら、ヒソカは考察する。
 先程感じた足裏の抵抗。足を地面から離すたびに起こる抵抗。
 それが敵の念能力だ。
 床表面を粘着質のオーラで覆う、あるいは床そのものを粘着質に変える。


 ――それか、靴に対して働きかけたか◆


「気をつけろ。見極めても対策がムズカしい、厄介な能力だぞ」


 ライが忠告する。
 たしかに。なにが厄介かといえば、敵のスピードが途方もない上に、こちらの足が殺されてしまうこと。

 いや、スピードだけではない。
 殺されるのは武術そのものだ。
 足を床から引き剥がしながらでないと移動できない。
 この状況では、体捌きの要といえる歩法が使えない。

 自然、身体能力に任せた乱暴な戦いになる。
 ぶん殴り、ぶん殴られるわかりやすい戦いの図式。
 キメラアントにそんなものを仕掛けて勝てるはずがない。

 だが。奇術師は笑う。


「ライ。ちょっとそれ借して◆」


 そう言いながら、ライのほうを振りかえる。


「それって……“鉄の処女(アイゼルネ・ユングフラウ)”のこと?」

「そう◆」


 言いながら、金のリングの端に触れる。


「なにやってんの? のんびり話してる暇なんかないんじゃない?」


 ヂートゥはひとつ跳ねると、囃したてるように言ってくる。
 そんな彼に対し、ヒソカは邪気に満ちた笑顔を崩さない。


「気づいてないのかい?」


 ただ、そう問いかけた。
 訝しげに周りを見回すヂートゥ。

 ヒソカは“陰”を解いた。
 ヒソカから伸びたオーラが、ヂートゥの両足に繋がっている。
 さらに、もう二本。こちらはライの“鉄の処女(アイゼルネ・ユングフラウ)”に繋がっている。


 ――“伸縮自在の愛(バンジーガム)”。


 ガムとゴムの性質を併せ持つ、ヒソカの念能力。
 ヒソカの手元から離れたそれは、ライのリングとヂートゥを強烈に引き合わせる。


「うわっと!?」


 ライがあわててリングを手放す。
 超スピードで飛来するリングに、さすがのヂートゥも泡を食って避ける。
 だが、躱せない。“伸縮自在の愛(バンジーガム)”が足についている時点で、必中は約束されている。

 当たり前のように。
 ヂートゥの足に、“鉄の処女(アイゼルネ・ユングフラウ)”が嵌った。
 金のリンクは発せられたオーラに等しい衝撃を内部に与える。それはオーラによってのみ相殺可能。
 結果、嵌めた部位でのオーラ運用を阻害される。


「なにをした?」


 ヂートゥが殺気の乗った言葉をぶつけてくる。


「“伸縮自在の愛(バンジーガム)”はガムとゴム、両方の性質を持つ◆ ――接触発動系の念能力は、接触部位にオーラが通っていないと発動しない。当然の話だね◆」


 言いながらヒソカは一歩、前に出た。
 足が地面にへばりつく感覚は、ない。

 ヂートゥは逃れようとして、足を取られた。
 当然だ。彼の足には“伸縮自在の愛(バンジーガム)”が、引っ付いている。
 蹴りを食らったときにつけておいたのは、一つだけではなかった。
 こちらの存在を隠すために、ヒソカはわざわざ“陰”を解いて見せたのだ。

 ヂートゥはふたたび逃れようとして、足を取られ、転んだ。
 手元から手品のようにカードを取り出しながら、奇術師は酷薄に哂う。


「ライオンくんのほうが、素質あったね◆」








 王宮、広間。
 守護者は二人。ブラン、ミナミ。ともに同胞であり、プレイヤーキラー。
 かつてアズマたちの敵手であった存在。

 対するは四人と二体。

 アズマ。黒髪仏頂面の異邦人。
 ツンデレ。金髪ツインテールの制服少女。
 そしてロリ姫。ツンデレに取り憑く幽霊幼女。

 ゴン。二ツ星ハンター、ジン・フリークスの息子にして野生児。
 キルア。暗殺者一族、ゾルディック家の麒麟児。
 そしてメレオロン。人の情と記憶を持つ、キメラアント。


「面白ぇ」


 野性味にあふれた顔に不敵な笑みを浮かべ、ブランが歯をむき出しにする。


「マジで面白ぇぞ。こんな戦いができるなんてよ」

「ブラン。何者だ?」

「面白い――強敵(あいて)だよっ!」


 訝しげに尋ねるミナミに、ブランは猛り笑いながら気を吐く。
“練”。オーラが爆発的に膨れ上がった。

 ブランたちを知らない三人の顔色が変わった。
 無理もない。ふたりのオーラ量は、それぞれ融合体であったときのそれ。
 この時点のゴンやキルアなどより、はるかに上だ。むろん、アズマたちもさして変わらない。


 ――連携されたら、数で押してもどうにもならない。


 それを最も感じているのはアズマだ。
 なら、どうすればいいか。


 ――策で、相手を上回る。


 それしかない。
 思い定め、アズマはキルアにささやく。


「即興の連携、できるか?」


 これは、アズマが越えねばならぬ壁。
 ブランを超えるために必要な戦いなのだ。
 キルアはうなずき、ごく短いやり取りで、作戦を伝えた。
 ブランは、ただ待っていた。相手が策をたてるのなら、それごと踏みにじり、叩き潰す。それがブランのスタイルだと、アズマは理解していた。


「行くぞ」

「……待ちかねたぜ」


 そう言ってブランは笑い、とりだしたハサミを己に融合させる。
“九十九神(ザ・フライ)”。物体融合の念能力により、取り込まれたハサミはブランの左腕を巨大な鋏と化す。

 そして、各々が動いた。
 キルアはミナミに。
 アズマとツンデレはブランに。

 そしてゴンとメレオロンは――消えた。


「ミナミ、気をつけろ。狙って来やがるぞ!」


 ――“神の不在証明(パーフェクト プラン)”。


 存在を他の者に感知できなくする念能力。
 推察し、その危険性を認識したブランが叫ぶようにミナミに注意する。

 ミナミは無言。
 だがブランの言に従うように、足を使い始めた。
 アズマたちの攻撃が、あからさまに二人の足止めを狙っていたことも、そうさせた原因だろう。

 そして、たがいに深く踏み込めない、手探りのような攻防が続く。
 その間、わずか5秒。
 赤子のころから殺すこと戦うことを叩き込まれてきた天才児が、相手を罠にはめるのには十分な時間。


 ――ここだっ!


 まさに絶妙。
 挙動を隠し繰り出したヨーヨーはミナミの指向の虚を確実に衝き。
 だからこそ、彼からヨーヨーを避けた後にたいして思考が及ぶまでの時間を、大幅に削った。
 そして。


「いまだっ!!」


 ゴンの声と同時。
 不意に砂埃が広間の中を満たす。
 倒すべき敵の姿すら隠す、すさまじい砂埃。

 ロリ姫がドリルを造るために開けた穴。
 そこから見える壁材を微塵に砕き、ゴンが造り上げた人工の砂埃だ。

 移動地点に障害物があれば、空間転移できない。
 ミナミの念能力、“移送砲台(リープキャノン)”の、これが弱点だ。
 ゴンたちが姿を消して見せたのは、この作業を悟らせないためにこそ。

 だが。


「んなこったろーと思ったぜ!」


 ミナミに迫るキルアの横腹に、ブランが突きかかる。
 自分たちより隠しただからといって、ブランはアズマを、ましてやゴンやキルアを、決して過小評価しない。

 だからブランはこの不意打ちにアズマたちの攻撃すら振り切っていち早く動き。
 だからこそ、罠に落ちた。


「へっ!」


 キルアが笑う。
 その意味を知るより早く、ブランの拳がキルアの横腹に突き刺さる。
 瞬間、ブランの五体は痺れ硬直した。


「が、ぐっ!」


 感電。
 日々訓練と称して拷問のような電撃を浴びてきたキルアだからできる、オーラを電気に変える反則技。

 キルアとブランを比較して、キルアに勝るものが一つある。
 それは経験。それも自分より格上のものと戦い続けた、死の淵に手をかけながら得た戦いのキャリア。
 たとえ“硬”での打撃ですらダメージを与えられないほどオーラ量に差があろうとも、切所での引き出しの多さでキルアがブランに劣るはずがない。


 ――だが、それで、どうする。


 ブランの思考は分かりやすいほどに読める。
 たとえオーラを集中し手ガードしたとはいえ、ブランの拳を受けたのだ。キルアもノーダメージではありえない。

 たとえブランの動きを止めたとて、続く手がないでは意味のない詐術にすぎない。
 しかし、そんなブランを欺くように、動いたものが居る。


「おおおおっ!!」


 アズマだ。黒髪をふりみだし、仏頂面をゆがめて、アズマがミナミに肉薄する。
 繰り出す拳に初動は無い。
 アズマの念能力、“加速放題(レールガン)”による精密な肉体加速がそれを代替する。

 見切り不能の純正無拍子。
 オーラは拳に一点集中。
 反撃を受けることなど考慮のほかにした捨て身。


「素晴らしい」


 賛辞を送ったミナミが取った手は――相討ち。
 相手は捨て身で向かっているのだ。これをあえて受け、同時に避けようのない攻撃を繰り出せば、一撃で相手を沈められる。
 彼我のオーラ量の差が隔絶しているからこそできる、傲慢で理不尽な手段。

 それをためらいもなく選択したミナミに、アズマは焦りすら覚えない。
 たしかに、ミナミが防御個所にある程度のオーラを集めれば、アズマの“硬”にもノーダメージで済ませられるだろう。
 しかし、純正無拍子。見切り不能の攻撃に対して、一点読みの防御などできない。自然、相手が選ぶ手段はオーラによる全体防御、“堅”。


 ――だが、それでも足りない。


 アズマの拳はミナミに届き、もしかしたら骨の数本も折るかもしれないが、それまでだ。
 彼我のオーラ量の差はそれほどまでに開いている。


 ――なら、それを埋めてもらうまでだ!


 アズマの拳がミナミに到達する、まさに直前。
 炸裂音とともに、ミナミの上半身からオーラが消えて失せた。
 
 からくりの種は死んだはずの駒――メレオロン。
 彼がツンデレとともに“神の不在証明(パーフェクト プラン)”で消え、ミナミに肉薄していたのだ。

 本来ならこの接近、ミナミは見破っていたかもしれない。
 だが、フォローに入ったブランと、なにより砂埃のブラインドが、ミナミにツンデレが消えた異常を感知させなかった。

 ツンデレが放ったのも、“硬”。
 その打撃による衝撃が、一瞬だけ、ミナミを無防備にした。


 ――引導を渡してやるよ。俺!


 アズマの拳が、ミナミの心臓を貫いた。

 ミナミの身が爆ぜるように消える。
 残ったのは、小さな骨の一片。
 アズマはパチンコ玉を飛ばし、それを砕いた。
 ほんの一瞬、アズマは貌に感傷を残す。

 ミナミはアズマの分身だ。
 病んだ身のアズマを、せめてゲームに残してやりたいと願ったブラボーの思いそのものだ。
 けっして他の誰かに弄ばれていい存在ではないのだ。








 その、一瞬前。
 ブランは驚きの中に居た。
 姿を消したのはこのためか、と納得させた上での、心理の隙を突いた奇襲。
 死にゴマを動かすタイミング、息の合わせ方、どちらも完璧といっていい。さしものブランとて、読み切れなかった。いや、たとえ読めても、初手で感電した時点でブランにはどうしようもない。完全に詰んでいる。

 だが、ブランの驚きは早計だった。
 死んだと思っていたコマがもう一つあることを、ブランは失念している。
 ゴン。この小さな野生児が、いつの間にか痺れて動けないブランに迫っていた。


「最初は、グー!」


 オーラが、収束する。驚異的なパワー。
 ブランが拳を握ろうとし、指が閉じるまで一瞬のラグ。


「ジャン! ケン! グー!!」


 轟音。衝撃。
 かろうじて、ガードだけが間に合う。
 しびれ返るような衝撃を腕に受けながら、ブランが歯をむき出しにして笑う。

 戦闘に対する、喜悦。
 応じてゴンも笑い、しかし、つぎの攻撃を後に譲った。
 後ろからはミナミを倒した3人が、それぞれの全速を以ってブランに迫っていたのだ。

 ゴンは、わかっている。
 ブランとぶつかり、戦い、そして乗り越える。
 それをすべき因縁を持つ人間が、この場所に居ることを。
 だから、独りよがりな勝負を避けた。


「ブランっ!!」

「覚悟っ!」


 アズマ、ツンデレ、そして無言で迫るキルア。

 敵は三方。
 キルアの電撃。ツンデレのオーラ相殺攻撃。
 どちらを食らっても、ブランは詰む。そして二人同時に相手にするには、ツンデレとは別の意思を持ち動く、ツインテールのドリルが決定的に邪魔。

 それでも。


「へっ」


 ブランは笑い、右腕の大鋏を振りかぶり、アズマめがけて突っ込む。
 他の二人を完全に度外視した攻撃。だが、そこには捨て身の迫力がある。
 たとえブランが倒されても、それより先にアズマが死ぬ。それを感じたツンデレの動きに迷いが出た。

 これを見逃すブランではない。


「――そこだっ!!」


 大鋏を地面に打ち付け旋回し、キルアを蹴り飛ばした。
 部屋の端まで吹っ飛ばされたキルアは、壁に半ば埋まる格好になる。
 革靴とはいえ、底地はゴム素材で、もちろんこれは絶縁体だ。キルアの電撃は、側撃によりブランの足を多少しびれさせたにすぎない。

 アズマの命に危機が迫れば、必ずツンデレは乱れる。
 それを見越して命を投げ出したのだ。並みの戦闘センスではない。


「たしかに、やるようになった。だが、この程度じゃまだやられてやれねぇな!」


 気を吐きながら、ブランは猛然とアズマに迫る。
 アズマは、跳び退り、距離を取って敵を待ち構える。

 たしかに、ブランは強い。
 だが、それでも。


「最弱の手駒が、お前を刺す」


 アズマがつぶやく。
 同時に、何の前触れもなくブランの体がつんのめった。
 その正体に、おそらくブランは驚愕と共に気づいただろう。
 アズマはあらかじめメレオロンにこう言っておいたのだ。


 ――ミナミを倒したら、姿を隠して部屋の真ん中あたりで寝っ転がっていてくれ。


“神の不在証明(パーフェクト プラン)”で存在を認識できなくなった、メレオロンにつまずき、ブランはつんのめったのだ。


「――これで、詰みだ」


 すでにツンデレは動いている。
 ロリ姫が渾身の念を込めて吠え、ドリルを繰り出す。

 素手では受けられない。大鋏で受けたブランに、ツンデレが拳を打ちこむ。
 除念され、元に戻った鋏が、振りぬいた腕の勢いで壁に突き刺さる。

 そして、アズマが。ありったけの意思を、思いを込めたアズマの拳が。轟音を立ててブランに突き刺さる。純粋な修練の結果で得た、戦闘の末持ちえた強さが、ブランを上回ったのだ。

 ブランの体が爆ぜ、骨の欠片が乾いた音をたて地面に落ちた。
 アズマは拳を突き出したまま、動かない。


 ――ひとりで勝った、なんて、冗談でも言えないな。


 アズマの体が揺らぐ。
 ブランを貫いた一撃で、アズマは掛け値なしにオーラを絞りつくしていた。


「みんなで勝った……それでいい。素晴らしいじゃないか」


 それだけ言って、アズマは仰向けに倒れた。
 心配げに駆け寄るツンデレをよそに、アズマは早寝息をたてている。
 寝顔は、どこか誇らしげだった。






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