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No.9513の一覧
[0] Greed Island Cross-Counter(続編・現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:24)
[1] Greed Island Cross-Counter 01[寛喜堂 秀介](2009/06/12 21:55)
[2] Greed Island Cross-Counter 02[寛喜堂 秀介](2009/06/14 00:33)
[3] Greed Island Cross-Counter 03[寛喜堂 秀介](2009/06/15 00:23)
[4] Greed Island Cross-Counter 04[寛喜堂 秀介](2009/06/16 22:36)
[5] Greed Island Cross-Counter 05[寛喜堂 秀介](2009/06/18 20:39)
[6] Greed Island Cross-Counter 06[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[7] Greed Island Cross-Counter 07[寛喜堂 秀介](2009/06/24 22:34)
[8] Greed Island Cross-Counter 08[寛喜堂 秀介](2009/06/27 19:57)
[9] Greed Island Cross-Counter 09[寛喜堂 秀介](2009/07/01 00:11)
[10] Greed Island Cross-Counter 10[寛喜堂 秀介](2009/07/04 21:14)
[11] Greed Island Cross-Counter 11[寛喜堂 秀介](2009/07/07 22:38)
[12] Greed Island Cross-Counter 12[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:32)
[13] Greed Island Cross-Counter 13[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:31)
[14] Greed Island Cross-Counter 14[寛喜堂 秀介](2009/07/20 22:05)
[15] Greed Island Cross-Counter 15[寛喜堂 秀介](2009/07/25 00:28)
[16] Greed Island Cross-Counter 16[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[17] Greed Island Cross-Counter 17[寛喜堂 秀介](2009/08/02 01:13)
[18] Greed Island Cross-Counter 18[寛喜堂 秀介](2009/08/12 01:05)
[19] Greed Island Cross-Counter 19[寛喜堂 秀介](2009/08/19 23:14)
[20] Greed Island Cross-Counter 20[寛喜堂 秀介](2009/08/24 23:31)
[21] Greed Island Cross-Counter 21[寛喜堂 秀介](2009/08/27 07:22)
[22] Greed Island Cross-Counter 22[寛喜堂 秀介](2009/09/03 07:05)
[23] Greed Island Cross-Counter 23[寛喜堂 秀介](2009/09/09 21:00)
[24] Greed Island Cross-Counter 24[寛喜堂 秀介](2009/09/19 13:36)
[25] Greed Island Cross-Counter 25[寛喜堂 秀介](2009/09/24 20:59)
[26] Greed Island Cross-Counter 26[寛喜堂 秀介](2009/10/02 17:16)
[27] Greed Island Cross-Counter 27[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:09)
[28] Greed Island Cross-Counter 28[寛喜堂 秀介](2009/10/20 20:41)
[29] Greed Island Cross-Counter 29[寛喜堂 秀介](2009/10/17 07:33)
[30] Greed Island Cross-Counter 30[寛喜堂 秀介](2009/10/16 22:33)
[31] Greed Island Cross-Counter 31[寛喜堂 秀介](2009/11/10 01:20)
[32] Greed Island Cross‐Counter 32[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:06)
[33] Greed Island Cross-Counter 33[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:37)
[34] Greed Island Cross-Counter 34[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:38)
[35] Greed Island Cross-Counter 35[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:34)
[36] 登場人物(ネタバレ含む)[寛喜堂 秀介](2010/08/18 21:09)
[38] Greed Island Cross-Counter 36[寛喜堂 秀介](2010/08/18 20:53)
[39] Greed Island Cross-Counter 37[寛喜堂 秀介](2010/08/20 22:51)
[40] Greed Island Cross-Counter 38[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:29)
[41] Greed Island Cross-Counter 39[寛喜堂 秀介](2010/08/25 01:31)
[42] Greed Island Cross-Counter 40[寛喜堂 秀介](2010/08/27 06:41)
[43] Greed Island Cross-Counter 41[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:33)
[44] Greed Island Cross-Counter 42[寛喜堂 秀介](2010/08/30 23:30)
[45] Greed Island Cross-Counter 43[寛喜堂 秀介](2010/09/05 21:23)
[46] Greed Island Cross-Counter 44[寛喜堂 秀介](2010/09/09 23:08)
[47] Greed Island Cross-Counter 45[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:36)
[48] Greed Island Cross-Counter 46[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:38)
[49] Greed Island Cross-Counter 47[寛喜堂 秀介](2010/09/21 01:33)
[50] Greed Island Cross-Counter 48[寛喜堂 秀介](2010/09/26 02:43)
[51] Greed Island Cross-Counter 49(完)[寛喜堂 秀介](2010/09/28 22:31)
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[9513] Greed Island Cross-Counter 46
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:364f7003 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/30 21:38
 ブラボーたちは駆ける。
 玉座へとつづく道を。そこに居るであろう敵を倒すために。
 あとを彼らに託して、敵のさなかに残っていった仲間たちの思いを抱えて。

 ついにたどり着いた階段。
 登れば玉座の間はすぐそこ。
 ほとんど一蹴りで階上まで上がった彼らは、しかし、そこで立ちつくした。

 階段の先は、あろうことか壁で閉ざされていた。


「これは」


 ブラボーはつぶやいた。
 四方を壁で囲まれ、正面の壁には扉。
 建物の構造として、あり得ない景色だ。


 ――念能力。


 ブラボーは即断した。
 同時に、扉が音を立て自然と開く。
 奥に見えるのは、何の変哲もない部屋。
 一見して高級品とわかる調度が並んではいるが、王宮にあるものとしてはありふれている。


「俺が様子を見に行きましょう」

「いや。どの道、ここを抜けねば先へは進めん。行くなら皆で、だ」


 アズマの主張を退け、ブラボーは強く言った。

 この先待っているのは、ほぼ間違いなく、罠だ。
 だがブラボーが居れば、敵はこちらが全滅するような大仕掛けは使えない。
 なぜなら敵の大将、エンドは、生きているキャプテン・ブラボーにこそ、用があるのだから。


「行くぞ」


 ブラボーを先頭にして、扉をくぐったのはほとんど同時。
 みな、すぐに部屋を見渡した。
 応接室らしい。高級調度品に囲まれた空間は、きらきらしく賑わっている。
 四人の視線が集まったのは、そんな空間のただ一点。奥へとつづく扉のわき。


「――そこっ!」


 アズマが叫ぶや、物体加速の念能力でパチンコ玉を打ちこんだ。

 反応は、ない。
 奥の壁が破壊される。パチンコ玉が跳ね返って来る。
 そういった、常識的に予想できる現象すら、起こらなかった。

 パチンコは、ただ宙に制止し、浮かんでいる。


「これは、みなさん素早い」


 声が響いた。
 一座を賑やかす道化のような、甲高い声。
 と、宙に浮くパチンコ玉の周りに、影が生じた。


「ワタクシ、マーチェスと申します」


 影に、色彩が生じる。
 茶色の体毛に覆われた、黒い瞳の異形。
 人に極めて近いシルエットを持つ、兎型のキメラアント。
 その指と指の間には、パチンコ玉が挟み取られていた。


「みなさま。ようこそワタクシのテリトリーへ」


 キメラアントは深々と腰を曲げ、歓迎の礼を示した。
 わざとらしいまでに完全な作法に、警戒心はいや増す。


「テリトリー?」


 そんな空気など読まず、ツンデレが反射的に尋ねた。
 兎のほうは、その質問を歓迎するように両の手を合わせて見せる。


「その通り。ワタクシの念能力、“迷宮組曲(ラビットハッチ・ラビリンス)”により、王宮は一直線の数珠つなぎに捻じ曲げ組みなおされております」


 兎は道化じみた手振りで説明する。
 
 唐突に、アズマが動く。
 部屋の隅まで跳ぶと、やおら壁を殴りつけた。
 炸裂音。部屋が揺れ、壁にぽっかりと穴が開く。

 その向こうを見たブラボーたちは、背筋を凍らせた。
 穴の先は、無。なにもない闇の空間が、ただ絶望的に広がっている。


「そちらへ行きたいのなら、止めはしませんよ。ただし、身の保証は致しかねますが」


 いきなりの暴挙に腹を立てたのだろう。やや不快気に、兎が言った。


「行くも戻るもご自由に。ワタクシもあえて留めは致しません。
 ただし――玉座へは、この先の扉を通ってしか、たどり着けませんが」


 言葉とともに、兎のわきにある扉が音もなく開いた。
 同時に、兎の姿が闇に溶け、消える。今度はわずかな気配の揺れすらない。完全に居なくなっていた。


「なるほど」


 ブラボーは扉の先を見て、うなずいた。
 王宮の部屋を縦一列に配した一本道。
 それを通ってしか、大将のもとへたどり着けない仕組み。

 だとしたら。


「間違いなく、守護者が居るでしょうね」


 ブラボーの思考を読んだように、アズマが言った。


「―― 一本道ってことは、そこを通らなきゃ先に進めないってことだ。そこに強力な戦士を置けば、少ない人数で効率的に守れる」

「だろうな。流石に部屋の数だけということはないようだが」


 開かれた扉の先、無人の小部屋を見ながら、ブラボーは同意する。


「でも、行くしかないのよね」


 あっけらかんと口にしたのは、金髪碧眼ツインテールの制服少女、ツンデレだ。


「だったら、とっとと行きましょう。止まってる暇なんか、ないんだから」


 少女の言葉に、全員がうなずいた。








 それから、いくつかの扉をくぐると、ふいに開けた場所に出た。
 元は会議室なのだろう。部屋の隅にはそれを偲ばせる残骸が散らかっている。

 平らになった部屋の中央には、一体のキメラアントが待ち構えていた。
 チーター型だ。しなやかでたくましい四肢。纏うオーラが、並みの蟻より数段強い。


 ――ヂートゥ。


 虹色髪の少女、ライは心の中でつぶやいた。
 王の旗下に収まっていた、師団長クラスのキメラアントだ。


「へへっ、来た来た。獲物が四人か。あれ? 一人は喰っちゃいけないんだったっけ? まあいいや。来なよ。キツネ――フォックスから教えてもらったオレのスッゲー念能力見せてやるからさ!」


 はしゃぐように、腕を上下させるヂートゥ。
 軽薄な言動に、ともすれば油断してしまいそうだが、それでいて師団長が務まっていたのだ。間違いなく、強敵。


 ――おれか、ブラボーくらいだな。タイマンで戦れるのは。


 敵の強さを肌で感じたライは、だから迷わず前に出た。
 ブラボーを残すわけにはいかない。ほかの二人を捨て駒にするわけにはいかない。
 ゆえに、彼女にとってこの選択は、必然。


「おれに任せて、みんなは先へ」


 ラインヒルデ・ザ・レインボー。
 その名にふさわしい、虹色の髪と瞳を持つ幼い少女は、静かに両腕を広げる。
 それぞれの手には、いつの間にか、黄金の光を放つリングが具現化されていた。


「ライ」

「心配しなくても、あとから行くさ」


 声をかけてきたブラボーに、ライは笑って、背中越しにサムズアップ。
 ライにとってそれは掛け値なしに本気で、だからブラボーも、それを素直に受け止めた。


「あー。いーよーいーよ。みんな先に行っちゃって」


 そのやりとりに水を差すように、チーターのキメラアントは手をひらひらさせる。


「――どうせ、後から追い付くからさっ!」


 そう言って笑った、直後。
 ヂートゥの姿が、いきなり掻き消えた。

 瞬間、ライの視界がズレた。
 そのまま壁に衝突するまで、蹴られたことすら気づかない。
 壁に大穴があき、砕けた瓦礫の中に埋もれて、ライはやっと攻撃を受けたことに気づいた。


「ライっ!」


 ブラボーが叫ぶ。
 拍子抜けしたように、チーターのキメラアントが頭をかいた。


「あっちゃー。追いかける必要なくなったかな?」

「――んなわけねーだろっ!」


 一直線に虹が流れた。
 と見えたと同時、ライの姿はすでに部屋の中央にある。
 ライの繰り出した金のリングは、すんでのところでヂートゥに受け止められていた。
 期せずして、鍔迫り合いのような格好になる。


「幼女二号!」

「その呼び方やめれ。つーか心配してねーで早く行けっての!」


 アズマに言われ、思わず言い返してから、ライは叫ぶ。
 
 三人は目配せしてうなずき合うと、ライたちのわきをすり抜けて、つぎの部屋へ向かう。
 最後に、ブラボーが振り返り、拳を突き出した。


「任せたぞっ、ライ!」


 扉が閉まる。
 それを見て、ようやくライは顔をしかめた。
 目が慣れる間もなく食らったヂートゥからの初撃は、彼女の上腕骨にヒビを入れていた。


 ――早く行ってくれねーと、まじで役立たずになっちまいそうだからな。


 拳を交わす。
 そのたびに走る鋭い痛みにあぶら汗を流しながら、ライは敵に立ち向かう。
 だが。彼女の必死をあざ笑うかのように、チーターのキメラアントはにやりと笑った。


「いくぜっ! ――紋露戦苦(モンローウォーク)!」








 さらにいくつかの部屋を抜けたところで、また開けた場所に出た。
 会議室に劣らない広い空間だ。その中央に、黒衣姿の敵がふたり、待ち構えていた。

 シルエットは、完全に人間。
 おそらくエンドに復活させられたのだろう。それぞれが馬鹿げたオーラを持つ手練だ。


 ―― 一人じゃ足止めすら、できない。


 そう判断したアズマは、隣に居るツンデレに目配せすると、前に出た。


「俺たちが戦ります。あとは頼みました、先輩」


 以心伝心。金髪ツインテールの制服少女、ツンデレと、その髪にとり憑く幽霊少女ロリ姫も無言でアズマに並ぶ。

 そろってサムズアップ。覚悟と、強さを秘めた笑み。


「強くなったな」


 ブラボーが、ふいに言った。


「遠慮なく、頼らせてもらうぞ。カイリ」


 その一言に、アズマは泣きそうになった。
 先輩と慕った相手に、心の底から頼られる。
 そんな存在に自分が成れたことを、さまざまな感慨とともに実感した。


「よっしゃ来い! 全然負ける気しないぞ!」

「……アズマはちょっとブラボー好きすぎだと思う」


 微妙な危機感を面に出して、ツンデレがぼそりとつぶやいた。

 ブラボーは行った。
 扉を守る役目にあるはずの黒衣ふたりは、それを追おうともしない。
 扉が閉まる。部屋に、静寂が流れた。


「……礼を言うぜ。アズマ」


 黒衣の片割れが、ふいに口を開いた。

 言われて、アズマは総毛立った。
 忘れられない、忘れもしない声だ。


「――ブラボーの奴と顔を合わすのは、さすがにバツが悪すぎるからな」


 フードを払った男の顔を、アズマは知っている。
 中背だがたっぷりと量感のある筋肉室の体。黒いサングラスに黒のスーツ。灰色の髪を乱暴に後ろに撫でつけた、三十がらみの男。

 見間違えるはずがない。
 アズマが最後まで超えられなかった、アズマの敵手。
 同胞。ゲームマスター。プレイヤーキラー。


「ブラン」

「おうよ。いまは下種の手先だがよ」


 ブランが歯をむき出しにして、拳を合わせる。


「テメエとやれるってのは、まあ救いだぜ」


 続くように、もう一人の男がフードを取った。
 その下にある顔も、アズマは知っている。


「ミナミまでか」

「ああ。素晴らしくもない奴隷生活だが、俺にとっても、お前らとやれるのは素晴らしく、嬉しい」


 ミナミが切れ長の瞳を細めて言った。

 ふ、と、アズマは笑う。
 ツンデレも、表情は同じ。
 知術で、戦闘で、アズマがついに超えることができなかった敵たちだ。


「望むところよ!」

「妾とて、同心よ!」


 ツンデレが腕を組み、挑戦的に笑う。
 ツインテールが伸び、壁面に突き立つと、壁を食らって巨大なドリルが出来上がる。
 ふたりに向かい、アズマは構えて笑った。


「――来いよ。あのときの俺じゃないってことを、教えてやる」








 最後の扉を開き、ついにブラボーは玉座の間に到達した。

 死臭が、ひときわ鼻を突く。
 その原因を、ブラボーはすぐに察した。
 広間の中央に、屍の山が築かれているのだ。
 長く居ることを拒むような異臭の中、男は平然と玉座に座り、膝を組んでいた。

 エンド。
 世界征服をもくろむ、ブラボーの敵。
 脇には二人の黒衣が無言のまま侍っている。
 見覚えのある顔だった。キメラアント“最古の三人”のひとり、フォックスと、電脳ネットサイト“Greed Island Online”の管理者、“氷炎”のソル。

 薄暗い広間の中、壁面にプロジェクターでテレビ放送が映されている。
 放送されているのは、一連の事件のダイジェスト。
 王都が襲撃され、ポドロフ将軍が死に、そして王を救った英雄も殺された、そのさま。


「よう」


 今気づいたというように、エンドが手を挙げた。
 市街でまみえた時より、纏うオーラが禍々しく、大きくなっている。
 リアルタイムで見ていなかった人間が、この放送を見た結果だろう。


「一日くらいは開けて出直してくるかと思ったんだが、存外素早いな。流石だ」


 エンドが称賛の言葉を贈る。
 ブラボーは拳を握り、ゆっくりとエンドに近づいてく。


「一日待てば、少なくとも軍人は全滅しているだろう。
 そうすることによって、人々の最後の希望を砕くために」

「その通りだ」


 泥を吐く思いで言ったブラボーの言葉を、エンドはあっさりと肯定した。


「そしておそらく、そうなった時点でこの地上でオレに敵う人間は居なくなるだろう。どのような手を使ったとしても、な。
 そうなる前にここまで来れた判断の素早さと実力。さすが二年以上の間、この世界で戦い続けてきただけのことはある」


 そう、言って。
 広間の半ばまで来たブラボーに、エンドはやおら手を差し伸べて来た。


「――もう一度、問おう。キャプテンブラボー、オレと組んで世界を手に入れないか?」

「……なぜ、そうまでして世界を手に入れたい」


 ブラボーは尋ねた。
 さして興味があったわけではない。
 どちらかというと攻撃の機会を計るための時間稼ぎだ。
 だが、エンドのほうは、質問を真剣に受け止めたらしい。しばし沈思し、それから彼は口を開いた。


「戦乱の世に生まれたかった。そう考えた事はあるか?」


 エンドはそう、尋ねてきた。
 答えを求めてのことではない。事実彼は間をおかず、言葉を続けた。


「オレはある。生きるすべは己の才覚ひとつ、腕っ節ひとつ。
 弱肉強食。ただ生きていくことすら困難。そんな苛烈な時代の灼熱の中を、炎に巻かれながらどこまで走れるか、試したい。そう、考えていた」


 エンドの瞳は狂熱を帯びている。
 語る思想への情熱が、並々ならぬものである証拠だ。


「まあ、ガキじみた妄想だ。平和の毒にどぶ漬けにされたいまの日本じゃ、そこまでなりふり構わん生き方などできん。
 そう、あきらめながら、それでもオレは心のどこかで求めて続けていたんだろう――狂熱を」


 エンドは語る。
 そんなとき、“Greed Island Online”の存在を知ったのだと。


「喜びに震えたぞ。今よりはるかに狂熱に満ちた世界が、そこにある。
 ならば己を試すのみだ! 世界を相手に、器量すべてをぶつける。そのための――世界征服だ!」


 爛々とした瞳で、口吻に熱を昇らせ、エンドは拳を天に突き上げた。
 それは紛れもなく、天に挑戦するかたち。

 ブラボーは、ここに至ってエンドという人間を理解した。
 エンドは己の欲によって世界を欲しているのではない。彼にとっては世界すら、ただの試金石。


「つまり、世界を手に入れ、何を為すわけでもなく」

「その過程こそが、オレの望みだ。ゆえに征服した世界に興味はない。お前が欲しければくれてやるさ――だからブラボー。オレに手を貸せ」


 懐柔のための方便ではない。
 掛け値なしの本音を、ブラボーはエンドの瞳に見た。

 世界征服を行うため、征服した世界を与える。
 欲の在り方と捨て方に“人”を感じさせない。
 畏怖に近い感情を抱きながら、ブラボーはエンドの誘いを即座に断った。
 当然である。こんな化け物を、この世界に存在させてはならない。取引などもってのほかだ。


「断る」

「だと思ったよ。お前がそんなものを、求めているはずがない――だから、こんな趣向を用意した」


 エンドの合図とともに、玉座の背後からもう一人の黒衣が現れた。
 女性だ。目深にかぶったフードの奥に見える唇は、妖艶なほどにつややかだ。
 
 懸命に計ってきた攻撃の機会すら放りだし、ブラボーは硬直した。
 黒衣の女性に、見間違えようのない故人の面影を見た。


「アマネ」


 枯れた声で、ブラボーがつぶやく。
 黒衣の女性が、フードを上げた。病的なまでに白い肌の、人形めいた美女。


「……兄様」


 かつてブラボーを操り、仲間と同志、そして己をも破滅させた、ブラボーの妹、アマネの姿だった。
 自失のあと、激しい怒りがブラボーを襲った。
 エンドの念能力。“百鬼夜行(デッドマンワーキング)”は死者を蘇らせる念能力。
 であれば必ず遺体が必要となるはずだ。アマネの遺体は、ブラボーが手ずから埋葬している。その場所を知るものは、ほとんどないはずだ。


「……貴様、アマネをどうやって」

「お前に妹が居て、ともにこちらに来ていることは調べていた。だからこいつがすでに死んで、とある港町の郊外に埋葬されていることもすぐに調べられたさ。だから密かに回収しておいた」


 淡々と、悪辣な行為を告白すると、エンドはおぞましい微笑を浮かべ、言った。


「――人質だよ」


 ブラボーは歯噛みした。
 世界とたった一人の人間。本来なら天秤にかけるまでもない。
 だが、アマネはブラボーのたった一人の妹だ。
 罪を犯したとはいえ、肉親として、ブラボーはアマネを深く愛している。たやすく見捨てられるはずがない。

 とはいえ、最終的な答えは決まりきっている。
 妹のために、世界を危機にさらすわけにはいかないのだ。
 苦悩の長さは、そのままブラボーの妹への愛の深さだった。


「兄さま? 苦しんでおられるのですか?」


 ふいに、アマネが口を開いた。
 震えるほどに妖艶で、残酷なまでに無邪気な、彼女の声。


「迷っておられるのですか? 悩んでおられるのですか? 兄さま――だったら」


 コロコロと、鈴を転がすように、アマネは笑う。


「――原因を、消してしまいましょう」


 不意打ち。
 前触れもなく生じた黒い塊は、エンドを包み込んだ。
 声もなく、エンドの姿が掻き消える。


 ――“悪夢の館(スプラッターハウス)”。


 念能力により創造された、数々の致死の罠を仕込んだトラップハウスに転移させられたのだ。


「アマネ」

「あは、兄さま、喜んでいただけました?」


 振り返り、アマネが笑う。
 妖艶で無邪気なほほえみ。
 あふれる涙をこらえ、ブラボーは無言のままアマネに並んだ。
 これまで無言を保っていた黒衣ふたりが、主の危機に動き出したのだ。


「ふん、ソルよ。オレは蟻どもへの指示に忙しい。お前がやれ」


 面白くもなさそうにフォックスは鼻を鳴らし。


「ああ。エンドに言われて黙っていたが、さすがにこの状況は看過できないみたいだ」


 ソルはどこか悲しげにつぶやき、構える。

 ブラボーは知っている。
 電脳ネットサイト“Greed Island Online”管理人。リマ王国での同胞コミュニティーのリーダーである彼の、同胞にたいする無限の愛を。味方の暴走を止めようと必死になった彼の姿を。

 だから、いまのソルを、見過ごしにはできない。


「兄さま、殺りましょう。一辺の慈悲もなく、一辺の肉片も残さず、邪魔者を殺しちゃいましょう」

「ああ。ソルを……葬ってやろう!」


 邪気にあふれた、悪意のないアマネの言葉にブラボーはうなずき。

 戦いが、始まった。
 二体一。とはいえ不利はブラボーたちにある。
 ブラボーは度重なる戦いで完調には程遠い。アマネはオーラこそ法外だが戦い馴れしていない。

“氷炎”ソル。オーラに物理干渉能力を付与する、無敵の念能力“硬気(ハードロック)”に阻まれ、ブラボーたちはじりじりと手傷を負いながら、ソル自身に傷をつけることができない。

 そして奇跡の時間はあっけなく切れた。








 アマネの前に突如浮かび上がった闇の塊は、前触れもなく闇色の男を吐き出した。
 エンドである。身に負うた傷は、寸毫たりとてない。戦闘の渦中に現れた黒衣の主は、ゆっくりと首を鳴らし、そしてブラボーたちを見た。

 悪寒に駆られてブラボーは跳び退る。
 同時にアマネも退いている。ふたりは肩を並べて構えた。

 そのさまを目にして、エンドが訝しげに眉を顰めた。


「驚いたな。いくら“百鬼夜行(デッドマンウォーキング)”が自律式とはいえ、オレに逆らえるようにはできていないはずだが」

「知らないの? 愛はすべてを超えるのよ」


 自信に満ちた声で、アマネはうそぶいた。

 彼女の言は正確ではない。
 アマネが、死してもブラボーの指に残した念能力“愛の契約(エンゲージリング)”。
 対になる指輪をはめた、たがいがたがいを最優先にするこの呪いじみた念が、エンドの念の強制力を上回ったのだ。


「……そうかそうか、そういうこともあるのか――なら消すだけだがね」


 うなずき、エンドが指を鳴らす。
 そんな、指して労力を要したとも思えぬ動作で。

 アマネは消えた。
 なんの前触れもなく、なんの言葉もなく、無情なまでにあっさりと、アマネの姿は消えうせる。
 残った骨が、からからと地面を打つ。


「あ、ま……」


 衝撃のあまり、それしか言えないブラボーを尻目に。
 ソルがオーラの手で、アマネの骨を残らず攫っていった。


「……答えを、まだ貰っていなかったな」


 平然とした様子で玉座に座り、エンドが言った。


「さあブラボー。答えてもらおうか。オレに味方するか、それとも妹を捨てオレに敵するか――お前はどちらを選ぶ?」


 悪魔のごとき選択を迫るエンド。
 彼と戦う力など、ブラボーにはすでに残されていない。
 ソルとの戦いで、骨が何本かイカレている。オーラも残り少ない。
 ソルとフォックス。ふたりの強力な敵を越え、エンドに至る道すら、ブラボーには見えない。

 だが、それでも。


「俺は己に誓った。二度と、俺がブラボーであることを裏切らないと」


 歯を食いしばり、血を流すほど拳を握りこんで、ブラボーは告げる。


「俺の名はキャプテン・ブラボー。それが答えだ!!」


 絶望の闇の中、それでもブラボーは己を曲げなかった。
 ブラボーだけではない。仲間たち全員が、己の果たすべき役目から目をそらさず、決してあきらめなかった。

 だから。
 これから起こる奇跡は、みなが手繰り寄せた細い糸の先にあった、必然。

 奇跡のきざはしは、突如天井を割って現れた。
 瓦礫とともに落下し、音もなく着地した影は、三つ。
 その姿を見て、ブラボーはむしろ呆然として名を呼んだ。


「ユウ、シュウ、それにパイフル」


 黒髪猫目の暗殺者少女、ユウ。
 ボサボサ金髪の少年、シュウ。
 そして元同胞にして“最古の三人”の一角、白虎のキメラアント、パイフル。

 はるか南の島国で別れた、この場所に居るはずの無い三人。


「俺たちだけじゃない」


 暗殺者少女、ユウは涼やかに笑った。








「オラァ、かかってきやがれェ! ――シュート。オメーはこいつらを医者ンとこへ!」

「わかった!」


 王宮前、庭園。
 現れたのはナックルとシュート。
 倒れたレットと、彼を庇ってキメラアントの攻撃を受けたミコ。かろうじて息のある二人を、シュートは“暗い宿(ホテル・ラフレシア)”の念腕で引っ掴み、地上に広げられた一枚の紙の中に突っ込む。
 二人の師匠の同僚、ノヴの念能力“4次元マンション(ハイドアンドシーク)”の出入り口だ。つながる先に待つは、神医ヘンジャク。


「まってまってまってじゃすとあもーめんとっ!」


 戦うふたりのもとへ、ものすごい勢いで駆けて来たのは、シスターでメイドな格好をした女性、シスターメイと、それを追う数体のキメラアント。


「こいつらもお願いっ!」


 彼女と二人が交錯し、ナックルとシュートはより多数の敵を相手取るハメになった。
 劣勢の中、しかしナックルは笑う。
 NGLで接してきたキメラアントに比べ、こいつらの目の、なんと濁ったことか。
 ずたぼろになったミコたちの姿を思い出す。


「――へっ。やっぱ殴んならよォ。相手は外道のほうがいいってモンだッ!」


 王宮入口。
 巨大なキセルを担いだグラサンの巨漢、モラウが姿を現した。
 両の肩には力尽き、倒れた海馬瀬戸と鎖使いカミトが抱えられている。
 ともに倒すべき敵を倒した二人の寝顔は、どこか満足げだ。

 二人を“監獄ロック(スモーキージェイル)”で保護し、モラウは口の端を釣り上げ、言った。


「ちょっと待ってろよ――弟子どもの方に手が要るらしい」


 そして、王宮内の随所で。


「久しぶりだね◆」

「げぇっ ヒソカ!? つか血! なんの血!?」

「ああ。なんだか途中にヘンな兎が居たから◆ 殺っちゃった◆」


 虹色髪の少女、ライのもとに現れたのは、奇術師ヒソカ。


「ゴンとキルアと……メレオロン?」

「NGLでは、助けられた……今度は、オレたちがみんなを助ける番だっ!」

「ま、そーいうこと」

「ペギーの敵討ちを手伝ってくれた恩もあるしなっ!」


 黒髪仏頂面のアズマと、金髪ツインテールの制服少女、ツンデレの元の現れたのは、ゴンたち三人。

 そして玉座の間。
 砕かれた天井から見える空で、ツバメが弧を描きひとつ鳴いた。






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