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No.9513の一覧
[0] Greed Island Cross-Counter(続編・現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:24)
[1] Greed Island Cross-Counter 01[寛喜堂 秀介](2009/06/12 21:55)
[2] Greed Island Cross-Counter 02[寛喜堂 秀介](2009/06/14 00:33)
[3] Greed Island Cross-Counter 03[寛喜堂 秀介](2009/06/15 00:23)
[4] Greed Island Cross-Counter 04[寛喜堂 秀介](2009/06/16 22:36)
[5] Greed Island Cross-Counter 05[寛喜堂 秀介](2009/06/18 20:39)
[6] Greed Island Cross-Counter 06[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[7] Greed Island Cross-Counter 07[寛喜堂 秀介](2009/06/24 22:34)
[8] Greed Island Cross-Counter 08[寛喜堂 秀介](2009/06/27 19:57)
[9] Greed Island Cross-Counter 09[寛喜堂 秀介](2009/07/01 00:11)
[10] Greed Island Cross-Counter 10[寛喜堂 秀介](2009/07/04 21:14)
[11] Greed Island Cross-Counter 11[寛喜堂 秀介](2009/07/07 22:38)
[12] Greed Island Cross-Counter 12[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:32)
[13] Greed Island Cross-Counter 13[寛喜堂 秀介](2009/07/16 23:31)
[14] Greed Island Cross-Counter 14[寛喜堂 秀介](2009/07/20 22:05)
[15] Greed Island Cross-Counter 15[寛喜堂 秀介](2009/07/25 00:28)
[16] Greed Island Cross-Counter 16[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:08)
[17] Greed Island Cross-Counter 17[寛喜堂 秀介](2009/08/02 01:13)
[18] Greed Island Cross-Counter 18[寛喜堂 秀介](2009/08/12 01:05)
[19] Greed Island Cross-Counter 19[寛喜堂 秀介](2009/08/19 23:14)
[20] Greed Island Cross-Counter 20[寛喜堂 秀介](2009/08/24 23:31)
[21] Greed Island Cross-Counter 21[寛喜堂 秀介](2009/08/27 07:22)
[22] Greed Island Cross-Counter 22[寛喜堂 秀介](2009/09/03 07:05)
[23] Greed Island Cross-Counter 23[寛喜堂 秀介](2009/09/09 21:00)
[24] Greed Island Cross-Counter 24[寛喜堂 秀介](2009/09/19 13:36)
[25] Greed Island Cross-Counter 25[寛喜堂 秀介](2009/09/24 20:59)
[26] Greed Island Cross-Counter 26[寛喜堂 秀介](2009/10/02 17:16)
[27] Greed Island Cross-Counter 27[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:09)
[28] Greed Island Cross-Counter 28[寛喜堂 秀介](2009/10/20 20:41)
[29] Greed Island Cross-Counter 29[寛喜堂 秀介](2009/10/17 07:33)
[30] Greed Island Cross-Counter 30[寛喜堂 秀介](2009/10/16 22:33)
[31] Greed Island Cross-Counter 31[寛喜堂 秀介](2009/11/10 01:20)
[32] Greed Island Cross‐Counter 32[寛喜堂 秀介](2009/12/28 20:06)
[33] Greed Island Cross-Counter 33[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:37)
[34] Greed Island Cross-Counter 34[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:38)
[35] Greed Island Cross-Counter 35[寛喜堂 秀介](2009/12/28 00:34)
[36] 登場人物(ネタバレ含む)[寛喜堂 秀介](2010/08/18 21:09)
[38] Greed Island Cross-Counter 36[寛喜堂 秀介](2010/08/18 20:53)
[39] Greed Island Cross-Counter 37[寛喜堂 秀介](2010/08/20 22:51)
[40] Greed Island Cross-Counter 38[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:29)
[41] Greed Island Cross-Counter 39[寛喜堂 秀介](2010/08/25 01:31)
[42] Greed Island Cross-Counter 40[寛喜堂 秀介](2010/08/27 06:41)
[43] Greed Island Cross-Counter 41[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:33)
[44] Greed Island Cross-Counter 42[寛喜堂 秀介](2010/08/30 23:30)
[45] Greed Island Cross-Counter 43[寛喜堂 秀介](2010/09/05 21:23)
[46] Greed Island Cross-Counter 44[寛喜堂 秀介](2010/09/09 23:08)
[47] Greed Island Cross-Counter 45[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:36)
[48] Greed Island Cross-Counter 46[寛喜堂 秀介](2010/09/30 21:38)
[49] Greed Island Cross-Counter 47[寛喜堂 秀介](2010/09/21 01:33)
[50] Greed Island Cross-Counter 48[寛喜堂 秀介](2010/09/26 02:43)
[51] Greed Island Cross-Counter 49(完)[寛喜堂 秀介](2010/09/28 22:31)
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[9513] Greed Island Cross-Counter 45
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:198ddce6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/30 21:36
「さすがに壮観だ」


 照明に照らされ、白く輝く王宮を前に、ブラボーがつぶやいた。
 王宮の入り口に至る距離、およそ200メートル。間には広大な庭園が横たわっている。
 その、いたるところに。守備を命じられたであろうキメラアントたちが、手ぐすね引いてブラボーたちの侵入を待ち構えていた。


 その数、およそ40。


 ――ユウたちはこんな光景を見たのか。


 ブラボーはふと思う。

 NGL自治区、キメラアントの巣。
 女王を守る蟻たちを誘導するため、暗殺者少女、ユウたちは自ら囮となってこの化け物どもと戦った。


 ――あらためて尊敬するぞ。戦士ユウ、戦士シュウ!


 この場所に居ない戦友に対し、つぶやくと、ブラボーは王宮を仰ぐ。
 建物からは、異様とも言えるオーラが放たれている。触れることすらためらわれる、そんなオーラだ。

 エンド。
 同胞にして、世界征服をもくろむ最悪の侵略者。
 同胞として、ゲームマスターとして、そしてなによりもキャプテン・ブラボーとして。ブラボーは彼の存在を許容することなどできない。


「エンドは、俺が止める」


 口元を鋭くとがらせ、ブラボーは言葉を吐いた。
 

「だから皆……俺をヤツの居る玉座まで、たどり着かせてくれ!」


 連戦の末、師団長を相手にしたあとだ。疲労が蓄積している。
 この上キメラアント、そしてエンドが復活させた死者たちと渡り合い、その上でエンドと戦うなど不可能だ。

 だからブラボーは、信頼する仲間に、困難を託した。
 その思いが酌めぬものが、いまこの場所に居るはずがない。


「わかったわ」


 鎖使いのカミトが、口元を引き絞り、言う。


「私たちがあなたを、エンドのところまで無傷で送ってあげる」


 カミトの言葉に、全員がうなずき。
 放たれた九本の矢は、一丸となって敵陣に突っ込んだ。








 敵の数は40。
 とはいえ相手は陽動を警戒してか、分散している。
 ひと塊りになり突き進むブラボーたちのほうが、局地的にみれば多数で敵に当たれると言える。

 この際スピードが命である。足が止まれば数の差は容易く逆転するからだ。
 移動しながら戦っているのだから、キメラアントの生死は後回しにして、ブラボーたちは当たるを幸いキメラアントたちを撫で切りにしていく。

 ブラボーは自分たちの状況を、ユウたちに比したが、それはけっして正確ではない。
 ユウの場合、個対集団だった。相手の懐深く飛び込んで、ほかの敵の動きを掣肘し、同志討ちを誘うこともできた。いわば個ゆえ、相手を個に解く余地があったと言える。

 しかしブラボーたちは9人。この数になると、もう集団と言っていい。
 集団と集団の戦いは、数の論理がより強く働く。そしてそのしわ寄せは、力が劣る者に、確実に降りかかって来る。
 敵にも、そして味方にも。

 王宮までおよそ100メートル。
 堅牢な巨体を持つ甲虫型のキメラアントとぶつかる。
 先頭を駆けるブラボーのブラボー脚。アズマの純正無拍子に続けてツンデレの相棒、幽霊幼女ロリ姫のドリル。倒すのにかかったのは、わずか3合。かわりにほんの一瞬、行き足が鈍った。

 そのわずかな間に、キメラアントが次々と駆け付けて来る。
 虎口を逃れるため、ブラボーたちがふたたび全速で駆けだす、直前。一発の念弾がミコの細い脚に当たった。
 ほとんど偶然の一発は、一人の少女の足を、完全に止めた。


「ミコ!」


 ブラボーは叫び、全力でブレーキをかけた。
 止まらざるを得なかった。このいとけないお嬢様に、ブラボーは保護者のような気持ちを抱いている。

 だが、ブラボーは止まることを許されなかった。
 何者かが後ろから、ブラボーの体を突き飛ばしたからだ。
 
 それはミコの念獣だった。
 彼女はまっすぐにブラボーを見た。
 自分を置いて先へ行け。間違えようのない強い意志のこもった瞳。

 だが。


「――俺は、捨てない!」


 両足を地面に突っ張らせ、ブレーキをかけるとブラボーは逆方向に跳ぶ。
 それより早く、赤い影が戻っている。レットだ。


「ここは、俺が!」


 足を旋風のように振りまわし、ミコに群がるキメラアントを吹き飛ばすと、レットが叫ぶ。


「みんなは先へ!」


 レットが皆を促した。瞬間。
 乾いた音をたて、広がったオーラの壁が、ふたりとブラボーたちを隔てた。

 それはブラボーたちが倒した甲虫のキメラアントの念能力だった。
 死に瀕したこのキメラアントは、敵を遮断するため、能力を発動したのだ。


「わたしが!」


 ほとんど何も考えずにUターンしてきたツンデレが、壁を殴りつける。
 だが、オーラの壁である。物理衝撃でオーラを相殺するツンデレ式除念法では、解除などできない。

 そうする間にもキメラアント達が集まって来る。
 壁の向こう側に25。ブラボーたちの側には10。


「行ってください! 貴方には、やるべきことがあるのでしょう!?」


 片足を引きずった状態で、それでも念獣を操り戦いながら、ミコが叫ぶ。


「その通りッス! みんなが居ない方が、俺も力が発揮できるんスから!」


 レットは不敵に笑い。
 変身。
 そう唱えて。
 レットが念能力を発動させる。


 ――“強化着装(チェンジレッド)”。


 オーラや身体能力を、軒並み数倍に引き上げる、レットの強力無比な念能力。
 着装時のレットの戦闘力は、キャプテンブラボーすら上回る。


「レッドキィーック!」


 たがいに背を守りながら戦い、ふたりは声をそろえて叫ぶ。


「ブラボーッ!!」


 そろってサムズアップ。
 この意気が、ブラボーの心を打った。



「ブラボーだ!」


 ブラボーはふたりに向かって強く拳を突き出し、駆けだす。
 ロスは大きい。王宮へとつづく道は、複数のキメラアントにより、塞がれている。
 脇からすり抜けようにも、そちらからも敵が迫ってきている。

 だが。敵の重囲を破るように。


「――“加速放題(レールガン)”、満天花雨!!」


 オーラのこもった数十のパチンコ玉が、ショットガンのごとく前方にはじけた。
 アズマだ。物体加速の念能力で撒き散らしたパチンコ玉には、アズマのオーラが強く込められている。
 下手な銃器よりもよほど強いこの攻撃で開けた突破口を、最後尾から一気に先頭に躍り出たブラボーが、まだ止まらず、地を這う流星となって打ち開く。


「衝撃! ブラボーインパクト!!」


 前方ががっぽりと開く。
 続く5人がその間隙を駆け抜けた。

 5人だ。一人足りない。
 残ったのはシスターメイ。メイドとシスターを融合させた珍妙な衣装に身を包む、銀髪の少女。

 彼女は分かっていた。
 この突撃は、どこかで必ず足が止まる。
 そこを敵に包まれれば、死は逃れられない。
 だからシスターメイは、強いてあの壁を“分解”せず、いままた足を止めた。

 すべて、敵を分散するため。


「こっちよ! キメラども!」


 別方向へ走るシスターメイを、数体のキメラアントが追っていく。
 彼女は敵の攻撃が効かない。敵を何体引きうけようと、無謀ではない。

 と、背中越しに、アズマの声が飛んで来る。


「シスター! “分解”は絶対に使うなよ! また会おう(・・・・・)!」


 シスターメイが振り返ると、黒づくめの仏頂面は、もうこちらに目もくれず、目的地に向っている。


 ――まったく、この男前。


 シスターメイはアズマたちに向けてサムズアップすると、襲い来るキメラアント達の攻撃を避けるふりをしながら逃げた。
 もともと彼女には攻撃が効かない。反面、相手にも干渉できない。それがバレては、敵を引きつける役目を果たせないのだ。








 ブラボーたちが王宮に駆け込んでゆく。
 それを見やってにやりと笑いながら、レットは右脇から襲い来るキメラアントの頭部を裏拳で砕いた。
 同時にしなう腕でわき腹を打たれている。


「かはっ」


 呼気を漏らしながら、レットは向かい来るキメラアントたちの攻撃をいなす。
 本来、躱せる攻撃だ。にもかかわらず、喰らってしまう。背後に、ろくに動けないお嬢さまが居るからだ。


 ――ヤバイッスね。


 レットは不思議と笑いながら、心中でつぶやいた。
 この状況、仮にレット一人だとしたら、あるいは敵を全滅寸前くらいには持って行けたかもしれない。

 だが、それも動けない少女とともにでは、無理な話だ。
 彼女もけっして足手まといではない。変幻自在の念獣“ハヤテのごとく(シークレットサーバント)”を使い、ミコは常にレットの死角を守ってくれている。
 だが、敵に押し包まれる中、自在に動くことができない。これは致命的だった。


 ――だからと言って、見棄てられるわけないっスけどね。


 ピンチになれば、必ず現れて、助ける。
 それがレットの理想とするヒーローの姿だ。
 守るべきものを見棄てるなど、レット自身を否定する行為だ。そんなことができるはずがない。

 だから、レットは賭けに出た。
 守り、削られていく中で、幸いにも条件は満たしている。


「――サンライトブレード!!」


 突如、昼をあざむくばかりの光が、レットから放射された。
 昆虫の性質を深く残しているキメラアントの何体かが、方向を見失ってほかのキメラアントにぶつかる。

 光が、集束する。それは剣の形となり、レットの手に収まった。
 敵の動きが止まる。この深紅の戦士の、未知の能力に警戒しているのだ。


 ――好都合っスけどね。


 不敵に笑うと、レットは渾身の力を込め、叫ぶ。


「受けろ光の斬撃――サぁンライトっ――ブレードぉ!!」


 剣先の軌跡がレットを中心に一周する。
 瞬間。
 光が奔る。
 風が割れた。
 大気が裂けた。
 斬撃の威力は敵を巻き込み、庭園中に破壊を巻き起こした。
 巻き込まれたキメラアント、数多。直撃を受けた蟻は、死骸すら残していない。

 これぞレットの最終念能力、サンライトブレード。
 変身に使われていた全てのオーラを、たった一撃に換える、一撃必殺の斬撃。
 

 ――まだ、足りないっスか。


 レットは見た。
 庭園のそこここで、身を起こすキメラアントの姿を。
 その数、すでに五指に満たない。それでも、いまのレットにとっては、致命的だった。

 オーラを絞りつくしたレットは意識を失い、倒れた。


「レットさん!」


 ミコの叫び声。
 柔らかい感触が、レットを包んだ。
 それが何なのか、レットが気づくことが無いまま。
 折り重なったふたりの姿は、襲い来るキメラアントの中に埋没した。








 通路は死体で満ちている。
 弾痕が壁一面に見てとれ、ここであった戦闘の激しさを偲ばせる。
 通路をまっすぐ駆け、大階段を登れば、そこはエンドのいる玉座の間。
 一心不乱にそこを目指して、6人の戦士はわき目もふらず一直線に駆け抜ける。

 ふいに、殺気が揺れた。


「――そこっ!」


 鎖使いカミトの“鉄鎖の結界(サークルチェーン)”が、天井からの一撃を未然に防いだ。
 同時に異音。攻撃を受けた“鉄鎖の結界(サークルチェーン)”が、半ばからふたつに千切れ飛んだ。


「やるわね」


 弾かれながら笑い、背後に着地したのは、サソリの特徴をもつ女性型のキメラアント。


 ――ザザン、師団長。


 カミトは心中、つぶやく。
 続いて二匹のキメラアントが、天井から降りてくる。
 4本の巨腕をもつ大猿と、全身鋭利なとげのついた甲殻をもつキメラアント。


 ――ザザンの師団に居た兵隊長。


 ここでカミトは覚悟を決めた。
“鉄鎖の結界(サークルチェーン)”が破壊された以上、カミトの戦力は半減している。
 だったら、この先の敵と十分に渡り合うことができないなら、命を賭して戦う場所は、ここしかない。


「ブラボー、こいつらは私が止める。だから先へ」

「フン。一人では無理だ。オレも残る」


 カミトに続くように。
 コートをなびかせ、海馬瀬人が一団の背後に立つ。
 たがいに、ブラボーたちに向けて背中越しにサムズアップ。
 ブラボーも、振り向かない。拳を天に突き上げ、玉座の間を目指し、駆けていく。


「不快」


 ザザンが眉を顰め、言った。


「二人だけでこの私を止める気?」


 カミトの鎖が、地面を打った。
 ブラボーたちを追おうとしたザザンの配下二体の動きを、それで止めたのだ。
 それがザザンを無視した行為に見えたのだろう。ザザンの額に青筋が立った。


「あなたたち、そっちの男と遊んでなさい。私はこのクソ生意気なガキに――教育してあげるわっ!」


 言うや、ザザンはカミトの鎖を宙で捉え、振りまわした。
 暴力的なまでの力に翻弄され、カミトは壁にぶつけられる。壁が破壊され、それでも止まらず数枚の壁を抜き、外までぶっ飛ばされた。

 カミトの視界は万色の薔薇で覆い尽くされた。
 王宮東側に在った薔薇園の中に突っ込んだのだ。
 人の侵入を感知したからだろう。照明がつき、辺りをこうこうと照らしている。

 薔薇のとげに裂かれながら、体勢をたてなおしていると、カミトが開けた大穴から、ザザンがゆっくりと出てきた。


「ゆっくりと、薄皮を剥ぐようにして、解体してあげるわ」


 凶悪な尾を振い、薔薇の花を散らしながら、ザザンは三日月のごとく口の端を釣り上げた。


「後悔なさい」


 ――あの尻尾。


 カミトは身構えながら、思考を走らせる。


 ――私の“鉄鎖の結界(サークルチェーン)”を砕く威力。まともに食らえば即死!


 カミトは左手首に巻いた、長さ半分以下となった鎖をはずした。
 いまのこれは、カミトの愛用する鉄鎖ではなく、その残骸だ。“鉄鎖の結界(サークルチェーン)”として用を為さなくなっている荷物をぶら下げている余裕など、ない。


「喰らいなさい!」


 尾の一撃が、カミトを襲う。
 避けざま、“追尾する鉄鎖(スクエアチェーン)”を送り込み、束縛を狙うが、一瞬のちにはザザンの姿は右後方にある。

 かろうじて目で追ったカミトは、襲い来る拳撃を、腕で受ける。
 かなりのオーラを割り裂いたが、それでもガードした腕が悲鳴を上げる。
 防御に専念しながらも、別の意思をもったように“追尾する鉄鎖(スクエアチェーン)”はザザンに絡む。


「――っとおしいっ!」


 ザザンの尾が振われる。
 カミトは瞬間的に鎖を送り出し、尾の軌道から鎖を逃がした。
 そうなると今度はカミトに攻撃が来る。


 ――なんて攻撃! 防御が精いっぱい!


 攻撃の軌跡が薔薇を舞わせる。
 魅入られるような花吹雪の中、戦いは続く。
 攻撃をしのぎながら、カミトはじりじりと、攻撃に移る機会を探っている。


 ――ザザンも、どんな攻撃でも私の鎖を破壊できるわけじゃない。


 拳や足では無理だ。
 破壊力の集約された、尻尾の一撃のみが、鎖を破壊しうる。

 その判断は正しい。
 問題は、ザザン自身もそれを知っていたことだ。
 だからザザンは、待っていた。カミトが、この厄介な鎖を積極的に使ってくる機会を。
 そのために、あえて尾の動きを、ほんのわずか、敵に違和感を与えぬ程度にセーブしていた。

 結果、一合。
 カミトの繰り出した“追尾する鉄鎖(スクエアチェーン)”は、手元20センチのところできれいに砕かれた。

 鎖の砕片が飛び散る。
 ザザンがサディスティックな笑みを浮かべた。


「これであなたの牙は抜いてあげた。あとは――処刑ね」


 操作系の念能力者は、使い慣れた武器を失えば、戦闘力が激減する。
 小生意気な少年は恐怖に震え、無様に泣き叫ぶことしかできないはずだった。

 だが、カミトの面に絶望の色はない。
 有るのは強烈な覚悟と意思。


「ありがとう」


 カミトは目を伏せ、礼を言った。


「いざとなると、なかなか覚悟ができなかったのよ。手足のようになじんだ、愛着のある武器だから」

「なにを――」


 ザザンが絶句する。
 いつの間にか動けなくなっているのだ。
 すぐさま“凝”。瞳にオーラを集めたザザンは、見た。
 己を拘束する、強烈なオーラの気流を。


「気づいた?」


 カミトは笑う。
 念能力を作った時、カミトはこのような事態を想定していた。
 だから、モデルとなったキャラクターになぞらえて、ひとつの能力を作ったのだ。
 ふたつの鎖を失ったときにのみ発動可能な、だからこそ、圧倒的に強力な念能力。


「これ喰らって死ななかったら、素直に尊敬するわ」


 散らされ、地に積もった薔薇の花びらが舞い上がる。
 オーラの気流が唸りをあげ、カミトの手元で加速する。


「ちくしょぉぉぉぉっ!!」


 ザザンの、痛恨の叫びすらかき消して。


「――“星雲嵐(ネビュラストーム)”!!」


 破滅的なオーラの嵐が吹き荒れた。
 この嵐に巻き上げられたはずのザザンは、落ちてこなかった。
 かけらも残さず、ザザンは消滅したのだ。

“星雲嵐(ネビュラストーム)”を放った態勢のまま、カミトは前のめりに倒れた。
 その上に、舞い散る薔薇が覆いかぶさっていく。


 ――私はここまでみたい。みんな……あとは任せたわよ。


 薔薇の雪に埋もれながら、カミトは意識を手放した。








「オレのターン!」


 海馬瀬人は決闘盤からカードを引き抜いた。
 海馬は舌打ちした。手札には即時に召喚できるモンスターもギミックもない。いわゆる手札事故だ。

 全身を棘で鎧ったキメラアントが、抱きついてくる。
 それを紙一重で避け、続く大猿の攻撃を躱す。4本の腕を避けきれず、肩口に攻撃がクリーンヒットする。
 物理的ダメージはない。かわりにオーラがごっそりと削られた。

 現在ライフポイントは2300。
 いまのダメージだけではない。カピトリーノから続く連戦、念能力の連続行使により、オーラは全快には程遠い。

 まともに戦えば、それでも海馬はこの二体相手に優勢に渡り合えるだろう。
 しかし、海馬にそのような選択肢は有りえない。


「“トレード・イン”を発動! 手札からレベル8のモンスター、“青眼の白竜(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)”を捨てることで、デッキから2枚ドローする!」

「――ナンだテメエ、バトル中にカード遊びなんかしやがって。馬鹿じゃねぇのか?」


 海馬がカードを引く間にも、攻撃の手は止まない。
 攻撃を受けながら、それでも海馬はけっしてひるむことなく、不敵に笑う。


「オレのターン! “未来融合-フューチャー・フュージョン”を発動! 融合素材となるモンスターを墓地に送ることで、二ターン後に融合モンスターを特殊召喚する! 指定するのは“F・G・D(ファイブゴッドドラゴン)”だ! オレは五体のドラゴン族モンスターカードを墓地に送る!」


 期は、満ちた。


「“竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)”を発動! 墓地の“青眼の白竜(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)”三体を除外し――出でよ! “青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)”!! それに加え“巨大化”を発動だ!」


 白銀の竜皮をもつ、三つ首竜が、通路を埋め尽くすように現れた。
 魔法カード、“巨大化”の恩恵を受け、その攻撃力は、実に9000。
 この威容に圧され、二体のキメラアントの動きは、否応なく止められた。


「一撃だ」


 海馬は指を一本立て、それを敵に向け、そして吼える。


「――スーパー・アルティメット・バースト!!」


 光の奔流が、通路を埋め尽くした。
 避ける余地などない。キメラアントたちの姿は光の中に消えた。
 光が収まる。
 圧倒的な破壊。あとには塵一つ残っていない。


「バカな戦いか。確かにそうだろう」


 虚空に向けて、海馬はつぶやく。


「だが、これがオレの――プライドだ」


 カードを手に、海馬は構えを解かない。
 通路の向こうから、広場に居たキメラアントたちが侵入してくる姿が見えたのだ。
 残りライフポイント、わずかに100。すでに海馬は消耗しきっている。
 それでも海馬は敵を鼻で笑い、カードをドローする。


「――オレの……ターンだ」






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