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No.4809の一覧
[0] 天災異邦人『高橋良助』~オワタ\(^o^)/で始まるストーリー~(現実⇒原作)[マッド博士](2009/01/25 02:30)
[1] ――― 第 01 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[2] ――― 第 02 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:09)
[3] ――― 第 03 話 ――― [マッド博士](2008/12/22 07:12)
[4] ――― 第 04 話 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:04)
[5] ――― 第 05 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:19)
[6] ――― 第 06 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[7] ――― 第 07 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[8] ――― 第 08 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[9] ――― 第 09 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[10] ――― 第 10 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[11] ――― 第 11 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[12] ――― 第 12 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[13] ――― 第 13 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[14] ――― 第 14 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[15] ――― 第 15 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[16] ――― 第 16 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:25)
[17] ――― 第 17 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[18] ――― 第 18 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[19] ――― 裏 話 1 ―――[マッド博士](2009/01/09 07:58)
[20] ――― 裏 話 2 ―――[マッド博士](2008/12/25 14:26)
[21] ――― 裏 話 3 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:29)
[22] ――― 裏 話 4 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:01)
[23] ――― 裏 話 5 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:02)
[24] ――― 裏 話 6 ―――[マッド博士](2009/01/09 15:05)
[25] ――― 第 19 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:22)
[26] ――― 第 20 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:18)
[27] ――― 第 21 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:43)
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[4809] ――― 第 21 話 ―――
Name: マッド博士◆39ed057a ID:eca59468 前を表示する
Date: 2009/01/25 02:43






憤怒の太陽が荒れ狂うように燃えていた。

柔らかそうなベージュのカーテンが、デザインに凝ったテーブルが、
美しい花柄のソファーが、壁に掛けられた抽象画も、ふかふかの絨毯が、
その小型の太陽によってただの黒い塊へと変えられていく。

もはや部屋の中で原型を留めている物は存在しなかった。
その炎は一瞬にして、高級ホテルのスウィートルームを灼熱の地獄へと変えた。
そしてその熱はその周りの部屋にまで及び、数々の焼死者を出していた。

普通の人間ならば生きることが不可能な状況である。
だがそんな強力な業火の中で……その化物は生きていた。

元々黒く焼け焦げていた体が、炎によって完全に炭化させられていく。
筋肉が縮み、肉体から圧倒的な早さで水分が失われていく。
だが化物はこれぐらいでは死ななかった。
焼け滅びていく肉体を何度も何度も復元して、この地獄の中を生き永らえていた。

しかし何事にも限界はあるものだ。
いくら不死身に近い復元能力を持っていたとしても、何時までも耐えられるわけではない。
復元を重ねるごとに、化物の肉体は徐々に徐々に力を失い、そして存在感を失っていった。
復元に必要なエネルギーが0に近づいていく。化物が消えるのも時間の問題であった。

一刻一刻と迫ってくる死に恐怖し、化物はもがいていた。
もう時間はあまりない。直ぐにでもこの獄炎から逃げ出さなければ。
……だがこの場に居るもう1人の存在がそれを許さなかった。

禍々しいデザインの防護服を着た小柄な男が、化物を両手で捕らえていた。
もがき苦しむ化物を嘲るように高らかに狂い笑っている。
その小さな身体に似合わぬ力強い両腕が、グググと化物の身体を締め付ける。

その恐ろしいまでの力の前に、化物の両肘は破壊された。
これでは逃れることも、男に攻撃を加えることもできない。
そしてそうこうしている間にも、化物のエネルギーはどんどん失われていく。

死が大口を開けて、化物の目の前までに迫っていた。

かつて全身に浴びた爆炎のように、化物の体を太陽が滅ぼしていく。
このまま二度目の死を迎えろというのだろうか……あの日と同じような最後で。

そんなのは嫌だ。絶対に死にたくない。絶対に死ぬわけにはいかない。
かならず生き永らえなければならないのだ。あの人間の分も……。

そんな焦りと執念が、化物に無意識の行動をさせた。
化物は己の右手首をもう片方の手で掴んだ。
それは締め付けられた状態でできた、ギリギリの動きであった。

そして化物はそのまま……。






第21話 『謳歌』






9月4日午前5時。
薄く朝霧がかかり、今だ多くの人が寝静まるヨークシンシティ。
ようやく太陽が昇り始めたこの時間帯。本来ならば街はまだ静かなままである。
だがこの日は違った。

まだ朝早いというのに多くの車が走り、街の至る所にカメラを持った記者が立っていた。
9月1日から9月10日まで、ここヨークシンではドリームオークションが行われている。
となれば彼らはそれを取材するためにいるのだろうか。

それは半分当たりであり、半分外れである。
なぜなら彼らの真の関心事はドリームオークションの最中に起きたある事件だからである。

同時多発テロ。
その文字がヨークシンで、いや世界で発行されている全ての新聞のトップを飾っていた。

9月3日の深夜、ヨークシンシティの各所でテロ事件が発生した。
そのほとんどはセメンタリービル周辺で起き、多数の死人が出た。
その数、実に2000人以上。ヨークシンシティの歴史に残る大惨事であった。

当局は犯行グループは全員死亡と発表していたが、その目的は依然として不明だった。
なぜ犯行グループがこんなテロを行ったのか、テレビや新聞で明かされることはなかった。

またこの事件はもう1つの理由から世界中の人々に注目された。
それは同時多発テロと同じ時間帯に13人の一般市民がある死因で亡くなったからである。
『衰弱死』……世間で騒がれていた『謎の衰弱死事件』と同じ死因である。
これにより衰弱死事件が人為的な犯行である可能性が高まった。

この混沌とした状況に、電脳ネットでは様々な情報が飛び交っていた。
犯行グループの1人と思われる街で人間を目撃した。
同時多発テロはマフィアの闇オークションを狙った犯行に違いない。
最近ネットで公開されているスナッフ映像は犯行グループのものである。
謎の衰弱死事件の犯人は人間じゃなくて悪魔だ。
……などなど、デマか本当かわからないような情報が大量に流れていた。

人々は真実を知ろうと、ネット・テレビ・新聞などあらゆる媒体から情報を得ようとした。
そして情報を得れば得るほど、人々は不安に駆られていった。

だが真実とは意外と身近にあるものだ。
例えば、何の変哲も無い公園に事件の関係者が居たりするものなのである。
犯行グループの1人と衰弱死事件の犯人が。






ヨークシンの一角にある公園に2人の人間が居た。

1人は道化師風のいでたちをした男。
薄らと笑みを浮かべて、公園の中にあるベンチに向かって歩いている。

道化師が歩く先、ベンチには東洋系の顔立ちの若い男が座っていた。

「よ」

それがもう1人。ヨレヨレでブカブカのビジネススーツを身につけている。
そして気軽な感じで片腕を上げ、ニヤニヤと道化師を見ていた。

「わりぃ~な。呼びつけちまって」

男はそう言ってベンチから腰をあげ、もう1人の男に近づいていく。

「いや、僕のほうも後で会おうと思ってたから……」

大丈夫……と道化師風の男は言おうとしたのだが、その先を続けることはできなかった。
なぜなら近づいた東洋人の男が彼にヘッドロックをかけたからだ。

「イタタ、一体何するんだい◆」

東洋人のいきなりの攻撃に目を白黒させる道化師。
やられたほうからすれば、こんなことをされる覚えは…………腐るほどあった。

「一体何をじゃねーっつの! おみー、俺様のことを利用しようとしただろー!」
「あ、バレたんだ?」

あっけらかんとしたとした道化師の物言いに、東洋人は更に声を荒げた。

「ばれたーじゃねぇYO!! このインチキ奇術師!!」
「イタタ◆」

時折公園を抜けていく人々が、そんな彼らの様子をチラリと見ては通り過ぎていく。
2人の服装は多少変ではあるが、それ以外はおかしなところは何も無い。
友達同士でふざけあっているように見えたのだろう。
2人は知り合いであるようだし、東洋人の男はノリで怒ったフリをしているだけのようだ。

だからこそ誰も気付かない。
まさかこの2人こそが朝のニュースで取り上げられている事件の重要人物だとは。

道化師の名前はヒソカ。東洋人の名前は高橋良助。
前者は同時多発テロの犯行グループ『幻影旅団』の元団員。
後者は謎の衰弱死事件の犯人。

この2人の危険人物は、人々の日常の1コマである公園で、
密談をするために集まったのだった。






『例の公園で会おう』

セメンタリービルから逃げてきたヒソカが、高橋良助に電話で伝えられた言葉である。

どこの公園かは良助は詳しく言わなかった。
だがヒソカにはそれがどこなのか理解することができた。
両者にとって関わりのある『公園』は、たった一つだったからである。

フランクリンを倒して気を失った良助が運ばれた公園。
おそらくはそれが良助の言っている公園であろう。
きっとあの男は物にしたのだろう。化物として活動していた時の記憶を。

そう。良助を運んだのはヒソカであった。
そして……良助と戦うフランクリンを攻撃したのもまた、彼である。
ヒソカはビールを取りに行くフリをして、彼らの戦いを最初から見ていた。
初めから旅団員の誰かと良助を戦わせるつもりだったのだ。
良助に探知機を渡したのはそのためである。

ヒソカの位置が分るという探知機。だが正確に言うとそれは少し違う。
あれは対となるもう片方の探知機の場所が分るという機械だ。
つまりヒソカが持っているもう一つの探知機の場所を示すものだったのだ。
ではヒソカの探知機は一体何を探知するのか。もちろん良助の探知機である。

ヒソカの作戦は簡単だ。
まず良助に探知機を渡し、旅団とマフィアの戦いの場へと誘き寄せる。
次にヒソカの探知機で良助の居場所を探り、そこへ旅団員の誰かをけしかける。
ただそれだけである。それだけで間違いなく戦いが始まる。

旅団員の誰かが戦って死ねば儲けもの。
死までいかずとも、傷が深ければヒソカが止めを刺せば良い。
そうすれば徐々に徐々に旅団の力が削られていく。クロロと戦えるチャンスが増えくる。

ヒソカの目論見通り、その作戦は上手くいった。つまりフランクリンは死んだ。
そしてそれに加えて、クラピカがウボォーギンを倒したようである。
これで旅団の中でもトップクラスの戦闘力を持つ2人がいなくなった事になる。
それに伴い、旅団の戦闘力は激減。旅団の攻略は確実にし易くなった。

だが全てが上手くいったわけではない。

ビールを取りに行っただけの自分が、長い間姿を消していればいずれ怪しまれると、
フランクリンの死体を片付けなかったのが不味かった。
そのせいで、フランクリンの死体から良助の顔が割れてしまったのだから。
これはヒソカのミス。多少怪しまれたとしても、死体を念入りに隠すべきだったのだ。
ハンターリストから、2人が同じ試験を受けていたことが直ぐにわかってしまうのだから。

結果、1日もかからずに良助は見つかってしまった。
おそらくヒソカと良助との間に繋がりがあったことも発覚しただろう。

だが幸運なことに、ヒソカはそのことを追求される前に逃げ出すことができた。
突然消えた探知機の反応。いつの間にか居なくなっていたフェイタンとフィンクス。
そして良助が居たと思われる高級ホテルの最上階から上がる火の手。
それらの事実は、ヒソカが旅団を抜けると決断するのに十分なものだった。
ヒソカは旅団の誰にも見つからないように、セメンタリービルを後にした。






「……ま、この3日間であったことはこれぐらいさ◆」

その後ヒソカは約束どおり良助と公園で会い、そこでこの3日間何があったのか話した。
とは言っても話した内容のほとんどは、ヒソカがなぜ良助を利用したかということである。
そう話すように良助に求められたのだ。

ヒソカは旅団に入った理由やクラピカとの繋がりも含め、
良助を利用した理由とヨークシンシティであった事について包み隠さずに話した。

「……」

しかしヒソカが話し終えたというのに、聞いた本人からはまったく反応がなかった。
ヒソカが下を見ると、良助が公園の地面に横になりながら、何やらブツブツと呟いていた。

「……死んじゃうDeath~~」

その姿を見てヒソカの表情が驚愕に染まった。
良助の頭に深々とトランプが突き刺さり、そこからドクドクと血が流れていたのだ!!
なんということだろう。間違いなく致命傷だ。おそらく彼はもう……助からない。

「酷い……一体誰が……◆」

とヒソカが言った途端、良助が飛びあがって叫んだ。

「おまえじゃ!! おまえがやったんだろーが!!」

顔を血で真っ赤に染めながら、良助が激昂していた。

「元はと言えば君が悪いんだよ。
 君がいきなりコブラツイストなんてかけるから◆」

それがヒソカの言い分であった。

公園で出会うや否やヒソカにヘッドロックをかました高橋良助。
しかも彼はそこで終わらずに、そのままコブラツイストを掛け始めたのだ。
トランプでの攻撃はこれのちょっとした仕返しに過ぎない。

「コブラツイストの仕返しが、脳天直撃のトランプかYO!!
 っつか、マジで比喩じゃなくて、脳にトランプが直撃してるっつーの!!」

頭にトランプを突き刺したまま、良助はブンスカと怒っていた。
まるでギャグ漫画のキャラクターのようである。

……しかし、これは現実である。
普通の人間ならば、頭に10cmもトランプを刺されて生きていられるはずが無い。
ではなぜ高橋良助はそんな状態で生きているのか。

ヒソカは言った。

「ククク、いいじゃないか。どうせ『不死身』なんだから◆」

それを聞くと良助は、ヤレヤレといったジェスチャーをする。

「よくないっつーの。深い傷だとかなりオーラを消費すんだZE~」

そして良助は、ズニュリという音を立てて、頭からトランプを引き抜いた。
それを見てヒソカは愉快そうに笑う。

「ククク。何度見ても飽きないよ。まるで手品だ◆」

額の傷はもうふさがっていた。傷だけではない。
そこから溢れ出て顔を汚していた血液もどこかへと消えていた。
服や地面にもまったく血の染みが残っていない。

「でもその様子だと気付いたみたいだね。……自分がなぜ、絶状態で念が見えるのかを」
「いや~、驚いたわ。まさか自分が『死者の念』だとは思わなかったにゃ~」

そう言って良助はニヤニヤと笑った。

死者の念……即ち『死者が遺した念獣』。
それが良助の正体であり、彼が不死身である理由であった。

絶状態で念が見える……そんな存在は念獣ぐらいしか存在しない。
そしてこれほどの高精度の人型念獣だ。遠隔で操作するには相当難しい。
となれば可能性は2つ。よほど鍛えられた能力者であるか、死者の念であるかだ。
どうやら良助は後者だったようである。

「っつか、おま、とっくにそのことに気付いてただろ! 教えろYO!!」

ヒソカは良助がチェリーを殺したのも目撃していたはずだし、
ハンター試験の3次試験ではそのことに気付いた素振りも見せていた。
間違いなくヒソカは良助が念獣でることに気付いていたはずなのだ。
ではなぜヒソカはそのことを良助に教えなかったのか。

「アハハ、ゴメンゴメン。そっちのほうが面白そうだと思ってさ◆」
「面白そうじゃねぇYO!!」

どうやらただの気まぐれだったようである。
ある意味お茶目な性格とも言えるが、要はこの危険人物を放置したことに他ならない。
良助や他の誰かにそのことを話していれば、
何十人も衰弱で死ぬことはなかったかもしれいない。
であるのにヒソカは、ただ単に面白そうという理由でこの化物を放置した。

「ん?」

とそこでヒソカが疑問の声を上げた。
不思議そうなそうな表情を浮かべ、良助の服装を見ている。

「それ、だいぶサイズが合ってないみたいだけど、どうしたの?」

ヒソカは良助が着ているビジネススーツを指差した。
それはダボダボでヨレヨレで、明らかに良助の体のサイズよりも大きかった。
悪趣味ではあるが、先日高級そうな格好をしてきた良助らしくない服装だった。

「あぁ、この服? ちょい~っと食事がてら拝借しただけだよ~」

良助はニヤニヤと笑い、いつもと変わらぬ様子でそう答えた。
だがその変哲のない返事を聞いた瞬間、ヒソカの目が愉悦と狂気で濡れた。
彼は更に良助に質問をする。

「へぇ~。それじゃ聞くけど……『食事』ってどっちの?」

その言葉を聞いて良助はキョトンとした表情を浮かべた。
それも当然だろう。どっちの食事というのは不可解な質問である。
食事といったら普通、朝昼夕の3つだ。しかしどっちということは2つである。

「どっち……ってどういうこと?」

怪訝な表情を浮かべる良助に対して、ヒソカはこういった。

「ククク、簡単な話だよ。
 人間としての食事なのか、それとも『化物』としての食事なのか……ってことさ◆」

その言葉を聞き、良助はハァと深い溜息をついて下を向いた。
この男は何変なこと言っているんだという意味合いの溜息だろうか。
いや、それにしては様子がおかしい。

「ったく何馬鹿なこと言ってんのさ~」

彼の俯く姿からは呆れた雰囲気が漂ってくる。
だがその纏っている空気は何やら穏やかではなかった。
良助は顔を上げヒソカのことを見た。

「……そら『化物』として食事に決まってるっしょ~」

そして相変わらずの軽い調子のままでそんな言葉を言い放った。
それは話している内容さえ気にしなければ、本当に明るい一言だった。
だがその内容は穏やかなものではなかった。

化物としての食事。
それは普通の人間の食事とは全く異なる行為であった
念獣である高橋良助が生き永らえるために必要な行為。謎の衰弱死事件の真相。

死者の念である良助は自分自身でオーラを生み出すことができなかった。
それ故に彼は、どこからか自分の肉体の糧となるオーラを手に入れなければならなかった。
例えば自分以外の生きている人間達から……。

即ち『人喰い』。
それがヒソカと良助の言っている化物の食事である。
良助がオーラを吸った人間は皆、衰弱死となって死んでいった。

つまり良助はどこかの誰かを殺し、オーラとそのビジネススーツを奪ったのである。
そしてそのことを先のような明るくて軽い言葉で言ったのだ。

「ククク」

自分がそんな人喰いの化物であるとわかったのだ。
普通ならばもっとショックを受けて、落ち込んだり悲しんだりするものだ。

だが高橋良助にはそれがない。
それどころかヒソカに対して、人間を喰ったことを平然と話している。
間違いない……この男は罪悪感など欠片も感じていない!

「やっぱりイイよ……君は◆」

それがヒソカは堪らなく面白かった。
ヒソカにとって面白いのは、この男が人喰いの化物であるということではない。
自分が化物だと知ってなお、何も変わらない異常こそが面白いのだ。

「はいはい、異常嗜好乙。っつか、もうそろそろ本件に入ろうZE」

狂ったようにクククと笑うヒソカに対して、良助がニヤリと笑ってそう言った。
その言葉に今度は逆にヒソカが怪訝そうな表情を浮かべた。

「……本件? 一体何のことだい?」

電話で話した限りでは、本件などは別に無かった。
ただ単純に会って話をしないかというだけだったはずだ。
一体は何を言っているのかという視線をヒソカは良助に向けた。

その視線を受け、良助は「チチチ」と人差し指を振る。

「本件っつーたら、決まってんじゃん。クロロとのタイマンのことさ~。
 そのためにわざわざ俺っちに会って、全部話したんだろ~? えぇ?」

そう言って勝ち誇ったように笑いを浮かべる良助。
その言葉を聞いて、ヒソカは目を見開いた。
なぜならそれこそが良助と会った理由だったからだ。

旅団を抜けた今、クロロと戦える可能性はほとんど無くなってしまったと言っていい。
だがヒソカは諦める気にならならかった。
どんな手を使ってでも、クロロとタイマンで戦いたかった。

クロロは一仕事を終えると姿を消し、次の仕事まで姿を現すことはない。
そしてヒソカはもう旅団員ですらない。
今回の機会を逃せば、もう戦うことは愚か、会うことすら難しくなるだろう。

だが状況が全てヒソカにとって悪いわけではなかった。

まず現在旅団は2人の戦闘員を失い、かなり戦闘力を失っている。
更にフェイタンが全身疲労で動けなくなり、ヒソカは旅団から抜けた。
これで残りの団員は9人。

そして現在、ヒソカに2人の協力者がいる。
ヒソカが今話している、フランクリンを喰らった恐ろしき化物『高橋良助』。
ウボォーギンを倒すほどの能力を身につけた、復讐に燃えるクルタ族の末裔『クラピカ』。
他にも何人か動かせそうな駒に心当たりが在る。

悪くない。十分だ。
この状況を上手く利用すれば、クロロとタイマンができるかもしれない。
いや、何とかしてタイマンまで持っていくのだ、自分が。

だがその為にはまず高橋良助を説得し、何とか協力させなければならない。
そう考えたからこそヒソカは高橋良助に会いにきたのだ。
ついさっき、良助に自分の現状について隠さずに話したのもこのためである。

「……当たりだよ」

つまり良助の言っていることは全て当たりであった。ヒソカはそのことを認めた。

「凄いね。まさかここまで見破るなんて◆」
「だから言っただろ? 俺様はIt's ジーニアス! 天・才だってな!!」
「……なんだか、本当にそんな気がしてくるよ」

ヒソカは一度深く息を吐いてから、もう一度良助のことを見た。

「で、どうなんだい? 手伝ってくれると「いいよ」凄く嬉し…………え?」

手伝ってくれるのかどうかを問いかけるヒソカのセリフに、良助の一言が紛れた。
だがヒソカにはそのセリフの意味が一瞬分らなかった。

「今、なんて?」
「ん? だから手伝ってもいいよっていいたんさ。面白そうだしにゃ~」

良助はヒソカに手伝うといったのである。あまりにあっさりとした了承であった。
ポカンと目をパチパチとさせるヒソカ。この答えは彼にとって予想外であった。

「驚いたな。まさかこんなに簡単に手伝ってもらえるとは思わなかった……」
「ん? あぁ、俺が怒ってると思った? 利用されて」

ヒソカのキョトンとした顔を見て、良助が楽しそうに笑った。
いつもの彼らしくない表情が面白かったのだろう。そのまま話を続ける。

「そらまぁ、あんまり気分がいいもんじゃねーけどさ~。
 なんだかなんだ言って、旅団の奴らと殺りあうのも面白かったしにゃ。
 こんな楽しそうなイベント、俺様が逃すわきゃねーだろ!」

そう言って、良助はガハハハハと笑った。
どうやら利用されたことはあまり気にしていないらしい。
公園であった時の怒りは、ただのノリによるものだったのだろう。

「……」

だがヒソカが予想外だと感じたのは、そんな些細なことではなかった。
もっと根本的なところで、良助は中々同意するまいと考えていたのだ。

それは良助という念獣の存在理由。ヒソカは予想していた。
おそらくこの念獣は『生き永らえる』ために存在していると。

死んだ術者と同じ姿をした念獣。
つまり術者が自分自身に関わる何かに未練や執念があったのだろう。
となればその執念や未練が何かを想像するのはそう難しいことではない。

十中八九、『生きたい』『死にたくない』と思い!
それに違いない。

おそらくあの焼死体のような姿は彼が死んだ時の姿。
そしてあの凶暴な動物のような人格こそが執念と未練の権化なのだろう。

そんな念獣がわざわざ自分を危険に陥れるようなマネをするだろうか。
まず普通に考えればありえない。

それ故、今まで無謀なことを何度もしてきた良助であるが、
自分が死者が遺した念獣であることを知った今、
ヒソカは良助が簡単に頼みを受けるとは思えなかったのだ。

だが良助はあっさりとヒソカの提案に頷いた。
ヒソカの予想は間違いだったのだろうか。

では、チェリーやフランクリンを襲った時に現われたあの人格は……

「……どうしたん? ヒソカ?」

考え込んでいたヒソカに対して良助が声をかけた。

「……なんでもないよ◆」
「あ、そう」

ヒソカの返事に納得したのか、良助はそれ以上追求してこなかった。

「んじゃさ~、ちょっとクラピカに連絡してくんね?
 1つだけ気になることがあんのよ」

そして話を変えて、再びヒソカに声をかける。

「わかったよ。じゃ、ちょっと連絡してみるね◆」
「よ・ろ・す・く~」

ヒソカは携帯を取り出し、クラピカに向けてメールを打ち始めた。

ヒソカは先ほどの疑問を考えることをやめた。
彼の予想が正解であれ間違いであれ、良助が手伝ってくれることには変わりない。
ならば今はどうやって旅団を攻略するかを考えるべきだ。
ヒソカにとってクロロと戦うことこそが至上の目的なのだから。

(……絶対あなたは……僕が殺る◆)

クラピカへのメールを打ちながら、ヒソカは旅団攻略に関して思考を深めていった。






(きっとヒソカ奴、疑問に思ってんだろにゃ~)

メールを打つヒソカを見て、良助は頭の中でそう呟いた。

一体なぜ『生き永らえる』ための念獣である自分がヒソカを手伝うのか?
おそらく先ほどのヒソカの沈黙は、その疑問について考えていたものだろう。

だがヒソカは少し勘違いしている。

この肉体には2つの意思が存在する。
一つは『生きたい』『死にたくない』という執念。肉体を具現化する意思。
そしてもう一つはその残り滓。それが肉体を操作する意思。

如何に死者の念といえどもできることには限界がある。
元の世界から流れ辿りついた妄執は、この思いが形になる世界で肉体を具現化した。
だが人間丸々1人を完全に具現化するのはそれだけで困難なのだ。
それに加えて肉体の操作まで行うとなるともっと難しくなる。
できなくは無いだろうが、オーラの消費が激しくなり効率が悪い。

故に妄執は、この肉体を操作させるためにもう1つの存在を作り上げた。
化物が生き死にに関わる感情だけで練り上げられた存在ならば、
それは生き死にに関わる感情以外で練り上げられた存在。

死の恐怖。死の絶望。死の憤怒。死の悲哀。死の後悔。
死の不安。死の憎悪。死の怨恨。死の無念。

それら全てを失った妄執の残り滓! 完璧な欠陥品!

そう。それこそが今までヒソカと話をしていた人格。
火傷男ではない高橋良助の正体であった。

故に高橋良助は何も恐れない。
命がけの試験であるハンター試験も、死神であるヒソカも、
幻影旅団の団員も、誰かが死ぬことも、そして自分が死ぬことも……。
恐れるという感情が存在しないのだ。

ここがヒソカの勘違いした点だ。
つまり『生きたがっている』のはあくまで肉体を具現化する意思であって、
肉体を操作する彼にとっては死のうが生きようがどちらでも良いのである。
ただ自身の興味を持つことにだけ、面白いと思うことだけに突き進む。
そして自ら危険の中に飛び込んでいく。

だが化物は危険に敏感であった。
肉体が危険な目、死ぬような目に合うたびに、その化物は目覚めた。
トンパやフランクリンはその化物に殺されていった。

自分勝手に自由闊歩し、その行き先で災厄をばら撒く存在。
化物なのは肉体を具現化する妄執だけではなかった。
肉体を操作する『高橋良助』と言う人格もまた化物だったのである。

故に高橋良助は止らない。
どこまでもどこまでも災厄をばら撒き、人を殺し続ける。その身が滅びるまで。

(しっかし、まぁ、皮肉なもんだな~)

全ての執念の残り滓が、友人と良く似た性格とは……。
いや、もしかしたら肉体を具現化する妄執が、わざわざこんな性格にしたのだろうか。
友人の分も生きていくために、彼に良く似た性格を再現したのだろうか。

まぁどちらにせよ。今の良助には関係ないことだ。
彼が行動する基準は愉しいかどうか、気持ちいいかどうか、面白いかどうか。
彼が行動しない基準は面倒くさいかどうか、可能かどうか。
それだけである。それ以外に彼の行動を縛るものは存在しないのだから。

「終わったよ◆」

そんなことを考える良助にヒソカが声をかけた。

「なんとかアポを取ることが出来たよ。今すぐ会いにいくことになったから◆」
「へへへ~、ついに鎖野郎と対面ってか! wktkするZE!!」

そう。
何人死のうと、何を犠牲にしようと、良助は止らない。
彼は死んだ友人の分まで……人生を謳歌しなければならないのだから!!

ヒソカと良助は公園を後にし、クラピカたちのいるホテルへと足を向けた。






こうして、この2人と幻影旅団との戦いの火蓋は切って落とされた。
そしてそれはこのヨークシンシティを更に血で染める、争いの始まりでもあったのである。






つづく


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