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No.4809の一覧
[0] 天災異邦人『高橋良助』~オワタ\(^o^)/で始まるストーリー~(現実⇒原作)[マッド博士](2009/01/25 02:30)
[1] ――― 第 01 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[2] ――― 第 02 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:09)
[3] ――― 第 03 話 ――― [マッド博士](2008/12/22 07:12)
[4] ――― 第 04 話 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:04)
[5] ――― 第 05 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:19)
[6] ――― 第 06 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[7] ――― 第 07 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[8] ――― 第 08 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[9] ――― 第 09 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[10] ――― 第 10 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[11] ――― 第 11 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[12] ――― 第 12 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[13] ――― 第 13 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[14] ――― 第 14 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[15] ――― 第 15 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[16] ――― 第 16 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:25)
[17] ――― 第 17 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[18] ――― 第 18 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[19] ――― 裏 話 1 ―――[マッド博士](2009/01/09 07:58)
[20] ――― 裏 話 2 ―――[マッド博士](2008/12/25 14:26)
[21] ――― 裏 話 3 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:29)
[22] ――― 裏 話 4 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:01)
[23] ――― 裏 話 5 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:02)
[24] ――― 裏 話 6 ―――[マッド博士](2009/01/09 15:05)
[25] ――― 第 19 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:22)
[26] ――― 第 20 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:18)
[27] ――― 第 21 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:43)
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[4809] ――― 第 20 話 ―――
Name: マッド博士◆39ed057a ID:eca59468 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/25 02:18






その化物は既に自分が何者かなんてとっくに忘れていた。
ただ覚えているのは『何があっても生きなければならない』という思いだけ。
そして化物を動かしているのは死から生まれた感情だけである。

死の恐怖。死の絶望。死の憤怒。死の悲哀。死の後悔。
死の不安。死の憎悪。死の怨恨。死の無念。

生きるために、死なないために、その存在は手段を選ばなかった。

化物は本能的に生きるのに必要なものがわかったのだ。
それは化物の肉体を構成するのと同種のエネルギー。人の体に宿るエネルギー。
故に化物は他者から奪う能力を身につけた。

実際にエネルギーが足りなくなって来た時は、
そのたびに他の人間からエネルギーを吸収していった。
エネルギーを奪われた人間はみんな死んでいった。
化物の『食事』により、何十人もの人間が命を奪われていった。

罪悪感?
そんなものを感じるわけが無い。そんなもの苦痛と暗闇の牢獄に捨ててきた。
何をしても構わない。何を犠牲にしても構わない。

絶対にだ。
絶対に、絶対に、絶対に、生き永らえる!!
なぜなら自分は……ただその為だけに存在しているのだから。






第20話 『死闘』






その存在が眼を覚ました時、目の前には既に3人の敵がいた。

黒い外套を羽織った小柄な人間と頑強そうな肉体を持つ背の高い人間。
そして額に模様のある黒いボロボロの服を着た人間。

この3人……いずれも化物を殺しかねない強さを持っている恐ろしい人間だ。
化物の脳裏に、道化師風の人間とエネルギーを飛ばしてくる巨体の人間が思い浮かぶ。
おそらく眼前に立つこの人間達はその2人と同程度の戦闘能力を持っている。

こいつらが保有しているエネルギーは、普通の人間などよりも遥かに多い!!
できることならばこの3人を食事したいところ。
もし食することができたなら、自分の生存確率は飛躍的に高まるだろう。

だがおそらくそれは不可能だ。

化物は巨体の人間に殺されかけた事と、その時の恐怖を思い出した。
どんどんどんどん削られていく、肉体のエネルギー。
あの人間が加勢しなければ、おそらく化物は消え去っていた。

そんな恐ろしい奴に匹敵するほどの人間が、3人も敵対している。
生き残れる可能性は限りなく薄い。

そんな獣らしい合理的な思考が働いた瞬間、彼はもう動き出していた。

爆発するように膨らむ化物の脚。
自分の肉体を構成するエネルギーをそこに集中させたのだ。
そしてそのエネルギーは地面へと向けて収束していく!!

化物が勢い良く前方へと飛び跳ねた。
向かう先はこの広い部屋に備えられたベランダ。

「……ッ!! 初っ端から逃げるつもりか!?」

黄金色の髪の人間がそんな言葉を叫んだ。
化物はその人間が何を言っているのかわからなかった。
分ったとしても止りはしなかっただろう。
彼にとってはこの場から離脱することが、もっとも生き残る確率が高いのだから。

化物の行動は人間達にとって予想外のものだったのだろう。
彼らの動きが一瞬遅れた。そしてその一瞬は化物が逃走するのに十分な時間であった。

化物は爆発的な勢いでベランダの窓を突き破ろうとする!
そして窓にぶつかろうとし……

「……!?」

化物は『部屋の中』に居た!

何が起こった? そんな思考が頭の中を支配する。
化物は確かに窓に当る寸前のところまで行っていた筈だ。
だが次の瞬間にはなぜか部屋の中に戻っていた。

彼を追おうとした小柄な人間と金髪の人間も、化物の突然の転移に驚いている様子だった。
おそらく彼らも今一体何が起きたのか知りえていないのだろう。

この理解し得ない現象を前に整然としているのはただ1人。
右手に黒い本を持った額に刺青をしている人間だけだ!

化物の困惑は一瞬であった。2人の人間が驚いている間に化物は再び動き出した。
今度は部屋に取り付けられたドアに向けて突進していく。
化物はそのままドアを破壊して、外に出ようとした!!

だがその刹那であった。
本を持つ人間が纏っているエネルギーが一気に膨らんだのだ!!

そして化物は元の場所に戻されていた……!!

化物は理解した。この現象はこの人間の仕業だと。
この場から離脱するためには、まずこの人間を何とかしなければならないと。

そのために動き出そうとする化物。
だが化物にはもうそんな時間は与えられなかった。

――ドンッ

化物の右肩から先が吹き飛んだ!! 血をばら撒いて右腕が回転して飛んでいく!
肩口の恐ろしいまでに綺麗な切断面から血が噴出していた。

まるで自然現象のように化物の右肩は突然弾け跳んだ
だがそれは自然に起こったものではない。
化物のその白く濁った眼でしっかりとその瞬間を捉えていた。

化物はその憎悪に塗られた2つの眼を背後へと向ける。

「反応悪し。不死身なきゃもう死んでるね」

そこにはニヤっと眼を細める小柄な人間が立っていた。
切れ味が良さそうな刀を片手で持っている。

この人間だ。
この人間が化物に通り過ぎがてらに、鎖骨から脇にかけてを斬ったのだ!!
それは人間に出来るとは思えない程の凄まじい速さであった。
空を切る燕に匹敵するスピードを人間がたたき出したのだ。
その動きをなんとか『視認』することができた化物であったが、
『反応』することまではできなかった。

「次行くね」

小柄な人間が消えた!! 次の斬撃が来る!!
警戒していたこともあり、今度は化物も反応することができた。
今居たその場所を刀が切り裂くその前に、化物は距離を取ることができた。

跳んで己から離れていく化物を、小柄な男は目で追っていく。
再び切りかかって来ると思った化物であったが、
小柄な男は目をニヤリと細めたまま、その場から動くことはなかった。

なぜなら……これこそがその人間の狙いだったのだから!

「オラよォ!!」

腕が失われた化物の右側面を、巨大な鉄球で殴られたような衝撃が襲った!
背骨を、周りを覆う腹筋ごと叩き折られ、化物の肉体が二つに畳まれた!
内在するエネルギーで強化された彼の肉体ですら、耐えることの出来ない恐ろしい威力!
化物は思いっきり吹っ飛ばされた!

だがその破壊された肉体は、部屋の壁に衝突した瞬間には既に完璧に復元されていた。
化物は壁を両の脚で踏んでショックを吸収し、静かに地面に下り立つ。
そしてたった今、自分のことを攻撃した人間のことを見た。

「お。バラバラになるかと思ったんだがな」

そこには金髪長身の人間が右拳を前に突き出して立っていた。
今の強力な攻撃はこの人間によるものだったのだろう。

「ハハ、なかなか硬いね」
「あぁ、五回廻したぐれーじゃ、大したダメージにならねーようだ」

しかしこの2人……ただ強いだけではない!
おそらく小柄な人間の二度目の攻撃は、自分が避けることを前提としたもの。
急な攻撃を避けようとする自分に出来た隙を、仲間に突かせるもの!
疾風の斬撃と豪腕の強打。この2つによる二段攻撃!!
唯でさえ厄介な2人の人間が、連携によって更に厄介になっていた。

そしてそこに更なる追い討ちが襲う!

――ボトッ

何かが床に落ちる音がした。
化物がそこに目を向けると、そこには黒く焦げた左手が落ちていた。
それは自分自身の左手であった!

何一つ痛みは感じなかった。そして血も出なかった。
であるのに、彼の左手は確かに腕から切り離されていた。
ある存在の仕業によって。

それは魚であった。
全長1メートルほどある骨で出来たような奇怪な魚が、空中に泳ぐようにして漂っていた。
その奇怪な魚は床のほうに近づいていき、たった今地面に落ちた彼の手を喰らい始めた。

これもおそらくは敵!!
化物はすぐさま左手を復元し、漂っていた魚をその手で鷲掴みした。

『ギィイイイイイイイ』

魚類とは思えないような気味の悪い声を上げて、身悶えるその生き物。
そして化物はそのままこの魚からエネルギーを奪おうとする。

「……?」

だが化物はこの魚から一切エネルギーを吸うことができなかった。
おかしい生き物であれば、皆例外なくエネルギーを持っているはずだ。
それがなぜ、この魚からは吸えない?

仕方なく化物はこの奇怪な魚を思いっきり振りかぶり、壁に投げて叩きつけた。
大きな衝突音を壁にぶつかる奇怪な魚。
だが一度「ギィ!」と悲鳴をあげただけで、まったく効いていないようである。
再び悠々と虚空を泳ぎ始めた。

普通の魚ならば今の衝撃で死んでいるはずである。
エネルギーを吸えないことといい、死なないことといい、この魚普通では無い。

この魚は動きも遅く、一つ一つのダメージもこの2人の攻撃ほどは大きくはない。
だがその小さなダメージも積み重なればヤバイ。
気付けば同種であると思われる魚が他に4匹ほど漂っていた。

恐ろしく速い小柄な人間、圧倒的な攻撃力を持つ金髪の人間、
謎の転移を使ってくる本を持つ人間、そしてこの5匹の奇怪な魚ども。
その全てが自分に襲い掛かってくる。
皆、自分を殺すために……。

「……」

圧倒的に不利な状況の中、化物の体がブルブルと震え出した。
そして両手で顔を抑えはじめた。恐怖を感じているのだろうか。

……いや、違う!
両手の指が額にめり込んでそこからドクドクと血が流れ出している。
指の隙間から覗く白い右目は血で赤く染まり、まるで鬼や魔物の目のようだ。
この化物の頭を支配している感情は、恐怖なんかではない!!

化物が両手を広げ、背中を仰け反り、腹の底から声を吐き出した。
それは憤怒の咆哮!! 化物は激しく怒り狂っていた!!

自分は生きなければならないのだ!!
絶対に死ぬわけにはいかないのだ!!
それを邪魔する奴らは皆…………殺し尽さなければならない!!

化物の目と意識は燃えるような強い殺意に塗りつぶさていった。






「やと殺る気なったね、こいつ」

ガンガンと殺気を送ってくる火傷男を見て、フェイタンはそんなことを言った。
どうやら自分達の攻撃によって肉体を傷つけられ、怒り心頭のようである。

「どうするよ?」

フィンクスがフェイタンを見てそう言ってきた。
最初は逃げようとしていた化物だが、今は先ほどよりも明らかに攻撃的になっている。
黙って攻撃を喰らってくれるようには思えない。

「決まってるね。同じことするだけよ」

だがそれでもやることは変わらないだろう。フェイタンはそう判断した。

確かに火傷男の力はかなり強そうだ。おそらく捕まれば、それから脱するのは困難だろう。
だがその捕まえるというのが無理な話なのだ。
この化物に自分を捕まえられるはずがなかった。
先のやり取りを見る限り、反応速度も肉体の速さもフェイタンのほうが圧倒的に上だ。
小柄で体重の軽いフェイタンは幻影旅団の中でもトップクラスのスピードを持っていた。

「オーケイ」

フィンクスはそう返事をすると、右腕を廻し始めた。
腕を廻せば廻すほどパンチの攻撃力が上がるという強化系能力。
それがフィンクスの能力『廻 天(リッパー・サイクロトロン)』であった。
この能力で上がったフィンクスのパンチ力は絶大なもので、
10回転以上させて生き残った相手は、フェイタンの知る限りいなかった。
だが戦闘中に腕を何度も廻すというのは、致命的な隙にもなる。

それ故、フィンクスとフェイタンはコンビを組むことが多かった。
フェイタンが持ち前のスピードで敵を翻弄し、
フィンクスが腕を廻す時間とパンチを叩き込む隙を作り出す。
よほどの手練でもこれで瞬殺である。

不死身と言うだけで瞬殺とはいくまいが、このコンボは火傷男にも通じるはずだ。
現に先ほど、そのコンボでフィンクスは強烈な一撃を叩き込むことができた。
ならば同じことを繰り返して火傷男のオーラを削っていくだけだ。

それに今はそれだけではなく、強力なサポートも加わっている。

逃げようとした火傷男を一瞬で部屋に戻した謎の転移。
火傷男を囲むようにして漂っている奇妙な外見をした5匹の魚。
どちらも初めて見るものだが、おそらくは団長が誰かから盗んだ能力だろう。

あくまでこちらの攻撃のメインはフィンクスの拳だ。
団長の出しているあの念魚はその拳を当てるため隙を作り出すのに最適だった。
おそらく相手も相当鬱陶しがっているはずだ。

そして更に言うと、団長のサポートによって2つわかったことがあった。

一つ、『オーラ吸収』の発動条件。
先ほど念魚を左手で捕まえた時、奴は何をするでもなくしばらく持ったままだった。
獣のような奴の振る舞いからすれば、この行動には違和感が残る。
だがそれが奴の『オーラ吸収』という能力の発動条件であるならば納得である。
左手だけなのか、全身でも大丈夫なのかは分らないが、
奴は触れることで相手のオーラを奪うのだろう。

そしてもう一つ、それは『オーラ吸収』の制約!!
もし奴が何からでもオーラを吸うことが出来るのならば、もう念魚は消えているはずだ。
だが念魚は今も変わりなく空中を漂っている。
それはつまり、奴は『具現化した物』からはオーラを吸えないということ!!

これが分っただけでも大きな収穫である。
少なくとも触れられなければフェイタンはオーラを吸われることはないのだから。
それに具現化物から吸えないなら、刀からオーラを吸われることもあるまい。

またおそらくだが、あの能力は一瞬のタイムラグを必要とする。
でなければパンチを当てた時点でフィンクスのオーラも吸われているはずだ。

それにしても……団長はこうなることを予想してあの念魚を出したのだろうか。
敵にダメージを蓄積させ、フィンクスの攻撃の隙を作り出し、
相手の能力を丸裸にしていく……正に一石三鳥の妙手!!
いくら多数の能力を保有していたとしても、それらを適切に使えなければ意味が無い。
だがその点に関して団長はまったく心配がいらなかった。
むしろ元の持ち主よりも奪った能力を使いこなしているかもしれない。
本当に恐ろしい男である。

ともかく自分のやることには何も変わりは無い。
ヒット&ウェイで奴の手足や頭を切り飛ばし、奴の隙を作り出せば良い。

フェイタンがその場から前に飛び出た。
火傷男がその一瞬後に右手を伸ばし、向ってくるフェイタンを捕らえようとする。
だが遅すぎる!! フェイタンが通り過ぎると同時に伸ばした右腕が飛ぶ!
まったく速さが追いついていない。

フェイタンが再び火傷男に襲い掛かる。
火傷男はそれに残った左手を伸ばすが……無駄!!
今度は左腕が血を流して飛んでいく。触れることすらできていない。

そこに群がるようにして念魚たちが襲い掛かってくる。
火傷男は両腕を復元させ、念魚たちを払おうとするがそれが大きな隙になった。

その隙を狙いすましてフェイタンが火傷男の左足をぶった切った!
それは隙を更に大きくするための攻撃! 火傷男の身体がグラリと傾く!

その倒れる勢いに合わせるようにして、フィンクスが下からアッパーを振りぬく!
火傷男は復元していた両手でそれをガードする! そして化物の両腕が弾け飛んだ!!

腕を失った化物は部屋の端まで飛んでいき、頭から壁に思いっきり叩きつけられた。
グチャリという音を残し、ベットリと壁に血を塗って、火傷男の身体が床に落ちる。
その崩れ落ちた肉体に、死肉を漁るハイエナのように念魚が群がっていく。

だが次の瞬間、5匹の念魚が全て吹き飛ばされた。
そこには完璧に元通りになった火傷男が立っていた。
この男は不死身。この程度で倒れるわけがない!

「でも、だいぶ弱くなたね」
「プレッシャーがさっきより薄くなったな。ダメージは蓄積されてるみてーだ」

だが団長の言っていた通り、この不死身には限りがあるようだ。
絶状態のため、見た目にはオーラが減っているかどうかはわからないが、
先ほどよりも確実に威圧感が減っていた。

フェイタンが横に飛んだ。
部屋の壁と天井を足場にして、火傷男の頭上、死角から襲い掛かる!
一瞬の殺気を感じてか、火傷男は上を向く。そしてその瞬間、頭が真っ二つに割れた。

(やはりね。反応が悪くなてる)

さっきまでの反応もあまり良いものではなかったが、今はそれよりも更に悪い。
念獣の動力源はオーラ。そのオーラが減ることは念獣の性能が下がることを意味する。
ということは時間が経てば経つほど、火傷男の勝率は下がっていくことになる。

(思たよりも、簡単そね)

フェイタンは脳天が割れた火傷男に接近し、今度は頭を刎ねた!






(問題なさそうだな……)

クロロ・ルシルフルは頭の中でそう呟いた。

あれから何度フェイタンが奴の身体を切り、何度フィンクスが拳を叩きこんだのか。
気付けば火傷男は、ただ防御と復元だけに徹するようになっていた。

ほとんど棒立ち状態になり、フィンクスのパンチだけを警戒しているだけ。
フェイタンに頭を切られないように、首から上だけを守っている。
そしてクロロの具現化した念魚には食われるままになっていた。

下手に動いてフィンクスの一撃を喰らうよりは、
まったく動かずにフェイタンや念魚の攻撃を喰らったほうがマシと判断したのだろう。
だがこのままでは、死ぬまでの時間が減るだけで何の解決にならない。
火傷男がオーラを使い果たし、この世から消えるのは時間の問題だと思われた。

クロロとしては、もうこの男に用はなかった。
もし火傷男が生きた誰かの念能力であるならば、
『盗賊の極意(スキルハンター)』を用いて奪うつもりだった。
だが実際にはこの男は死者の念だった。
『盗賊の極意』でも、死者の念能力までは奪うことはできない。
ならばフランクリンの仇討ちとして殺すだけだ。

(鎖野郎のことを先に調べておけば良かった)

ウボォーギンをも封じ込める鎖。それもまた面白そうな能力である。
もし火傷男が死者の念だと知っていれば、先に鎖野郎のほうを調べていただろう。

他にも気になる点がある。
なぜ初日の襲撃が知られていたのかという事だ。
ヒソカが事前にマフィアに垂れ込みしていたのだろうか。
それとも何かしらで情報が漏れていたのか。

だがクロロはその可能性は極めて低いと考えていた。
ヒソカ以外の団員が情報をもらすとも思えないし、
ヒソカが仮に垂れ込みしたところで信頼されるとも思えない。
とすればそれ以外の何かで旅団の襲撃がばれたのだ。

もしそれが念能力だとすれば……

(まぁいい)

終わったことは後で考えればよい。
それに今は火傷男と戦っている最中だ。奴が完璧に消えるまで気を抜かないほうがいい。

だが……本当にこのまま終わるのだろうか。
クロロの脳裏にそんな微かな不安が昇った。

反撃するでも避けるでもなく、じっとフェイタンと念魚の攻撃を耐える火傷男。
このままではいずれオーラが無くなって消滅することを、奴だって知っているはずだ。
それなのに火傷男の目には恐怖も焦りも存在しなかった。
ただ純粋に怒りの感情のみがその白く濁った眼を染めている。
何度も攻撃をしてきたクロロ達への恨みを溜め込むように。

クロロには火傷男の静けさは何か不気味なものに思えた。
その姿はまるで獲物を黙って待つ猛獣のように見えた。

だがそんなクロロの心配とは裏腹に、彼らの勝負は決まろうとしていた。
フェイタンが痺れを切らし、少し強引な手に出たのだ。

これまで斬って直ぐに距離を取っていたフェイタンであったが、今度は離れなかった。
火傷男に接近して、そのままその場で止ったのだ!!

挑発。
いつまで黙てるつもりね……というフェイタンの言葉が聞こえてくるようであった。
フィンクスもそれを見て、ニヤリと笑った。

そんな賭けなどしなくともいずれ勝てる戦いである。
出来る限り無茶なことはして欲しくないと思うクロロ。
だが結果としてフェイタンの挑発は功をなした。

火傷男が首のガードを解いて、フェイタンに組みかかったのだ!
だが当然フェイタンのスピードに適うわけも無く、あっと言う間に首を刎ねられてしまう。

感覚器官を失い状況を把握できなくなった火傷男。
すぐさま失われた頭を復元したが、その時にはもう遅かった。
たっぷりと腕を廻して攻撃力を上げたフィンクスの拳が、すぐそこまで迫っていた!!

――パンッ

火傷男の右半身が……弾けた。
一目で判断できるような大ダメージ!

「……チッ」

だが、それにも関わらずフィンクスがしたのは舌打ちであった。

(直撃しなかったか……)

横から見ていたクロロには、今何が起こったのかわかった。

フィンクスはあの時既に20回以上、右腕を廻していた。
10回程度でも人間をバラバラにする威力を持つ『廻天』である。
20回ともなればウボォーギンの『超破壊拳(ビックバン・インパクト)』にも
近い威力を持つこととなる!!

だがそうにも関わらず、火傷男は右半身を失うだけで済んだ。
なぜか!?

あの一瞬で火傷男は避けたのだ。
腰の骨を自ら折り、ありえない動きで角度でフィンクスの拳をかわそうとしたのだ!!
結果、フィンクスの『廻天』は火傷男の右脇腹をかする程度で終わってしまった。
もし直撃していたら間違いなくそれで終りだっただろう。

だがそう悲観するものでもない。
望んだ威力ではなかったにしても、傷男に大ダメージを与えたということに変わりは無い。

その証拠に……

「遂に不死身も終りってか!」

火傷男の身体が透け出したのだ!
おそらく具現化が上手くできなくなるほど、オーラが少なくなったのだろう。
ようやく終りが見えてきた!!

その『終りが見えてきた』というのが……クロロたちの油断に繋がった。

彼らの気が緩んだその瞬間!!

――ガチャ

そんな音と共に宙を漂っていた5匹の念魚が悲鳴と共に消えたのだ!!
音がした方へ3人は一斉に視線を送った。

そこには……

「お客様! 一体何事で……ひっ」

部屋のドアを開けて立っているホテルのボーイの姿があった。
これがクロロの具現化していた念魚が消えた理由だった。

『密室念魚(インドアフィッシュ)』。
それがクロロが具現化していた念魚の名前である。
部屋の中を水槽にして泳ぎ、半自動的に敵を襲うという能力。
この念魚に肉を食われた場合、痛みも血も出てこない。それ故、死ぬことも無い。
念魚が消えるまで死ぬことができないため、拷問にも使える能力だった。

だがこの能力には一つの弱点があった。
この念魚は『密室』、つまり『閉じられた部屋』の中でしか生息できない!!

ボーイがドアを開けた今、この部屋は既に閉じられた部屋ではない!
それゆえ念魚が全て消え去ってしまったのだ!

そのことを理解した瞬間、クロロはハッとした。

火傷男を襲うように設定していた念魚が全て消え、
彼を攻撃していた3人に3人ともがボーイに視線を向けている。

致命的な隙に他ならない!

この場の中で唯一1人だけ、予期せぬ来訪者にも気を取られず、
すぐさま動き出していた存在がいた!

クロロが見ていたボーイの顔面に黒い手が伸びて絡みついた!!
悲鳴をあげるボーイの身体から、突如としてオーラが迸り始める。
そしてそのオーラが挽きつけられるように黒い手に集まっていく!!

「……ッ! しまった!!」

フィンクスが叫んだ。それは火傷男の黒く炭化した右腕であった。
透けていたはずの火傷男の身体が元通りの存在感を発し始める!!
せっかく減らしたオーラをここで補給されてしまった!!

だが化物は失ったオーラを回復するだけでは終わらなかった。
こらが化物の反撃の始まりだったのだ!!

化物はある程度オーラを吸い終わると、ボーイの身体を振りかぶり、
フェイタン目掛けて投げつけた!!

火傷男の奇襲に、フェイタンはその場から飛び跳ねてそれを避けた!!
壁に頭から突っ込んだボーイの頭がトマトが潰れるような音ともに弾けた。

「フェイタンッ……!!」

だが攻撃を避けた筈のフェイタンに対して、クロロが叫んだ!
その声に疑問符を浮かべるフェイタンであったが、次の瞬間、目を見開いた!!

「……グッ!!」

空中に浮いていたフェイタンの身体に、横から勢い良くぶつかってくる存在がいた!!

火傷男だ!

奴はそのままフェイタンの頭を鷲掴みし、そのまま地面に叩きつけた!
フェイタンの身体を纏っていたオーラが、ドクドクと火傷男の腕に流れていく!!

(やられた……!)

クロロは今のような展開に見覚えがあった!
相手が攻撃を避けたその隙を狙って、本命の攻撃を当てるという流れ……。
そう! それは一番最初にフェイタンとフィンクスがやった連携と同じであった!!






化物はジリ貧状態に陥ったいた。
逃げてもダメ。攻撃してもダメ。避けてもダメ。となれば敵の攻撃を耐えるしかない。
だが耐えるだけではエネルギーが減り、確実に自分の身体が死に近づいていく。

それでも化物にとっては耐え続けるしかなかった。
生き残るために最も良い選択肢を選ぶことしか出来なかった。
たとえそれがどんなに絶望的でも。
だが皮肉な事に、勝利の女神は地獄から生まれたようなこの化物に微笑んだ。

予想外の来訪者。敵にとっての予期せぬでき事。
それこそが化物の待っていたものであった。
故に化物は何一つ驚かなかった。 そしてそれが彼と敵たちの明暗を分けた!!

結果、敵の内の1人、小柄な人間は彼の手に落ちることとなった。

頭を鷲掴む腕から、身体に流れ入って来る敵のエネルギー。
物凄い勢いで失っていたエネルギーが回復していく。
その量と勢いたるや、先ほどエネルギーを吸ったひ弱な人間とは比較にならない。

やはりいい。
強ければ強いほど、吸収できるエネルギーが多くなる。
このレベルの手合いを1人食するだけで、化物は飛躍的に強くなる。

「……グッ……」

恐ろしい力で頭を捕まれた小柄な人間が、苦悶の声を上げながら刀で化物を攻撃してきた。
だがこんな体勢で、しかもエネルギーを吸われている状態で
大した攻撃ができるわけがない。
化物はその刀を左手で掴み、エネルギーを集中させて折った。
これでもうこの人間は何もすることができない。

化物はその白い両眼を残り2人の人間に向けた。

こいつらのおかげで大分戦い方というものがわかってきた。
先ほどは奴らのやり方を真似することで、この人間を捕まえることができた。
思わぬ収穫である。これでまた生き残る確率が上がった。

もっと!! もっとだ!!
まだまだこいつらから学び取れることは多そうだ。
この速い人間が捕らえられ、あの鬱陶しい魚どもがいなくなった今!
こいつらと戦って死ぬ可能性は先ほどよりも遥かに低い!!
さて……今度はどちらを喰らおうか!!

……そう化物が考えていた時であった。

「■■■■■■■■(クソが……調子乗りやがって……)」

聞きなれない言葉が小柄な人間の口から漏れた。
そして次の瞬間、今まであったエネルギーの流入がピタリと止ったのだ!
一体何が起きたのかと、自分が掴んでいた小柄な人間を見る化物。

すると薄い外套を被っていたはずの人間が……、
いつの間にか装飾の多く分厚そうな服を身につけていた!!

何だこの服は? 一体いつ着替えたんだ?
……いや、それよりも!! 先ほどよりも圧倒的に強い!!

「ヤベ!!」
「フィンクス!! 退くぞ!!」

他の2人が逃げるように部屋から出て行く!
化物の身体が、今度は逆に小柄な人間の両腕によって掴まれる。
逃げられない!!

「■■■■■■■■(痛みを返すぜ……)」

その言葉と同時に大きなエネルギーの塊が現われ、
化物と小柄な人間の頭上、高い天井の届く高さまでエネルギーの塊が飛んでいく!

そして……

「■■■■■■■■(『太陽に灼かれて(ライジングサン)』)」

全てが…………燃え上がった……!!






ホテルのスウィートルームは、今や真っ黒に焼け焦げた唯の火事現場になっていた。
部屋には未だ炎が残っており、煙がモクモクと立ち込めていた。
床も天井も壁もそのほとんどが焼け落ちて、骨組みの柱や梁(はり)だけが残っている。
どうやらこの部屋だけでなく、他の部屋も手ひどく焼けたようだ。

そんな部屋の真ん中に一箇所だけ焼け落ちてない床があり、
そこにフェイタンが仰向けに倒れていた。

「おーい! フェイ、生きてるかー?」

フィンクスが梁を伝って、倒れているフェイタンに駆け寄った。
煙を吸い込まないようにジャージの袖で口を抑えている。

その言葉にフェイタンが薄らと目を開けた。
口も動かそうとするが上手く動かせないようだ。
フィンクスがジャージの袖を引きちぎり、それをフェイタンの口に巻いた。

「ばーか。あんな大出力の能力を使うからだ」

フェイタンの身体は一切オーラに纏われていなかった。
だがそれは火傷男にオーラが吸われたからではないだろう。
もしそうなら死んでいるはずだ。

『許されざる者』はフェイタンがキレた時に発動する。
それ故、仲間が近くにいようが、彼の能力は一切の手加減がされない。
だがそれは出力が調節できないことも意味する。

強力かつ広範囲の彼の能力は、オーラを大量に消費するものが多い。
特に『太陽に灼かれて』は、彼の能力の中でも最も強力なものだ。
それに加えてフェイタンは火傷男にオーラをかなり吸われていた。

結果、フェイタンはオーラを出し尽くして全身疲労になってしまったのだ。
しばらくは動くことは愚か、話す事すらままなるまい。

「ま、とにかく、生きてて良かったぜ! 死んだかと思ったからな」

そう言ってフェイタンをおぶるフィンクス。
フェイタンは気が抜けたのか、そのまま気を失ってしまった。

とりあえず心配していた2つのことの内、1つは解消された。

「フィンクス、フェイタンは無事か?」

後ろから呼びかける声。振り向くと団長がそこに立っていた。
彼も煙を吸い込まないように、口に布を当てている。

「あぁ、全身疲労で動けなくなってるけどな」
「そうか」

その言葉を聞くとクロロは焼けた部屋を見回した。
おそらく、もう1つの心配事が気になっているのだろう。

「団長……奴は焼け死んだと思うか?」

その心配事とは、この場にフェイタンと残った火傷男の事。
もし死んでるのなら、何も心配する事はない。これでこの一件は終りである。
だが生きているのならば……厄介なことになる。

フィンクスの問いに対し、クロロがこう返した。

「さぁな。だが朝になればわかる」

そしてそれだけ言って部屋を出て行った。
フィンクスには団長が何を言っているのかわからなかった。

その後、彼らはオークションが行われているセメンタリービルに戻った。
だがそこに、もうヒソカはいなかった。逃げたのだ。
おそらくフィンクスたちが裏切りに気付いたのに感づいたのだろう。

そして次の日の朝。

「これを見ろ」

クロロがフィンクスに対して、その日の朝刊を渡した。

普段新聞などまったく読まないフィンクスは、
寝ぼけた眼を擦りながらその新聞を受け取った。

そして一面の記事を見る。そこには幻影旅団の大暴れに関する記事が書かれていた。
昨夜、彼らがセメンタリービルの周辺で行ったマフィアとの大規模な戦闘。
それが同時多発テロとして報じられていた。

だがその記事の中に2つだけ、セメンタリービル付近ではない事件のことが書かれていた。

1つは高級ホテルの謎の火災についてだ。
これもテロの犯人によるものなのか、それとも違うのか……という記事が書かれていた。
これは半分当たりで半分外れであった。
確かにこれをやったのはフェイタン、つまり幻影旅団の1人だ。
だがセメンタリービルでの大暴れとは全く関係がないものである。
この火災により何十人という死者が出たらしい。

だがそんな事件のことはどうでもよかった。
フィンクスが気になったのはもう1つの事件。
その事件の見出しを見た瞬間、フィンクスの眠気が一気に吹き飛んだ。

『ヨークシンで衰弱死が多数発生!!やはり人為的な犯行か!?』

その記事には、昨日の夜に多数の人間が衰弱で死んだ旨が書かれていた……。

フィンクスがグシャリと新聞を握り潰した。

「間違いねぇな……」

火傷男は……まだ生きている!!






つづく






「おい、まだそれ読み切ってないんだ」
「あ、わりぃ。団長」


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