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No.4809の一覧
[0] 天災異邦人『高橋良助』~オワタ\(^o^)/で始まるストーリー~(現実⇒原作)[マッド博士](2009/01/25 02:30)
[1] ――― 第 01 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[2] ――― 第 02 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:09)
[3] ――― 第 03 話 ――― [マッド博士](2008/12/22 07:12)
[4] ――― 第 04 話 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:04)
[5] ――― 第 05 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:19)
[6] ――― 第 06 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[7] ――― 第 07 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[8] ――― 第 08 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[9] ――― 第 09 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[10] ――― 第 10 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[11] ――― 第 11 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[12] ――― 第 12 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[13] ――― 第 13 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[14] ――― 第 14 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[15] ――― 第 15 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[16] ――― 第 16 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:25)
[17] ――― 第 17 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[18] ――― 第 18 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[19] ――― 裏 話 1 ―――[マッド博士](2009/01/09 07:58)
[20] ――― 裏 話 2 ―――[マッド博士](2008/12/25 14:26)
[21] ――― 裏 話 3 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:29)
[22] ――― 裏 話 4 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:01)
[23] ――― 裏 話 5 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:02)
[24] ――― 裏 話 6 ―――[マッド博士](2009/01/09 15:05)
[25] ――― 第 19 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:22)
[26] ――― 第 20 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:18)
[27] ――― 第 21 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:43)
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[4809] ――― 裏 話 5 ―――
Name: マッド博士◆39ed057a ID:cd3a5d09 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/09 08:02



「動機の言語化か。あまり好きじゃないしな。
 しかし案外、いややはり…自分を掴むカギがそこにあるか」

 by クロロ=ルシルフル
 (ゴンに「なぜ無関係の人を殺せるの」と質問された時のセリフ)




裏話5 『盗賊の渇望』




ヨークシンシティ郊外にある廃墟ビルの一室に夜の闇が満ちている。
光源は所々に立てられた蝋燭の灯火だけ。
その燈色の輝きがうっすらと部屋を照らしている。

そしてその薄暗い闇に溶け込むように佇んでいる人物がいた。
外套を羽織った黒尽くめの男である。
王者の如く一際大きなコンクリートの破片の上に腰をかけている。
暗い男だ。表情や服装の問題ではない。存在自体が黒々しかった。
まるでこの男自体が闇の光源となり部屋自体を暗くしているかのようだ。
揺らめく蝋燭の光でその双眸は冷たく重い光沢を帯びており、
男が持っている絶対感とカリスマを表しているようであった。

そんな男の周りを10の人影を囲んでいる。
蝋燭の光で揺れる彼らの影もまた男と同じ深い闇、
光彩としては感じ取ることのできない存在としての暗さを携えていた。
その様相はさながら悪霊や悪魔の如きものである。
ならばその中央に座る男は悪霊の親玉、あるいは魔王ということになるだろうか。

そんな人間達の集まりである。おのずと醸し出す雰囲気も闇が色濃くなる。
だが彼らのいるこの場はそれとはまた別の暗い空気が漂っていた。

「……フランクリンが死んだ?」
「それだけじゃないよ。ウボォーギンも戻ってこないんだ」

それがこの空気の理由。
幻影旅団の団長クロロ・ルシルフルと団員の1人であるシャルナークの重苦しい声が、
無造作に積み上げられた瓦礫山に沈んでいく。

それは想定外の異常事態であった。

地下オークションの競売品を全て奪うこと。
それが幻影旅団の今回の仕事であり、過去最大の大仕事の内容であった。
地下オークションを取り仕切るのはマフィアン・コミュニティ、
全世界のマフィアを牛耳る存在である。
今回の仕事の内容は、そのコミュニティの顔に泥を塗りたくり虚仮にするようなものだ。
これまででは考えられないような猛烈な抵抗と妨害にあうことは最初から予想していた。
しかし……そのための犠牲までは予想外。

まさか旅団でもトップの戦闘力を誇る2人を、
ウボォーギンとフランクリンを失うことになるとは……。

「詳しく話せ」

クロロの鉄のように冷たく硬い声が、シャルナークにその短い命令を伝えた。






「鎖使いか……」

シャルナーク曰く、ウボォーギンは『鎖野郎』と呼ぶ相手と決着をつけに行き、
そして今になっても帰ってこないということらしい。

鎖を使う能力者。十中八九、操作系か具現化系だろう。
鎖を操っているにしても、鎖を具現化しているにしても、不味いことには変わりはない。
なぜならこの二つがウボォーギンにとって最も負ける確率が高い系統であるからだ。

肉体を用いての単純な殴り合いでウボォーギンと渡りあえる能力者などいない。
居たとしても1人いるかどうかに違いない。少なくとも旅団の中にはいない。
そんなウボォーギンに倒すのは正攻法ではかなり難しい。
だが絡め手ならばそう難しいことではない。

その絡め手を最も得意とするのが操作系と具現化系である。
操作系であればウボォーギン自身を操ってしまえばそれで終りである。
具現化系の場合は、具現化物に特殊能力を付加させていることが多く、
その内容次第ではウボォーギンの圧倒的な暴力が通じない可能性が在る。
もし鎖を巻きつけることで相手を麻痺させたり眠らせたりできるのであれば、
ウボォーギンを容易に倒すことができるだろう。

「くそ! 俺もついていけばよかった・・ ・」

クロロがそのことを話すとシャルナークが悔いるように言った。
冷静で頭の回る彼のことである。察したのであろう。
ウボォーギンが生きている可能性が極めて薄いことを……。

鎖使いと戦ってくると言ったウボォーギンが未だに帰ってこない。
既に集合時間は過ぎている。時間に五月蝿い彼が約束に遅れることなど殆どない。
これらの事実は彼が拘束されているか、死亡していることを意味する。

だが彼がまだ拘束されているという可能性は無いに等しい。
マフィアに連なる何者かがウボォーギンを捕らえたのだとしたら、
当然マフィアの人間は彼から旅団の情報を得ようとするだろう。
だがどんな拷問でもウボォーギンは屈することはない。
それだけの精神力を旅団の誰もが持っている。
もしウボォーギンが何も話さないとしたら、マフィアはどんな行動はとるか。
答えは簡単である。死だ。
ウボォーギンは見せしめに惨たらしく殺されるだろう。

ウボォーギンの死はほぼ確定していると言っても良かった。
これで旅団の足は一本消えたことになる。

では話に上がっているもう一本の足、フランクリンはどうなのか。

ウボォーギンの場合とは違い、彼はもう生きている可能性は微塵もなかった。
なぜなら……彼の死体が見つかったからである。

運ばれてきたフランクリンの亡骸をクロロは見つめた。

「全身疲労による心停止……」

シャルナークが調べによると、それがフランクリンの死因であった。

自分達とマフィアの戦いを覗いていた人間。
その人物を始末するためにフランクリンは荒野の丘に向かい、
そしてそのまま帰らぬ人となった。

死体はそのまま丘に野ざらしになっていた。
全身に傷を負ってはいるが、致命傷に至る外傷は一つもなかった。
だが彼の心臓の鼓動は確実に停止していた。
フランクリンがその足で立つことはもう二度とない。

これで失われた足は2本。
13本のうちの2つであるが、旅団にとっては特に大きな損失であった。
なぜなら彼らは旅団の中でも安定した高い戦闘力を持ち、
大多数相手に渡りあっていける能力者であったからだ。

圧倒的な攻撃力のある念能力には何かしらの制約が必要な場合が多く、
その制約のほとんどは戦闘中に危険が伴うものである。
フィンクスは腕を回し、ボノレノフは舞を通して特定の旋律を奏でる必要がある。
どちらも戦闘中ではかなり危険を伴う行為だ。
フェイタンに至ってはダメージを受けなければ発動できないカウンタータイプである。
危険があるとか隙を作るとか以前の話である。

だがあの2人の場合は、そんな制約がなくとも強力な能力を使うことができた。
制約がないということは弱点がないということである。
これはどんな相手とも安定して戦えることを意味する。

そしてそれでいて2人は圧倒的な数の敵にも通用する能力を持っていた。
例え軍隊相手であっても、この2人が居れば十二分に戦えただろう。
ウボォーギンの強化された肉体とフランクリンの雨あられのような念弾は
それだけの制圧力があったのだ。

12本の内のたかが2本であるが、
それによる旅団の戦闘力の低下は12分の2では収まらない。
少なく見積もっても3分の1、酷ければ半分ほどになってしまっただろう。
残りの11人ではどうやっても軍隊相手に勝つことは難しい。

「どうする団長?」

厳しい顔をマチがクロロに尋ねた。
旅団の低下した戦闘力をどうするのか……という質問ではない。
マチが言っているのはもっと差し迫った問題のことである。

『いったい誰が2人を殺したのか?』

先に述べたように両者ともに圧倒的な戦闘力を持った能力者である。
多少の相性の悪さなど彼らの前では強引に捻じ伏せられてしまうだろう。
そんな2人を倒してしまうのだ。
どんな系統であれ能力であれ、相当な手練であることはまず間違いない。

そしてその手練は2人いて、それぞれ旅団と敵対している……。

1人目はウボォーギンを倒したと思われる鎖の念使いだ。
ウボォーギンが捉えられていたビルをから、
その人物がノストラード・ファミリーの一員であることがわかっている。
それだけわかれば後は十分だ。時期にその念使いを探し出すことができるだろう。

だがもう1人は……

「重度の火傷をした男……だったか? フランクリンを殺したのは?」
「えぇ」

クロロの問いにパクノダが答える。

「フランクリンはもう死んでいるから……、
 生きている人間のようには記憶を読み取れない」

パクノダは物や人に触れることで記憶を読み取るという特質系の能力者である。
世界的にもかなりレアな能力の持ち主だろう。

だが物からの記憶の読み取りは、人の記憶を読み取ることよりも困難である。
物に残っている記憶が自分たちの欲するものとは限らないからだ。
故にフランクリンの死体からも敵の情報が読み取れるとは限らなかった。

「でもしっかり残っていたわ、彼の体には。
 彼が最後に見ていたもの……酷い火傷を負った敵の姿がね」

……だが残っていた。フランクリンが最期に見ていた光景が。
その意識が途切れる瞬間まで、脳に鮮明に焼き付けられた彼の視界が。

おそらくフランクリンは命が燃え尽きるまで敵の姿を捉え続けていたのだろう。
パクノダにその記憶を残すために……。
仲間たちに敵の姿を伝えるために……。

「……」

パクノダの眼差しには強い光と確かな敵意が宿っていた。
彼女が読み取れるのは情報としての記憶だけではない。
『感情』の記憶というのも読み取ることができる。
それが彼女にこのような目つきをさせているのだろう。
一体フランクリンの最後の記憶にはどんな感情が記されていたのだろうか。

クロロのそんな思考はフィンクスのぶっきら棒な言葉に遮られた。

「で、そいつが世間様を騒がしている奴ってわけか」
「あぁ、十中八九そうだろうな」

フィンクスが言っているのは
ニュースなどで話題になっているある事件のことである。

『謎の衰弱死事件』

まるで胡散臭い都市伝説のような通称ではあるが、
犠牲者が30人以上出ているという現実に存在する事件であった。
そして人為的な犯罪なのか奇病の一種であるのか未だはっきりしない事件だ。

この事件は三つの特徴を持っていた。

一つ目は犠牲者がほぼ定期的に出ているということだ。
次の犠牲者は前の犠牲者が出てから一週間以内に出ている。

二つ目は世界各地で起きていること。
まるでランダムに選ばれているみたいに犠牲者は世界各国から出た。
犠牲者同士の関連ももちろんない。

これらの二つの特徴を見るとこの事件は何者かの犯行であるように思える。
もし新種の奇病や病原菌であったら、期間や場所はばらつかないはずだ。

だが三つ目の特徴がそれに疑問を投げかける。

それは衰弱死という死因だ。
これは現在の科学技術では再現することの出来ない犠牲者の死に方であった。
もし人為的な犯行であるというのならば、科学的に立証されるものであるはずだ。
そのため犯人は新しい毒や病原菌でも開発したのだろうかと、
そんなうそ臭い可能性も真剣に考えられてた。

ところでこの衰弱死というのは正しい言い方ではない。
便宜上そう呼んでいるだけで、別に神経がどうにかなったわけではない。
この死因には厳密に言うと以下のようなものになる。

『全身疲労による心停止』と……。

そうフランクリンの死因と一緒である。

つまりこの事件は念能力による犯罪であり、
そしてその犯人がフランクリンを殺したという可能性があるのだ。

いや、考えてみれば疲労で心臓が停止するなんていう
馬鹿らしい死に方をフランクリンはするはずがない。
ほとんど間違いなくこれはその事件の犯人の仕業といって良いだろう。

「夜明けまで待って、ウボォーギンが戻らなければ予定変更だ」

クロロが残った旅団員を見渡す。

「お前らはそれぞれ2人1組になって敵を探し出せ。
 細かい指示のほうはシャルナークにまかせる。
 決して単独では行動するな」

それぞれの旅団員が了解の意を示す。
とここでマチが何かに気づくように片眉を上げた。

「団長はどうすんの?」

シャルナークに指示を任せるということは、クロロは参加しないのだろうか。
クロロがマチの疑問に答えるようにして言った。

「オレは独自で火傷の男のほうを調べおく」






ヨークシンシティの一角にあるオフィス。
そこにクロロは忍び込み、パソコンを用いて調べものをしていた。

「……火傷男と鎖野郎か」

フランクリンとウボォーギンを殺害した者たちことである。
いつの間にか旅団の団員の中でそんな仇名が浸透していた。

だが鎖野郎はともかく火傷男というのはクロロにとって違和感があった。
そしてそれはおそらくパクノダにとっても同じであっただろう。

パクノダは記憶を読み取る他に、
その読み込んだ記憶を銃で打ち込むという能力を持っている。
あの後クロロはその能力を用い、
パクノダにフランクリンの最期の記憶を自分に打ち込ませた。

そこに写っていた人物、それは火傷男などと言えるものではなかった。
そんな仇名など生ぬるいと言えるほどの酷い有様であった。
全身が煤け、所々が炭化している。
クロロには男が生きているのが信じられなかった。
その転々とした黒くて硬い鱗と両眼に填まる丸い曇り硝子は
物語に出ている悪魔に良く似ていた。

その姿を見た人間全てを恐怖させ、呪ってしまうような忌むべき姿。
普通ならば誰も関わりあいたくないに違いない。

だがその悪魔こそが、クロロの獲物であった。

クロロが睨めるように見ているパソコンのディスプレイには、世界地図が映っていた。
そしてその上には赤い丸印が点々としている。
それらは衰弱死事件の犠牲者と思われる遺体が見つかった場所であった。

クロロはその場所その場所ごとに何か手がかりが無いか、
電脳ネットに検索をかけて行く。

だが大した情報は手に入らない。
わかったことといえば、犯行が行われる前後に
大きな祭りやイベントが行われることが多いことぐらいだ。
それは火傷男が外部の人間が大量に入って来る時期に犯行したと考えれば、
別に不思議でもなんでもないことだ。

「……やはり普通に探すだけじゃ大したことはわからないな」

世界各国でこの事件の真相を明らかにしようと息巻いているのだ。
これぐらいで見つかるのだったら、当の昔に火傷男は捕まっているだろう。

となれば方針を変える必要がある。

クロロは開いていた地図の映るウィンドウを閉じ、キーボードに何かを打ち込む。
すると別のウィンドウが開かれた。
人の顔写真と彼らの情報が載っていた。

「……まずは国際的な犯罪者のリストを当ってみるか」

世界各国の警察と違い、クロロはある重要な情報を三つ持っていた。
この事件が人為的なものであるという事実、
この事件が念能力によって起こされているということ、
そしてその念能力者、火傷男の人相。この三つである。

もし電脳ネット上に火傷男の情報があるのであれば、
それは念能力者に関わりの深いものである確率が高い。

例えば今クロロが見ている国際的な犯罪者のリスト、
俗に言うブラックリストと言う奴だ。
国際的な犯罪者の中には念能力を使えるという者も少なくない。
クロロ自身が所属している幻影旅団がいい例だ。
もし火傷男が過去に犯罪を起こしているのならばおそらくこのリストに顔が載っている。
そうクロロは当りをつけた。

だが火傷男だと思われる顔写真は存在しなかった。

「……次だ」

クロロは鬼気迫る表情で次々と別のリストを探っていく。

マフィアの武装構成員または幹部のボディーガードの一覧、
世界的な機関に要注意人物とされる人間の一覧、
トリックタワーに登録されている囚人の一覧などなど、
クロロは本当に見ているかどうか判らないほどの凄まじいスピードで
それらのリストに目を通していく。

だがやはり火傷男の情報は見つからない。

「……次だ」

クロロは次に重度の火傷を負った人物や火傷の事件などを調べることにした。
もしかしたら火傷男のことが乗っているかもしれないと。

クロロの両手の指が淀みなくキーボードの上を流れていく。
そしてそれに呼応されるように全世界の大きな火事や
重度の火傷を負った患者の情報がのったウィンドウが、
次々にディスプレイに表示されていく。
中には目を背けたくなるような火傷の画像も表示されるが、クロロは眉一つ動かさない。

しかし……

「……これもダメか」

何一つ火傷男にたどり着けるような情報はなかった。

オフィスの壁にかけられている時計を見るクロロ。
彼が調べ始めてから既に6時間近くたっていた。

「……クソッ」

クロロは眉間に皺を寄せ、ボソリと悪態をついた。
その小さな声に彼らしくないほどに悔しいという感情が込められていた。

彼らしくないと言えばこの作業全てがそうだ。

真剣になって火傷男を捜すクロロのその姿は、
血眼で獲物を狙う飢えた野生の狼のようにも、
玩具が飾られているショーディスプレイに張り付く子供のようにも見えた。
その表情は切羽詰っており、火傷男が見つからず明らかにイライラしている。
これは普段感情を表に出さないクロロらしくない姿だった。

なぜクロロがこれほどまでに感情を露にし火傷男を捜しているのか。
それほどまでにフランクリンの敵を討ちたいのだろうか。
それとも旅団に盾突いた者に対して怒りを感じているからだろうか。

答えはNOである。彼が火傷男を必死になって探す理由は他にある!

それは念能力!!

クロロは火傷男の能力を既に予想していた。
おそらくは『オーラの吸収』であると。

心臓が停止するほどの全身疲労するなど普通はありえない。
だが全身のオーラを出し切った時、それに近い全身疲労に陥るという話を
クロロは聞いたことがあった。

故に、実を言うと謎の衰弱死事件のニュースを見たときから、
「これは念能力による事件ではないか」「犠牲者はオーラを全て吸われたのではないか」
とクロロはある程度考えていたのだ。

そして今回の事態である。
フランクリンの能力は念弾に特化したもの。オーラ吸収との相性は最悪!
その能力を持つ人物とフランクリンが戦った時、
フランクリンが負けてしまう可能性は十分にありえる。

だからクロロは火傷男の能力がそれだとほぼ確信していた。

オーラ吸収はかなりレアな能力である。
もしその吸収したオーラを自分のオーラにして使えるのならば、
かなり戦闘を自分の有利にして運ぶことができる。

更に言えば他人の念能力を盗むというクロロの能力『盗賊の極意(スキルハンター)』の中には、
オーラの消費がかなり激しい能力やオーラの量によって威力が左右される能力が幾つかあった。
オーラ吸収で自分のオーラ量を底上げすれば、これらの能力をより効果的に使うことができる。

それだけにクロロは火傷男の能力『オーラ吸収』が欲しかった。
心の底からというほどに。

「……クッ」

それだけに火傷男の手がかりが掴めないというのは、
彼にとって最も腹正しいことであった。

そう考えている時、クロロの顔を一筋の光が差した。
窓につけられたブラインドの歪みで出来た隙間から抜けてきた光であった。
夜明けである。

ここでクロロは思い出したように携帯電話を取り出し、
着信履歴から『シャルナーク』の文字を選び電話をかけた。

「どうだ? ウボォーギンは帰ってきたか?」
『ううん。帰ってこなかった。たぶんウボォーは……」
「……そうか。なら作戦は変更だ。
 お前らは鎖野郎と火傷男のことを探せ。細かいやり方はお前に任せる」
『……了解』

少し沈んだシャルナークの返事を最期に電話は切れた。

「……」

クロロは静かに手に持つ会話を見つめた。
その表情には僅かながら苦悩の色が滲んでいた。

シャルナークの悲しげな声を聞き、ふと思ってしまったのだ。
なぜ自分は死んだ仲間のことではなく、敵の念能力のことばかり考えているのかと。

「……今更何を」

だがクロロの中で答えはもう既に出ていた。
結局自分は何よりも『盗む』ことを優先してしまう人間だということ。

クロロ・ルシルフルという人間のほとんどは、他人から盗んだもので構成されている。
ほとんど全てそうであるといっても良い。
保有している金や財宝のことだけではなく、存在全てがそうなのだ。

その知識は全て本から吸収したものだ。
体術や戦闘術は戦ってきた相手や旅団の仲間から得たものだ。
現在の性格も、幻影旅団の団長という役割にあわせて、他から盗ってきたものに他ならない。
自分の念能力などに至っては正に盗ることを目的としたものだ。

ただ一つクロロが最初から持っているものと言えば、
『他人の物が欲しくなる』というその性癖のみである。

考えてみればこの蜘蛛という存在も、
団員一人一人の可能性を奪い取り、頭である自分の手足にしてしまったものだ。
しかもその目的すら他人のものを奪うことだ。
全て自分の『欲しい』という情動が原点であることは間違いない。

だが……なぜ自分はそこまで他人のものが欲しくなるのだろうか。

ウボォーギンとフランクリンの死を惜しむ気持ちも確かに存在している。
だがダメなのだ。
獲物を前にするとどうしても何もかもを差し置いてそれに熱中してしまうのだ。

どうして自分が他人のものを欲しがるのかは分らない。
だがそれがクロロのもっとも純粋な本質たるものだろう。
きっとそれを除いたら、クロロ・ルシルフルという人間は
ほとんど空っぽになってしまうに違いない。

クロロは自分がわからなかった。自分というものが掴めなかった。
それだけクロロという人間にはオリジナルというものがなかった。
他人の物を奪うのは天才的だが、自分だけのものは何一つ生み出せない。
自分と言うのはそんな存在だ。

きっと自分の命も誰から奪ったものなのでは無いだろうか。
本当の自分は実はもう死んでいて、ただゾンビのように他人のものを……

「……」

そこまで考えてクロロは、目を手で覆い頭を振った。

悪い癖だ。
クロロはことあるごとにこんな思考をしてしまう癖があった。
自分の存在というものについてついつい考え悩んでしまうのだ。

だが今はそんなこと意味はない。
どちらにしても邪魔な敵は排除しなければならないのだ。
妙なことに頭を使う暇などない。

手を下ろすと、そこにはいつもの冷徹で暗い両眼が存在していた。

「少し冷静さを失っていたな」

レアな能力が身近にあると知るとついつい頭が熱くなってしまう。
しばしの間、幻影旅団の団長の仮面が外れていたようだ。
これでは見つけられるものも見つけられやしない。
気をつけなければ。

そう思い、ふとクロロはパソコンの置かれたディスクを見た。
そしてそこにあった『あるもの』を見て、彼は再び手で目を覆った。
冷静さを取り戻すためではなく、自らの愚かさに呆れてしまったために。

「クソッ、本当にどうかしていた……」

犯罪者の可能性ばかりに目が行き、
もっと念能力に関わる者たちのリストを調べるのを忘れていたのだ。
クロロらしくないミスであった。本当に冷静さを失うと碌なことにならない。

先ほどクロロが視線を落とした先には、
カードリーダーに差し込まれた彼のハンターライセンスが在った。






高級ホテルのカフェから1人の男が出てくる。
黒いジャージに黒い帽子、おまけに黒いサングラスをかけている。

男の名はルーシー。だがそれは彼のキャラクターの1つにしか過ぎない。

彼はルーシーという馬鹿でお調子者のハンターの仮面を外し、
幻影旅団の団長クロロ・ルシルフルという仮面に付け替えた。

サングラスを外すと、そこには凍るような瞳が2つ覗いていた。

「予想外だったな」

クロロの呟き。
それは先ほどまでカフェで話をしていた男、高橋良助に対するものだ。

クロロはハンターリストの中から高橋良助のことを見つけた。
彼は今年実施されたハンター試験の合格者の1人だった。
火傷こそなかったが、この男はフランクリンの最期の記憶に
写っていた火傷男に良く似ていたのだ。

調べによるとこの男は試験直後にハンターライセンスを売り払い、
その莫大な金で世界旅行をしていたらしい。
だが問題はその旅程だ。世界旅行の行程が一寸の違いもなく一致していたのだ。

衰弱死事件の発生したポイントと……。
更に、現在高橋良助はこのヨークシンシティに来ているらしい。

状況証拠は十分だった。
クロロは高橋良助と接触することに決めた。

だが、カフェに座っていたその男は、
クロロの目から見て素人以下の戦闘能力しか持っていないように思えた。
これではどんな念能力を持っていたとしてもフランクリンは倒せまい。

外れか……クロロは内心そう思ったが、念のためその男に接触することにした。

そしてある言葉をきっかけに、クロロは確信した。
この男こそが自分が探していた人物だと。

『念がまったく使えないんだよ』
『一応見ることだけならできる』

クロロが「なぜずっと絶をしているの?」と質問した際、高橋良助はそう答えた。
つまりまとめると高橋良助の言ったのはこういうことだ。

『オーラが体がから全く出せないため、絶状態でいるしかない。
 でも一応念を見ることだけはできるよ』

……あり得ない。

オーラは全ての生き物の宿っているものだ。
それが出せないということがまず可笑しい。

だがそれよりも異常なのは、そんな状態で念が見えているということだ。

念というものは精孔が開いていなければ見ることはできないのだ。
故に精孔を閉じる絶の状態で、念が見えるというのはありなえいのだ!

……それが『人間』ならば!!!

であるならば答えは簡単だ! この男は人間ではない!!

絶、いや体にオーラを纏わない状態で、
なおかつオーラを見ることができるという人間以外の存在!!

クロロはそんな存在を知っていた。

……念獣である。

具現化された存在のほとんどは自分でオーラを発することはない。
だがもし目を持っているのならば、彼らは念を見ることができる。
まさにこの男のような存在である。

もしこの高橋良助という男が独立して自動的に動く念人形であるのならば、
オーラ吸収という能力を持っていることも納得である。

クロロはこの男……いや、この能力のことを理解した。

『オーラを自主的に収集する自動操作の人間型念獣』

おそらくそれが答え!!

念獣が回収したオーラが自分のものにできるのならば、
思っていたよりもずっと使い勝手の良い能力だ。
もしそうであるならば、絶対に手に入れたいところである。

だが……火傷が全身に浮かび上がるのは一体なんなんだろうか。

クロロの脳裏にある可能性が浮かび上がる。
もし『そう』であったら非常に不味い。能力が奪えない。

(……まぁいい)

だが、今その可能性を考えても仕方が無い。頭を切り替えるクロロ。
どちらにせよ今日の夜には奴の部屋に乗り込むのだ。
全てはそこで明らかになるはずだ。

それにクロロにはもっと考えるべき問題があった。

それは今期のハンター試験合格者リストの中に
ヒソカが含まれていたということ。
つまり高橋良助とヒソカは既に知り合っていたのだ。

クロロはヒソカがハンターライセンスを取っていたことすら知らなかった。
なぜヒソカはそのことを話さないのか。
ただ単に話す必要がないから話していないということも十分考えられる。
だがもしヒソカと高橋良助の間に隠れた繋がりがあるのならば、
幻影旅団はその身に毒を抱えていたことになる。注意が必要だ。

そんなことを考えながら、ホテルの大きな玄関を抜けるクロロ。
そして道路でタクシーを呼び止め言った。

「セントラルホテルまで頼む」

クロロはそのまま車に乗り込み、
今日の戦場である地下競売の会場へと向かった。






つづく







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