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No.4809の一覧
[0] 天災異邦人『高橋良助』~オワタ\(^o^)/で始まるストーリー~(現実⇒原作)[マッド博士](2009/01/25 02:30)
[1] ――― 第 01 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[2] ――― 第 02 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:09)
[3] ――― 第 03 話 ――― [マッド博士](2008/12/22 07:12)
[4] ――― 第 04 話 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:04)
[5] ――― 第 05 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:19)
[6] ――― 第 06 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[7] ――― 第 07 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[8] ――― 第 08 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[9] ――― 第 09 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[10] ――― 第 10 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[11] ――― 第 11 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[12] ――― 第 12 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[13] ――― 第 13 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[14] ――― 第 14 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[15] ――― 第 15 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[16] ――― 第 16 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:25)
[17] ――― 第 17 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[18] ――― 第 18 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[19] ――― 裏 話 1 ―――[マッド博士](2009/01/09 07:58)
[20] ――― 裏 話 2 ―――[マッド博士](2008/12/25 14:26)
[21] ――― 裏 話 3 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:29)
[22] ――― 裏 話 4 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:01)
[23] ――― 裏 話 5 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:02)
[24] ――― 裏 話 6 ―――[マッド博士](2009/01/09 15:05)
[25] ――― 第 19 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:22)
[26] ――― 第 20 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:18)
[27] ――― 第 21 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:43)
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[4809] ――― 裏 話 4 ―――
Name: マッド博士◆39ed057a ID:eca59468 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/09 08:01



「最悪なのは俺達全員がやられて旅団(クモ)が死ぬことだ」

 by フランクリン (人質交換に際して旅団内の意見が分裂した時のセリフ)




裏話4 『機関銃の死闘』




砂埃が舞う。大地に風が吹いていた。
既に事切れた数多の黒服の亡骸を、パラパラとした砂が覆っていく。

そんな荒野の端、転がる大量の死体から1kmほど離れた丘に、
二人の男が向き合うようにして立っていた。

1人は身の丈がゆうに3mは超える怪物のような男だ。
その体は何もかもが大きいが、特に下半身に比べて上半身が異常に発達している。
胸板は鉄壁のように頑丈で大きい。両腕は比喩でもなんでもなく丸太ほどの太さだ。
その傷だらけ顔は、この男がこれまで数多の戦場を経験して来た事を暗に示している。
その全てが常人とは比べ物にならないほどの、無骨で強靭な巨体である。

だがその男の体で最も異常であったのは、両手の指だった。
男の指は十本とも第二間接のところで切り取られ、その先が鎖でぶらぶらと揺れている。
そして男は大きく腕を広げ、対面に立つ男に対し指の断面を向けていた。
その揺ぎ無い男の姿は、機関銃を二つ搭載した装甲車を彷彿させた。

こんな怪物、常人ではまったく歯が立たない。
怪物を倒せるのは勇者だけと、物語では相場が決まっている。
だが怪物の目の前に立つものは勇者ではなかった。

全身の殆どが焼け焦げている人型の何か。
体の何もかもが黒く煤けている中で、とってつけたような両眼だけが白く濁っている。
顔からは何の色も見出せない。だがそれは感情がないのではない。
あらゆる負の感情がごちゃ混ぜになった末、どんな表情をすればわからない。
そんな黒く塗りつぶしたような顔つきであった。

そんな存在が前傾姿勢で両腕をダラリと前に垂らし、怪物をじっと見ている。
大きさや形こそ人間に酷似しているが、その様はとてもじゃないが人間とは思えない。
化物だ。元々人間であったものが、強い恨みの劫火で変貌を遂げたに違いない。
これほどまでに忌むべき存在が自然に生まれてくるはずがない。

怪物と化物。
両者の間を冷風とともに土煙が上がった。
それはこれから行われる人外の死闘を予感させる狼煙であった。

この二匹の人ならざるモノたちが出会ったのには、あるきっかけがある。
それは彼らが出遭う10分前のこと。




マフィアや陰獣との戦いの直後、問題が発生した。
幻影旅団の一員であるウボォーギンが攫われたのだ。

一瞬の内にウボォーギンの体に鎖が巻きつき、彼を連れて行った。
本来はウボォーギンは助けが必要になるほど弱くはない。
だが彼は現在、陰獣の攻撃を受け体が麻痺している状態。
つまり彼が自力で敵を打破するのは不可能なのだ。
誰かが助けに行かなければならない。

そんな話をしていた時だ。

「僕の後ろの方から誰か見てるね◆」

ヒソカがこんなことをいったのは。
5人の旅団員が視線は動かさずに、彼の背後の方角に意識を集中させる。

シャルナークが頷きながらヒソカに言った。

「……確かに視線を感じる。良く気付いたね」
「僕、そういうの敏感だからさ◆」

今まで気づかなかったがヒソカの言うとおり微かに視線を感じた。
普通なら見逃していしまうような小さくて弱々しい気配。
よくヒソカは気付けたものだ。

「でも大したことはなさそうね。この距離で気付かれるんだから」

シズクが感情の乏しい声でそういった。
おそらく視線の主がいるのは方向的にここから1kmほど離れた丘だろう。
近くにいるのならまだしろ、これだけ離れて視線に気付かれているのだから、
シズクの言うとおりその人物は大した手合いではないはずだ。

「でも放ておけないね。誰いく?」

片言でフェイタンが皆に問うた。
まだ生き残っているマフィアがいるのであれば、逃がす理由はない。
そのためにこの場にいる誰かが行く必要がある。

「糸が無ければ陰獣のほうは追跡できないからね。アタシはいけないよ」

人差し指を立てながらマチが言った。
その指先からはウボォーギンが攫われた方に向かって、オーラの糸が伸びている。
この糸の向かう先に鎖使いの陰獣がいるはずだ。
だからマチを丘に行かせるわけにはいかない。

「じゃ、俺行ってくるわ」

まるで散歩にでも出かけるみたいにフランクリンが気軽に申し出た。

「俺が追跡にまわると、車が2台必要になっちまうからな」

フランクリンは旅団の中で最も体が大きい。
彼が車に乗ってしまうと、それだけで後部座席が埋まってしまう。
頑張れば何とか2人乗れるかもしれないが、
態々そんな窮屈な思いをして陰獣を追跡しなくても良いだろう。

「それじゃ僕は、ビールをとってくるよ◆」

これはヒソカの申し出。
ウボォーギンの身体に寄生した蛆を除去するために、
大量のビールを飲ませる必要があった。

「よーし、じゃあ俺を含めたそれ以外の4人がウボォーギンの救出だ」

今のやり取りをまとめるようにシャルナークが言う。
ヒソカがビールを回収、フランクリンは丘の人物を始末、
そして残りのシャルナーク、シズク、フェイタン、マチがウボォーギンを救出しにいく。

これで全員の役割がきまった。旅団員はそれぞれの役目を果たすために動き出す。
フランクリンは気付かれないよう、回りこむようにして車で丘に向かった。




予想していた通り、丘の上にいた人物は大した奴ではなかった。
ただの素人。強さでいったらウボォーギンにやられたマフィアの男達以下。
その男は絶状態であったので念は使えるようだが、肉体がこの様では焼け石に水である。

フランクリンは男が何者か質問した。だが男は答えなかった。だから殺した。
仕事はこれで終り……彼はそう思った。

だが……

(いったいどうなってやがる……?)

男が立っていた。
頭を砕かれ、四肢をバラバラにされたはずの男がそこに立っていたのである。

いや、本当にこの男は先ほどの素人なのだろうか。
確かにその容姿はそっくりであるし、地面に転がっていた死体も消えている。
だが、地獄に堕ちたような全身の火傷、怨念の塊のような目、
怒り狂った獣のような佇まい、とても同一人物とは思えない。

フランクリンの第六感が大声で叫んでいた。
この男の危険であると。

フランクリンは獲物に襲い掛かる怪物のように、大きく腕を広げ男に指を向けた。
彼の念能力はその十本の指から連続で大量に念弾を発する
『俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)』というものだ。
即ち彼にとってはこれがファイティングポーズである。

するとそれに呼応するように、男は前傾姿勢になり腕をブラブラと揺らし始めた。
弛緩したその両の腕は男の肩から生えた二匹の毒蛇のように見えた。
フランクリンの脳裏にその腕の先についた掌が彼の喉笛に喰らいつくイメージが浮かんだ。

「……」
「……」

沈黙。お互い一言も発しない。

フランクリンには目の前にいる男が言葉を通じるような相手には見えなかった。
言葉や思考、理性と言ったもの全て捨て去り、
ただ狂気と本能にその身を委ねているように見えた。
故にフランクリンは黙して攻撃のタイミングを計っていた。

目の前の男はその見えているか見えていないか分からない
白く濁った両眼をフランクリンに向けている。
まるで獲物を品定めするように。

荒野を吹く風が強くなってきた。
二人の間を冷たい風が走り去っていく。
その時の風圧で土が舞い、薄らと煙が上がる。

タイミング的には一瞬であっただろう。
強風が収まり、漂っていた土煙が地に落ち消えた。

それが戦いの合図になった!

元々の前傾姿勢を更に倒し、地面を這うように男が飛び出した!
男が通り過ぎた後、一拍送れて土煙が上がる。
その鍛えられていない体からは考えられない速さ!
この速さで激突されれば重傷は避けられない。

だがそれを見て、フランクリンは豪快に口を歪めて笑う。
話にならない。猪突猛進では彼は倒せない!

十の銃口から火が放たれる。怒涛の如く吐き出される念の弾丸。
1本の指から毎秒7発で放たれるそれらが一直線に男へと向かっていく。
弾丸の初速は900m、機関銃の爆音よりも早く男に着弾した!

たかが機関銃の一発とは思えないほどの威力が立て続けに男を襲う。
その衝撃で男が吹っ飛ばされる。大量の血が宙を舞う。

(どうだ!?)

普通ならばこれでお終いだ。フランクリンの念弾は一発で敵を致命傷にできる。
それが体に十発以上も当たったのだ。どこに被弾しようが死は避けられない。

男が首の骨が折れる程の勢いで転がっていく。
後ろにあった大きな岩に男の背中が思いっきり衝突する。
岩に背中を擦りながら男の体がダラリと地に崩れていく。
体には一切の力がこもっている様子はない。
地に落ちきった体はそのまま地面にうつ伏せになって倒れる。

そして男は立ち上がった。

「なっ……!?」

一切のタイムラグはない。
地に臥した次の瞬間には、起き上がる動作が始まっていた。

そしてその体には一切の傷が残っていない。
フランクリンの念弾が体に着弾したのが嘘であるかのように、
元通り黒く焦げた体がそこに存在していた。

着弾してはいなかった?
いや、男の着ている服はぼろぼろになるほど穴が空いている。

(異常に強力な肉体治癒能力!!
 奴が死体から蘇生したのもこの能力のおかげか!!)

おそらくそれがこの男の念能力なのであろう。
でなければ、銃傷が消えたり、砕かれた体が元に戻ったりはすまい。

それにしても有り得ないほど強力な能力だ。
おそらくは強化系か特質系。肉体操作ではあのような回復はできない。
先ほどから絶であるのは制約の一部か?
それに絶のわりにはかなり身体能力が高い気がする。
いやそもそも自身の絶が念能力の制約になりうるのか?

「まあいい」

再び前傾姿勢を取ろうとしていた男に
フランクリンはそんな言葉を発して大量の念弾を浴びせた。
再び死体だらけの荒野に機関銃の音が鳴り響く!
雪崩のような念弾が杭で縫い付けるように男を岩に貼り付ける!

被弾で男の体が震えるよう躍り、血しぶきを吹き上げる。
だが次の瞬間、確かにあった傷が消え去る。
やはり肉体を復元する能力であることは間違いなさそうだ!

「だったら回復できなくなるまで、ぶっ壊しゃ関係ねーだろ?」

制約が何であろうと、系統がなんであろうとどうでもいい話なのだ。
どちらにしてもフランクリンがやる事に変わりない。
肉体を治癒するにはそれなりにオーラ量が必要になるはずだ。
なら相手に念弾を喰らわせてやればいいだけだ……死ぬまで!!

粉砕される頭蓋骨。胸に空く赤い穴。千切れそうになる腕。
腹から噴出す内臓液。ごっそりと削れる脇腹。白い骨が見える太腿。

フランクリンの念弾が致命的な傷を男に作り出していく。
それに対し、男の黒く焦げた体は数多の致命傷を瞬く間に消し去っていく。

いったい何百発、何千発こうやって男に念弾を叩き込んだのか。

(……どういうことだ)

フランクリンはこの現状に疑問を抱き始めた。

(いつになったらオーラが尽きやがる……!?)

一向に男の治癒能力が弱まる気配がないのだ!!
普通に考えればこのレベルの肉体治癒には膨大なオーラが必要になるはずだ。
だが男はまるでオーラが無限にあるかの如く、延々と自身を復元しつづける。
いくらなんでもオーラ量が多すぎる。

そしてその瞬間であった。

―――ザッ

「何ッ!?」

フランクリンの撃った念弾に抑えつけられていた男が一歩、
10センチほどの短い距離であるが右足で前に踏み出したのだ!!

(弱体化しないどころか、むしろ強くなっているだと!!?)

心中の叫びを証明するかの如く、男はまた一歩、今度は左足を前に出した。

異常事態。
ノーコストで肉体が修復できるはずがない。確実に敵のオーラ量は減っているはず。
だが本当にオーラ量が減ってきているのであれば、こんなことになるだろうか。
今まで圧されっ放しだった念弾の雨の中、それを押し返し、更に一歩踏み出すなど。

オーラ量が少なくなってきたので、無理してでも前に出ようとしているのだろうか。
だがそれだったらジリ貧になる前、もっと早くにそうしているはずだ。

修復にはそれ相応のオーラが必要。だが相手はむしろ力強くなっている。
どういうことなのか。念弾を放ちながらもフランクリンは高速で頭を回転させる。

(ダメージを受ければ受けるほど、強くなる……?
 いや、そんな都合の良すぎる能力はありえない)

修復する能力とダメージに比例して強くなる能力が一緒に身につけられるわけがない。
念能力で万能や完全はありえないのだ。
仮にその二つの能力を身につけたとしても、
『現時点でのダメージに比例して』という制約がつくはずだ。
でなければ、永遠に蓄積ダメージがリセットされることがなくなってしまう。

となれば別の要因だ。あの男を強くしているのは。

(待てよ……! ダメージ以外にも奴が得ているものがある!!)

フランクリンの頭の中にある可能性が浮かび上がる。
そうこう考えているうちに、男がまた一歩踏み出す。
心なしか間隔が早くなっている。

(……俺の念弾だ! もし奴が俺の念弾自体を吸収しているのであれば……)

これ以上の念弾を浴びせるのは、完璧に逆効果になる。

本当にこのまま念弾を撃ち続けていいのか。
そんな迷いがフランクリンの頭を過ぎる。
だが、そんな迷いこそが念の世界では毒になる!!!
フランクリンの放っていた弾幕がその瞬間僅かに薄くなる。

無論、男はそれを見逃さなかった。

男の足元から爆発したように土煙が上がる。
フランクリンの一瞬の迷いを突き、男が地面を蹴り横に飛び出したのだ!

「しまっ……!!?」

男は再び地面を蹴り、フランクリンに直角の軌道で襲い掛かる。
そのスピードは先の突撃よりも明らかに早くなっている。
男の動きは紛れも無く先ほどより強化されていた。

男の掌が大蛇の顎(あぎと)となり、喉笛を喰らい千切ろうとする。
左側面からの攻撃、フランクリンは腕でそれを防ぐしかない。

―――ドッ

丸太を斧で叩くような重い音。
骨まで響くような痛みがフランクリンの太い腕に響く。

(なんとか防御が間に合ったか!)

冷や汗をかき、心中でそう呟くフランクリン。
だが今の攻撃の真の狙いは彼を傷つけることではなかったのだ!!

次の瞬間であった。
フランクリンの腕を纏っていたオーラがごっそりと減ったのだ!!
そしてそれと同時に腕を掴む男の指の力が急激に強くなる!!!

力が抜けるフランクリンの左腕。
肉体からオーラが徐々に抜けていく感覚。
脳髄を駆け巡る危機感。

(やばいッ!!)

フランクリンは残った右腕にオーラを集中させ、男の体に拳をぶち当てた。
左脇腹にもらったフランクリンのパンチに、
男は体をくの字に折りながら吹っ飛ばされる。

そしてフランクリンは確信した。

(こいつのもう一つの能力……それは『オーラ吸収』!!!!)

念弾を喰らった時、フランクリンの腕からオーラが減った時、
男は確実にその肉体が強くなっていた。
それはつまり男がオーラを奪って、肉体を強化したということ。
即ち『オーラの吸収』こそがこの男の第二の能力!!

恐ろしい能力である。
念能力者はオーラを使って戦う人間である。
そのオーラそのものが吸収されてしまうのでは、元も子もない。
それに加えて肉体の修復。念能力者にとっては悪夢のような能力だ。

だが完璧ではない。

(殴った右拳からオーラが吸われていない)

おそらくはオーラを吸うためには一瞬の時間差が必要。
思えばあの男は念弾を喰らってから回復まで一拍程の間があった。

ならば事は簡単だ。一瞬だけしか相手に触れなければ良いのだ。
接近戦での殴り合いならば問題ない。

空中で受身を取り、四肢をもって地面に男が着地する。
そしてすぐさまフランクリンに目を向け、凄まじい爆発力で突進!!

「来やがれ!!」

フランクリンはそれを両拳を固め迎え撃つ!

男は勢いにのり、腕を大きく振りかぶり、横なぎにフランクリンの首を掴もうとする。
フランクリンはそれをスウェーで避け、がら空きの顎にアッパーを叩き込む。
天を向いて空中に浮かぶ男の顔面に斜め上から左フックで殴りつける。
その威力に吹っ飛び地面に叩きつけられた男に接近し、
体が跳ね上がった所に右ローキック、再び男をうつ伏せに地面に沈める!

怒涛の連続攻撃。
とどめだと言わんばかりに倒れる男の体を右足で踏みつけようとする。
だが男は左腕でそれを跳ね除けた。

……うつ伏せの状態で。

「なっ……!?」

フランクリンは確かに見た。
何か折れる乾いた音を発しながら、有り得ない角度で曲る左肩を。

(こいつ!! 自分の間接を破壊して攻撃しやがった!!)

相手は自分の間接を壊すほどの力を腕に込め、その勢いでフランクリンを迎撃したのだ。
人間には絶対にすることのできない肉体の動き。
自身の肉体を修復できるからこその狂った挙動。

虚を突かれ一瞬動きが止るフランクリン。
その隙に男は左腕を返すがてらに地面に思いっきりぶつけた。
そして勢いを利用し転がるようにして立ち上がる。

フランクリンからオーラを吸うためには、
一度動きを止める必要がある思ったのだろうか。
今度は男が拳を固めた。そして最短距離でフランクリンの左足を殴りつける。

「しまった!!」

男を踏みつけようと右足を上げて所への攻撃。
フランクリンの巨体がバランスを崩した。
そこに男は右脚で、後ろ回し蹴りをフランクリンの腹に叩き込む。

後ろ回し蹴りといっても人間の訓練された技とはまるで違う。
ボキボキと左の股関節を捻り切りながら、
恐ろしい力で右足を強引に回転させるという暴虐な化物の動きであった。

そんな攻撃を受けてただで済むわけがない。後ろに転がる巨体。
だが痛みを堪えて受身をとり、フランクリンは直ぐに体勢を立て直す。

土煙が混じるフランクリンの視界に、目の前で荒々しく拳を振りかぶる男が映る!

「クッ!」

解き放たれたバネの如くうねりをあげ、
フランクリンの顔面目掛けて向かってくる右拳。ガードをする暇はない。
上半身を仰け反らしフランクリンはそれを避けようとする。

だがフランクリンは忘れていた。
この男の動きが人のものではないということを。

「ガハッ!!!」

男の右拳がフランクリンの顔面を殴っていた。
右腕の長さがおかしかった。明らかに左腕よりも20cmほど長い!
これもまた人外の攻撃。男は腕の関節を外し、リーチを伸ばしたのだ。

(攻撃が……予想できない!!)

人外の攻撃を繰り出した男に戦慄を隠せないフランクリン。
だが男の攻撃はまだ終わらない。

間接が壊れ、鞭のようにしなる左腕が打ち付けられる。
指が折れても構わないとばかりに勢いのある右拳が腹に突き刺さる。
完全に折れた膝を基点に回転し、右蹴りが背中を打つ。

フランクリンも何度か反撃するが、男はまったく怯まない。
それに引き換えフランクリンの体には徐々に徐々に痣や傷が増えていく。

予想の出来ない攻撃。修復する肉体の傷。
ここに来てフランクリンは、
接近戦でこの化物を打ち倒すことが無理であることを悟った。

自分の一番の武器である念弾は吸収される。
殴り合いでは男に部がありまくる。

遠距離でもダメ。近距離でもダメ。
完全な八方塞がり!!

全身血まみれのフランクリンに反撃の動きがまったく無くなった。

それを見て男は、全身のエネルギーを集中させるように右腕に力を入れた。
血管が浮き上がり、筋肉で膨らむ男の腕。焦げた肌にヒビで割れていく。

男は相変わらず絶状態である。だがフランクリンは一目で分かった。
その腕に恐るべき力が篭っていると。喰らえば間違いなく一撃で意識が刈り取られると。

後ろを向くぐらいに体を大きく捻り、男が右腕を振りかぶる。
全身にどれほどの力が込められているのだろうか。
フランクリンの耳にギギギという肉と肉が擦れる音が聞こえた。

そしてその凝縮された力は解放される!!
放たれる拳は音も何もかも置き去りにし、フランクリンの心臓目掛け飛んでいく。

黒い拳がフランクリンの胸を貫く!!!

……そう、思われる刹那であった。

男の右肩が…………弾け消えた!!

「……」

ここで男は初めて動きを止めた。
いったい今何が起きたのか理解できないと言う様に。

フランクリンの後ろ、男の右腕が宙を舞い飛んでいる。
男の右肩から先がない。いや右肩すらもない。
心臓の断面が見える。そこからポンプのように血が吹き出ている。
男の右胸が、冗談のように丸い弧を描きごっそりと削れていた。

フランクリンの両手から煙が上がっていた。
念弾を放ったのだろうか。だがこの威力、これまでとは比べ物にならない!!

「あんまり使いたくなかったんだがな……」

そう言ってフランクリンが冷たい目で男を睨らむ。
フランクリンの十本の指から再び念弾が放たれる。
だが着弾点は一点!!

―――パンッ

風船でも割れるような乾いた音とともに、今度は男の左胸が弾けた。
そしてそのまま念弾は男の体を貫き、荒野の地面に突き刺さる。
大きな爆発音を上げ、土煙が膨らんだ。

「念弾は吸収される。殴り合いじゃ負ける。
 一見どうしようもねぇように見えるが……答えは簡単だ」

右胸、左胸と無くなり、背骨一本で首と腹が繋がる男。
それを見てフランクリンは笑いながら言った。

「吸収されない念弾を撃ちゃぁいい話だ。
 貫通すれば問題ねーだろ」

これがフランクリンの隠し技『一点着弾』。
十本の銃口から放たれる念弾を一点に集中させ、そこで結合させるというもの。
集中力が必要なため、機関銃ほどの連射はできない。
おまけにそこに滅茶苦茶オーラを集中させるため、全身の纏うオーラは薄くなる。

だが威力は絶大!!
それは単に10の念弾をまとめただけではない。
そこでそれぞれの念弾がぶつかった時の反発力で更に威力が跳ね上がっている!!
もはや機関銃の持つ攻撃力ではない。戦車の大砲にも勝るとも劣らない破壊力。

そんな威力の念弾を人間の体で受け止められるはずがない。
止めようとするにはウボォーギンほどの防御力が必要となる。
男はそんな防御力を持っていたか?
否!! 肉体治癒があったから良いが、男は機関銃の弾一発一発で致命傷を負っていた。
当然、大砲を防御できるわけも無く、肉は破裂し弾は貫通する。

―――ドサッ

フランクリンの背後に男の右腕が落ちる音。
それを合図にしたかのように男の右腕と左腕が修復される。

だがそれはフランクリンにとっても合図となった。
大砲が発射される。

今度は男の下腹部が弾けとんだ。
男の体が股間の辺りを中心に、真っ二つになる。
2本の脚がそれぞれ逆方向に飛んでいく。
男の背後に爆煙が立ち込める。

地面に落ちる男の体。
だが次の瞬間には男は下半身を再生し、また立ち上がる。

そこに再びフランクリンの10の銃口が火を噴く。
今度は男の首。頭と一緒に胸部がごっそりとなくなる。
荒野の大地から煙が上がる。

修復しては肉体を破壊し、再び修復しては肉体を破壊するという繰り返し。
だがそれはフランクリンが念弾をばら撒き、男を岩に貼り付けていた時とは違う。
四肢を頭を吹き飛ばされるたび、徐々に徐々にだが、男が確実に衰えていく。

(当りか)

心の中で呟きながら、フランクリンは弾丸を放つ。
大地の土とともに、男の体が弾ける。

念弾を貫通させているということは、男がオーラを吸収できていないということだ。
先ほどは念弾を吸収することができたから、
肉体を修復するオーラに困らなかったんだろうが、今度は違う。
最終的には念弾は荒野の大地に突き刺さり、全て男を貫いている。
故に肉体の修復は自分のオーラでしなければならない。疲弊するのは避けられない。

後はこれを繰り返していけば、いずれ男は肉体を修復できなくなる。

(その時がお前の最期だ。化け物!!)

放たれる念弾。弾け飛ぶ肉塊。煙を上げる荒野。
修復する間隔が少し遅くなり、立ち上がる動作にキレがなくなっていく。
男は順調に弱まってきている。全ては順調だ。

しかし……とフランクリンは思う。

(解せねェな……)

この男の能力は異常だった。
蘇生レベルの肉体修復とオーラ吸収……これほど強力な能力が2つも習得できるものか?
よほど鍛えられた能力者であっても覚えられるのは片方のみだろう。

そもそもこの男の能力は本当に修復能力なのだろうか。
強化系であるならば、自然治癒能力を強化する形となる。
その場合、失った部位は決して回復することはない。
だがこの男の場合は、まるで受けたダメージをリセットするかの如く、
体の怪我や部位の損失がなくなっている。これはいったいどういうことだろうか。

それに異常といえばこの男の存在そのものも異常!
先ほどの連続攻撃、威力・スピードともに絶で出来るものではない。
明らかに念的な強化がされている。
それにやはり絶状態で肉体修復やオーラ吸収ができるのもおかしい話だ。

考えながらも弾丸を放ち、男の肉体を破壊するフランクリン。

そこで彼はもう一つの異常に気付く。

(……そういえば、なぜこいつは俺の念弾が見えるんだ?)

絶とは精孔を閉じる技術のことである。
だがオーラは目の精孔を開かなければ見ることができない。

しかしこの男は絶であるにも関わらず、フランクリンの念弾が見えていた。
変貌する前も、変貌した後も、明らかに念弾を補足していた。

(そうか……!!)

ここでフランクリンはある可能性に気付く。

絶状態であっても念が見え、肉体が強化され、能力が使える理由。
オーラ吸収という特異な能力を持ちながら、あれほど強力な修復能力を持っている理由。
全て説明がつく!!

「つまり、おまえは……」




そう言いかけた瞬間であった。

―――ゴッ

フランクリンの後頭部に鈍い衝撃が走った。

「なっ……!!?」

朦朧する意識。ぐらつく巨体。
念弾の一点着弾のためにオーラを両手に集中させていたばかりに、
後頭部に受けた強力な打撃によりフランクリンは深刻なダメージを受けた。

(馬鹿な!! 何故後ろから!?)

フランクリンは霞む両目で前を見る。
そこには破壊された肉体を修復した男がいる。
となると後ろからの攻撃は別の誰か……。

(伏兵か!? 一体誰が!!)

だがダメージで鈍った感覚では、後ろを振り向くこともできない。
いや、もし感覚が鈍っていなかったとしても、それは適わなかっただろう。

なぜならこんな致命的な隙を、彼の敵が見逃すはずが無いからだ。

「ガッ!!」

ふら付いているフランクリンに男が突進し、そのまま荒野の大地に彼を叩きつけた。
ただでさえ歪んでいた視界がその衝撃で更に混濁する。

(ま、まずい!!)

擦れる意識の中で彼は男に反撃しようとする。

だがもう遅かった。男は馬乗りになり、
フランクリンの体の中で最も危険な部位……両手を掴んで抑えていた。
そして思いっきり吸われるオーラ。両手にオーラが行き届かなくなる。


これではもう……機関銃は動かない。


腕だけではない。全身からも徐々に力が、オーラが抜けていく。

フランクリンは悟った。

(これで……しまいか……)

自分の死を。










だが……フランクリンの両目には今だ爛々とした輝きが灯っていた。

フランクリンは最期のオーラを振り絞り、それを目に集中させた。
オーラを隠蔽する『隠』を見破る基本技の一つ『凝』。
だが、それは隠を見破るためではない。

オーラを集中させたことにより、曇っていた視界がクリアになっていく。
それがフランクリンの狙いであった。

フランクリンは自分に乗る化物の顔を睨みつけた。

自分はもう助からない。
だが必ず自分の仲間がこいつを打ち倒す。

12本もあるんだ。手足の1本や2本くれてやればいい。
それぐらいでは蜘蛛は死なない。

手の1本で敵の手がかりが手に入るのならば安いもの……。

フランクリンの心臓の鼓動が停止する。

だがフランクリンはそれでも残る力を振り絞り、
その意思が完全に奈落に沈むまで男の顔をずっと見続けた。




(先に……逝ってるぜ……おま……え……ら……)




それがフランクリンの頭の中で思い浮かんだ最期の言葉であった。




つづく







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