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No.4809の一覧
[0] 天災異邦人『高橋良助』~オワタ\(^o^)/で始まるストーリー~(現実⇒原作)[マッド博士](2009/01/25 02:30)
[1] ――― 第 01 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[2] ――― 第 02 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:09)
[3] ――― 第 03 話 ――― [マッド博士](2008/12/22 07:12)
[4] ――― 第 04 話 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:04)
[5] ――― 第 05 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:19)
[6] ――― 第 06 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[7] ――― 第 07 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:21)
[8] ――― 第 08 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[9] ――― 第 09 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:22)
[10] ――― 第 10 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[11] ――― 第 11 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[12] ――― 第 12 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:23)
[13] ――― 第 13 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[14] ――― 第 14 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[15] ――― 第 15 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:24)
[16] ――― 第 16 話 ―――[マッド博士](2008/12/22 07:25)
[17] ――― 第 17 話 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:09)
[18] ――― 第 18 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:23)
[19] ――― 裏 話 1 ―――[マッド博士](2009/01/09 07:58)
[20] ――― 裏 話 2 ―――[マッド博士](2008/12/25 14:26)
[21] ――― 裏 話 3 ―――[マッド博士](2008/12/27 21:29)
[22] ――― 裏 話 4 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:01)
[23] ――― 裏 話 5 ―――[マッド博士](2009/01/09 08:02)
[24] ――― 裏 話 6 ―――[マッド博士](2009/01/09 15:05)
[25] ――― 第 19 話 ―――[マッド博士](2009/01/17 22:22)
[26] ――― 第 20 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:18)
[27] ――― 第 21 話 ―――[マッド博士](2009/01/25 02:43)
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[4809] ――― 裏 話 3 ―――
Name: マッド博士◆39ed057a ID:eca59468 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/27 21:29




「しばらく様子をみようとしたのが正解だったな」

by ハンゾー(自分のターゲットをキルアが代わりに倒したことに関して)




裏話3 『忍者の独白』



畳の敷かれたジャポン風の10畳間。
壁には『心』と書かれた大きく色紙が張られてあり、
その他には座布団と四角いちゃぶ台、そして生けられた梅の枝しかない。
装飾は非常に質素なお座敷だが、それらが全て柔らかに調和されており、
味わい深い趣を感じさせる部屋であった。

その部屋に1人の男が入って来る。

寺の坊主の綺麗に剃られた禿頭の男。
動きやすそうな黒い忍び装束を纏っている。
そしてその胸には294の番号札がつけられていた。
彼の名前は半蔵(ハンゾー)。
ジャポンの隠密集団『雲隠流』の上忍である。

(……地味な部屋だな)

座敷の内装を見てのハンゾーの感想である。
どうやら風流や趣といったものは彼には理解できなかったらしい。
元から隠密の癖にやけに自己主張の強く、うるさいぐらいにお喋り好きな男だ。
あんまりそういったものに関心がないのだろう。

「ふむ、座りなさい」

部屋の中央には1人の好々爺、
ハンター試験の最高責任者であるネテロ会長が座布団に座わり、
右手の指で長く伸ばされた右眉毛の先っぽをいじくっている。
幽玄にして明鏡止水のその有様は、どこかの山奥で修行をしている仙人のように見えた。

ハンゾーは促されるままに座布団に座った。

「それでこれから何するんだ、爺さん?」

目上の人間に対し敬語も使わず、それどころか爺さんなどと呼ぶハンゾー。
彼の言葉は失礼な極まりなかったが、見方を変えれば誰に対しても
自分のあり方を変えない芯の強さが現われているとも考えられる。

ハンターには頑固者や変わり者が多い。
逆に言えば頑固者や変わり者がハンターとしての適正が高いのだ。
そういった意味で、自分と言うものを殺して任務を遂行する忍者と言う立場でありながら
それに囚われない型破りのハンゾーは、意外とハンターに向いているのかもしれない。

そういうことが分かっているのか、
ネテロ会長はハンゾーの失礼な物言いなどまったく気にせずに
ホッホッと朗らかに笑った。

「最終試験は少々変わった形式の決闘をして貰おうと思ってな。
 おぬしに来てもらったのは、それに関して幾つか質問をするためじゃ」
「変わった形式の決闘? いったいどんなんだ?」
「ひぇっひぇっ、それは後でのお楽しみじゃよ」

半眼で奇妙な笑い声を上げながら、試験の情報を隠蔽するネテロ。
彼が何も話さないのは当然のことだ。
ここで試験の内容について話してしまうと、公平性が失われてしまうし、
これからする質問の答えも意図的に返られてしまうかもしれない。
もっともハンゾーは別にそんなことを考えていたわけではなく、
単純に気になったから聞いただけなのだが。

「それでは最初の質問じゃ。
 おぬしはなぜハンターになりたいのかの?」
「幻の巻物『隠者の書』を探すためハンターになりてーんだ」
「ほぉ、隠者の書とな」
「あぁ。どーやら一般庶民じゃ入れない国にあるらしいんでな」

淡々と理由を話すハンゾーにネテロは次なる質問を投げかける。

「それでは次の質問じゃ。
 おぬしが10人の中で最も注目しているのは誰かね?」
「……」

ここで初めてハンゾーの言葉が止った。
沈黙するハンゾー、その額にはじっとりと汗が浮かんでいる。

「……どうしたのじゃ?」
「いや……ちょっと色々と思い出してただけだ」

ネテロの言葉にハンゾーは一息ついて話し出す。

「44番と311番だ」
「ふーむ。
 ……では、最も戦いたくないのは誰じゃ?」
「それも44番と311番だ」
「ふむ」

44番ヒソカと311番高橋良助。
ハンゾーが見る限り、彼らがハンター試験における一番の危険人物だった。

「ふむ。44番はともかく311番とは意外じゃな」

だが見るからに強そうなヒソカはともかく、
もう1人の高橋良助は見た感じ微塵の強さも感じられない。
最強がヒソカならば、最弱は高橋良助。
そう思えるぐらい良助の雰囲気は弱々しかった。
なぜハンゾーはそんな人物と戦いたくないのか……。
明らかに不自然である。

故にネテロの言葉は至極当然のものと言えるだろう。
だが、ハンゾーはそれに対して意を唱える。

「おいおい。四次試験じゃ全員に監視役がついてたんじゃないのか?」
「ほっほ、気付いておったか」
「……ならあんたにも報告は言っているはずだろ。
 四次試験で何があったのか」

四次試験にもなると受験生の数もかなり厳選されてくる。
三次試験を合格した人数は25名(内1名死亡)。
これぐらいの人数ならば審査委員会で1人1人に監視をつけるのも簡単だ。

ハンゾーとてハンター志望の1人、また忍の中でも特に有望な男だ。
追跡されたり追跡したりはお家芸みたいなものだ。
無論、自分を監視している人間の存在を見つけるのも造作もない話だった。

それはともかく、試験の最中に受験生達のことを随時監視していたのならば、
審査委員会側で受験生の動向を把握しているはずなのだ。
だからネテロ会長がハンゾーが高橋良助を恐れる理由を知らないわけがない。
『それ』は四次試験最中に起きたのだから。

「うむ。もちろん知っておるよ」

あっさりとそのことを認めるネテロ。
つまり先ほど「311番とは意外じゃな」というセリフが、
ネテロが惚けて言ったものだということを認めたのだ。

騙されそうになっていたことを知り、ハンゾーは若干不機嫌な表情を浮かべた。
だがネテロ会長はそれに構わず続けて言った。

「じゃが、監視の視点だけでは色々と見えぬことも多い。
 実際に試験を受けていたお主の話を聞かせてもらえんかの?」
「おいおい、なんで俺にだけそんな質問をするんだ?
 他の奴らなんて五分も面談してなかったろ」

ハンゾーは少々を違和感を感じ始めた。
面談に関するアナウンスを聞く限り、ハンゾー以外の9人の受験生が
5分以上面談をしている様子はなかった。
長くても4分強、短ければ2分そこらで次の受験生が呼び出されていた。
いくら自分の面談が最後とは言え、自分の面談だけ長くなることはありえない。
なぜ自分にだけこのような長い面談をするのか。

「ほっほっ、何あまり気にせぬことじゃな。
 あくまで最終試験前準備の一環じゃよ」

まるで言い訳になっていない。
だが最終試験のためのものと言われれば話さざるを得ない。

「……食えない爺さんだな」
「はて、なんのことかの?」

飄々としたネテロの返事にハンゾーは苦虫を潰したような顔になる。

「言っておくがそれなりに長い話になるぜ」
「かまわんよ。時間はたっぷりあるんじゃ」

どうあっても自分に四次試験の話をさせるらしい。
ハンゾーは仕方ないと深く溜息をつく。

「……わかったよ。話しゃいいんだろ話しゃ」

そういってハンゾーは四次試験のことについて話し出した。




いきなりで悪いんだが、
あんたは『逢魔が刻(おうまがどき)』って言葉って知ってるか?
これは俺の故郷の言葉でな。黄昏時のことを言うらしい。

魔に逢う刻……恐ろしい言葉だよな。
俺もなんでそういう風に言うのかはわからねぇよ。
そこまで教養があるわけでもないしな。

ただ人伝いに、昼と夜の変わり目は魔物が出やすいからとか、
その薄暗さから道を歩いている人影が人間か妖怪かわからなくなるからとか、
まぁ色々聞いたことがある。

とにかく、俺の国の古来の人々は自分達の世界を照らしてくれる太陽が
沈むその一瞬の時間帯を恐れていたらしい。
妖(あやかし)や物の怪(もののけ)が出始める時間帯としてな。
まぁ、人間ってものは本能的に暗闇を恐れるもんだ。
そういう風な忌み語が生まれたとしても不思議じゃないわな。

だが俺たち隠密はその名の如く『隠れて密する』稼業だ。
故に人間の視界が制限される夜闇や物陰が俺たちの戦場となる。
魑魅魍魎がうずめく暗闇の時間帯がな。

だからきっと俺たち忍者という人種も化物の一種に違いない。

……って昨日までは思ってたんだがな。
甘かったよ。世の中には本当にいたのさ。
正真正銘の『化物』ってやつがな。

俺がその化物とあったのは四次試験の六日目のこと。
そうだな。それも丁度、日が沈む時間帯……逢魔が刻のことだった。

俺は丁度その時、二人の受験生の尾行をしていた。
受験番号十六番のトンパと……受験番号三百十一番の高橋良助って奴をな。

まぁ二人といっても俺の本命はその高橋良助だけだった。
そいつが四次試験での俺の標的だったんだよ。

四次試験前のくじ引きであの男の番号を引いたとき、俺はやったと思ったぜ。
なんせあの男は農民出の足軽以下の雑魚だったからな。
身体は全く鍛えられていないし、技量も稚拙。
……まぁ気配の消し方については在り得ないほど上手かったが、
それでも俺はさして問題ないと思ったよ。
だって奴は狩りの基本というものをまったく知らなそうだったからな。

俺の予想通り、あの男は森での移動法ってものを徹底的に知らなかった。
地面に残る靴の足跡や不自然な草花の折れ具合、
それらは誰かがそこを通ったことを俺に教えてくれてたよ。
いくら気配の消し方が上手くても、これじゃ宝の持ち腐れだ。

結果、俺は四次試験が始まって一時間もしない内に
あの男を見つけることができた。
正直、赤子の手を捻るよりも簡単だった。

……ん?
ならなんで六日目まで尾行をしたのかって?
大丈夫だ。それについても話すさ。

そう……そんなに早くそいつを見つけることができたのに、
俺はそいつからプレートを奪うことはしなかった。
自分で言うのもなんだが、実力でいったら俺のほうが圧倒的に上だ。
はっきり言や、今のあいつが百人いたとしても俺には勝てないと思うぜ。

だがそれにも関わらず、俺は尾行して奴を観察することにした。
なぜだか、分かるか?

それはな……ある一つの不可解な点が俺を疑心暗鬼にさせたからさ。

知っているか?
あいつはな、三次試験を一人だけ別の方法で合格したんだ。
それもかなり破天荒なやり方でな。

皆が塔の屋上の隠し扉から中に入るのに対して、
奴は外を飛んでいた人面の化物鳥に乗って降りようとしやがったんだ。
信じられるか?
あの高い塔から飛び降りたんだぜ。俺は目を疑ったよ。

まぁ結果は半分成功半分失敗ってところだろうな。
人面鳥に飛び乗ったところまでは良かったが、
しばらく降下したところで奴は振り下ろされちまった。

普通ならそれでお仕舞いだ。だが奴は運が良かった。
落ちたところが丁度森になっていたのさ。
あの男は生きていた。
しかも平然と四十四番のヒソカとトランプで遊んでやがった。

俺もそれにはかなり驚いた。
だが塔の罠が予想以上にきつかったものでな、
そのことについて深く考えている精神的な余裕がなかった。
だから下について直ぐ休息を取って寝ることにしたのさ。

でもな、良く考えるとおかしいんだよ、これが。

あの塔の高さは三百メートル以上あった。
そしてあいつが人面鳥から落ちたのは上から二百メートルほどの所だった。

つまりな……あいつは百メートル以上の高度から落下したはずなんだ!!

な、おかしいだろ?
人間がそんな高さから落ちて生きていられるはずなんだ。
奇跡でも起きりゃまた別かもしれないがな、
生憎俺はそんなもんを信じるつもりはない。

あいつには何かあるんじゃないか……?
あの高所から落ちて生きていられる何かが隠されてるんじゃないか……?
実はあの見た目の貧弱さは擬態か何かなのではないか……?
忍びの修行において、今まで『全てを疑え』と教えられてきたからな。
そんな考えが、あの男を見つけた俺の頭の中を占め始めたんだ。

そもそもあの素人同然の男が、凶悪なヒソカと仲良くしてるっておかしな話さ。
だがそれもあの男が何か隠しているのであれば納得がいく。

だから俺は様子を見るために、尾行に徹したんだ。
運が良いことに、トンパもあの男をつけて屈辱を晴らそうとしていた。
奴が隠し持っている何かを確認するには絶好の機会だと思った。
番号札を奪うのはトンパが彼に仕掛けてからでも遅くは無かったしな。

そして六日目、ついにトンパが仕掛けた。
トンパが自分の番号札を餌に高橋良助を罠に嵌め、落とし穴に叩き落したんだ。
更にはその穴の中に、人間を自分達の巣にしてしまうという
ヒトグイウジとかいうのを放り込もうとしている。

これまでずっとただ観察していた俺だが、
この時ばかりはどうするか悩んでしまった。
どうやら話を聞く限り、ウジを投げ込まれると
プレートの回収が難しくなってしまうようだったからだ。

どうする今すぐ飛び込んでトンパに止めさせるか?
そんな考えも頭に過ぎったが、俺はそのまま観察を続けることにした。
なぜなら高橋良助の声にまったく恐怖の色がなかったからだ。

ヒトグイウジは人間の身体を麻痺させて苦痛を与える生き物らしい。
それも命を奪わずに、ずっと生かしたままな。
そんなもんが投げ込まれようとしているのに、
あの男の声には怯えも恐怖も不安もまったくありはしなかった。
普通なら涙と鼻水を垂らしてトンパに止めてくれと真剣に懇願するところさ。
それなのに奴は態度はずっと軽薄なままだった。
屈辱を晴らそうとしていたトンパも、
まったく恐怖を抱かないあの男の態度に苛立っているようだった。

だから俺は大丈夫だと思ったんだ。
きっと奴には恐れる必要がないんだと。
この状況を打開するための何かをやはり持っているのだと。

だが結局何も起こらないまま、ヒトグイウジは投げ込まれてしまった。
ヒトグイウジに対して苦痛の悲鳴を上げる高橋良助。
結局、あの男はその隠された何かを露にすることなく、
ヒトグイウジの餌食となってしまったんだよ!!

奴の悲鳴を聞いて、俺は「しくじった」と思ったね。
こんなことなら妙なことは考えずに、最初から番号札を奪っておけばよかったってな。
これで俺は三点分の番号札を別の受験生から奪わなければならない。
残り一日でだ。面倒なことになったと俺は感じた。

……そうだよ。
それで終りじゃなかったんだ。
俺が今まで待っていた高橋良助のその何かは
この直ぐ後に『現われた』んだ。

高橋良助の声が聞こえなくなった瞬間、穴から『何か』が飛び出した!!

それは高らかに空中に舞うと、
穴から離れようとしたトンパの背後に着地した。
背後の物音にトンパも何が起きたのかと後ろを振り向いた。

そこに居たのは代わり果てた高橋良助の姿だった。
その皮膚は黒く爛れ焦げて、白い蛆がウジャウジャと出たり入ったりしていた。
その目は白く濁っていて曇り硝子の珠のようだたった。
普通の人間だったら二目と見れない姿に奴はなっていた。
地獄の血の池から這い上がっていた亡者のようだった。

俺は断言するよ。
そこにいたのはな、高橋良助という受験生なんかじゃねぇ。
それと良く似た、もっと別の『化物』だ!

そいつを見たとき、トンパは悲鳴を上げてその場に尻餅をついた。
そりゃそうだ。明らかに生きている人間の也じゃなかったからな。
俺自身もあれを見たときは鳥肌が立ったぜ。

それでその化物はトンパの目の前で何をしたと思う?
……惚けんなよ、爺さん。
しっかり監視員から話は聞いているんだろ。

奴はその場で自分の身体の中を這いずるヒトグイウジを
……肉ごと抉り取り始めたんだ!!
自分のその焦げた肌に恐るべき力で指をめり込ませてな。

顔面を、胸部を、両腕を、腹部を、臀部を、両足を、
奴はその万の力を持って、ボリボリと掻いていった。
そしてごっそりと取れた自分の肉を蛆ごと地面に吐き捨てていく。
自分の身体から血が吹き出るのもお構いなしだ。

トンパは目の前で繰り広げられる残酷な光景に震えていたよ。
俺も奴の狂行を見て震えが抑え切れなかった。
それだけ常軌を逸した光景だったんだ。
地獄にでも迷いこんでしまったんじゃないかと思ったよ。

しばらくすると奴は動きを止めた。
たぶんヒトグイウジを全部取り終えたんだろうな。

だがな可笑しなことにな……奴の身体には傷一つなかったんだ!!

なぜだ!!
今の今で自分の肉を地面に打ち捨てていたじゃないか!?
そう思って地面を見ると、そこには蛆の屍骸しか転がっていなかった。
確かに存在していた奴の肉片が全て消えていたんだ。

ここまで来ると俺も感覚が麻痺してな。
「あぁ、この化物はそういう存在なんだ」と訳も分からず納得していたよ。

化物は次にトンパの頭を掴んで、そのまま地面に押し倒した。
トンパも声を上げて抵抗したが、まったく歯が立たなかった。
抉り取られた肉が元に戻るような化物だぜ。
殴りや蹴りが効くわけがねーよ。

化物がトンパの頭を鷲掴みにしていると、
徐々に徐々にトンパの抵抗が弱くなっていった。
まるでその化物に魂でも吸われているかのようにな。

程なくしてトンパの身体はピクリとも動かなくなった。
俺は直感的に理解した。トンパは死んだのだと。

化物はトンパの屍骸を片手で持ち上げた。
その動きは先ほどよりも力強く、
まるでトンパから魂を吸い取って自分の力にしてしまったようだった。

そして化物は喉が破れそうなほどに大きな叫びを上げて、
そのまま腕を振りかぶりトンパの亡骸を投げ飛ばした!!

屍骸が飛んでいった方から聞こえる何かが潰れる音。
その音を聞いてか、化物は更に大きく咆哮した。

両手両足を広げ、首を思いっきり振り、怒り狂ったように吼える化物。
その様はまるで「よくも俺を傷つけたな」と言っているようだった。
……いや、そんなものではない。
それはこの世全てを怒り憎しみ恨んでいるような地獄の叫びだった。

しばらくして化物は吼えるのを止め、力尽きたようにその場に倒れた。
あたりに静寂が戻った。

……馬鹿いうなよ。
そんなのを見せ付けられて、
そいつから番号札を奪う気になれるわけねーだろ。

俺は諦めたよ。三百十一番の番号札をな。
あんな化物には近づくよりだったら、
他の受験生から三つの番号札を奪ったほうがまだましさ。




「……ま、奴の話はこんなところだ。
 他の受験生から番号札を奪うのも色々と大変だったが……、
 そこらへんは別にいいだろ、爺さん?」

あんたのせいで思い出したくないものを思い出してしまったと言わんばかりに、
ハンゾーは不機嫌な表情を隠さずネテロに問うた。

「うむ。もう大丈夫じゃ。
 だいぶ参考になったよ、すまんな」

だが当の本人は全く気にする様子もなく、素直に礼を言った。
まったくもって掴みどころのない老人だとハンゾーは思う。

「んで、他に聞く事はあるのか?
 こっちはまだ四次試験の疲れが抜けてねーんだ。
 そろそろ休ませて欲しーんだがな」
「いいじゃろ。
 こっちも聞きたいことは聞けた。
 もう退室して構わぬよ」
「あぁ、そうさせてもらうぜ」

ハンゾーは気だるそうに部屋の入り口に向かう。
だが、その途中思い出したように振り返り、ネテロに言った。

「ここまで話をしたんだぜ。
 出来る限り44番や311番とは決闘しなくても良いようにしてくれよ。
 あんな奴らとは戦っていられねーからな」
「ふむ。仕方がないのぉ。考慮しておくよ」
「頼んだぜ」

その言葉を最後にハンゾーは座敷を退室した。




(あんのぉ、狸じじいぃ!!!!)

最終試験会場にて恨みを込めた視線をネテロに送るハンゾー。

(何で初っ端から311番との対戦なんだよ!!!)

最終試験の内容は負け上がりトーナメントというものなのであるが、
その一回戦のハンゾーの相手が面談での話題にあがった311番の高橋良助であった。

いったい退室時の会話はなんだったのかとハンゾーはネテロを睨む。
だがネテロは惚けたような目でハンゾーを見るのみである。
まるでその目は……

「ふぇっふぇっふぇ、別にワシは嘘は言っとらんぞ。
 考慮するとは言ったが、そうするとは言っておらん。
 こちらにはこちらで選考基準というものがあるからの」

とでも言っているかのようである。

(ふぜけんな!!)

そう思いながらハンゾーはチラリと対戦相手を見る。

対戦相手である高橋良助はやけに高いテンションで
訳の分からぬことをピーチクパーチク喚いている。
それに対して、この場にいる者たちは白けている様だ。

だがこのお調子者の中に、あの恐るべき化物が隠れている。
ハンゾーにはあの顔の薄皮一枚の下に
化物の焦げ付いた火傷顔があるような気がしてならなかった。

良く見れば周りの沈黙している受験生達にも、
高橋良助のことを恐れをもって見ている奴も何人かいる。
おそらくそいつらも知っているのだろう、奴の本性を。

結論は最初から決まっている。
いつあの化物が目を覚ますかわからないのだ。
戦ってなどいられない。

「まいった。俺の負けだ」

戦闘開始の合図の直後、ハンゾーは敗北を宣言した。




つづく


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