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No.3597の一覧
[0] アゼリアの溜息 (H×H)[EL](2008/07/24 23:16)
[1] アゼリアの頭痛[EL](2008/07/30 15:23)
[2] アゼリアの寝不足[EL](2008/07/27 20:00)
[3] アゼリアの回想[EL](2008/07/30 18:52)
[4] アゼリアの激怒[EL](2008/07/31 18:47)
[5] ハルカの放浪[EL](2008/08/01 18:04)
[6] 閑話 思い出のガーネット[EL](2008/08/03 19:35)
[7] アゼリアと重要任務[EL](2008/08/04 23:12)
[8] 閑話 ハルカの念能力考案[EL](2008/08/05 15:25)
[9] 憧憬[EL](2008/08/24 22:05)
[10] 揺らぎ[EL](2008/08/27 13:07)
[11] 壊れだした人形[EL](2008/08/28 12:04)
[12] 『敵意』[EL](2008/09/12 22:08)
[13] 飼い犬[EL](2008/09/20 14:59)
[14] 陽の世界の人々[EL](2008/10/07 23:42)
[15] 絡み合う蛇たち[EL](2008/10/20 23:41)
[16] 合格? 不合格?[EL](2008/11/04 21:41)
[17] それぞれの理由[EL](2008/11/13 22:52)
[18] ファーストコンタクト[EL](2008/11/17 00:28)
[19] ズレ[EL](2008/11/22 13:47)
[20] 小さな救い[EL](2008/11/24 20:54)
[21] 次の一手[EL](2009/01/03 01:23)
[22] 怖れるモノ[EL](2009/01/25 02:22)
[23] 四次試験 一日目[EL](2009/02/08 00:28)
[24] 四次試験 二日目[EL](2009/02/13 12:16)
[25] 四次試験 二日目 ②[EL](2009/02/16 13:32)
[26] 四次試験終了 最終試験へ[EL](2009/02/19 10:16)
[27] 試験終了[EL](2009/02/23 13:34)
[28] 首狩り公爵[EL](2009/05/16 22:26)
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[3597] 四次試験 二日目 ②
Name: EL◆8dda00b7 ID:cbded637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/16 13:32
 視線の先には一人の女がいる。
 まだ若い。年齢のほどは、俺と同じかそれより下だろう。
 ここまでハンター試験に残った実力は驚嘆に値する。女でありながら、よくあの試験をここまで通ってこれたものだ。
 だが、それもここまで。ここで俺に狙われたのが運のつきだ。
 あの年齢では、こうした狩り(ハント)の経験が豊富ということはあるまい。
 平然と振舞っているようだが、その内心は推して知るべしだ。
 時折背後を振り返るのは、俺の尾行に気付いているからか?
 いいや、確信はしているまい。もしもそうならばもっと態度に表れる。
 だが疑念はあるだろう? どこからか自分が監視されているのではないか、と。
 それでいい。
 もっと怯えろ。
 もっと憔悴しろ。
 オレは慎重な男。たとえ相手が女であろうとも、万全を尽くす。
 完全に疲労し、眠りに落ちた時……叩く!
 くくく……我ながら恐ろしいぜ。
 オレは慎重な男……

 お、そんな石なんて拾ってどうするんだ?
 武器のつもりか?
 くくく……護身用にはちょっと心許ないんじゃないのかい?
 いい加減怖くなっただろう?
 恐怖は疲労になって蓄積していくのさ。
 もって、あと一日か。

 もちろん戦っても負けるわけがないがな。
 俺は紳士で、慎重な男。
 女に上げる拳は持ってないのさ。
 くくくくく……自分に惚れそうだぜ。

 そうして慎重に、相手に気配を気取られるようなヘマはせずに観察していたら―――

 ひゅん、と音がして……

「ガッ!?」

 強い衝撃とともに、視界が真っ白になった。

「……尾行のつもりかしらないが、無視してもよかったんだが……いい加減うっとうしかったんでな。寝ててくれ」

 そんな声が、最後に聞こえた気がした。





 体勢が崩れることなど完全に無視して、体を横に投げ出した。
 木の陰に滑り込む。
 直前に私がいた場所を貫く五条の流星。
 陽光を反射した針が、鋭く空気を裂きながら木に突き刺さった。

「冗ッ談じゃないわよ……!」

 荒く乱れた息を必死で整えようとするが、ほんの一瞬の攻防にも関わらず、疲労は先ほどまでの数倍だ。
 それでも、愚痴を言う暇などない。単純な問題として、現在進行形で命のピンチなのだから。

 ギタラクルのターゲットなんて、死亡フラグしか立ってないポジションをゲットした私は、どうにかしてこの場から撤退しなければならない。
 流石に彼相手に勝てるとは思わない。
 実力差はゾウとアリですらまだ足りないだろう。
 まったく、なんて割に合わない……!!

「せめてイルミの顔で来なさいよね……!! あんたのその顔、キモイのよ!!」

 ここに居てもジリ貧にしかならない。
 私はなけなしのオーラを足に籠めて、一秒でも早くこの場を離れるべく木の陰から飛び出した。

「~~~~~~~ッ!!!」

 声にならない悲鳴が漏れた。
 針を投げているとはとても思えない速度と威力で、私の後ろの空間が抉られていく。
 ジグザグに、少しでも不規則な動きになるよう飛び跳ねるが、それでもギタラクルとの間に稼げた空間は悲しくなるほど微々たるものだった。
 これは、このまま逃げていても無理!

「こんの……! プレートが欲しいなら―――」

 ポケットからプレートを取り出して、怒りを込めて放り投げた。

「くれてやるってのよ……!!」

 念を込めた投擲は、キルアほどではないものの勢いよく飛んで行った。
 それとは全くの反対方向に向けて逃げ出す私。
 これで、逃げきれる……!!
 そんなことを考えていた時代が私にもありました。

「……うっそぉ」

 ギタラクルは投げられたプレートのほうをチラリと見ることもなく、針を一本投擲して……撃ち落とした。
 高速で飛んでいくプレートを、あっさりと……!?

「クレー射撃かってのよ……!」

 ダッシュする私を尚も捕捉しながら、足元に落ちたプレートを拾って、ギタラクルは言った。

「これ、362番。欲しいのはこれじゃない」
「ギャァァァァーーーー! バレたーーーーー!!!」

 耳元を掠める大量の針。
 私がまだ無事なのは、ココが木々の密集した森の中で、如何にギタラクルといえども射線が限られるからだ。
 だが、それは圧倒的な実力差を埋めるにははるかに足らない。
 運が尽きれば、蝋燭の火よりも容易く消される。
 そしてその時は実に早かった。
 後ろに気を取られていた私は、木の根に足を取られてしまった。

 そこに飛んでくる、針が―――

「……ッ!! ア゛ア゛ぁあアぁアァああああああッ!!!」

 足を、貫いた。





 駄々漏れの気配で今朝から私を尾行していた男を投石で気絶させると、プレートが一枚手に入った。
 さらにその男と組んで受けに来たらしい、兄弟と思われる二人からも、そいつを人質としたら容易くプレートを獲得出来た。
 結果、合計六点分のプレートが私の手元にはある。
 これでこの試験の合格ラインは通過した。

 昨日、NO301ギタラクルの実力を垣間見て、すぐに私はその場を離れた。
 あんな化け物相手に向かっていくなど、正気の沙汰ではない。
 危険には近づくな。命の方がはるかに大事だ。
 ならば、より安全な手段を選択するは当然。私は適当に三人ほどターゲットを狩ることに決めて、その最低条件は無事達成できた。

 残りの日々は、ヒソカやギタラクルといった危険を避けつつ、このプレートを守り切るだけだ。
 他の受験生は、輝かしい才能を感じさせるものこそ多々いたが、現状では後れをとることはあるまい。
 たとえ奇襲、狙撃の類を受けたとしても対処する自信はある。
 だが、万全を期すならばより安全な場所を探すべきだ。

 とりあえず洞窟でも捜すか、と踵を返して―――

『―――ア゛ア゛ああッ!!!』

 聞き覚えのある悲鳴が、響いた。

「ッ!?」

 声は、それほど遠くない。
 そして、聞き覚えのある声。

「……ハルカッ!」

 駆けだそうとした。
 彼女は、守ると誓った。
 妹に似ているからではない。
 彼女という一人の人間を、私が好いているからだ。

 だというのに……足が前に出ない。
 むしろ後退ろうとする。
 まるで自分の体ではないかのように、ピクリとも動こうとはしなかった。

 判っているのだ。
 感じているのだ。
 その先にいるのが誰なのか。
 先ほど感じたオーラが誰のものなのか。

 脳裡に警鐘が鳴らされる。
 痛いくらいにガンガンと内側から響く。
 近づくな、と。
 命が惜しいならば近づくな、と。

 その声に従って、私の足は止まっていた。

 幾度も私の命を救ってくれた本能の声だ。
 誰よりも死に臆病でいたがために身についた命の嗅覚だ。
 それは、きっと正しい。
 何よりも、正しい。

 だが、見捨てるのか?
 守ると誓ったのに、守りたいと思う相手なのに、捨てるのか?

 感情とは裏腹に、理性が叫ぶ。

 ―――優先順位を間違えるな
 ―――お前が護るべきは誰だ?
 ―――自分の命よりも大切な妹だろう
 ―――そのために何人殺してきた?
 ―――お前が死んだら、彼女も死ぬ
 ―――生かされる保障など、砂粒ほどもない
 ―――犠牲を無駄にするな
 ―――血に濡れた過去を無駄にするな
 ―――妹を救えないならば、お前の命など結局は無駄だ
 ―――無駄だ
 ―――ムダだ
 ―――ゴミだ
 ―――ただ誰かの命を奪っただけの屑だ

 ―――だから見捨てろ
 ―――彼女も見捨てろ
 ―――他の人間と同じように、切り捨てろ
 ―――彼女は二番目だろう
 ―――妹が一番だろう
 ―――なら、考えることなどない
 ―――考える必要もない
 ―――以前と同じように、ただ決められた解を出せばいい

 体の震えを体現したかのように、本能が叫ぶ。

 ―――行くと死ぬ
 ―――殺される
 ―――敵わない
 ―――敵うわけがない
 ―――化け物がいる
 ―――あっという間に殺される
 ―――死にたくなるほど殺される
 ―――数えきれないほど殺される
 ―――だから、行くな
 ―――行くな
 ―――行かない
 ―――行きたくない……!!

「ふ、ざけ……」

 そんな、感情とは裏腹のことを、自分の体は叫び続ける。
 この瞬間にも、彼女の命が尽きているかもしれないというのに。
 思い通りにならない肉体への怒りの声も、掠れて小さなものだった。

「今の声、ハルカだよな」

 そんな声が、近くから聞こえて。
 いつの間に近づいたのかも判らないほどに動揺していたのだろうか。
 キルアが、立っていた。

「行かないの? って、見れば判るか」

 キルアは、恥ずかしいことに震えを隠すことも出来ない私を見て、嘲笑うかのように鼻で嗤った。
 そして森の向こうを見通すかのように見つめる。
 それは悲鳴の聞こえてきた方角だった。

「確かに、こっちから凄く嫌な感じがする。まぁ、そうだよな。行けば死ぬかもしれない。なら行かないよな」

 そう。
 行けば、多分死ぬ。
 なら行くべきではない。
 行ってはいけない。
 だけど……
 ハルカが、死んでも―――?

「……いや、だ……!」

 それは、絶対に嫌だ。
 何が嫌だとか、そうするとどうなるかじゃなくて、ただ嫌なんだ。

 理性の叫びは、正しい。
 本能の予感も、きっと正しい。

 けど。
 感情の叫びが、一番間違っていて、けど正しい……!
 だから―――

「う、ごけ……ッ!」

 震えが伝わる右手で、ベルトからナイフを引き抜いて。
 左手を添えて、血管が浮き出るほどきつく握りしめて。
 右足のふとももに深々と突き刺した。

「……ァッ!!」

 激痛が脳髄を刺激する。
 痛みに慣れても、痛覚は誤魔化せない。
 焼けるような熱が、理性の叫びをかき消す。
 突き刺すような苦痛が、本能の叫びに蓋をする。
 それだけで、私の足は前に進んでくれた。

「行くとも……!」

 眼を丸くしたキルアに、全ての気を言葉に込めて答えて、私はもう一歩を踏み出した。
 痛い。
 けど、動ける。
 こんな傷なら死なない。
 闘っても、死んでなんかやらない。
 だから、急げ……!

 そんな私を見て。
 キルアが、苛立たしげに舌打ちした。

「キルア、君はどうする―――ッ?」

 空を切って目の前を通りすぎる手。
 ナイフよりも尚斬れる、硬質化した魔手。
 無音で一息に間合いを詰めたキルアの攻撃だった。

「なにを……?」
「やっぱり、アンタは気に入らない」

 強張った声で、キルアは言う。
 今の一撃も、お遊びなんかではない。
 殺す気でなくとも、壊す気の一撃だった。
 自然と私の体も戦闘態勢を取る。
 キルアは、一見無防備にすら見える自然体で、しかし爆発的な瞬発力を体中に蓄えて、言葉を紡いだ。

「あっちにいる奴、アンタより強いんだろ? 勝ち目のない相手に、死ぬほど怖いくせに立ち向かってく? なんだよ、それ……」
「……どけ。私は急いでいるんだ」
「勝ち目のない敵とは戦うな……だろ? なのに、なんでアンタは行けるんだよ……」
「いいから、どけ! 君が私と闘う理由こそないだろう……!」
「あるさ」

 すっと、キルアは飛びかかる寸前の豹のように、軽く腰を落とした。

「俺のターゲットは406番(アンタ)なんだよ。それに……」

 ―――よく判らないけど、気に入らないんだ

 そう呟いて、キルアは滑るように間合いを殺した。
 先ほどよりも数段上の鋭さで迫る手刀。
 舌打ちをして、私は叫んだ。
 腹の底から、叫んだ。

「どけぇぇぇぇぇえええええッ!」





 もはや強弓と変わらぬ速度で飛んでくる針を、形振り構わずに避けた。
 避けきれず突き刺さる針も少なくない。
 痛い。
 ズキズキと、死ぬほど痛む。
 だけど、その部分にオーラを集中させれば、動くのに支障はない。
 血は止まる。
 痛覚も少しだけ紛れる。
 針は刺さる先から引っこ抜いて、その辺に捨てた。
 まだ頑張れる。
 諦めるには、ちょっと早い。

 けど、それは本当にちょっとだけだった。
 私の体力は、それほど残っているわけではないのだから。

「うぁッ!」

 ガクン、と膝が震えた。
 酷使した体は限界が来ていた。
 そこに飛来する針。
 避けられない。
 そう考えて、来るであろう痛みに目を瞑った。
 けど、その時感じたのは痛みだけではない。
 先ほどまでとは、針に込められたオーラが明らかに違った。
 そして―――その正体を、私は知っていた。

「ッ……!!」

 グニャリ、と子供が粘土遊びをするかのように、自分の足が捏ねられる感触。
 ヤバい、と思った。
 なけなしのオーラで必死に「凝」をして、その針を「視」た。

「こわれ……!!」

 針に込められた、複雑な思念。
 絡み合う黒いオーラの糸。
 その念の基点。
 オーラを結びつける糸の結び目。
 そこにオーラを叩きこむ。

「ろっ!!」

 針は、そのまま。
 けれど、その針に込められた肉体操作の念は、弾けた。

「~~~~~~~~ッ!!!」

 奥歯が砕けそうなほど噛みしめて、悲鳴を押し殺した。
 けれど、そんなことをしても意味はなく。
 ギタラクルが、すぐそこまで来ていた。

「結構逃げたね」
「……おかげさまでね」
「で、どうする?」
「……プレートを渡したら見逃してくれるわけ?」
「別にいいよ。オレ別に快楽殺人者じゃないし」

 それに、と彼は続けた。
 何の感情も籠められていない声だった。

「キミ、別に今殺さなくても何時でも殺せるし」

 その眼が、どこまでも無関心で。
 路傍の石を見るようだったので。
 私は、生まれて初めて……屈辱というものの味を知った。
 知ったけど、何も出来なかった。
 ポケットから、自分のプレートを差し出すしかなかった。

「うん。それじゃ、これは……ッ?」

 プレートをその手にした瞬間、ギタラクルは飛び退いた。
 何を、と思う間もなかった。目の前の木々が根元から切り裂かれたのだ。

 ギタラクルは表情こそ変えないものの、明らかに警戒した姿勢を取る。
 木々を切り裂いた何かは、その破壊を尚も続けながらギタラクルを取り囲むように旋回する。
 そして、それは何時しか竜巻になっていた。

 風の、刃。
 知っている。
 一番近くで見てきた。
 そして、いつも私を守ってくれた人の技だ。

 ああ……また、私は守られるのか。
 結構頑張ったんだけどなぁ……

「無事か、ハルカ……ッ! 早く逃げろッ!」

 その声にホッとする一方で。
 私は、先ほど味わった屈辱と同じくらい、悔しさを感じていた。





 その場に着いたとき、ギタラクルはハルカに向けてその手を伸ばしていた。
 間に合わない、と思った。
 しかし、咄嗟に放った風の刃にギタラクルは飛び退き、またハルカも命があった。
 そのことにホッとしつつ、全力で大気にオーラを練りこむ。
 敵を切り裂く意志を強く込められた風は刃となり、触れるモノ全てを切り裂きながらギタラクルを襲う。
 指向性を持った風は弧を描きながら敵に殺到し、ぶつかり吹きあがり竜巻と化す。

「早く逃げろッ!」

 練り上げたオーラは、私の顕在オーラの限界量いっぱいだ。
 吹き荒れる暴風は大岩とて容易く砂粒に化すだろう。
 けれども私の嫌な予感は消えなかった。
 本能は尚も警鐘を鳴らしていた。
 死の匂いには何よりも敏感だ。
 そんな背筋の寒くなる予感は、むしろ強まっていた。
 尚も動こうとしないハルカに苛立ちが募る。
 死ぬぞ……!

「早くしろ―――ッ!?」

 言葉が聞こえたかは判らない。
 ハルカに気を取られる余裕など、もはや消えていた。
 荒れ狂う暴風の中からだというのに、三本の針が狙い違わずに弾丸のような速度で投擲された。
 そのあとに続き、竜巻の檻から飛び出てくる人影。
 細かい掠り傷こそ無数にあるも、その足取りは些かの乱れもなかった。

「こっちは結構出来るみたいだね」
「……ッ!」

 私は大木の枝から飛びかかった。
 本来ならばあり得ざる選択。
 遠距離戦闘を得手とする私だが、ここで退くことは出来なかった。
 立ち位置が非常に悪かったのだ。
 ハルカはギタラクルのすぐ近くにいる。
 ここで私が退いては、彼らの間にそれを遮るものはない。
 全力の一撃ですら足止め出来ない相手を止めるならば、近接戦に持ち込むしかないのだ。

 敵の能力を分析する。
 武器は、あの針。
 昨日見た能力は、肉体操作。おそらくは操作系の能力者。
 操作条件は、あの針が刺さることだろう。
 つまり、それを受けてはいけない。

 自身の能力を分析する。
 『大気の精霊(スカイハイ)』の近接戦闘における利点は、死角を完全に消せること。そして小回りの利く機動力だ。
 単純な念の出力においては勝ち目がない。
 ならば速さで翻弄する。

 大地を、木々を、そして風を足場に縦横無尽に駆け巡る。
 ギタラクルはそのスピードについてこれていない。
 速さだけならば私が勝る。
 投擲ではなく刺突を以て繰り出される針は悉く空を切った。

 だが、私の方も決定打が足りない。
 大木でさえ断ち切るであろう、千の風を纏わせた蹴りですら、彼のガードを貫けない。
 それは出力の差。
 そして何よりも、戦闘技術が―――「流」の技術が圧倒的に劣っていたのだ。
 攻撃は完全に見切られている。
 ガードの瞬間だけ、彼はガード箇所に全てのオーラを集中させているのだ。
 なんという無駄が無く、かつ圧倒的な技量。
 もしもその狙いが外れたならば、この実力差を一撃で引っ繰り返しかねないというのに……!
 その技量が判るからこそ、押している筈の私は、しかし焦燥に包まれていた。

 だが、それでも攻め続けるしかない。
 何故なら、ハルカはまだそこにいる。
 何故動かない……?
 まさか、動けないのか?

 だとしたら、状況は最悪の一言だ。
 私の方から戦場を変えるべく動くしかない。
 だが、どうやって?
 この圧倒的な実力差を前に、相手をコントロールするべく動くなど、どうすれば……!?

 そんな心の揺らぎを悟られたのか。
 ギタラクルは、幾度となく繰り返された攻防の後、私の繰り出した蹴り足を掴んだ。

「掴まえた」
「……ッ!」

 腹部が、爆発した。
 そうとしか感じられなかった。
 大気に練り込んだオーラを神速で防御に当てた―――それ自体は成功したというのに、「堅」を持ってしてもこの威力……!
 毬のように蹴られた私は、木々の茂みをへし折って、数十メートルの距離を飛んだ。
 大木の幹にぶつかり、ようやく止まる。
 薄れかける意識の中、飛来する針が妙にゆっくりと見えた。



 ―――ああ、やっぱり死んだ

 ―――馬鹿だなぁ、私



 そんな思いを最後に。
 私の意識は、途切れた。










〈後書き〉

イモリを書くのが思った以上に楽しかった。どうも、ELです。
何気にイモリ好きです。原作で読んだとき、うわっ、このビビリっぷり大好きだわ! と一発で惚れました。小者好きだよ、小者。

さて、ハルカは頑張っていますが、やはり勝ち目無し。
まぁイルミって多分旅団クラスの能力者ですしねぇ。
運で引っ繰り返せるのは限界があるんです。

次で四次試験は終了の予定。
お楽しみください。
では、次の更新の時に。


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