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No.2186の一覧
[0] Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2021/08/11 20:34)
[1] Re[2]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:03)
[2] Re[3]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:05)
[3] Re[4]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2009/10/14 20:00)
[4] Re[5]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:08)
[5] Re[6]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:10)
[6] Re[7]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:28)
[7] Re[8]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:33)
[8] Re[9]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 00:23)
[9] Re[10]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 21:55)
[10] Re[11]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:29)
[11] Re[12]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:37)
[12] Re[13]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/07 08:08)
[13] Re[14]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 21:34)
[14] Re[15]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 20:32)
[15] Re[16]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/10 21:14)
[16] Re[17]:Greed Island Cross 外伝 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/16 00:34)
[17] Greed Island Cross 外伝2 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/01 18:50)
[18] Greed Island Cross 外伝3 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/17 22:31)
[19] Greed Island Cross 外伝4 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/20 20:54)
[20] Greed Island Cross-Another Word 01[寛喜堂 秀介](2008/03/24 23:03)
[21] Greed Island Cross-Another Word 02[寛喜堂 秀介](2008/03/27 00:11)
[22] Greed Island Cross-Another Word 03[寛喜堂 秀介](2008/03/30 20:44)
[23] Greed Island Cross-Another Word 04[寛喜堂 秀介](2008/04/02 19:06)
[24] Greed Island Cross-Another Word 05[寛喜堂 秀介](2008/04/11 22:26)
[25] Greed Island Cross-Another Word 06[寛喜堂 秀介](2008/04/18 01:47)
[26] Greed Island Cross-Another Word 07[寛喜堂 秀介](2008/04/19 22:17)
[27] Greed Island Cross-Another Word 08[寛喜堂 秀介](2008/04/23 21:35)
[28] Greed Island Cross-Another Word 09[寛喜堂 秀介](2008/04/26 23:46)
[29] Greed Island Cross-Another Word 10[寛喜堂 秀介](2008/04/29 20:47)
[30] Greed Island Cross-Another Word 11[寛喜堂 秀介](2008/05/19 01:11)
[31] Greed Island Cross-Another Word 12[寛喜堂 秀介](2008/05/29 17:37)
[32] Greed Island Cross-Another Word 13[寛喜堂 秀介](2008/06/01 22:07)
[33] Greed Island Cross-Another Word 14[寛喜堂 秀介](2008/06/05 01:35)
[34] Greed Island Cross-Another Word 15[寛喜堂 秀介](2008/06/08 22:46)
[35] Greed Island Cross-Another Word 16[寛喜堂 秀介](2008/06/16 01:12)
[36] Greed Island Cross-Another Word 17[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:13)
[37] Greed Island Cross-Another Word 18[寛喜堂 秀介](2008/07/26 23:45)
[38] Greed Island Cross-Another Word 19[寛喜堂 秀介](2008/07/27 23:41)
[39] Greed Island Cross-Another Word 20[寛喜堂 秀介](2008/07/29 22:13)
[40] Greed Island Cross-Another Word 21[寛喜堂 秀介](2008/07/31 23:43)
[41] Greed Island Cross-Another Word 22[寛喜堂 秀介](2008/08/02 21:26)
[42] Greed Island Cross-Another Word 23[寛喜堂 秀介](2008/08/04 23:09)
[43] Greed Island Cross-Another Word 24[寛喜堂 秀介](2008/08/07 00:02)
[44] Greed Island Cross-Another Word 25[寛喜堂 秀介](2008/08/10 00:28)
[45] Greed Island Cross-Another Word 26[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:15)
[46] Greed Island Cross-Another Word 27[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:57)
[47] Greed Island Cross-Another Word 28(完)[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:51)
[48] Greed Island Cross 外伝5[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:42)
[49] 登場人物(ネタバレあり)[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:55)
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[2186] Greed Island Cross-Another Word 08
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:de4368c5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/04/23 21:35



 グリードアイランド。

 ジン・フリークスらによって開発された、ハンター専用のゲーム。

 そして、俺たちをこの世界へ誘った原因の、かたわれだ。

 世に出回るその数、わずかに百本。さらに、先行プレイヤーや、バッテラ氏の存在が、入手難度を跳ね上げている。

 おそらく、遊んでいるグリードアイランドの数は、十に満たない。

 そのうちの一本が、いま、俺たちの元にある。



「このゲームを、クリアして欲しい。さもなくば、それができる者に託して欲しい」



 それが、所有者の依頼だった。

 グリードアイランドを手に入れた彼は、親友のプロハンターにゲームを託した。友人は意気揚々とゲームの中に消えていき。

 つい先日、変わり果てた姿で還ってきた。

 友人の残した手記から、このゲームがどのようなものかを知った彼は、友人の最後の望み。グリードアイランドをクリアできる人物を、探していたのだ。

 報酬は、前渡し。グリードアイランドの所有権と、友人の手記。



「どうか、彼の手記を役立てて欲しい。そして、どうか、この人殺しのゲームを、打ち破って欲しい」



 依頼内容は、こちらの目的と、完全に合致している。望外の条件だった。

 だが。

 想像する。

 ツェズゲラをはじめとする、バッテラに雇われたハンターたち。

 ゲンスルーたち爆弾魔。

 それに、同胞たち。ことにシュウや海馬などの規格外。

 彼らに対抗し得る実力が、今の俺にあるか?

 答えは否。

 こちらに来て数ヵ月。試合を除いた実戦経験というのは、実は二桁にも上らない。

 自力以上に、圧倒的に経験が不足しているのだ。

 ことに、念能力戦。いまだ、自分の念能力のポテンシャルすら、ろくに把握していない。

 これでは、とてもグリードアイランドで生きていけない。

 自分が何を出来るか。どこまでやれるか。それを知ることこそ、先決。

 そこで、ふたたび天空闘技場を訪れることにしたのだ。

 手軽に念能力戦を経験できる場所など、限られている。ここで、少しでも経験値を底上げするしかない。

 二度目のチャレンジ。

 百八十階からのスタートだった。

 ツンデレは五十階から。無駄なく稼ぐつもりらしかった。ほんとにボディコン除霊師への道を走るつもりじゃないだろうな。









「さあ。二ヶ月前、無敗のまま突如、天空闘技場から姿を消したアズマ選手! いよいよ真価を発揮するのか!? ここまで三戦して三勝のルーキー、アギト選手との対戦です!!」

「おっしゃぁぁぁっ!!」



 わずか二日後。二百階クラスの初対戦は、空手スタイルの武道家が相手だった。

 どこの国だか知らないが、日の丸鉢巻に空手着。げじげじ眉毛の、暑苦しい男だ。 たぶん強化系。オーラ量はこちらがはるかに上。筋力は、おそらくあちらに分がある。

“練”を体得しているところを見ると、最低限の念の修行はこなしているらしい。

 実験にはもってこいだった。

 

「始め!」



 開始の合図。同時にアギトがダッシュをかけてくる。

 速い。

 予測より二割増し。

 だが、充分許容範囲内。相手のパンチも、充分視える。

 紙一重。

 相手の拳を躱す。そのまま真半身になり、鋭く、前へ踏み出す。

 入れ替わる刹那。アギトの肩に触れた。



 ――加速放題レールガン



 場外に吹き飛ばしてやるつもりで使った。

 が。

 発動しない。

 一瞬の隙に、アギトの体が捩れる。

 拙い!

 身を折る。頭上を裏拳が吹き過ぎていった。

 危ない。間一髪。

 後方に跳んで距離をとる。

 どうやら“練”のように、強いオーラを纏っている対象には発動できないらしい。



「うおおおっ!!」



 考える暇も与えてくれない。

 気合声とともに、アギトが迫りくる。正拳突きを体ごとぶつけてくるアギト。

 飛び越えるようにして躱した――瞬間。

 アギトの体が旋回する。

 考えるより早く、加速放題レールガンを発動。

 すさまじい加速。一瞬気が遠くなる。

 四肢を踏ん張るようにしてブレーキをかけ、リングの縁でやっと止まった。真横に飛んでたら、間違いなく場外だ。

 自分への加速は、加減が難しい。

 それにしても、正拳は囮か。見事に騙された。

 リング中央ではアギトが舌打ちしている。空中で死に体になった獲物を逃した悔しさからだろう。

 今度はこちらの番だ。

 指を、アギトに向ける。

 放出系の基本技。念弾。威力は念弾を収束することで、補う。常時“凝”に親しんでいた俺にうってつけの手段だ。

 大きさはピストルの弾丸ほど。威力は、それでも戸板を貫通する程度。

 上位者との戦いには、まだ使えないだろうが、こいつ相手なら、充分通用する。

 と、思っていた。



「きえええぇぃ!!」



 気合一声。放った念弾は、アギトの拳に弾き飛ばされた。

 気合声をあげた瞬間、オーラが膨れ上がっていた。なるほど。声でオーラを水増しする念能力か。攻防力移動もろくに出来ないのに、まさかそんな芸当ができるとは。



「そんな小手先の業、この俺には通用しないぜ!」



 拳を、こちらに向けてくるアギト。

 誘っているのなら、もう一度くれてやるか。

 指先に、オーラを集中する。

 親指以外の、四本の指に。

 それを見て、アギトの目が見開かれる。

 両目両耳。オーラを常に分散集中していれば、この程度の芸当も、出来るようになる。

 いまのところ、四つが限界だけど。

 心で引き金を引き、撃つ。

 並んで飛ぶ念弾。



「うおおおおおおおっ!!」



 アギトの声は、絶叫に近い。その分、膨れ上がるオーラも絶大。

 並び飛ぶ三つの念弾全てを弾き飛ばされた。

 三つ。

 四つ目は、いまだ、我が指の中。

 遅れて一発撃ってれば、たぶん当たったな。

 アギトが、気の抜けたような顔になる。戦意喪失か。

 じゃ、最後に実験だ。

 足にオーラを集中して、跳ぶ。

 わずか一歩で距離をつぶした。相手の懐の内。拳を振り下ろさんとする相手に、背を向ける態勢。

 そこから。



 ――加速放題レールガン



 止まったところから、体がもうひと伸び。ちょうど体当たりのかたちで、アギトにぶち当たった。

 六十キロ強の人間砲弾。

 為す術もなく、アギトは観客席まで吹っ飛んでいった。見れば、目を回している。



「アギト選手失神KOとみなし!! 勝者アズマ選手ーっ!!」



 まだ、いろいろと甘いとこあるな。

 癖のない格下相手でよかった。

 ま。接近戦のパワー不足も補えそうだし。こうやって経験を積んでいくしかないか。









「で、たった十日で十戦?」



 呆れたような、ツンデレの顔。



「あんた、馬鹿でしょ」



 なぜか、説教を喰らっていた。

 やっぱあれか。試合が終わったあと、自分の部屋でぶっ倒れてたところを見つかったのが悪かったのか。

 まあ、確かに。五戦を過ぎたくらいから体調おかしくなってきたし。体だるかったし。

 それでも、そんな状態で戦う、いいシミュレーションになるかな、とか思ってたんだけど。

 最後なんてギリッギリの判定勝ちだったしな。

 念能力戦ってのは、やっぱり消耗するみたいだ。



「まあ、何とか無事にこなせたんだから、いいじゃないか」

「よくないわよ! 部屋行ったらいきなりあんた倒れてて。心臓止まるかと思ったわよ!」



 やっぱりそれが拙かったらしい。



「ま、しばらくは回復を待つさ。次はフロアマスターだしな」



 そう言うと、呆れたような顔をされた。

 その気持ちも、わからなくはない。

 だが、フロアマスタークラスなら、間違いなく念能力者としても一流だ。仮想ゲンスルーとまではいかなくても、仮想ビノールトくらいには、なるだろう。

 グリードアイランドに入る前に一度、それクラスの相手と戦っておきたかったのだ。



「無茶しないでよ」



 と、言われても。こっちはどれだけ無茶できるか知りたいんだけどな。

 まあ、怒られそうだから言わないでおこう。

 うっかり口にも出さないぞ、と。



「ツンデレ、明日あたり、外出ないか?」



 ふと、思いついて口にする。



「え?」



 ツンデレの口が、ぽかんと開いた。そんなに意外なんだろうか。



「ここのところ戦い詰めだったからな。休みがてら、久しぶりに遊ぼうか」

「え、それってでー」

「小娘、顔が真っ赤じゃぞ?」



 ツンデレが、凍った。

 ロリ姫、いまお前よけいな事言ったっぽいぞ。



「う、うるさいわね。勘違いしないでよね。仕方がないからつきあってあげるだけなんだからね!」



 なぜ矛先がロリ姫でなく俺に向かうのか。まあ、見事にツンデレだった。









 翌日。街まで出て、買い物することになった。特に必要なものがあるわけではないが、見て回るだけでも、楽しいものだ。

 ツンデレは上機嫌だ。

 しかし、たまに髪が不自然に動くのは、どうにかならないものだろうか。

 今日のところは省エネモードで、ロリ姫の姿も見えない。

 ツンデレが、たまに空中に向かって喋っている姿が、妙に痛々しい。

 そうか。一般人から見たら、こんなにイタい光景だったのか。今後人目は気にしよう。

 と。そんな感じで街中をぶらついていると、知った顔を見つけた。

 ぼさぼさの金髪。引き締まった眉。目だけが、妙に冷たい。天空闘技場で出合った同胞、シュウだった。確か、今はフロアマスターになっているはずだ。

 思わず目で追ううち、シュウは脇道に入っていく。

 何かあったのだろうか。妙に怖い顔つきだった。

 しばし考えて。



「――ツンデレ、向こうへ行くぞ」



 後をつけることにした。

 シュウに気づかれないよう、慎重に追う。道が、どんどん細く、寂びれていく。

 いったいどこへ向かっているのだろうか。



「ねえ、さっきから、なんか人通り寂しいんだけど」



 ツンデレが、不安と期待の入り混じった妙な顔で、尋ねてきた。

 そういえば、ろくに説明してる暇もなかった。

 まあ、決して楽しいことにはならないと思うけど。



「――おい」



 唐突に、シュウは足を止めた。

 慌てて自販機の影に隠れ――棒立ちでいたツンデレの手を引っぱる。

 文句は、口を塞いで封殺。

 よし、おとなしくなった。



「そこにいる奴。ウザイんだけど。出て来いよ。こっちはイラついてんだ」



 妙にざらついた、シュウの声だった。

 おとなしく出て行くか。

 足を踏み出しかけて。



「――ひぇひぇ」



 どこからか聞こえてきた笑い声に、踏みとどまった。



「この俺様の気配に気づくとは大ぃしたもんだ」



 いきなり。地面から染み出すように、男が現れた。

 隠れていたとか、そんなレベルじゃない。間違いなく、いなかった。



「五月蝿い。ウザイ。いま急いでんだよ」



 シュウのオーラが跳ね上がる。

 凄い。同胞とは思えないオーラ量。あの海馬に迫る勢いだ。



「とっとと消えろ! 正義の拳ジャスティスフィストぉ!!」



 速い。

 言葉と同時に、拳はすでに男の体を貫いていた。

 すさまじいオーラ。すさまじい威力。あれがシュウの必殺技か。

 だが。

 体を貫かれたまま、男の口が三日月を形作った。

 死んでいない――血が出ていない。

 念能力!



「ひぇひぇ。体を液体と化ぁす念能力、上善如水ミズガミ



 男は、言った。

 同時に、男の輪郭が崩れた。透明なシーツをかぶせたように、シュウの腕からぶら下がる液状のものは、とても人間とは思えない。



「このジェルにぃ、打撃はぁ効かんよ」



 大蛇のように。シュウの腕を、液状のものが巻き登っていく。



「そう」



 シュウが、腕を振るった。

 いや、見えたのは腕を振り上げたところと振り下ろしたところ。

 まるで瞬間移動のようだった。

 その勢いに、液体と化した男――ジェルは、吹き飛ばされて壁のシミと化した。

 だが。

 巻き戻しのように、壁からジェルが染み出てくる。ダメージは、皆無。

 拙い。

 こいつ、シュウとは相性最悪だ。



「ひぇひぇ。お前の相棒もぉ、レイズにぃ焼き殺されているころだ。おとなしく観念するがぁいい」



 その言葉に、シュウの顔が蒼白になる。

 恐れではない。怒りによって。



「あいつに指一本触れてみろ」



 シュウのオーラが、さらに跳ね上がった。



「お前ら全員、どんな手を使っても。ぶち殺してやる」



 殺気が固形化したようなオーラだ。

 おそらく。どれほど修行しようと、これほどの殺気を纏うことはできない。

 もう少し見ていたい。

 その誘惑を振り払い、足を踏み出す。

 同じように、ツンデレが並ぶ。事情は理解できなくとも、この状況で、黙っていられるわけがない。髪の毛も、激しくドリルだ。



「行け!」



 おもいきり、声を投げかけた。



「あんたは」



 俺の顔を覚えていたらしい。シュウの片眉が跳ね上がる。



「急いでるんだろう? 行けよ。こいつは俺らに任せて」



 シュウは、しばらく俺とジェルを見比べる。

 数瞬。だが、その間に彼はどれほどの思考をめぐらせたのか。



「済まない」



 迷いを振りきった面持ちで、シュウは駆けていった。

 それを見送って。



「ひぇひぇ」



 くるりと。ジェルの顔がこちらに回る。



「いいのかぁ。あの男がいればぁ、あるいは勝機はぁあったかもしれねぇぜ?」

「いいに決まってるさ」



自然、口の端がつりあがる。

 確かに。

 ジェルの実力は、俺より上。加えて体調は、平時の三十パーセントって所だ。

 だが、それでも。

 俺とツンデレが組めば、勝てない相手じゃない。

 なあ、と、ツンデレに視線を送る。目が合った。以心伝心。それだけで、作戦が伝わる。



 ――いまの人のこと、あとでちゃんと教えてもらうから。



 余計なことまで、伝わってきた。

 ともあれ。

 自販機のそばに設置されている空き缶入れを引っつかむ。

 

 ――加速放題レールガン



 中身の空き缶を、まとめて加速。

 手加減なし。高速で打ち出される空き缶の群れ。範囲威力とも、申し分ない。

 空き缶のつるべ打ちに、液体人間はふたたび壁に張り付いた。



「ひぇひぇ。俺様にぃ打撃はぁきかねえよ」



 ジェルの、余裕の笑みを覆い隠すように。

 二房の髪が、宙を踊る。

 ツンデレだ。

 オーラが、白い。相手のオーラを粉砕する、ツンデレの拳が、液状の体を、確かに打った。

 一瞬。ジェルの肌が、生身の質感に戻る。

 それに重ねるように。寸分たがわぬ場所に念弾を打ち込んだ。



「ぎいいぃぃ!?」



 金属をこすり合わせたような悲鳴が、上がった。

 威力自体はさほどでもないはずだが、ジェルは痛みにのた打ち回っている。

 ひょっとして、痛みに慣れていないのか。



「いてぇ、いてぇよぅ!」



 のたうち回るジェルの体が、地面に染みこんでいく。

 念弾を打ち込んだが、遅かった。あとには、染みひとつ残っていない。



「畜生ぅ。お前らぁ絶対殺してやるからなぁ」



 声だけが、響いてくる。

 さすがに、手の出しようがない。やがて気配も、消えた。

 思わず、ため息を吐く。



「なんだったの? あれ」

「わからん」



 聞いてくるツンデレだが、答えようがない。

 いったい何者なのだろうか。確かなのはシュウと敵対しているということだけだ。

 そして俺たちとも。

 なんだか厄介事を背負ってしまった気がする。



「まあ、今日のところはもう出ないだろうさ。行こうか、ツンデレ」



 きびすを返す。



「ちょ、いったい何なのよ――待ってよアズマ! うるさいわよロリ姫!」



 ツンデレの声を背中で聞きながら。

 考えていたのはシュウのことだった。

 あいつは、強い。肉体からだも、精神こころも。

 何より、あの殺気。



 ――試してみたい。



 自分が、あいつを相手に、どこまでやれるのか。

 あいつらに、どこまで迫れるのか。

 掌が、妙に湿っている。

 知らず、拳を握りこんでいた。





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