私は通りに出て車を拾うと大まかな位置まで来たところで車を降りた。後は、徒歩でヒルダさんを探さないと…携帯電話のナビを見ながらヒルダさんを探すと、遠くのほうに紫色の長い髪を見つける。私は目を凝らして確認し、ヒルダさんだと確信して、手に持ったままの携帯電話でワンコールした。あとは、ヒルダさんを見失わないように追いかけるだけ。どんどんとヒルダさんは郊外の方へ進んでいく。私は必死にそれを追いかけた。そして、なんだか廃工場のようなところに入ったときにヒルダさんから連絡が来た。私は急いで廃工場の中に入っていく。私がそこにたどり着いたとき、ヒルダさんと男2人はなんだか向かい合って会話をしているようだった。「よう、ねーちゃん、俺たちを尾行するなんてなんか用事でもあるのか?」「ええ、そうね。ちょっとお相手してほしくてね。」「ははは、ねーちゃんみたいな美人さんなら大歓迎だな。盛大にもてなさせてもらうぜ。」「ふふ、私を満足させてくれるといいのだけど…、見た感じ物足りなさそうよね。」「おいおい、尾行に気づかれる程度でなにいってんだ。」「馬鹿ね、気づかせてあげたのよ。私、人前で、なんて趣味は無いのよ。 案の定、静かなところにつれて来てくれたでしょう?」「いうじゃねーか。せいぜい楽しませて貰おうじゃねーか。」「ちょっと待ちなさいよ、もう一人くるんだから。がっつく男は嫌われるわよ。 若い子だから貴方たちもうれしいでしょ?」そういってヒルダさんは入ってきた私に視線を向ける。その視線に釣られて私を見た男たちは驚いているようだった。「なんだ、ターゲットの女じゃねーか。わざわざ向こうから来てくれるたぁやさしいね。」「油断するな。あれがターゲットだとすると彼女らに熊の旦那がやられたってことだ。」「ああ、あの脳筋倒したのはこいつらか。なら、確かに歯ごたえはありそうだな。」今までずっと喋っていた軽薄そうな男に対して、むっつりと黙っていたロングコートを着た男が注意を促す。ちなみにどうでもいいが甘党なのはロングコートのほうだ。ボスとやらの部下であろう人たちを前にして、私は聞かなければと思っていたことを質問する。「あの!貴方たちもボスって人に操られているんですか!?」「ん?なんだ嬢ちゃん、そんなことしってんのか?」「熊の人が死に際にそのようなことを言っていたので…」「なるほどね。まぁ、答えはYESだな。俺たちは2人ともボスの能力で縛られている。」「それならここは引いていただけませんか!?私はその人に用があるだけなんです!」「悪いがそいつは出来ない相談だな。残念ながらボスの命令には背けないんだ。 そう、非常に残念だがお嬢ちゃんを痛めつけてボスの下に引きずっていくのはやめられないのさ!」ひゃはは、と甲高い気味の悪い笑い声を上げながら命令には逆らえないと男はいう。だけど、その様子は命令対して仕方なくしたがっているというようでは決してなかった。「そう、俺たちは哀れな操り人形。ボスが殺れといえば殺るし、犯れといえば犯るただの人形! ひゃは!俺もその命令に従うのは心苦しいんだが、哀れな人形は命令には逆らえない。だからしょうがない! 俺は決して悪くない。だって言われた通りにヤルだけの人形だからな!」「…最悪ね、あなた…、熊の男はあれだけ苦しんでいたというのに。」「ああ、熊の旦那か。確かにあいつはそんなくだらないことを気にしてたな。 どうせ逃げられないんだから諦めれば楽になれたものを。」ヒルダさんに言葉を返したのはロングコートの着た男だった。「もういいでしょうこれ以上喋ってるとゲスがうつりそうだわ。 貴女も分かったでしょう、こいつらが熊の男とは違うのは。話し合いなんて不可能だわ。」「はい…、そうですね…。」「それじゃ私はあのロングコートとやりましょうか、どうやら懐に銃を持ってるようだし十中八九、遠距離系でしょう。 貴女とは相性が悪そうだわ。あの、気持ち悪い笑い声を上げてるほうは頼んだわよ。心で負けるんじゃないわよ。」「はい!」私はヒルダさんの言葉に勇気付けられて強く返事をする。「お、なんだ嬢ちゃんが相手してくれるのか? 俺はどっちかといえばあっちのねーちゃんみたいにボインな方がすきなんだが… ま、たまには青い果実を齧るのも乙なもんだな。」その、軽薄そうな男が向けてくる邪なものが入った視線に嫌悪感が走る。「あーでも、やりすぎるとボスに怒られそうだなー。ボスは嬢ちゃんぐらいのが好きだからなー。 なぁ、嬢ちゃん、あんまり簡単に壊れてくれるなよ?」男はそういうと、堅をしてこちらに向かって走ってきた。私も堅をしてそれを迎え撃つ。男は走ってくると同時に地面の土を拾ってこちらに投げてきた。ただの目くらましかとも思ったが、いやな予感がして咄嗟に"視"る。すると、土に混じって念の塊がこっちに飛んできていた。土だけであるなら出て払ってしまったほうが状況がいいのだけど、私はカンにしたがってそれを避けた。それらの土と念の塊はそのまま地面に落ちる。男は避けられたのが意外だったのか足を止めてこちらを見ていた。「ありゃ、嬢ちゃん、見た感じど素人だと思ったんだけどな、案外戦いなれてるじゃん。 こりゃそれなりに楽しめそうだな!」土でのカモフラージュが意味が無いことを悟ったのか、男はどんどんと念の塊を投げてきた。当たるのがまずそうだと思った私はそれを避けながら男に近づく。私の攻撃手段は念を込めてぶん殴るだけだ。近づかないと話しにならない。男は私近づかせないように念の塊を投げつつ移動する。「ま、こんなもんかな。嬢ちゃん行くぜ。」そんな台詞と共に、逃げ続けていた男は一転してこちらに攻撃を仕掛けてきた!だけど、その攻撃はヒルダさんの第三の手(フィアー・タッチ)を使った模擬戦に比べれば避けるのは簡単。私は余裕をもって足捌きをし…、足が思い通り動かなかったせいで男の攻撃に当たってしまう。男の攻撃はさして威力が無かったにも関わらず体の芯にダメージを残すような打撃だった。私は思わず、蹈鞴を踏みそうになって…、またも足が動かずバランスを崩すだけで終わる。そこに男の追撃が迫る。足が動かない以上、この攻撃を食らえば地面に倒れてしまうだろう。だけど、私のカンはそれだけはだめだと叫んでいた。私は、がむしゃらに手にオーラを集めると向かってきた男に反撃する。無茶な体勢からであったため拳自体の攻撃力はさほど無いだろうが、その込められたオーラは馬鹿にならない。無防備に当たればタダではすまないだろう。それを悟った男は、追撃を諦め私の側から離れるように攻撃を避けた。それを確認した私は、両足に全力でオーラをこめ動かない足を無理やり動かそうとする。すると、足元でベリッ!という音と共に足が動くようになり、その足をついて倒れるのを堪えた。私は、殴られた痛みに顔をしかめながら男をにらみつける。その男は軽薄そうな笑みを浮かべたまま、驚いたように私に話しかける。「嬢ちゃん、とんでもないオーラ量だな!俺の必勝パターンが力押しだけで破られるとはね!」男はそういいながら、またも殴りかかってきた。私の足はまたも地面に張り付いたように動かない。避けることは出来ないし、受けたとしてもあの芯に残るような打撃はダメージを残す。私は意識的に凝を行い足元を"視"た。すると、地面にはまだら模様のようにあの男のオーラが散らばっており私の足はその一つを踏んでいるようだった。つまり、あの男のオーラは接着剤の様なものなのだろう。あのまま倒れていたら全身が地面にくっついて何も出来ないまま終わるところだったのだ。やはりカンを信じていて正解だった。原理が分かれば対処は簡単だ。物がくっつくというのは2つの物体があって成り立つことだ。つまりは―私は、拳に全力でオーラを集めると、そのまま足元の地面に叩き付ける。―私の足が地面にくっついているのなら地面が無くなれば問題ない。私が地面を粉砕して散らばったコンクリートの破片がこちらに向かってきていた男を襲う。オーラがこもった攻撃でもないので堅をした状態の男にさしたるダメージは無いだろう。だけど、私はこれで自由に動けるようになった。そして、男は破片にさえぎられ私を見失っている。私は飛び散る破片を目くらましに男に近づいて拳をたたきつけた。男は合えなく吹き飛んでいき、木の箱を破壊して止まる。うーむ、我ながら相変わらず凄い威力だ。しばらくして男は木箱の破片から立ち上がってきたが、その姿はぼろぼろだった。「くそが!むちゃくちゃだろうが、あんな力の入らん体勢の攻撃で地面を粉砕するってどういうことだ!」「そういわれましても…、出来たものは出来たとしか…」「うるせぇ!お前は俺を馬鹿にしてるのか!」そういうと男はまわりに有ったものをオーラで覆って投げてきた。あれに当たれば体にくっついて行動が阻害されることだろう。当然防御をしてもだめ。だけど、すでに原理は分かっている。ひたすらよければいいだけだ。幸いさっき地面を壊したせいで周りにあったオーラは一掃されている。また、投げるのに念能力を使っているわけでもなく、普通に投げているだけだったので避けるのは簡単だった。「避けるんじゃねぇ!」「いやですよ、当たったらくっつくじゃないですか!」「何で俺の能力がそんなに早々ばれてるんだよ!」「あれだけあからさまに地面に撒いて踏んだらはがれなくなるんじゃばればれじゃないですか?」「な!おまえ、あれが見えたのか!?俺は隠には相当自信があるんだぞ!」「そういわれましても…、見えたものは見えたとしか…」「くそ、その答え、やっぱり俺を馬鹿にしているだろ!」男は逆上したのか物を投げるのをやめこちらに突進してきた。接近戦は望むところなのだけど、回りには先ほど男が投げてきたもので溢れており回避するスペースがなかった。流石に考えなしに投げていたわけではないらしい。私は腰を落として構え、迎撃することにする。息を整えて練をし、纏を駆使してオーラを留め、堅の力を増強させる。男の拳にも念の接着剤がくっついているのだろう。インパクトの瞬間に対象がくっつく事によって衝撃を余すところなく対象に伝え大きなダメージを与えるのがその技だと思う。だけど、やはりわかって居れば対処はさして難しくない。殴ってくるのを左腕で受け、勢いを殺さずにそのまま左腕を引く。腕と拳がくっついても、こちらが腕ごと引いてしまえば意味が無い。そして、その引く動作を生み出した腰の回転をそのまま右腕に伝え、右の拳を男に向かって繰り出す!くっついた左腕を引かれたことによって逆に体勢を崩していた男はこの一撃を避けけられない。腰の回転、腕の振り、ためたオーラと3拍子そろった一撃は、過たず男の腹に突き刺さり再び男を吹き飛ばした。そのまま、張り付いた左腕が持っていかれるかと構えたのだけど、どうやらすでに男は気絶しており粘着効果は消えているよう。男は再び木箱の中に突っ込んで止まり、そして今度は起き上がってくることは無かった。私は右拳を突き出した残心の姿勢のままそのことを確認すると一つ息をついて構えをといた。これでも2年半も拳法を習っているのだ、正しい姿勢での正拳突きぐらいは出来るのである。だけど、初めて一対一での念使いとの戦いはとても疲れた…。最初に私が倒れてしまって居ればそれで勝負は決まっていたのだから、紙一重といっても良かったと思う。私が勝てる程度の相手だったのだから、ヒルダさんならば余裕で倒していると思ったのだけど…どうやら、あちらの戦いは長引いているようだった。