しばらく泣き続けた私は、熊男さんの遺体を丁重に葬ると家へと戻った。家に帰った私たちは今後の方針を話し合う。「さて、これでこの家が発見されるまでの時間的猶予はだいぶ出来たと思うけど、これからどうするの?」「…熊男さんとの約束どおり、囚われている娘たちを助けないと!」「貴女ならそういうと思ったけどね…。 まあ、私もその意見には賛成よ。同じ女として食い物にされてるのは見過ごせないわ。 取りあえず、当初の予定通り探しに出ているもう2人を倒しましょう。 ボスを倒すには部屋から出さないといけないらしいし…。 引きこもった相手を引きずり出すには手足をつぶすのが一番よ。」「はい!それならまた明日も探索ですね!」「そうね。でも、今度はそう簡単には見つからないでしょうね…。 今日の彼は私たちが見たことがあったし、目立つ外見だったからね。」「でも、それしかないんですからそうしないと!」「ええ、その通りね。今日は疲れたでしょう。もう寝なさい。」ヒルダさんにそう促され私はベッドに横になる。だけど、とてもではないが寝付けそうには無かった。まだ、私の拳には熊男さんを殴った感触が残っている。殴ったときのことを思い出し、思わす胃の中の物を戻しそうになるが必死に堪える。自然にあふれて来た涙が枕を濡らす。さっきあれだけ泣いたのにまだ出てくるなんで我ながら不思議だ。私は枕に顔を押し付けて声を殺して泣いていた。もし、両親に気づかれると心配をかけてしまうだろう。そうして泣いているうちに私はいつしか眠りについていたのだった。朝、目が覚めると泣きはらした目が真っ赤になってひどい顔になっていた。冷たい水で顔を洗って多少マシになったものの一緒に朝食を食べた両親に心配させてしまった。怖い夢を見たとごまかしたが、案外間違いでもないだろう。昨日のことは当分悪夢として出てきそうだもの。学校でも普通にしていたつもりだったのだけどルルに心配されてしまった。やはりどうも私は隠し事をするのは苦手である様だ。怖い夢を見たとルルにも言ったが、明らかに納得していない顔で引き下がってくれた。追求されると喋ってしまいそうだったので正直助かったとも思う。家に帰ると、ヒルダさんと一緒に探索に向かった。ヒルダさんも今日は休んでいいのじゃないかといったけれど、こうしてる間も女の子たちがひどい目にあっていると思うと休んでいる気分には慣れなかった。そのこと自体はヒルダさんも同じ気持ちだったらしく、最終的には折れてくれたのだ。だけど、結局その日は見つけることが出来なかった。それはそうだろう何せ私たちは探している対象の顔すら知らないのだから。ハンター専用の情報サイトでもあまりにマイナーなせいか顔写真すら載っていなかったのだ。ヨークシンあたりに根をはる組織なら新しく入った組員ですら即座に写真が乗るというのに…。まぁ、嘆いていても仕方ない。私たちが彼らを判別する方法は念使いかどうかだけだ。そうそう、昔不思議だった、纏をしてないのに熊男さんが私が念を使えるのに気づいた理由だけど、ヒルダさんに教えてもらうことが出来た。何でも、念を使える人は垂れ流し状態でも立ち上るオーラの流れが違って見えるらしい。確かにヒルダさんのオーラとそこら辺に歩いている人たちから流れているオーラは圧倒的にヒルダさんのほうがきれいだった。一応私たちはばれ難いように纏をせずに探しているのだけど、向こうもそうだとするとぱっと見で分からないため一層探すのが困難になってしまう。出来る限り早く女の子たちを助けたい私たちのあせりは募るばかりだ。□□□□□□□□□□□□□□□□そうやって、一週間ほど空振りの日が続いたころ、とうとう私たちは念を使えるであろう2人組の男を発見した。探索に疲れた私たちが近くにあった喫茶店に入って休憩していた時に偶然にもその2人組みも入ってきたのだ。何で直ぐに分かったのかといえば、その2人組みがとても目立っていたからだ。なにせ、その喫茶店は思いっきり女の子向けで、お菓子の類がおいしく店内の飾りつけもファンシーな感じのところなのだ。実は、ここに入るときにヒルダさんが若干の抵抗を見せたぐらいで、その店内で男2人は非常に目立つ。ちなみに、抵抗するヒルダさんを押し切ったのは私だ。ということで私たちは男たちのことに直ぐ気づいたし、男たちは風景と同化している私たちに気づいてなかった。男は2人とも20台前半ぐらいの優男で慎重も170cm程の平均的な感じだ。正直こんな偶然でもないと発見できなかった気がする。片方の男は女ばかりの店内に非常に居心地の悪そうだったが、もう片方は幸せそうにお菓子を食べていた。多分、彼が無理やりつれてきたのだろう。正直、店内中の視線を集めているので、私が多少覗き見たところで気づかれたりはしなさそうだ。絶をしていては逆に不自然だということで気配も隠してないことだし。決して、私の絶が下手糞だから開き直ってるわけでは、決して無い。「ヒルダさん。思いがけず発見しましたけどこれからどうします?」「そうねぇ…。取りあえず、尾行して本拠地を突き止めましょうか。当然、貴方は家に帰りなさいよ? 私も本拠地が分かったら今日のところは直ぐに戻るわ。いずれボスに相対するために場所は知らなければならないしね。 それに本拠地が分かっていたらまたこの2人組みを見つけるのも簡単になるでしょ。」「ん、分かりました。それなら、2人が出て行ったらヒルダさんだけあとを追いかけるってことですね。 私はしばらくこの店で時間を潰してから家に帰ります。」「ちゃんとまっすぐ帰るのよ?久しぶりに一人で街を歩くからってはしゃぐんじゃないわよ?」「私はそこまで子供じゃないんですけど…」「ヴィヴィって、目を離すとふらふら何処か行きそうで心配なんだもの。」その言葉を否定しきれないところが辛いところではある…。そんな話をしているとお菓子を食べていた男は満足したのか笑顔でお茶を飲んでいた。そして、連れの男はそそくさと食べ終わった男を促して店を出ようとする。まぁ、一般的な感覚の男の人がこの店に長居するのは辛いだろう。「てことで、ちゃんとまっすぐ帰ること。分かったわね。」「はーい。」ヒルダさんはそういい残して男たちの後を追って外に出て行った。私も後一杯お茶を飲んだら帰ることにしよう。帰るときに気づいたのだけど、ヒルダさんの分まで私が払うことになっていた…私のお小遣いからも報酬も出してるのに…、まぁ、別にいいけどさ…家に帰った私は念の訓練をしながらヒルダさんが戻るのを待っていた。いつも寝る時間になっても連絡なく、何かあったのかと心配になって電話をかけたくなったのだけど、もし尾行途中であれば邪魔をしてしまうと我慢する。そろそろ私の我慢が限界に達しそうになったとき、向こうから連絡が来た。「アジトの場所が分かったわ。今から帰るから、あんたはもう寝なさい。 どうせずっとやきもきして待ってたんでしょ?」「もう、ヒルダさん、遅いから心配しましたよ。そんなに遠いところにあったんですか?」「いえ、対象がなかなか慎重でね。だいぶ遠回りさせられただけよ。 なんにしろまた話は明日にね。」「はーい、おやすみなさい。」「ええ、おやすみ。」安心した私はその後直ぐにベッドに横になりすぐ眠りについたのだった。翌日、学校へ行く車の中で今後の方針を聞かされた。「私はこの後から、敵のアジトの監視をするわ。 2人組が貴女を探しに出てきたらそれを追って、監視を継続。 貴女の学校が終わったら合流して適当なところで戦闘ね。 何か質問はある?」「ヒルダさんはずっと動きっぱなしで大丈夫なんですか?」「ふふ、職業ハンターをなめないで貰いたいわね。ハンターに一番大切な要素は強さなんかじゃなくて忍耐力よ。 一晩や、二晩の徹夜なんて余裕なのよ。ましてや昨日はちゃんと寝たしね。」「そうですか…、私は学校が終わったら連絡しますね。」「ええ、一度コールをしてくれればいいわ。私が適当なところで折り返し連絡するから、それまでは家で待機してなさい。」「はい、分かりました。」私はそのまま学校で授業を受けるが、このあとに戦闘があると思うととてもではないが授業に身は入らなかった。ルルに心配されながらも何とかごまかした私は家に帰ってヒルダさんの携帯電話にコールする。一度コールすると電話を切り、後は自分の携帯電話の前に座り込み、連絡をじっと待っていた。暇だったので念の訓練をしようかとも思ったけれど、戦闘前に無駄なオーラを消費するのも馬鹿らしい。やっぱり私は携帯電話の前でおとなしくしているしかなかった。しばらくして漸く電話がかかってくる。「ヴィヴィ、今は家に居るのかしら?」「はい、言われたとおり待機してます。」「そう、なら私に合流して頂戴。場所は…、今の位置を行っても移動しそうだからしょうがないわね…。 あ、そうだ、貴女の携帯電話のナビで私の携帯電話の位置って把握できるんじゃなかったかしら?」「あ、そういえばそんなサービスに入ってましたね。あんまり使わないんで忘れてましたけど…。 というか、これ前の二重尾行のときに使ってればよかったんじゃ…」「終わったことを言ってもしょうがないでしょ。いい訓練だったと思いなさい。 貴女が私を視認出来る位置まで着たらまたワンコールしなさい。そのあと、私からのワンコールで仕掛けるわ。 今回は2対2だから貴女も最初から戦ってもらうわよ。すぐ来なさいよね。」「分かりました!」私がそう返事をするとヒルダさんは通話を切った。その後、私は急いでヒルダさんの元へ向かうのだった。