ヒルダさんに念を教えてもらうようになってから半年が過ぎた。変な癖がついているといわれた練は上手に出来るようになったし、ちゃんとした堅も出来るようになった。円の半径は大体10mぐらいだろうか。ヒルダさんになかなか優秀だとほめられた。もっともヒルダさんは円が苦手らしく1mも広げられないのだとか。凄い人になると100mも広げることが出来ると聞いたけど、正直想像もつかない世界だ。世の中は広いと思う。周に関しても特に問題なく出来るようになった。私は強化系だから物にオーラを込めて強化するのが本分なのだし出来ないようでは話しにならないとしごかれた。もっとも、私の戦闘スタイルは基本的に素手でのことを想定しているのであまり使う場面は無いのだけど。ヒルダさんは武器を持ったほうがいいと言うのだけれど、学校に通っている身でそんな物騒なものを四六時中身につけていることは出来ない。なので、仕方なく素手での戦闘訓練を中心にすることになったのだ。お粗末だった絶は結局お粗末なままだった。どれだけオーラを抑えようとしてもどうしても漏れてしまうのだ。それに伴って硬もどちらかといえば極端な凝という感じでしかなく、これにはヒルダさんも苦笑いしていた。まぁ、大抵一つぐらい苦手なものがあるものらしいので、それをしっかり認識していることが大切なんだそうだ。この半年間で大変だった訓練はなんと言ってもヒルダさんとの組み手と練の時間を延ばす訓練だと思う。ヒルダさんとの組み手は遠慮なくオーラを込めて殴ってくるのをオーラを使って防御しないといけなかったりと容赦が無いのだ!練の持続時間を延ばす訓練は、ひたすらへとへとに疲れてしまう。初日の訓練の最後に練の時間を計ったら30分ほどで限界が来て倒れるように眠ってしまった。しっかり寝て8時間後に起きたときは何とか回復していたのだけど、あの疲労感はとても大変。ヒルダさんの話によると最低でも3時間ぐらいは連続でできるようにならないと話しにならないらしい。翌日の訓練でその話を聞いたときは、思わずめまいがして倒れかけたぐらいだ。あのころの私の心の支えは朝のランニングぐらいだった。でも、日を追うごとに時間が延びていき、努力した結果が直ぐ見えるのは楽しい。もともと、ヒルダさんと出会う前に念で遊んでいたころはそれが楽しくて続けていたのだから。練の持続時間は最初のほうは伸び悩んでいたのだけれど、ちゃんとした練、堅が出来るようになったら飛躍的に伸びるようになった。そう考えるとやはり私は無駄に使っていたオーラがとても多かったのだなと思わされた。そして、最近になって目標であった3時間をとうとう達成出来た。これからもどんどん伸ばせるようにがんばりたいと思う。ヒルダさんいわく、「あんたの成長で驚くのが馬鹿らしくなってきた」だそうだ。多分、ほめてくれているんだと思う。長くできるようになってくると練をしている間ただ突っ立っているだけでは暇に感じてくるようになった。なので、何か別の訓練も一緒にしようとしたらヒルダさんにおとなしくして置けと怒られた。しょうがないので机に向かって学校の勉強をすることにしたのだけど、毎日2時間ほど勉強するようになったおかげかなんと成績も上がったのです!すばらしい!赤点ギリギリだったのが何とか平均点に見合う程度まで上がりました!それをみたルルは喜んでくれましたが、どこかしら寂しそうな感じもしました。なんだったのでしょうね?結局、念の本領発揮というべき特殊能力は作っていません。ピンとくるものが思いつかなかったのもあるし、ヒルダさんも強化系なら基本技だけで十分すぎるほど戦えるからあせる必要はないと言ってくれています。むしろ、一生ものになるのだから安易に決めてはダメだとも。学校に行っている間はあまりおおっぴらに訓練できないので、念で文字を作ったり、小さい玉を作って飛ばしたりといった訓練をしてた。本当は堅状態での攻防力の移動訓練なんかをしたかった(椅子に座っていても出来るから)のだけども、教室で堅をするととても目立つからやめなさいとヒルダさんに呆れられながら止められて……どうやら、練などでオーラを普段よりも多く出すと普通の人に威圧感を与えてしまうらしいです。纏程度ではそんなこともないらしいのだけど……確かに熊男が私のことを探しているとなると目立つことは避けたほうがいいし、クラスの友達を怖がらせるのもいやなので諦めました。そう、そういえば、私を襲った熊男のことをヒルダさんが調べてきてくれたのだ!それによると熊男は隣町に本拠地を抱えるマフィアの一員なんだって。何人かの念使いを抱えるそれなりに武闘派の組織で、ここのボスがまったく外に出てこないのだけど、どうも操作系の念使いらしくとても強力な念能力を持っているって話。私が熊男に襲われたとき"一生縛られる"とか何とか言っていたがそれが能力なのかな?取りあえず、ハンター専用サイトの情報は凄いと思う。いつか私もライセンスを取りに試験を受けてみようかな。でも、その代わりにとても財布が軽くなったけどね……私は、あれから学校帰りに寄り道をすることなくまっすぐ帰る日々が続いています。またルルと一緒にショッピングにいきたいのだけど、ヒルダさんによると熊男以外にも何人か私のことを探しているらしくて出歩くのは危険だと言われました。いい加減私のことは諦めてくれないかな……□□□□□□□□□□□□□□□□ある日、私が訓練に使っている部屋で練をしながら机に向かって勉強していると、苦い顔をしたヒルダさんが入ってきました。「ヴィヴィ、ちょっとまずいことになったわね。奴らがとうとうこの街も探し始めたわ」「そんな!この家も見つかってしまうのですか?」「流石に直ぐじゃないでしょうけど、時間の問題でしょうね…。どうしましょうかね?」「……やり過ごすことは出来ないんでしょうか?」「難しいわね。そしてリスクが高すぎるわ。万が一ばれた場合、ご両親にも手が伸びるかもしれない。 私も流石に体は一つしかないのだから全員を守るのは無理だわ」「そうですか……、どうすればいいと思います?」「一番確実なのは両親を説得してこの街を離れることでしょうね。 両親の仕事の都合なんかも有るから難しいかもしれないけど、ヴィヴィが変なのに狙われてるって私が言えばたぶん了承してくれるでしょう」「そうですか、そうすると今の学校も転校しないといけないですね……」「そうね、万全を期すならそうしたほうが確実でしょうね」「そうするとルルとも、この家ともお別れになっちゃうんですね……」私はゆっくりと部屋を見回す。この家はまさに生まれたときから住んでいる。まさに思い出の詰まった家だ。ルルともせっかく親友ともいえるほど仲良くなれたのに別れないといけないなんて……なぜ理不尽に狙われているばっかりにそんなことにならなければならないのか。私は何も悪いことなどしていないというのに!「ねぇ、ヒルダさん、もし、この街から離れたく無いといったら他にどんな方法があります?」「へ!?そ、そうねぇ……。まぁ、探してる奴らを全員倒してしまうとかかしらね?」「やっぱりそうですよね、それって出来ると思いますか?」「まぁ、あんたもそれなりに一人前になってそこらの念使いには負けないと思うけど……」「そういうことになったらヒルダさんも手伝ってくれますよね?」「そりゃ、手伝うのは構わないけどね、って、ちょっとまちなさい!」「いえ!私決めました!探してる人たちを逆にやっつけてやります!」「ヴィヴィ!なにをいってるのよ!そんな危ないマネ……」「ヒルダさんが今出来るって言ったじゃないですか。 私はこの思い出の詰まった家も学校の友達とも離れたくはありません!」「そうは言ってもね…。どうしたのよ、そういうことをいうタイプじゃないでしょう?」「む、私だって譲れないものの一つや二つはありますよ。 それにヒルダさんが教えてくれたじゃないですか、念は心の持ちようで性能が大きく変わるって。 私の心はいま燃えに燃えてます!何がきたって殴り飛ばしてあげます! それに逃げるだけならいつでも出来るじゃないですか?」「ああ、もう、なんだか止められそうにないわね……。しょうがない、私が危ないと思ったら直ぐ逃げるのよ?」「もちろんです、頼りにしてますよ、ヒルダさん!」「これは報酬に上乗せしてもらわないと割に合わないわね……」「あ、お父さんに言うと止められるでしょうから私のお小遣いから払いますよ」「はいはい、しっかりしたお嬢さんですこと……」そうして、私は探している敵と戦うことを決心したのだった!その後ヒルダさんと具体的な作戦を話し合う。「さて、戦うにしても方針を決めないとね。といってももう決まったようなものだけど」「もうですか!さすがヒルダさんです!」「別に凄くはないわよ。誰でも思いつくわ。 せっかくあちらがばらけて貴女を探しているのだから、そこに私たち2人でぶつかって各個撃破ってところね。 一人目を倒した時点で次から2人で行動するようになるかも知れないけれど、それでも2対2の同数で不利とまでは行かないわ。 ボスは基本的に引きこもってるようだから数に入れなくても大丈夫でしょう」「なるほど……、それならこちらも別れて探しますか?」「馬鹿ね、それじゃ意味が無いでしょうに。探してる間の貴女を向こうが見つけたらどうするのよ」「ああ、そうですね……。じゃあ、こちらが先に見つけたら私が囮になって戦いやすい場所まで誘導するのはどうでしょう?」「それもダメね。連絡を取り合って集まられると厄介だわ」「なら結局私とヒルダさんで一緒に探すしかないわけですか……」考えた案をすべて却下されてしまい少し落ち込む。早くしないと家族が危ないかもしれないのに……「そんなに心配しなくても私と貴女の2人でだったらそうそうな敵には負けないわよ。 あせらずゆっくり行きましょう。一人倒せば向こうの探索効率は激減するわ。 この家にたどり着くまでの猶予も長くなるでしょうし」「……そうですね!よし、それじゃ、がんばりましょうヒルダさん!」「気合が入ってるところ悪いけど、探索は明日からね。今日はもう遅いわ。しっかり寝て明日に備えなさい」「はーい」私はヒルダさんに挨拶をすると部屋に戻ってベッドに横になる。明日からはとうとう戦いが始まるのだ。正直戦うのは好きではないけど、家の平穏のためならしょうがないとも思う。平和な生活に向けて気合を入れなおす私だった。