どうも、ルルの様子がなんだかおかしい。昨日まではまったく普通だったのに、今日学校に来た時点でなんだかそわそわしているようだった。それは本当にかすかな違いで、私以外の友達は特に気になっていないようだった。私は念のため何があったかと思って聞いてみたけど、本当になんでもない風に返してきた。それだけ見ると本当になんでもないようにも思えるのだけど、私のカンがどうも違うと違和感を訴える。そう思って、意識してルルを観察してみるとやはり違う。表面上は普段どおりだけど、いつも真面目に聞いている授業も何処か上の空だ。もっとも、ずっとルルを見てたら先生にいきなり当てられてしまい、答えられなくて恥ずかしかったのだけど…そんな私をルルは苦笑しながら見ていて、その笑顔が何処か引っかかる。なんだろう、このもやもやとした気分。魚の小骨が喉に引っかかったみたいというか…。とりあえず、長くルルと一緒にいようと思って放課後に遊ぶことを提案してみた。「ねぇ、ルル。今日の放課後何処か遊びに行かない?」「ん、いきなりどうしたのよアン。それに昨日も一緒に買い物したばっかじゃん。何かやりたいことでもあんの?」「え!えーと…、別にそういうわけじゃないんだけど…。」「…相変わらず、変な子ね。ま、どっちにしろ今日はちょっと用事があるんだ。ちょっと無理かな。」「そっか…。それならしょうがないね…。ちなみにその用事って何か聞いてもいい?」「…、ん、別にただの家の用事だよ。お母さんが早く帰って来いってね。詳しくは私も聞いてないから分からないな。」その返事はとても自然で特におかしなところは無いと思う。でも、私にはそれが嘘だとなんとなく分かってしまった。これで私の違和感は決定的になった。ルルは意地悪なことをよく言うけれど、変な嘘をつくような子じゃない。ましてや、今の質問に嘘をつくような必要なんてどこにも無いのに。だけど、私がここで幾ら追求してもルルは喋ってくれないだろう。ルルはちょっと意地っ張りなところがあるからね。仲良くなってから、ルルが私に嘘を付くなんて初めてだ。私はなんだか不安にかられる。「どうしたの?なんか急ぎの用事でもあんの?」「え?別にそういうわけじゃないけど…」「なら、なんでそんな変な顔してんのよ。」どうやら、また私は思っていたことが顔に出ていたらしい…ルルは私のことを訝しげに見つめてくる。「ううん、なんでもない。なら、ルルは今日まっすぐ帰るんだ。」「そうだね。ま、また今度誘ってよ。次は付き合うからさ。」「うん、分かった。また今度ね!」そう、私が笑顔を作って言うとルルは安心したのかそこで話は終わったのだった。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■その日の放課後、私はルルと一緒に駅へと歩いていた。お互いまっすぐ帰るときは、私は大抵学校まで迎えに来てもらうのだけど、今日は駅までルルとお話しすることにしたのだ。ルルは珍しい私の行動に不思議そうな顔をしていたけど、特に気にしないことにしたようだ。学校から最寄の駅までの道はそう遠くない。ルルとおしゃべりしながら歩いていたら、直ぐに着いてしまう距離だ。横を歩くルルはいつもどおりで、学校で感じた違和感は今では特に感じない。うーむ、私の思い過ごしだったのかもしれない…。駅についてルルが構内へと入るのを見送り、私はここで迎えの車を呼ぶことにする。電話をしようと携帯電話を取り出し、番号を呼び出したところで、ふと横の線路を走っていく電車に目を向けた。そして、私は目を疑う。今走っていった電車にルルが乗っていたからだ。見えたのは一瞬だけだったけど、決して見間違いなんかじゃなかった。ルルの家に行く電車は反対側で、毎日通学に使っているルルが電車を間違えるなんて考えられない。となると、やはりまっすぐ帰るというルルの言葉は嘘だったのだ。でも、ルルが私に嘘をついたことは悲しいけど、そんなに気にすることじゃないのかもしれない。誰でも一つ二つの秘密はあるものだし、それを興味本位で詮索するのはいい事じゃない。それは分かっているのだけど、私はなぜだか気になってしょうがないのだ。すっきりとしない気持ちを抱え、手に握ったままだった携帯電話を見る。いま、ルルに電話をしてみれば、何か分かるのだろうか…?それとも、単にはぐらかされるのだけだろうか…?私は、その場で暫く悩んでいたけど…結局、私が掛けた電話は迎えを呼ぶためのものだった。その次の日にも、ルルを誘ってみたのだけどやはり用事があるからと断られる。聞き出そうとがんばって見たのだけど結局はぐらかされるだけだった。うん、私にはこういうことは苦手だって改めて思い知った。そこまで隠そうとしてるのだから、わざわざ探るのなんてよくないって分かってるのに…でも、心のもやは一向に晴れない。なんだかいやな予感がする。その日は一日、どうするかを悩み続けて逆にルルに心配されるぐらいだった。そして放課後になり、私は吹っ切れた。私はどうせ馬鹿なのだ!考えてたってしょうがない。心の思うとおりに行動しようと!今日の放課後は学校の校門で別れ、ルルが1人駅へと歩いていくのを私は見送る。ほんとだったら直ぐに迎えの車が来て、そのまま家に帰るのだけど今日の私は一味違う。そのままルルにばれない様に後ろを着いて歩いていく。。幾ら私の絶がへたくそだからって、流石に念が使えない人にあっさりばれるほどじゃない。案の定、ルルも私に気づくことなくてくてくと駅への道を歩いている。直ぐに駅に着き…、ルルは昨日と同じく家とは反対方向のホームに向かう。私もルルからつかず離れずで追っていく。ホームで電車を待つルルは何処か思いつめた表情をしている。学校では見せてくれないその表情に私の心はざわめいた。やがて電車が到着し、人の波に乗って乗車する。ルルは小柄なので、人がひしめく電車の中では直ぐ見失ってしまいそうになる。だけど、何とか私が見失ってしまう前にルルは電車を下りてくれた。私もあわててそれに続く。ルルは携帯電話を開き、何かを確認してから移動を始める。改札を抜け、通りに出ると、ルルは時折携帯電話を見ながら歩いていく。どうやら地図を確認しながら移動しているみたい。ルルは道を探すのに一生懸命になっていて回りをあまり気にしていない。私はだいぶ余裕をもってルルについていくことが出来るようになった。そのまま暫く着いていくと、ルルはとある建物に入る。どうやら、そこが探していた建物だったようだ。私もルルを追ってその建物に入ると、そこはどうやらホテルのようだった。先に中に入っていたルルはフロントの人と何か話しているようで、私はフロントに近づいて耳を澄ます。微かではあるけど、何とか声を拾うことが出来た。途切れ途切れに聞こえてくる内容を察するにどうもルルは人を探しているらしい。だけど、私はそんな内容よりもほかの事に衝撃を受ける。なんとルルははぐれた子供の振りをしてフロントに話しかけていたのだ!ルルは正直なところ背が低い。たぶん、クラスで一番小さいとおもう。なので、年を下に見られることが多いのだけどルルはそれが気に入らないらしい。私もいつもお世話になっているぐらいで、ルルはクラスの中でもしっかりしているほう。だからなのか、子供に間違えられるととても怒る。私としては、その姿はかわいいと思うのだけど、それを言ったらもっと怒られた。そんなわけで、ルルを子ども扱いするのは厳禁なのだけど、それを自分からやっているとは!そんな事を思っている間にルルとフロントさんの会話は終わっていた。どうも、がっかりした様子のルルから察するに探している人はここには居なかったみたい。ルルは踵を返して、入り口のほうへと向かう。ちょうど私の近くを通るルートだったので、私はあわててロビーの片隅に移動した。ルルはそのまま別の場所に行くのかと思ったのだけど、不意に壁に貼ってある張り紙に眼を向けた。その張り紙に何が書いてあるかはルルの頭が邪魔で見えないのだけど、震える肩から察するにあまりよくないことが書いてあるようだ。「こんなところで何をやっているんだ?」「ひゃい!」いきなり後ろから声をかけられて私の心臓が跳ね上がる。ついでになんだか変な声が出てしまった…。「ああ、すまん。驚かせてしまったようだな。」そういって話しかけてくるのはなんとウォーリーさんだった。「あ、ああ、ウォーリーさんじゃないですか!いきなり話しかけられたんでびっくりしちゃいました。」「ああ、反省しているよ。だが、俺は気配を殺していたわけでもないから気づいていると思ったんだがな。」「え!?え、えーと、それは…」私はその質問に咄嗟に言葉が返せなかった。まさか、友達を監視するのに集中してたので気づきませんでしたなんていえないし…。そうしてまごついている内にウォーリーさんは、なんだか勝手に納得したらしい。「ああ、心配しなくてもヒルダに言いつけたりしないさ。俺が理由でしごかれるのは少々忍びないからな。」「え、ええ、そうなんです!ヒルダさんには内緒にしておいてくださいね!」これ幸いとばかりにその勘違いを肯定する。まぁ、ヒルダさんのしごきを受けたくないのは紛れも無い事実なので、まったく嘘ではないけれど…。「まぁ、それはいいが、こんなところで如何したんだ?このホテルに何か用事でもあったのか?」何とか誤魔化せたと安堵の息をつこうとしたところで、さらに答えにくい質問が飛んできた。やはり、私の頭では咄嗟に適当な言い訳など浮かばない。「ええっと…、ええっとですね…。…あの、そういうウォーリーさんはなんでここに居るんですか!?」「俺か?俺はただの仕事の人探しだな。」「あ、あのですね!私もちょっと知り合いを探してて…」時間稼ぎのつもりで質問を返したらウォーリーさんの答えは簡単なものだった。思いつくまでの時間は稼げず、取りあえず私はまたもその言葉に乗っておくことにする。そして、人探しと聞いてルルを思い出し、さっきまでいた張り紙のところに視線を送るとすでにルルは移動しようとしていた。早く追いかけないと!そう思う私の心が通じたのかウォーリーさんも仕事があるようで移動するそうだ。「そうか、それは邪魔したな。俺はそろそろ移動しないといけない。あんまりヒルダに心配を掛けるなよ。」「あ、はい、大丈夫です。直ぐ移動すると思うんで。」「そうか、それならいいが…」そういってウォーリーさんは立ち去ろうとする。私もルルの後を追おうと移動しようとするのだけど、またもウォーリーさんに引き止められた。「あ、そうだ、ヴィヴィアン。渡そうと思ってたものがあるんだった。」もう!早くしないとルルを見失っちゃう!そう思う私に構わず、ウォーリーさんは小さな紙包みを私の手に乗せてきた。なんだろう、これ?「え、これってなんですか?」「簡単に言えば爆竹みたいなもの、かな。念を込めて少しすると破裂して大きい音を立てるんだ。」「はぁ…、なんでまたそれを私に?」なんだか、よく分からないものを渡され、私は反応に困る。しかし、次の説明を聞いて驚いた。その音で人の注意を逸らすことが出来るらしい。でも、ウォーリーさんの能力ってあんまり強くないんじゃなかったっけ?何か秘密でもあるのだろうか?ウォーリーさんは私が受け取ったことで満足だったのかそのまま次の場所に行くといっていってしまった。そこで漸くルルのほうに意識を回す。私はあわててホテルから出て回りを見渡すが、もはやルルの姿はどこにも無かった。もはや見つける方法も無い私は、肩を落として帰路に着く。手に持ったままだった爆竹を見る眼に恨みがましいものが混じっていたのはしょうがないことだと思う。