「さて、これで気がねなくあの豚を潰せるわね。 壁を一部分壊したぐらいじゃ、能力を潰すまでは行かなかったようだけど如何しようかしら?」「んー、壁全部壊したらどうです?さっきのは念のために全力で殴りましたけど、あそこまでしなくても壊せそうな感触でしたし。」「貴女もなかなか過激なこというようになったわね…。 まぁ、他にいい案もないしそれで行きましょうか。部屋の外なら銃器に撃たれても大丈夫そうだしね。」「撃たれるのはもういやなんですけど!」「冗談よ、そっちの対処は私の「第三の手(フィアー・タッチ)」でするから、あんたは安心して破壊してなさい。」なんだか破壊魔みたいなことを言われた私は微妙な気分になりながら、アジトへと向かう。果たしてボスってひとはまだ中にいるようだった。「あら、逃げてなかったのね。そっちから出てきてくれたら手間が減ったのに…」「お前たちは一体何なんだ!なんで、俺の楽園を壊そうとする!」「私はかわいい女の子の味方なのよ。それが、あんたみたいな豚にいいようにされてるなんて虫唾が走るわね。 ほら、貴女は壁を壊す作業に向かいなさい。」「あ、はい、分かりました。」私はヒルダさんとボスって人の会話を背に壁に向かう。念を込めて壁を殴る。単調作業の始まりだ。「やめろ!何でそんなことするんだ!」その言葉と共に部屋の中の銃器が私のほうを向く。思わず堅に力を入れるが、その銃器はヒルダさんの鞭で一掃されていた。「ちょっと、そんなもの私たちに向けないでよ。 何で壊すかって決まってるでしょ、臆病な豚が出てこないから、しょうがないから豚小屋を壊すことにしたのよ。 壁が全部なくなれば流石に"部屋"じゃないでしょう?」「な!何でお前らが俺の能力を知っている!」「ちょっとであった森の熊さんに教えてもらっただけよ。」「ありえない!あいつは俺に不利になる行動は取れないはずだ!」「そういわれてもね、聞いたものはは聞いたとしか言えないわよ。 まぁ、死ぬ間際だったし、なにか不思議なことが起こったのかもね。それがありえるのが念だもの。」「くそ!俺は楽園を作りたかっただけなのに!!」男はそういって懲りずに銃器を操って攻撃しようとする。もちろんそれはヒルダさんの鞭で無駄になるが…。私は黙々と壁を壊していたのだけど、外周の半分ぐらいを壊したところで壁を強化していた念が消えたのに気づいた。「ヒルダさーん!壁に込められてた念が消えましたよー!」「っ!あの子…操作系能力者の前で名前を呼ぶなってあれほど言ったのに…!後でお仕置きね…。」小声だったけど、ヒルダさんの恐ろしい言葉が聞こえてしまって私は固まる。ヒルダさんは私の声にしたがって壁と部屋の中を確認した後、初めて部屋に踏み入った。そのまま歩いてボスって人に近づいていく。「さぁ、豚君、貴方は部屋の中じゃないと雑魚らしいわね。観念して今まで操っていた人の念を解きなさい。」「む、無理だ!俺の念能力は永続的に効き続ける!たとえ俺を殺したって解除はされんぞ!」「ふーん…、ところであんたの念ってあんたに対する命令服従と反抗禁止よね?」「そ、そうだ。だから、俺を殺しても無駄だ!」「あのねぇ、それなら、あんたが居なくなったら誰の命令に服従しなくちゃならなくて、誰に反抗しちゃダメなの?」「え?い、いや、それは…」「ほら、あなたが死ねば問題ないでしょう?それじゃ、さよなら。」ヒルダさんの鞭かボスって人の頭を貫く。その人は3回ほど痙攣した後、そのまま動かなくなった。忌々しそうにその死体を眺めたあと、ヒルダさんは私に向かって歩いてくる。「ヒルダさん!これで全部終わりましたね!」「そうね…といいたいところだけど、残念ながらそうじゃないわ。」「え?でも、敵は全部倒しましたよね?」「いいえ、あと1人は残っているわ。そう、貴女を操っている人間がね。」□□□□□□□□□□□□□□□□私はその言葉になぜかひどく衝撃を受ける。ぐらぐらと動く世界に、私は知らずのうちに頭に手をやって額を押さえる。「え?そんな、私操られてなんか…。」「いえ、操られているのよ。貴女本人も周りの人間も気づかないほど巧妙にね。 考えてみればおかしなところはいくつもあるわ。何よりおかしいのが独学で覚えたって言う念ね。 確かに、自然に念を覚える人が居ないわけじゃないわ。 でも、大抵それは特殊能力が先に来るタイプが多くてオーラをそのまま操る技能に目覚めるなんて聞いたことがない。 まぁ、それはもしかしたらありえるのかもしれない、念を使い出した最初の人がそうだったのかもしれないしね。 でも、練、凝、流、硬、絶の応用技まで貴女が使えるのはおかしいわ。それも自然に覚えてからたった一年半でね。 少なくとも、誰かの教え、あるいは示唆がなければそれは不可能よ。 そして、今までの戦いにもおかしなことはいくつもあるわ。 例えば、最初に私と貴女が出会ったことだけどあまりに都合が良すぎる。 私は本当に散歩の途中で貴方たちを見つけたのだけど、その確率がどれほどのものか。 探索一日目で熊の人を見つけることが出来たのもそう。あれを見つけたのはあなたが先だったわよね? 次の敵を探していたとき、私を無理やりあの喫茶店に連れ込んだのも貴女だったわ。 貴女は、甘いものがすきとはいえ一般的な範囲だし、探索で緊張している貴女はああいう店には入らないでしょう? それに、ああやって無理に私を誘うのは初めてだったわね。 あとはね…、これは言いたくないのだけど…。 貴女はなぜこの戦いを決意したの? 別にこの戦いはあなたに必要なかったはず。両親を説得して街を移動すればよかったでしょう?」ヒルダさんの言葉が頭の中をぐるぐる回る。そう、私は、友達と別れたくなかったし、家からも離れたくなかった…。うん、それが理由だったはず…。「で、でもそれは家や友達と別れたくなくて…」「そうね、その気持ちは確かにあるのでしょう。でも、それは命を危険にさらしてまですることかしら? 今までただの女の子として過ごしてきたあなたが、その決断をするとはとても思えない。 それは半年間一緒に居た私の正直な感想よ。 そして、熊の人を殺した時、あなたは自分も死にそうなほどに精神的に落ち込んでいたわ。 でも、たった数日で元に戻った。それはまるで専門家にカウンセリングを受けたみたいにね。 少なくとも私はやってない。ならば誰が、貴女にカウンセリングを施したというの?」そう、熊の人を殺してしまったとき、私は罪悪感でいっぱいだった。向こうから襲ってきたとはいえ、人を殺すなんて…でも、そう、あれはしょうがない。だって、向こうから襲ってきたし、あれは私の幸せを壊す存在だったのだから…いえ、私は人を殺して幸せになるなんて…!「そ、それは…。」「2人組との念での初戦闘。貴女は見事に乗り切ったわね。そして次の日にも後を引かなかった。 そして今日、目の前で私が人を殺したところを見たというのに、何の痛痒も感じていない。 貴女は精神的にとても早い速度で成長しているわ。 でも、その速度は異常よ。まるで誰かに訓練を受けているみたいに、ね…。」「そ、そんな…、わ、私…」私はまるで世界が崩壊したかのように足元がぐらつく。頭の奥でガンガンと鐘がなり、頭痛に呻く。私は、今まで、誰かに操られていたというの?それなら、熊の人と戦った後に誓った覚悟も借り物なの?少女たちを助けなくちゃと願った思いも偽者なの?周りのすべてが偽者に見え、世界のすべてが自分を偽者だと責めている。そんな私をヒルダさんはいつも通りしっかりと抱きしめやさしく声をかけてきてくれた。その暖かさだけが今の私が信じられる唯一のもので、私はすがりつくかのように抱きしめ返す。「勘違いしないで、貴方の心は貴方のものよ。貴女が決めたこと、別の誰がではなくあなたがしっかりと決めたこと。 これほど巧妙な操作ではせいぜい貴方の行動に少しばかしの影響を与える程度の効果しかないわ。 貴女は貴女よ、しっかり自分の足で立ちなさい!」ヒルダさんの叱責が心の奥に響く。私はその言葉で目が覚めた。そうだ、たとえ私の思考が誘導されていたとしてもそれを決めたのは私自身。振り返ってみても私が恥じ入るような選択はなかったわ。ならば、胸をはっていいじゃないの!「ふふ、もう大丈夫そうね。本当に強くなったわ。私の役目もそろそろお払い箱ね。」「そんな、まだヒルダさんには教えてもらいたいことがたくさん有ります!」「そうね、さし当たって最後の敵を倒しにいきましょうか!」「はい!」私たちはその半壊した屋敷の探索を開始する。しばらくして、地下へと続く階段を見つけ、私とヒルダさんはお互いを見合いその階段に足をかけたのだった。to be continued