俺、トリッパー。
以後よろしく。
…面倒だからって挨拶ケチるもんじゃないな。
正直スマンかった。
まあ、ぶっちゃけた話、トリップものの主人公です、俺。
俗に言う現実世界から、いつのまにかトリップしてました。
気がついたら、いわゆるハンターハンターの世界。
で、親切な人に拾ってもらって、念を習得して。
そこらへんは、どっかの夢小説でも読んでくれ。
大して変わりはない。
んで、ついに『発』を構築する段階になりました、と。
俺の系統は操作系。
トリッパーとしては結構微妙だよなぁ。
主人公ってのは、具現系か特質系て相場が決まってるのに。
かといって、強化系ほど思い切ったわけでもない。
ひょっとしたら特質系になる、かも? という微妙さ。
ともかく。
『発』に関しては、思い入れが強いと威力が上がる、てな話を聞いたので。
どうしようかと悩んでいると、ふとGI編のあるシーンを思い出したね。
クラピカの採用試験のときの、バショウなる人物の念能力。
俳句に書いたことが実現するっての。
機甲都市伯林よんだ人はこう思わなかったか?
「あれって、言実詞じゃん」
終わりのクロニクルしか読んでない人にとっては「概念条文」って言ったほうがいいか。
ていうわけで、方向性は決まった。
都市シリーズからの引用にしよう。
なかでも、俺が一番好きな矛盾都市TOKYOから。
となれば、やはり「僕」の記動力しかないでしょ。
幸いにして、俺は操作系。
『殴り飛ばす』という『操作』ととらえれば、簡単に形になった。
というわけで、以下が俺の念能力。
『二番手の拳』
思い信じて打撃すれば、いかなるものでも打撃力を受ける。
・対象を宣言しなければいけない。
・宣言した対象以外には影響を与えられない。
・打撃する物体を見ていなければならない。
・この念以外には念能力を持てない。
最後の制約、驚いたろう。
正直どうしようかと思ったんだけどな。
この能力の元ネタの「僕」は、これしか特殊能力なかったわけだし。
思い切って、能力強化のために、ばっさりと他の可能性を切り捨ててみました。
そうするとグンッと跳ね上がったね、一気に。
結構、元ネタに近づいたかも。
死ぬ気でやれば、時間すらも殴れそうなぐらい。
ちなみに、この制約はクロロ対策も兼ねてる。
この念奪ったら他の念が使えなくなると知れば、諦めてくれるでしょう。
…そのとき殺されないかは別問題だけど。
で、試験までの期間。
師匠の元に居座って、オーラ量の底上げと、念能力を使いこなす訓練をしていました。
とはいえ、大したことをするわけではない。
長時間の纏と、日常を怠惰に過ごすだけだ。
「おい、弟子」
「なんでしょうか、師匠」
「暑い。
どうにかしろ」
「わかりました。
どうにかします」
師匠に正対して、拳を構える。
『二番手の拳』発動。
「暑さ――」
――を『殴る』。
飛ばした拳に確かな手ごたえが返り、同時に師匠の周囲の大気から「暑さ」が散った。
宣言をしたことで、俺の拳は「暑さ」以外に威力を発揮せず、空気に押し返される。
しかし、だからこそ拳の威力は「暑さ」にのみ収束し、比類なき効力を発現。
「暑さ」を彼方へと飛ばしてみせた。
空気から「暑さ」が減ったので、気温が下がる。
師匠に言ったとおり、どうにかしてみせた。
「うむ、少し涼しすぎるが、及第点だ。
よくやった、弟子」
「ありがとうございます、師匠」
師匠はそのまま、ごろりと横になって本を取り出した。
下は芝生、それなりに気持ちがいいだろう。
俺は纏を続けたまま、洗濯物を干す。
最近やっと3時間に到達した。
こうして成果のわかりやすい修行ってのは、結構楽しい。
到達度と目標が見えるのは、励みになる。
「おい、弟子」
「なんでしょうか、師匠」
「暗い。
なんとかしろ」
「わかりました。
なんとかします」
ふむ。
ちょうど太陽が向こうの木の陰に入ったせいで、こちらに影ができてしまった。
しばらくすれば、目が慣れるか、影が移動すると思うが。
これも修行のうちだ。
サクサクやりましょう。
とはいえ、どうしたもんか。
太陽を『殴る』のは論外。
TOKYOならできそうだが――いや、返り討ちにあうか。
影を『殴る』のはこの前やったからつまらんし。
なら、今度は逆に、
「光――」
――を『殴る』。
手前の空間に通ってる「光」を叩き、師匠の前へと飛ばす。
先ほど「暑さ」で成功したので、テンションが絶好調だ。
いつもより力のノリがいい。
飛ばされた「光」は、狙いどおり師匠の手元に収束し、
そして炸裂した。
「ぐぁ!」
「へ?」
超指向性フラッシュグレネードのごとき効果。
どうやら、失敗してしまったらしい。
念能力の発動自体は大成功だったが、強弱緩急をつけるのが今の目標。
力を入れすぎ、手加減を誤ったから失敗だ。
いや、そんなことを考えてる場合じゃない…!
「おい、弟子!!」
「な、なんでしょうか師匠」
「腹が立った!
どうにかしろ!!」
「できません。
ごめんなさい。
ちょっとした失敗です。
許してください」
「ならん!
そこへなおれ!!」
「勘弁してつかぁさいー」
「逃げるな!
待てぇ!!」
10分後に捕まってしばかれました。
目が見えなくても円で捕捉できるから念能力者って嫌いだ。
「…」
そんな風景から一年後。
めし処ゴハン。
「ステーキ定食、弱火でじっくり」
「あいよ。
奥へどうぞ」
やってきましたハンター試験。
偽装エレベータで地下に到達。
番号札を受け取る。
352番。
…よく覚えてないけど、原作キャラとはかぶってない、はず。
入り口に立っていても邪魔なので、とりあえず人の少ないスペースに移動する。
すると、小柄な男が近づいてきた。
「君、新人だろ?」
「ええ。
あなたもですか?」
「俺かい?
いやいや、俺はベテランだよ。
今年で35回目になる」
「へ~、それはなんというか…」
身長、髪型、顔のつくり、無精ひげ。
うん、間違いなくトンパだな。
「お近づきの印に、ジュース飲むかい?」
「あ、ありがとうございます」
ふふふ。
念能力を習得したとき、ぜひ使いたいと思った場面、ついに到来!
「水筒とか持ってきてないんで、とてもありがたいです。
あとで頂きますね」
「そうかい。
喜んでいただけてなによりだよ。
じゃ、俺は他のやつにもジュース配りに行くから」
手を振って見送り、離れたことを確認。
周囲を見て、人のいないほうへ移動。
ジュースの缶を片手に持ち、念能力発動。
『二番手の拳』
右に拳を握り、対象を宣言する――
「下剤成分」
そして一撃!
鈍い音とともに、缶に拳が突き刺さる。
が、音に反して缶は微塵も変形していない。
代わりに、缶から何かがこぼれてきた。
下剤成分だろう。
俺はこぼれたものを振り払うと、缶の封をあけ、
「――ん、ふつうにおいしいな」
飲み干した。
下剤が入ってたことを除けば、案外よかった。
口当たりも悪くないし、味もそれなりにいい。
トンパ、これを売れば普通に生計たてられるんじゃないか?
いや待てよ。
そもそもトンパがハンター試験以外でなにしてるかって全く不明だよな。
下剤入り缶ジュースとかダースで用意できてるから、なんかコネとかありそうだとはおもってたけど。
ひょっとして飲食物製造業だったりするのか?
ToNPaジュース、とか。
自前の工場でハンター試験用の下剤ジュース製造か。
うーむ。
気になる。
ま、いいか。
このジュースが元々おいしいってことは確かなんだし。
「トンパさ~ん、ジュースまだ余ってます?」
ちょっと驚かれたが、3缶ゲット。
なにやら陰のある笑みを見せられたましたが。
こちらも含みのある笑みを返しておいたのでトントン。