闘技場。ここ自由都市シェルダンスで今一番熱気を放つ場所の中心で、この日を最も待ちわびていた彼女は叫んだ。
「ふふん、カトレアよ!今日こそ決着を付けてくれようぞ!そして大陸一の武器屋が誰であるのか、水晶球を通じて大陸中に知らせてやるとしよう!むはははは!」
威勢よくユーミルが吼えるが、その闘志をぶつけられた当のカトレアはにこにこと涼しい顔をしている。
「お母さん、やっぱり恐い…。」
「あらあら、大丈夫よ。お母さんが勝ってみせるわ。」
「ぬうう、こっちの言うことを無視しおって。その余裕もそこまでじゃぞ。
いくぞ!鋼鉄姫ユーミル!」
「武器屋カトレア。」
「試合、開始!」
「バトルアックスを喰らうがいい!」
大の大人が3人がかりでやっと持ち上げることが出来るほどの重量の戦斧を、ユーミルはこともなげに振り回し、叩きつける。
「あらあら、そんな単純な攻撃、当たらないわよ。」
それを「巨人殺し」で、涼しい顔して受け止めるカトレア。そのまま力比べの体勢に移行する。
「ぐぬぬ、相変わらずの馬鹿力。しかぁし!」
ユーミルは魔法のガントレットの力を解放する。その後押しによって若干パワーバランスはユーミルのほうに傾いた。
「ほっ。」
圧されると見るや、カトレアはすぐに力比べから、相手の力をいなすほうに切り替えた。横に力を逃がされてユーミルはつんのめる。
「のわぁったっと!と!」
「それっ!」
よろけたユーミルの背中にカトレアはジャベリンの一撃をお見舞いするが、がしゃん!という音を立てて弾かれてしまう。
「まったく、頑丈な服よね。」
「ふふん、ミソチル鋼のこのドレス、壊せるものなら壊してみせよ!」
ぶん!とユーミルは得意の足払いをかける。小柄なユーミルの足払いは大きな選手ほど防ぎにくい。
「えい!」
それをカトレアは地面に突き立てたジャベリンで止め、巨人殺しを振り上げた。
「その手は読んでおるわ!」
ユーミルはバトルアックスから手を離し、カトレアに向かって突っ込む。巨人殺しのリーチは長いが、懐に飛び込まれた相手に対しては有効打を与えられない。
ユーミルはガントレットの填められた腕をぶんぶん振り回し、殴りかかる。カトレアは一旦巨人殺しから手を離し、クロスアームブロックでその殴打を止める。ラナが小さく「ひっ」と悲鳴を上げるが、カトレアはラナを安心させようと、にっこりと笑ったままの表情を変えない。
「いったぁーい…やるわねユーミル。」
が、余裕とはいかないようだ。
一瞬の攻防のあと、二人は距離をとるが、互いに自分の武器が遠い位置にある。
二人の視線が一瞬交錯し、カトレアは自分の足元に落ちていたバトルアックスを拾い、ユーミルは自分の前に突き立っていたジャベリンを引き抜く。
「ちょっと物足りんナマクラじゃが、贅沢は言ってられんの。」
ジャベリンをぶんぶんと振って、ユーミルは文句を垂れる。
「まぁ、ご挨拶ね。うん、さすが。大陸一を自称するだけある出来だわ。」
バトルアックスを手に持って構え、カトレアのほうは相手を褒める。
素直に褒められて、ユーミルはちょっとむず痒い。
「そう言われると、褒めなんだわしが狭量に見えてしまうではないか!ふん!わかっているとも!おぬしの武器が逸品と呼ばれるに足ることはな!じゃからこそ負けられん!」
武器屋としての意地をかけてユーミルは闘志を燃やす。巨人殺しを大上段に構え、力任せに斬撃を放った。
「だからいつも言っているじゃないの。うちは量販店。貴方のところはブランドだって。争わずに両立できるはずよ?」
斧の刃を横に立てて受け止め、カトレアが返す。
「だからこそ序列が必要なのじゃ!鋼鉄山商会として、シェアは明け渡さんぞ!」
今度はカトレアが斧の柄でユーミルの右脇腹を狙うが、ガントレットにより止められる。
「ホンットに聞く耳持たないわね。いいわ、物分りの悪い子は、お仕置きが必要ね!」
両手で構えたジャベリンとバトルアックスの柄が、それぞれの中央部分でがしっとぶつかり、再び力比べの形になった。
「わしはお主より年上じゃ!小娘がわしにお仕置きなぞ、十年早いわ!」
ラナを腰にしがみつかせたまま後ろに飛びずさると、次で終わらせる、とばかりにカトレアの筋肉が盛り上がっていく。ユーミルもガントレットを最大まで開放した。
「せやぁああ!」
カトレアの裂帛の気合を込めた上段の一撃。大木すら縦に真っ二つになると思われるその攻撃を、ユーミルは受け止めた、が――
ばきぃいん!
と、音を立ててジャベリンが砕け散り、ユーミルはふっ飛ばされた。すっ転がったユーミルが起き上がるより早くカトレアはもう一振り残った武器である巨人殺しを拾い上げる。
「勝負あり、ね♪」
ユーミルは悔しがるが、無手ではどうにも出来ない。
「ぐぎぎぎぎ……ふん!お主の武器が軟弱じゃからじゃ!
それに引き換えさすがわしのバトルアックス。まるで傷ついておらんのう!はっはっは!」
負け惜しみを垂れるユーミルのその様子に、カトレアはさすがに呆れた。
「はあ。そこまでいけばご立派ね。…ジャベリンが無くなっちゃったのはちょっと痛いかしら。」
「勝者、カトレア!」
「わー、すごい。カトレアさんやっぱり強いね。」
「カトレアが勝ったか。ま、ユーミルには悪いけど、順当なところだよな。」
「うむ。大陸四強の名を名乗るのだ。この程度で躓いてもらっては困る。」
メローナたちが借り切っている宿の部屋の一つで、今日メローナ達を訪ねてきたアレインとノワと共に、メローナは水晶球放送でシェルダンスの試合中継を観ていた。
「そういえば、今回こっちに来たのは二人だけなのか?他のみんなは?」
ふと気になってメローナが訊ねると、ノワがため息交じりに応えた。
「うん…それなんだけどね。ノワたち、もう逃げ回る必要がなくなったんだ。」
「何?」
「私から話そう。…エルフの森から要請があったのだ。戻ってきてはくれないかとな。」
アレインの語るところによると、あの後、マザー・エルダー殺しの下手人は暫くの間やはりアレインとみなされていたらしく、何度か追っ手も来たらしい。
しかし、後になってみると、あの時期の偽マザー・エルダーの行動はおかしかったし、永年忠実にエルフの森に仕え続けていたアレインが裏切る理由も無い。
加えて、心当たることは無いかと長老たちがドライアドに交信を試みた結果、森の片隅にマザー・エルダーの死体が埋められたことを教えられたらしいのだ。
「それで戦士長の容疑は晴れて、戻れそうになったんだけど、」
そこまで聞いてメローナは次の言葉の予想がついた。
「ノワの容疑と追放は解かなかったんだな?」
「それでなくとも、もう森に戻る気はないがな。…今は、ワイルドエルフの集落と交流を持ちながら、見聞を広めている。我らで新たな一族を作る意思に変わりはない。」
「…あー、そうだよな!うん、もう戻ることなんかねえよ。こっちでみんなで幸せになるんだもんな!」
重くなりかけた空気を払拭しようと、メローナはアレインとノワの首を抱いて引き寄せる。
「う、うん!えへへー。」
「ああ、そうだ。幸せにしてもらうぞ。」
「おーい、ノワー?わりいんだけど、ちょっとお使い行ってきてくれない?」
ドアを開けてニクスが顔を出す。「すいません。」と、手が使えないためにお使いを任せることになってしまったいろはも頭を下げる。
「あ、はーい!」
元気よく飛び出していったノワを「やれやれ」と見送って、アレインは唐突にメローナへ向かって切り出した。
「さて、メローナ。一つ訊きたいことがあるのだが?」
メローナはぎくりとする。
「私のところの部下だが…何人か抱いたな?」
「いや、まあ、その。」
額に冷や汗を浮かべ、落ち着き無くあちこちへ目を逸らす。先日レイナたちにそれでお仕置きを喰らったばかりなのである。カトレアも怒っていた気がする。
「先に言っておくが、私は別に怒っているわけではないぞ。」
「えっ?」
意外な言葉にメローナはすっとんきょうな声を上げる。
「彼女らにも我らが一族を増やしてもらわねばならないからな。その意味でお前が協力してくれるならそれは助かる。信頼できぬ血を入れたくはないからな。」
「そ、そうか。」
ほっと胸を撫で下ろす。
「しかしそれはそれとして。」
再度どきっとする。一旦安心した分強く。
「一応、自分の好いた男に、影でこそこそされるのは愉快な気分であるとは言えない。」
アレインの笑顔が恐い。
「ははは、いや、それは…えい。」
メローナは誤魔化すように人間男に分化し、アレインを引き寄せる。
「こら、何を…むっ、ふむん。」
とりあえず口を塞ぐ。
「ぷはっ。おい、メローナ、こんな誤魔化し方は、男らしく…」
アレインがそれ以上言う前に、メローナはアレインをベッドに押し倒し、上着の留め合わせを外す。
「こ、こら、やめ…どっ、どこを触っている!」
気付いたら下着代わりの葉っぱをぺりぺりと剥がされていた。
「こうやって口を塞ぐように身体を重ねられても、私は嬉しくないぞ!」
「いや、でも、本当に抱きたかったし。久しぶりに会ったら、ずいぶん綺麗になってるんだもんな。」
「なっ!?」
ぼん、と音がしそうな勢いでアレインが顔を赤らめる。
「そ、そんなことを言われても私は誤魔化されないぞ。」
つん、と横を向くが、長い耳の先端まで真っ赤になっているのがバレバレである。
「アレイン。」
その耳元で囁くように名前を呼びながら、胸をまさぐる。
「や、やめ、あぁン…」
メローナがその先っぽを探り当てると、そこは既に硬く屹立していた。
「んん~?何だかんだ言って、もう気分が盛り上がってるみたいじゃないか。」
メローナが下卑た声でいやらしく戯言を言うと、アレインはいやいやと身体をくねらせる。
「ああん、そんな、違う、これは、違うんだ、そんなつもりなんかない、あぁん、」
唐突に自分の乳房に感じた得体の知れない感覚にアレインが自分の胸に視線を向けると、乳房を愛撫する両手の指が5本ではきかないほどたくさん―いや、指ですらなかった。
「ひぃ、はふゥ、な、なんだそれは。」
「んー、舌。」
両手の指の股から、何本もの舌が生えていた。それらがグネグネと、白い乳房の上をナメクジのように這いずり回り、乳肉の中にその身をめり込ませ、胸の先に実る乳首を舐め上げ、押し込み、蛇のように巻きついて締め上げる。
「あひィィィ!そ、そんな、こんなのって」
未知の感覚に蹂躙されるまま、アレインは声を上げる。乳首の勃起が先程までの比ではない。舌だけでなく五本の指も容赦なく両の乳房を揉みあげていく。
「ふぁああ!ヒ、いひぃぃぃ!や、やめてぇ、も、もう、おかしくなる…」
その言葉を聞き入れてくれたのか、左の手と舌がてらてらと唾液に濡れるアレインの右乳を開放する。アレインはほっと息をつくと、次の瞬間、自分の認識が甘かったことを思い知った。
「は、あぐゥゥゥン!」
一旦離れた左手が、アレインの股間にあてがわれたのである。当然その指が、舌が、アレインの陰唇を、陰核を、膣を、肛門までをも容赦なく陵辱し始めた。さっきまでとは比較にもならない快感にアレインは背骨を仰け反らせ、下唇を噛み締めた。
「おお、すごい音がするじゃないか。」
ずちゅるずぞ、ちゅぶ、ぶちゃ、べちぃ、しゅぶっ、ぴちゃあ…と、アレインの股座からたしかにすごい音がする。何本もの舌が粘液の多い場所で縦横無尽に暴れまわっていればそれも当然だろう。
「いやぁ、い、言わないでくれぇ。」
しかし経験に乏しいアレインにはそんなことはわからない。たしかにこの音はありえない、あまりにはしたなさ過ぎると羞恥に身悶えする。
「アレインは、いやらしいなぁ。」
調子に乗ってメローナは言葉攻めを開始する。
「ああ、そんなこと、きひぃ!言わないでぇ、ひあああん!」
膣壁をふるふると震わせ、アレインは一度軽く達してしまう。
「おやぁ?もう、イってしまったのかな?アレインは本当にスケベだなぁ。」
いやらしく言葉をかけられるたびに、アレインの身体はびく、びく、と痙攣する。お堅い女性ほど自分を貶めるようになじられることに性的に興奮するという俗説があるが、アレインにも当てはまったようである。
力が抜けてしまったアレインを抱え上げると、父親が娘を膝に乗せるような体勢でメローナは胡坐をかいてアレインを背後から抱く。
「はひぃ、め、メローナ。お願いだ、少し休ませてくれないか、ふぅああ!」
そんな言葉に耳を貸さず、メローナは右手を股間に、左手を左胸に沿えて、ギターを弾くような構えで愛撫を始める。
「くふぅ、はふ、はひぃ、い、いい、いい!」
淫らなギターが悲鳴のような音を奏でる。頭を仰け反らせたアレインの長い耳をメローナが優しく甘噛みすると、さらにその音が甲高くなった。
体の力がすっかり抜けてしまったアレインだったが、不意に自分の尻たぶの間を擦り上げるように蠢いているものの存在に気付いて、びくりと硬直する。
それに気付いたメローナは、その自らの男根でアレインのしっとりと汗ばんだお尻の谷間を往復させて驚かせてみせた。
「ひゃっ!メローナ、そ、それが、その、この前、私に入った…」
「おう。今日もお前の中に入るぞ。」
この間の初体験のことを思い出したのか、アレインがほう、と甘い吐息をつく。
「それじゃあ、今日は前回の応用の復習をしよう。」
「お、応用!?というと、この前した―」
アレインは前回の記憶を探る。普通に抱かれた後、確か―
「ひっ!」
アレインの腰が飛び上がった。自分の尻を蹂躙する凶悪なモノの本数がいきなり2本に増えたのである。さらにそれが硬度は保ったままうねうねと蠢いて、股座をまさぐり始めたのだ。
戦場にあっては何も臆するところのない彼女だが、未だ女性として経験値のない身で、しかもこんな異常な行為をその身に受けるとあっては、牝としての本能的な恐怖を逃れることは出来なかった。
「ひぃぃ、やだ、やだぁ、やめてぇ、…はぐっ!んぐぐぅぅっ…」
鰻の如くいやらしく蠢く男根が、アレインの膣と菊座を陵辱し始めた。
「はぁっ!ふ、ふん、ふはっ、あっ、あっ、あっ、あ…」
両手(と舌)がアレインの両胸を弄ぶ。が、アレインを抱え上げ、ゆするような動きは止まない、と思ったら、メローナの脇腹からさらに腕が二本生えていた。その腕がアレインのお尻を下から支え、ときに撫で回しながら上下に揺さぶりをかけているのである。
「ああんん!メ、メローナ!こっ、この前は、はぁあ!こ、ここまではしなかったぞ!」
「んー、この前は入門編だったからな。どんどんレベルアップして激しくしていくぞ。上達に応じて。」
「そ、そんな、これ以上、どんどん激しくなるなんて、」
「んん?濡れが激しくなったぞ?ひょっとして、どんどんエスカレートしていく、って言うのに期待して興奮したのかな?」
アレインの身体に生じた変化に目ざとく気付いたメローナが指摘する。
「ちっ違う!わ、私は期待などしてはいない!ひィン!」
そう言いながらもう既にアレインは目の焦点が合っていなかった。
「あっ、あっ、あっ、あっあぁ、メ、メローナ、私、わたしは、もう…」
メローナが両乳房の乳首を抓み、捻ると同時に舐め上げる。
「ひゃああン!」
アレインの二つの穴を犯す二本の男根が交互に挿す、抜くを高速で繰り返す。
ずしゅずしゅずしゅずしゅ…
「きゃう、く、ふ、ひ、ひき、い、ひぅ、ぎ、んぎぃぃ!」
アレインが四肢を突っ張らせて痙攣し、絶頂に至ると同時にメローナの男根がアレインに根元まで奥深く入り込み、そこで吐精を開始した。
「はぁああぁあぁあ!?」
直腸を叩き、子宮口から子宮壁を蹂躙しばしゃばしゃと席巻し満たしていくメローナの子種の感触、それがもたらす絶頂の深淵に、アレインは「死ぬ」とまで思った。
「ふ、ふぅうううぅう…」
力を失った自分の性器と肛門の括約筋がべちゃり、とだらしなく男根を吐き出す感触とともに、アレインは気を失った。
「…貴様なぁ。」
メローナに腕枕されながら、アレインは恨みがましい目でメローナを見る。
「いやごめん。反応が面白すぎてつい調子に乗った。」
「全く…まあ、私も幾分か楽しんでいたからまあいいが。…で?気は晴れたか?」
メローナがぴくりと動く。
「心配事があるんだろう?そんな顔をしていた。」
「まいったね。お見通しか…いや、大したことじゃないのかもしれないんだけどさ。魔女を倒したあと、これでもうクイーンズブレイドに専念できると思っていたんだけど、
どうもエキドナはそんな気がまだしないらしい。」
アレインは眉をひそめる。
「そうか。私は、あいつとは短い付き合いではない。ここぞ、というときにエキドナが機知と動物的な勘で窮地を切り抜けてきたのをずっと見ている。そのエキドナがそういうのであれば、やはり、なにかがあると思っていいと思う。」
「だな。正直、俺はあいつに今は母親としての幸せを噛み締めていて欲しいんだけど、結局、自分の予感を確かめに行く役を買って出ていっちまった。本当はクリュンヌの傍を離れたくなかっただろうに。」
アレインは身を起こしてメローナの胸の上に乗り、両手でメローナの頬を挟みこむように触れて、じっとその目を見つめながら語りかける。
「メローナ。私はお前に力を貸す。命を賭けてもだ。エルフの森と我らにはお前にそれだけの借りがある。袂を分かったからといってあのときの恩が消えるわけではない。
お前には決して裏切らぬ剣が一振り、地獄まで付き従うことを忘れるな。これは意気に通じた一人の戦士としての言葉であり、お前の言葉一つで喜んで羅刹にでも娼婦にでも身を堕とす一人の女としての言葉だ。」
メローナはそっとアレインを抱き寄せ、口付けた。
「…戦士長。メローナさん。ノワも、ずっと一緒に行きます。みんなを守るのは、ノワの役目だから。」
ドアの向こうで、ノワも決意を固めていた。
そして翌日。本戦生き残りをかけてノワとアレインが激突する。残りの試合数から考えて、恐らくこれが決勝トーナメント前の最後の試合となるだろう。
勝ち残った者にとっては。
「アレイン選手。準備をお願いいたします。」
「わかった。」
アナウンスに応え、コロッセオ備え付けの転移装置に入る。
先に転移していたノワは、アレインが登場すると嬉しさを隠し切れない表情で声をかけた。
「戦士長!あたし、とっても嬉しいです!この大舞台で戦士長と強さを競うことができるなんて!」
「逸るな、ノワ。訓練のときは実践の心構えで。実戦のときは訓練の心構えでと教えた筈だぞ。どこで対峙しようと、いつも通りの私とお前の訓練の時と何ら変わらぬと心得ろ。」
「はいっ!」
注意するアレインも、されるノワもどちらも微笑んでいた。ノワは満面の笑みで、アレインは必死に厳格な顔を作ろうとしているという違いはあったが。
「では…戦闘教官アレイン。」
「森の番人ノワ!」
「試合、開始!」
「やーっ!」
開始直後、ノワはいきなり跳ぶ。
「むやみに跳んではその後の動きの臨機応変さを失う、30点だぞ!」
「へへーん!」
迎撃の構えをとるアレインの目の前で、ノワはまるで杖を支点に逆立ちするように戦杖を地面に突き立てた。
「む?」
急激に空中での軌道を変えたノワの動きを一瞬計りかね、アレインの対応が遅れる。
「それっ!」
ノワはアレインの脳天を狙って浴びせ蹴りを両脚で放つ。が、
「むん!」
戦杖を横に掲げ持ち、蹴りを両方とも受け止める。弾かれたノワは空中でクルリと回って着地する。
「初めて見る攻撃だが、たった今考えたという技ではないな?隠れて訓練していたか。
己が味方、師匠にも己の全容を曝さぬその姿勢、80点だ。」
「えへへー、まだまだありますよ!今日はノワの全てを戦士長にぶつけるつもりですから!」
「それは楽しみだ。」
アレインの下段薙ぎ払いを同じ動作でノワは受ける。アレインがそのまま戦杖をくるりと反転させると、首筋を強打するかと思われたその攻撃をルーが体毛を硬化させて、がちん!と止める。
「ありがと、ルー!」
(やはりルーのあの防御力、厄介だな。まずはルーをノワから引き剥がすことを考えなければならんか。)
「それっ!」
バックステップから戦杖を頭上で何度も高速回転させる動作に移り、ノワが強襲してくる。アレインはそれを正面から迎え撃てると判断し迎撃の構えをとったが、直後のノワの行動に意表を突かれた。
戦杖の一端にルーが飛び乗ったのである。全身をカチコチの針鼠のようにしたルーが杖に掴まったままアレインの眼前に迫る。
「くっ!」
アレインが杖を受けると同時に、その先端からルーがアレインの杖に飛び乗り、右手を杖に拘束して巻きついた。
戦杖の利点は、持つ位置を自在に変えることでそのリーチを変更したり持ち手同士の距離を縮めて扱うことで小さな手の動きで先端部を大きく早く動かしたり、逆に持ち手同士の距離を空けて扱うことで梃子のように作用点に対して大きな力を働かせることが出来ることなどを状況により使い分けることが出来る所にある。
持ち手の位置を固定されてしまうことはそれらの利点を封じられてしまうに等しく、自然、攻撃手段が限られてしまうことになる。ましてアレインは右利きである。
ノワがにっと笑う。膂力、技術、戦術、において大きく相手に劣る自分が勝機を見出すには、スピードと、相手にはないルーという味方を上手く使うしかないと思っての作戦である。
「どうです、戦士長!」
ここが攻め時と見て、ノワは怒涛の勢いで攻め立てる。構えの自由が利かないアレインは防戦にまわることになってしまう。が、慌てず機を待つ。
「自分の武器となる点を活かし、相手に実力を発揮させぬように立ち回る作戦は見事。しかし!」
右からの攻撃を、右手と曲げた右足の外側で支えた戦杖で受けると、左手で取り出しておいたボーラをノワに向かって投げる。
「わっ、わわっ!」
ノワの両方の二の腕にボーラが巻きつき、腕の自由を奪われたノワに蹴りを放つ。
「キー!!」
思わずルーはアレインの腕の拘束を解き、ノワの防御にまわる。体毛を硬化させて杖を受け止めた。
「わっ!だめ、ルー!」
しかしもう遅い。アレインの反撃が始まった。本来の攻撃スタイルを取り戻したアレインの攻めにノワはたちまち防戦一方となる。
「うわぁ、っとと!ダメ、このままじゃ負けちゃう!」
「どうしたノワ!私がお前に教えたのは戦術、戦略だけではなかったはずだぞ!追い詰められたときにこそ己の基本に立ち帰るべし、この言葉を忘れたか!」
その言葉にノワははっと目を見開く。
「そうでした。…戦士長!戦士長に鍛えられた技と力をを、あたしの今の全てを、戦士長にぶつけます!」
(何よりもまず己を知ること!しかる後に敵を知ること!腕力ではあたしは戦士長に敵わない。スピードならほんの少しだけこちらが上!戦士長のようにボーラを扱うことはできないけど、あたしにはルーがいる!付け入る隙があるとしたら、まずは手数で相手にプレッシャーをかける!後手に回れば、戦士長は次の攻防で後の先をとってくるはず。その一撃をルーに防いでもらえれば!)
必死に考えをまとめながらノワはアレインに連撃を打ち込む。互いの型を知っているために見てからの反応が充分にきく。そのために有効打は出ない。
カッ!
ノワの、下から逆手に掬い上げる攻撃を受けたアレインの戦杖が少し持ち上がる。それを見たノワはルーに「次の攻撃を受けて」と目配せし、アレインの攻撃を誘うべく大きく振りかぶったが―
気付いたときには体が飛んでいた。ルーが硬化しきる直前にルーごとふっ飛ぶ神速の突きを喰らった、と理解したときにはもう意識が落ちるところだった。
(なぁんだ。戦士長の本気のスピードって、まだまだあたしよりもはるかにすごいところにあったんだ。やだなあ、手の内を隠してたのって、そりゃノワだけじゃないに決まってるよねえ。うん、でも、戦士長にちょっと本気を出させるくらいには、強くなれたかな―)
「勝者、アレイン!」
「強くなったな、ノワ。だがまだ、私はお前に守ってもらうわけにはいかんぞ。師匠としてはな。」
仰向けにのびたノワを優しく抱き上げ、アレインは顔をほころばせた。
「向こうの決着は付いたみたいだよ。」
「ど、どちらが勝たれたのですか?」
エキドナがアレインたちの決着を告げると、隣に座っていたメルファが落ち着き無く試合場とエキドナの手元の水晶球の間で視線を行ったり来たりさせる。
こちらは、シェルダンス。
ガイノスでのアレイン対ノワに続く本日のもう一つの大一番、リスティ対メナスの一戦がたった今始まろうとしていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「リスティさん。わたくし、一度あなたとは本気で戦ってみたかったんです。」
口元だけの笑みを浮かべながらメナスが指の関節を鳴らす。
「へえ。実はあたしもさ。アマラでのメローナとのプレオーダーを見たときからね。」
メナスから放たれるプレッシャーを正面から受けつつ、こきっこきっとリスティが首を鳴らす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
「セトラ、やめなさい。」
ゴゴゴゴという音がピタっと止まる。
「なんでえ。盛り上げてやろうとしてるのに。」
リスティがコケる。
「セトラの演出だったのかよ!」
「レイナさんとの第一ラウンドのときも言ったじゃあありませんか。妙な迫力を出す必要はありませんって。」
「しかも前にもやったのか。」
「それから、前もって言っておきますけど、この試合、わたくし一人で戦います。」
メナスのその言葉にリスティは驚く。
「おい、お嬢。今までのは負けても構わんプレオーダーや、本戦でも雑魚相手だったが、リスティ嬢ちゃんが相手なら…」
「わたくしの覚悟です。」
迷いなくメナスは言い切る。
「メナス。その言葉、手抜きや油断とはとらない。あんたの心意気に応えるために本気でやらせてもらうよ。」
リスティとメナスの間で一瞬火花が散った。
「望むところですわ。」
「しょうがねぇな。お嬢、気を付けろよ。」
そろそろ開始前時間一杯である。
「荒野の義賊、リスティ!」
「クイーンズブレイドをお楽しみの皆様、本戦をご覧になった後は、魔法盤や彫像などはいかがでしょうか。ご入用の際には是非土産物屋ハンスをおよびください。」
がくっとまたリスティがこける。
「結局そっちはやるんだな。まあいい!勝負!」
「試合、開始!」
「いくぜぇっ!」
リスティのダウンスイング。それをメナスがかわすと、リスティのメイス「鉄の恋人」が地面にめり込む。
「大振りすぎですわ!」
リスティの右前に突っ込むように避けたため、リスティはメナスの攻撃に対しシールドで防ぐことが出来ない。
「スコーピオンキック!」
フラミンゴのように片脚立ちになった構えから、蹴りの脚がメナスの背中から飛び出す。喉元を狙って繰り出されたその爪先をリスティはとっさに額で防御したが、衝撃で頭がふらふらする。
「ぬあっ!」
振り下ろされていた鉄の恋人を持ち上げ、振り回す。が、苦し紛れのその攻撃をメナスは余裕を持ってかわす。
「足元がお留守ですわ!」
メナスはリスティの足を狙いスライディングをかける。そのままテコの原理でリスティをうつぶせに倒すと、関節を極めにかかった。
「これでとどめですわ!」
一方的な内容で試合は決まったかに見えたが、
「ふんぎぎぎぐがっ!」
歯を食いしばりつつ気声を上げ、リスティは力で強引にメナスを蹴り剥がした。
「なんですって!?」
極められた関節をこんな力技で返されるとは思っていなかったメナスはそのまま地面に叩きつけられた。
「げふっ!」
慌てて転がって距離を取る。
脚の具合を確かめるように1,2回だん、だんと足を踏みしめ、メナスを見下ろしながらリスティは挑発した。
「へ、へっ。たいしたことねぇな。」
「言ってくれますわね!」
メナスにもさしたるダメージはなく、立ち上がる。
「おらぁ!」
再び距離を詰めてリスティは今度は横薙ぎに攻撃してきた。
「ふん!」
メナスはブリッジでそれを避け、
「はっ!」
そのまま倒立するように変則的なサマーソルトキックを放つ。
リスティはそれをかわすが、ほんの少しだけよけそこなってしまったために、メナスの脚が顎先をかすめ、かえって脳を大きく揺らされてしまった。
「ぐぅっ!?」
メナスはその隙を逃さない。
「呪いの包帯縛り!」
メナスの両腕に巻き付いていた包帯がほどけ、リスティの四肢を拘束していく。
「し、しまった…」
「一気に決めさせていただきます!」
メナスの両拳が、暗い紫色の揺らめく炎のようなオーラを纏う。呪いのパンチである。
「はぁああああああっ!」
どかっ!どかっ!
メナスの拳がリスティの身体に叩き込まれていく。そのたびにリスティの体に力が入らなくなっていく。
(打撃だけじゃねえ。呪いが体からどんどん力を奪っていく。抵抗する力が出せねえ。
ちくしょう、ここまでなのかよ…)
脳天、眉間、鼻の下、顎、喉、鳩尾を打ち抜かれる。
だがしかし、下腹部を殴られそうになったとき、
(―!!!)
突如、なぜかリスティの内から、力が湧きあがる。
「ぐおおっ!」
大熊をも拘束する呪いの包帯を引きちぎり、メナスの拳を受け止め、掴む。
「なっ!?なんですって!?」
バーサーク。身体の限界を超えて怪力を出す、リスティの持つ狂戦士としての資質を目覚めさせる特殊能力。
「そこだけは殴らせねぇ。」
そのままメナスの体を抱きしめ、胸、腰でメナスの身体を固定し背中にまわした腕で締め上げる。
「くっ!は、剥がせない!?」
さらに身体を傾けて、体重をかけたさば折りの体勢に移る。
「がぁあああ……」
こうなってはメナスに逃れる術はない。そのまま泡を吹き、気絶した。
「そこまで!勝者、リスティ!」
「お嬢!大丈夫か!やるなあ、リスティ。まさか格闘技でお嬢を降すたぁな。」
メナスに駆け寄るセトラを見やる余裕もなく、背を向けてリスティはアリーナから退出していった。
控え室に着いた途端、
「うぐ、げぇぇぇ!」
リスティは胃の中のものをぶちまけた。
――間違い、ない。
リスティは彼女の今の状態を、理屈でなく本能で正しく理解していた。
「母は強し、ってやつか。カトレア、あんたの強さ、わかった気がするよ。」
己の内に暖かな実感と力が湧いてくるのを感じながら、リスティは自分のお腹を優しく抱きしめた。
「次は多分、決勝トーナメント。多くて、アルドラまで入れてあと四戦か。ごめんな。もう少し、お母さんにつきあってくれな。」
一挙に3戦。大変でした。けど、やっぱバトルは楽しい。
今回、アイリ達は出番なしです。次がアイリ対メルファ、ナナエル対マレーネとなります。