ブリタニアと言う国の中で生きながら、私はブリタニアに興味を持てなかった。
ブリタニアは完成された素材。
完成していると言う事は、同時に変わりばえがないと言う事だ。
いくら国の頂点が言葉で進化を唱えたところで、大多数の国民は今のままに与えられた平穏を甘受してしまっている。
ならば、それは進化ではなく停滞だろう。
そんなものを撮って何が楽しい?
私は周りの同業者達のように、日々を生きる糧を得る為だけに、この仕事を選んだ訳ではない。
例え主義者と謗られようとも、時代の動きをこそ、カメラの中に捉えたかった。
だが、そんな『動き』はどこを探しても存在しない。
変革を良しとしない完成した強さをブリタニアは誇ってしまっていた。
その事実に絶望しながらも取り巻く現状は変わらずに。
いつしか他の同業者と同じく、ただ稼ぎの為だけにカメラを手に取る自分に苛立つ日々。
諦めがあったのだ。ブリタニアがある限り、と。
―――だからこそ。
ゼロ。そう名乗る仮面の人物が、初めて大衆の前に姿を現した時、私は震えた。
新たな時代の象徴が、人の形を象ってカメラの先に在る。
人が持つ混沌と、それにより撒き起こる時代の変革こそを映像の中に映し出したい。そう渇望し報道の仕事に道を見い出しながらも、長く巡って来なかったそのチャンス。
とうとう、そんなチャンスにありつけるかも知れないと予感させたゼロだけが、その時から私の唯一の被写体となった。
それからの私の行動は、全て彼が起こす活動を中心に据えてのものとなる。
ゼロが関与していたであろうシンジュク事変の洗い直しから始まり、オレンジ疑惑他、ゼロが現れてから活発になったトウキョウ近辺での反ブリタニア活動への、出来得る限りの徹底した調査。
起きた事件にゼロの影が見てとれるものは、それこそどんなものでもだ。
幸いにも、そのゼロにより軍内部での地位を弱めたジェレミアと言う男が流してくれる情報のお陰もあり、僅かずつではあるがゼロと言う人物の輪郭が形を持ってきている。
今もこうして、先日サイタマに現れたと言うゼロの行動を―――なんだ、これは?
ジェレミアから提供された情報の一部を見て、我が目を疑う。
『ギルフォード卿がゼロの仕掛けた罠に嵌まり重態』。これは流石だ。
帝国の先槍との名声も高い彼の騎士に痛手を負わせる等、並の戦略家ができる芸当ではない。やはりゼロは素晴らしき素材と、興味を強める。
しかし問題は、『ゼロは生身でありながら、純血派のKMF5機と交戦の末、苦もなく撤退』と言う一文や、その後に続く『その際ゼロが使用した武器は、イレブンに古く伝わるニンジャと呼ばれる者達が用いるクナイという得物であり、ゼロの正体は生き残ったニンジャの末裔であると推測される』と言う文。
ニンジャ、だと?あまりにナンセンスだ。
この情報を信じるなら、私が今までに構築した『ゼロは頭で戦うタイプの人間』、『彼が垣間見せる主義主張から、必ずしもイレブンであるとは考えにくい』と言う推論が根底から覆されしまう。
大体、どんな体術を極めようとも、人が現行最強の兵器KMF―――しかも複数と渡り合うなど、馬鹿げているにも程があり過ぎるだろう。
もし真実とするなら確かにカオスの極みではあるが、あまりに奇を衒い過ぎていて私の求めるカオスとは大分に趣旨が異なる。
…ジェレミアめ。サイタマでのギルフォード救出で、完全なる閑職を免れたからと安心したのではないだろうな。
ゼロの正体を暴く利害関係を破棄する為に、こんな突拍子もない情報で私をおちょくっているのか?
とにかく、ヤツのお陰で、再びゼロの人物像が欠片も解らなくなってしまった。
考えをまとめ直したくとも、これからすぐに河口湖に中継に出向かなければならんし…。
くそ!忌々しい!
おのれ、ジェレミアめ!!
色欲のルルーシュ Return07『黒 の 既視感』
サイタマ・ゲットー生還後数日間1ページ目
やり直してから初めて夢を見た。
内容は、俺がナナリーと、…ナナリーと!
くぅ、思い返しただけで鼻血が!!
残念だったのはお互いにこれでもかと触れ合い、愛を(男女的な意味で)囁き合って、さぁ、いざベッドに!と言うところで、C.C.とシャーリーに起こされてしまった事だ。
何故そんな狙い澄ましたかの様に邪魔を!?と憤ろうとしたのだが、「ナナちゃんの名前を呼んで魘されていたから…」と心配そうに言われてしまえば黙るしかない。
本心としては、それは魘されていたんじゃなく息を荒げていただけだ。と反論したくもあったが、「前回のナナリーとの事をまだ気に病んでいるんだな」とか悲しげに言われてしまっては、その勘違いを正す事は出来なかった。
まぁ、あのまま夢が続けば夢精は確実だったし、ある意味では起こして貰って助かったのかも知れない。
しかし、我ながらどういう性欲をしているんだ?
昨夜もC.C.とシャーリーを抱いたと言うのに、夢の中までとは…。
いや、ナナ欲(ナナリーに対する欲求)は、俺の根幹に根差す四大目の欲求だし、性欲として括るのが間違いか。
さて、自身で納得がいった事だし、少し早いが起きてナナリーとの朝食に備えるとしよう。
先日の作戦の諸々の後始末が難航し、ここのところストレスが溜まっていたが、今朝はナナリーが夢に出てきてくれたお陰で気分も良好。
このままの調子で一日を乗り切るとしようか。
そう思いベッドから降りれば、これもまた久々に腰に痛みが走る。
くっ、咲世子を加えた4Pより、咲世子が抜けた3Pの方が体に負担を感じる事からしても、房中術の偉大さが身に染みてわかるな。
サイタマ・ゲットー生還後数日間2ページ目
ナナリーと朝食。
なんか当然の様にC.C.が混ざってピザを食べるようになっていたが、ナナリーが気にした様子もないのでスルーする。
本音を言えば、俺とC.C.の関係を勘繰ったり、少し位は嫉妬してくれたりして欲しかったが、それも追々と言う事で。
今朝あんな夢を見た事から考えて、俺自身で思っているより余程ナナ欲が溜まっているようだし、その状態で嫉妬なんて可愛い事をされれば理性を保つ自信もない。
今はこれで良しとするべきだろうな。
それに正直、C.C.がナナリーの話相手となってくれるのは有り難い。
前回、俺とナナリーは良くも悪くもお互いを大事にし過ぎた。
俺はナナリー大事さに知らず肝心のナナリーの気持ちを見失い、自分のエゴの押し付けがナナリーにとって最善の未来と疑う事なく突き進んでしまった。
ナナリーも、そんな俺の愛情に縛られた事で形作られた、ナナリーの中の『お兄様』と言う偶像を捨てきれず、後に知った本来の俺との齟齬に苦悩した結果、溜まった鬱屈を支えきれず断罪の刃を手に取るしかなかった。
思い返せば、俺達はお互いを盲目的なまでに想い遣る故に、お互いの事が真に見えていなかったのだと思う。
過ぎた後悔ではあるものの、俺がもっとナナリーの気持ちに耳を傾けていれば、もしくはナナリーがもっと本心を吐露できる様な関係を築けていれば、と。そんな想いは、やり直した今も胸の内に苦くある。
―――だからこそ、C.C.の明け透けで傲岸不遜な態度は、無意識に『手のかからない妹』で在ろうとするナナリーに良い影響を与えてくれるのではないか?そんな期待があるのだ。
もちろん、俺とてC.C.に任せるだけでなく、同じ轍を踏まぬよう関係改善の努力を怠ってはいないが………。
C.C.とナナリーが会話する様子を見てそんな事を考えていると、不意にテーブルの下から「ニャー」と鳴く声。
見れば今回我が家の家畜にして、ナナリーの愛猫となったアーサーがコチラを見つめている。
あぁ、お前もお腹が空いたのか。
フフ、アーサーよ。
ナナリーのお前へのあまりな溺愛ぶりに嫉妬し、こんな事になるのなら最初に萌えた勢いでお前を飼う許可など出すのではなかった!と、そう考えていた時期が俺にもあった。
加えて言うなら、学園でまでナナリーにベッタリなお前の排除すら考えた程だ。
だが今は違う!
ナナリーへ近付こうとするスザクに対するお前のディフェンスは、高く評価しているとも!
朝飯だろうと何だろうと、出来る限り優遇してやろうじゃないかッ!
守護神とか二つ名をくれてやっても良いくらいのアーサーに、望み通りに食事を与えてやる。
アーサーがナナリーの飼い猫になった事で、再び猫祭りも開催するみたいだし、色々と愉しみだ。
そう色々と。
しかし、そう考えるとなんかアーサーのヤツ、咲世子並に良い仕事してる気が…。
もう、崇め奉っても構わないんじゃないか、あの猫?
あ、そうだ、咲世子。C.C.に強請られたからと言って、朝っぱらからピザなど用意してやらなくて良い。甘やかすな。
ピザ女もブーイングするんじゃない!大体お前、今回は既にチーズ君二つも持ってるだろうがッ!食い過ぎなんだよ!
サイタマ・ゲットー生還後数日間3ページ目
通学。
サイタマでの作戦の後は、これといって何かがない限り咲世子に頼らず学園に出向いている。
作戦後初の通学時、影武者をして貰っている時の報告は受けてはいたし、シャーリーというストッパーもいたとは言え、咲世子なら何かやらかしていてもおかしくはないと危ぶんだりもした。
が、それは杞憂だったようだ。
何かあったとしても微々たるもので、多少女生徒受けが良くなったくらい。
前の時の様に、滅茶苦茶な数の女とデートの約束みたいな事態になっていないのならば充分に恩の字だろう。
むしろ、咲世子が影武者をしてくれていた間でニーナの好感度などはかなり上がっていて、髪型がインヴォーグ時代の彼女に近いものになっていた時はとても驚いた。
俺も前回より随分とニーナと会話するようにしていたにも関わらず、中々どうして頑なだったニーナをよくぞここまでと、感心した程だ。
その成果が、咲世子の手練手管の為なのか、レズ疑惑のあったニーナが本能的に俺の影武者が女だと悟ったからなのかは、疑問が残るとは言え、ニーナにフラグを建てておけば、執拗にユフィを崇拝する事もないだろうから一安心ではある。
こうして、間に影武者を挟んでも順調に見える学園生活ではあるのだが、一つだけ問題があった。
それは作戦後から俺の抱えているストレスの一つ。
何かと言えば、作戦後にと決意したミレイへの告白を未だ実行に移せぬ事で。
告白を決めた前日、影武者咲世子がニーナと仲の良いミレイにも上々の好感触だった、そう報告を聞いて俺はほくそ笑んだ。
お膳立てはばっちりだ、と。
だが、喜び勇んで告白を決行しようとしたところで、最大の障害を失念していた事に気付いたのだ。
障害の名をシャーリー。
何せクラスが同じで、生徒会も同じ。おまけに夜も大抵一緒となれば、彼女の目を掻い潜ってミレイに接触を図るのは難しい。
シャーリーとて、俺の思惑に気付いて監視している訳ではない。只いつも通りに俺の傍にいるだけだ。
だから、彼女が部活の時などは当然俺達は別行動。
しかし、そんな時に限り今度はミレイが見つからない。
何か見えない意志が働くかの如く、ミレイと二人きりになれない状況に俺は焦った。
ミレイと関係を結んだ後でなら、シャーリーに認めて貰う事は、どうにか可能だとは思う。
けれど、告白したいんですけど良いですか?とは、絶対に訊けない。
訊いてはならぬ!と、俺にも僅かある野生の勘が告げるのだ。
次はピザでは済まないのだ、と。
故に、勘の告げるに従い、シャーリーに承諾を求めるのはミレイと結ばれた後にして、どうにかシャーリーのいない間に。と機会を狙う内にズルズルと数日が経ってしまい…。
―――思い悩む内に、結局今日も今日とてチャンスのないままに学園が終わってしまう。
折角ルーベンから許可を貰っておいてこれでは、と歯痒く思いもするが、この後にはもう一つの問題であるヴィレッタへの対処にも時間を割かねばならないのだ。
黒の騎士団を旗揚げする日も近づいているし、不本意ではあるがミレイへの告白は後日に回すしかないのかも知れない。
………グスッ。
サイタマ・ゲットー生還後数日間4ページ目
サイタマで抱え込んでしまった爆弾、もとい純血派所属の騎士候、ヴィレッタ・ヌゥを捕らえ隠蔽するのに使用したのは、学園の地下。
いっそクロヴィスと同じように遠方に拘置してしまおうかとも考えたのだが、この女は侮れないと前回で学習済み。
ならば、近くに置いて早期の懐柔をと目論んで、何日が経過しただろう?
ヴィレッタをこちらに引き込むにあたり、俺はこれまで様々な手でアプローチを行ってきた。
この女の、異常なまでに高い地位への執着から、反逆を成した後の待遇の保障を約束。
今あるブリタニア崩壊までの道筋を、なるべく真実味を感じる様に説くところから始まり、このままこちらへの協力を誓わぬのなら命を失うと言う脅しも当然行わせて貰ったし、ブリタニア軍にお前がゼロの協力者との情報を流した、と言う虚偽を吹き込む事で心を挫こうともした。
が、どれも不発。
それなりにブリタニア軍人としての心構えはあるのだろう。
口先だけでいくら捩じ伏せようとしても、首を横に振るばかり。
それどころか、最近では俺が肉体的な責め苦を行う気がないと理解したのだろう。
まして、命を奪うなど、と笑みを浮かべる余裕まで持たせてしまう始末。
性的に屈伏させてしまうのも一つの手段ではあるが、噛み千切られそうで怖、ではなく、それは最後の手段としておきたいし。
行き詰まり、C.C.達にも相談もしたのだが、それも碌な助力には成り得なかった。
C.C.は「これ食わせてみろ。アタレばどうにかはなるぞ」とか言って、C茸なるものを差し出して来たが、ビームだったり、巨大化だったりしては困るので却下。
シャーリーにはひたすら想いの力を力説されたものの、一方通行にも程がある関係では何をすれば良いかもわからず却下。
咲世子に至っては「こうですね一思いに、キュッ!と…」などと手で首を捻る動作で殺害を仄めかされて、震えながら却下した。
………万策尽きたかもしれない。
今朝ナナリーの夢を見た時は、ミレイか、ヴィレッタ、どちらかの事態に進展があると予感したんだが、それは楽観だったか。
憂鬱ではあるが、さぁ今日はどうヴィレッタを説得しよう、と考える。
俺の経歴を明かしたところで、あの女が皇族への忠義などで純血派にいる訳がないのだ。意味もない。ハァ…。
溜め息を吐き、ヴィレッタを拘束している部屋へと入る。
薄暗い部屋の中、そこにはいつもと同じく、C.C.と咲世子によってあらゆる角度から頭と首筋にチョップを入れられて涙目のヴィレッタが………って、は?
いかん、我知らず相当にストレスを感じているらしい。
その所為で有り得ない幻覚が。ズビシッ!とかバシッ!とか、幻聴まで聴こえて―――とか、言ってる場合か!?
オイ!お前たち二人して何をしているんだ!?ヴィレッタが泣くとかそうは無いぞ!
おい、チョップ入れる角度とか悩んでないでいいから質問に答えろ!!
サイタマ・ゲットー生還後数日間5ページ目
一つ理解った。コイツら馬鹿だ。
いや、コイツら、と言うのは、天然故の付き合いの良さを発揮しているだけの咲世子に失礼だったな。
訂正する。C.C.は馬鹿だ。
拘束され動けないヴィレッタに、延々とチョップを入れ続ける。
そんな悪質なイジメにしか見えない事を至極真面目な顔で行っている二人を止めて、俺は事態の説明を要求した。
すると「ふふん、お前が手間取っているようだから私が助けてやろうと思ってな」とか、偉そうに前置きして語られたC.C.の行動理由に絶句させられる。
ひたすらチョップを入れるその理由。
そんなものあるとは思えないが、それを無理にでも要約すればこうだ。
『ギアスで記憶を失わせるとかがもう出来ないのなら、他の方法で記憶を奪えばいい』
もうなんと言うかアレだ。
このポンコツ女は、やり直すに際し脳の回線の何本かを断線させたに違いない。
もちろん俺は止めた。
有り得ない。そもそも何故チョップなんだ、と。
それに答えてC.C.曰く「この女、前も記憶喪失になったんだろう?だが記憶を失うなんて人間そうはないんだ。それが起こると言うことは、その人間自体に記憶を喪失する切っ掛けの様なスイッチがある筈。そこを上手く刺激してやればだな…」だそうで。
聞いて、二の句を継ぐ事が出来ぬ俺を放置し、またも咲世子と共にヴィレッタへチョップの嵐を見舞いだす。
………本当にダメだ、この魔女。と言うか、この光景。
なんか書き記す気力も起きないので、ここから少し音声だけで楽しんでくれ。
「こうか?」
ビシッ!
「痛ッ!」
「いえ、こうではないでしょうか?」
ドビシッ!
「うぁっ!」
「おぉ!今のは中々…。なら私は、ここをこう!」
ズドッ!!
「―――ッ!!も、もう止めてぇ」
これはヴィレッタでなくても泣くだろう?
ん?ヴィレッタがこちらに向かって何か言っているな。
何?「お前も見ていないで、この女とゼロを止めてくれ!」って?
あぁ、そう言えばこの間ゼロの衣装な咲世子を見てから、ずっと咲世子がゼロだと思っているんだったな、ヴィレッタは。
まぁ、その勘違いを正してやる必要もないが。
………なんて考えている内に、業を煮やしたC.C.の「えぇい、これならッ!」なんて掛け声と共に放たれた見た目にも威力満点のチョップにより、ヴィレッタの意識は刈り取られた。可哀想に…。
「ふぅ、恐らくこれで次に目を覚ました時には記憶喪失なってるんじゃないか?」とか、如何にもやり遂げた感を出してC.C.が言ってくるが、そんな事があって堪るか!
咲世子も「お見事でした」とか、このバカが調子づくから煽てるんじゃない!
もういい!後は俺がやるからお前たちは部屋から出ろッ!
「後も何も、もう解決したじゃないか」とか、だから有り得ないと言っているだろうが!
さぁ、早く部屋を出るんだ!
サイタマ・ゲットー生還後数日間6ページ目
―――結果から言う。有り得た。
非常に遺憾ではあるが、ヴィレッタは本当に記憶喪失になってしまった。
そうとわかり愕然とする俺を見つめるヴィレッタの瞳には、怯えが色濃く見て取れる。
演技とは思えないし、どうやら真実記憶を失ったと見て間違いないだろう。
後ろでは退室させた筈のC.C.が「ほら見ろ」とか言っているが、俺はと言えば今までのヴィレッタに対する説得を全て無駄にされたような気がして、心の整理が出来ない。
得意気なC.C.にも思うところはあるが、それより何より、あんな方法で記憶を失うヤツもどうかと思う。
壊れ掛けたテレビじゃないんだからだな、もっとこう…。
いや、止めよう。
大事なのは、起こってしまった事に悩む事ではなく、そこからどうするかだ。
だが記憶喪失か。
なんからの拍子に記憶が戻ってしまうとも限らないのだから、問題を先送りにしただけの気もする。
………そうだな。ヴィレッタの記憶が戻った時、なるべく早くの対処が出来た方が良い。
メイドとして咲世子の監視下に置いて雇うとするか。
名前もこのままじゃマズイから、―――前回、扇はなんと名付けていたか?
確か、ち、ち……さ。ちぐ、さ?あぁ、そうだ、千草だった。
変に拘って名付けても仕様がないし、千草と名乗って貰うとしようか。
自分が記憶喪失である事に狼狽し、「わ、私はいったい…」などと混乱しているヴィレ、千草を宥め透かし、落ち着いたところで多分に虚偽を交えた説明をする。
そうして、こちらが用意した千草としてのこれから立ち位置を、彼女が戸惑いながらも受け入れてくれたのを確認し、俺は彼女の拘束を解いてやった。
しかし、「よ、よろしくお願いします」とか頭を下げる千草を見ていると、とてもあのヴィレッタと同一人物とは思えない。
案外、こちらが本質だったりするんだろうか?
産まれたての仔鹿を思わせるオドオドした態度は、俺の嗜虐しn―――ではなく、擁護欲を駆り立てるものがある。
良し!何はともあれ一件落着だな。
完全な解決とは言えないが、騎士団創設の準備に忙しくなる前に、物思いの種が一つ減った事には変わらないのだ。喜ぶべきだろう。
これからは、千草が記憶を取り戻す前に、どれだけ彼女を絆する事が出来るかの勝負となったのだし、なんとかしてみせるさ。
まだ混乱の抜けきっていない千草を咲世子に預け、さぁ俺も部屋を出よう、としたところでC.C.に袖を引かれる。
ん?なんだC.C.?…お前への礼?
む、多少納得はいかないが、そうだな。感謝している。
何?「態度で示せ」だと?あのな、俺はこれから騎士団の創設に向けて色々と………、わかった。わかったから頬を膨らませるとか子供染みた不貞腐れ方をするな!
とりあえず、ここじゃアレだしベッドがある部屋に行くぞ、C.C.。
黒の騎士団創設宣言日1ページ目
騎士団のアジトとするべく道楽貴族へギアスを使用して譲り受けたトレーラー。
千草がランペルージ家の使用人とし働く様になってから、早くも数日が経過した。
その間、千草の意外な家事能力に驚かされたり、「なんでメイドなの!?」とシャーリーに詰問されたりと、細かには色々あったが、それは些事なので省かせて貰う。
まぁ、ヤる事をヤりつつも騎士団の創設準備へと精を出し、サクラダイト生産国会議が行われる日、―――即ち、日本解放戦線によるホテルジャックの行われる日までに、なんとか創設の目処をたてる事ができた。
現在、車内の内装に驚嘆する扇達を下の階に残し、ゼロの私室とした二階部屋で、間もなく解放戦線の声明が出されるであろう河口湖からのテレビ中継へと注目している。
今回のホテルジャックを利用する形で行う作戦の目的は大きく三つ。
一つは当然、人質を救出後、電波ジャックにより黒の騎士団の創設とその行動理念を国内外に知らしめる事。
これは以前と同じく滞りなく運べるだろう。
前回、河口湖への観光に向かった為に人質となってしまったミレイ達も、シャーリーが日程をずらす事で、その心配は無くなっているし。
それによって、ニーナとユフィのファーストコンタクトも回避できるから、ニーナ狂化の可能性も減らせて言うことはない。
二つ目は、俺個人としては最も重要な事、ユフィとの接触だ。
彼女もワイアードであるのだから、なんらかの形でホテルジャックを未然に止めようとするかとも思ったが、それはなかった。
その事から考えるに、つまりは彼女も、ホテルに人質として囚われる事で、ゼロである俺との接触を望んでいるという事。
これは非常に有り難い。
俺もやり直している事を告げ、ユフィがスザクの毒牙にかかる前に、再び手を取り合う為の邂逅をいち早く叶える舞台が整えられる。
そして三つ目。
日本解放戦線の人間を一人、ギアスをかけて従わせる事だ。
後に控えるナリタでの戦闘を円滑に進める為にも、解放戦線のトップ、片瀬とのパイプを作っておきたい。
その為には、出来るだけ解放戦線での地位が高いヤツを見繕う必要がある。
一番適任なのは、今回の事件の首謀者でもある草壁中佐なのだが、あの男には、ホテルジャックの責任を負って貰わねばならないので除外。
そうなると、次点は草壁の副官あたりか。
上手くギアスをかける事が出来れば良いが………。
そうして作戦の流れを予測していると、誰かが部屋に入ってきた。って、カレンか。
なんだ、人質が心配か?今回は画面に映る人質達の中に顔見知りがいる訳でもないだろうに、優しいな。
そうそう、やり直した今回、前回との差異として扇達の心象が良い事を挙げたが、それはカレンも例外でなかった。
それが決定的となったのが、前回のサイタマに置いて何処からか洩れた『ゼロは生身でKMFと互角』説を耳にした時かららしく、「スゴいんですねッ!」とか、以前より早期に敬語で感心されて驚いたのは記憶に新しい。
流石は肉体派のカレンと言うべきか。
指揮官として少数の手駒でブリタニア軍と渡り合う知略より、個人でKMFと互角に戦える体術を有している人物の方が敬意の対象らしい。
瞳をキラキラさせて話し掛けてきたカレンに、いや、その時中身違ったから。とはとても言えずに、そのままズルズルと。
本当の事を語れなかった所為で、「稽古つけてくれませんか?」と誘われた時などはとてつもなく焦った。
何せ、迂濶に相手すれば死に繋がりかねない。
相手をしない理由として、一度全力戦闘を行うとその後、肉体的負荷から約一ヶ月は身体能力が常人以下になる。などと、トランザムな言い訳をしてしまった時は、ドコの小学生だ!と酷く自分を罵ったものだ。
………信じる方もどうかとは思うがな。
まぁ、カレンに好意を持たれるのは悪い事じゃないし、いつナニがあっても構わぬ様にこの私室にもベッドを完備した。
フフフ、夢が拡がるな。
代わりに学園でのルルーシュとしては、女誑しとして以前よりも距離を置かれているが、それも少しずつ挽回していけば良い。
ん?また誰か入って来たな。
…扇か。なんの用だ?って、あぁ、団員服か!
フッ。良いだろう、それ?
これから我々が立ち上げる組織の一員たる証だ。
女性の団員服は、ブリタニアに対抗して前回より露出度跳ね上げようとしたんだが、生憎シャーリーの反対にあって断念せざるを得なかった。
それだけが心残りではあるが、カッコ良い事に変わりはない!さぁ、喜ぶがいい!
何?「確かに格好良いとは思うんだけど、俺達レジスタンスだし」だと?
違うな。間違っているぞ扇!
私達は、レジスタンスなんかじゃあない!
私達が目指すもの。そう。それは、―――性技の、…失礼した。正義の味方だッ!!
ククク。
と言う訳で早速、河口湖まで正義を行いに行こうじゃないか!
因みに、結局未だ達成出来ていないミレイへの告白も、記憶喪失になってから魅力を増した千草へのアプローチも、黒の騎士団創設後に改めて!と、決意し直している。
もちろん今回は死亡フラグ回避の為にも、表立って宣言はしていないが………。
黒の騎士団創設宣言日1ページ目
ギアスで河口湖付近に駐留している中継車を一台拝借し、その屋根に立ってやって来たのは、人質が囚われているホテル周囲に敷かれたブリタニア軍による検問前。
ゼロ出現の報に辺りがざわめく中、目の前に立ち塞がったのは、当然今回もコーネリア義姉上。
とは言え、やはりサイタマで負傷したらしいギルフォードは不在。
ダールトンだけを付き従え、二機のグロースターで行く手を阻む。
「貴様がゼロか?」と、グロースターの操縦席から身を乗り出して、此方に銃口を向けてくる義姉上に隣のダールトンが、「いけません姫様!ヤツの前に生身を晒すなどッ…」と偉く焦っているのが滑稽だ。
大丈夫だよ、ダールトン。自慢じゃないが俺は生身でなら大抵のヤツに負ける自信がある。とは、もちろん言わず、しばし義姉上を観察。
うむ、やはり俺はもう少し薄化粧の方が義姉上の美貌は映えると、って、そうじゃないだろ、俺。
ゴホン。と咳払いして仕切り直し、義姉上に此処を通して貰う為の会話を始めようとしたところで、被っている仮面から銃弾を弾くような音が………って、なんだと!?う、撃ってきた!?
その事実に驚き見れば、「よくもギルフォードを!」と憎々しげな表情の義姉上が持つ銃からは、硝煙が立ち上っていて、「随分頑丈な仮面だな」とか面白くなさそうに吐き捨てている。
―――あ、危なかった。仮面に防弾性能つけてなかったら、ここで死んでいたじゃないか!
ま、待てコーネリア!「仮面以外を狙えば…」とか、冗談じゃないぞ!
ちょっ、銃を構え直さないで話を聞け!え?「命乞いか?」って、まぁ、そう言えなくも―――違う!えーと、アレ?………そ、そうだ!ユフィだ!
ユーフェミアの名前を出すと、向けられる銃口が僅かに揺れる。チャンス!
そこからは必死になって、救けてみせる私なら!と言って聞かせた。
でなきゃ、死ぬ。もう予期せず始まった死のカウントダウンに膝とかガクガクだったが、俺はととも頑張った。
その努力が通じたのか、なんとか検問を通過できたのだが、義姉上があんなにキレるとは。
今度ギルフォードと出会したら、もう少し手加減してやらないと駄目だな、これは。
続く日本解放戦線の防衛戦もパスし、ホテル内に招き入れられながら、俺はそんな事を思っていた。
黒の騎士団創設宣言日3ページ目
コーネリア義姉上の対応が前回と異なった事に嫌な予感を覚え、ホテルに入ってからも何かと警戒していたが、どうにか前回通り事が進んだ事に安堵する。
扇やカレン達には、予定通り爆弾の設置に向かって貰ったし、激昂して襲い掛かってきた草壁達も前回通りギアスで処理した。
作戦目的の一つである草壁の副官にギアスをかけるのも、割とすんなりといった。
後は、この部屋に連行されてくるであろうユフィを待つだけだ。
そう思った直後、部屋の外から入室の許可を求める声が聞こえてくる。
来た。ユフィだ!
とうとう、とうとうこの時が来た!
黒の騎士団創設宣言日4ページ目
Cの世界以来のユフィと会話。
お互いにやり直している事と、これまでの各々の動きを確認し合い、シャーリー達の事、クロヴィス義兄上の生存も伝えたところで、いざ、再会の抱擁を!………とはならなかった。
ルルーシュ、と硬い声で俺を呼ぶユフィの表情は厳しいもので。
あれ?嫌な既視感がするぞ、その顔?
え、なんだいユフィ?「また戦いを始めるつもりなの?」って、決まっているだろう、そんな事。第一、俺が何もしなければ、父上達の計画が遂行されてしまうのは、ユフィだって承知の通りじゃないか。
「他の方法もある筈よ」って、ユフィ。それは理想論だ。
時間的にも、父上に対する勢力を集める為にも、この方法が一番確実なんだよ。
でも人が傷付くって?それこそCの世界で君も知った筈だ。
痛みを伴わない変革なんて、有り得ないのだと。
―――マズイな。どれだけ話そうとも、ユフィは俺を止める事しか頭にないらしく、話は平行線。
なまじ反逆の果てに俺が辿る一つの結末を知ってしまっているだけに、その意志は滅多な事で覆りそうにない。
たが、このままではユフィと決裂しかねない。
それならば、いっそユフィの言う通りに他の方法を―――って、それは駄目だ!
このやり直しでの絶対条件は、ナナリーとの結婚!
それを為すには再び皇帝となり法を改正しなければ、ってあれ?ユフィの目が更に険しくなってないか?
ん?「ルルーシュ、ナナリーと結婚って正気なの?その為に戦うって、そんな…」って、げぇッ!まさか口に出していたのか!?
ど、どうする俺!?二度とユフィにギアスはかけないと誓っているし、ここは口先で誤魔化すしか…「答えて下さい!」って、うん、まぁ、一応そんな感じで…。
ユフィの勢いに圧され、観念して肯定する。
と、返答を受けたユフィは力なくよろめき、床に崩れ落ちた。
そして耳を澄ませば聞こえてくるのは「そんな。なんて、なんて罪深い」と言う呻き声。
って、待て!そもそも俺の禁忌のリミッターを外した張本人である君がそんなにショックを受ける事自体…、む、ユフイ、なんでそんな目で俺を睨む?
何?「ナナリーはあなたと同腹の妹でしょ」って?ふん、そんなのは関係ない。俺はもう覚悟を決めたんだ。
「それは赦されざる道です!」だと?赦しなど要らない!ナナリーと結婚できるならばッ!!
あぁ、言い切ってしまった。
宣言直後に激しく後悔し彼女を見れば、そこには決意を秘めた顔で立ち上がったユフィがいて。
ここに来て漸く、猛烈に嫌な予感がすると同時に、既視感の正体を悟る。
そうだ。この顔はダモクレス決戦前にナナリーがしていた表情と…。
マズイ、マズイ、マズイ!いや今の嘘とか言って通じるだろうか?とにかくこのままでは、「ルルーシュ。いえお義兄様!」―――ッ!は、はい!
「どうしても、その道を征くのですね?」って、う、うん、まぁ、それが我が運命ならば。とか思わなくもない………かな?
いや、でも考え直さなくもない(嘘)からユフィも思いとどm「ならば、私(わたくし)はお義兄様の敵ですッ!!」って、グハッ!心が、ココロが悲鳴を………ッ!
嫌な予感は見事に的中し俺は、胸を抑えて膝をつく。
そんな俺に「私がCの世界で貴方を変えてしまったというなら、その罪は私が断ちます!」とか、欲しくもない追い討ち加える我が愛すべき妹。
心の痛みに耐えながら立ち上がり、その妹にどうにか弁解しようと口を開いたところで、ランスロットによる作戦の成功で、ホテルの倒壊が始まってしまった。
クッ、スザクめ!またもや邪魔を!
ま、待ってくれユフィ!俺は………、え?「貴方がゼロだと言う事をバラすつもりはありません」だと?
ち、違うんだ、ユフィ。俺が言いたいのは、―――って、クソッ!もう本当に時間がない!
ユフィと決裂したままに脱出するしかないと言うのかッ!?
黒の騎士団創設宣言日5ページ目
『撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだッ!!』
ユフィと決裂したままと言っても、俺はゼロなのだ。
強気を通さねば何もかもが破綻する。
そう己を戒めて、黒の騎士団の創設イベントをどうにかやりきった。
その後、人質の解放と、ギアスで支配下においた草壁の副官への言伝てを終えて、撤退。
騎士団員となった扇達に、今後の行動予定を渡し解散、帰路に着く。
―――俺の空元気が続いたのはそこまでだった。
帰宅した俺の憔悴ぶりに心底驚いた様子のC.C.達にも、直ぐには事情を説明する気にはなれずベッドへと身を投げ出す。
胸に穴が空いた様だ。今は何もする気が起こらない。
慰めに身を寄り添わせてくれるC.C.やシャーリーに応える事が出来ないのを申し訳なく思いつつ、その日の俺は泥のような眠りに堕ちていった。
微睡みながらユフィを想う。
あぁ、ユフィ。このままでは君はスザクと。
それは危険だ、許容できない。
こうなれば、やはりスザクを………Zzz…。
色欲のルルーシュ Return07『黒 の 既視感』おわり
あとがき
久々に連休なので少し早めの投稿頑張りました。どうも鈴木です。
前回、受け入れて貰えるのか不安だった咲世子さんの暴走が、意外に大丈夫だったようなので、今回も調子に乗りました。
やらかしてたらすいません。ご指摘は甘んじて受ける所存です。
感想の下さった方、いつもありがとうございます。
咲世子さん笑って貰えてよかったです。人生で初めて忠誠誓って頂けたりもしました。聖天八極式は、もう少し精進を重ねたら名乗るとします。
同時にテスト板の方に感想下さって方へもここでお礼させて頂きます。
さて今回、一時的にユフィと決裂。
あくまでも、スザク君にルルーシュの為に頑張って立ち塞がって貰う為の措置。
神根島あたりで、また動きがあると思いますんで、ご辛抱下さい。
そして、サブタイをパロるのですが、今回が限界っぽい。
次回『リフレイン』とか、どうしろと?
あ、最後に一つ。
エロくないのは仕様です。それで言いと言ってくれた人に勇気を貰い開き直る事にしました。
纏まりが悪いですが今回はこの辺で。では、また。