(30)
キュルケの様子。
私が目を覚ましたのは自分のベッドの中だった。
服も着ている。
誰かが服を着せて運んできてくれたらしい。
才人かしら?
それにしても、あれは何だったの?
快感に、絶頂に、襲われている、殺されかける感触。
甘かった。
自分の認識が甘すぎた。
世の中、これほどすさまじい快感があるとは想像したこともなかった。
タバサには悪いことをしたわ。
彼女の杖をとってしまって。
彼女は無事かしら?
私はタバサの様子を見に行くことにした。
でも、体が動かない……
「フレイム……」
私は自分の使い魔を呼ぶ。
忠実な使い魔はすぐに現れる。
「私をタバサの部屋まで連れて行って……」
私は残った力を全て出して、どうにかベッドの上からフレイムの上に移動する。
フレイムは私を背中に乗せて、タバサの部屋を目指す。
「タバサ?」
私は彼女を呼ぶ。
「なに?」
彼女は頭も動かすことができず、上を向いたまま答えた。
「体は平気?」
だめに決まっている。
「だめ。杖をとられて体の疼きがこの間より酷かった」
私はフレイムをベッドの傍にすすめ、そしてタバサのベッドにあがりこむ。
「ごめん、悪かったわ。あんなにものすごいと思わなかった」
「人の忠告は聞くこと」
「そうね、そうするわ」
「この快感は……絶望を感じる」
「ほんと、そんな感じ………そうなんだけど、それでも終わった後に……」
「もう一回感じたくなる……」
「そう………なのよ。………こわいわ」
「こわい」
そして、部屋に静寂が訪れる。
「ねえ、この間はどの位で動けるようになったの?」
「丸一日」
「……そんなに?」
「そう」
「でも、ご飯も食べられないし、トイレも行けないじゃない」
「才人が面倒を見てくれた」
「そう……才人やルイズは動けるの?」
「気がついたらすぐに動けるらしい」
「ふ~ん……それじゃあ、私達は才人が来るまでここから動けないんだ」
「キュルケはフレイムで移動できる」
「私も才人に面倒見てもらいたいわ。移動するだけじゃ何もできないし……」
「才人は私専用」
「専用って、ルイズの使い魔じゃない」
「ルイズ……ずるい」
「ずるいっていっても……」
キュルケは苦笑する。
「……才人、来たみたい」
「え?何で分かるの?」
「二人の絆」
「ほんとかしら?」
「タバサ、キュルケ、大丈夫か?」
その直後、才人とその後ろにルイズがやってきた。
「………」
絶句するキュルケである。
「二人とも動けなくなってるのね……」
ルイズが二人を見て感想を述べる。
「そうなのよぉ、ルイズ。動けるようになるまで私たちの面倒をみてぇ~」
キュルケが甘い声でルイズに訴える。
「そうね。メイドを呼んでくるわ」
「才人に面倒みてもらいたいんだけど~」
「なんでよ?」
ルイズが怒り気味に質問する。
「虚無魔法の発動で動けなくなった」
タバサが答える。
「……し、仕方ないわね。虚無魔法で動けなくなったときだけよ」
案外、人のいいルイズだ。
夕食はタバサの部屋で迎える。キュルケはベッドに座らされている。タバサは才人の膝の上に抱かれている。なぜかルイズまでタバサの机で食事をとっている。
「どうして、私がベッドであなたが才人の膝の上なのよ?」
キュルケが待遇の差に文句を言っている。
「私の杖をとった……」
「う……」
それを言われると何も言い返せないキュルケである。
「あ~ん……」
タバサは口を開けて才人が食事を入れるのを待っている。才人は冷や汗をかきながらタバサとキュルケの口に食事を運んでいる。
「で、何でルイズまでこの部屋で食べてるんだよ?」
才人がルイズに緊張気味に尋ねる。
「才人が変なことしないように見張っているのよ!」
ルイズは相当かりかりした様子で答える。
「しないよ…………多分……」
前科がある才人の返事は力がない。そして、イライラを募らせているルイズとキュルケ、緊張している才人、幸せそうなタバサの食事は続くのであった。
「ぴと……」
「タバサ!!」
タバサの言動にいちいち反応するルイズであった。