人間という生き物は基本的に鈍感に出来ていると、そんな話をどこかで聞いた事があった。
例えば――「人生、何があるか分からない」という言葉がある。
この言葉を前にして、多くの人はこれを、月並みなフレーズだと感じるのではないだろうか。
退屈で下らないフレーズだ、そんなの今更言われなくても分かっている、と。
でも実際に、自分の身に何か起こると――例えば絶対合格しないと思っていたのに勉強しまくったら受験に受かっていただとか、あるいは、いつものように通勤していたら交通事故にあっただとか――やっぱり人間、普通に驚いて動転してしまう。
人生何が起こるか分からない、生きていれば予測の付かない事態に遭遇する可能性はどこにでも潜んでいると、そう理屈の上では理解した気になっていても、結局、心構えの一つも取れずにいつもあたふたしてしまうのが、人間というモノなのである。
どれほど真実を説いた警句であっても、あちこちでうんざりするほど見聞きすれば、それを退屈と感じて、その価値を軽んじてしまう。
「繰り返し」や「慣れ」は、人の感覚を麻痺させるということだ。
警句の類だけでなく、これは人間の経験そのものにだって当てはまる。
例えば、いけないと思いつつも、夜更かしをすることに、いつの間にか慣れっこになってしまったり。
初めて食べた時は美味しいと感激したレストランのメニューも、2度3度と食べる内に、いつの間にかそこまで感動しなくなってしまったり。
つまるところ、要するに――
「ん……宗也さん、もしかして今、考え事してました?」
「駄目だよ宗也くん? ちゃんと集中してよー」
だから、そんなふたつの声に促され、虚空に向けて放散していた視線を下に戻して――その先にあった光景を目にしても、その絵面を「異常」とはまったく感じなくなってしまっているのは、要するにそういう事だよなー……などと、尾崎宗也は、半ば他人事のように思うのだった。
ふたりのハダカの女の子が並んで跪き、自分の股間のモノを舐めているなんて、常識的に考えて絶対変なシチュエーションだろうに。
本当――つくづく慣れというのは恐ろしいものだ。
彼女たちとこういう関係になった当初は、多少なりとも罪悪感みたいなものを感じていたはずなのだけれど。
「いや……なんていうか、こういう事するのも平気になっちゃったなー最近……とか。ちょっと思っちゃって」
「……そういえばそうですね」
「あはは。宗也くん、初めてのころはすっごいキョドってたのにねー。今じゃ平気で3Pに誘ってくるし?」
「傍目に見たら二股かけてるクズ男だよなぁ」
「ま、いーんじゃない? 世の中の常識なんて。あたしたちはそれが幸せなんだし」
更に言えば、これも最近は慣れっこになってしまったが、宗也と話す女の子ふたりの外見も、そもそも冷静に考えれば大問題な筈なのだ。
大人しい物腰のユウナに、あけっぴろげな印象のシイナ。
性格こそ正反対だし、髪型も、黒髪ロングのユウナと、軽めの色に染めてショートポニーにしているシイナといった感じで、全然異なるものになっているが、よくよくその整った容貌を見てみれば、目鼻立ちそのものはとても良く似通っている事が分かる。
双子なのである。こともあろうに。
更に言語道断なのは、そんなふたりの体型だ。
こちらに関しては文句なしにそっくりで、一応黒子の位置なんかの細かい違いはあるものの、首から上を隠してみれば、ぱっと見比べてみただけでは、見分けを付けるのはかなり難しい。
で、そのプロポーションが、また何と言うべきか。
ざっと目算でも、140cmを越えているとは到底思えない背の低さ。
慎ましい限りの胸の膨らみに、細い手足。
ついでに言うと肌の艶も見た目相応で、剥いたばかりのゆでたまごの様に、張りがあってすべすべつやつや、誰もがうらやむしっとり肌。
要するに、ふたりの見た目、めっちゃ子供なのである。ロリロリ体型なのである。
一応ふたりとも成人している――というか実は驚くべき事に宗也より1歳年上だったりもするのだが、正直全然そういう風に見えないのが困りもの。
実際、一緒に歩いていると「お兄ちゃんと小学生ふたりの、年の離れた3人兄妹」と勘違いされることも結構あったりする。
年齢的には一応法的に問題ないとは言え、そんなレベルで、見た目が完全にチビっこの、双子の女の子と3Pセックスやり三昧。
でもって今も、その前戯として、絶賛ダブルフェラを開催中。
控えめに言ってヤバすぎる。
一方でまあ、性欲というのは本当に節操のないもので。快感自体には、やっぱりたまらないものを感じてもしまうのだけれど。
それに――こういうプレイにも慣れてしまってある程度冷静でいられる分、逆に気付くこともあったりする。
たとえば見た目はそっくりなふたりだが、体質の差か、微妙に体温が違うらしい。宗也の性器に触れる舌の体温が、シイナの方が若干低く、ユウナは僅かばかり熱く感じられる。
更に差が顕著なのが、ふたりのその舌使いだろう。
快感に意識を集中させてみると、物腰が大人しめのユウナの方が、むしろ積極的に宗也の性器を貪っているのがはっきりと分かった。
亀頭をキャンディのようになめ回し、時折鈴口を舌先でつつくような動きを混ぜ込んで。
刺激に飽きさせず、見た目の淫靡さすら考慮したような熱心な口愛撫で宗也の快感を的確に掘り起こしてくれる。
それでいながら、決して射精までは至らないように緩急を調整したりもして。
宗也を興奮させて、セックスしたくてたまらなくなるようにと焦らすような、それは熟練の動きだった。
実際には、性経験自体はシイナの方がよほど豊富なのだけれど――これは技量や才能云々より、ふたりの性格の違いがものを言った結果だろう。
シイナは経験豊富だが、ご奉仕よりもむしろセックスが大好きなのだ。今もどうやら、なかなか挿入してもらえなくて内心かなり焦れているらしく、フェラチオしながらも、もどかしげに太股をすり合わせたりしている。舌使いが若干ぎこちないのは、恐らくそのためもあるのだろう。
片やユウナは、自分の快楽はさておいてでも、宗也に気持ち良くなってもらえること自体が嬉しくて堪らないらしい。
だから、違いこそあれどその魅力に優劣はない。
どっちも魅惑的で、可愛くて、えっちで、そして何より愛おしい。
「……ユウナさん、上手くなったよね、フェラチオ」
「ん、そ、そうですか……?」
「てかさ、あたしよりもご奉仕プレイ好きになってるよね、ユウナって。にひひー、宗也くんの調教のおかげかなー?」
「……もお。意地悪ばっかり言って」
にやにや笑いながらの双子の妹の台詞に、ユウナほんの少し頬を膨らます。
文句を言う代わりに、彼女は宗也の亀頭にキスをしながら、ちゅう、と先走りを吸い上げてきた。
「う、お……っ」
八つ当たり気味に加えられた思わぬ刺激に、少し腰が浮きそうになりながら、宗也はうめき声を漏らさずにはいられない。
本当――ユウナはえっちが上手になった。
初めは男性器を見るのも怖がってた大人しかった子が、自分やシイナとの関係を重ねるとこで、こうして積極的に口でご奉仕するまで淫らになってしまった。
彼女を巻き込んでしまったことに、罪悪感は既にない。
むしろその淫らな言動に、出会った頃よりも、ずっとずっと魅力的になったと感じてしまうのは、やはりこのセックス三昧の日々の中で、どこか感覚が麻痺してしまっているという事なのだろう。
(ほんと、どうしてこうなっちゃったかなあ)
今では残りカスしか残っていない後ろめたさに、内心苦笑しながらそんな韜晦をする程度。
それも本心からのものとは言いがたく、うっとり顔を蕩けさせながら口奉仕を続けるユウナや、姉ほど積極的ではないものの、むしろセックスしたくて溜まらなくなって、宗也の性器を舐めながらもどかしげに腰を揺らめかせるシイナの様子に、むしろ彼としては滾るばかりである。
本当――白々しいにも程がある。
どうしてこうなったも何も、今、3人がこんな事になっているのは、まごうことなく、自分の意思で選択した結果に過ぎないというのに。
そう――今をさかのぼること半年前。
まだ夏が本格的に始まる前、梅雨の季節のあの日に、全ては始まったのだ。
◆◆◆
大学の友人達に言うと、揃って「何言ってんだコイツ」みたいな顔で呆れられるのだが。
そろそろ夏に差し掛かり始めた、この梅雨の時期に降る雨は、尾崎宗也にとってはまさに天の恵みそのものだ。
友人達の言わんとすることも分からないではない。普通の感性で言えば、梅雨時の雨なんて、じめじめするし蒸し暑いしで、うっとうしいだけだと感じる人が大多数だろう。
しかしそれ以上に、山あいの田舎の、かなり涼しい地方の出身である宗也にとって、都会の熱気は少々堪えるものがある。とにかく暑さが苦手な彼の感覚で言えば、湿気より何より、雨によって気温が幾分かでも下がるのがせめてもの救いなのだ。
そういう意味で、少なくても宗也にとっては、今日はかなり過ごしやすい日だった。
朝方は太陽が出ていてうだるような暑さにうめき声がこぼれるばかりだったが、昼を過ぎた辺りから雨が降り始め、大学の授業を終えて夕方近くになってもまだ雨が止む気配はない。
空を覆う雲は真夏の入道雲のように分厚く、晴れの日ならば浴びているだけで火傷しそうになる日差しも、今日に限っては殆ど地表に届いてはいなかった。
傘を差しても殆ど気休めにしかならず、アスファルトで跳ねる雨粒のおかげでズボンはとっくにぐしょぐしょだが、それにも増して頬に触れる涼しい風が心地いい。靴下に雨が染みこむ感覚は確かに気になりはするが、家路を歩く宗也の足取りは、いつもに比べていくぶんか軽やかになっていた。
そもそもの話、尾崎宗一は、雨の日がそこまで嫌いではない。
大学の友人達とわいわい騒ぐのも嫌いではないが、たまに1人でぼんやりしたい時がある。 両親曰く、「必要以上に他人に気を遣ってしまう性格」であるらしいので、もともとの性格からして、どちらかというとぼっち気質なのかも知れない。
そんな彼にとって、たまに1人になりたい時、雨の中というのはうってつけの時間なのだ。
街の喧騒は雨音に覆われてどこか遠く、コンクリートで固められた町並みも分厚い雨粒のベールで薄ぼんやりと隠されて、どことなく非現実的な印象がある。
だからだろうか、特に雨の強い日は、ふとした何かのきっかけで日常から自分1人だけが切り離されてしまったような、そんな感覚を覚えることがある。
逢魔が時。
あの世とこの世の境が曖昧になって、尋常ならざるモノが姿を現す時間。
一般的に逢魔が時というのは黄昏時の事を言うらしいが、昔の人は、今自分が感じているのと同じような感覚を夕闇に見いだしていたのではないだろうかと、そんなことを時々宗也は思うのだった。
してみれば、この雨の中にいる時間こそが、宗也にとっての逢魔が時そのものなのかもしれない。
むろん、そんなのはただの思いつき、単なる妄想にすぎない。
雨の中を歩きながらぼんやりとりとめの考えを弄んでいるだけの話である。
しかし――事実として、宗也はそんな雨の日に、彼女と出会うことになったのだ。
彼のこれからの人生を一変させる、ひとりの女の子と。
「……うん?」
雨の中、1人の時間をかみしめるように、ことさらゆっくり家路を歩いて――でもそんな落ち着く一時も、いつまでも続くわけではない。
そろそろ雲の向こうの太陽が、かすかに夜の気配を帯び始めた時間帯。さて今日の夕飯は何にしようかと、ぼんやり考えながら宗也が自分のアパートの玄関先にたどり着くと、そこでは1人の女の子がしゃがみ込んでいた。
「あ、こんにちわ、お兄さん」
「こんちにわ」
そこに居たのは、良く見知った顔である。
お隣に住んでいる女の子だ。
とはいえ、顔を合わせれば会釈したり二、三おしゃべりをするくらいの関係なので、名前や素性はよく知らない。
ぱっと見の背格好からして、歳はおそらく小学校高学年くらいだろう。
明るめの色合いの髪の毛をショートポニーで纏めた、活発そうな雰囲気が可愛らしい。
見た目通りに明るい性格の子であるらしく、挨拶を交わすだけでも何となく元気づけられるような、そんな気持ちの良い女の子である。
……が、いつも見せてくれている元気な笑顔が、今日ばかりは少し弱々しいものになっていた。
「……どしたの、その格好」
「えへへ、びしょびしょんなっちゃいました」
どうやら、傘を忘れてしまったらしい。
照れくさそうに笑う彼女は彼女の言うとおり、上から下まで全身くまなくずぶ濡れになってしまっていた。
彼女が身につけているのはゆったりした白いシャツに黒のスパッツという涼しげな格好だが、濡れてべったりと肌に張り付いていて、いかにも居心地悪そうな感じである。
「予報、雨だったのに」
「急いで家出たんで、情報チェックするの忘れちゃってたんですよぉ」
すこし呆れた口調になる宗也に、ちょっと拗ねたようなそぶりを見せてくる。
何というか――顔を合わせる時毎度毎度思うのだが、愛らしいと同時に、少し不思議な雰囲気を持つ女の子である。
顔の輪郭自体はまだまだ丸みを帯びているし、体型だって胸も腰も全然で、二次性徴の気配など殆ど見当たらない。ぱっと見で言えば、性的対象として見るのなんてもっての外な見た目をしているはずなのに、何故だか妙な色っぽさがあると感じられてしまうのだ。
何故そう感じるのか、具体的にどこが色っぽいのか、と言われれば、それは正直よく分からないのだけれど。
確かに見た目に反して言葉遣いは妙に落ち着いているというか大人っぽくもあるが、どうにもそれだけではないような気もする。
「……へくちっ」
とは言え、くしゃみをする時のその仕草は、やっぱり見た目相応にあどけなかったりもするのだが。
「……もしかして家、入れない?」
「実は鍵も忘れちゃって。今ユウナを待ってるんです」
てへへへ、と照れくさそうに笑う。
ユウナ、というのは同じ部屋に住んでいる彼女の姉妹の事だろうか。
名前は今日初めて知ったが、こちらも宗也とは顔なじみである。
「えと、そのユウナちゃん? すぐ帰ってくるの?」
「それが、いつになるか分かんなくて。スマホで連絡とっても反応無しで」
「……ありゃりゃ」
少し困ったような顔をしながら、それでも気軽に笑う女の子だが、それはちょっとまずい状況なのではないだろうか。
そろそろ暑くなり始める季節とはいえ、雨のせいで今日は気温は随分低めである。更に言えば、雲の向こうではそろそろ太陽が地平線の向こうに沈み始めているらしく、空は随分と暗くなり始めていた。
このまま待ちぼうけを食らうようなことがあれば、風邪を引いたって不思議じゃない。
「……ええと」
恥ずかしながら、宗也は一瞬、躊躇を覚えてしまったが。
それでも、良く見知った相手でもあるし、見て見ぬ振りをするのも忍びなくて。
「……シャワーくらいなら貸すけど」
だから結局――男の1人住まいに女の子を連れ込むのはどうなのだろう、と若干思いつつも、宗也は濡れ鼠の少女を見かねて、そう声をかけていた。
◆
「あ、そういえばお兄さんの名前、何でしたっけ」
宗也に招かれながら玄関に入ったところで、どうやら少女は、お互いに自己紹介をしていなかったことを今更ながらに思い出したらしい。彼女はいきなりそんなことを尋ねてきた。
「尾崎です。尾崎宗也」
「あたしは、シイナって言います。カタカナでシイナ」
何故か、名字は名乗らなかった。
そういえば部屋の前の表札にも名前を入れていなかったような気がする。
何か事情があったりするのだろうかとほんの少し思う宗也だったが、まあその辺りは気にしてもしょうがない。
「へくちっ」
何より今宗也が気にすべきは、シイナのくしゃみが先程より大きくなっているという事だ。
「……寒くなってきた?」
「うう、かもしれません……」
「ちょっと待っててね。すぐ準備するから」
「はいー…ありがとうございますー……」
鼻の辺りをごしごし擦るシイナに見送られつつ、まずはなにより、シャワーの準備である。
ガスのスイッチを入れて、何となく脱衣所のカゴに放り込んでいた未洗濯の衣類を撤去し、タオル類も使ってないものを用意。
定期的に部屋の掃除をしておいて良かったと今更ながらに思いながら、宗也は「もういいよ」とシイナを風呂場に促した。
「乾燥機、脱衣所の傍にあるから。濡れた服とかはそれ使ってよ。たぶん15分くらいで乾くと思うから」
「はあい。ほんと助かったー ありがと、お兄さん♪」
明るくお礼を言いながら、シイナがぱたぱたと軽い足取りで風呂場に向かって行く。
どうやら服を脱ぐのに手間取ったらしく、「よっ、ほっ、とりゃっ」と、何やら妙におばさんくさいかけ声がしばらくしたあと、シャワーの音が聞こえ始めた。
「………」
何だろうか。
どうにも――何となく、落ち着かない。
普通にシャワーが終わるまで、くつろいで待っていれば良いのだが、何となくそんな気分にもならず。
自分自身も濡れていたズボンをとりあえず新しいのに履き替えた後、どうにも所在ない気持ちになりながら、宗也はリビングダイニングの椅子に腰を下ろした。
妙に据わりの悪い気分に、ため息をついて、頭をかく。
「なんだかなあ」
女の子が、自分の家で服を脱ぎ、シャワーを浴びている。
妙にその事を意識してしまっている自分がいる。
いったい、何だというのだろう。
シイナと同じ年頃の女の子は親戚にだっているし、田舎に帰省した折りには一緒にお風呂に入ることもある。というか今でもそういう事は普通にやっている宗也である。
その時には特に何の感情も抱かないというのに、今日に限ってはどうにも勝手が違う。
親戚じゃなく、単に知り合いという関係だから? 良心が咎めて?
それともシイナは妙に大人っぽいところがあるから、それで彼女を子供だと思えていないところがある?
「………溜まってんのかね、俺」
口に出して言うとますます自分が情けない男のように思えてしまう宗也だった。
そこまで自分は性欲旺盛というわけでもなかったと思うのだが。それこそ恥ずかしい話、いままで女性とそういう経験をした事は、大学生になった今まで、一度もなかったわけだし。
でも友人達に言わせれば、そういうヤツこそむっつりスケベらしい。
そういえば思い返してみれば、風呂の準備をする前後でシイナと二、三言葉を交わした時も、彼女の服の布地が濡れて、あちこちの肌が透けて見えているところに、一瞬ながらも視線が吸い寄せられていた様な気もする。
(………もしかして俺、今まで自覚がなかっただけで、実はロリコ……)
「ああもう、やめよう、やめやめ!」
考えがどんどんドツボに嵌まっていきそうな気がして、宗也は頭の中のもやもやを振り払う為に首を振った。
どうにもいけない。このまま悶々とするのは色々駄目だ。
本当、いったい自分は何を考えてしまっているのか。
お隣さんが雨に濡れて風邪を引きそうだったからシャワーを貸しただけ。宗也がしたのはそれだけのことである。下心も何もない。だから何か間違いが起こるなんてあるわけもない。
何食わぬ顔でシイナがシャワーを終えるのを待って、それで彼女の家族が帰ってきたところで送り届けて一件落着、ミッション終了。それで良いはずなのだ。
何も起こらないのだから、悶々と色々考えても何の意味もありはしない。
そう無理矢理結論づけては見たものの、そんなのやっぱり屁理屈以外の何物でもなく。
ただただ無心に、「早く風呂から出てくれ早く風呂から出てくれ」と心の中で念仏みたいに繰り返すその間、時間の流れがヤケにゆっくりに感じられる宗也だった。
で――永遠にも思えるような長い時間を、リビングの椅子の上で正座で待ち続けた後。
「上がりましたー、お風呂、ありがとうございましたっ」
「あ、ああ……早かったね……――って」
そんな陽気な声がかけられて、命拾いした気分になった宗也は――しかし声のする方に振り返って、そこでシイナがしていた格好に絶句することになったのだった。
「おまっ、ちょ、なんて格好してるの!」
バスタオル一枚、だった。
恐らくその下は何も身につけていない。
てっきり着ていた服を乾かしてまたそれを身につけてくるものだとばかり思っていたのに。
というよりそうしてくれるようにちゃんと乾燥機があることも教えていたのに、なんでよりによってそんな格好をして出てくるのか。
「てか、服! 着てたヤツどうしたの!?」
「あ、えと、えへへ。乾燥機回すの忘れちゃってて。今乾かしてます」
「……おいおいおいおい……」
確かに言われて耳を澄ませてみれば、脱衣場の方から聞き慣れた乾燥機の音が聞こえてきている。
傘や鍵を忘れてしまったことと良い、どうやらしっかりした言葉遣いに似合わず、けっこうおっちょこちょいな性格の子であるらしい。
しかしともあれ、これは困った。目のやり場に困る。
興奮するとかどぎまぎするとかより何より、子供そのものの体つきの女の子が、間近で裸同然の格好をしているというこのシチュエーションには、流石に困惑せざるを得ないというか。
そんなつもりもないのに着替えの瞬間に鉢合わせてしまった、みたいな。なんだかそんな罪悪感がある。
「……ん-?」
でもって――そんな風に挙動不審になっていれば、流石に誰だって違和感に気付くというもので。
自分の方を見ようともしない宗也に、シイナはどうやら何か思い当たるところがあったらしく。彼女は少し不思議そうな表情で彼の顔をしばし見上げたあと、にひ、と妙にいたずらっぽい笑顔を浮かべて――そして何故か、すすす、と、宗也の方にすり寄ってきた。
彼女の浮かべた意味深な笑顔に、ちょっと、怯んでしまう。
「ど、どうしたの?」
けれどここで身を引いてしまえば、かえって怪しまれるような気がして、ぐっと耐える。
努めて何でもない風を装って、白々しく「何か問題あった?」と尋ねてみたりしたものの、返事代わりにシイナが向けて来たのは、何もかも見透かしたような底の知れない笑顔だった。
「さっきから気になってたんだけど……尾崎さん、あたしの身体、ちらちら見てますよね」
「………………ええと」
何もかもバレバレだったらしい。
一瞬、シラを切ろうかと考えてしまった自分が心底情けない。
そんなことしたら、余計に失礼だし不誠実だ。
「……ごめん」
弁解の余地もない。下手に言葉を重ねたところで見苦しくなるだけのような気がして、だから宗也は、ただ一言そう謝ることにした。
が、申し訳なさそうな宗也の表情は、むしろ彼女の想定外だったらしい。
一瞬、意外そうに目を丸くしたあと、彼女はなんだか可笑しそうにケラケラとあっけらかんとした笑い声を上げた。
「あはは、や、別に謝る事じゃないですけどね」
どうやら怒ってはいないらしい。
では一体、何のつもりなのか。
「ね、尾崎さん。この後何か予定とかあります?」
そしていきなり、話の流れを無視して、そんな事を尋ねてくるシイナ。
「よ、予定? 特にないけど……メシ食うくらいしか」
今日は大学の授業でも特に課題も出なかったし、他にやるべき用事もない。
とりあえず正直にそう答えてみたが、意図がつかめず宗也は困惑顔になってしまう。
が、そんな彼の回答は、どうやらシイナのお気に召すものだったらしい。
満足そうに、にかり、と明るい笑顔を浮かべながら、彼女はとんでもない提案を口にしたのだった。
「じゃあ、あたしとイイ事、しませんか?」
「……はい?」
正直、しばらく意味が分からなかった。
なにせ、まるで「ちょっとそのへんを散歩しましょ」くらいの明るいノリで言ってきたものだから。
でも流石に、宗也だって大学生。
諸々の状況などを考えれば、それが何を意図した言葉なのか、思い至らないはずはない。
「ええと……イイ事って……」
それでも改めて尋ねてしまったのは、彼女の口からそんな言葉が出てくるのは、やっぱり信じがたいものがあったからだ。
だって、見た目が見た目なのである。
改めて繰り返すが、普通に、めちゃくちゃお子様なのである。
詳しい年齢は聞いていないので知らないが、どう見たところで小学校は卒業しているように見えないような外見なのである。
だからこそ宗也も、シイナが自分の部屋でバスタオル一枚でうろついてる状況にまず何より罪悪感めいたものを感じてしまっているわけで。
だというのにそんな彼女が、そんな台詞を吐くだなんて――そんなの、信じられるわけがないだろう。
「もちろん、えっちな事です♪」
しかし彼女は、宗也の淡い期待を完全無欠にきっぱりぶった切って、彼の質問にめちゃくちゃ直球の答えを返してくださったのだった。
「いや、いやいやいやいや! 出来るわけないじゃないそんなの!」
流石に慌てて、思わず全力で拒否する宗也。
「ええー、何でですか」
けれどその反応に、ものすごい意外そうな、不満そうな声を上げるシイナ。
「だって、尾崎さん、あたしの身体見てムラムラしちゃったんでしょ? だったらえっちなことしなきゃでしょ」
太陽って東から昇るよね? くらいのノリで、まるで当たり前の理屈を確認するような物言いだった。
「いや、ええ? ええぇぇ……?」
ちょっと何言ってるか意味が分からなすぎる。
もはやどう突っ込んで良いものか分からず、黙り込む宗也をしばらく不思議そうに眺めて――そして、彼女は、いきなり何か気付いた様子でぽむりと手を打ちあわせた。
「……………あ。そっか」
そして、あっけらかんとした表情で彼女がが口にしたのは、宗也にとってはえっちなお誘いよりよほど衝撃的な内容だった。
「大丈夫、あたし、成人してますよ」
……
「はい?」
「や、あたしの事、子供だと思ってるから躊躇ってるのかなーって。こんな見た目ですけど、ハタチ越えてますよ、あたし。お酒飲んでもたばこ吸っても、えっちしても大丈夫な歳です」
言いながらシイナは部屋の隅に置いていた自分の鞄をごそごそして――そして「ほら、これ証拠」と何やら一枚のカードを見せてきた。
一瞬、定期券か何かだと思ったが、違う。
小さな顔写真と何やら長ったらしい番号が記載されたそれは、宗也も良く見知ったものだった。
ざっと目に飛び込んできたのは、こんな文字列である。
『東領大学 文学科
学生番号 17ー03257
塔ノ沢 シイナ』
「……お、同じ大学の先輩……?」
「あ。そうなの? 一年生だったんだ。あはは、もうちょっと年上かと思ってました」
そう、それは、学生証だったのだ。
しかも、宗也が通っているのと同じ大学の。
「ぎ、偽造……?」
「有名でもない大学の学生証なんて偽装してどうするんです」
「飛び級……とか」
「日本で「若いけど優秀だから飛び級ね」ってするの、高校生以下は出来ないらしいですよ」
「………」
信じがたくて黙り込むしかない。
が、どう考えてもこれは本物としか思えなくて。
「で、でもだめですよ。だって、その、シイナさんとはただのお隣さんだし、そういう関係でもないし……」
「あ、あはは。いきなり「さん」付けになるんだ。ちゃん付けで呼ばれるのも可愛くて好きなんですけど」
「年上だと分かったからにはそういうわけにも……」
「あっはは。まじめだなー。じゃああたしも、これからは敬語無しで。名前も宗也くん、って呼ぶね」
なんか「尾崎さん」からいきなり呼び方が馴れ馴れしくなってしまった。
でも、なんだかものすごく楽しそうにそう言われると、拒否するのも申し訳ないような気持ちになってしまう。
「でね、改めて本題」
狼狽える表情を隠せない宗也に、にひひー、と笑いながら、彼女はずいっと再び身体を寄せてきた。
「ね、宗也くん。あたしと、えっちなコトしない?」
「えと……」
「あたし、宗也くんのこと良いな、えっちしたいな、って思ったから誘ってるんだけど。もしかしてイヤだった?」
「嫌……っていうか」
したいしたくないという次元の問題じゃない。
今の今までシイナのことはずっと年下の小学生だと思っていたから、まず何より罪悪感とか理性による忌避感が先に立っていたし、そうでないと分かったと言っても、そもそも自分たちは朝夕に顔を合わせれば挨拶するだけ程度の関係なのだ。
別にあちこち女遊びしているヤリチンでもあるまいし、そんな関係で「えっちしようぜ」と誘われても、そもそもの話としてなんでそんなお誘いが来ているか分からなくって思考停止してしまう。
いやまあ正直、お誘い自体は何というか超ラッキーというか、そういう感覚もなきにしもあらずではあったりもするけれど……
「……と、とりあえずタンマ! 待ってください!」
思わず思考が色香に迷いかけて、すんでの所で踏みとどまる。
身体を至近距離まで接近させての誘惑はちょっと卑怯だ。冷静にものが考えられなくなる。
まずは何より落ち着きたくて、宗也は彼女の肩をぐい、と押して、今にも密着しそうなくらい近づいてきていたシイナの身体を引きはがそうとした。
が、結果的にそれはどうやら、失策だったらしい。
「……ぁ」
「やん、えっち♥」
どうやら、シイナが身体に巻いていたバスタオル、留め方が随分甘かったらしい。
身体を引きはがそうとしたその勢いで、彼女の細くて小さな身体を辛うじて隠していた白い布地は柔らかく解け、ふわりと床に落ちてしまったのだ。
そうなればもう、宗也の視線から、彼女の身体を守るものはもう何もない。
下着も何もない一糸纏わぬ素っ裸が、さらけ出されてしまった。
(……うわ)
シイナのハダカを目の当たりにして、まず何より宗也が思ったのは、「警察に捕まる!」だった。
服の上からでも容易に想像できていたように、彼女の身体は、児ポ法的な意味でもう完全無欠にアウトな代物だ。
あまりくびれていない腰回り、殆ど膨らみを主張していない慎ましさ全振りの胸元、陰毛なんて生える気配を1ミリも感じさせないし、乳首の色すらも殆ど肌色にちかい桃色で、全然大人って言う感じがしない。
これはアカン。これはまずい。
時々一緒にお風呂に入る親戚の子より、よほど子供っぽい体つきではないか。
親戚の子は単にじゃれついてくるだけで、こちらとしても妹みたいなものなので何の意識もすることなくハダカ同士でいられるが、こちらはそうも言ってはいられない。
そんな子供そのもののハダカを晒して、えっちな誘惑なんかされたら、嫌が応にも頭の中の理性が最大限のアラームを鳴らしてしまう。
でも、だと言うのに――
「にひ♪」
シイナは宗也の顔を見て、まるで我が意を得たりと言わんばかりに、悪戯っぽく笑うのだ。「なーんだぁ。宗也くん、あたしの子供ボディでもふつーに興奮してくれてるじゃん」
「………すいません」
「あはは、謝ることないのに。むしろ嬉しいかな♪」
そう。
宗也は興奮してしまっていた。
えっちな目で彼女の身体を見てしまっていた。
親戚の子よりもずっと子供体型なのに、そんな彼女の身体を、ものすごく色っぽいと感じてしまっていた。
もう言い訳なんて出来よう筈もない。
だって、その何よりの証拠に、宗也の股間にあるものが大きくなってズボンの生地を押し上げて、彼女のお腹にちょこんと触れてしまっていたから。
「ね、宗也くん」
だから改めて、宗也にとどめを刺すように。
シイナは勝ち誇った表情で、宗也に身体を寄せて、そして甘い声で囁くのだ。
「おねーさんと、えっちなこと、しよ?」
◆
蛇に睨まれた蛙状態、とでも言うのだろうか。
別段恐怖は感じていないのだが、何やらえもいわれぬ、抗えない圧力のようなものをシイナの視線に感じて、宗也はまともに身動きが取れなくなってしまっていた。
だからやんわりと手の平で胸元を押されただけなのに、それにすら抵抗することも出来ず、背後にあったソファに尻餅をつくようにして座り込んでしまって。
そしてとっさに身を起こす隙すら与えず、彼女は宗也の身体にしなだれかかってきた。
「んふふー♪」
彼女が見せるのは、心底楽しそうな笑顔。
あどけない、子供そのものの愛らしい笑顔なのに、一方で彼女の両手は、酷く手慣れた手つきで宗也の服をてきぱきと脱がしにかかっていた。
シャツのボタンと次々簡単に外していって、その下のランニングをぐいとまくり上げ、宗也の上半身があっさりと露わになる。
「あ、え……ちょ、ちょっと……?」
「ん、ちゅ……」
止める隙もあればこそ。
じっとりした梅雨の熱気で汗ばんだ男の肌に、彼女はイヤな顔一つせず、むしろそうすることが大好きだとばかりに、自分の裸体を宗也のお腹に密着させ、更にあろう事か、胸元に軽いキスを繰り返してきた。
「き、汚いですよ、それ」
「あはは、その台詞、女の子みたーい♪」
「いやそうじゃなくて、俺、シャワーも風呂も入ってないのに」
「気にしないよ、むしろ男の人の汗のにおい、大好き♪」
そうは言っても、むしろ宗也が気にしてしまう。
シイナの肌は、なんというか、つるつるすべすべだった。
シャワーを浴びてきた直後というのもあるのだろうが、柔らかで滑らかで、宗也の肌とはもう、全然ものが違う。何というかそもそも、皮膚の素材からして別物なんじゃないかという気さえしてくる。
とても綺麗で、触るだけで気持ちいい。
でもだからこそ、こんな風にして自分の汗ばんだ肌と密着することに、最上級品のドレスで汗を拭っているような、「そんなことしちゃいけないだろ!?」という感覚に猛烈に襲われる宗也だった。
「宗也くん、なんか、ものすごい顔してるー」
「そ、そうです……?」
「うん。なんて言うのかな、『お母さんに怒られる!』みたいな顔」
「……」
図星……なのだろうか。例えが何とも微妙過ぎて反論していいものか分からない。
「あはは、宗也くん、ホント真面目なんだね。ますますお姉さん、燃えて来ちゃった」
「な、なんですそれ」
「イケナイ事することがすっごい気持ちいいって、教えてあげたくなっちゃう、ってコト♪」
背筋がぞわぞわする、蠱惑的な物言いだった。
「じゃ、もーっと、イケナイ事するよー?」
「あ。ちょ……っ」
続けて彼女は、えいや、可愛らしく気合いを入れながら、次の一手を繰り出してきた。
手を伸ばしてきたのは、宗也の股間部分。
これもまた異様に手慣れた手つきでベルトのバックルを緩め、ファスナーを下ろし、そしてズボンと下着を、かなり強引にずり下げる。
そうなるともう、どうする事も出来ない。
さっきからもうずっと痛いほど大きく膨張しきっていた宗也の股間部が、白昼の下にさらけ出されてしまった。
「わお。あはは、もうおっきくしてるー。ぴくぴくしててかわいい~♥」
シイナの口から漏れた感想に、もう何だか死にたくなる宗也だった。
「……恥ずかしいんですけど」
「なんでー? 恥ずかしがるコトいっこもないよ。すっごいおっきいし、それにエラもすっごい張り出してるし、自慢していいよ、めちゃくちゃかっこいいおちんちんだよーこれ」
「……いやあの」
そこまで褒められるのも、それはそれで、流石にどうなのか。
ちょっと微妙な気分になってしまう。
ただ、他の男子と比べた事はないので、彼女の評価が正当かどうかは分からないが……少なくても気に入ったのは事実らしい。
今まで色っぽい顔をしていても、どこか宗也をからかうための、いたずらの延長のような印象がどこかしらあったけれど、今彼女が見せている表情はそれとはまったく別物だった。
「はぁ……でも、ホントすごい……気持ちよさそ……」
宗也の勃起をひどく熱を帯びた視線で見つめて、シイナはそっと熱いため息をついていた。
その仕草が、なんだか異様に色っぽい。
そうして――もう何か我慢できなくなっているらしく、そわそわもじもじと、腰を揺らめかせたり太股をもじもじさせながら、彼女は熱に浮かされたような表情で、何の断りもなく宗也の勃起に指先を這わせてきた。
「あ、うっ……」
「あは、きもちいい? すっごいね、宗也くんのここ、すっごい熱くなってる……」
そしてそのまま、シイナは宗也のものを、緩く握って、軽くしごきはじめてきた。
「うわ、わ、わ……」
何だかもう与えられる刺激がとんでもなくヤバすぎて、思わず視界が白けかけてしまう。
物理的な刺激の強さで言えば、些細なものの筈だ。
握る強さも、しごく速度も、正直宗也自身が自分でする時の方が、明らかにずっと強くて激しい。
でも、だというのに、気持ちよさで言えば、今シイナにして貰っているこの行為の方が圧倒的に上だった。
女の子の、スベスベの小さな指先が、小さな手の平が、宗也のグロテスクな欲望に触れている。
そうして彼を気持ち良くさせようと言う意思を目一杯乗せて、愛撫をしてくれている。
その状況がスパイスとしてもうたまらなすぎて、快感が何倍何十倍にも膨れあがってしまう。
「あ、わわ。すごい、もう先走りが出てきちゃってる……♪」
「い、いちいち実況しなくて良いですから……!」
しかしどうやらシイナのテンションもかなりフルスロットルになってるらしい。
緩くしごくだけだった愛撫の手つきが変化して、人差し指で亀頭をくりくりとこねくり回すような動きになっていた。
人差し指の腹で鈴口から漏れる先走りをすくい取りつつ、その汚らしい粘液を指先に絡め、それでもって亀頭を撫でてきて。
「あ、おっ、おおっ」
これがまた、やばかった。
というか、未知の快感すぎた。
他の人はどうだか知らないが、宗也は自分でするときには、竿をしごく事しかしない。「出口付近」だというのもあって、何となく汚い感じがするというか忌避感があるというか、滅多にカリ首から先の方は自分で触るような事がした事が無かったのだ。
それがどうだ、いざこうしてえっちに触れられると、何だかめちゃくちゃ気持ちいい。
「あ、う、あ……っ」
思わず腰が動いてしまう、快感から逃げる為なのか、それとも快感をより欲しての事なのか、それすら自分自身で分からない。ただもう気持ち良すぎて、何が何だか分からない。
「……あはは、ホントかわいっ♪」
「だ、だからっ、可愛いだなんて……! うあぁぁっ!?」
口答えするものの、むしろそんな反応は火に油を注いでいるだけのような気がする。
その証拠に彼女の手の動きはますますねちっこいものになって――早速宗也は、腰の奥からわき上がってきた圧倒的な予感に、深い絶望感を覚えた。
(あ、やば、やばいっ、もうイく、あ、ううっ)
情けなすぎてもうどうにかなりそうだった。
もう時間感覚もあやふやだが、シイナが本格的に愛撫を始めてから、たぶん五分も経っていない。それでここまで気持ち良くされて、手コキでイかされるなんて。
しかもこんな、年上とは言え、見た目が超子供子供した女の子に。
「あ、う、ぐ、うう……ッ」
けれどシイナの手の動きは容赦なくて。
いじり回して。こねくり回して。くちゅりくちゅりと宗也の気持ちをかき回しまくって。
「う、う……っ」
―――けれども、もういよいよ限界だ、と宗也が絶望のどん底に突き落とされるその直前に、彼の股間を苛んでいた圧倒的な快楽が、唐突に止んでしまったのだった。
「え。あ……?」
絶対来ると思っていたその瞬間が空振りに終わって、思わず呆けた顔をしてしまう。
複雑な思いにシイナの方を見ると――彼女はその幼い顔の造形に似合わない、何だかものすごく愛おしそうな表情で宗也を見つめてきていた。
「あは、『何で止めたの?』って顔してる」
「………そんなこと」
「素直じゃないなー♪ あはは、ごめんね。イかせてあげても良かったんだけど……ちょっともったいないかな、って思って」
もったいない、とは、どういう事か。
飲み込めない表情をする宗也に、えへへへぇ、と何だかちょっと照れたような顔をシイナは見せてきた。
「どうせ射精させてあげるなら、あたしのおまんこでさせてあげたいな、って♪ ていうかえっとね、実はね、あたしも、宗也くんのおちんちん弄ってて、切なくてたまんなくなっちゃっててさ」
「……………え、と」
それは、要するに――
「だから、いいよね?」
言葉尻としては一応宗也に確認を取りつつも、実際に彼女が取った行動は完全に有無を言わせないものだった。
「あ、わ……っ!?」
宗也の返事を待つ事なくシイナは彼の腰の上に馬乗りに。
そしてさらに、彼女は淀みない動きで、右手を宗也の勃起に、左手を自らの秘部に添えて、狙いを間違えないように互いの位置を微調整。
そして――
「あ、は……♪ 入ってくるぅ……♥」
「う、ああ……」
結局。何の感慨もなくあっさりと。
宗也のそこは、シイナのアソコに、ずっぽりと飲み込まれてしまっていた。
(……あ。俺……)
一瞬、なんだかちょっと、呆然としてしまった。
自分は、これが初めてなのに。
別に乙女でもあるまいし、そんな後生大事に取っていたというわけでもないけれど、なんというか、「あ、やべ。なんか流れに流されて、ものすごいあっさり童貞棄てちゃった」みたいな、ちょっと「しまった」な気分。
そしてどうやら、そんな気持ちが顔に出てしまっていたらしい。
しばし秘部に迎え入れた宗也のものの感触に酔いしれていたシイナだったが、ひとしきりその快感に耽溺した後、ふと宗也のしている表情を見て、何かに気付いた様子で小首をかしげてきた。
「………あれ、もしかして宗也くん、童貞?」
「えと……」
流石に、素直にそれを女の子に面と向かって認めるのは恥ずかしすぎて。
しばし口を噤んだ後、自分の顔がめちゃくちゃ赤くなっているのを自覚しながら、宗也は目を逸らしつつ、小さく口を開いた。
「………………今、そうじゃなくなりました」
「……」
回りくどう言い方に、シイナはきょとんと呆けた顔をして。
「……ぷっ」
で、もうたまらないって感じで噴き出して。
そうしたらもう歯止めなんて利くわけもなく、大爆笑である。
「あは、あはははははははっ、なにそれおっかしい、あはははははっ」
「そ、そこまで笑うのはちょっとどうかと思うのですが!」
「ご、ごめんごめん! でも何その言い方、あはははっ、かわいい~♪ あっはははは!」
そりゃまあ、変な言い方してしまったって言う自覚はあるけれど。そこまで笑う事ないじゃないかと宗也は思う。
「あはは、でも、そっかぁ。じゃあ、あたし、宗也くんの初めての人なんだぁ♪」
「……」
けれど、心底嬉しそうにそんな事を言われてしまうと…もう宗也としても何も言えなくなってしまった。
(……ああ、まあ、なんか。どうどうでもいいや)
急に、何だかいろいろなものが馬鹿らしくなった。
流されるままにシイナとセックスまでしてしまって。
今のままで、こんな事をして良いのかとか、そんな思いをどこかでずっと引きずっていたけれど。
でも、まあ見た目はともかくとして彼女はれっきとした大人の女性で、彼女自身の意思でこうしているわけだし。何より彼女がこうして喜んでくれているなら、別にこれでいいじゃないかと思えてくる。
他に誰か好きな女性がいるわけでも無し、こんなにも相手に喜んでもらえるなら、これも、悪くない初体験だ。
経緯がちょっと普通ではないかも知れないけれど、でもそれが何だって言うのだろう。
「お。ちょっとやる気になってきた?」
「……ええ、まあ」
けれどまあ、ちょっとおちょくるような表情でそう指摘されると、どうにもぶっきらぼうな答え方になってしまうけれど。
大して付き合いがあるわけでもないのに、こうまで色々見透かされてしまうのは、やっぱりどうしても恥ずかしい。
「その、シイナさん」
「うん、何かな宗也くん」
おずおずとした提案にも、何もかも受け入れてくれるような包容力満載の笑顔を向けられて、どうにもくすぐったい。
本当、不思議である。
顔立ちそのものは活発な感じの、小さな女の子そのものの造形なのに。
「俺も、動いていいですか?」
「あはは、いいよ? 女の子の気持ち良くさせ方、いーっぱい、勉強しようね?」
いつの間にか講義スタイルになっていたらしい。
けれどこういうのも、悪くない。
幸い、先の童貞云々のやりとりで、ある程度射精衝動も後ろに引っ込んでくれている。
そうそう長持ちはしないだろうが、多少は動いたりする余裕も出来ていた。
だから、どうすればいいか分からないなりに、腰を揺する動きをしてみることにした。
というか……そもそもの話、ソファに座ってその上からシイナに馬乗りにされてる姿勢なので、動きそのものにあまり自由度があるわけでもなく、そのくらいのことしか出来ないというのもあるのだけれど。
「ん、ぁ……あ……っ♪」
けれどそんな拙い動きでも、早速シイナは心地よさそうな吐息をこぼしてくれていた。
(っていうか、この人の中……っ)
今の今まで全く余裕がなくて気にも留めていなかったが、改めて意識すると、女の子の……シイナのおまんこの中は、もうめちゃくちゃ心地良いものだった。
全体がねっとりとぬめって温かく、なにより驚くほど柔らかい。
外見の小ささからすれば、いったい宗也の大人サイズの勃起をどこに収めているのか不思議なくらいだが……きついとか、狭いとか、締め付けが強いとか、そんな事はまるでなく、底なしの包容力でもってふんわりと宗也のものを受け入れてくれているいるような、そんな感じ。
でも一方で、ゆるいと言うわけでは決してない。
きつすぎず、緩すぎず、ぬるま湯に浸るような、いつまでもこの中に居たくなってしまうような、そんな安心感がある。
それでいながら少し腰を動かせば、肉厚のぽってりしたヒダのようなものが複雑に蠢いて宗也の勃起に絡みついてきて、じわじわと的確に射精欲求を高めてくれる。
この人のお腹は異次元で出来ているんじゃないかと、そんな風にすら思えてしまう。
「あ、っは、はは♥ そうそう、上手上手……♥」
「……ッ」
喘ぎながらそう言ってはくれるけれど、その口調にはまだまだ余裕がある。
なんとなく、確信した。
多分この人は、手加減してくれている。
たぶんもっともっと気持ちいいことも出来るのに、宗也がやる気を見せたので、彼が動ける余裕を残してくれているのだ。
それが、何となく悔しくもあって。
だから、なにくそ、という想いを込めて、なんとか腰の動きを工夫してみる。
ただ単に揺らすだけでなく、左右に振ってみたり、ソファのスプリングを利用して抽挿の動きを入れてみたり。
「あ、あはっ、宗也くん、いいよ、ん、あはは、かわい、あ、あ……っ」
けれど、そんな付け焼き刃でどにかできるはずもない。
シイナの反応は多少は良くなっては来ているけれど、けれどまだまだ彼女の表情には余裕があって。
「あ、っ、んんんっ、あ、ははは、んんん……っ♥」
むしろ、宗也が何とか試行錯誤を繰り返す度に、そんな彼を見つめる目線に優しさが増していくのが、何とも恥ずかしくて堪らなかった。
(……くそ……)
ふと、唐突に思い出す。
ずっと昔、それこそ幼稚園に通っていた頃。
良くあるように彼にとっても幼稚園の先生は憧れの対象で。もしかしたら……そう言って良ければ初恋の相手かも知れなくて。
先生に何とか褒めて貰おうと、そして多分、対等な立場で見て貰いたくて、今から思えばとんちんかんなことを色々しでかしたものだ。
宗也が何かバカをやる度に、多分先生も幼い彼の気持ちに気付いていたのだろう。ちょっとくすぐったく思っているような、とても優しい笑みを向けてくれていた。
今シイナが浮かべているのは、完全にそれと全く同じ微笑みだった。
しゃにむに、けれどとんちんかんに頑張っている年下の男の子を愛おしく見つめる視線。
(ああ……くそ、だめだ、これは)
だから宗也は悟ってしまう。
見た目はもう完全に子供だけれど、それでも彼女は、宗也よりよっぽど年上の、「お姉さん」なのだ。
えっちで、経験豊富で、今の今まで童貞だった宗也には絶対太刀打ち出来ない、えっちなお姉さん。
敵わない。
こんなの絶対、敵うわけがない。
「………う、うっ」
「………♥」
そうして――結局なにも出来ないまま、宗也に限界が訪れた。
元々、一度射精寸前まで焦らされていたのだ。
ある程度回復したと言っても、心地よすぎるシイナのおまんこで勃起をしごかれてしまえば、そんなのあっという間に射精衝動は最高潮まで引き上げられてしまう。
気持ち良くて、気持ち良くて、もう溜まらなくて――殆ど無意識に、宗也は目の前の小さな身体を抱きしめていた。
「…………あは♥」
そして、シイナもそれを何も言わず受け入れてくれて、必死に縋り付く宗也を優しく抱きしめ返して。
そして、それがもう、本当の限界。
――どく、どびゅ、どくっ。
「あ、う……ううっ」
「あは、んんっ、あはっ♥ 出てるぅ……あつい……♥」
結局何も出来ないままに、シイナのおまんこで自分だけが気持ち良くなって、宗也は昂ぶりきった欲望のエキスを彼女の胎の奥に吐き出してしまった。
(う、あ、きもちいい……っ)
射精の快感までもが、いままでとは段違い。
胎の奥から生命力そのものが引きずり出されるような、そんな感覚さえ伴って。
結局、射精の律動が完全に収まるまで、宗也はずっと、シイナに縋り続けていた。
◆
「……う、は…っ」
射精の余韻までもが、なんだか異様に長いように感じられた。
亀頭の先にずっと熱いなにかがわだかまっていて、それがなかなか引いてくれない。
それでも、必死に深呼吸を繰り返して。身体の奥の火照りは全く収まらないけれど、何とか宗也は絶頂感からだけは抜け出す事が出来ていた。
「は、ふ……」
大きくため息をついて――そしてそのタイミングで、宗也は自分が、いつのまにかシイナに縋り付くように抱きついていた事に、今更ながらに気がついた。
「あ、す、すいません」
「あはは、いいよいいよ。すっごい気持ち良かったんだね♥」
「あ、えと……はい」
結局最後まで自分1人で気持ち良くなっただけのような気がして、でもそれすらも優しく受け止めてくれるシイナに、もう恥ずかしさしかない。
「………すいません」
「? 何であやまるの?」
「あ、いや……その、俺ばっかり気持ち良くなっちゃって」
宗也の言葉に、シイナはきょとんとした顔を浮かべて。
そして何だかものすごく可笑しそうに、でもどこか嬉しそうな笑顔で噴き出した。
「あはは、そんなの気にしなくって良いのに。初めてなのに宗也くんはホント真面目だね」
「……そういうの真面目って言うんですかね」
「真面目だよー。えっちなことは、男子と女子が両方気持ち良くなるものだってのが大前提になってる時点で。世の中そんな人ばかりじゃないもんね」
「……はあ」
いまいち実感がないが、そんなものなのだろうか。
「にひひ。それにね?」
そして、ふと殊更に表情を優しいものに切り替えて。
シイナはすっと宗也に顔を寄せ――そして、ちゅ、と彼の額に、暖かいものが触れた。
「……あ」
額にキスされたのだと一瞬遅れて気付いて、宗也の顔がかっと熱くなる。
セックスまでしといてそんな事で恥ずかしがるのも、よくよく考えれば今更なのだけど。
「気にしなくて良いんだよ、そんな事。宗也くんは初めてなんだから。上手くなるのはこれからだよ。たーくさんえっちして、練習して、女の子をいーっぱい気持ち良くできるようになっていこうね?」
「………」
それは。
つまり、そういう事だろうか。
今回のこの行為は、今日かぎりのものというわけじゃなく。
これからも、ずっと――
「……あ。おちんちん、あたしのなかでおっきくなった♪」
「………ええと」
「あはは。これからもーっとえっちな事するの想像して、コーフンしちゃった?」
もう何もかも図星過ぎて何も言えない。
恥ずかしくて目を逸らすしかない宗也の顔を、シイナはにまー、と嬉しそうにしばらく眺めて……そして彼女は、さも当然のように、あっけらかんと提案をしてきたのである。
「じゃ、2回戦、やろっか?」
「え、に、2回戦?」
「だあって。宗也くんもまたあたしでコーフンしてくれてるし? あたしもまだまだえっちできるし♪」
だったら、やらない意味ないよね? と言わんばかりに物言いである。
どんだけえっちなんだこの人、と思いつつ、でも宗也も、既に何だかムラムラしてしまって、このままではどうにも収まりが付かないまでにはなってしまっている。
そうなればもう、断る理由なんてありはしない。
もっともっと、シイナのおまんこで気持ち良くなりたい。
「宗也くんは、どうお? お姉さんともう一回えっち、したくない?」
「……ええと」
んー? と、この状況で答えなど分かり切っているはずなのに、どうやらそれを宗也の口から聞かないと気が済まないらしい。
なので、もう恥ずかしくて堪らないが、宗也としても答えざるを得なくて。
「その……お願いします」
「えへへへ、やったぜ♪」
おまんこにちんこをハメたまま、ガッツポーズを決めるシイナ。
何とも滑稽な絵面だが、なんだかそんな様子も可愛らしく思えるのだから、美少女というのは本当に得である。
「ね、ね、宗也くん。今度はさ、あたしが動いちゃって良いかな」
「え、あ、は、はい」
でもって、やたらと勢い込んでリクエストをしてくるシイナに、半分訳も分からず頷いてしまう宗也。
が、すぐに内心、ちょっと「しまった」と思ってしまう。
何せ、さっきまでのえっちは、明らかに宗也が動きたいって事で手加減していた様子だったのだ。
つまり「次は自分が動きたい」って言い出すって事は――
「えへへ、搾り取っちゃうね?」
予感、的中。
宗也は死を覚悟した。
そして――次の瞬間。
もはや「搾精」としか言いようのない圧倒的な感覚が、宗也に襲いかかる事になった。
――ずちゅッ。
「……ひ、あっ」
まずシイナによって繰り出されたのは、腰を引いて、そして直後に腰を落とす動き。
軽いながらもシイナの体重が充分に乗せられたその抽挿はハンパなく重い一撃で、もうそれだけで宗也は目を白黒させてしまう。
亀頭の先に、柔らかい膣奥がぐいいいいい、と押しつけられる感覚。
同時に狙い澄ましたかのように膣肉がきゅっと締まりを強くして、宗也の勃起の中に溜め込まれた精子を、一滴残らず搾りだそうとしてくる。
「あ、ぐ……っ」
ぞっとした。ぞわぞわした。
なんだ、これは。
次元が違う。
さっきまでシイナとやっていたのなんて、これに比べればまるでお遊戯だ。
優しく包み込むような暖かな快感はもうそこにはない。
激しく、重く。猛烈な勢いで精を吸い上げるような、圧倒的に絶望的で暴力的な快楽がそこにはあった。
「あは、あ、あ……っ♥ やっぱりこのおちんちん、すごいぃ……♥」
そしてその快感は、宗也だけのものではない。
自分自身の動きでシイナもどうにかなりそうなくらいに蕩けきっているようで、宗也が動いた時には全然しなかったような、余裕のない、快楽に濁りきった笑顔を浮かべて、彼女は何かにとりつかれたように腰を振りたくっていた。
「あ、あっ、あはっ♥ いい、いいよおっ♥ これ、最高……ッ♥ きもちいいっ♥」
「う、うあ、っ」
「ねえ、ねえ、宗也くんっ♥ 宗也くんも気持ちいーよね♥ あはっ♥」
「……ッ」
もう、何が何だか分からない。
彼女を気持ち良くしているのは間違いなく宗也自身の性器で。
でも彼女は自分で自分が気持ち良くなるように動いていて。
これは、はたしてセックスなのか。
それとも、彼女が宗也の性器をつかってオナニーしているだけなのか。
「あは……♥」
けれどどうやら、彼女にはそんなのどうでも良い事らしい。
上下に、前後に、左右に。はたまた円を描くように。
思いつくままに、自分の快楽衝動だけに従いながら腰を動かしながら。
ぐちゅりぐちゅりと、ねばっこく激しい淫液の音を辺りに撒き散らして。
そんな激しい性運動に耽溺しながら、シイナは宗也に、蕩けきった笑みを向けてきた。
「やっぱり宗也くんのおちんちん、サイコーだよぉ♥ んあ、あはっ♥
ね、ね、たぶんね、宗也くんがえっとなこと上手くなったら、あたしの事、今よりずっと気持ち良くできるんだよ? ね、だからがんばろ? あたしと一緒に、えっちの勉強、がんばろ? それで、あたしのこと、もっともっともっともっと、気持ち良くして? 約束だから、絶対だからね? あ、ん、んぁぁああっ♥」
「……っ」
その言葉に、身体の奥がかっと熱くなった。
そう、彼女の言うとおりだ。
一体自分は、何を勝手に凹んでいるのだろう。
彼女が宗也のチンコでよがってくれているのは間違いないのだ。
その形が、その大きさが、彼女をここまで乱れさせているのだ。
ならば自分だって、いつの日か、彼女をこんな風にえっちに乱れさせて、身も世もないくらい喘がせる事だって、出来るはずなのだ。
そして、それを彼女自身、望んでくれている。
一緒に頑張ろうと言ってくれている。
なら、今彼女が見せている淫らな乱れ様は、いつの日か宗也が彼女にさせる艶姿そのものだ。
「……はい……っ」
――もう、なんだか、完全に吹っ切れた。
どうでもいい。何だって良い。
今、下手に色々考えたって、そんなのなんの意味もありはしない。
今はただ、気持ち良くなる事を考えよう。
シイナと一緒に、シイナのおまんこで気持ち良くなる事だけを考えよう。
そんな気持ちを乗せて、宗也もシイナに負けじとばかりに、腰をぐいっと突き上げてみた。
「ふあっ!? ん、あううっ♥」
先程と変わらぬ拙い腰使いではあったけれど、とろとろに蕩けて敏感になっているシイナのおまんこには、それも十分な刺激だったようだ。
びくんっ! と大きく身体をのけぞらせ、ぎゅうう、とおまんこの締め付けが強くなる。
「あは♥ いきなり動くなんて、宗也くん生意気……♥」
「しょうがないですよ、だって、シイナさんのあそこ、気持ち良すぎて、動かずには居られませんから……う、あうっ」
「あはは♥ そんなこと言ってくれるなんて、あは♥ うれしいなあもお♥」
快楽に必死にこらえながらの宗也の台詞に、心底嬉しそうにシイナは笑顔を浮かべて。
そして彼女は、とびきり楽しそうな顔で、甘く、彼の耳元で囁いたのだ。
「うん、いいよ♪ いっしょに気持ち良くなろ? 一緒にイっちゃお?」
――もう、止まれない。
それからはもう、めちゃくちゃだった。
腰を動かし。抱き合って。
ちんこで、まんこを、かき回し、突き上げ、ほじくり回し。
まんこで、ちんこを、締め上げ、しごきまくり、吸い付いて。
「あ、あっ、や、んんんっ、あう、あっ あ♥ あ♥ ああっ♥」
ぐちゅぐちゅになって、どろどろになって。
汗も、呼吸も、抱き合った肌から、互いの鼓動までも混ぜ合って。
高め合って。高め合って。ひたすら高め合って。
「あ、や、やん、あはっ♥ んん♥ あ、だめ、あたし、もう、あ、あ…っ イっちゃう……ッ♥♥♥」
「く、う、お、俺も……ッ」
「あは♥ じゃ、いっしょに、イこ……♥」
もうどうにもならないくらい、2人はどろどろした欲望を高め合って。
そして最後は――もうそうなれば、弾けるしかないのである。
「あ、……ぅ……っ ……―――――~~~ッ♥♥♥」
「……っ、っ!」
――どくん!! どくん!! どくん!!
――びく、びくッ びくびくびく……ッ
吐き出して、吐き出して、吐き出しまくって。
震えて、震えて。震えまくって。
生まれて初めて感じるような強烈な快感に飲み込まれながら、宗也は、シイナは、その大きすぎる快楽の濁流にもみくちゃにされるしかなかった。
◆
ふたりで抱き合ったまま、絶頂の余韻に、しばらくふたりで浸りつづけて。
そして、そこは経験の差というものなのだろう。心地よい虚脱感から復帰したのは、やはりシイナの方が先だった。
「あっはははは、あーホントに気持ち良かったぁ。楽しかったねえ、宗也くん♪」
「え、ええ、まあ……」
身を起こしながら朗らかに笑うシイナに、素に戻ってしまった宗也は曖昧にしか頷けない。
彼女とえっちしてしまった事はもう納得尽くなので良いとして。しかしやっぱり何と言うべきか、どうしてもこう……気になってしまうところはあるわけで。
(この人、ホント一体何者なんだよ……)
つい昨日まではただの隣人の可愛いお嬢さんと思っていたけれど、こうして改めてこんな関係になってしまうと、色々とこのシイナという女の子は正体不明なところが多すぎる。
小学生のような背格好なのに宗也より年上で。それどころか同じ大学の先輩だって言うし。
更に加えてめちゃくちゃえっちが経験豊富で、底なしの精力持ち。
明らかに不自然だ。
こんな女の子が、現実に存在していいものだろうか。
そんな、色々と釈然としない表情の宗也を見て、シイナは、にひ、と悪戯っぽく笑って見せた。
「ね、宗也くん、サキュバスって知ってる?」
「サキュバスですか? まあ、そりゃ……」
良く漫画とかで見る言葉なので、詳しい伝説上のエピソードなんかは知らないが、どういうイメージのものなのかは流石に宗也だって知っている。
「男にその……えっちな夢を見せたり、夜中に襲いかかったりして、精を搾り取ってしまう、女の人の姿をした魔物ですよね?」
「そーそー、そのサキュバス」
そして、宗也の言葉に満足げに頷きながら、更に笑みを深めてシイナは言うのだった。
「あたしねえ、そのサキュバスなんだよ」
「……は?」
「実はね、この世界には人間の他にも、いろんな種族がいるの。サキュバスとか、鬼とか、狼男とか。あたしがハタチ越えてこーんな子供みたいな身体してるのも、えっちなことがだーい好きなのも、あたしがサキュバスって種族だからなのさ」
「………」
思わず無言になって宗也はシイナの顔を見た。
あどけない顔立ちに浮かんでいるのは、こちらの反応を伺うような、意地の悪い笑顔。
いったい、このお姉さんはいきなり何を言い出すのか。
そういう設定を自分でこさえて思い込むほど幼稚な性格とも思えないが。
「………冗談ですよね? それ」
「あはは、笑えないか」
「笑えないって言うか……流石にちょっと、無理があると言うか」
「あーそうかもね、ごめんね、あたし冗談は苦手なんだ」
言いつつも、楽しそうにシイナは笑う。
ちろりと舌を突き出して、可愛らしくウインクするシイナ。
どうコメントしたものか分からなくて、宗也は押し黙るしかなかったが……ありがたい事にちょうどそのタイミングで、シイナの鞄の方から、ピロリン、と着信音が鳴った。
コミュニケーションアプリに何かメッセージが入ったらしい。
「ちょっとごめんね」と断りを入れてシイナは鞄からスマホを取り出して内容を確認し、「お」と小さく声を上げた。
「ナイスタイミングだね。ユウナ、今戻ったみたい。じゃあ今日はここで終わりかな」
「あ、はい」
「乾燥機もありがと。ホント助かっちゃった」
礼を言いながら、シイナは服を回収すべく脱衣場に入っていく。
その後ろ姿を見送りながら、宗也は小さく唸りながら、頭をかいた。
どうにも最後の最後で微妙な雰囲気になってしまった。
何かフォローの言葉をかけた方が良いのだろうが、もともと口の上手い方ではない宗也はとっさに良い台詞が思いつかない。
結局どうしたものかいまいち分からないまま、そうこうしているうちに服を身につけたシイナが「おまたせー」と姿を現してしまった。
「あはは、服、あったかーい。いいね乾燥機、ウチも買おっかな」
けらけらと楽しそうに笑うシイナ。
一度衣服を身に纏ってしまえば、あれほど宗也の情欲をわき上がらせた圧倒的な色香は殆ど感じられない。確かにどこ顔大人びていて色っぽくはあるけれど、それでも、どこにでも居るような小学生くらいの女の子にしか見えなかった。
ついさっきまでのあの淫靡な一時が、夢だったんじゃないかと思えてしまうくらいに。
けれど――
「にひひ」
複雑そうな表情をする宗也を見て、一体何を思ったのか。
悪戯っぽく笑いながらシイナはそっと近づいて――そして彼女の柔らかい唇が、宗也の唇にそっと触れた。
「……」
不思議な気分だった。
唇に触れるほんの僅かな、しかし確かに感じたその滑らかな粘膜の温かさと、そして続けて彼女が囁いた台詞は、あの一時が決して夢なんかじゃないと、そう確信を得るのに十分なもので。
「また、いーっぱい、えっちしようね♥」
「……あ」
「あははは、じゃーね♪ 宗也くん」
そうして。
呆けた顔をするしかない宗也を見て楽しげに笑いながら、シイナはぱたぱたと踊るような足取りで、彼の部屋から姿を消したのだった。
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ちょっと三か月ほど暇になったので、Arcadiaに里帰りです。
いろいろあったのでちょっと基本に立ち返るために、気軽に楽しみつつ書いてみようと思います。