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No.38600の一覧
[0] 【異世界転生・TS・チート】~詰んでる転生記~ 南の島でこの先生きのこれるか【異種族・恋愛・逆ハーレム】[峯田太郎](2018/08/01 12:43)
[1] 1[峯田太郎](2018/08/01 12:43)
[3] 2[峯田太郎](2018/08/01 12:44)
[4] 3[峯田太郎](2018/08/01 12:44)
[5] 4[峯田太郎](2018/08/01 12:45)
[6] 5[峯田太郎](2018/08/01 12:45)
[7] 6[峯田太郎](2018/08/03 12:45)
[8] 7[峯田太郎](2018/08/01 12:47)
[9] 8[峯田太郎](2018/08/01 12:47)
[10] 9[峯田太郎](2018/08/01 12:48)
[11] 10[峯田太郎](2018/08/03 12:46)
[12] 11[峯田太郎](2018/08/01 12:49)
[13] 12[峯田太郎](2018/08/01 12:51)
[14] 構想ノートの切れ端[峯田太郎](2013/10/13 13:59)
[15] 13[峯田太郎](2016/07/24 11:54)
[16] 14[峯田太郎](2016/07/24 11:54)
[17] 15[峯田太郎](2016/07/24 11:55)
[18] 16[峯田太郎](2013/10/28 13:51)
[19] 17[峯田太郎](2013/11/08 17:58)
[20] 18[峯田太郎](2014/05/01 11:36)
[21] 19[峯田太郎](2014/10/03 12:15)
[22] 20[峯田太郎](2014/04/15 15:52)
[23] 21[峯田太郎](2014/12/18 13:27)
[24] 22[峯田太郎](2016/07/24 11:55)
[25] 23[峯田太郎](2016/07/24 11:55)
[26] 24[峯田太郎](2016/07/24 11:56)
[27] 25[峯田太郎](2016/07/24 11:56)
[28] 26[峯田太郎](2016/07/24 11:57)
[29] 27[峯田太郎](2014/11/03 10:52)
[30] 28[峯田太郎](2016/08/03 12:19)
[31] 29[峯田太郎](2014/03/26 12:36)
[32] 30[峯田太郎](2014/02/16 12:26)
[33] 31[峯田太郎](2014/11/03 10:52)
[34] 32[峯田太郎](2016/08/01 14:10)
[35] 33[峯田太郎](2014/04/20 11:22)
[36] 34[峯田太郎](2016/07/22 12:10)
[37] 35[峯田太郎](2014/04/20 11:23)
[38] 36[峯田太郎](2016/07/24 11:57)
[39] 37[峯田太郎](2014/12/18 13:28)
[40] 構想ノートの切れ端 その2[峯田太郎](2014/04/18 14:43)
[41] 37.5[峯田太郎](2014/05/04 12:19)
[42] 38[峯田太郎](2016/01/14 11:58)
[43] 39[峯田太郎](2016/07/15 12:13)
[44] 40[峯田太郎](2016/07/22 12:11)
[45] 41[峯田太郎](2014/10/14 12:00)
[47] 42[峯田太郎](2014/12/18 13:28)
[48] 43[峯田太郎](2014/12/18 13:29)
[49] 43.5[峯田太郎](2015/07/15 15:30)
[50] 44[峯田太郎](2015/07/17 16:25)
[51] 45[峯田太郎](2016/01/25 12:41)
[52] 46[峯田太郎](2016/07/24 11:57)
[53] 47[峯田太郎](2016/01/15 12:11)
[54] 48[峯田太郎](2016/05/01 12:59)
[55] 49[峯田太郎](2016/01/20 14:16)
[56] 50[峯田太郎](2016/05/01 12:59)
[57] 51[峯田太郎](2016/04/22 16:45)
[58] 52[峯田太郎](2016/04/22 16:46)
[59] 53[峯田太郎](2016/05/01 13:00)
[60] 54[峯田太郎](2016/07/24 11:58)
[61] 55[峯田太郎](2016/08/01 14:11)
[62] 56[峯田太郎](2016/07/26 12:00)
[63] 57[峯田太郎](2016/07/26 12:01)
[64] 58[峯田太郎](2016/07/24 12:17)
[65] 59[峯田太郎](2016/07/28 12:37)
[66] 60[峯田太郎](2017/06/03 11:21)
[67] 61[峯田太郎](2017/06/03 11:22)
[68] 62[峯田太郎](2016/08/01 14:12)
[69] 63[峯田太郎](2016/08/03 12:20)
[70] 64[峯田太郎](2017/06/03 11:20)
[71] 65[峯田太郎](2017/06/03 11:20)
[72] 66[峯田太郎](2018/06/01 11:56)
[73] 67[峯田太郎](2018/06/01 11:56)
[74] 68[峯田太郎](2018/08/01 12:52)
[75] 69[峯田太郎](2018/08/01 12:52)
[76] 構想ノートの切れ端 その3[峯田太郎](2021/06/14 12:07)
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[38600] 34
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/07/22 12:10



 ☆61日め8、それは水を得た魚のように☆


浮かぶ茶釜式戦艦の砲門が一つ開きました。
小型砲門の扉は一枚板の鋼鉄板で引き戸のように下側へ降りて開かれ、下からせり上がって閉められるようですね。
出っぱなしの大型砲は砲門ではなく、砲の尾栓の方を閉めて外部と遮断しているようです。

そして丸くて周囲360度に砲列を並べた異文明の艦は、一発だけ大砲を撃ってきました。


む、舷側の砲列が金属帯ごと動いてますよ。
ダイアル式錠前のシリンダーのように、並んだ金属扉が一斉に舷側まわりを回転しています。
ますますもって理解しがたい構造です。砲塔の概念がないとしても、普通は一つにまとめようとはしませんよねえ?

砲列部分を支えているレールやら何やらが壊れたらどうする気なのでしょうかあれは?
被弾したときのことを考えてない訳はないでしょうし。

しかしある程度の合理性はある。
あの動き、私も前世でやり込んだ戦車操縦シミュレーター系ゲームで同じ事やりましたよ。


横や後の方向にいる敵を自分が乗った戦車の砲で撃ちたいとき、普通に砲塔を旋回していたのでは敵が物や味方の陰に逃げ込
んだり、あるいは自分の方が先に撃たれたりしてしまうので間に合わないとします。
そんなときにやるのが、車体を回転させながら同時に砲塔を同じ方向へ回転させるという操縦方法です。

あの要塞風戦艦も同じ事をしています。
船体を回転させる速度に砲列を回転させる速度を足せば、水上にいる敵ならまず視界から逃さないでしょう。
地球の魚雷艇とかなら、振り切れるかどうかってところですね。時速で言えば60キロ程度では逃げ切れません。
70キロ近く出せるなら既に撃った砲の前に回り込み続けることができるかも。

まあ、敵のいる方向へ弾が撃てるのと撃った弾が当たるかどうかは別の問題なのですがね。


ええ、砲弾が遅いんですよ。しかも狙いがズレてるし。
人間の目にもしっかり見える程度の速度です。
口径と比べて砲身が短いですし、発射煙の色合いからして装薬は黒色火薬でしょうから砲弾の速度が遅くても不思議ではあり
ませんが。

でも、あんなのでも砲弾は砲弾です。
木造船が被弾すると破片が飛び散るから侮れません。

自動車の外板が鉄板やFRP製なのは、木製だと事故を起こしたときに被害が洒落にならないからでもあるのですよ。
実際、前世紀初頭の遅い乗用車ですら事故時に死傷者続出してましたし。
いえ、馬車の時代だって交通事故は悲惨でした。
運動エネルギーは何気ない雑貨や家具を凶器に変えてしまうのです。折れた木材なら尚更。


砲弾が海面に着弾しました。左舷の300メートルは離れた位置に水柱が立ち登ります。
威嚇射撃にしては遠すぎますが、はて?


「問答無用じゃのう」
「こうしょう、できない」

水柱を見た巫女さんたちが諦め顔で呟きました。
あ、そうか今のは威嚇射撃じゃなくて測定用の試射ですか。少なくとも神殿の監察チームはそう判断しました。
後で聞いたら、威嚇射撃なら遅くとも発砲直後には旗なり発光信号なりで警告が出るそうです。
会話を拒否して敵対行動をとっているからには、交渉する意思なしとみなされるのですよ。


「じゃ、沈まない程度に暴れ‥‥」
「だから止めろって、俺の身内が乗ってるんだからさ。それに‥‥」

羽根つき靴の効果でしょうか、甲板からふわりと浮き上がったソーニャさんの肩を船長が掴んで引き下ろします。

「海の上のことは、本職(かいぞく)に任しとけ」


おや? 船長のようすが‥‥。

「野郎ども、いつもの手でいくぞ!」
「「「合点でさぁ!」」」

今までの腑抜けた声と違う大音声が甲板、いえ海原に響き渡ります。
海賊にしては潮風に潰れていない、高めの声質だと思ってましたが「美声」の変異持ちでしたかこの船長。良く響く声です。

「面舵一杯、両舷起動! 非戦闘員は‥‥物陰にでも隠れてろ!」

あ、いま「船内に退避」って言おうとして取り消しましたよこの人。視線の向きで解ります。
でも訂正したのは‥‥連れてきた女の子達の管轄が、既に海賊船から神殿に移っているからですね。
立場上、オークやその連れには命令できないんですよ。


戦闘態勢に入ったヒルデニア船は全力で櫓を漕いで、要塞から1200メートル程度の距離をとって反時計回りに回り込もう
としています。対する要塞側は小型砲を散発的に撃ちかけながら接近を試みていますね。

特に相談した様子もないのに、オーク達は甲板の上で思い思いの場所に待機してます。
適当に決めたようにしか見えないのに、船員達の邪魔にならない位置に固まっているのは流石ですね。戦い慣れている。

後部艦橋前の待避所に女の子達が隠れ、お義兄さんと配下の下っ端たち計三人が直接護衛に立ち、巫女さん達がその横で呪文
を詠唱しています。
いや、正確に言えば呪文そのものではなく準備段階の聖句です。
呪文詠唱を短縮したり圧縮したりする技術があるからには、逆に長く伸ばす技術もある訳で、詠唱を長く伸ばすことで呪文の
威力や確実性を上げることができるのです。
ゲーム的に言えばダイス目の下限値を引き上げてファンブル(大失敗)の目を出なくしたり、ダイス目に修正を入れて期待値を
上げたり、威力決定判定時の上限枠を押し上げたりできるのですよ。


ウサミミさんはオーガーたちと一緒に待機中ですか。物陰に引っ込むつもりはなさそうです。
彼女は戦闘要員ですからね、区分するなら。妊婦だけど戦えない程育っている訳じゃないし。
私も引っ込むつもりはありません。これは私の戦いなのですから。

船倉から上がってきた海賊達が甲板のあちこちで待機しています。
手に手に武器を持っているところを見ると切り込み要員らしいですね。
かなりの人数ですが、操船の邪魔にならないのかな? などと思っていたら、風を受けて膨らんでいた帆がどんどん畳まれて
いって、帆を畳み終わった船員達は次々と武器や手盾や軽めの鎧兜を装備して切り込み要員の群に加わっています。

そして帆が殆ど畳まれてしまったのに、なぜか船の速度はむしろ増している。
いくら櫓が櫂(オール)より効率がよいとはいえ、人力で出せる速度じゃありませんよこれは。
待てよ? そもそも人が漕いでいたのかこの船は? 
直接、櫓を漕いでいる水夫を見たわけじゃありませんし、ファンタジー世界だから他に動力源があってもおかしくはない。


「いと猛き御方よ、勇気ある者にご加護を!」

ハイプリーテスの詠唱が終わりました。オールクゥス神に祈る声が唱和され、複数の呪文が同時発動します。
「士気高揚(ヒロイズム)」「祝福(ブレス)」「再生(リジェレネート)」「増装甲(アーマー)」「飛び道具への耐性(ミサイル・
プロテクション)」の重ねがけ、しかも範囲はこの船全体!?

もちろん私にも、上記全ての効果が現れます。呪文の効果範囲にいますし、術者たちから味方認定されてますからね。
味方強化呪文には掛けられた側には、その効果が伝わる機能がついているのですよ。
だからなんとなくですが、どんな呪文なのか理解できる。
ゲーム的に言えば「○○が上がった!」というテキストメッセージにあたるものですね。

‥‥なるほど、これが集団魔法。四人が呪文の容量を融通して連動させることで、詠唱を主導している人間の呪文強度や熟練
度で4人分の呪文を使えるのか。
つまり巫女さん4人の(呪文使いとしての)星が10・4・3・3だったとしても、この技法を使うことで星10級の使い手が
4人いるのと同じ扱いになるのです。


いやまて、今5種類の強化呪文が重ね掛けされましたよね?
4人が唱えて効果が5種類!?

これは凄い、時間をかけるだけの意味があるわ。
ある意味、見習い巫女2人は巫女頭の外付けMPタンクみたいなものか。

この世界でも「今のはメラゾー○ではない」ができます。
初心者の私ですら、目標に怪我させない程度に威力を押さえた攻撃魔法を放つぐらいはやれますからね。
個人単独の腕前だけで「魔王」とまで呼ばれるほどの使い手なら、初級呪文の威力や範囲を上級呪文なみに拡大して使うこと
ができるのです。

同じ1レベル呪文でも星1と10の使い手では戦力価値がまるで違う。この世界なら特に、集団魔法の意味は大きいのです。
宗教勢力って凄いや。
義教公はもっと凄いけど。
こんなのがうじゃうじゃいる所を焼き討ちしちゃったら、そりゃ「魔王」と呼ばれて当然ですよ。



測距儀の調整が終わったのでしょう、敵艦が本格的に撃ち始めました。
訂正します。これはモーターボートでも、速度で避けるのは無理です。
だって狙いが甘いってことは、どこに弾が行くか撃っている側だって解らないということなのですから。

「両舷全速! 死ぬ気でとばせ!」

船長は船員に檄を飛ばし、舵取りに指示して船を蛇行させて要塞へ突撃します。
もちろん直進ではなく適宜に舵を切って、ばかすか打ち込まれる弾幕を綺麗に避けながら。


あの茶釜もどき、他はともかく発射速度だけはたいしたものです。一門当たりの装填に30秒かそこらしかかかってません。
一々砲を引っ込めていないのに撃ってこれる所を見ると、後装式の砲ですね。
思ったより弾速が遅く命中精度が甘いですが、それでもこれだけ撃てるのはたいしたものです。

普通の帆船ならとっくの昔に木っ端微塵ですよ。
小型砲だけでも200門はあるから、一分間に四百発。機関銃よりはちょっと遅いぐらいですかね?
えっと、概算で全周200メートルとしても30秒で一周するには時速24キロ、うん、そのぐらいは出てます。
時速にして10キロちょっとの速度で要塞とその上のシリンダー式砲塔が旋回している。
こんな既知外兵器設計する奴も設計する奴だけど、計画通す奴も通す奴です。誰か止めろよ正気の人間いなかったのかよ。

まだ一発も当たっていないのは、船の性能と乗組員の腕と船長の采配がとんでもないからです。
ああ、うん、そういえばヒルデニアの水軍衆はナマモノ兵器や鋼鉄要塞と五分に渡り合えるんですよね。
そしてそこそこの有名人である以上、船長の腕が悪い訳がない。海賊は完全な実力社会ではないにしろ、実力がないとやって
いけない稼業なのですから。
コネも実力のうちと言えばそこまでなんですが。

日本の海賊衆が精強だったのは、古くから漁業や海上交通が盛んだったのと日本近海が難所揃いだったからですよね。
太平洋も日本海も玄界灘も荒海ですし、一見穏やかそうな瀬戸内海だって実は厄介な海なのですよ。
これに黒潮親潮タッグや台風銀座などが追い打ちかけてきますしねー。
ヒルデニア近海も難所だらけなのかな? 平底船が主流なところをみると浅瀬が多い海域なのは確実ですが。


小型砲だけでなく、大型砲も撃ってきました。
散弾銃のように小粒の砲弾が一斉に飛んできますが、当たりません。僅かな差で外れました。
林や木々の隙間を駆ける駿馬のように、海賊船は水柱の中を縫って走り抜けます。


偶然にも、海賊船が避けたその方向へ砲弾が三発ほど固まって寄ってきました。
弾に意思でも宿っているかのように迫ってきます。丸いのが。

「あれは当たるぞ!」

甲板長に保証されなくても解ります、どう見ても全部直撃コースに乗ってる弾です。

「大丈夫、はね返せるから! それより耳塞いでおいて!」

その身を盾にしてでも、と私の周りに集まる仲間たちを宥めます。
大丈夫。あの程度の弾なら、この船に張られた結界が弾いてくれるはずです。私の直感が正しければ。


よし、防げた。二発が防弾結界に当たって破裂しました。
残る一発の砲弾は芯まで鉄の丸玉だったようで、破裂せずに結界の上を滑っていきました。
船体船員共に深刻なダメージはなし。完全に無傷でもありませんが、今更帆桁の一本や二本折れたところで問題ありません。
この期に及んで徹甲弾を撃って来ないところを見ると、あの茶釜は炸裂弾と丸玉しか積んでないのでしょうか。

その後も何発も流れ弾の直撃や至近弾を浴びながら、とうとう海賊船は要塞まで肉薄しました。

もう目の前まで要塞が‥‥おや? 砲撃が止まった?
まずい、砲列の動きが加速してます! 砲撃が止まったらターレットの旋回速度が三倍速ぐらいになりました。
旋回速度が速すぎて逃げ切れない!? 公算射撃やめて零距離で直接照準射撃する気です。

でも何故に、小型砲の砲撃を止める必要がある? そりゃ確かに当たってもたいして効いてないけど。
まさか装填の手間というか動力を回転力に回したのか!? そこはちゃんと動力源を分離しとけよ文明人の作った兵器なら!
動力の分配とか調節とかややこしくなって故障の原因になるくせに今回はまともに動いてるじゃないですか馬鹿ぁー!

突撃する海賊船を迎え撃つように、ひときわ大きい砲がこちらに向いてます。照準がぴったり合ったままです。
拙い、今度は散弾じゃないでしょうし近距離で直接照準です。撃つと同時に避けたんじゃ絶対間に合わない。
防御結界で防げるかな。‥‥えーと、単純計算して砲口直径が約4倍ということは弾頭重量が4の3乗で64倍。
砲身の長さからくる加速度も計算すれば、小型砲の百倍は威力があるでしょう。
うん、無理だ。防ぎようがない。当たったらお終いです。


「全員なにかに掴まれぃ!」

だけど船長の声は勝利を確信していて、それは船員達も同じで。ソーニャさんなんか楽しそうに笑っていて。
何よりも夫達が、ドスとウォスの二人が動じていないのが心強くて。

もちろんその信頼が裏切られることなど、ありはしなかったのです。


間一髪。それこそほんの数メートルの差で、巨砲から放たれた砲弾は船底をかすめて飛んでいきました。
ええ、この船、飛んでいます。
雪橇やスキーが発射台から飛び立つように、丁度良い角度の波に「水上歩行(ウオーター・ウォーキング)」の呪文をかけて即
席の滑り台として飛び跳ねたのですよ。




 ☆61日め9、海賊のやりくち☆


勝った、のだと思います。少なくとも負けてない。

「これを勝ちと言わなんだら何が勝ちで何が負けになるんじゃぃ」

おや、独り言が出ていたかな? 迂闊でした。
うん、まあ藤子さんの言うとおり、敵が降参したからには勝利と言い張って良いのでしょう。きっと。
私個人としては、敵は寸刻みにしてから骨になるまで焼いて、骨を砕いてからもう一度焼いて灰にして、灰を集めて聖水で溶
かしてから小分けにして海に流さないと安心できないのですが。
そこまですれば、そう簡単には生き返らない筈です。たとえファンタジー世界であっても。
時々生き返るのもいますけどね、そこまでやっても。


えー 主砲発射の直前というか、海賊船が飛んだときからちょっと記憶が混乱しているのですが。まとめてみましょう。

まず、敵主砲を跳んで避けた海賊船は、そのまま要塞の上に飛び乗りました。
で、ですね。
この「蛇王丸(へびおうまる)」というヒルデニア船は、船底にアルキメディアン・スクリューが二基付いてるのですよ。ええ。
直径約2メートル、長さ20メートル以上、赤みを帯びた総金属製の凶悪なのが。

アルキメディアン・スクリューについては言うまでもありませんよね?
解らない人は、平底船の船底に半ば埋め込まれるように長いドリルが付いているのだと思ってください。

蛇王丸は特別製の魔法戦艦でして、ヒルデニア文明圏が主力にしている継承兵器です。
要は何千年も前の遙か昔から、伝えられてきた大型かつ強力なマジック・アイテムなのですよ。

その船体は嵐にも大波にも負けない強度を持ち、水の抵抗を受けずに素早く動ける効果があります。
レェ・ウォスが壁面に対してやっていた闘気法応用と同じように、反作用を斜め方向にずらして推力に変えているのです。
同じ技術を使った櫓は西方式の櫂(オール)に比べ7倍以上の推力を叩き出しますし、艦首にある一対の蛇像は様々な呪文を装
填して使いたいときに使える魔法兵器なのです。

船長はあらかじめ魔法の蛇像に「水上歩行」の呪文を仕込んであったのですね。
全速モードでアルキメディアンスクリューを回転させている状態のこの船は、突如として海の一部が陸地のように固くなって
も乗り越えられます。
けど、普通の船は同じ事をしたら固い水面に乗り上げてしまい良くて座礁、運が悪いと転覆しかねません。
構造の脆い船なら分解してしまうかも。

海賊船の乗組員達が「大内海一の船」と自慢するだけのことはあります。王と名が付いてるのは伊達じゃない。
ヒルデニアにはあと数隻、この蛇王丸の兄弟船が存在するそうです。
その昔の大戦ではこういった動力船が大暴れしていたそうですが、現在では大戦当時と同じ船をまとまった数で使えるのはヒ
ルデニアだけなのだとか。

西方文明の魔道戦艦に乗っている動力炉は、ヒルデニア船のものと比べると性能が低いのです。
ただ、古代文明の遺産をそのまま使っているヒルデニアにくらべれば、自力で新品を作れる西方世界の方が数と発展性では上
回っていますので、文明圏全体でなら評価もまた違ってくるのですが。


はい。海賊船はあのまま海上要塞の上に飛び乗って、左右のアルキメディアン・スクリューを逆回転させて旋回したのですよ。
もうぐるぐると、下にあるもの全てが滅茶苦茶になるまで延々と。
スクリューの刃が要塞天蓋の装甲板に食い込んで切り裂いて粉微塵に砕きながら回転しまくる姿は圧巻でした。超信地旋回し
ている船の上に乗っているだけで目が回りかけましたけど。

なんかもう、ミニ浮遊要塞の上部分は電動泡立て器で蹂躙されたモンブランケーキのような有り様です。
クリームも栗餡もぐっちゃぐっちゃに崩され消し飛んで、土台のスポンジが露出している状態ですね。
妊婦を載せてやるべき機動じゃありませんが、取りあえず大事に至らなくてなにより。
死傷者は敵方にしか出てません。私の巣一行の被害はサダキチが気分悪くなってもどしかけたぐらいです。

乗っかった方は目を回すぐらいですみましたが、乗られた方はそうもいかない訳で。
真上に乗っかった敵に大砲は使えず、かといって生身の白兵戦でオーク島+ヒルデニア海賊の連合軍に西方人が勝てる訳もあ
りません。迎撃用のゴーレムや動甲冑は出撃する暇もなく魔法合金製のスクリューで踏み砕かれました。
要塞の中には魔道エンジンを搭載した脱出艇もあったようですが、こちらも動かす前に轢き潰されています。

航空騎兵やドラゴンなどによる上方からの攻撃にも対応策を持っていた茶釜要塞ですが、まさか重量数百トンの代物が魔法
合金製のドリル状スクリューを先にして降ってくることは想定してない訳でして。


海賊船がまだ回っているうちから飛び出していったオークやオーガーたち、それにソーニャさんが要塞司令部へ殴り込んで、
恐慌状態の敵将兵を制圧して決着がつきました。
そして現在に至ります。
いやあ、ファンタジー世界の戦闘は手早いですね。海賊船が要塞に飛び乗ってからまだ10分も過ぎちゃいませんよ。


ちなみに船長が言う「いつもの手」とは、いわゆる「高度な柔軟性を維持して臨機応変に動く」ことです。 
いきあたりばったりで戦って毎回勝つって、どこのアレクサンドロス大王ですか。これだからファンタジー世界は!



所々に転がる切られたり殴り潰されたりした衛兵(海兵隊?)の死体が転がる階段や廊下を通って要塞内部に入り、先行してい
たソーニャさんたちと合流してみれば、ちょうど司令室の床にへたりこんでいる総大将らしき貴族将校の首にソーニャさんの
ショートソードの刃が当たっているところでした。
流石はソーニャさん、同性だけあって女相手でも容赦がありません。

ええ、指揮官は女です。

まだ若く‥‥はないのかな? 
二十代半ばから後半という年齢は、適齢期の早いこの世界では大年増扱いされても仕方ありません。
高級将校らしき軍服を着て、ゆるく波打った薄い黒髪(暗灰色)の髪を背中まで伸ばしてます。
ちょっとトウが立ってはいるけど貴族だけあってなかなかの美人さん‥‥の筈なのですが、敗北の衝撃のせいか表情が壊れて
ますね。
へたりこんだまま、中空を見つめて何ごとか呟き続けてます。

「‥‥ドガチェフ改が。‥‥最新型なのに、こんな野蛮人どもに。‥‥夢だ、これは悪い夢なんだ」

雰囲気から察するにこの司令官、文官よりの経歴で実戦経験少なさそうですね。修羅場に慣れてないと見た。
というかこの浮かぶ茶釜、遠洋で単独行動すべき兵器じゃありません。
装甲付き防御火点(トーチカ)って、複数の火点が互いを支援しあうから強いのであって単独で孤立していたら怖くもなんとも
ありませんよ。
死角から歩兵に忍び寄られて、手榴弾でも投げ込まれておしまいです。

この水上要塞の全周囲に張られた装甲板は、味方が流れ弾を気にしないで撃つためのものなのでしょう。
ソーニャさんや幹部オークたちみたいに素手や手持ち武器で装甲板くり貫く敵に取り付かれたら、味方に散弾で撃って貰うの
ですよ。あるいは自分で至近距離に炸裂弾を爆発させるか。

地球でも火炎瓶や地雷を持った敵歩兵に集られている味方戦車を救うために、集られている戦車ごと機関銃弾の弾幕でなぎ払
うことがあります。
機関銃の弾ぐらい平気ではね返せるのがまっとうな戦車というものです。


ええ、ソーニャさんの剣は某怪盗一味の斬鉄○のように分厚い鋼鉄板を切り刻めるのですよ。もうスパスパと。
地球でいえば日銀の地下大金庫の扉なみに分厚い鋼鉄板でも、深夜通販番組でゾーリンゲン産包丁に切り刻まれるカマボコ板
のような目にあわされてしまうのです。
実際、この要塞の内部隔壁なんか私がクックリ刀で障子の戸を破るよりも気軽に突破されてますし。


この茶釜は港湾とか海峡とかの重要な場所を、複数の同型兵器そして陸上や空中の味方と協力して守り通すための代物であり、
すばしっこい敵を追いかけ回すような戦いには向いていません。
先程の攻防は、戦車で喩えるならKV2にBT7の真似をさせたようなものです。
強力だけど、所詮は兵器。ドガチェフだかフルシチョフだか知りませんが、戦場の一要素であって支配者じゃありません。

せめてこの茶釜型要塞が三隻あって、互いが連携して砲撃していたら「蛇王丸」の乗っかり戦術は使えなかった筈です。
近寄ることもできません。
まあ、その場合は他の方法で沈めるだけですけどね。ソーニャさんをけしかけるとか。



戦争なんてものは、より野蛮な方が勝ちますからねー。
でもないかな? 地球には有史以来自力で勝った例がない野蛮人もいましたし。いや、他力本願でも勝った例が‥‥1つか2
つはあったんでしたっけ? 
まあ、文明国が野蛮人に必ず勝つならマケドニアの隆盛やローマの滅亡なんてありえませんよ。


他の将兵や乗組員たちも次々と降伏し、海賊達によって拘束されています。こっちに乗っていた海賊船の乗組員は全員無事で
した。
彼らは船長が心配していたとおり人質にされかけていたそうですが、自力で脱出しようとしている最中に要塞側が降伏してし
まったのです。


「あのー もし仲間が落下地点にいたらどうする気だったんですか?」
「そん時は運がなかったと諦めるしかねぇな」

鬼だこの人。
この死生観の割り切り具合、本当にヒルデニア人だなあ。

「はっ 外でドンパチ始まってるのに悠長に寝てるわきゃねーだろが」
「だねー」

当事者の海賊仲間は納得しているので、問題ないようです。

担保代わりに要塞に乗っていた仲間というのが、裾の長いチャイナドレスみたいな服装の女海賊と水兵服姿の銀髪少女でした。
他にも何人かいますけどこの二人が主力ですね。ウチの巣の幹部と下っ端ぐらい実力が違います。
二人ともただ者ではありませんが、藤子さんと比べるとやや落ちる程度の腕前ですかね?
この二人に率いられた海賊衆は、戦闘が激しくなった頃に軟禁されていた部屋から脱走してまして要塞内部で戦闘中だったの
です。自分たちの船に攻撃されましたから。


しかし、凄腕の女と女の子が五人揃って高露出というのも凄いですね。
この島では普通なのかな?
一番露出が低いソーニャさんの格好も武装外せば地球のチアリーダーみたいなものですし、藤子さんはボディビルド競技会の
出場選手みたいだし、巫女頭はベッドイン寸前の新妻みたいな半透明衣装だし。

ただ、女海賊はちょっとその‥‥船長よりやや若いぐらいの年齢で、そのスリットの深さはどうかと思うのですが。
いわゆる「見えてるぞ」「見せてんのよ」系の衣装ですが、こっちの世界では許される範囲なのかな? 
私以外は気にしている人いないし。
水兵服の小娘も、上着とスカートの丈が短くて細い生脚や形の良いお臍を露出してます。半袖だし。

ちなみにチャイナドレス風の女海賊の得物はカットラス二刀流、水兵服の少女海賊は片刃の戦斧で‥‥訂正、男の娘でした。
よく化けているけど、男だよこの娘。いわゆる 女 装 少 年 です。

具体的に言うとおへその位置とかが違います。まぎらわしいけどこの娘、内臓的には男の身体してますよ。
骨盤というか腰回りが女の子っぽかったのでしばらく騙されてました。後で確認したらスカート下の腰回りに上げ底パット付
き下着をつけているそうです。
そういえば船長、男もいけるとかなんとか言ってましたよね。
今も水兵服の男の娘をかいぐりかいぐりしていますが、やっぱりそういう関係なのかなあ?


そういう関係だそうです。
この二人が浮遊要塞に残っていた理由は一に担保として、二にいざというときは自力で何とかできる(可能性がある)から、
三に「オーク島に連れて行って妊娠させられたら困る」からだそうで。


「オークさんたちは近寄らないでねー、ボクのここは船長(キャプテン)専用だから」
「アタシは違うけど、オークに犯られて色ボケになるのは御免だねえ」

あー チャイナ服の女海賊(蛇王丸の副長だそうです)が私たちを見る目つき、あれはアレですね。
麻薬を扱っていないやくざ屋さんが末期の薬物中毒者を見る目です。
海賊稼業が長そうですし、いっぱい見てしまっているのでしょうねえ。オークち○こにド填りしてアヘ顔ダブルピース状態に
なっちゃった女達を。

水兵風の男の娘は船長のお気に入りなのですけど‥‥あれは愛人ですね。
日本語での漢字表記ではなくチャイナ圏での使い方的な意味で。アイジンではなくアイレンです。

サブカルチャーの世界には「目と目で解る変態同士の法則」というものがありまして。
世間様(マジョリティ)から変態と呼ばれ異常者扱いされる者たちは、所属する集団や派閥が非力で脆弱であればあるほど、
同類を見つけだす能力が高まります。
オタが同類を見つけだすように、SF者が同類を見つけだすように、変態さんは目を見ただけで同類かどうか解るのですよ。

この娘、私と同類だ。
精神的には男なのに男の人が好きになって、女の子としてその人に愛されたいと思ってしまい、そして受け入れられた。
ちょっとややこしい変態さんなのですよ。

副長と船長はそういう関係じゃないそうですが、そうでなくても副長に抜けられたら困るのは確かですよね。
商家で言うなら番頭さんが社会復帰できなくなるようなものですから、

 



 ☆61日め10、私もですけどね☆


戦争に狂気はつきものです。十字軍は疫病の死者を投石機で要塞都市に投げ込み、安史の乱では官軍賊軍ともに捕虜の人肉を
主食にして戦闘を続け、冷戦時代には50メガトン級の大物から歩兵の小銃で発射できる超小型まで核兵器が作られました。
私のご先祖様たちだって、人身御供の呪術で機動部隊に対抗しようとしていましたしねー。

そんな狂気を具現化したものが、目の前にあります。
直径5メートル、高さ7メートルほどの檻ですね。昔風の動物園で猛獣を閉じこめているのと、同じような構造です。
問題は三つ並んだ檻の中身なのです。
身長3メートルほどの異形の生き物が、檻の中でミイラになっている。

二本ずつの手足がありますが、巨人(ジャイアント)のように人間を拡大したような姿ではありません。
骨格・皮膚・そして各部位の構造まで何もかも違いすぎる。
あえて近い部分を探すとしたら手ですかね? 四本指でかぎ爪が生えているけど。
頭は牛と肉食恐竜を混ぜたような形ですし、コウモリや翼竜のような皮膜系の翼が背中から生えているし、先端が銛みたいに
なった細長い尻尾が生えているしで、これはどう見ても‥‥。


「デーモン(魔神)よ、それもかなり高位の」

ええ、ソーニャさんの言うとおり檻の中でミイラになっている怪物はどう見ても悪魔系です。
で、それが干からびている理由は絶食などではなく、拘束具でがんじがらめに縛り上げた上で無数の針や管を差し込まれて中
身を搾り取られているからなのです。

よく見ると檻の下に魔法陣(マジカルサークル)がありますね。それもチョークや塗料で描かれたものではなく、一枚板の床材
に魔法陣を彫り込んで、その線と文字一つ一つに溶かした金属を流し込んで固めた半永久的耐久品です。
流し込まれている金属は金銀錫鉛青銅などの融かしやすい金属だけでなく、融点の高そうな見慣れない金属も使われています。
どの場所にどの金属を使うかで魔法陣の品位や品質に違いが出るようですね。


この海上要塞ドガチェフ改シリーズと前級のドガチェフ級との最大の違いは、魔力炉の出力に頼っていた無印に対して改の方
は予備魔力源を搭載して、魔力を安定供給できるようにした所です。
元々ドガチェフシリーズに載せてある炉は魔力の安定供給が難しく、突然出力が上がったり下がったりすることがありました。
新型はその点を改良したのですよ。

具体的には召喚して魔法陣に閉じこめたデーモンに魔力吸収用の管やら何やらを突き刺して搾り取ってるのですよ。
炉の出力が下がったら ちゅー と吸い上げるのです。
魔力蓄積用の魔石も増設してあるので、戦闘中の魔力切れの可能性が少なくなりました。

捕らわれた魔神達は、ミイラになりかけですがまだ生きてます。神話的存在に対して死ぬの生きるのといった表現は変だけど。
悪魔の生き血を啜って動く兵器か、やっぱり頭おかしいですよこの要塞の設計者。予算通した奴はもっと。


「‥‥この悪魔たち、解放できませんかね?」

私の呟きに、周りがドン引きしています。夫たち五人のオークを除いた面々が物理的に距離を取りだしたぐらいに。
ソーニャさんは逆に寄ってきました。妙に嬉しそうと言うか口元が綻んでいます。

?  ‥‥あ! 

「違います! 自由にしてやるんじゃなくて地獄なり魔界なりに帰してやれないかってことです!」

妙な誤解をしていた人々は、大慌てで訂正した私の言葉に大きく息を吐き出しました。一名を除いて。

いや、する訳ないでしょうがそんな事。常識的に考えて。
海賊達はまだしも、巫女さんたちまで物理的に離れようとしたのは、その、正直言って傷付くなー。
そんなに信用なりませんかね、私は? どんな危険人物だと思われているのでしょうか。

「‥‥しないの?」
「しません!」

ショートソードの柄に手を掛けていたソーニャさんですが、とても残念そうです。
なんかもう「雨が止まないので今年の花火大会は中止です」と聞かされた小学校時代の同級生みたいな顔してます。
戦闘依存症かこの人は? 暴れたりない気持ちは解らなくもないですけど。

この檻の中に入っているのは、下級魔神の中ではかなり強い部類に入るようです。星で言えば12ぐらい。
デーモンにも種類がありまして、ソーニャさんは檻の中にいるのと同じ種類のデーモンと何年か前に戦ったことがあります。
その時は多対多で乱戦だったので今度は一対一で闘ってみたいのだとか。

「危険すぎます。第一どこで闘うつもりですか? 野外に出せば逃げられますよ」
「逃げないとしても、神殿の闘技場でだと観客席が流れ弾で大変なことになりそうですよねー」
「魔神(デーモン)を玩具にすな、こぉんの罰あたりが」

当然ながら巫女頭、私、藤子さんの三人に揃って駄目出しされました。


巫女頭のお姉さんは共通語(コモン)と西方語をかなり流暢に話せて、ヒルデニア語と東方語をある程度話せます。二人の助手
たちもそれぞれが共通語(コモン)と東方・西方の言語を読み書き会話できるのです。
これにヒルデニア人の藤子さんが加われば、大概の言語が通じます。巫女じゃないけどソーニャさんは東方出身ですし。
ちなみにウサミミさんたちオーガー村ご一行様は船でお留守番。制圧戦で戦っていたオーガーも上に戻っています。


西方語使える面々が捕虜たちに尋問した結果、床の魔法陣の外周だけを破壊すると安全装置が働いて中のデーモンを強制退去
させることが解りました。
ではさっそく、帰しちゃって構いませんよね?

反対意見はなさそうですので‥‥ あるの?

「待て、魔神を退去させるな!」

と、捕虜になっている要塞司令官が言い出しました。何か危険でもあるのでしょうか?


「そのマリノフ式魔法陣には一つあたり1803ゴールドの経費が掛かっている、減価償却も済んでいないのに壊されてたまるか!」

よし、壊そう。

「ま、待て! 武装解除なら魔神を破壊すれば良いだろう!? 退去させては素材が回収できんではないか!」
「ゴエモン、黙らせて」

静かになりました。下っ端とはいえオークの怪力で顔の下半分を掴まれては、非力な人間が喋れる訳がありません。


しかし、ドラゴンにも匹敵する神話的魔物が予算の都合でどうにでもされてしまうとは。
文明人って怖い。
いやまあ、地球だってそんなもんですけどね。資本主義社会では畏怖も尊厳も、経済的効率の前には塵も同然です。

私が只の転移者ならば、火星に行った元南軍大尉のように現代日本からそのままトリップしてきたのなら、この魔力供給シス
テムについて云々することはしなかったでしょう。
でも私は転生者です。
この島で産まれましたし、この島に骨を埋めても良いと覚悟しています。

オークの島でオーク的価値観に従って生きるオーク妻になると決めたからには、オーク的に振る舞っても良いでしょう。
私も夫達も下っ端達も、このモンスター虐待というか魔物に対する敬意の欠片もない代物を認める気にはなれません。

戦争の狂気。しかし正気と狂気に本質的な違いはありません。
あらゆる狂気のうち、社会生活が可能な水準に留まってるものを正気と呼んでいるだけです。
道義徳節は所詮、生存戦略を教本化したものにすぎません。
全ての判断基準は道具(ツール)なのですよ。他の全てと同じように。
手拭いとミンク毛皮の襟巻きのどちらが優れているかを問うても意味はないのです。使うべき状況が違うのですから。
 
だから、私はこの魔法陣を破壊します。自己満足のために。ただそれだけの理由で。



そんな訳で、デーモン達は故郷へと帰っていきました。他の部屋に捕らえられていたのも合わせて12体全部。
この魔法陣で捕らえた魔物から魔力を吸い尽くすと、デーモンのような実体を持たないモンスターは消滅します。
跡形も残りません。

ただし、枯死する寸前まで吸い上げてから攻撃して倒すと、デーモンは肉体の一部や装備品を落としていくことがあるのです。
ゲーム的に言うとドロップアイテムですね。
あの牛と恐竜を混ぜたような頭部を持つデーモンは、倒すと皮や翼や尻尾といった部位そして三又銛や長靴(ブーツ)などの装
備品が手に入るのですよ。
ソーニャさん情報だと運が良ければ複数、悪くても一つぐらいは拾えるとか。
12体全部を破壊すれば希少なアイテムが10個ぐらいは手に入る訳で、確かに一財産ではありますね。


確かにアイテムは欲しい。デーモンが落としていく装備品なら特に。
高度な魔法の掛かった装備品やアイテムは、使用者に合わせて大きさが変わる物があります。デーモンが落とすアイテムの殆
どは可変型なのですよ。

しかし檻の中で干からびている魔物を突き殺して得たアイテムを、戦利品と呼んで良いものでしょうか。
私が西方文明の一員ならば「是」と答えるでしょう。
魔神を召喚したのも捕らえたのも弱らせたのも文明の力なのですから、文明の恩恵を受け文明を支える者の一人として肯定し
ます。

でも私は「否」と答えます。オーク妻ですから。
自分が仕留めた訳でもない、他人の仕掛けた罠というか拷問台の上で死にかけているものを殺して解体する気にはなれません。
まして敵が捕らえたものなら、敵への嫌がらせのためだけに拷問台から解き放つのもありでしょう。

西方文明は私の敵です。
かつてこの島を侵略して苦しめただけでなく、今もまだ狙っているのですから。




 ☆61日め11、誰が得するんでしょうか?☆


さて。
この茶釜要塞はまだ魔力炉が動いているので今すぐ沈みはしませんが、これだけ破損した上に船員の半分以上が死傷したから
にはまともに動けません。沈まないようにそろそろと動かすので精一杯です。

なので私の巣の近くまで運んでから座礁させる事に決めました。私が。


「このまま沈めてしもた方がええと思うがのぅ」
「そんなもったいない! 鉄材だけでも3000トンはいく代物ですよ!?」

藤子さんは面倒くさがってますけど、これだけのデカブツなら船体がそのまま鉄鉱山になるでしょう。
この要塞は全部金属じゃなくて内装とかには木材も併用していますが、それでも総排水量の二割以上が良質の鉄や鋼で出来て
います。
鉱山代わりにすれば、ウチの巣だけなら百年掘っても埋蔵量的に大丈夫です。
火砲と弾薬は取り外して資源にするもよし、自分で使うもよし、売り捌くも良し。

巫女頭と交渉して、鹵獲した茶釜要塞に積んであるもののうち一割を私の巣が貰うことに決まりました。
私たちと、お義兄さんたちと、オーガーたちで一割ずつ。残りの七割は神殿が4海賊が3で分配します。お義兄さんたちは気
に入った戦利品だけを持ち帰って、残りは神殿に納めるつもりのようですけどね。


で、茶釜要塞の幹部を集めて尋問してみたのですが‥‥ややこしいですね。

まず、この茶釜要塞は西方諸国列強の一つである、オルロフ王国の海軍に所属する砲艦だそうです。
主な任務は港湾などの重要拠点防衛と、海辺の都市や村落を襲う海賊船や大型モンスターの撃退ですね。
このドガチェフ改308号艦も、この島から北西に1000キロ近く離れた前線基地の港を守っていたのです。

で、オルロフ王国辺境防衛艦隊の中で「ヒルデニアとの貿易を強化してもっと儲けよう」という声が出てきまして、それに基
地司令が乗って、その基地が間接貿易をすることになったのですよ。

つまり、オルロフ王国やその周辺で女奴隷を集めて辺境基地に送り、辺境基地に来たヒルデニア船が女奴隷を買ってオーク島
へ行き取り引きをして、ヒルデニア船はオーク島で手に入れた財貨で西方の製品を買って帰る訳です。
はっきり言えば奴隷の密輸です。関税がかからないのでそれだけでも死ぬほど儲かります。

ゆくゆくはヒルデニア海賊から引き抜いた人員を中核に偽海賊船を作り、直接オーク島と交易することも考えていたのです。
なのでオルロフ王国海軍の特殊営業業務に携わっている代理人(エージェント)たちは、ヒルデニアで腕は良いけど借金がかさ
んでいる海賊船を探していました。

その情報網に引っかかったのが「蛇王丸」の皆さん、という訳です。
船長は借金取りから解放されたい欲望より人身売買への嫌悪が優ってしまう人なので、この商談は流れる筈だったのですが、
エージェントたちは交渉の途中で「人身売買なしで良い」と言い始めました。

ちょうどその頃、ヒルデニアで情報収集をしていた特殊な営業マンたちが「オーク島にはあの像の上半身がある」という情報
を手に入れたのです。
数年前、とある偶然でオルロフ王国辺境防衛艦隊は希少品のアイテムを二個手に入れました。
女神のぶつ切りのような像ただし下半身のみと、その像を制御するコアパーツの水晶球(オーブ)です。

これは三種類、つまりあと一つ上半身部分を揃えて合体させることで真価を発揮する超高品位アイテムなのです。
ソーニャさんの剣やナノレドの棒きれが+3級だとしたら、パーツが三つ揃った像は+5か6に相当するアイテムです。
ちなみに+1で裕福な土豪(国人)とか土地持ち騎士の家宝、+2で騎士団長や小領主の家宝、+3で諸侯や大商家の家宝、
+4は大国王家の家宝や大寺院の祭器にあたります。
+5以上になると正に伝説級です。


あと一つはどこにあるんだ と彼らは探していたのですが、つい最近になってオーク島でオーク達が拝んでるという未確認情
報を得た辺境防衛艦隊はそれが事実かどうか確かめようとしたのです。
まあ、基地司令はハズレだったとしても「像が手元にないと確認しようがないだろうが」という理屈で辺境防衛艦隊の金庫か
ら像を運び出して辺境基地に持ち込むこと自体が目当てだったのではないかと思いますが。
なんとかして自分のものにしたかったのですね解ります。

オーク島に行き、調べて、もし本当だったらならなんとかして手に入れろという使命を受けてドガチェフ改308号がオーク
島近海まで来たわけですが‥‥何処のどんな団体にも派閥抗争はある訳でして。

辺境基地司令のように「王都で政争発生!? いまのうちに稼ぐぞ! 密輸じゃー! 荘園乗っ取りじゃー!」という経済観
念の発達した軍人さんたちもいれば「こんなド田舎に引き籠もっている場合じゃない! 王都に乗り込んで政権掌握せねば!」
という政治感覚の発達した副司令のような軍人さん達もいる訳でして。

後者の派閥が前者の派閥を妨害するために迂闊な行動を取るだろう人員を送り込んだのですが、思ったよりもオーク島側の反
応が敏感で戦争になったのですよ。

私の頭の中を覗こうとした魔術師は、ヒルデニア船があっさり負けるor降伏して交易がお流れになると考えていたようですね。
オークにバレて騒ぎになっても、ヒルデニア海賊は事をあらだてたくないから像を持ったまま相談のため帰ってくる。
そして要塞にいる、この魔術師の上司と同僚が要塞の指揮系統を攪乱してなしくずし的に海戦に持ち込む。
海賊が降伏したら要塞が下半身像を回収して、それから私の巣を襲撃して上半身も手に入れる訳です。交易が不可能になれば
あとは奪い取るしかありませんから。

元々彼はオーク島神殿を「間抜けなオークにとろかされた色ボケ女の集団」としてしか見ておらず、自分の「ESP(読心)」
が見破られるとは思っていなかったのですよ。
そして見破られて拘束されてからも、自軍の圧倒的勝利を疑いませんでした。
1レベルアコライトの私にあっさり見破られた後なのに、なおも敵を舐め続けていられる脳天気さはたいしたものです。


まあ、私が呪文を使われたことに気付いたのは下半身像ではなく、それを持ってきた者の方に注意が向いていたからですが。
手品と一緒です。
手品師は話芸や動作で観客の注意をどこかの一点に集めておいて、それと同時進行で別の所にタネを仕込んでいます。

彼は下半身像に注意を惹き付けておいてその隙に呪文を使っていたのですが、本職の手品師ではないので直ぐに調子に乗って
しまい、私に対しては対象の注意が本当に逸れているかを確認せずに呪文を使ってしまったのですよ。
だからバレたのです。

もしも調子に乗る前に、市場で見せ物を始めた直後に手品に隠れてESPの呪文を使われていたら、私も最後まで呪文を使わ
れたことに気付かなかったかもしれません。
いや、呪文に気付かなくても他の所が怪しすぎるから警戒したかな。

あの時点で騒ぎにならなくても、その数分後か十数分後には船長達がやってきて手品師の才能がない魔術師の胸ぐらを掴み上
げていたでしょうから、怪しさ大爆発です。
そもそも余計なことせずに、海賊達に混じって普通に聞き込みだけしていたら「西方出身の海賊なのかー」で終わっていたで
しょうし、そうなることを要塞司令は望んでいたのですがねえ。



ええ。当然ですが、要塞司令たち交易推進派は穏便な手を打つつもりでした。
あとに繋げるためにも、交易で上半身像を手に入れられるのならそうしたかったのですよ。
だからこそヒルデニア海賊達も協力していた訳で。
どうしても欲しいアイテムがあるから情報収集と買い入れ交渉をして欲しい、と船長達に頼んだのですよ要塞司令は。
たった一隻で島丸ごとと戦えるわけありませんし、奇襲強奪するにしても余程上手くやらないと被害が出ますからねー。

彼女の敗因は幾つかありますけど、大きいのは要塞内部の妨害勢力排除に失敗したことと、そしてそれ以上に妨害勢力の能力
や見識を高く評価し過ぎていたことでしょうね。
内部の敵が彼女の足をひっぱるにしても、妨害者に都合の良い時期を選んで状況を見極めてからやるだろう‥‥と過大評価し
た結果が御覧のありさまですよ。


「貴様らよくも‥‥ 妃殿下に受けたご恩を忘れたか!?」
「二言目には妃殿下妃殿下、もううんざりだ。生き返らせた所で既に政治的には死人だろうが」

呆然と座り込んだままの要塞司令のまわりで、将校達が罵りあっています。
どうやら、あの下半身像の使い道についても意見が分かれていたようですね。

交易をやるかやらないかで意見が分かれていて、賛成派が送り込んだ艦の中に反対派が紛れ込んでいて、アイテム入手を最優
先したい派閥の足をそうでもない派閥が引っ張ってて、手に入れたあとのことを考えていがみ合う。
清朝海軍もびっくりのグダグダっぷりです。これで勝てる訳がない。ホウレンソウどころかエノコログサすら生えてませんよ。


「ねー船長(キャプテン)、妃殿下って誰?」
「俺も詳しくは知らねぇけど、10年ぐらい前に死んだあの国の王妃様のことじゃねえかな」

女装少年に推測を語る船長によれば、前のオルロフ王妃は「海軍の母」と呼ばれるほどの傑物で、戦略政略経済に通じその手
腕は傾きはじめていた王国の経済を建て直した程だったとか。
しかしそれだけやれば多方面から恨みを買うのは当然でして、10年前に謎の死を遂げてしまったのです。
思いっきり不審な死を。

「そーいえば、あの像はパーツの組み合わせ次第で死者の蘇生は無理でも、特定故人のそっくりさんを作り出すことはできま
したよねえ」
「故人だけなの?」
「はい。このパーツでは生きている人の複製は、外見だけしかできません。影武者が務まるような演技は無理です。死者相手
なら魂を真似て封じ込めることでそっくりさんになるのですよ。記憶も性格もそっくりそのままになります。けど‥‥」
「そげんものを復活や蘇生とは言わんのぅ」

毎日あの像を手入れしていた私には、あの像がとんでもないレベルのアイテムだと解っています。
女神様が気に入るぐらいですからねー。
でも、人の魂をあの像に封じ込めることはできません。そういう事のために作られたアイテムじゃありませんし。
あれはあくまでも人形であって、人間ではないのです。

しかし、傑物で知られた王族のそっくりさん、しかも起動(復活?)させた者の言うことを聞いてくれる訳ですよねえ。
そのキャラクター(人格)に反さない限りで、ですが。
魅了(チャーム)の呪文にかかったようなもので、その人格が絶対にしたくないことを強制させることはできませんが、それで
もたいしたものです。

そっくりさんにとって嫌じゃないことなら何でも喋ってくれるし、やってくれるのですから。
これは凶悪極まりない政治的兵器ですよ。政治工作やり放題です。
もし自分が関ヶ原合戦直前の時期に大名や名のある部将だったとしたら、そしてそのとき羽柴秀長の記憶と能力をそのまま受
け継いでいて自分の言うこと聞いてくれるそっくりさんが手に入ったら、なにをしますか?

元々は古代の帝王が最愛の妻を模して作った抱き枕に政治や個人的な愚痴を聞かせ相談相手にしていたら抱き枕に魂が宿って
人間のように話すようになった、という伝説から作られたアイテムだとか。
ボルモフィラ朝王家でしたっけ? ソーニャさんから聞いた話ではそうでした。


縛られたり武器を突き付けられたりしたままの捕虜達が「反王妃派が再結集して袋叩きにされるだけだ、御輿にもならん」とか
「情報源としてだけでも利用価値がある」とか「王太子殿下に売り渡せば我らの安泰も」とか「この不忠者が、恥を知れ」とか
激しく罵り合ってます。
だめだこりゃ。
こいつら、呉越同舟なのに協力せずいがみ合って負けたくせに全然懲りてない。

特に左の端に座らされている捕虜士官が要塞司令の指示どおりに、帰ってきた海賊船に停船勧告の信号を出していれば、
そして「海賊船はこちらの停船勧告を無視」という虚偽報告をしなければ、戦いを避けられた可能性はまだあったのですよ。
いや、その場合は別の奴が勝手に不意打ちで発砲して血みどろの乱戦になっていたか。

そして、今は自分のやったことを棚に上げて要塞司令はじめ他の将校達を「敗北主義者」と罵っています。
西方人、特に貴族や軍人や役人が「自分の非を認めたら死んでしまう」というのは冗談じゃないのかもしれません。
地球にもいますからね、そういう精神構造の持ち主って。日本にだって連合赤軍とか強烈なのがいましたし。



ぐらり。

要塞司令室の床が大きく揺れ‥‥いや傾きました。
何ごとでしょう?

「ソト、サワギ」

ゴォ・ドスや耳の鋭いオーク達には何かが聞こえてるようです。レェ・ウォスはというと既に部屋を飛び出しています。
物理的に飛んでいるところを見ると、ろくな出番がなくて不満だったのは彼も同じだったのですね。

さて、私たちも様子を見に行くべきかそれともここで捕虜の見張りを続けるべきか。
などと考えていたらウォスが戻ってきました。
触手に絡みつかれた姿で。

ええ、ウォスとウォスの身体に絡みついた太さ1メートル近い吸盤の生えた触手が、司令室の扉を突き破って入ってきたのです。
オークに触手? なんて特殊すぎる組み合わせ。

「プギィ!?」

巻き付かれたまま棍棒で殴っていますが、全く効いた様子がない触手の丈夫さにウォスも焦り気味です。

「噴っ」

ソーニャさんが気合いと共に振り下ろしたショートソードが、ウォスを締め上げていたタコっぽい触手を断ち切りました。
攻撃の威力自体は、ウォスの棍棒より低いぐらいですよね今の斬撃は。
ということは、あの触手は幹部オーク以上の打撃耐性持ちですか。

みしみしと、司令室の壁が軋みます。
気が付けば扉や、壁に開いた穴の向こうに何本もの触手が蠢いていて、この部屋をしめあげてるのです。

切られてもしぶとく巻き付いている触手に噛みついたウォスが、顎と両腕の力で振りほどきました。
千切れているのにまだ絡みついてくる蛸足を司令室の壁に叩き付けます。でもまだ触手は動いている。

「ウォス!」

声を掛けて、貪り食う無限袋から出した斧の柄を差し出します。
元気に動き続けている触手を蹴飛ばして扉の向こう側へ送ったオーク戦士は、武器を持ち替えて私や下っ端達を守る位置に立
ちました。
最初から切断武器を装備しているドスとソーニャさんは、その切れ味鋭い武器で触手に応戦中です。

巫女頭たちは呪文詠唱中。藤子さんはその傍でヒルデニア風の小太刀を振り回して防戦に当たっています。
海賊達もなんとか自衛できているようですが‥‥。

「プギー!」

武器がない捕虜達は、逃げることも戦うこともできないわけでして。縛られたままだったりすると更に悲惨です。
ゴエモンの叫び声に振り向いてみれば、要塞司令にからみついて持ち去ろうとする触手とそれを防ごうとする下っ端たちが
力比べしているところでした。




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