#1
要するに、自分は運が悪かったのだ。
もはや衣服の体を成していないボロ切れの裾を、肌からずり落ちないようにぎゅっと握りしめ、足元も不確かな暗い夜の森の中を全力で走りながら、アーシェは頭の中でそう繰り返した。
そう、運が悪かった。
森の中の宿場に務める友人を訪れた帰り、野盗に襲われた。
奴らの塒に連れ込まれ、凌辱を受けた。
初めてを奪われ、それだけでは飽きたらず、最小限の食事しか与えられずに、何日も何日も何日も、何度も何度も何度も凌辱を受けた。
それ自体は、実は特別なことなど何もない、治安の悪いこの地域では日常的にある出来事だ。
アーシェが襲われなかったとしても、ほかの娘が同じ目に合っていただろう。
アーシェと同じように、今もどこかで同じ目に合っている娘がいるかもしれない。
誰を恨んでも仕方ない。まして自分が悪いわけではない。
ただ、運が悪かったのだと、そう虚無的に諦めでもしないと、やりきれない。
そんな中で、野盗どもが連れ立って用を足しに行った隙に、連中の塒を抜け出すことができたのは、数少ない幸運だった。
鬱蒼と木々が生い茂る森は視界が悪く、獣の数も多く、あらゆる気配と音と臭いでざわめいている。
一度奴らの視界から消えてしまえば、見つかる心配はそうないだろう――そう、アーシェは判断していた。
「……っは、は。はぁ。……う」
息が続かない。木の根に躓いたところで気力の限界が来て、立ち止まる。
急に息苦しさを自覚して、むせ、何度かえずく。
呼吸を整えてもすぐに走り出そうという気にはなれず、アーシェはその場にへたり込んでそばの木の幹に寄り掛かった。
「……はぁ……」
呆然と、空を見上げる。
青々とした木の葉の重なりは深く分厚く、地に落ちる月の明かりはほんのわずかだ。
夜であっても獣の気配は昼と変わらず、梢の鳴る音とともに、そこかしこで夜行性の鳥の鳴き声が聞こえている。
彼らの慰み者になってから十日ほどしか経ってない筈なのに、そんな平凡な森の様子すら、酷く久しぶりのように思えた。
足は、まだ動こうとしない。
満足な運動もできず食事も与えられずに十日間。十日間の凌辱の日々。
それだけのことで、体力自慢だった筈のアーシェの足腰は完全に萎えてしまっていた。
いや、萎えてしまったのは、むしろ心の方だっただろう。
(これから……どうしよう)
ぼんやりと、他人事のようにそう思う。
野盗の塒から抜け出せたといっても、それはただそれだけのことにすぎない。
西にある樹海のように魔物の姿などなくても、獰猛な肉食獣の跋扈する森という存在は、それだけで脅威だ。
まして、アーシェは丸腰の、満身創痍の状態である。
下手をすれば数刻後には行き倒れて、森豹かオオカミあたりの肉食獣の餌食になっていることだろう。
数日は持ったとしても、運命は変わらない。
現在地も、右も左もわからない今の状況で、運よく森を抜け出るか参道にたどり着ける可能性は低い。
彼女が野盗の塒から抜け出したのは、そのまま自ら死を選んだことを意味する。
町に帰って、父や、母や、弟に再び会うことは――おそらく、できまい。
だけど――
「…………ざま、みろ」
少しでも自分を鼓舞しようと、低い声で毒ついた。
あのまま奴らの慰み者として生きるより、死んで獣の餌食になる方が、まだマシに思えたのだ。
……野盗の連中から受けた凌辱は、耐え難いものだった。
愛撫などという甘やかな物はなく、ただ「女の身体」を楽しむために体中をまさぐられ、お気に入りだった衣服は無残に引きちぎられて、処女も初めてのくちびるも奪われた。
破瓜の傷跡が癒えるも間もなく、男たちのものが代わる代わるアーシェの胎を蹂躙した。
一つしかない穴では物足りなかったのか、息継ぎする間もないほど延々咥えることを要求された。
咥えていない時はまともに歯も磨いていない口が吸いついて、臭い舌が口の中を凌辱してきた。
ずっと奴らのところにいても、近いうちにアーシェは壊れてしまっていただろう。
あるいは奴らが先に飽きて、森の中に捨てられるか、後腐れなく殺されるか、もっとほかの用途に「利用」されるか――
どうせ帰ることも生き長らえることもできないのなら、せめてその結末がどうなるかだけは、自分の人生を奪った忌まわしい奴らの思い通りになんてなってやりたくなかった。
逃げたのは、だから、生き残るためではなく、そうしてアーシェの自尊心を守るためのものだった。
「……おなか、すいたな」
静かにしていると、身体が思い出したようにあちこちの不調を訴えてくる。
切なげに腹の虫が鳴って、急に自覚した空腹に無性にアーシェは切なさを覚えた。
十日間、胃に収められたのは、わずかな量の、味のしなくなった固い干し肉と男たちの精液だけだ。
何をするにしても、そう、まずは何かを食べないと。
どうせ獣の餌食になる――そうかもしれないが、それでも自ら喰われに行くのなんて、まっぴらごめんだ。
せめて、精いっぱい生きて、それで死ぬなら、まだ諦めもつく。
肉は手に入れることもできないだろうから、探すとすれば、果物か、あるいは食べられる草か、茸あたりか。
そんなことを考えつつ、よろよろと木の幹を頼りに立ち上がる。
「焼き菓子……もう一度作って食べたかったなぁ」
ぼそりとつぶやいて、アーシェは森の中をさまよい始めた。
#2
食料は、なかなか見つからなかった。
人間の食性に耐えるような果肉の柔らかい果物や、味の比較的マシな植物類は、大抵先に動物たちに食い尽くされている。
もっと細かく探せば見つかるのかもしれないが、一応アーシェは追われている身である。
そう悠長に事を構えるわけにもいかない。
こまめに位置を変えながら、周囲に気を使い、食べ物を探し――しかし目立った成果は上がらない。
夜は更け、森の空気が一段と冷え込んできたあたりでさすがに限界が来た。
「う……」
めまいがする。
足元がおぼつかなくてふらふらする。
次第に胃のあたりに痛みを覚えて、吐き気まで催してきた。
視界が狭まり、ぼんやりとしか周囲を認識できない。
せめてもの気休めに、そのあたりの雑草をつまんで口に入れ、青臭い苦みに顔をしかめながら無理やり胃に収めて空腹感をやり過ごす。
夜風に晒されだんだん身体が冷たくなってくるのを感じながら、森をさまよう。
そうまでしても、やはり何も見つからない。
参道も。森の果ても。食べ物も。
「キオ……」
弟の名を、無意識のうちに呼んだ。
死ぬ間際になると、人間、欲深くなるというのは本当なのだろう。
それは自分というものががなくなってしまうという切なさや恐れからくるものなのかもしれないが。
最愛の、可愛い可愛い、アーシェの弟。
突然帰ってこなかった姉のことを心配してくれているだろう。
さびしくしていないだろうか。
ご飯はきちんと食べられているのか。
せめて死ぬ前に、あの愛らしい顔をもう一度、見ておきたかった。
「あ……ぇ?」
――ふいに視界が開けた。
灌木の茂みと木々の太い幹の連なりに遮られ、二十歩先もまともに見通せない森の中、唐突にその広場は存在していた。
小さな家ならすっぽり入るほどの広さ。中心部に生えた大きな一本を除けば、ほぼ真円の形に、まるできれいに切り取られたかのように、その場所だけ樹木が存在していない。
代わりに生えているのは、きれいに刈りそろえられたように生えそろった丈の短い芝と、コケ、そして広場の中央、まるでその場の主のようにそびえる古木の陰に、ひっそりと、しかし大量に見て取れるのは――
(キノコ……!)
一も二もなくアーシェは駆け出して、倒れこむようにしてその古木の陰にすがりついた。
何百本と生える茸の一本を地面からむしり取り、念のためにと、その白い傘の部分に鼻を近づけて、においを嗅ぐ。
「……ぁ……」
なぜか、身震いを覚えた。
あまい。
鼻孔をくすぐったのは、ミルクと蜂蜜を煮詰めたような、濃厚な、甘い香りだった。
お菓子のようなにおい。甘ったるくて、おいしそうで、嗅いでるだけで幸せになれそうな――
あまい。
おそるおそる舌を伸ばして、同じく傘の部分に触れてみる。
あまい。
においから想像される通りの味覚が口に広がって。
次の瞬間、アーシェは一心不乱にその茸むさぼり始めた。
あまい。あまい。
口に入れてみると、ますます不思議な茸だった。
普通の茸のように、柔らかい繊維を噛み千切る食感がない。
若干固さのある表面を噛み割ると中身が蜜のようにとろりと溶けて、甘いものが口中に広がっていく。
(――あ。だめだ。これ、マズい――)
空腹の切なさが和らぎ、ほんの少し戻ってきた理性が、危機感を訴える。
こんなおいしいものを、ふつう、森の動物たちが放っておくはずがない。
何かあるのだ。毒か。それ以外の何か危険な作用か。
これだけ甘くて、おいしくて、それでも森の動物が食べようとしないだけの、恐ろしい何かが。
ああ。でも。でも。
あまい。あまい。あまい。
理性ではそうとわかりつつ、アーシェは食べる手を止めることができなかった。
だって、あまいのだ。おいしいのだ。
味のしない干し肉や、男たちの臭くて汚らしい精液しか、ここ何日間も口にしていなかったのだ。
やっとありつけた、人間らしい、味のする食べものなのだ。
たぶん、これはだめだ。これはまずい。
食べ続ければきっと、ろくでもない結末が待っている。
でも、おいしい。甘いのだ。甘くて、幸せで、たまらないのだ。
まるで会心の出来で焼けた焼き菓子を食べた時のように、胸が温かくなるのだ。
「う、うう……っ」
知らず、涙がこぼれた。
嗚咽をこらえて。でも涙は止まらなくって。
ぼろぼろと泣き声をこぼしながら、アーシェは茸を食べ続けた。
#3
結局、腹一杯まで例の茸を食べた後、アーシェは広場を離れた。
危惧していた異変は、今のところ現れてはいない。
腹痛が起こるわけでも肌に異変が起こるわけでもなく、とりあえずは健康体だ。
もしかしたら遅行性で効果が出てくるのかもしれないが――その時はその時だ。
動ける今は、とりあえず動くことにしよう。
梢の向こうに見える満月は、そろそろ空の真上に差し掛かりつつある。
幸運なことに今まで獣の類には遭遇していないが、適当に身を隠す場所を見つけて朝まで待った方がいいかもしれない。
さっきまでは逃げなきゃいけないという焦燥感や空腹感にせっつかれて気にもしなかったが、たしか森にすむ大型の肉食獣の多くは夜行性だったはずだ。
生き延びる確率を上げるためには、木の上にでも上って、獰猛な獣の動きが鈍くなる夜明けまではやり過ごした方がいい。
茸さま万々歳だ。
おいしいもので腹を満たしてくれたおかげで、気分が前向きになっている。頭もまだ回るようになった気もする。
なるべく幹の表面が滑らかで、獣が簡単に上がってこれなさそうな木を物色することにした。
「この辺の木がいいかな……」
――しかし。
幸運は、やはり長くは続かないものであるらしい。
がさがさと茂みが音を立てる。
森の奥から、何か大きなものが灌木をかき分け、アーシェの方に近づいてくる気配がする。
「………っ!」
まずい――そうは思うものの、何もできないまま、気配の主がアーシェの前に現れた。
それは、一頭の大柄なイノシシだった。
体長は、ぱっと見てアーシェの身長二つ分はあるだろう。ずんぐりして体格もよく、体重で見れば彼女の十倍はあるかもしれない。
向こうは向こうでアーシェの姿は予想外だったのだろうか。
何をするでもなく立ち止まって、大きな鼻から息を吹き鳴らしながら、じいっとこちらの様子をうかがっているように見えた。
対してアーシェは――内心気が気でなかった。
イノシシと言えばイモや穀物をよく荒らしたり、また狩猟の対象となって肉は食用となる関係で草食性な印象もあるが、たしか実際には、非常に偏っているとはいえ雑食性だったはずだ。
森で迷った子供が、イノシシに柔らかい内臓を喰われて絶命しているところを発見された、等という話も聞いたことがある。
喰われなくても、巨体から生み出される突進力と口元に生えた牙は十分に脅威だ。
積極的にこちらを喰おうと襲ってくるオオカミや森豹ほどではないが、丸腰の状態で相対してどうにかできる相手ではない。
逃げないと――逃げることができなくても、何とかやり過ごさないと。
とりあえず今のところは、まだ向こうはこちらに敵対心を向けていないらしい。
まずは、そう、下手に刺激しないように。
ゆっくりと、隙を見せないように目を合わせながら距離をとって。
冷や汗が止まらない。緊張と恐怖で心臓が早鐘をたたいている。
ぐるぐると焦る頭で、必死に考えをまとめていく。
すぐに素早い行動に移せるように、それでいて警戒心を気取られないように。
ゆっくり、静かに、前傾姿勢になって、股を緩めに開いて――
「……あ……っ?」
なぜか。
唐突に。
ぞくり、と背筋が戦慄いた。
どろりとした熱いものが下腹部の奥で煮え立つような、そんな感覚。
急に膝ががくがくと震えだし、アーシェは腰砕けになって、その場に尻もちをついてしまった。
「え、 え……っ!?」
恐怖で腰が抜けたわけではない。理性も思考もしっかりしている。
だというのに――いったいこれはなんなのか。
ついで、身体の異変がそれだけでないことをいまさらながらに認識する。
顔が。胸が。全身が。体が、熱い。
太ももの付け根あたりが、特に熱くなっている。
尿意を催したわけでもないのに、アーシェは腰をもじもじさせてその掻痒感に悶えた。
なんだ、これは。
なんなんだ。これは。
――男に何度となく抱かれながら、不幸なことにまともに優しく扱われることもなかったアーシェに、その感覚の正体がわからなかったのも、無理はない。
発情、だ。
それも濃厚な媚薬を流し込まれたような、激しく、熱く、根深い発情。
訳も分からず周囲を見渡し、そして再び、目の前のイノシシと、目が合った。
「……っ」
なぜだろう。
目を合わせているのは、言葉も伝わらぬ、もちろん表情なんて読み取れないけだもののはずだ。
なのに、なぜか。このイノシシがどういう欲求を自分に抱いているか、アーシェにはわかってしまった。
ぶふぁっ ふるるるぅ……
そのまるで理解を肯定するようにイノシシは大きくいなないて、そしてゆっくりとアーシェに近づいてくる。
攻撃するような様子ではない。いや、これはむしろ――
「――ひ……」
悲鳴を漏らさずにはいられなかった。
イノシシの股間部分の硬く獣くさい毛皮から、それだけは異様なほど鮮やかな肉色で無毛の器官がせり出している。
せり出して、固く反りあがっている。
人のモノとはまるで形の違う、ネジを巻いたような異様な形状の、肉の突起。
言うまでもない、まるでその形状を誇るようにこのイノシシがアーシェに見せつけてきたのは、生殖器である。
絶望的に、アーシェは確信する。
犯される。
――いやだ。
目には涙があふれ、幼子のように気の抜けた顔が、いやいやと力なく左右に振られる。
いやだ。それだけは嫌だ。
喰われるのは覚悟していた。
喰ったものの毒に当たって死ぬも覚悟していた。
怪我をして死ぬのだって、それもいいと思っていた。
でも、犯されるのは、いやだ。
野盗にさらわれ、いいように男たちに犯された。
犯されて犯されて、嫌になるくらいボロボロになって、それで逃げ出してきたのに。
何でその先で、しかも今度はヒトではなく、こんな獣に、けだものに犯されなきゃいけないのだ。
いやだ。いやだ。いや、だ。
いやなのに――
胸がドキドキしている。
人ではない、獣の勃起から目が離せない。
さっきから全身がぞくぞくしっぱなしだ。
「――ぁ」
気が付けばひとりでに右手が動いて、自らの股間をまさぐり始めていた。
男に犯されているときはほとんど分泌することもなかった愛液が、ありえないほどの量を膣襞からにじませている。
指を動かすと、くちゅ、くちゅ、と自分でもわかるくらいに大きな粘っこい水音が鳴った。
「あ……あ、ああ……」
いやだ。いやだ。うそだ。
うそだ。こんなの――
嫌なのに、股が、開く。
イノシシが、細い少女の肉体にのしかかる。
ケモノの性器が、赤く腫れた、それでも十分以上に愛液に濡れたアーシェの秘部に、そっと触れる。
ゆっくりと、ケモノの性器が、はいってくる。
おなかに。膣に。子宮の奥まで。
「ああ、あああああああ…………ぁ。ぁ。ああああ、………ん、 ぁ……っ♡」
こつん、と。
最後までつながった瞬間、アーシェの口から、生まれて初めて快楽の嬌声が漏れた。
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―――妖化茸(ヨウカダケ)。
大陸南部を覆う樹海付近の森林地帯で時折見かける、風変わりな精霊格の一つ。
属性分類上は地の精霊だが、その性質上、淫魔の一つとして数えられることもある。
見た目は白い、手のひらサイズ程度の茸で、外見通りに発生したその場所から動くことはなく、しかし茸と違い胞子を飛ばして生殖活動をすることもない。
本来の機能を全うするか一定の条件がそろうまではずっと発生個所にとどまって存在し続ける。
発生個所には特に法則性はないが、比較的目につきやすい場所に群生する傾向にある。
動物のメスを引き寄せる独特の臭気を放ち、食すと非常に美味とされるが、その魅力的な香りと味に誘われるまま食べてしまうと、被害者には下手な毒茸を食べるより悲惨な結末が待っている。
妖化茸は動物のメスに捕食されると、胃や腸の粘膜を経由して、ある種の「呪い」を捕食者の全身に浸透させ、捕食者の身体組織を、本来とは別の、精霊格に近いものに変質させるのである。
なぜ妖化茸がこのような特性を持っているのかは定かではないが、一説にはこの妖化茸、霊気が乏しくなり枯れかけた土地が生み出す自己修繕機能のようなものだと考えられている。
手近な動物を精霊格に仕立て上げ、土地の霊気の補強を行い、豊かな土地を取り戻す――そういう寸法である。
ただの動物が時間を修行もせず時間もかけずに精霊格になるには当然無理があるため、妖化茸の「呪い」には、捕食者に足りない霊力を補い、
精霊格相当分の霊格を得るための特性を与える性質も組み込まれている。
与えられる特性にはいくつかの種類が確認されているが、もっとも一般的に知られているのは「淫魔化」である。
精霊格化したした被害者は文字通り淫魔に違い性質を持つようになり、体臭は催淫性の成分を含みはじめる。
また生殖器もより効率よく生物の精子を摂取できるように形状/構造が変化する。
妊娠機能にも異変が生じ、下記のような特性を持つにいたる。
◎卵子は、人となじく胎生の動物ならば、精子を受ければ妊娠する機能を持つようになる。
◎子宮内部に「精液だまり」が形成され、卵巣から出てきた卵子はそこをくぐって子宮に到達するため、非常に妊娠しやすい体質となる。
また活動限界を迎えた精子はそのまま精液だまり内で消化され、精子とともに搾り取られた霊気が、被害者の霊格を支える霊力の一部として吸収される。
◎胎盤の育成機能が大幅に高まり、通常の四~五倍の速度で胎児が成長し、出産を迎えるようになる。
催淫の対象は一定以上の霊格を持つ森の動物……胎生で大型の哺乳類ものほとんどで、被害者は体臭によって周囲の動物を引き寄せ、そして見境無しに様々な動物と交尾を行う。
被害者が森の動物と交わり子を孕んで生み、森の生き物の数を増やしつつ、性交によって得た霊気を吸収し、精霊格相当の霊格を持つにいたる。
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#4
イノシシにのしかかられ、腰を振られてしばらくすると、腰の奥の方が熱く切なくなって、それがどんどん高まって行って、次の瞬間には息が詰まるような大きな快楽の波とともに、視界が白くなって体中が大痙攣を起こしてしまった。
何が何だかわからなかったが、これが多分、「いく」ということなのだろう――とアーシェは後になって気が付いた。
そう。イかされてしまったのだ。
アーシェは今、イノシシの、泥まみれの獣くさい体躯に犯されて、イってしまったのだ。
人間の男にあれだけ犯されても、痛くて苦しくてつらいだけだったのに。
「あ、ひぁ、♡ あああっ♡ ん、あ♡ だめ、らめぇっ♡ きもち、い、あ、 あんんんっ♡♡」
そう。気持ちいいのだ。
人とは全く違うけだものの性器なのに。
それでゴリゴリと奥を疲れて。
膣肉を、めくれ上がるぐらい強烈に根深くこすりあげられて。
それでも、痛みはなかった。
ただただ、胎内で煮たてられている情欲は熱く甘く粘っこく、透明だった愛液は白く濁った本気汁となっている。
固く鈍くなっていた膣襞は、本来のぼってりと肉厚気味肉質を存分に発揮し、柔らかく蕩けて活発に動き、イノシシの性器にぴったり吸い付いて精子を絞り上げている。
いつの間にか腰も動き、そんな膣内のねちっこい動きに合わせて相手の欲望を刺激するようにすらなっていた。
変化は胎内だけにとどまらない。
ボロ衣は獣の性運動でしっかり脱げ落ちてしまい、全裸となった少女の柔肌からは美しく甘い香りのする汗が滲み出している。
獣くさい女の発情臭はイノシシに対しても効果があるようで、アーシェが素直に快楽を受け止めるようになってからは、ますます激しく動いて濃厚な精液を彼女の胎に吐き出し続けていた。
「あ、あ♡ またいくんだ、あ、だぇ、きちゃう♡ わたしもまたぴゅってされて、あ、あ♡ いく、ああああっ♡」
射精の予感に、ぐわりと大きくなる男性器の感触に歓喜の声が上がる。
はやくはやくと腰がうねり、膣肉がますます熱く柔らかくうねって、イノシシはむしろ悲鳴じみたいななきとともに、三度目の精液をアーシェにぶちまけていた。
びゅ、ぶびゅーっ びゅぐ、 びゅ、 びゅううううううっ
「ひ、あ、ああっ♡ あ♡ あ、いく、いくいく♡ ぅ、あああっ ああああああああッッ♡♡♡」
人間よりもはるかに濃厚で、量が多くて、精子がいっぱい詰まった精液が、腹の中にたまっていく。
なぜだろう。何でこんなに幸せなんだろう。
孕ませてくれている。その実感が、涙で出そうなくらい、幸せで気持ち良くて、イってしまう。
「………っは、 ぁ………♡」
さすがに十数回にも及ぶ絶頂に体力も限界近くなってきた、イノシシの性器をはめこまれたまま、くてりと身体が弛緩し、
――そこでようやくアーシェは気づいた。
「………ぇ……」
いつの間にそこにいたのだろう。
今アーシェを犯しているイノシシのほかに、別の動物がその場に姿を現していた。
それも、一頭や二頭ではない。種類も一つではない。
イノシシはもちろん、オオカミ、森豹、アーシェの身長ほどの体躯を持つ大ネズミ、森バッファロー、シカ……
総計は――わからない。十頭や二十頭ではあるまい。
少なくても四十頭――下手をすれば、三ケタに上る数がいるのではないだろうか。
「あ、ぁ……ああ……♡ あ、あはは、あはははははは」
笑ってしまう。
本来森の中で食う食われるの間柄にある動物たちは、何をするでもなくアーシェとイノシシの交尾の様子を伺っている。
形も大きさも様々な瞳は、すべて同じ光を宿してアーシェの媚態を見つめていた。
犯される。
「あはは、あはははは………」
順番待ちを、しているのだ。
イノシシがアーシェを犯すのに飽きて、そして次に彼女を犯そうと、その順番を、待っているのだ。
絶望感に、笑うしかない。
ああ、でも。でも。
なんでだろう――子宮がうずいた。
本気汁が子宮口から、じわりとにじむ。
犯される。
そう、犯されるのだ。
情欲に焦がされた思考で、考えてしまう。
イノシシのちんぽはすごかったけど、ほかの動物のはどんな形だろう。どんな太さ、大きさなんだろう。
精液はどんな匂いなんだろう。
量はどれくらいなんだろう。
射精の勢いはどれくらいなんだろう。
精子はどれだけ詰まっているのだろう。
粘っこさはどのくらいなのだろう。
そう。ひとりじめ、できるのだ。
この何十頭もの動物たちの精液を、精子を、ぜんぶ、ぜんぶ、自分が。じぶんのおまんこが。
そして、みんなに、一頭残らず、種付してもらえるのだ。孕ませてもらえるのだ。
――たまらない。
「あはぅ……♡」
ふるふるふるふる……っと身体が震える。
「ねえ、みんな――」
言葉など分かるはずはないのに、言わずにはいられない。
大きな声で、アーシェを待ってくれる動物たち皆に届くように。
「みんな、相手してあげるから。ぴゅってわたしのおまんこで出させてあげるから。
みんなの精子で妊娠するから。
だから待っててね。うんっと、気持ちしよくしてあげるからぁ♡」
獣たちが、情欲にまみれた雄叫びをあげた。
それをいとおしげに聞きながら、ふいにしかし、アーシェは少しだけ寂しくなった。
――キオ。
脳裏に、街で彼女を待っているだろう弟の笑顔を思い出す。
キオ、キオ。ごめんね。ごめんね。
おねえちゃん、もう、森から出られないや。
森の動物たちに愛されて生きていくから。
きっとみんな、わたしを離してはくれないだろうから。
ああ、でも。せめて。せめてもう一度だけ会って、キオを抱きしめたかった。
大好きなお菓子を焼いてあげて、一緒に食べて。
――弟の精子って、弟との種付けって、どんなだったんだろう?
そんな思い付きに、アーシェまた更に股ぐらを熱く濡らした。
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妖化茸によって無理やり精霊化した被害者の心身は、当然不安定となり、多くの場合長くは持たない。
加えて淫魔化した場合は絶え間なく妊娠出産をする関係で体力や生命力の消耗も激しく、 生き延びたとしても数年で寿命分の生物的ポテンシャルを消費し尽くし、「老衰」で死に至る。
存分に動物たちに孕まされ、子を産み、霊力を蓄えた被害者の遺体は、そのまま土くれに変化し、霊力を土地に吸収され、確実に土地の肥やしとなっていく。
現在、淫魔化した被害者を元に戻す治療法は、まだ見つかっていない。
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Arcadia様が開かなかった時間にふといたずらみたいな気持ちで書いたものです。
今回書いたものに関連したおまけを用意しました。
苺は甘い アップローダ― 小物(1)nm61954
ダウンロードしてExcelを開いてみてください。まだまだ未完成ですが……とりあえずこんなことして遊んでます。
(もし問題あるようでしたら感想欄などにてご連絡ください。情報削除いたします)