第百三十二話 幸せだけにはしてやらないとな 拍子抜けとでも言うのだろうか。 放課後、水泳部の監督室に乗り込んだ美砂と千雨は、お昼休みの出来事を包み隠さず語った。 美砂は多少言葉に困っていたが、那波に危うく自分たちの関係を明かしかけたことをだ。 二人とも、かつてのようにむつきが酷く狼狽する様子を思い浮かべていたがそうはならなかった。 監督室の来客用の、はたまたセックス用のソファーに机を挟んで座っているむつき。 さすがに眉一つ動かさないというわけではなかったが、動揺した様子は殆どない。 時折、マジックミラーとなっている窓から、水泳部の練習具合を眺めるぐらいの余裕すらある。「あー……先生、もしかして事態が呑み込めてないとか? 一応はとりつくろったが、那波は何かしら感づいたかもしれないぞ」「先生、心配させないようにわざと気にしてない振りをしてない?」 正直に自分たち、主に失敗したのは美砂なのだが。 それを話したのに大きな反応を得られなければ、どうすれば良いのか分からない。 当初とは違った方向で逆に狼狽させられた二人は、むつきを伺う様に見上げた。「ああ、悪い。不安にさせたか?」 そんな二人の様子を見て、むつきは笑顔で手を振ってなんでもないとアピールした。「流石に二度目だから……長谷川にバレた時は、夜も眠れなかったみたいだし」「ひかげ荘に初めて行った時のことだから、よく覚えてる。先生、顔が真っ青でそれこそ入院してもおかしくないぐらいやつれてた」「そりゃ、当時は美砂と二人だけの秘密だったからな」 千雨に言われ、改めて自分で思い出しても、眠れない夜が一週間続いたのは酷かった。 疑心暗鬼にかられ、手に入れたはずの幸せが何時壊れるかとビクビクしながら。 教師生活が上手く回り始めた直後だったことも、それに拍車をかけていたのだろう。 あれは酷かったと笑い話の類のように軽く笑みを浮かべたむつきは、改めて大丈夫と笑顔を見せた。 それでも不安げに、上目づかいになっている二人の頭をくしゃりと撫でながら。「そんな心配すんな。千雨も相当、動揺してんな。お前なら、直ぐに気づいてても良さそうなもんだけど」「はあ、なにがだよ?」「あの頃とは、もう状況が違うってことだよ」 当時、むつきに惚れていたのは美砂一人で、他のクラスメイトはひかげ荘の存在すら知らなかった。 というよりも、二-Aの面々にとってむつきはとるに足らない存在だったともいえる。 その後にアキラを皮切りに、一人また一人とむつきの嫁になりたい子が増えた。「あくまでA組の子限定の話なんだが。もうバレたって事が大きくなり様がないんだよ」「どういうこと?」 小首を傾げる美砂を前に、むつきは自分の考えの根拠を明かした。「お前ら、A組の子たちは良い子だってことだ。もし仮に千雨があの時、こんなのおかしいって声を上げたら……俺は今頃、こんなところで呑気に水泳部の顧問なんてやってられなかった。だけど、今の那波が真実を知ってこんなのおかしいって声をあげるか?」「うーん、那波さんも先生が大好きだけど。その反動でってこともあるんじゃない?」「あっ……そういうことか」 まだ確信に至らないむつきの言葉の意味に、先に気づいたのは千雨であった。「そうだよな、私のクラスメイトは馬鹿だけど良い子ちゃんなんだよなぁ……ありがたいことに」「え、え?」「仮に那波が疑いから確信を得ても、絶対に世間に公表したりしない、できないんだよ」「柿崎、私らA組の半分は先生と身体の関係結んでるし、そうでない奴もそれを肯定とまではいかなくても否定もしてないよな。良い例が明石や佐々木、特に釘宮が分かりやすい」 半ばからむつきの言葉を引き継いだ千雨の説明に、まだ要領を得ない美砂がふんふんと頷いた。 少しは気が紛れたのか、息があってるとむつきと千雨のツーカーの考え方に頬を膨らませながら。「普通さ、教師と生徒の関係を知って即座に他の教師や教育委員会、果てはマスコミになんて突飛なことは考えないよな。まずは身近な誰かに相談する」「かな? 長谷川はその身近な誰かがいなかっただけ?」「ほっとけ。でだ、那波の身近な人間は委員長に村上だけど、委員長はこっち側だ。じゃあ他にと探そうにもクラスの大半の人間はこっち側。特に那波みたいな頭の良い奴はその意味に直ぐに気づく」「既にひかげ荘を知らない子の方がマイノリティなんだよ。そんな状態で義憤に駆られ、真実を明かしてみろ。麻帆良祭の比じゃないぐらいにクラスは真っ二つ。俺が逮捕なんてなれば、大好きなクラスの子たちから恨まれるリスクさえある。そんなことすると思うか?」 むつきの問いかけを前に、美砂は理解すると同時にぶるりと身震いした。 仮に美砂が那波の立場だとしても、そんな恐ろしいことはできやしない。 想像したことで、改めて親友の一人である釘宮の心情も少し理解できた気がした。 釘宮の様にむつきに特別な感情を抱いていない人間からすれば、むつきの周りの関係は異常だ。 しかしどんなに異常と感じても、それを声高に叫ぶことはない。 もしも義憤にかられ声高に叫んだとして、待っているのはマイノリティ故の針の筵だ。 那波もよっぽど頭に血が上らない限りは、リスクが先に立つ。 これはむつきしか知らない事だが、孤独を何よりも恐れる那波はなおさら。「あくまでこれはA組限定の話であって気を付けるに越したことはないが、以前ほど致命的ではないってことだ。そこは安心しとけ。一応、他の子の耳にも入れておくが」「うん……少しは安心したけど、今後は本当に気を付ける。私、二度目だし」「クラスが下ネタオッケーになった反動でもあるけどな。私もちょっと緩んでた」 二人が気を付けると気を引き締めたところだが、少しその緊張の糸を程々に緩ませる。「それで、話の途中だったが。美砂も少しやりたいことが見えたって?」「あ、うん。亜子とかほど、具体的じゃないけど……私だけじゃなくて、他の子も含めて。皆が綺麗になれる方法をこう、追求するっていうか」「アタナシアさんに美を追求するのは不毛的なこと言われたけど。綺麗になりたいってのは、女の子の永遠のテーマだからな。私の衣装造りも、そう言う面がなくはないし」 反省したのならそれ以上は必要ないと、むつきは美砂の将来を含んだ話題に変えることにした。 最終的に美砂たちはむつきの横にいることにしても、まだ先は長い。 急ぎ道を一つに決めずとも、色々と寄り道をするのは悪いことではない。「あー、ぱっと思いつくだけでも。美容師とか、エステティシャンとか。そう言う方向か」「そっか、身近過ぎてすっぽり抜けてた。美容師もありか、髪は女の子の命」「だよな、美肌とかは既に超とかが漢方で研究してそうだし」「別にかぶっても良いだろ。よし、美砂。こっち来い」 美容師は盲点だったと唸る美砂を、むつきは手招いて呼び寄せた。 目の前のテーブルを迂回し、近づいて来た美砂へとおいでとばかりに両腕を広げて待つ。 これはご褒美かとその意図を察した美砂が、むつきの両足を跨いで膝の上に座り込んだ。 もちろん間髪入れずに、抱き付いてはむつきの首元に鼻先を埋めて頬ずりしては甘える。 那波にばらしかけた手前、内心はビクついていたのでこれはとても嬉しかった。 猫のように喉の奥でごろごろと鳴いては、むつきの匂いを胸一杯吸い込んだ。「よしよし、同じ失敗はしかけたけど。それより、お前が将来像を一つ見つけられたことの方が大事だ。それに固執しない程度に、まずは色々と調べてみろ」「先生、褒めて、撫でて。ちゅう、ちゅう。ん、ふぅ……ぁぅ」 てっきり怒られるか、呆れられるかと思っていたのにこの好待遇。 後頭部をガッチリ押さえつけられ、苦しいが濃厚なベロチューに腰に甘いしびれが走る。「おいおい、先生。あんまり、柿崎を甘やかすなよ。調子に乗ると、コイツまたやらかすぞ」「美砂も悩んでたみたいだから、今回は特別な。それより、ほれ」 一応行った忠言はかわされ、代わりに差し出されたのはむつきの手のひらだった。 むつきの上に跨りながら、腰を振る美砂を見てその意味が分からないはずもない。 だが窓の外の水泳部の練習風景をチラりとながめ、容易には一歩を踏み出せないでいた。「安心しろ、抱くわけじゃない。機転を利かせた千雨へのただのご褒美だ」「えー、セックスしてくれないの?」「新人大会が今週なのに、顧問が監督室に引きこもるのも士気に関わるだろ。キスと軽いペッティングまでだ」「そういうことなら……」 美砂はかなり不満そうだが、千雨は少しだけ安心してくれた。 千雨が借りて来た猫の様に大人しいのは、ここがある意味でアキラと亜子の場所だからだろうか。 ひかげ荘内とは違い、体を小さく竦めた様にちょこちょこ歩いて来ては大人しくむつきの隣に座った。 我慢しなさいと美砂の頭をぐりぐり撫でつつ、隣に座った千雨の腰を抱いては唇を奪う。 甘い、甘い千雨の唇。 こういう大人しい千雨も、普段とのギャップで悪くはない。 その気にさせてやると美砂が耳たぶを甘噛みして来たが、心で踏みとどまった。「ん、ご褒美はここまで。美砂も部活行け、桜子と釘宮が煩いぞ。千雨は……まあ、好きにしろ」「私は、村上に頼まれたことがあるから。ちょっと、ひかげ荘に寄って来る。柿崎、今日の夜のいつでも良いから一回私の部屋に来てくれ。モデル頼みたい」「おっ、しょうーがないなぁ。美砂ちゃん美人だし、頼まれてあげようかな」 セックスなしに唇を尖らせていた美砂だが、千雨のお願いには快く頷いていた。 まだあやふやだが自分の将来に繋がる件なだけに、むしろ乗り気だった。 それじゃあと、水泳部に来た時よりすっきりした様子で二人は各々帰っていく。 だがむつきは見送って終わりではなく、まだまだお仕事の続きが残っていた。 口の中に残る二人の味を飲み下し、立ち上がっては軽く体を動かして窓の外を眺める。 小瀬がいるのでむつきが行ったからといって、やることはそう多くはないのだが。 いないよりはいる方が部員たちのやる気も多少上がることだろう。 ひょこひょこのんびりと監督室を出て、プールサイドまで歩いていく。 水泳部は古豪の部だが、顧問のむつきが強権を持っているわけではないので現れたからといって練習を止めて挨拶なんてない。 個々で気軽に手を振ったりする子がいるので、軽くむつきが手を振ったりするぐらいだ。「はい、次!」 練習は普段のレース形式のものとなっていた。 八つのレーンに速い者のグループ順に並び、前に追いついたら昇格というアレである。 ここ最近での一番の変動は、部活に来るたびに成長を続けた神楽坂であろう。 丁度、飛び込み台に立つ順番だったようだがそのグループはアキラと同じ第一グループだ。 飛び込み台に立つ姿も多少見れるものとなっている。 特に飛び込む直前の構えで突き出された水着に包まれた尻は、引き締まった良い尻だった。 あの尻を鷲掴みにして激しく責めたてたら、神楽坂はどんな甘い声で先生と呼んでくれることか。「って、いかんいかん」 最近少し、神楽坂をいけない目で見ることが多くなって来た気がする。 軽く首を振ってからプールサイドにある顧問専用のビーチチェアに腰を据えていると笛の音が聞こえた。 一斉に神楽坂を含む八人の部員が飛び込み台を蹴った。 勢いよくプールに頭から飛び込み、大げさに立ち上がった水しぶきは二つ。 一人は第八レーンで飛び込んだ二十五メートルがようやくの一年生。 失敗して腹打ちでもしたのか、お腹を押さえて震えながらプールサイドに上がっていた。 もう一つは案の定の神楽坂であったが、こちらは慣れた者と前を泳ぐアキラを追いかけ始める。 当初、ジェットスキーかとも思った豪快な泳ぎは、なりを潜めていた。 他のレーンと比べてもまだ飛沫は多いが、アキラとの差はジリジリと広まる程度でもあった。「そのジリジリが、出来ねえんだよ。普通は……」 懸命に泳ぐもじわじわと差を広げられる神楽坂だが、他のレーンはもっとひどい。 ぶっちぎり、そもそもグループが違うこともあるが第二レーンでさえ引き離されている。 これで神楽坂がいなければ、アキラは周囲から浮いてしまうぐらい実力が飛びぬけていたはずだ。「ああ、もう。また全然追いつけなかった。アキラちゃん、速過ぎる!」「そんなことないよ。これでも結構焦る」 神楽坂が反対側のプールサイドに到着した頃には、アキラは既に水の上だった。 悔しがる神楽坂を前に、苦笑いしながらアキラが手を差し伸べていた。 水泳を始めてまだ一ヶ月になろうかという神楽坂が勝てないのは、ある意味で当たり前なのだが。 ああやって悔しがる負けん気を持った子が、アキラには必要だったのだ。 小瀬の当初の目論見通り、神楽坂はまだアキラのライバルと呼ぶには拙いが、良い刺激になっている。 神楽坂が元々、部長であるアキラとマネージャーである亜子と同じクラスということで変な摩擦も起きてはいない。 むしろ、更衣室を覗いていると一年生などのあこがれの対象は、アキラと神楽坂で二分していた。 可愛さと格好良さを兼ね備えたマスコット的なアキラと姉御肌的な部分がある屈託なく明るい神楽坂。 あと凄くどうでも良いが、一年生の子達も最近は成長が著しく可愛いおっぱいが芽吹き始めていた。「先生、顔がちょっといやらしくなってる」 あの子とあの子は最近生えて来たんだよなと、妄想が横道にそれたところで小瀬が目の前に立っていた。 どうやら一時、笛を吹く役目を亜子に代わって貰ったらしい。 しかし水着姿で目の前に立たれては、自然と視線がその体を嘗め回してしまう。 特に局部のことを考えていたので視線は、割れ目に食い込む股座部分に釘付けだった。 最近は、むつきに剃毛して貰うのがお気に入りでこの子は神楽坂と同じパイパンなのである。 その上さらに、先生の所有物だからと子宮の上に名前を書かせてくれるのだ。「あっ、やべ」「なにやってるの、先生。ちょっと詰めて」「詰めてって、おい」 そう思っていたら不覚にも、こんな場所で立ってしまいかなり焦った。 呆れた声を上げた小瀬は、ちょっと詰めてと一人用のビーチチェアの横に座って来た。 水着姿とは言っても、彼女自身は泳ぐわけではないのでむつきのスーツが濡れることもない。 ただ必要以上に引っ付かれている状態の為、何人かひそひそやっている子が増えるぐらいだ。「もう、先生はその辺の中学生や高校生よりもやりたい盛りなんだから。一年生のどの子を食べたいの? それともまさかの二年生? レイプにならない範囲でなら手伝ってあげるけど?」「やかましい、そういうことを言うんじゃありません」 ただでさえ土日はチンコが渇く暇さえないのに、積極的に増やすつもりはない。 とは言え、小瀬も本気で言っているわけではないだろう。 二人で会話する時は何故だかこうやって下ネタから入ることが多いだけだ。「それにしても、明日菜ちゃんは想像以上だったね。アキラの刺激になってくれるだけじゃなくて」「どういうことだ?」 当初の目的は、ライバルがいないアキラの為に、神楽坂を水泳部に引っ張り込んだ。 もちろん、神楽坂自身にも大会で好成績をとれば奨学金を貰える恩恵はある。 だが小瀬が言うには、それ以外にも良いことがあったらしい。「前も言ったけど、水泳部の子は皆アキラを特別視してた。一人だけ飛び抜けた実力があって、全国六位。勝てなくても仕方がないって。実際、誰も追いつけなくてそれに拍車がかかった」「まあ、普通は諦めるわな」「でもその固定概念を明日菜ちゃんが壊してくれた」 ほら見てと小瀬に促され、むつきが見たのは神楽坂の後から泳ぎ始めた子達だった。 皆真面目に、先に泳ぎ始めた子を追いかけ上のグループを目指している。 もちろんそれそのものは、以前から変わらない。 だが以前までなら第一グループになることが終着点だったことだろう。 そこにアキラがいる限り、決して一番になることはできない、そういう考えが頭に染みついていた。 小瀬の言う通り、その考えを壊してくれたのが神楽坂であった。 他の子の実力を一足飛びで追い越し、水泳部のナンバー2まで上り詰めた。 だが結局はアキラには追いつけなかったわけだが、神楽坂はそこで諦めるようなことはなかった。「なるほど、そういうことか」 神楽坂が影響を及ぼしたのは、アキラだけではなかったということだ。 水泳部員にとっての最終目標は、第一グループに入ることではなくなっていた。 それで一番わかりやすいのがアキラや神楽坂と同じ第一グループにいる子たち。 今までなら彼女たちは、第二グループに落ちないこと、そんな後ろ向きな目標を持っていた。「行ける、追いつけるよ!」「もう少しもう少し!」 今や彼女たちは第二グループに落ちないことではなく、アキラと神楽坂を目指していた。 アキラとは実力差があり過ぎて、どうすれば追いつけるのかそんな姿を想像することすらできなかった。 だが今やその間には神楽坂の存在があり、彼女になら追いつける自分を想像できた。 諦めずに何度もアキラに挑む姿に加え、その道筋を神楽坂がその身を持って示してくれたのだ。「明日菜ちゃんがもう少し水泳部に入るのが早かったら、彼女を部長におしてたかもね」「部長か。アキラは、亜子と二人で一人前なところがあるからな。とはいえ……」 順番的に待ちに入ったアキラは、一年生から泳ぎ方の質問を受けてそれに答えていた。「水から腕を抜く時は肘から、ハイエルボーって言うんだけど」「エルボーってこうじゃないの?」「明日菜」 立ったままだがハイエルボーの動きを見せたアキラに対し、明日菜が横から攻撃的なエルボーを見せた。 少し離れているのにブンッとその凶器が振り払われた音が聞こえる。 かつて明日菜の拳で脇腹を殴られた事が思い出され、痛みがぶり返した気がした。「神楽坂もちょっと残念なところがあるからな」「別に部長は実力順ってわけじゃないから」 大真面目に神楽坂がボケた為、亜子がツボにはまって笛の音が止まってしまっていた。 他にも幾人か笑いが止められなかったようだ。 笑わせたというよりも、若干笑われた感のある神楽坂もあははと照れ笑いしている。 たかだか一ヶ月だが、神楽坂は実力だけでなく水泳部員としてきちんと溶け込んでいた。 彼女は苦学生として年上に混じってバイトに明け暮れていたので、クラス外でも同世代とああやって笑い合うのは良いことだ。 これで彼女が今週の新人大会で好成績を残せば、めでたしめでたしで済むわけである。「ふーん……」 神楽坂を暖かく見守っていたつもりだが、頬杖をついた小瀬に意味ありげに呟かれた。 その視線は神楽坂とむつきを何度も往復しては、なにか納得したようでもあった。「どうかしたか?」「別に」 気にならないはずもなく、尋ねてみると珍しく小瀬がすねたような声を上げた立ち上がった。 そして他の子達が笑いあってこちらへの注意がそれたのを良いことに大胆な行動にでた。 まるでむつきの視線を奪う様に、水着の食い込みを直す様に生地と桃尻の間に指をいれる。 だがそれも途中で止めて振り返り、むつきの名が刻まれたお腹を軽く撫でて言った。「先生が今、一番セックスしたがってる子が明日菜ちゃんってこと。ちょっと、ジェラシー感じちゃった。先生は私のものじゃなくて、私が先生のものなのに。あはは」「安心しろ。俺の中では、お前もちゃんと嫁に貰う予定に入ってる。今から、産みたい子供の数考えとけよ。その倍は、孕ませてやるから」「もう、ばか……濡れちゃうじゃない。男の子と女の子、一人ずつ欲しいかな。って、雌奴隷が高望みし過ぎかな。言ったからには一生、雌奴隷として飼ってね」 珍しく本気で照れたようで、やや早口での照れ隠しであった。 性に奔放の様に見えて、意外と純情というか、正道の攻めには弱いようである。 足早に戻っていくと、二、三言亜子と会話した後に笛を返して貰っていた。 そしてピッピと笛を鳴らしてから、緩んだ空気を引き締めるように言った。「ほらほら、試合も近いんだから。時々は気を抜いても良いけど、だらだらしちゃうのは駄目」 可愛い所もあるじゃないかと小瀬を見直したところで、あることに気づいた。 それは小瀬に突っ込まれた、今一番抱きたがっている子が明日菜と言われたことを自分で否定しなかったことだ。 いやまさかと一時は思いはしたが、改めて考えても完全には否定できない。 特に神楽坂は、猛獣を手なずけたようなところがあり、普通の生徒として見ても可愛いところがある。 正直な胸の内をおぼえてみれば、高畑に渡すぐらいなら自分のものにしてしまいたい。「本当、俺は気が多いというか……」 自分がここまでやりチンになるとは、一年前には思いもよらなかった。 しかも相手の九割が年下どころか、自分の可愛い生徒なわけで。 美砂やアキラならまだ発育的に言い訳できたが、のどかやさよ、夕映にエヴァと小さい子も食い散らかしたのが現状だった。「幸せにだけはしてやらないとな」 やったらやったでやり通す。 言葉にしたら青臭い青春の一幕のようだが、実際は青い果実をイカ臭い汁でどろどろにする行為だ。 当人たちはそれでも喜んで腰を振ってくれるわけだが。 どうせ後戻りできないのであれば、あとは突き進むだけである。 ただ唯一、彼女たちを金銭的に養う方法だけは、さっぱり思いつかないままであった。-後書き-ども、えなりんです。エロはまだ先ですみません。今回は美砂の将来像とむつきの現在の心境です。当初はノイローゼになったむつきですが、現在は驚きこそすれ、慌てる事はありません。お話の中でも書きましたが、むつきとエッチしてない子の方が少数派になりつつあります。まだひかげ荘を知らない、A組の子に明かす日は近いです。それでは次回は未定です。流石にまた一年開いたりはしないと思います。